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第3節 学校施設の高層化における設計・計画上の留意点
     
  (1) 基本的な留意事項
       「小学校施設整備指針」及び「中学校施設整備指針」では,小学校校舎は3階以下とし,やむを得ない事情ある時は4階とすること,中学校では4階以下とすることとしている。このような小・中学校校舎の計画は,屋外運動場や遊び庭への出入りのしやすさ,樹木や花壇など自然への近接感,日常及び非常時の安全性への配慮のしやすさ,さらには屋外からの親しみの持てる建物の形態や景観などがその背景にある。
   都市化の進展等の中で,やむを得ず学校施設を高層化する場合にあっても,低層の校舎における計画上の優位性を基盤にし,その上で,優れた立体化の手法により,施設・設備の機能の向上を図る中で,一つ一つの計画を十二分に点検し,上階からの落下物や高所に伴う心理面の不安対策,児童生徒等の上下階移動のしやすさやバリアフリー計画,上階部に配置する諸室の検討,校地内外の施設への日照や電波障害などの影響など,計画・管理・運営面における諸課題に配慮することが必要である。
     
  (2) 計画の策定と進め方
       学校施設の高層化においては,学校種別に伴う児童生徒の身体特性や学校開放の状況などに配慮し,円滑な教育活動,管理・運営等に対応できる施設機能を設定し計画することが重要である。
   高層化の計画に伴い,施設内外への影響範囲が広がることから,整備計画の策定においては,地域住民を始め,学校関係者,教育委員会担当者等,関係者間で意見交換を十分に行い,共通理解を得つつ進めることが重要である。
   その際,都市部における制約の厳しい立地環境における計画では,緑の量,日照,通風,動線の明確性,運動場の規模等の評価項目を設定し,それに基づいて比較・検討を行いつつ計画を進めるなどの手法を導入することも有効である。
     
  (3) 安全及び周辺環境面に配慮した諸施設の計画
       本来は低層の建物としての計画が望ましい学校施設を,やむを得ず高層化する場合には,児童生徒の健康面と日常活動における安全性を十分に配慮することが重要である。また,非常時においても,速やかな避難行動がとれるような施設計画とすることと共に,日常においても防災訓練の実施など非常時の安全性の確保に十分に備えておくこと等が重要である。
   
@ 日常の移動及び非常時の避難に対する配慮
     校舎の高層化に伴い,児童生徒及び教職員等の垂直方向の移動が多くなることが想定され,それに応じ,日常的な移動が円滑かつ効率的に行えるよう配慮しつつ計画することが重要である。同時に,地震・火災等の非常時の避難が安全かつ迅速に行えるよう計画することが重要である。
   特に,階段・昇降機等の計画に際しては,これらを十分に踏まえ,教材・教具や給食等の運搬方法を考慮し,また,障害者等の移動に留意しつつ,設置の数,位置及び形状等を設計することが重要である。
   また,校舎が分棟化する場合には,中間階や上階部にも渡り廊下を設けるなど,教室間等の移動距離が長くなり過ぎないよう配慮することも重要である。
A 上階からの転落・落下物等に対する配慮
     上階からの転落はもとより,落下物によっても思わぬ大事故につながる恐れがあり,計画上は十分に留意することが重要である。
   このため,上階部から転落や物が落下しないよう,さらには,児童生徒等の高所に伴う心理的不安も考慮して,外部に面する窓の床面からの高さや手摺りの設置位置等の設定及び必要に応じベランダの設置等の配慮をすると共に,下階部の出入口や窓の上部に庇を設ける等の落下物に対する安全確保や,破損とその落下に対し十分安全な強度・性能のガラスの使用などの配慮が重要である。また,積雪地では屋根からの落雪や軒先からのつららの落下に対しても留意することが重要である。
B 屋外環境に及ぼす影響に対する配慮
     学校建物による周辺地域に対する日影が法的範囲にあることはもとより,グラウンドやその他屋外教育環境施設等に対して,できるだけ多くの日照を確保できるよう配慮し,建物の配置・形状を計画することが重要である。
   また,日影だけではなく,周辺建物との位置関係にも十分に注意して,ビル風や電波障害等の不都合が極力抑えられるように配慮することが重要である。
     
  (4) 教育活動に配慮した諸施設の計画
       校舎が高層化することに伴い,児童生徒の教育活動を行う行動範囲が垂直方向に広がり,縦方向の動線が長くなる傾向がある。これにより,教育活動が制限を受けたり,支障を生じないように,施設計画上は十分に配慮することが重要である。
   
@ 普通教室
     普通教室は,一般的に,児童生徒が一日の中で最も多くの時間を過ごす場所となる。そのため,非常時の避難だけでなく,体育等の授業や休み時間の活動等でのグラウンドへの利便性,樹木や花壇など自然への近接感等を考慮し,高層化における計画に際しても,普通教室は,高層階に設けないことが重要である。
A 特別教室等
     特別教室の配置は,普通教室からの利便性,騒音・振動の影響等に留意すると共に,必要に応じ大型の教材・教具の搬出入の方法にも配慮して計画することが重要である。
   また,図書室等の児童生徒の自主的な利用に供される室の配置は,利用者の偏りや利用率の低下がないよう利便性を考慮して計画することが重要である。
B 管理関係諸室
     校舎が高層化し階数が多くなることに伴い,上下階への教員の授業間の移動や教材・教具の運搬が円滑にできるよう,また,日常,管理面での死角を生じさせないよう配慮することが重要である。その際,下階部に教員室を配置する場合などには,必要に応じ,上階部にも教員が滞在できるスペースや教材・教具室を計画することも有効である。
C ホール,アリーナ等
     上階部においても児童生徒が,授業時間,休み時間にわたり,のびのびと活動出来るよう配慮することが重要である。このため,各階に適宜ホールやラウンジ等の空間を計画したり,太陽光に当たることのできるような屋上,テラス等を安全面に留意しつつ計画すること,また,各階の内部空間の連続性や一体感を視覚的に感じさせる吹き抜け等を計画することなども有効である。
   さらに,施設形態によっては,児童生徒の利用しやすさを考慮して,アリーナやプールを上階部に計画することも有効である。
D 学校開放に対する配慮
     屋内運動場,プール,特別教室等の施設について学校開放への利用が計画されている場合は,学校活動での利便性に加え,一般利用者への利便性に留意し,配置等を計画することが重要である。
   特に,これらの施設が上階部に計画される場合は,多様な利用者の日常の円滑な移動や非常時の安全・迅速な避難の確保について十分配慮することが重要である。
E 清掃,メンテナンスに対する配慮
     上階部については,外部に面した窓拭きや,換気扇の掃除等の日常的なメンテナンスの方法を配慮しつつ施設の計画をすることが重要である。これらの清掃の一部を児童生徒が行う場合には,児童生徒の転落事故が起こらないようベランダの設置等安全に行えるため十分な配慮をすることが重要である。
   また,機械室を上階部に配する場合には,日常的な管理・メンテナンスや将来の機能追加や更新に支障を生じないよう配慮することが重要である。
     
  (5) 複合化に伴う高層化における留意点
   

   市街地密度の高い地域においては,用地の確保難と相まって,学校施設の複合化に伴い施設が高層化される場合がある。
   このような複合化に伴う高層化の学校施設の計画においては,前述の複合化における留意点および高層化における留意点のそれぞれに配慮するとともに,両者が重なることにより,多様な利用者,複数の管理区分への対応など,施設計画上の課題が多く,また,複雑となり,利用者の日常の移動や非常時の避難に対する配慮,学校の上階に他の施設が配される場合の落下物に対する配慮,グラウンドへの日照等屋外環境に及ぼす影響への配慮などに関し,より一層の計画・設計上の配慮が重要である。


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