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第2節 学校施設の複合化における計画・設計上の留意点
     
  (1) 基本的な留意事項
       都市化の進展に伴う市街地密度の高まりの中で計画される学校と様々な地域施設との複合化においては,学習環境の高度化等を図る観点から,学校施設と機能を類似する地域の生涯学習,コミュニティー活動に関する施設や,さらに高齢社会に対応する教育を進める観点から,児童生徒と高齢者とのふれあいを深めることのできる高齢者福祉施設などと,施設相互の関連に配慮しつつ,施設全体としての機能の向上が図られるよう計画することが重要である。
   一方,学校教育活動等に障害をもたらし,学習環境に悪影響を及ぼす恐れのある施設との合築は,避けることが重要である。
   学校とその他の文教施設等との複合化の基本的な留意事項については,これまで「学校施設の複合化について(通知)」(平成3年3月5日付け文部省大臣官房文教施設部長通知)に提示されているが,学校と福祉施設等の様々な地域施設との複合化については,先例における課題及び対処方策を参考としつつ,多様な利用者が複合施設を利・活用することに伴う適切な動線計画や,防災・防犯機能の確保に配慮した動線と設備の計画,また,各々の施設の機能が十分に発揮できる適切な建築・設備の計画などについて十分な検討を行い,既に示された複合化における施設計画上,管理・運営上の留意事項を充実し,複合化の内容に応じた適切な計画上の配慮が必要である。
     
  (2) 計画の策定と進め方
       学校施設の複合化においては,複合施設の種類に応じた地域における役割,各々の施設が有する機能等を考慮しながら,施設の相互利用や交流活動などの目的を明確化し,地域住民のニーズに応える施設機能を設定し計画することが重要である。
   特に,学校と福祉施設等の様々な地域施設との複合化においては,これまで事例も少なく,また,施設に携わる関係者も多くなることから,整備計画の策定においては,地域住民を始め,学校関係者,教育委員会担当者のみならず複合施設の種類に応じ,関係する人々を交え,関係者間で意見交換を十分に行い,共通理解を得つつ進めることが重要である。
   その際,都市部における制約の厳しい立地環境における計画では,より幅広い観点からの複数案を立案し,緑の量,日照,通風,動線の明確性,騒音,運動場の規模等の評価項目を設定し,それに基づいて比較・検討を行いつつ計画を進めるような手法を導入することも有効である。
     
  (3) 施設相互の関連に配慮した計画
       学校と福祉施設等の様々な地域施設との複合化においては,文教施設を対象とした複合施設よりも,各施設の活動内容や設置主体がより多様化するため,各施設相互の連携に関して,各々の施設の機能や管理・運営方法等に応じた適切な配慮について十分留意しつつ計画することが重要である。
   
@ 相互利用・共同利用の内容に応じた空間構成及び動線計画に対する配慮
     複合施設の計画においては,学校とその他の施設との連携・交流活動の状況に応じ,施設の相互利用,共同利用の内容を計画し,これらに基づき,各施設が各々に,また,相互に支障なく円滑に利用できるよう施設全体の空間構成及び動線計画を適切に計画することが重要である。
   特に,高齢者福祉施設との複合化においては,学校行事への高齢者の招待や児童生徒の介護ボランティア活動,また,相互施設への自然な訪問など交流活動の進展状況に応じ,それにふさわしい施設・環境として弾力的な対応ができるような施設とすることが有効である。
A 学習活動への影響を考慮した建築環境の確保に対する配慮
     複合施設においては,限られた敷地及び空間内に異なる種類の施設を共存させることとなるため,高密度で集約された施設計画による学習活動に対する悪影響に配慮し,良好な建築環境を確保できるよう計画することが重要である。
   このため,各室の採光,通風,空気調和等の状況や騒音,振動等への対策などに留意し,良好な室内環境を確保するとともに,必要に応じ,中庭,吹き抜け空間を設けるなどゆとりと潤いのある環境づくりに配慮することが重要である。
B 適切かつ効率的な設備計画に対する配慮
     複合施設における照明,空気調和,給排水等の建築設備については,各施設ごとの利用時間,設備の稼動範囲,要求される設備機能等の相違に配慮し,適切かつ効率的な運転・管理ができるよう系統区分等を計画することが重要である。
   設備の系統区分の設定に際しては,光熱水料等の会計区分ごとに使用量が把握できることや,施設の使用区分等に応じて運転制御が可能となるよう計画することが重要である。
ま   た,将来の設備に関する需要の増大や高度化への対応も考慮しつつ計画することが重要である。
C 明確な施設管理体制の整備に対する配慮
     複合化される各施設の諸活動や施設間の交流活動等が,相互に支障なく円滑に実施されるためには,各施設ごとの管理体制・管理区分を整え,各施設間で十分な連携を図りつつ,複合施設全体の管理を総合的に実施することが重要である。このため,定期的または随時の連絡・協議等のための組織や各施設の連絡窓口を設置することなど施設全体の管理体制を整備し,明確にしておくことが重要である。
     
  (4) 多様な利用者への配慮と安全面に配慮した諸施設の計画
       学校と福祉施設等の様々な地域施設との複合施設は,幼児から高齢者まで多様な人々の地域コミュニティー等の活動の場として利用されることとなる。このため,その設計に際しては,これらの利用者が各施設の施設・設備を安全・有効に利用できるよう配慮することが重要である。また,非常時においても,各施設の利用者が速やかな避難行動がとれるような施設計画とすると共に,複合施設全体として,地震・火災時の避難計画その他の防災計画の策定や共同防災訓練の実施など非常時の安全性の確保に十分に備えておくことが重要である。
   
@ 高齢者・障害者等の円滑な利用に対する配慮
     複合施設においては,共同利用部分のみならず,専用部分についても相互利用や施設間の交流活動等により地域住民等の多様な人々が利用することとなる。
   特に,高齢者福祉施設等との複合化においては,高齢者・障害者等の人々の利用機会が多くなることに留意し,建物の各部の設計に際しては,事故防止等安全性に十分配慮し,高齢者・障害者等が円滑に利用できるよう出入り口,通路,階段,昇降機,便所,視覚及び聴覚障害者等のための誘導設備等の施設各部に関し,十分にバリアフリーな施設計画とすることが重要である。
A 日常の移動及び非常時の避難に対する配慮
     各施設の利用者や訪問者が円滑に複合施設を利用することができるよう,動線を明瞭かつ簡潔に計画することが重要である。また,他の施設の活動に支障を生じることなく各々の施設内の移動が円滑になされるよう配慮し,出入口,通路,階段,昇降機等の計画を行うことが重要である。
   特に,高齢者福祉施設との複合化においては,高齢者と児童生徒との日常自然な交流が行われる場合も考慮し,各施設間の相互の動線を計画することや,高齢者の送迎車等の動線が,児童生徒の活動や登下校時の動線と交わらないよう配慮し計画することが重要である。
   さらに,地震・火災等の非常時に児童生徒と他の施設の利用者が速やかに避難できるように,避難の途中で避難路が交差し混乱しないよう配慮することが重要である。その際,高齢者・障害者等各施設の多様な利用者の避難方法に留意し計画することが重要である。
B 防犯・防災機能の確保に対する配慮
     複合化される学校施設と他の施設とは,一般に利用者,利用方法,利用時間帯等の利用形態がそれぞれ異なることから,警備区分や非常用設備の設置等防犯・防災上の様々な配慮が重要である。これはまた,複合化される施設の種類が多くなるに従い,より大きな課題となるため,管理体制とも合わせて計画段階から十分に検討することが重要である。
   その際,各施設間で適用規定がそれぞれ異なる場合,少なくとも共同利用部分についてはより厳格な規定を準用することが重要である。
   さらに,学校は,地域の防災拠点としての役割を担うことにも配慮し,必要となる防災機能が十分に発揮されるよう施設全体を計画することが重要である。
     
  (5) 余裕教室の転用による複合化の計画
       既存の学校施設においては,余裕教室の活用の一環として他の施設への転用により,複合施設として再整備される場合がある。
   余裕教室の転用による複合化の計画においては,新たに建物を建築する場合よりも,既存施設の形態,配置状況,耐用年数などによる制約が多く,これまでに記された複合化に伴う計画・設計上の留意点に加え,学校施設と転用施設の調和など計画・設計上の配慮等について別途検討することが必要である。

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