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第4章 緊急に対応が必要な整備課題



 長期的な整備目標を踏まえ、国は、厳しい財政状況の中で、国立大学等施設に求められる様々な課題に対して、効率的・効果的に対応することが必要である。このため、国は、重点的整備の在り方、緊急に対応が必要な施設の整備に係る明確な目標及びシステム改革の取組に関する事項を盛り込んだ、次期5か年間(平成18〜22年度)の施設整備計画を策定する必要がある。
 また、国立大学等施設は、我が国の高等教育及び学術研究の水準の向上と均衡ある発展を図るための重要な基盤として、今後とも国費による整備を基本とし、重点的・計画的に整備を推進する必要がある。そのために国は、必要な財源を安定的に確保していく必要があり、国立大学等は、国の施設整備計画及び各大学の事情を踏まえた整備計画を策定するとともにシステム改革を推進し、効率的・効果的な施設整備に努める必要がある。
 これまで取り組んできた現行5か年計画の達成状況、国立大学等における教育研究等の動向や施設の現状を勘案し、次期5か年に緊急に対応が必要な整備課題(中期的視点に立った課題)について以下に示す。

1.   安全・安心な教育研究環境への再生
   「第1章 2.国立大学等施設の現状」で明らかにしたように、耐震性など構造上の問題を有している施設が多いことや施設の経年劣化、施設機能の陳腐化が進行する施設の状況を踏まえ、何にもまして学生・教職員の安全を確保することは、優れた人材養成や研究成果を生み出す大前提である。
 特に耐震性については、「既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準・同解説」(財団法人 日本建築防災協会)によると、「1995年兵庫県南部地震を経験した学校建築のうち、第二次診断におけるIs値(注8)が0.4以下の建物の多くは倒壊又は大破した」ことが報告されている。
 次期5か年の施設整備計画においては、国は、膨大な保有量(約700万平方メートル)である老朽施設のうち、特に、耐震性の著しく劣る施設や電気容量不足や情報化対応の不備など機能の著しく劣る施設など、教育研究に著しい支障がある施設について、長期的な整備目標も踏まえ、約400万平方メートル(大学附属病院を除く)の施設の再生を最重要課題として緊急に取り組む必要がある。
 その際、安全・安心な教育研究環境を確保するため、「建築物の耐震改修の促進に関する法律」の一部改正を踏まえ耐震改修を計画的に実施する必要がある。また、エネルギーセンターを始めとする周辺の電気、給排水設備等の基幹設備の老朽化や容量不足による研究実験等の進展への影響や劣化に伴う安全性の問題が懸念されるので、これらにも適切に対処する必要がある。さらに、障害者の社会参加や生涯学習のニーズが高まっていることから、ユニバーサルデザインの導入にも配慮をするほか、避難空地を確保するなど、キャンパス全体として安全・安心な環境の確保を図る必要がある。
注8    Is値…建物の粘り強さに建物形状や経年等を考慮して算定「IsイコールEoかけるSDかけるT … Eo:保有性能基本指標、SD:形状指標、T:経年指標」する構造耐震指標である。
 一般の施設については、耐震改修促進法「建物の耐震改修の促進に関する法律(平成7年 法律第123号)」第3条の規定に基づく指針「特定建築物の耐震診断及び耐震改修に関する指針(平成7年12月25日 建設省告示第2089号)」により、大規模な地震が発生した場合に、倒壊又は崩壊しないようにするためIs値0.6以上を確保するよう規定されているが、学校施設については、これらの法律及び指針によるほか、官庁施設の総合耐震計画基準(国土交通省)の規定に基づき、さらに耐震性の割増を行いIs値0.7以上を確保することとしている。

2.   教育研究環境の高度化
   国立大学等施設に求められるニーズを踏まえ、世界一流の優れた「人材」と「研究成果」を生み出すための「教育研究環境の高度化」を図ることを目指し、整備の対象を科学技術創造立国の実現に必要な『人材養成機能を重視した基盤的施設の整備』、『卓越した研究拠点の整備』、『先端医療に対応した大学附属病院の整備』に重点化し、効果的な整備を図る必要がある。
 整備に際しては、安全・安心な教育研究環境への再生を基本とし、個々の施設状況を勘案した上で、耐震性の劣る老朽施設等の既存施設を可能な限り有効活用して、教育研究環境の高度化を図るなど、効果的な整備をする必要がある。
 一方、次期5か年の施設整備計画において、平成13年度以降に設置された大学院(約45万平方メートル)や卓越した研究拠点(現行5か年計画整備実績:約34万平方メートル)等、教育研究の進展に伴う新たなニーズにより生じる狭隘化の解消を図る必要がある。
 その際、独創的・先端的な学術研究の推進や創造性豊かな人材養成などの発展基盤を確立する観点から、既存施設の有効活用により対応しきれない場合には、新増築による整備も適切に図る必要がある。
 また、ビッグプロジェクト研究を推進する場合には、プロジェクト全体の必要性に応じ整備を進めることが必要である。なお、プロジェクトの円滑な実施を図る観点から、プロジェクトの施設整備に係る費用については、多様な財源により措置する方向も今後検討することが必要である。
 以下に教育研究環境の高度化を図るべき主な対象を示す。

  人材養成機能を重視した基盤的施設の整備
大学院機能の基盤強化
   国際的に通用する高度な人材養成機能の中核である大学院について、大学院教育の実質化等の教育内容・方法の改革・改善に伴い必要となる施設整備を実施する。特に現行5か年計画では平成12年度までの大学院拡充に伴う整備を実施してきたことから、平成13年度以降新たに設置された大学院や、「助教」等若手教員・研究者の教育研究活動を支えるスペースの確保等を図る。
特色ある高等教育の基盤充実
   各高等教育機関に求められる多様で質の高い教育を実現するために、個性・特色ある教育内容・方法が展開できる教育環境の充実を図る。併せて、国際化への対応や学生への支援等の観点から宿舎の整備等生活面の環境整備を図る。
 特に、今や教育研究にとって必須の機能である情報環境の充実など教育の内容・方法の更なる充実を可能とする機能の向上を図るとともに、多様な情報集積拠点である大学図書館等の機能強化・連携をはじめ、自らが積極的に学習・研究に取り組むことができるスペースを確保することに留意する。

卓越した研究拠点の整備
世界水準の独創的・先端的研究拠点の整備
   広く国内はもとより諸外国の優秀な研究者等を惹きつけ、優れた教育研究機能を持つ、魅力ある世界水準の独創的・先端的な学術研究の拠点を形成するための整備を図る。
地域・社会との連携協力を推進する研究拠点の整備
   国立大学等が地域・社会の知の中核拠点として機能し、地方公共団体、民間企業との共同研究など社会等との連携協力を推進するとともに、国家的・社会的課題への対応などでプロジェクト的に実施される他大学や公的研究機関との共同研究等の連携協力を推進する研究環境の整備を図る。

先端医療に対応した大学附属病院の整備
 大学附属病院は、一般の医療機関と異なり、高度先進医療や医学系人材養成など卒前卒後の臨床教育の場であるとともに、先端医療の先駆的役割を果たす場であるにもかかわらず、近年の医学の進歩に伴う医療の専門化、高度化への対応が施設の老朽化や機能劣化により困難となっている。また、地域における中核的医療機関としての機能も果たしており、災害時においては医療の拠点としての役割が求められることから、施設の耐震性等安全性の確保を図る必要性は極めて大きい。
 以上を踏まえ、一層社会に貢献できる病院として再生するため、現行5か年計画により進められている再開発整備に引き続き、今後も医療の専門化、高度化への対応、さらに耐震性の確保を図るため、次期5か年においては、現行5か年計画と同程度の約60万平方メートルについて、着実・計画的な整備を支援する必要がある。

3. システム改革の実質化
   各国立大学等は、現行5か年計画期間中において施設マネジメントや新たな整備手法等のシステム改革に積極的に取り組んでおり、一定の実績をあげている。次期5か年においては、本協力者会議報告「知の拠点−国立大学施設の充実について(平成15年7月)」及び現行5か年計画における成果を踏まえ、システム改革がより一層充実され、大学経営そのものに定着するよう、より積極的に取り組む必要がある。

(1) 施設マネジメントの一層の推進
   施設は大学等の諸活動の基盤であり、これを有効に活用し、適切に維持管理する施設マネジメントは極めて重要である。特に法人化後の国立大学等では、経営の一環として、全学的視点に立った施設管理、施設の点検・評価の推進、施設の維持管理の適切な実施、学生・教職員への意識啓発等に取り組む必要がある。(注9)
 特に、国立大学等における教育研究は常に進展しており、例えば、新興・融合領域における研究、「21世紀COEプログラム」による拠点形成、社会との連携協力、「助教」等若手教員・研究者による教育研究など、教育研究の新たな展開に伴う施設需要が緊急に生じることも予想されることから、施設整備や弾力的な施設運営により、弾力的・流動的に使用可能なスペースを確保し、これらに機動的に対応する必要がある。
注9   「知の拠点−国立大学施設の充実について」の報告書(平成15年7月)18ページ〜19ページより

(2) 新たな整備手法の推進
   法人化後の国立大学等は、業務の範囲内で、より一層多様な施設整備手法をとることが可能となった。厳しい財政状況の中、多様な整備手法により施設のニーズに対応可能とする必要があること、また、法人化した国立大学等の施設面での経営努力について社会的な理解を得る必要があることから、国費による整備を基本としつつ、多様な整備手法の導入を図るため、現行5か年計画で推進された新たな整備手法の活用に積極的に取り組む必要がある。
 具体的には、以下の手法の活用が考えられる。
  3 現行5か年計画で推進された手法(図9参照)
  1 PFI事業による整備
2 寄附による整備
3 借用等により学外にスペースを確保
4 地方公共団体との連携による整備
5 他省庁との連携による整備 等
2 次期5か年で新たに実施が想定される手法
  1 制度見直しにより対象の拡大が図られた長期借入金制度(注10)を活用した整備
2 スペースチャージ(注11)収入による整備 等
 国は、新たな整備手法を積極的に導入すべき対象施設を明確にするなど、国立大学等による新たな整備手法の活用を促すための方策について今後検討する必要がある。ただし、その際、以下の点について留意する必要がある。
  3 国立大学等の教育研究活動を実施する基本的な施設は国費による整備対象とすべきであること。
2 国立大学等全体の均衡のとれた整備を実現するため、各国立大学等が異なる状況に置かれていることに鑑み、新たな整備手法の活用が困難な国立大学等に配慮すること。
 また、国は、国立大学等による新たな整備手法への取組を支援するため、新たな財源の導入に向けた検討など必要な仕組みづくりや情報提供に努めるなどの方策を講じることが必要である。
注10    国立大学法人等が行うことができる長期借入、債券発行は、附属病院の用に供するために行う土地の取得等、及び、国立大学法人等の施設の移転のために行う土地の取得等に限定されていたが、国立大学法人法施行例の一部改正(平成17年12月28日)により、入居者からの寄宿料を償還財源とした学生寄宿舎等の整備や、診療報酬を償還財源とした動物病院の整備、施設使用料を償還財源としたインキュベーション施設等産学連携施設の整備についても長期借入等の対象として追加された。
注11  研究施設等において、当該施設の使用者から徴収する施設使用料

(3) システム改革の取組の積極的な評価
   国は、重点的整備を内容とする支援を行うにあたって、国立大学等の特色ある取組を支援できるよう、3既存施設の機能の状況を踏まえた整備の必要性、2整備によって期待される教育研究活動への効果などの評価項目を明らかにし、適切な評価に基づく施設整備事業を行うことが重要である。
 これまで、施設整備事業の採択にあたっては、国立大学等の教育研究活動の活性化状況とあわせ施設マネジメントの実施状況等を評価してきたが、国は、施設マネジメントや新たな整備手法などシステム改革の更なる推進のため、その取組をより積極的に評価する必要がある。例えば、施設マネジメントにより既存施設に新たに教育研究スペースを生み出すなどの努力を評価するなど、国立大学等のシステム改革に向けた取組をより一層支援する必要がある。


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