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第2節 著作権契約の在り方等について

1 はじめに

 我が国では,放送番組,映画,音楽CD,書籍・雑誌,舞台作品など様々な作品(以下「コンテンツ」という)が製作されているが,当該コンテンツに係る著作者等とコンテンツ製作者等との契約や取引の形態によっては,コンテンツの流通が不必要に制限されたり,分野によっては著作者等に不当な契約条件を強いている場合があるのではないかとの指摘があるところである。
 契約・流通小委員会では,このような問題提起を踏まえ,望ましい契約システムとは何か,また,それを実現するためにどのような方向性で関係者が取組みを行うべきかについて検討を行った。
 検討に当っては,放送番組制作,映画製作,音楽出版,レコード製作,出版,演劇,コンサート事業を事例として採り上げ,これら各業界に所属する委員等から当該業界における著作権契約の状況について説明を受け,これをもとに意見交換を行い,提言をまとめた。

2 各業界における著作権契約の現状

(1)放送番組制作

 放送番組には,大きく分けて放送事業者が自ら制作する番組(局制作番組)と外部の制作会社に発注して制作する番組(発注番組)の2つがある。番組制作や利用にあたり番組制作者等が契約すべき著作者等は多岐にわたるが,日本放送協会(以下「NHK」という)や社団法人日本民間放送連盟(以下「民放連」という)と各権利者団体との間で著作物等の利用に関するルールの整備が進んでおり,これらに従い契約が行われている。
 なお,下請代金支払遅延等防止法の改正によって,放送番組の制作についても同法の対象となり,今後は書面による契約が増えると考えられている。(注135)

(注135)
 下請代金支払遅延等防止法では,下請取引の公正化の観点から,発注元の事業者に対し,契約の際には下請けの内容,下請代金の額,支払期日及び支払方法等を記載した書面を下請事業者に交付することを義務付けているが,平成16年4月1日から施行された同法の改正により,新たにプログラムや映画,放送番組等の情報成果物の作成にかかる下請取引等が規制対象となっている。

1局制作番組
ア 原作,小品等
 ドラマや舞台中継における原作(小説等)の利用や,番組中における詩又は短歌,俳句等の小品の利用については,当該著作物が社団法人日本文芸家協会(以下「日文協」という)において管理されているものの場合には,日文協に利用許諾を求めることとなる。日文協は著作権等管理事業法に基づく著作権等管理事業者(以下「管理事業者」という)であることから,日文協から利用許諾を得て,文化庁に届出た著作物使用料規程に基づき使用料を支払うことになる。なお,使用料規程では,番組の放送に限らず,当該番組の様々な利用形態について使用料額が定められている。
 日文協において管理されていないものの場合には,直接に個々の著作者と交渉し契約を結ぶこととなる。

イ 脚本
 脚本の執筆を依頼する際には,依頼しようとする脚本家が,例えば協同組合日本脚本家連盟(以下「日脚連」という)に属している場合には,NHK・民放連と日脚連との間で結ばれている団体協約書に定める契約条件に従い,放送事業者と脚本家との間で執筆委嘱契約を結ぶこととなる。脚本家に支払われる脚本料には当初の放送に関する使用料が含まれているため,日脚連は使用料を徴収しないが,番組を改めて再放送する際には,放送事業者は管理事業者である日脚連に利用の許諾を得て,団体協約に基づく使用料を支払うこととなる。なお,使用料規程では,番組のビデオ化やCATVへの番組供給などについても使用料額が定められている。
 日脚連や同様の団体である協同組合日本シナリオ作家協会(以下「シナリオ作協」という)に属していない脚本家とは,直接に交渉し契約を結ぶこととなる。

ウ 音楽
 我が国では既成楽曲の多くが管理事業者である社団法人日本音楽著作権協会(以下「JASRAC(ジャスラック)」という)によって管理されているため,音楽著作物の利用に関するほとんどの契約は,JASRAC(ジャスラック)との間で行われることとなる。なお,JASRAC(ジャスラック)の使用料規程では,音楽の放送に限らず,様々な利用形態について使用料の額が定められている。
 なお,放送番組のテーマ音楽や主題歌等として作詞・作曲を委嘱して楽曲を作成する場合には,当該楽曲の利用の独占性を確保する観点から,これをJASRAC(ジャスラック)の管理からはずし,番組の製作者に著作権を譲渡したり,JASRAC(ジャスラック)の利用許諾なしに音楽を利用できる範囲を定めたりすることが可能となっている。

エ 実演
 番組への出演契約は,通常は,実演家の所属するプロダクション等と放送事業者との二者契約,あるいは,実演家個人を加えた三者契約により行われ,この契約において,実演家の放送権に関する契約が行われる。ただし,事前の番組の収録については,原則として放送のための固定制度(第93条)により行われ,実演家から録音・録画の許諾を得ていないので,当該番組の二次利用については,原則として改めて実演家の許諾を得なければならない。なお,放送のための固定制度を用いて作成した録音物又は録画物を用いた放送等を行う場合には,実演家に相当の報酬を支払うことを条件として実演家から許諾を得た放送以外の放送が認められている(第94条)。NHK・民放連と社団法人日本芸能実演家団体協議会(以下「芸団協」という)・実演家著作隣接権センターの間では,再放送について協定書が結ばれており,これらの協定に基づき報酬が支払われることになっている。
 また,商業用レコードを使用して番組の放送を行う場合においては,放送事業者が歌手等の実演家に対して,商業用レコードの二次使用に関する指定団体(第95条第5項)である芸団協を通じて二次使用料を支払うこととなる。具体的な使用料については,NHK・民放連と芸団協とが協議して定めることになっている。

オ レコード
 放送事業者が放送番組中のBGMや挿入曲として商業用レコードの音源(レコード)を使う場合には,放送のための一時的固定制度(第102条)を用いて当該レコードの複製が行われ,当該番組を二次利用する場合には改めてレコード製作者の許諾が必要となる。なお,一定範囲の二次利用については,NHK・民放連とレコード協会との間で契約がある。
 また,商業用レコードを使用して番組の放送を行う場合においては,レコード製作者に対して,商業用レコードの二次使用に関する指定団体(第97条第3項)である社団法人日本レコード協会(以下「レコード協会」という)を通じて二次使用料を支払うこととなる。具体的な使用料については,NHK・民放連とレコード協会とが各々協議して定めることになっている。

2発注番組
 外部の番組制作会社に発注して番組を作る際には,放送事業者と制作会社との間で個別に制作委託契約が結ばれる。番組制作において用いられる著作物等に関する契約については,そのほとんどを制作会社側に委任することが一般的である。
 なお,番組制作委託における公正性・透明性のより一層の向上を目的として,総務省の「ブロードバンド時代における放送番組制作に関する検討会」において,平成16年3月,「放送番組の制作委託に係る契約見本(契約書の必要事項)」を取りまとめ,公表したところであり,在京のテレビ放送事業者は,これを踏まえ,制作委託契約の契約方針を公表している。

(2)映画製作

 映画を製作する際には,基本的には,映画製作者とそれぞれ原作者,脚本家,監督,出演者,スタッフ(撮影,技術等),テーマ音楽等(委嘱楽曲)の著作者等との間で,著作物等の利用に関する契約条件も含め個別に契約が結ばれる。
 なお,以前は書面による契約が少なかったが,最近では書面による契約が増えつつあるようである。ただし,映画業界については,映画製作者の規模等によって組織的に契約実務をしているところとそうでないところがあり,全ての映画製作者において書面による契約が行われているわけではないようである。
 なお,特記すべき点は以下のとおりである。

1俳優等の実演家との契約
 俳優等の実演家との契約については,映画製作者は,出演契約の際に実演家から録音・録画の許諾を得ているので,映画の二次利用については原則として実演家の権利が働かないことになっている(第91条第2項)。我が国の映画業界では,長年の慣行から,当該映画のビデオ化等の二次利用にあたって,実演家に追加の報酬が支払われることがほとんどなかった。しなしながら,最近における映画の二次利用の多様化や実演家への利益の還元等に関する議論を踏まえ,関係団体間で協議が行われた結果,二次利用に関する追加の報酬については柔軟に対応することとし,必要に応じ二次利用に関する事項についても予め契約書で定める方向で関係者の合意形成が行われつつあるようである。

2使用音楽に関する契約
 映画の中で使用されるテーマ音楽や主題歌については,作詞家・作曲家に委嘱し当該映画用の曲を新たに創作する場合が多く,JASRAC(ジャスラック)の場合においては(1)1ウのなお書きのとおりであるが,実務的には,契約が書面で行われることは少ないのが現状のようである。
 なお,既存楽曲の利用については,ほとんどの場合,JASRAC(ジャスラック)と契約を行うこととなるが,特に洋楽の映画録音権については,JASRAC(ジャスラック)に許諾権限がない場合が多く,非一任型の管理となっているため,使用料の額を個々の音楽出版社と取り決めなければならない場合が多い。

3二次利用
 ビデオ販売,テレビ放映,映像配信など,映画を二次利用する際には,映画製作者と二次利用者との間で,当該映画の利用許諾契約が行われる。また,原作,脚本,音楽等の著作物の利用に関する契約については,改めて当該著作者等と契約を行うことになるが,管理事業者が権利を管理している場合には,一般に使用料規程に基づく使用料額を支払うことにより利用が許諾されることになる。

(3)音楽出版

 作詞家・作曲家が楽曲を創作し,これを普及させようとする際には,通常は,音楽出版社との間で楽曲ごとに条件付きの著作権譲渡を基本とした音楽出版契約を結び,当該音楽出版社が契約に基づき楽曲の管理及びプロモーションを行うことになっている。
 契約については,音楽出版というビジネスが始まった当時から書面で行われてきたが,1976年に社団法人音楽出版社協会が「著作権契約書統一フォーム」という統一的な様式を作成した。その後,著作権等管理事業法の制定を契機とし,音楽出版社及び作詞家・作曲家の代表による協議を経て,平成13年に改訂版を定め,現在はこの様式が主要音楽出版社で用いられている。

(参考)著作権契約書統一フォームの主な条項
条項 内容
第1条(目的) 譲渡
第2条(保証) 著作者の完全な創作物で,音楽出版社に支障,損害を与えない保証
第3条(地域及び期間) 地域は全世界,期間は自由に選択
第4条(譲渡の範囲) 著作権法27条,28条の権利を含む,現在及び将来において著作者が有する一切の権利
第6条(著作権管理の方法) 自由に選択
*支分権(演奏権,録音権,貸与権,出版権)
*7つの利用形態
5  映画への録音の利用形態に係る権利
6  ビデオグラム等への録音の利用形態に係る権利
7  ゲームソフトへの録音の利用形態に係る権利
8  コマーシャル放送録音の利用形態に係る権利
9  放送・有線放送の利用形態に係る権利
10  インタラクティブ配信の利用形態に係る権利
11  業務用通信カラオケの利用形態に係る権利
第10条(著作権使用料) 著作権譲渡の対価
第17条(第三者への権利譲渡等) 売却・譲渡の禁止
第20条(契約の解除等) 10年を超える契約の場合,両者協議の上解約が可能

(4)レコード製作

 レコード製作を行う際には,原則として音楽の著作権及び歌手・演奏家等の実演家の著作隣接権に関する契約が必要であるが,音楽の著作権については,多くの場合,レコード会社や原盤製作者とJASRAC(ジャスラック)等の管理事業者との間でのレコード録音に関する利用許諾契約により処理がなされている。
 また,著作隣接権については,レコード会社等と実演家や当該実演家が所属するプロダクション等との間で契約が結ばれるが,書面による契約が一般的である。
 さらに,レコード会社が,例えば音楽CDを製造販売するためには,自社で原盤を作成した場合を除き,他社から原盤の提供を受けなければならないが,その際には,次のような契約(12),3),4))がおこなわれることになる。

1レコード(原盤)契約の種類 1)レコード会社原盤の契約
2)共同制作原盤譲渡契約
3)原盤独占譲渡契約
4)原盤供給契約
13は原盤権をレコード会社に帰属させるもの。
2原盤の利用範囲 複製,頒布,送信可能化等の範囲
3対価 印税方式が一般的
4契約期間
13  2〜3年間の専属契約が一般的
4  2年間の複製頒布等
5地域
13  全世界が一般的
4  日本のみが一般的
6その他 印税の対象,支払手段,アドバンスの有無等

 なお,契約の単位としては,個々の企画ごとに原盤単位で行われる単発契約(ワンショット契約),一定期間独占的にある実演家に係るレコードを発表することを定める専属契約,会社単位あるいはレーベル単位の期限付きの原盤供給契約であるレーベル契約がある。

(5)出版

 出版業界における契約については,書籍,雑誌,コミックといったジャンルごとにその態様が異なっている。

1書籍
 書籍については,出版社と著作者との間で出版物ごとに個別に出版権設定契約を結ぶのが一般的である。なお,社団法人日本書籍出版協会では契約書のひな型を作成しているが,必ずしも統一的に用いられているわけではなく,出版社ごとにそれぞれ独自の様式が用いられている。

(参考)社団法人日本書籍出版協会作成契約書のひな型の主な条項
条項 内容
第1条(出版権の設定) 契約の種類:出版権設定契約
第5条(類似著作物の出版) 類似出版物,同一書名の出版物の出版禁止
第16条(著作権使用料及び支払方法・時期) 印税方式
※印税方式と一括払方式があるが,前者が一般的
第19条(複写) 複写権の管理を出版社に委託
第20条(電子的使用) 電子媒体による発行・公衆送信について出版社に優先権を認める。具体的条件は協議。
第21条(二次的使用) 二次的使用に関する処理を出版者に委任
第26条(契約の有効期間) 契約の有効期間を定める
※アンケートでは3年とする例が最も多い
第27条(契約の自動更新) 契約の自動更新,有効期間を定める
※アンケートでは有効期間は1年とする例が最も多い

2雑誌
 一般雑誌については,継続出版の可能性が低く,出版権設定にはなじまないため,書面による出版権設定契約が結ばれることは少ない。主として学術・専門雑誌においては,執筆要項によって原稿料を含む契約内容を明示するとともに,個々の著作者への執筆依頼状を送付し,その承諾書を返送してもらうことによって,出版契約書の締結に代えている場合が多い。自然科学系のいわゆる論文誌においては,雑誌ごとに制定した投稿規定を当該誌に常時掲載し,論文の掲載条件について事前に了解することを前提に原稿を受け付けている。

3コミック
 コミックについては,近年,二次利用の増加,著作者及び出版社双方の契約意識の向上,著作権法改正による貸与権の新設等を背景に,出版契約の締結割合は高まっているといえる。ただし,出版社によっては,漫画家との専属契約を結ぶことにより個々の著作物についての出版契約書に代えているケースもある。
 コミックは,雑誌に連載された後に単行本化されるケースがほとんどであり,通常,週刊誌の3カ月分の連載で単行本1冊になる。少なくとも単行本化されてはじめて,キャラクター使用やアニメ化等の二次利用の可能性が出てくるため,契約は雑誌連載時ではなく単行本化の際に結ばれるケースが多い。契約の方式としては,単行本の全巻について包括的に行う方式と,各巻ごとに行う方式とがある。
 二次利用については,単行本化に際しての出版権設定契約では出版社に優先権を与える旨のみを定めておき,条件等の詳細は具体的な案件ごとに改めて協議するのが一般的である。

(6)演劇

 演劇公演の形態としては,主催の主体によって,劇場を有するような演劇興行事業者が行う劇場公演,劇団が行う劇団公演,企画制作事業者等が行うプロデュース公演,国や地方公共団体が主催する公演等があり,それぞれ主催者側と実演家等との間で出演契約が結ばれる。
 フリーの実演家の場合,契約が書面により行われることは少なく,口頭やスケジュール表,配役一覧(香盤表)等により契約内容を確認することがほとんどである上に,確認事項は仕事の内容及びスケジュール等が中心となっており,報酬の額や報酬の支払い方法,支払い時期等については確認されないケースも多く,契約内容が曖昧になりがちである。
 一方,劇団や事務所,プロダクション等に所属する実演家については,プロデュース公演等の際には,劇団等と主催者側で契約書を交わす例が増えてきているが,契約内容は主催者ごとに様々であり,また,主催者側から一方的に示されることが多い。
 また,舞台公演を中継やパッケージソフト化等の方法で利用することを考えた場合,例えば,舞台照明の手法が異なってくるなど,当該利用方法を予め想定した制作を行う必要があり,一部ではこれを積極的に進める劇団もあるようであるが,現在のところでは,公演の多くは二次的な利用を想定せずに行われている。このため,書面により契約が行われる場合であっても,二次的な利用やその場合の報酬の額等については,別途協議としている例が一般的である。実際,現代演劇に関わる実演家の年収に占める,著作権料及び著作隣接権料による報酬の割合は平均して0.7パーセントに過ぎないという調査もある。
 なお,その他の問題点としては,依頼日からスケジュール等の詳細が確定するまでの期間が平均して約51日間と長いという問題,舞台出演に伴うけがの補償が不十分であるという問題がある。
 芸団協では,実演家が安心して創作活動ができる環境作りの一環として,舞台公演に限らず個別契約が結ばれにくい状況にかんがみ,制作者と出演者の間で,出演契約における基本的事項(制作者・出演者の所属事務所・出演者の義務,書面契約による出演依頼,スケジュールの変更,出演料の支払日等9項目)を定めた約款(案)を関係者に提案している。

(7)コンサート事業

 コンサートには,コンサートプロモーターが内容を独自に企画する自主興行と,アーティストが所属するプロダクションの発意により行われる委託興行とがあるが,現在は委託興行が主流となっている。この場合,公演内容に関する契約については,例えばコンサートツアーの場合には,個々のコンサートプロモーターが実演家,プロダクション及びレコード会社との間でそれぞれ結ぶのではなく,制作会社が一括して行うのが通例である(ただし,自主興行であっても,コンサートプロモーターが直接に契約をするのではなく,制作会社に契約関連実務を委託するケースが多い)。
 また,コンサートに使用される楽曲等の利用許諾については,コンサートプロモーターの団体である社団法人全国コンサートツアー事業者協会とJASRAC(ジャスラック)との間で平成12年に業務協定を締結し,同協会の会員社については,コンサートごとの許諾ではなく,包括的な契約処理がされている。
 コンサートの二次的な利用として,CD,DVD等のパッケージ製作や放送が行われることがあるが,この場合には,コンサートの委託契約とは別に,その二次利用の用途別に関係者間で契約が行われることになる。

3 検討結果

 以上のとおり,いくつかの分野について,著作権等に関する契約の状況を概観してきたが,分野によって,契約システムが整備されているところとそうでないところがあることが分かる。コンテンツの流通促進が大きな課題となり,また,下請代金支払遅延等防止法の改正が行われたことを契機として,契約システムの整備が重要となってきているので,契約システムをよりよく機能させるための方策について検討を行った。

(1)書面による契約の促進

 書面による契約は当事者間の権利義務関係を明確化し,事後的なトラブルを防止する上で有効である。とりわけ著作権等に関する契約については,著作権等の帰属や著作物等の利用条件が曖昧になりやすいことから,書面による契約が特に要請されるところである。
 また,コンテンツの二次利用に関する条項を設けることについては,著作者等が管理事業者に著作権等の管理を委託している場合や,製作者団体や利用者団体と権利者団体との間で二次利用のルールが定められている場合などを除き,二次利用の円滑化を図るためにも重要な事項であると考えられる。
 著作者等及びコンテンツの製作者等においては,このような書面による契約の重要性を十分に認識し,個々の契約に際しては,必要に応じて書面による契約を行うことが望ましいと考えられる。

(2)コンテンツの製作者等と著作者等の双方が納得できる契約内容の策定

1著作者等の組織化及び団体間の協議を通じた契約条件の策定
 コンテンツの二次利用が多様化する中で,書面による契約の重要性は(1)に述べたとおりであるが,次に重要になるのが契約の内容である。契約の内容は,基本的には当事者同士の話し合いの中で決まるが,当事者の交渉力の差や契約に関する知識の差によっては,一方の当事者が不利になる場合もありうる。かつて権利者団体の中には,契約をしないと二次利用の際には著作者側に有利になるとし,所属の会員に契約をしないことを奨励していた例もみられるが,コンテンツの円滑な流通を図るためには,そのような消極的対応には問題がある。特に著作者等においては,著作権等の管理をプロダクション等に任せている場合を除いては,相対的に交渉力が弱い。このような場合,著作者等の側としては,当事者双方が納得できる契約内容を策定するために,著作者等の組織化を進め,例えばコンテンツの製作者等と権利者団体の協議を通じて一定の契約条件作りを進める方法も考えられる。その例として,放送業界の場合には,NHK・民放連と各権利者団体との間で放送番組の二次利用に関する契約システムが比較的整備されている。
 組織化のための方法としては,例えば,日脚連やシナリオ作協の例でも見られるように,中小企業等協同組合のスキームを活用して一定の契約条件を定める方策も有効であると考えられる。中小企業等協同組合法は,中小企業者等の公正な経済活動の機会を確保するため,中小企業者等が組織しうる協同組合について定める法律であるが,同法第9条の2では,組合が組合員の経済的地位を改善するための手段として団体協約の締結を行うことを認めている。団体協約の効果は組合員に対して直接に及ぶものとされており,また,団体協約に違反した契約については,その違反する部分は排除され,当然に団体協約に従って行ったものとみなされることとなっている。
 また,芸能実演家の団体である芸団協,文芸作家の団体である日文協,歌舞伎俳優の団体である社団法人日本俳優協会のように公益法人として著作者等の組織化を進め著作物等の二次利用等の契約条件に関するルール作りを行っているところもある。
 なお,これらの団体のほとんどは,著作権等管理事業法で規制されている形式かどうか(一任型か非一任型か)にかかわらず,著作権等の管理業務もあわせて行っている。

2標準的な契約内容の策定及び普及
 権利者団体やコンテンツ製作者等の団体が,著作権等に関する標準的な契約内容を含めた契約書のひな型を策定し,これを関係者間に普及させることも,個々のコンテンツ製作者等と著作者等が個別に交渉し契約条項を決めていくことに比べて,契約内容の明確化のために有効である。
 契約書のひな型については,関係者間で十分に普及した場合には,1)ひな型の契約内容が業界のルールになるという効果,2)個々の契約交渉のコストの軽減,3)将来の利用に関する条項等の契約もれの防止等の利点が考えられるほか,契約の書面化の促進にもつながることとなる。
 また,契約書を結ぶ時間的制約がある場合や業務形態が多様で契約書のひな型が機能しない分野については,標準契約約款の策定で対応することも考えられる。約款については,その利用方法として,個々の契約において,約款の内容に従った書面による契約が結ばれる場合と,当事者間で契約内容は約款に従う旨を確認するのみで書面によらない契約が行われる場合とが考えられる。前者については,契約書のひな型の機能もあわせ持つことになるが,後者については,より簡易に契約書のひな型の利点を享受できるという長所がある。
 標準的な契約内容の策定については,分野によっては,その形式も含め当事者同士に任せた方がよい場合もあるし,個々の契約ごとに柔軟に対応できるようひな型等にある程度の自由度を持たせることが必要な場合もあるので,関係団体等においては,その分野の業務形態や契約実態も見ながら取組みを進めることが望ましい。
 また,契約書のひな型等の策定にあたっては,コンテンツ製作者等の側又は著作者等の側が,一方の立場だけに都合のよいものを作成したとしても,それらが円滑に普及しなかったり,かえって紛争になることも考えられる。特に約款については,双方の立場を代表する関係団体間で十分な協議と合意形成が行われることが望まれる。
 なお,音楽出版業界においては,社団法人音楽出版社協会が作詞家・作曲家側の意見も反映した統一的な契約書のひな型を作成し,これを会員社等で用いることにより,作詞家・作曲家側の利益にも配慮した契約秩序が形成されているのは参考になろう。

(3)著作権等管理事業による著作権等の集中管理の促進

1一任型管理事業の普及による契約の円滑化
 我が国では,音楽,脚本,複写などの分野で著作権の一任型管理(使用料の決定権も含め管理事業者に管理を一任するもの)が発達してきた。また,文芸作品,レコード実演,レコードなどについても,利用形態は限定されるものの,一任型管理が行われている。例えば,音楽の場合,放送,コンサート,カラオケ等のように,特定の利用方法で大量の音楽を利用する事業の場合には,管理事業者との間で一括して利用許諾契約を結ぶことで多数の著作権者と個々に利用許諾の契約を行う手間が省けることになる。最近では,急速に1000億円規模の市場に成長した着メロ市場も著作権の集中管理の結果であり,音楽配信サービスについても,配信事業者と管理事業者との間で使用料のルールができている。また,レコード録音や出版のように,個別契約で対応可能な分野においても同様である。
 著作権等管理事業法は,著作権等の一任型管理を規制しているが,管理事業者に利用者からの許諾の求めに対する応諾義務が課せられ(第16条),また,使用料は原則として使用料規程に明示することが定められている(第13条)。したがって,利用者側から見れば一定の使用料を支払いさえすれば許諾を得られることになり,二次利用に関する契約の円滑化を図れることになる。
 最近では,映像コンテンツの流通促進が課題になっているが,映像コンテンツの場合,多数の著作権者等が関係していることから,二次利用に関する契約の円滑化を図るためには,この分野における一任型管理の推進を図る必要がある。現在,映像実演やレコードの分野において,一任型管理の取り組みが行われているところであるが,関係者の努力に期待したい。

2著作権等管理事業法に基づく使用料の設定
 管理事業者が著作権等を一任型で管理している場合は,著作権等管理事業法により使用料設定の仕組みが整っている。特に市場の独占度が高い大規模な管理事業者については,利用者団体との協議を通じて使用料を設定することになっていることから(第23条第3項),円滑な利用秩序を早期に形成するためには,必要に応じその仕組みを有効に活用する必要がある。

(4)権利者所在情報の提供

 著作物等の利用にあたっては,そもそも利用許諾契約を結ぶべき著作者等の特定に困難を伴う場合が少なくない。特に映像コンテンツについては,多数の著作者等がコンテンツの制作に関与していることから,二次利用に当っての契約は複雑にならざるを得ない。著作者等の特定を容易ならしめるためには,各権利者団体等が協力して権利の所在情報を体系的に整理し,利用者に提供することができる体制を整備することが重要である。現在,権利者団体,コンテンツの製作者団体等から構成されるデジタル時代の著作権協議会(CCD)では,各団体が権利者所在データベースを構築し,コンテンツ製作者等の問い合わせに答えるためのシステム作りに取り組んでいるところであり,同システムの早期の実現に期待したい。

(5)国内外の事例の研究

 情報技術の進展等によるコンテンツの利用方法の多様化や,国際的なコンテンツ流通の機会の拡大等を考えると,著作権等に関する契約のあり方を検討することは引き続き重要な課題である。例えば,米国等では契約システムが発達しており,コンテンツの円滑な流通が我が国以上に確保されていると言われるが,分野ごとの契約実態や著作者等の利益がどのように確保されているかなど,十分な研究が行われているとはいえない。したがって,今後の検討の基礎資料とするためにも,国内外の著作権契約の事例に関する情報を収集し,分析することが重要である。

(6)文化庁の支援等

 (1)〜(5)の課題については,原則として,著作者等やコンテンツ製作者等,またはこれらを組織する団体等で取り組むべき事項であるが,制度に関する基礎知識や関連情報等の提供,また,課題に取り組むための相談などについては,文化庁も出来る限り協力すべきである。また,関係団体間の協議等についても,必要に応じ,協議の場を提供するなど,関係団体間の円満な合意形成に向けて積極的に支援する必要がある。
 なお,著作権法では,著作権契約に関する条項としては,第63条(著作物の利用の許諾),第79条(出版権の設定)程度しかないことから,適切な著作権契約の締結を制度面で支援するという観点から,契約関係の規定の整備を進めるべきではないかとの意見があったところであり,今後の検討課題であると考えられる。



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