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 今後の学級編制及び教職員配置について
(報告)

平成12年5月19日

教職員配置の在り方等に関する調査研究協力者会議

今後の学級編制及び教職員配置について


目    次

1  学級編制及び教職員配置の改善施策等について

2  基本的な考え方
1  自主的・自律的な学校運営等を支える学級編制及び教職員配置
2  基礎学力の向上を図り,学校でのきめ細かな指導を実現する観点からの学級の在り方の見直しとこれに対応する学級編制及び教職員配置
3  非常勤講師及び学校内外の専門的人材の活用
4  教員1人当たりの児童生徒数を欧米並みの水準に改善
5  国と地方の新たな役割分担

3  具体的方策
【制度に関わるもの】
A1  「県費負担教職員制度」と「国が定めた標準に基づき都道府県教育委員会が学級編制基準を設定すること」及び「国が定めた学級編制標準に基づき算定された教職員定数に係る教職員給与費を国庫負担する」という仕組みの維持
A2  学級編制基準の弾力化
A3  教職員配置の弾力化
A4  非常勤講師の配置と高齢者再任用制度(いわゆる「新再任用制度」)による短時間勤務教員の活用
A5  高等学校における学級編制及び教職員配置の在り方
A6  特殊教育諸学校における学級編制及び教職員配置の在り方

【教職員定数の改善】
B1  教職員定数の改善の趣旨
B2  教職員定数改善の方法
B3  教職員定数改善の規模
B4  特殊教育諸学校,中等教育学校(中高一貫教育校),高等学校において教職員定数を改善する際の考え方
B5  校長・教頭・教諭等以外の職種について教職員定数を改善する際の考え方


資      料

資料1  学級編制及び教職員定数改善計画の変遷
資料2  公立小・中学校の設置者別収容人員別学級数
資料3  公立小・中学校の学級数別学校数
資料4  公立小・中学校の教員1人当たり児童生徒数

教職員配置の在り方等に関する調査研究について(教育助成局長裁定)

教職員配置の在り方等に関する調査研究協力者会議のこれまでの検討経過

 今後の学級編制及び教職員配置について

  本調査研究協力者会議は,平成10年9月21日の中央教育審議会答申を受け,平成10年10月20日に発足以来,公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律(以下「義務標準法」という。)及び公立高等学校の設置,適正配置及び教職員定数等の標準に関する法律(以下「高校標準法」という。)で定める教職員定数等に関する諸問題及び今後の学級編制と教職員配置の在り方について,ワーキンググループにおける14回の検討の整理を踏まえ,20回の審議を重ねてきた。この間,関係諸団体からの意見聴取や学校訪問などによる実態の把握にも努めてきた。
  その結果,次の結論を得るに至ったので報告する。


I  学級編制及び教職員配置の改善施策等について

1  公立小学校及び中学校の学級編制と教職員配置は,数次にわたる「学級編制及び教職員定数改善計画」を通じて着実に改善され(資料1参照),この結果,現在,全国平均では,
1  学級当たり児童生徒数は,小学校27.2人,中学校32.4人
2  学級当たり教員数は,小学校1.4人,中学校1.9人
3  教員1人当たり児童生徒数は,小学校19.3人,中学校16.7人となっている。
  過去と比較すれば,義務標準法制定時(昭和33年),いわゆる「すし詰め学級」といわれ,学級編制の児童生徒数の上限が各都道府県平均で60人という状況から,現在では40人を上限とする制度(いわゆる「40人学級」)となっている。また,学級当たり児童生徒数が,小学校では44.4人から27.2人,中学校では44.4人から32.4人へと改善された。
  さらに,教職員定数も,義務標準法制定以来,着実に改善され,教員1人当たり児童生徒数でみると,小学校では37.9人から19.3人,中学校では28.1人から16.7人へと改善が図られた。
  しかしながら,実際の学級当たりの児童生徒数等は,学校,地域によって様々であり,例えば児童生徒数別の学級分布をみると,36人以上の学級は小学校で2割,中学校では5割弱となっており,30人以下の学級は,それぞれ5割,2割弱となっている。また,地域別の状況をみると,上記の分布が,人口10万人以上の市の場合,36人以上の学級が小学校2割強,中学校5割強,30人以下の学級が,小学校3割強,中学校1割であるのに対し,人口10万人未満の市町村の場合,36人以上の学級が小学校1割強,中学校4割強,30人以下の学級が,小学校6割強,中学校2割強となっている。さらに,教員1人当たりの児童生徒数をみると,最も少ない県では,小学校12.9人,中学校10.2人であるのに対し,最も多い県では,小学校23.2人,中学校18.9人となっている。(資料2,3,4参照)

2  このような状況を踏まえ,中央教育審議会答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」(平成8年7月19日)では,「各学校において一人一人の子供を大切にした教育指導ができるような環境づくりが大切である。とりわけ,個に応じた教育をこれまで以上に推進していくためには,各学校において,学習集団の規模を小さくしたり,指導方法の柔軟な工夫改善を促したり,さらには,中学校,高等学校での選択履修の拡大を図っていくことができるよう,人的な条件整備を一層進めることが必要である。」と指摘されている。
  また,同じく中央教育審議会答申「今後の地方教育行政の在り方について」(平成10年9月21日)では,「学校の教育機能をより高めていくためには,国は教員1人当たりの児童生徒数を欧米並みの水準に近づけることを目指して教職員配置の改善や学級編制の在り方など教育条件の整備充実に十分配慮する必要がある。」との指摘とともに,「都道府県が「義務標準法」で定める学級編制の標準を下回る人数の学級編制基準を定めることができることとするなど,弾力的な運用ができるよう「義務標準法」について必要な法的整備を図ること。」,「都道府県が弾力的な教職員配置基準等を定めるなどにより,実際の教職員配置がより弾力的に運用できるようにすること。」及び「必要がある場合には非常勤講師を配置できるようにするとともに,その報酬についても国が負担できるよう「義務標準法」等を見直すこと。」などの具体的提言が行われている。


II  基本的な考え方

1  自主的・自律的な学校運営等を支える学級編制及び教職員配置
(1) 戦後の教育行政においては,全国的に教育の機会均等と一定の教育水準を,速やかに,かつ効率的に達成しようとする観点から,各種の施策が実施されてきた。学級編制及び教職員配置施策についても,同様に,全国的に一定の教育条件を実現する観点から,固定的な学級において一斉指導するという指導形態・指導方法を前提として,学級数に応じて学級担任,教科担任,生徒指導等の校務分掌を担当する最小限必要な教員構成を確保しようとして行われてきた。
  その結果,全国的な教育の機会均等と一定の教育水準の実現に必要な最小限の教育条件の整備はほぼ所期の目的を達成したものの,各学校の指導形態・指導方法とこれを支える指導組織が多少とも画一的なものとなり,学校が子どもたちの実態や地域の状況に応じた特色ある教育活動を進めていこうとしても,これに対応する指導組織を構成することは必ずしも容易ではない状況となった。
  そのため,第6次教職員配置改善計画においては,学校の多様な教育活動を推進する観点から,それ以前のような配置率の改善により一律に教職員定数を改善する方式ではなく,ティームティーチング(複数教員による協力的指導)等の指導方法の改善を行う学校など個々の実態等に応じて教員を加配する方式を導入した。

(2)  小学校,中学校の新しい学習指導要領は,平成12年度から移行措置に入り,平成14年度から完全実施されることとされている。新しい学習指導要領は,児童生徒に豊かな人間性や自ら学び自ら考える力などの「生きる力」を育成するという基本的な考え方に立っており,「総合的な学習の時間」の導入など,各学校において今後さらに自主的・自律的な学校運営の下に特色ある教育課程を編成することが求められ,その実施に際しては,各学校が創意工夫を凝らしてより多様な指導形態や指導方法を展開することが必要となる。また,各学校においては,このような指導形態・指導方法に応じて,教職員が協同してそれぞれの場面にふさわしい指導組織を構成し,教職員が一体となっていきいきとした教育活動を展開していくことが望まれる。
  学級編制及び教職員配置の在り方についても,第6次教職員配置改善計画の目指した方向を踏まえ,このようなそれぞれの学校がその自主性・自律性を確立して特色ある教育課程の編成や多様な指導形態・指導方法を展開することを可能とすることが必要である。

2  基礎学力の向上を図り,学校でのきめ細かな指導を実現する観点からの学級の在り方の見直しとこれに対応する学級編制及び教職員配置
(1) 学級は,我が国近代学校制度の創設以来,児童生徒が所属する単位として,1子どもたちの知的・技能的な学習要求に応え,価値の形成を図る場としての学習集団の性格と,2人間相互の関係や規律の形成を図る場としての生活集団の性格があり,その機能を一元的に果たしてきた。このため,中学校においても,教科ごとに担当教員は異なるものの,多くの場合,学習指導が学級単位で行われてきた。
  しかし,今後,社会の変化に応じ,またこれまでの授業実践や研究の成果を背景として,学習指導及び生徒指導の専門分化や高度化を進めていくことが課題となっており,これに対しては指導方法の面だけでなく,指導組織の面においても改善を図る必要があると考えられる。すなわち,各学校が特色ある教育課程を編成するとともに,小人数授業などきめ細かな学習指導を行い,また総合的な学習の時間や各教科の指導において多様な指導形態・指導方法を円滑かつ効果的に導入できるよう,先に述べた一元的な学級の捉え方を見直し,今後,学級は生徒指導や学校生活の場である生活集団としての機能を主としたものとして位置付け,これまで一体のものとして含まれていた学習集団としての機能については,学級という概念にとらわれずに,より柔軟に考えることが効果的と考えられる。
(2)  このことについては,すでに第6次教職員配置改善計画においてティームティーチング加配が行われ,これにより多様な学習集団の設定による授業が行われており,大きな効果をあげていることを指摘する必要がある。
  例えば,平成9〜10年度に国立教育研究所が行った「ティームティーチングによる指導の効果に関する研究」においても,1人教師による一斉授業よりも学級内ティームティーチングの方が,また,学級内ティームティーチングよりも学級を解体した学年ティームティーチングの方が望ましいとする傾向が認められた。
(3) 前述したように,学級の在り方に関する基本的な考え方として,学級は生徒指導や学校生活の場である生活集団としての機能を主とするものと位置づけ,学習集団は,学級単位で学習指導が行われる場合が多いとしても,児童生徒の状況や教科等の特性に応じて多様な学習指導の場が設定できるものであり,学級にとらわれないものとして整理することが適当である。
  学習指導の機能を高めるために,学級編制とは別に,児童生徒を学習課題等に応じてグループに分けたり,個別に指導することは,従来から可能であり,部分的に行われてもきた。
  しかし,「生きる力」の育成を目指す新しい学習指導要領に基づく教育活動を進めるためには,各教科等の指導に当たり,体験的な学習や問題解決的な学習が重視されるとともに,個別指導やグループ別指導,繰り返し指導や習熟の程度に応じた指導,ティームティーチングによる指導など,指導方法や指導体制の工夫改善がますます必要となる。また,選択教科においては,課題学習,補充的な学習や発展的な学習など多様な学習活動が行われることが予想される。
  特に,小学校においては,従来,学級担任教員が大半の授業を受け持っていたが,今後,特色ある教育活動を進めるためには,学級担任に限らずすべての教職員が校長を中心に一致協力して指導に当たることが一層重要となるとともに,学校外の専門的人材を有効に活用することも必要となる。また,多くの教職員等が指導や評価にかかわることにより,様々な観点からきめの細かい指導・評価等が可能となると考えられる。  こうした,きめ細かな指導を通じて,児童生徒の個性を育んでいくためには,できるだけ多くの教職員が一人一人の児童生徒とかかわり,多数の教職員がそれぞれの視点からその成長発達を見守り,支援していくことが極めて効果的である。多様な学習集団の編成は,個々の児童生徒に対して多数の教職員が接する機会を広げるものであり,きめ細かな指導と相まって生徒指導上の課題にも大きな効果が期待される。
  今後の学級編制及び教職員配置を考えるに当たっては,このような新しい学級の在り方に対応するものとすることが必要である。

3  非常勤講師及び学校内外の専門的人材の活用
(1) 現在,小・中学校については,常勤教員に代えて非常勤講師を配置し,その報酬を都道府県及び国で負担するという制度がないため,極めて小規模な学校等にも常勤の教員のみを配置せざるを得ず,このことが中学校における免許外教科担当教員を生み出したり,担当授業時数の著しい不均衡を生じさせる一因ともなっている。
  もとより,現在においても,小・中学校に非常勤講師を配置している例もあるが,それらの非常勤講師は,市町村が都道府県から配当された常勤教員とは別にその負担において雇用している場合や都道府県が学校支援のため独自の施策により実施している場合,後述のように国が施策誘導の観点から例外的に非常勤講師配置に対する調査研究補助事業を実施している場合などであり,各学校がその特色ある教育活動を行うために,必要に応じて適宜非常勤講師を配置することは,必ずしも容易ではない状況にある。
  この点について,平成5年1月14日の「教職員定数の在方に関する調査研究協力者会議」における報告においても,非常勤講師の定数算入について「現在,小・中学校においては,非常勤講師制度を活用して,初任者研修に係る指導教員の任用や優れた知識や技術を有する社会人の任用を行っている。この非常勤講師制度は,今後,生徒の選択履修の幅を拡大するための選択教科担当教員としての活用をはじめ,免許外教科担当教員の解消等にも資するものと考えられ,今後一層の活用を図ることが望ましい。そのため,小・中学校の非常勤講師についても現行の高等学校の仕組みと同様に,必要に応じ教諭定数の枠を用いて非常勤講師を任用することができるようにする方途を検討することが適当である。」とされている。
(2)  近年,小学校,中学校において,非常勤講師を任用するための補助制度等が導入され,大きな効果を上げている。すなわち,平成元年度からいわゆる社会人特別講師の活用を目的として,平成6年度から免許外教科担任の解消を目的として,平成11年度から小学校専科指導の充実を目的として,それぞれ,都道府県教育委員会が非常勤講師を任用して市町村教育委員会に派遣する際の報酬の一部を国庫補助しており,また,平成12年度からいわゆる学級崩壊問題に対応して学級運営に係るティームティーチングのための非常勤講師任用に対する補助事業も開始された。これに加えて,平成11年度後半から実施された労働省所管の緊急地域雇用特別交付金制度を活用して,情報教育,英語教育等を担当する非常勤講師が多数任用され,当該分野の教育内容,方法の豊富化に寄与している。
(3) このような非常勤講師任用の実績及び効果を踏まえ,また,今後,総合的な学習の時間をはじめとする多様な教育活動を展開するのに対応して専門分野,得意分野を異にする幅広い指導スタッフを整備することが求められることを考慮すると,義務標準法による教員定数を活用して非常勤講師を任用することができるようにすることが必要と考えられる。また,学校規模によって,特定教科を担当する教員の担当授業時数が極めて少ない場合に,常勤教員を非常勤講師に置き換え,当該教員定数を他の学校に配当し,有効に利用することができるようにすることが効果的とも考えられる。
  今後の教職員配置を考えるに当たっては,このような非常勤講師の活用を考慮することが必要である。
(4) また,養護教諭等,学校栄養職員,事務職員など学校内の専門的人材を教育活動に積極的に活用するとともに,地域社会の多彩な人材を社会人特別講師として,あるいはスクールカウンセラー,心の教室相談員,外国語指導助手,ボランティア等として活用することを一層促進することも必要である。

4 教員1人当たりの児童生徒数を欧米並みの水準に改善
  公立小・中学校の教員配置については,数次にわたる教職員定数改善計画により着実に改善されてきているが,欧米諸国と「教員1人当たり児童生徒数」を比較するとなお格差がある。今後,各学校において,特色ある教育活動を展開し,基礎的・基本的な内容の確実な定着を図り,小人数授業などきめ細かな学習指導を充実するためには,中央教育審議会答申でも提言されているように,教員配置のさらなる改善が必要である。
  また,アメリカ合衆国等では,国際競争力の基盤を形成する人材育成という観点から教員配置等の改善を進めており,このような状況に対応して,今後,我が国全体として教育水準の維持向上を図り,人材を育成していく観点からの施策展開が必要と考えられる。
  これらのことを踏まえると,教職員定数について改善を図り,教員1人当たり児童生徒数を欧米並みの水準とすることが重要な課題である。
(教員1人当たり児童生徒数)
初等学校 中等学校
アメリカ 18.8人 14.6人
イギリス 23.1人 16.4人
フランス 19.6人 12.9人
ド イ ツ 18.7人 15.0人
日    本 19.3人(小学校) 16.7人(中学校)
※  出典:平成11年版「教育指標の国際比較」

5  国と地方の新たな役割分担
  今後,各学校が特色ある教育活動を展開し,それらを支える教育委員会が主体的かつ積極的な行政運営を展開できるよう,地方分権推進の趣旨を踏まえ,学級編制及び教職員配置の在り方についても,国と地方の新たな役割分担を確立する必要がある。
  義務教育に関しては,今後とも我が国全体として一定の教育水準を維持していくことは国の責務である。しかし,近年,例えば,群馬県の「さくらプラン」や山口県の「楽しい学び舎づくり推進事業」のように県内の小学校第1学年の36人以上の学級に非常勤講師を配置し,学級担任の指導の下,児童に対するきめ細かい指導を行ったり,兵庫県の「新しい学習システムの実践研究」のように小学校高学年において交換授業による教科担任制を導入し,指導方法の工夫改善を行うなど,都道府県等による独自の取り組みが進められている。このような取り組みを支援し,さらに促進する観点から,関連する制度改正や運用の改善を通じて,各都道府県教育委員会が地域の実態に応じて主体的に教育行政を展開していくことを可能とすることが,学校が地域や子どもたちの状況に応じて特色ある教育活動を進めていく上で効果的と考えられる。
  このため,教育に関する基本的条件整備についての従来からの国の役割を維持しつつ,具体的な条件整備の在り方については,都道府県教育委員会の裁量に委ねる部分を拡大する必要がある。

III  具体的方策

【制度に関わるもの】

A1 「県費負担教職員制度」と「国が定めた標準に基づき都道府県教育委員会が学級編制基準を設定すること」及び「国が定めた学級編制標準に基づき算定された教職員定数に係る教職員給与費を国庫負担する」という仕組みの維持
(1) 市町村立の小学校,中学校等を設置し,運営するため必要な経費は,学校を設置している市町村が負担することが原則(学校教育法第5条)である。しかし,特に義務教育費において教職員給与費の占める割合が大きく,これを原則どおりに市町村負担とした場合には,市町村間の財政力の格差がそのまま教職員の給与の格差に反映し,財政力の弱い市町村においては教職員の確保が困難になるなどの状況も予想され,その結果,憲法が保障する教育の機会均等の趣旨が実質的に損なわれるおそれもある。このため義務教育諸学校の教職員給与費については,市町村よりも財政規模が大きく,また安定している都道府県が負担することとされ(市町村立学校職員給与負担法第1条),さらに,これらの県費負担教職員に係る任命権についても都道府県教育委員会が有することとされている(地方教育行政の組織及び運営に関する法律第37条)。このような県費負担教職員制度については,その趣旨にかんがみ,今後とも維持することが必要である。
(2) また,都道府県が市町村立学校の教職員の給与費を負担することに伴い,市町村立の小学校,中学校の学級編制については,国が定めた標準に基づき都道府県教育委員会が基準を設定し(義務標準法第3条第2項),市町村教育委員会が学級編制するに当たって,あらかじめ都道府県教育委員会に協議し,その同意を得なければならないこととされている(義務標準法第5条)。このような仕組みは今後とも維持することが必要である。
(3) 国が小・中学校の学級編制の標準とこれに基づく教職員定数を定め(義務標準法第3条及び第6条),当該定数に係る教職員給与費を国庫負担する(義務教育費国庫負担法第2条)という仕組みは,すべての児童生徒に義務教育を保障し,教育の機会均等と全国的な教育水準の維持向上を図る観点から,我が国の義務教育を支える国と地方の基本的な役割分担を形成するものであり,今後とも維持することが必要である。

A2 学級編制基準の弾力化
(1) 学級編制基準については,従来,全国的な教育水準の維持向上を図る観点から,都道府県が定める基準は国が定める標準と同一のものでなければならないとしてきた。しかしながら,地方分権を推進し,国と地方の新たな連携協力体制を構築する観点,及び都道府県が地域の状況に応じて主体的に学校教育行政を進められる観点から,このような取り扱いをより弾力的なものに改める必要がある。特に,学校数や学校規模,学級当たりの児童生徒数が都道府県によって大きく異なっている状況の中で,地域や学校の実態等を踏まえて,国が定める標準とは異なる基準に基づいて学級を編制することが,教育上効果があり,あるいは学校運営上実情に沿うものとなる場合もある。国が定める標準は,教職員給与費を国庫負担する際の基礎となる教職員定数を算定するための基準であるという性格と,教育の機会均等と一定の教育水準を確保する観点からの国が定める学級編制に関する基準であるという性格を併せ持つものであるが,先に述べたような観点から,今後は教職員給与費国庫負担に係る教職員定数算定基準としての性格をより考慮して,都道府県が地域や学校の実態等に応じ,必要があると判断する場合には,義務標準法で定める学級編制の標準を下回る人数の学級編制基準を定めることができるようにする。このため,必要な法令上の措置を講ずるものとする。
(2) その際,国が定める学級編制の標準については,
1  都道府県内の各学校の規模等に応じて,当該都道府県全体として一定の教職員定数を確保するための算定基準であること
2  今後,学級を児童生徒の所属する生徒指導や学校生活の場である生活集団としての機能を中心として位置づけることを考えると,児童生  徒の社会性を育成する場として,また児童生徒が互いに切磋琢磨する場として,学級には一定の規模が必要であること
3  学級と異なる学習指導の場を形成して,多様な学習集団による指導を進めることが必要であり,また,そのことを通じて多数の教職員が  個々の児童生徒とかかわることが,きめ細かな指導を行い,一人一人の児童生徒の個性を育んでいく上でも効果的であること
4  学級規模と学習効果の相関について,教員の指導力や,児童生徒の素質や生活環境,学校運営の円滑度等の違いにより,客観的,実証的  な比較が困難なこともあって,学習効果の上での適正規模等に関する定説的な見解が見いだせないこと
等を踏まえ,現在の状況では,現行どおりの上限40人とすることが妥当である。
(3) 各都道府県教育委員会が定める具体的な学級編制の基準については,都道府県の政策判断によっては,教職員定数全体を活用して,例えば県内全ての学校について国の定める標準を下回る一律の学級編制基準とすること,小学校,中学校別や小学校の低学年と中高学年別,地域の実態等に応じて学級編制基準を定めること等も可能とする必要がある。

A3  教職員配置の弾力化
  各都道府県の教職員定数は,義務標準法により,当該都道府県のそれぞれの学校の学級数に学級規模別の係数を乗じて得た数を合算し,これに各種の加配定数を加えて算出される。各都道府県は,このように算定された教職員定数全体を活用して,各学校への配当数を決定している。その際,学校や地域の状況に応じて,例えば指導困難な学校に手厚く教職員を配置することも行われている。
  しかしながら,学校,教育委員会等の関係者の間に,当該学校の学級数に学級規模別の係数を乗じて得た数があたかも当該学校への教職員の配当数であると受け取られている場合も少なくない。また,このような認識によって,教職員の学校間の兼任も必ずしも広く行われていない状況もみられる。
  今後,各学校の特色ある教育活動の展開やそれぞれの課題の克服に対する支援をより強化する観点から,都道府県教育委員会による弾力的かつ機動的な学校への教職員配置を積極的に進めることとし,そのため,義務標準法に示されている学校の学級数に応じた係数は,あくまでも各都道府県全体の総定数を積算するためのものであって,具体の各学校への配置数を算出するためのものではないことをより明確にする必要がある。その際,教職員の学校間の兼任等も各都道府県教育委員会の裁量によって可能であることなども併せて明確にする。
  これによって,例えば,都道府県教育委員会において,地域や学校の状況や課題に応じて機動的,弾力的に教職員配置を行うことや,教職員の兼任発令により学校間の教育活動や事務の連携,共同実施を進めることが期待される。また,例えば,必要がある場合には,市町村に対して包括的に配置教職員数を示し,当該市町村教育委員会に各学校への具体的な教職員定数配分を委ねることも地域や学校の状況や課題に応じた教職員配置の上で効果的とも考えられる。

A4 非常勤講師の配置と高齢者再任用制度(いわゆる「新再任用制度」)による短時間勤務教員の活用
(1) IIの3に記述したように非常勤講師任用の実績及び効果を踏まえ,また,今後,総合的な学習の時間をはじめとする多様な教育活動を展開するのに対応して専門分野,得意分野を異にする幅広い指導スタッフを整備することが求められるため,地域や学校の実態等や教育上の必要性に応じて,都道府県の判断により,義務標準法による教員定数を活用して非常勤講師を任用することができるようにする必要がある。また,これに係る非常勤講師の報酬については国庫負担することが適当である。
  その際,非常勤講師は学習指導を担当するのみならず,一定の校務分掌を担当することもできることとする。
  このような点を考慮し,非常勤講師の数については,常勤教員の勤務時間を分割して,それぞれを勤務時間とする非常勤講師を任用(いわゆる「定数崩し」)できることとする。このため,必要な法令上の措置を講ずるものとする。
(2) 校長,教頭,教務主任等の主任,学級担任教員については,今後とも常勤教員をもって充てることとする。また,学校経営機能の充実という観点から,教頭の複数配置の拡充についても検討する必要がある。
(3) 新再任用制度による短時間勤務教員についても,教職員定数の範囲内で活用することができるようにする。
  その際の教員の数は,非常勤講師と同様の考え方による。

A5  高等学校における学級編制及び教職員配置の在り方
(1) 公立高等学校の学級編制と教職員配置は,数次にわたる「学級編制及び教職員定数改善計画」を通じて着実に改善され(資料1参照),この結果,現在では,学級当たり教員数は2.5人,教員1人当たり生徒数は14.5人となっており,同じ教科担任制をとる中学校と比べると,その専門性もあり条件的にはかなり優位となっている。しかしながら,近年の中途退学者の問題や暴力行為の増加など緊急に対処しなければならない課題も多い。
(2) 国が高等学校の学級編制の標準を定めるという仕組みは維持するが,地方分権を推進し,国と地方の新たな連携協力体制を構築する観点及び都道府県が地域の状況に応じて主体的に学校教育行政を進められるようにする観点から,今後は設置者において,学級編制の標準を下回る人数で学級編制することができるようにする。
  また,高校標準法に示されている学校の学級数に応じた係数は,あくまでも各都道府県全体の総定数を積算するためのものであって,具体の各学校への配置数を算出するためのものではないが,今後はこの考え方をより明確にする必要がある。
(3) なお,これまで教職員定数の算定方式は学級数を基礎としていたが,高等学校については,生徒の募集は定員制となっていること,総合学科や単位制高等学校では,教育活動のかなりの部分が学級とは分離して行われている実態などを踏まえ,生徒数を基礎とする算定方式に変更することとする。このため,必要な法令上の措置を講ずるものとする。
(4) さらに,新再任用制度が高等学校にも適用されること及び小・中学校において非常勤講師の活用が始まることから,従来から維持してきた高等学校における非常勤講師の活用・定数崩しについては,授業時数ではなく勤務時間数で換算した数を用いる必要がある。

A6  特殊教育諸学校における学級編制及び教職員配置の在り方
  特殊教育諸学校については,児童生徒の障害の種類が異なったり,障害の程度の差が大きく,指導の内容,方法等の実態も異なっているため,児童生徒の障害の種類や程度に応じた適切な指導が行えるような教職員配置を行う必要がある。このため,特殊教育諸学校については,その実態にかんがみ,教職員定数の算定方式を,従来の学級数を基礎とする算定方式から,児童生徒数を基礎とする算定方式に改めることについて検討する必要がある。また,新再任用制度の適用や非常勤講師の活用・定数崩しについては,小学校,中学校,高等学校に準ずるものとする必要がある。

【教職員定数の改善】

B1 教職員定数の改善の趣旨
  今後,基礎的・基本的な内容を確実に定着させ,個性を生かす教育の充実を図る観点から,IIの2で触れているように教科等の特性等を踏まえ,例えば学習の理解の状況や習熟の程度に差が生じやすい教科や言語的な表現力・理解力など他の教科の学習の基盤となる能力を培う教科の指導,実践的コミュニケーション能力の育成が必要な教科の指導,選択教科や総合的な学習の時間をはじめ児童生徒の体験的で問題解決的な学習を重視する指導を行う場合などについては,学級編制と異なる学習集団を編成するなどの各学校における特色ある取り組みをさらに支援するための条件整備が必要である。
  また,近年,不登校,いじめ,暴力行為等の深刻な状況があることにかんがみ,各学校における生徒指導の充実への取り組みを支援するということも必要である。
  すなわち,基礎学力の向上を図り,学校においてきめ細かな指導を充実する観点に立って,教科等の特性に応じ学級編制と異なる学習集団を編成して小人数授業を行うなど,各学校における指導上の具体的な取り組みを支援することに重点を置いて教職員定数を改善することとする。
  その際,国,地方を通じて行財政改革を進めており,公務員の増員については国民から厳しい指摘があること等を踏まえ,このような教職員定数の改善の趣旨について国民の十分な理解を得ることが必要である。
  これに関連して,各学校において指導上の具体的な取り組みに関する自己評価と説明責任が求められること,また,都道府県教育委員会等において情報開示と公立学校の教職員配置についての説明責任が求められることについても留意する必要がある。

B2  教職員定数改善の方法
(1) これまでの数次にわたる教職員定数改善計画においては,その時々の教育上の必要性や課題,学校の状況に応じて,1学級編制の標準の改善により学級増となり,これの連動で改善する方法,2学級数に乗ずる数(いわゆる教職員配置率)を改善する方法,3ティームティーチング等を実施する学校の数等に着目した加配を行い改善する方法の3方式を使い分け,又は組み合わせて教職員定数を改善してきた。第6次の教職員配置改善計画においては,各学校の多様な教育活動を推進する観点から,従来のように学級編制の標準の改善や配置率の改善により一律に教職員定数を改善する方式ではなく,ティームティーチング等の指導方法の改善を行う学校など個々の実態等に応じて教員を加配する方式を導入した。
  また,このほか近年の教職員定数改善計画を通じて行われてきた教職員加配措置として,軽度な障害を持つ児童生徒が通う通級教室への加配,外国人子女等が学校に多数在籍するなどの状況に応じた加配等がある。さらに,都道府県全体の状況に着目した加配として,大学院への派遣や教育研究所等での研修に対応する研修等定数が措置されてきた。
(2) 今後の教職員定数の改善に当たっては,第6次教職員配置改善計画を踏襲して,各学校における特色ある取り組みを支援できるようにする観点から,学級編制の標準の引き下げや教職員配置率の改善によらず,主として加配定数の改善によることとし,特に小人数の学習集団を編成して授業を行うなどの個別の学校の状況に着目した加配方式によることとする。すなわち,新たな教職員定数の改善の方法としては,IIIのA3に触れられているように教職員配置の弾力化を踏まえ,学習指導と生徒指導の取り組みを支援する加配措置を一元化し,当該定数を各都道府県の中で弾力的に活用できるようにすることが適当と考えられる。
  なお,これまで様々な教育課題に対応するために措置してきた教職員の加配措置については,現在の定数の範囲内で今後とも継続することとする。

B3 教職員定数改善の規模
(1) 今後の教職員定数の改善の具体的な規模としては,基礎学力の向上を図り,きめ細かな指導を実現するという観点に立って,学級編制と異なる学習集団を編成して小人数授業を行うなどの学校のきめ細かな学習指導や生徒指導の取り組みを個別の学校の状況に着目した定数の加配方式をとることによって効果的に支援することが可能なものとすることが必要である。
(2) また,今後の教職員定数の改善の規模を考えるに際しては,次の事項に留意する必要がある。
1  児童生徒数の減少に伴う学級数の減少に連動して教職員定数が減少するいわゆる「自然減」が今後も発生するという状況を勘案すること。
2  教職員定数の算定に当たっては,IIIのB1に触れられているように教職員定数の改善の趣旨を踏まえ,教員の平均担当授業時数は従前を下回らないようにすること(総合的な学習の時間を含む)。
(教諭の平均担当授業時数)
    小 学 校  21.7時間
    中 学 校  16.1時間
    高等学校 14.4時間
  ※  道徳及び特別活動は含まない。
  ※  出典:平成10年度「教員統計調査」 
3  特別の場合を除き,一定の担当授業時数以下の教員については,常勤教員ではなく非常勤講師や新再任用制度による短時間勤務教員に置き換えたり,学校間の兼任で対応することが可能であることを考慮すること。
(3)   教職員定数改善の趣旨を踏まえ,以上のような留意事項を考慮すれば,改善の規模としては,IIの4で触れているように教員1人当たり児童生徒数を欧米並みの水準とするという目標を達成できるような規模とすることが適当と考えられる。

B4 特殊教育諸学校,中等教育学校(中高一貫教育校),高等学校において教職員定数を改善する際の考え方
(1) 特殊教育諸学校については,今後の特殊教育の基本に関する検討が進められていること及び障害のある児童生徒に対する教育の実態を踏まえ,教職員定数の改善を図る必要がある。
(2) 中高一貫教育については,今後,生徒や保護者にとって実質的に選択することが可能となるよう,中等教育学校,併設型の中学校・高等学校及び連携型の中学校・高等学校を通学範囲の身近なところに数多く設置することとして,平成11年1月に閣議決定された「生活空間倍増戦略プラン」及び平成11年9月に改訂された文部省の「教育改革プログラム」に「当面,高等学校の通学範囲(全国で500程度)に少なくとも1校整備されることを目標に整備を推進する。」と示されている。また,平成12年1月にまとめられた中高一貫教育推進会議の報告においては,「中等教育学校,併設型の中学校・高等学校及び連携型の中学校・高等学校の設置を促進するため,特別の支援を講ずることが必要」と提言されている。
  これらを踏まえ,中高一貫教育校の設置を促進するとともに,特色ある教育活動を幅広く効果的に行うため,中等教育学校について教職員定数上の優遇策を講じる必要がある。また,併設型の中学校・高等学校について中等教育学校に準じた取り扱いを考慮するとともに,連携型の中学校・高等学校についても必要な配慮を行うことが望まれる。
(3) 高等学校については,総合学科や単位制高等学校,専門学科の実態,あるいは中途退学者や不登校の増加等による生徒指導の困難性,進学率の上昇や就職難等の事情による複雑な進路指導等を踏まえ,これらに対応する教職員定数の改善を図る必要がある。
  特に総合学科については,平成12年1月の「総合学科の今後の在り方に関する調査研究協力者会議」の報告において,「国や都道府県等の設置者においては,総合学科の一層の設置促進を図るために,引き続き支援措置を講じることが必要である。」と提言されていることも踏まえる必要がある。

B5  校長・教頭・教諭等以外の職種について教職員定数を改善する際の考え方
  今後の学校教育活動は,それぞれの分野の教職員が協力して行われていくべきことを踏まえ,教職員定数の改善を行う必要がある。その際,次のようなことに配慮する必要がある。
(1) 近年,ストレスや不安の高まり,生活習慣の乱れなど児童生徒の心身の健康問題が深刻化しているが,これは,いじめ,不登校,薬物乱用,性の逸脱行動,ナイフ等による殺傷行為などの問題行動等の一因になっていると考えられる。
  このため,養護教諭等については,救急処置,保健指導などの従来の保健室における職務のみならず,今後は児童生徒の心身の健康問題等様々な場面で専門性を生かした相談活動や指導等にも適切に対応する必要がある。
(2) 学校栄養職員については,O157食中毒の発生以降,給食における衛生管理の必要性が高まり,調理場の衛生管理の責任者と位置付けられ,新たな職務が加わるとともに,近年,肥満傾向の増大,孤食など児童生徒の食生活の乱れや,食に起因する健康問題が深刻化していることから,健康教育の一環としての食に関する指導が重要となってきており,専門家である学校栄養職員が,児童生徒に対して具体的な指導を行う必要がある。
(3) 事務職員については,総務,財務,管財,経理,渉外等の事務に従事し,学校運営上重要な役割を果たしているが,今後は,従来の職務に加えて,学校の裁量権限の拡大に伴い予算の効率的運用を図る必要がある。
  また,教頭や教員が本来の職務に専念できるよう,これら職種が現在行っている事務処理の負担軽減を図る必要があることから,研修等を通じ学校に勤務する事務職員の専門性をより高め,さらには事務処理の効率化,集中化を図り,事務の共同処理を推進する必要がある。