著作権分科会 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(第8回)議事録・配付資料

1.日時

平成19年9月27日(木曜日)16時〜18時

2.場所

フロラシオン青山 1階 「はごろも」

3.出席者

(委員)

上野、大渕、梶原、佐々木(正)、佐々木(隆)、里中、椎名、渋谷、瀬尾、津田、常世田、中山、野村、生野、三田の各委員

(文化庁)

吉田長官官房審議官,山下著作権課長 ほか関係者

4.議事次第

  1. 開会
  2. 保護期間の在り方について
  3. 各論点の意見の整理について
  4. 閉会

5.配付資料

資料1
  実演・レコード条約(WPPT)等加盟国のレコードの保護期間一覧(PDF:237KB)
資料2
  本小委員会における検討状況
参考資料1
  主な議論のポイントについて(第7回 配付資料1)
(※(第7回)議事録・配付資料へリンク)
参考資料2
  ヒアリング等で出された主な意見の整理(第7回後更新版)
参考資料3
  第7回過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会議事録
(※(第7回)議事録・配付資料へリンク)

6.議事内容

【野村主査代理】

 それでは、定刻がまいりましたので、ただいまから第8回の過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会を開催いたします。本日は御多忙の中御出席いただきまして、まことにありがとうございます。
 なお、本日も大渕主査より進行役について御依頼がありましたので、前回に引き続いて私が務めたいと思います。よろしくお願いいたします。
 また、本日の会議の公開につきましては、予定されている議事内容を見ますと、特段非公開とする必要はないと思われますので、既に傍聴者の方には入場していただいておりますが、特に御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【野村主査代理】

 それでは、本日の議事は公開ということで、傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくこととします。
 まず、事務局から配付資料の確認をお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】

 議事次第の一枚紙の下の半分に配付資料一覧がございますので、そちらと見比べながら御確認をお願いいたします。本日の資料は、A3の一枚紙ともう1点の2点でございます。それから参考資料3点をお配りしております。過不足等ございましたら、御連絡をお願いします。

【野村主査代理】

 それでは、議事に入りたいと思いますが、本日は前回に引き続きまして、保護期間の在り方についてと、それからこれまでの4つの検討課題について論点整理を行いたいと思います。
 まず保護期間に関する議論について、事務局から資料の説明をお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】

 それでは、まず参考資料1を御覧いただければと思います。こちらの資料は、前回お配りした資料とほぼ同じものでして、前回こちらの資料に基づいて御議論いただきましたが、御意見のあった部分が大分限られておりました。例えば、平均寿命のところなどの諸外国の延長理由の背景のところ、インセンティブの部分、貿易上の利害といったところに御意見が集中しまして、残りの部分についてはあまり御議論がなかったところもありましたので、そういった意味でもう一度同じ資料を配付させていただいて、残りの部分について御議論いただければと思っております。
 前回間に合わなかった資料といたしましては、3ページ目の(6)著作隣接権の保護期間に関する議論の基礎資料として、今回1点資料を御用意いたしました。そちらが資料1でございます。
 前回、著作権の保護期間についてベルヌ条約加盟国の保護期間一覧ということで、A3の同じような紙をお配りしましたが、こちらはレコードについての各国の保護期間のデータです。著作隣接権ではレコード以外にも実演や放送などがあるのですが、そこまでは調べ切れておりませんで、今回はレコードについてのみ配付させていただきました。日本レコード協会に御協力いただきましたほか、ユネスコのホームページで各国の法律を調べて補足して作った資料でございます。
 記載している国の選択方法ですが、前回の資料の中で著作隣接権の条約上の保護期間を御紹介しましたが、実演・レコード条約の中で50年という期間が最新の条約として定められておりますので、その加盟国を基本といたしまして、同じくWTO設立条約の中でも50年ということになっておりますので、その加盟国の中からデータが取りやすいものとしてレコードに関連する条約を締結している国を記載しております。
 ざっと御覧いただきますと、網かけになっているところが60年、あるいは70年以上という保護期間になっている国でして、右下に数を記載しておりますが、記載している104ヵ国のうち20ヵ国、それからWPPTの締結国の中では61ヵ国中の15ヵ国が70年以上を保護期間としているという状況になっております。地域的に見ますと、アジアではシンガポール、オマーン、トルコ、バーレーン、それから北中米、南米に関してはより広く70年になっているという状況でございます。
 情報提供でございますが、とりあえず現状としてはこんなところになっております。
 簡単ではございますが、以上でございます。

【野村主査代理】

 それでは、保護期間の在り方について御意見をいただきたいと思いますけれども、これまでの意見につきましては、参考資料2の13ページ以下に整理されておりますので、そちらも適宜あわせて御議論をお願いしたいと思います。全体として、半分ぐらいの時間をこれに充てたいと思っておりますので、どうぞ御自由に御発言をお願いします。
 椎名委員、どうぞ。

【椎名委員】

 実演家及びレコード製作者の保護期間についておまとめいただいた表が提出されましたので、今事務局の説明で触れられていなかった点につきまして少しお話をさせていただきます。レコードと著作物一般と並べられておりまして、50年、70年という表記がされておりますけれども、実演及びレコードの場合は、固定後50年ということであります。固定後50年と死後50年では大きな違いがありまして、この会議の中でも良く出てきた話ですが、実演家の場合、平均余命の長期化といいますか、長生きをするようになって、実演家がまだ存命中に権利が切れてしまうという事態が頻繁に起きているわけです。
 この部分につきましては、やはり同じ著作物に関わっているクリエーターとして、なぜそういう落差があるのかということで、以前ヒアリングの際にもお話ししましたが、例えば起算時点を死後に改めていただくとか、あるいは固定後であるにしても、平均余命の伸長に伴った、現実的な、少なくともその人が生きているうちは保護されるという形に改められるべきではないかと思います。
 こうやって表を拝見しましても、結構あるんだなというところをまた改めて感じたところでありますので、ぜひ実演家の保護期間というポイントでもお話しいただけたらありがたいと思います。
 以上です。

【野村主査代理】

 生野委員、どうぞ。

【生野委員】

 著作権と比較して、著作隣接権も、年々といいますか、強化される傾向にはあると思います。保護期間につきましても、WPPT、あるいはWTOで50年と定められ、それに伴い保護期間も国際的に延びる方向にはなっているかと思います。
 ただ、支分権といいますか、利用ごとの権利そのものについて著作権と隣接権に格差があることは事実でございます。保護期間に関して、歴史的な面というのは確かにあると思うんですが、ヒアリングでも申しましたとおり、なぜ実演家の場合は実演後、レコードの場合は発行後50年という形で、著作権者の死後50年に対して実質的な格差があるのかというところの合理的な説明といいますか、その根拠がどうしても分かりません。
 レコードに関しましては、類似したものを作るということに関しては全く権利が及ばない。要はデッドコピーのみが対象となるため新たな創作の障害にはならないということと、これもヒアリングで申したんですが、レコードを絶えず良好な状態で保存するためには、継続的に投資してデジタル化やリマスタリング等を行い、メンテナンスしていかなければいけないというところで、保護期間が延びることによるインセンティブは当然働くということがあります。
 映画が、2003年に著作権の中での格差是正ということで50年から70年に延びたわけでございますが、映画が70年に延びたのであれば、なぜレコードが50年のままでいいのか、ぜひここでいろいろ御議論、御検討いただきたいと思います。
 以上です。

【野村主査代理】

 他に御発言はいかがでしょうか。瀬尾委員、どうぞ。

【瀬尾委員】

 大分いろいろな議論が出てきて、今までと違った角度の議論が出てきたかと思うのですが、今までの保護の議論の観点というのが幾つかある程度絞られてきたのではないかなと思います。前回、最後のほうに上野委員からEUとの比較においていろいろな検討の意見が出されましたけれども、そのような意見についてもう少し議論を深めて、実際に考えていくことでより具体性が出るのはないかなと思います。
 具体的には、前回、今回も椎名委員から出ました、また、この前中山委員から孫まで守らなくていいのではという話もございました寿命との関係と、それからもう一つ、流通を阻害しないとは言い切れないということがあったEU内での統一を世界的標準にするという、それは私の意見ですけれども、そういう流通の阻害、またはサーバー発信での各国間の障壁という問題について、そういう事実とは考えられないのか、またはそういう事実があるのかどうかは非常に重要な論点になっているのではないかと思いますので、その点についてある程度意見を交換し、また、議論していくとよろしいのではないかと思います。

【野村主査代理】

 他に御発言はいかがでしょうか。三田委員、どうぞ。

【三田委員】

 現在流通しております著作権に関するコンテンツというのは、大体今作られたものがヒットするという形で流通しているわけです。ですから、相当期間たった著作物というのは、流通しているもの全体の中ではごくわずかな部分にすぎないだろうと思われます。著作権が切れましたらただで使えるわけでありますけれども、全体の中のごくわずかでありますから、著作権の保護期間を延ばすことによって利用者に生じる経済的な損失というのはごくわずかなものではないかなと思われます。
 問題となるのは、許諾をとるためのトランザクションコストなんです。レコード会社が所在不明になるというのが、映画のプロダクションと比べて多いのかどうか良く分かりませんけれども、あまりないのではないかと思われます。ただ、実演家の場合は個人でありますので、文芸著作者と同じように行方不明になる人が出てくるだろうと思います。
 しかし、このあたりはこれまでも議論してきました裁定制度の簡易化、拡大によって利用しやすい状況を作っておけば、行方不明の著作者、あるいは隣接権者を捜すためのコストは大幅に削減されるだろうと思われます。ですから、そういうものとの関連で、利用者に御不便をかけないという方向でさまざまなアイデアを出すことによって、利用者側から延ばされたら困るという声は少なくなるのではないかと思われます。
 それからもう一つは、こういう著作権、隣接権というものは、世界の中に日本という国が置かれているわけでありますので、世界の趨勢の中で日本をどう位置づけるかということを考えなければならないと思います。通常の著作権の場合は、アメリカとEUがもう70年にしているわけで、そこに日本だけが遅れているのでは困るなということなんですが、今拝見しますと、EUはまだ50年のままであるということでありますが、現在EUではこれを延ばすということについてどういう議論がなされ、なおかつ今まだ50年のままなのかということも調べて御報告いただければ、考えるヒントになるのではないかなと思われます。
 ただ、世界の中心はアメリカですので、やはりアメリカがなぜこのように長く設定されているのか、あるいは将来的にアメリカから何か圧力がかかって、延ばしなさいと言われるのでないかということも検討していく必要があるのではないかなと思います。

【野村主査代理】

 他に御発言いかがでしょうか。では中山委員、どうぞ。

【中山委員】

 まず隣接権ですけれども、実は隣接権と著作権とどう違うかというのは、期間の問題だけではない、むしろ期間の問題は一部であって、その他いろいろな点で相違があるわけです。ですから、なぜそのような差異があるのか、あるいはあってはいけないのかという議論をしなければいけないわけで、期間の問題だけを著作権と同じにするというのは少し問題があるのではないかと思います。世界的に見ても、最初は著作権でしばらくやってみて、それを隣接権に応用するかどうかという段階があると思うのです。今、一気に両方やるというのはなかなか難しいので、まず考えるのは著作権だろうと思います。
 それから次に、三田委員の、データがしっかりしていれば将来延ばしてもあまり利用に問題がないのではないかという話ですけれども、私は、それは少し楽観過ぎるのではないかと思います。裁定制度をいかに簡略にしても、結構大変なことは大変だろうと思います。それに、大体商業ベースに乗らないものですから、無料利用するから意味がある。青空文庫とか、あるいは学術誌などの復刻とか、無料でなければやらないんです。ですから、無料であるところに意味があり、簡略化しても問題は残ります。
 それにもう一つ、データがしっかりしていなければいけないのですけれども、売れない作品のひ孫のデータが果たしてあるかという問題があります。著作物は相続のときにきちんと分割して誰のものと決めていないものが大半ですから、ひ孫10人とか30人とかの共有になっているはずなんです。それを果たしてデータベース化できるか。仮にできたとしても、莫大な金がかかって全くペイしないと思います。したがって、データベースがあれば大丈夫だというけれど、多分データ自体が集まらないので、私は大丈夫ではないのではないかと思っています。
 それから、いずれアメリカから圧力があるだろうという話ですけれども、あるかもしれないけれども、あればこそ今やってはいけないのです。外交交渉というのは、カードを切ったらおしまいなんです。これは交渉の基本です。だから、圧力があるならぎりぎりまで待って、何かを相手からとってカードを切るのが当たり前なのです。韓国を見れば分かります。韓国は何で70年のカードを切ったかというと、何か得るものがあったから切ったんです。初めから切ったら、もうカードがなくなって勝負にならない。これは外交の基本です。

【野村主査代理】

 瀬尾委員どうぞ。

【瀬尾委員】

 今のデータベースの話なんですが、実は写真ではこの21日に「JPCA−グラフィカ」というコンテンツデータベースを立ち上げました。また、今後著作者データベースもいろいろな形で新しくでき、また、進化していくことと思います。それはやはり、著作者が権利所在を明らかにする、また、今ある権利所在情報をまとめていくデータベースが必要であると私自身も強く思いますし、社会的にもそのような方向に向かっていると思います。これはやっぱり、長寿化、それから国際化、またはいろいろなジャンルのメディアが増えていく中で絶対に必要なことであり、また、今後の著作物の流通にとって大変必要なことであると私も思います。
 私としては、それが延長とどうかという話は、三田委員とはまた少し違ったスタンスがございます。データベースがあればというのは別のプロジェクトであって、私は直結したくない。ただ、現状を考えたときに、先ほどから申し上げていますけれども、現時点で50年後というのは大変予測しがたい未来でございます。その中で、やはり今の目先の状態でどうであるかよりも、もっと長いスタンスでそれを考えたときに、私は70年であるべきだろうということを申し上げている。それは長い目で見たからこそ50年だという論もおありでしょう。でも、少なくとも、今までの規格とか保護とかいうことに関して、やはりこれだけ国際的な流通がある時代に、これが何らかの不利益を起こすのではないかということ、そしてまた、サーバー間での不利益というのは現実に起きているということを考えたときには、私は今やるべきではないかということで、それはそれ自体の論として申し上げたいと思います。
 ただあともう一つ、外交的なお話がございました。確かに、韓国は決してしたくなかったとこの前金委員はおっしゃっていました。したくなかったけれども米を守るために、米のほうが大事だからそうしたんだと。これはそれでよろしいかもしれませんが、私は、文化の問題と経済の問題をそのような形でバーターするということを前提にこの文化審議会で議論すべきではないと思っております。
 やはり、今後たくさんの人が使えて、作った人も喜べて、非常にコンテンツリッチな時代を迎えるべくインターネットがあるわけですよね。その中で、やはり日本に閉じ込められて非常に流通しにくかった小さなコンテンツまでが世界に回る、また、世界から入る状況にあると認識しております。その中で、この前からも議論がございましたように、それを阻害する要因がある、そしてまた特にインターネット上での阻害要因が強いということであれば、私は経済的なプラマイを考えた上でも、今70年にしておくことで未然にいろいろな問題を防げたり、また、将来の流通に資する。これで権利者も利用者もお互いが喜べる最初の前提になるのではないかと考えております。
 三田委員とはいささか動機づけとしては異なるかもしれませんけれども、そういうことを申し上げておきたいと思います。

【野村主査代理】

 椎名委員、どうぞ。

【椎名委員】

 中山先生のひ孫までというお話、ひ孫までの例はないんですが、実演家の場合も早く亡くなる方がいまして、その相続をされた方の権利をどう管理するのかということで言いますと、先ほどのひ孫までいけば何十人ということになろうかと思うんですが、お亡くなりになった方にお子さんが複数人いらっしゃるときは、その中で代表を定めていただいて、その方に権利行使をしていただくということを実演家のほうではやっています。だから、必ずしも相続した方々に権利が分散されるわけではないということをつけ加えさせていただきます。

【野村主査代理】

 中山委員、どうぞ。

【中山委員】

 そういう例があるのはもちろん当然かもしれませんけれども、今申し上げているのは、著名な巨匠とかいう人は多分、娘も息子も意識していますからちゃんと相続を分割するだろうと思います。しかし、そうではないものがたくさんあるわけでして、むしろそうではないほうが圧倒的に多いわけです。例えば、大学の過去の紀要を復刻しようというときに、70年になりますと、権利者は明治時代、大正時代の学者、あるいは寄稿した人のひ孫になるわけです。では彼らがそんなことをやっているかというと、絶対にやっていないのです。そういうときに、しかるべきもうかる巨匠だけを挙げて、そういう例があるからといってそういう制度を作るのは問題ではないかということを申し上げているわけです。
 それから、瀬尾委員の話は、私は基本的には内容はみんな賛成なのですけれども、だからなぜ50年が70年になるのかという理屈が良く分かりません。例えば、サーバー間の不利益があるからといって、それはどういう意味なのかとか。おっしゃることは内容的にはそのとおりだと思うのですけれども。

【瀬尾委員】

 特にデータベースの問題もございまして、今まではデータベース上に情報が置かれて、その情報が流通している状態だった。それから今ネットが非常に太くなりまして、コンテンツ自体がネット上で流通する。例えば音楽も当然そうですし、今ムービーになってきている。そうなったときに、当然ネット上で日本から世界に発信するということが日常化することは非常に明らかであると私は思っています。そのときに、日本では50年で切れているということで発信できます。
 そのことと、この前感じるところがあったんですけれども、パブリックドメインになったものを安く500円でDVDを売っている問題がございますよね。結局それが文化に資するとかいろいろな話があるかと思うんですけれども、やっている方たちがあれを文化的事業としてやっているかといったら、ただで仕入れて売っているのではないかなと。利益活動をしているいいネタなのではないかという、これは大変失礼なことかもしれませんけれども、私はコメントからあまり文化的な雰囲気を感じられなかった。ということは、やはりそれが安く仕入れられるもので、結果的にはそれが文化に資するのであればいいということなのか、結局は一部の利益になってしまうのではないかなということがございます。これは余談でございます。
 ただ、サーバーになって、世界中にいろいろ発信し、また、課金という問題でお金にしていく状況ができたときに、日本で切れていて外国で保護されているものがあって、それを外国でダウンロードする。そのときに、それを妨げるすべはあるのか。具体的にはないと私は思います。結局、日本で切れている。向こうでは保護されている。向こうの権利者はどう思うか。例えば、それでは日本がやめたって、50年の国はもっとたくさんあるんだから、そこにサーバーを置けばできるだろうと。それはそうですが、日本でそれを発信するのはやはりまずいということを私は一番危惧します。
 やはり、日本からきちんと同じような条件で発信して、各国でも同じような扱いをしていく。特に、前回は著作権保護の表が出ましたけれども、実際にコンテンツを供給している国のほとんどは70年の保護をしているという状況になります。数でいけば加盟国の半分にいっていないかもしれませんが、コンテンツ内容で言ったら非常に大きいと思います。ですから、そういう状況の中で、やはりインターネット社会に対応するためには、そういうルールにしないと、日本が比較的違法的な要素のある発信を行うようになってしまうのではないかというのが、私のサーバー間の問題ということでございます。

【中山委員】

 まだ理解できないのですけれども、著作権法は各国で違うんですね。ある国では合法でも、ある国では違法になる場合もあるわけで、期間だけの問題ではないのです。したがって、今おっしゃった問題は、インターネットが持っている特質であって、別に期間の特有の問題ではありません。著作権以外にもあらゆるところで生じている問題で、それは仕方ないんです。それは国際私法の問題として片づけてもらうしかないので、なぜ期間だけが問題となるのか。日本とアメリカと違うわけですよ。あるいはヨーロッパだって法律が違う。ですから、むしろ今権利が存在しているものだって齟齬が生じています。50年以上も生きている著作物はごく一部だけの話で、今も生きている著作権ですら多数違いがある。それはどうするのですか。それは目をつぶって、将来1パーセントだか2パーセントだか分からないけれども、70年生きているものだけを考えるというのは理解できないという趣旨です。

【瀬尾委員】

 おっしゃることも良く分かります。ただ、それはどうしようもないとおっしゃられてしまうとどうしようもないんですけれども、私は手のつけられるところを1つずつでも改善していくべきだと思うし、それによって一番問題が出る、または現時点出かかっているという話も聞いております。そういう問題から順に手を当てていって、そして自分一国ではできない問題については当然国際間の協調になると思います。
 ただ、インターネット全体の問題も確かにそのとおりで、もっと問題があります。けれども、やはりそれは1つずつ解決すべき問題だと思います。その最初にまず70年があるという認識で私は申し上げているということでございます。

【野村主査代理】

 それでは、佐々木委員、どうぞ。

【佐々木(隆)委員】

 今までの議論は、それぞれきちんとした理屈がありますし、もちろん50年、70年という期間だけの問題ではないんですが、ビジネスの側面から触れさせていただきますと、参考資料1「主な議論のポイントについて」の(8)のその他というところがあるわけなんですが、楽譜出版や音楽配信も含めてですけれども、現状のビジネスは50年を前提にずっと進められているわけで、そういった意味で、いきなり70年になるということは、いろいろ配慮するとしても、やはりコストアップとか権利処理リスクが増大することは間違いないわけでございまして、それを最小にするよう配慮していく仕組みや考え方が必要なのではないかと思います。
 そういった意味で、その他の1のところで、私としては現実的な手段といたしまして、50年から一気に70年にそのまま延長というよりは、例えば登録して延長していくとかいう形の考え方もあっていいのではないかと思っております。著作物を使う立場からいいますと、その情報や許諾の仕組み、または許諾するエージェントなり許諾を得る場所がどこにあるのか、どういう機関があるのかということがとても重要でございますので、やはり一律に全て延びてしまうことによって、著作者と交渉する、もしくは調べる手段がないまま延びてしまうことだけは何とか避けていただきたいということもありまして、ここではその他ということなんですが、こういった考え方もより深く議論していただく価値があるのではないかなとは思います。

【野村主査代理】

 椎名委員、どうぞ。

【椎名委員】

 中山先生がおっしゃった著作権と隣接権の関係であるとか、世界的な動きとかいうことも十分理解できます。ここで、それでも再度申し上げたいのは、やはり存命中に権利が切れてしまうということのある種の不条理さということを勘案すると、もし著作権の保護期間が延びるのであればという仮定を置いて、やはり実演家の権利の保護期間も起算点を変えるなり延長するなりということで考慮していただけないかなというのが僕の意見でございます。

【野村主査代理】

 生野委員、どうぞ。

【生野委員】

 中山先生の「著作権から考えるべきなのではないか、隣接権は後」という話になると言うことがなくなってしまうのですが、これまで隣接権者に対して与えられた権利というのは、当然のことながら権利保護と利用のバランス、あるいは著作権者との関係だとか、いろいろな議論のプロセスを経て今の支分権が創設されていると思います。
 ただ、保護期間に関しては、支分権における著作権者と隣接権者の格差は別として、ここに実質的な格差があることについて、最も根拠のない部分なのではないかなと思うわけです。アメリカの例がいいか悪いかという議論は別として、アメリカはレコードを著作物として保護していながら、他の著作物と比較して権利の弱い面がある中で、保護期間に関しては実質的に他の著作物と同じレベルの、公表後95年という形で保護しているわけです。保護期間は保護期間としてぜひこの場で著作隣接権に関してもしっかり議論していただきたいと思います。
 以上です。

【野村主査代理】

 三田委員、どうぞ。

【三田委員】

 著作権に関して、議論がかみ合わない部分があります。その根本原因は、著作者、あるいは著作物というものは大まかに分けて2つの方向性があるからです。1つは、大文豪の作品とか、森繁久彌さんとか、美空ひばりさんとか、有名な人です。死後何年、何十年、何百年たっても残っていくような人と、それから、発表後すぐに消えてしまって、経済的な利益は全く期待できないという人であります。
 経済的利益が期待できない人も、自分が生きたあかしに、あるいは御遺族にとっては自分の先祖が生きたあかしに何か作品が残っているのであれば、それがネットにアーカイブされるとか、復刻版が出るとかいう形で世に残れば嬉しいとお思いの方が大半であろうと思われます。そういう人にとっては、著作権フリーになるということは望ましいことであります。それに対して、文豪とか有名な俳優さんの場合には、著作権が切れる直前まで経済的利益があるわけでありますから、延ばして経済的利益が延長されるならばありがたいということであります。そういう全く2つの種類の著作者がいるんだということをしっかりわきまえないと、一方的に延ばすのがいいのか縮めるのがいいのかということを議論していると、かみ合わないことになってしまいます。
 先ほど登録制度にしたらどうかという御意見が出ましたけれども、これはある意味で合理的な考え方でありまして、要するに経済的利益が期待できないから著作権フリーにしたいという人は登録しなければいいわけで、経済的利益のある人は登録すればいいということであります。
 登録制の御意見の方の中には、特許権と同じように高い登録料を払わせたら、経済的利益のある人しか登録しないだろうという御意見もあるんですけれども、そこまでいくと著作権の精神に反しますので、私が提案しているのは、データベースを作りまして、経済的権利をまだ欲しいという人はデータベースにしっかりと出して、出さない人は経済的権利も放棄したし、むしろ著作権フリーを望んでいるんだなということで自由に利用できる形にするのが一番、どちらも利益を得る状態ではないかなと思います。ただ、経済的利益がなくても、これだけは出してもらっては困るという人もいるわけです。ですから、そういう人はデータベースに登録するということで意思表示をしていただく。
 これだけのことをやれば、全てのものが円滑に利用できるようになるのではないかなと考えます。

【野村主査代理】

 椎名委員、どうぞ。

【椎名委員】

 すみません、あと、今言い忘れていたことをつけ加えたいんですが、実演家の権利の保護期間を延ばすというときに、著作物の保護期間を延ばしたときの弊害として語られていたことで、例えば、他の著作物を作る上での阻害要因となり得るとかいうことや、相続した子孫が著作者の思いをちゃんと継承しているかどうか云々ということなど、著作物の保護期間を延ばすことに関するネガティブな要因として語られていたことのいくつかは、実演家の権利を延ばすところには当たらないと思うんです。
 例えば森繁久彌さんの権利が明日で切れてしまう、まだ続くということの違いが他の実演の登場に何らかのネガティブな要因になるかというと、そうはならないだろうと。ただし、不明権利者の存在とか、それらの処理にコストがかかるとかいう問題は確かにあると思いますが、著作物の保護期間を延ばすことに対するネガティブ要因として語られていたところのかなりの部分が実演の場合は当てはまらないのではないかと思います。その点も考慮していただけるとありがたいと思います。

【野村主査代理】

 中山委員、どうぞ。

【中山委員】

 先ほど三田委員がおっしゃった文豪、巨匠、名優が一方でいて、一方では名もない著作者がいるというのはそのとおりで、実は真ん中にたくさんいるんですけれども、大きく分ければ2ついるといってよいでしょう。ただ、私は理解できないのは、十分もうかっている文豪、巨匠、名優がなぜそれ以上もうけなけらばいけないのかという。私はそれ以上もうけさせる必要はないのではないかと思います。むしろ一般にその情報を、情報というのは著作物ですけれども、広く使わしめるということで、文豪、巨匠のひ孫をこれ以上もうけさせる理由が私には全く理解できないということです。
 ちなみにアメリカでは、御存じのとおりあの延長法はミッキーマウス法と言われており、ミッキーマウスが十分もうかっているんだけれども、よりもうけるために改正したと俗に言われているということです。

【野村主査代理】

 瀬尾委員、どうぞ。

【瀬尾委員】

 今のもうける、もうけないの話なんですけれども、端的に言ってしまうと50年か70年したときでも流通価値のあるものと、それからそのときにあまり流通価値のないものという言い方もできるのかもしれない。
 ただ私は、作品自体を、例えばそのとき売れたからとか売れないからとか、経済的価値があるからないからで分けるということにはちょっとどうかなという気持ちがあります。著作物は人の表現であり、全部平等に扱われるべきだし、それによってもうかったかもうからないかというのは、時代とか経済とか他の要因で決まることだと思います。ですので、私自体は経済的にもうかるから残す、もうからないからどうのという議論ではない。
 今中山先生が言われたような、それを2つに分けて考えてもうけ過ぎではないかというお話もあるかもしれませんが、どれだけもうかったかを基準にとか経済的な物差しで著作権の保護とか扱いを考えていくという方向は私は違うなと思っています。もっと文化の、日本がどういうものを作って、どう蓄積していくかの話で、例えば売れたら大事なのか、売れないものは大事ではないのかという価値基準で著作物を語るべきではないという気持ちを私は持っておりますので、私は、今回のもうかったからもういいのではないかとか、もうからないからパブリックドメインにするとかいう議論ではなくて、全て守られるべき、全て大事にされるべきであるだろうと思います。100年後に評価されるものがあればパブリックドメインになっているかもしれませんけれども、文化として、売れた、売れないという結果ではなく、全ての著作物に均等に今回の議論をするべきではないかと思います。

【野村主査代理】

 それでは、野原委員、どうぞ。

【野原委員】

 前回欠席していまして、この場で今何を議論するのかなと思いながらずっと伺っていたんですけれども、私自身は、中山委員がずっとおっしゃられている意見に大筋では賛成です。この資料にもあちこちに書いてありますけれども、一度延長すると短縮が困難な制度であるというのに、そんな簡単に延ばすというのはどうなんだろうと疑問に感じるということ。
 そして、仮に著作権の保護期間を延長する場合には、「利用の円滑化を図るための方策が十分措置されるべき」とずっと冒頭に書かれているにも関わらず、その方策が具体的に見えてこない。死後50年である保護期間を70年に延長するということは、今から50年ないし70年前に亡くなった方々の作品のボーダーラインが一挙に変わってくるわけで、そういう作品群の充実したデータベースが近々のうちにぼんとできあがるというのが全くイメージできなくて、そこをどうするかという議論のないままに、精神論でこうすべき、ああすべきという議論をここでして、それで諮問ということになるのだろうかと感じています。
 だからというわけではないですけれども、私は個人的には、利用者の立場から見て利用の円滑化を図るということが非常に重要だと思っていまして、そのことがいろいろな意味での文化の発展にも資すると思うんですね。そういう意味で、保護期間を延長しないことが最大の利用円滑化方策であるという意見を今までにもおっしゃっている方がいらっしゃいますけれども、私もそう思います。
 ということで、それぞれが意思表明をしているように感じる部分がありますので、私は延長には基本的には反対で、今のように思うからですということを申し上げたいと思います。

【野村主査代理】

 先に、里中委員どうぞ。

【里中委員】

 2点ありまして、今、データベース化するということがまるで条件みたいに語られていますが、実は、現に生きている著作者のものも著作隣接権を持っている会社のものも、全ての著作物が円滑かつ簡単にどこからでも連絡がとれるような形にデータベース化を速やかに構築するということは、延長するかしないかと関係なくやるべきだと思います。現在でも、生きているからそのうち連絡がとれるだろうと思いながら、実はなかなかとれないという方も多いんですよね。つぶれた出版社もたくさんあったり、当時の担当者がいないから分からないとか、いろいろありますので、実際にそういうケースで、本来だったら出版されるべきものが出版されないままいたずらに年月が過ぎるということはたくさんありますし、また、変なケースですが、著作者ではない人が著作権者のように振る舞って、本来持ってもいない権利を行使するというケースもあるわけです。
 ですから、いろいろな意味で、誰が著作権者かということをはっきりさせるために各分野とも頑張ってデータベースを作っていく。これは国が、受け入れ先機関がどこであるか、いろいろな形で名前からでも作品名からでもアクセスできるようにしておくというのが企業努力でもあるし、個人の努力でもあるということで、延びようが延びまいがこれはやるべきだし、やることに関して、やっぱりそれなりの国のバックアップも欲しいなと切に願っております。これは全ての著作物に対してそうだと思います。海外から、この作品を何とかしたいが、もうどうすれば著作者に行き当たるか分からないという話もたくさんありますので、今市場は世界規模で広がっておりますので、ぜひそのことは、仮にこのまま50年というままで終わってしまったとしても、ぜひ頑張ってやっていただきたいということです。
 あと、私も個人的にも70年に延ばしたいなと思うのは、先ほどおっしゃったミッキーマウスの件もあるんですけれども、好意的に見過ぎかもしれませんが、私は、あれは決してもうけたいがために延ばしているとは思えないんですね。それ以外の側面がある。切れてしまった場合どうなるか。近々の例では、皆さん良く御存じのように、ある国のある遊園地でいろいろなキャラクターが跋扈しておりました。オリジナルとは比べものにならない下品な造形でうろうろしております。ああいうことがたまらなく嫌なんです。
 我が国の、作者が皆さん平均寿命までいかなくてお亡くなりになっていらっしゃる方の有名キャラクターも、あのような形であとしばらくするといろいろなところで下品な振る舞いをするかと思うと、これは日本人としてもすごく悲しいのです。50年というのはあっという間です。作品の命の長さというのは今、かつてとは比べものにならないほど長くなっております。
 ですから、そういうこともあって、これはきっとプライドの問題ではないかと思うんです。アメリカの場合は、政治的な力もあって、国がああいう海賊版対策にも本腰を入れて相手方の政府に物申すみたいなことをやっております。これも決してお金だけの話ではなくて、きっとプライドの問題なのだと。それは真っ当なキャラクターを流通させたいという願いと、あなたたちが勝手に作っているそっくりなキャラクターよりも、オリジナルのほうがもっとすばらしいんだという自信に裏打ちされた行為だと思うんです。
 ですから、延ばしたいというのはひとえにそういう部分であって、瀬尾委員がおっしゃっている、主に著作物を出している国が70年になっていて、日本が50年でなぜ不都合かというと、やはり、あの国は何かずるいことをしていると思われたくないというのもあります。それもプライドです。
 ですから、あまり論理的な言い方でなくて申しわけないんですけれども、はっきり申し上げて50年が70年になったからといって経済的利益を受けられる著作者がどれほどいるかというと、ほとんどいないに等しいと思います。本当に数えるほどしかいないと思います。でも、その数えるほどのわずかな著作者が、これまで死後著作権料が入ることによって記念館を守ってこられた。それだけの大物というのはそれだけの文化的価値のある人で、そういう方の作品が散逸しなくて済んだというのは、著作権料が入るからであるということも頭に入れて考えたいなと思っております。
 でも、結局この委員会で話していることはどちらも本当に、聞いていますと全部うなずきたくなるような言い分がありまして、堂々めぐりで時間が過ぎてしまうので、この辺で具体的に何かいい落としどころといいますか、誰もが納得できる案はないかもしれませんが、少し前から語られております、50年と70年の間にこれまでとは違う方式で何か入れていくとかいう形でしばらく推移を見守るのもいいかと思います。つまり、登録した人だけ70年に延ばすとか、それによって得た利益の一部は何らかの形で還元していただくとか、いろいろなことで利用者の納得もいただきながら、具体的な、みんなが利用しやすい形を積極的に考えるのが、今みんなでどつぼにはまってしまっている、どちらも言い分があるというところの突破口になるかなと感じております。

【野村主査代理】

 それでは、瀬尾委員。

【瀬尾委員】

 まず最初に、今里中委員がおっしゃった部分と、あとそれから先ほど三田委員がおっしゃった部分でございますけれども、ボランタリーな登録制度という部分も語られているように思いますが、私は、著作権というのは登録せずに存続するというものであるべきだと思います。
 というのは、例えば生涯に50作品から100作品、200作品、1,000作品作る方なら登録できます。もっと小さいものをたくさん作るグラフィックデザインや写真はどうしますか。1万点、2万点、3万点、5万点、10万点全部登録できないんです。そうすると、登録できないからそれはなしと。著作物というのはいろいろな種類があり、いろいろな形態になっていますから、意外と、全ての著作物に当てはまるような奇手妙案というのはなかなかないのではないかと思います。この著作権法というのは非常に考えられた上にできていると私は思います。ですので、登録ということに関しては、私は現時点でないほうがよろしいと思っております。
 ただ、もう一つ、野原委員にお伺いしたいのですが、やはりこういうものは当然利用者の立場で考えなければいけないと思います。ただ、先ほど言った、例えば国際間で日本が海賊版的なものを発信してしまったり、それによって海外からいろいろなものが入ってこなくなったり、貿易障壁のようになったときに、結局たくさんのコンテンツをできるだけ自分の好きな中で利用できるというのは、私は利用者の利益だと思っているんですね。それに対して、例えば50年から70年に延長したマイナス等を勘案した場合は、50年のときにコンテンツが限られてきたり、それによって何かの障壁ができてしまうほうが、利用者にとってマイナスなのではないかなと私は実は思っているんです。その点についてどうお考えかお伺いしたいなと思います。

【野村主査代理】

 それでは野原委員、よろしいですか。

【野原委員】

 今回は保護期間延長についてということで議論していると思っていますので、決して日本の著作権の制度が無法地帯とは全く思っておりませんし、ちゃんとベルヌ条約に沿って著作権の制度はできているわけで、そういう意味で今のままでいいのではないですかということですね。
 50年から70年になることによって不利益があるかどうかという意味では、著作権の利用許諾を得るためにいろいろな困難が出るということが冒頭にもたくさん書いてあるわけですよね。そういう困難を追加される必要はないのではないのと思うということです。

【瀬尾委員】

 質問の意味がちょっと伝わっていないようですのでもう一度申し上げます。日本で50年で切れたものを、例えば日本のサーバーで配信すると、世界中で受信できますよね。そうすると、日本で50年で切れている。でも相手国では70年で切れていない。でも日本からのダウンロードだったらダウンロードさせられてしまう。
 例えばEUが統一したときもそうなんですけれども、それによってやっぱり不具合が起きるし、例えばCDの輸出とかいうコンテンツのもの自体もそうだし、そういうものの流通が阻害されるという理由があってEUは統一したという前提があって、それが日本に当てはまるかどうかを、実は前回いろいろ議論したんですけれども、その中で、物流とか流通に対する阻害に関しては、やはりないとは言えないということになっていると思います。ただ、そういうことによって、結局はその国の人間が得られるコンテンツに制約が加わる可能性があるんですね。要するに、自分の国に入ってこない、あそこの国は50年だからあそこの国には出さないとかいう止め方が実際にEUのときにあった。

【野原委員】

 既にあるんですか。

【瀬尾委員】

 EUの中でそういう議論があったという話ですね。

【野原委員】

 議論があったんですか。そこは実際は良く分からないですよね。

【瀬尾委員】

 具体的なEUの話について、そういう阻害があったということです。

【野原委員】

 その前に、多分質問の意図はこうではないかと思うのは、日本が保護期間50年で、欧米が70年であるという差があることによって、だから日本では死後50年たった著作物は著作権フリーで販売することができます。だけれども、それは欧米から見ればまだ著作権フリーではない状態が起こるということですよね。それはやはり起こりますよね。それは日本人にとっては違法ではないので、日本語のサイトで日本でダウンロードできるようにするのは別に問題はない。

【瀬尾委員】

 でも、それは外国でもできでしまうわけですよね。

【野原委員】

 そうですね。

【瀬尾委員】

 私はそれがいいとは思わないのです。

【野原委員】

 でも、インターネットの流通というのは、そういう意味ではまだ非常に流動的というか、各国の違う法制度を乗り越えていろいろな流通が起こっているというのはもちろん言うまでもなく御存じのとおりで、例えばCDが、日本盤であれば3,000円するものが、海外輸入盤だと1,980円で買えるとかいうことは既にもう起こっていますよね。そのように、今は各国ごとの法制度の中である社会においてインターネットのようなものが出れば、確かにそういう、全体から見れば小さいと言うとしかられるかもしれませんけれども、もちろんいろいろな差異は出てくるとは思うんですね。
 けれども、そういう差異の中で50年と70年の差異がとても重要な差異かという質問で私は受けとめたんですけれども、そうではないと思っていて、確かにいろいろ問題は出てくるでしょうし、今ももちろんあると思うので、それは優先順位をつけて解決していくべきだと思うし、国際的な法で解決していくべきことだと思っていて、私は日本の著作権制度をどうするか、著作権の保護期間を50年なのか70年なのかにするときの決定要因としてそれが出てくるというのは理解できません。

【瀬尾委員】

 クロスしてしまってすみません。
 ということはやはり、例えばそういう障害とかいろいろなことがありますよね。先ほど中山委員もおっしゃられたように、いろいろな違いがあってその中でやっているんだと。例えばそういう障害とかいろいろなことが多少あったとしても、優先順位としてここで決めることではないし、やはり国際間で決めるべきであって、今の優先順位は低いということで、50年のままでいいのではないかというご意見ですね。
 私が申し上げたのは、その優先順位が私なんかは高いと思っているので、イエスと言っているだけで、低ければ当然そうなるかと思うんですけれども、その辺の理由というのをお伺いしたかったのです。質問がしつこくなってしまって申しわけありません。

【野村主査代理】

 最後に、津田委員、どうぞ。

【津田委員】

 今の瀬尾委員のお話を伺っていて、優先順位の話かなと思いつつも、ぼくは少し違うかなというのが1つあって、日本で50年で切れて、海外では切れなくてインターネットでは流通されるというところでは、僕もそういうことは生じるだろうなと思うんですけれども、現実的にそれは障害になるかといえば、ならないと思うんですよ。
 それはどういうことかというと、要するにこの議論はやっぱりコンテンツビジネス、商業著作物というところで考えると、マーケットとして価値があるかということと、そのコンテンツはコンテンツとして価値を持つかということはまったく別の話であって、例えばでは日本というのは、音楽という市場に限定すれば世界で第2位の市場があって、当然洋楽というのも入ってきているわけですよね。
 コンテンツビジネスを行う側からしてみたら、自分たちのコンテンツを買ってくれる人たちがいて、そこに十分大きな市場があるのであれば、それは50年とか70年とか関係せずに、まず現状の2年、3年とか5年とかのすごく短いスパンでの利益を得るためにそれを輸出していくわけですから、それは単純に50年、70年の話で、あそこの国は50年で切れるからコンテンツを輸出するのはやめようということはないと思います。、実際今日本のコンテンツで輸出して力を持っているのは、漫画、アニメ、ゲームとかがありますけれども、保護期間が短い国にもやっぱり出しているわけですよね。50年の国にも現実に出しているわけで、それはマーケットがあるかないかの話だと思うんです。
 日本の音楽というのはほとんど輸出されていませんが、例えば今日本のJ−POPとかビジュアル系と言われるような音楽というのは、実は北欧とかフィンランドではすごくニーズが高まっていて、人気が出ている。ところで、フィンランドというのは神奈川県ぐらいの住民しかいないわけです。人気があっても全くマーケットとして成立しないとなったらそこに打って出ていくことはできない。
 ところがコンテンツとして今世界中で通用する価値がある漫画とかアニメというのは、ちゃんとマーケットとしても成立するアメリカには出していっているわけですよね。出していくか出していかないかというのは、ビジネスを行う側からしてみたら、単にマーケットとして価値があるか、市場がどれだけの規模があるのかという判断で出していくだけであって、そこに50年70年のというのが入ってくるのは、僕は少しおかしいのではないかなという気がします。
 というのがまず言いたいことの1点と、私は最後なので、前回、問題提起として一応、この資料の15ページのbのところにある、「世界の趨勢に合わせる」ということであれば、ベルヌ条約で一応統一されていて、70年にしないと、瀬尾さんがおっしゃるような何らかの弊害があるのではないかというので、国際調和が必要だということは、確かに視点としては重要だと思うんですが、それであれば、やはりまずWIPOのほうで十分な議論を尽くした後で、統一的な保護期間を決めてやりましょうかということが筋ではないのかということを僕は質問したつもりだったんですが、それに対する回答が要望される方からなかったので、御回答いただきたいと思います。
 以上です。

【野村主査代理】

 それでは、今の件についてどなたか御発言はございますか。
 特にないということでしたら、保護期間については以上にしまして、次に、これまで議論してきた4つの課題について論点を整理するということで、最初に事務局から資料について御説明をお願いしたいと思います。

【黒沼著作権調査官】

 それでは、今の御議論の中でも既に言及があった資料でございますが、資料2を御覧いただければと思います。こちらは、今回のメインとして、論点を整理するということで用意を試みた資料ではあるのですが、いろいろな意見が多く出ていた部分もあり、それほど一致している部分が多いわけでもなかったので、参考資料2が今まで出てきた意見を列挙しただけの資料となっていますが、実質的にそれを読みやすくまとめたという性格のものになっております。そういった形ですので、参考資料2と構成を変えた部分を中心に御説明させていただきます。
 まず目次ですが、最初に「はじめに」をつけ加えさせていただきました。これは、検討を始めた経緯について記述したということの他に、検討課題ごとの関係について冒頭でまとめて記述したほうがいいのではないかということで、こちらに持ってきたものです。参考資料2では、例えば「利用の円滑化方策について」の部分で保護期間問題との関係はどうかとか、アーカイブのところでも同じような議論が出てきたりといったことがありましたので、そういった部分をまとめて冒頭に記述させていただきました。
 「1.過去の著作物等の利用の円滑化方策について」は、基本的に参考資料2と構成は変えておりませんが、参考資料2では(6)「その他の利用円滑化制度の提案」となっていたところについて、順番を入れかえまして、(4)の「権利者所在不明の裁定制度の改善等」の中でまとめております。
 その他構成を変えたところとしましては、「3.保護期間の在り方について」の柱立てを多少変えておりまして、「検討に当たって考慮すべき視点」というところに幾つか視点の御提示がありましたが、それに応じた柱立てに変えました。(2)「保護期間の国際調和の観点」、(3)「諸外国の保護期間延長の背景との関係」としております。それから(4)以下はいろいろありましたが、「著作物の創造サイクルに与える影響」という部分は、文化の発展へ寄与するかどうかというところの中で記述する形に改めさせていただいております。そういった形で若干構成をいじっております。
 こちらの資料は、先ほどから具体策が全く示されていないという御指摘もありましたけれども、次回以降そういった具体策を御議論いただくときの検討の柱立てにお使いいただければと思っておりまして、そういった観点からもこういう柱立てでいいのかどうか御指摘をいただければと思います。
 それから、中身に入りますけれども、中身もほとんど参考資料2で列挙されている意見を観点ごとのまとまりにまとめたものですが、その他若干事実関係について加筆した部分などがあります。その他中身は今までとほぼ変わっておりません。
 先ほど構成を変えたところだけ若干補足して説明させていただきますと、例えば22ページの「著作物の創造サイクルに与える影響」というところですが、参考資料2ですと、文化の発展に寄与するかどうかという観点の他に、二次創作に支障があるかどうかや、さまざまな場所に同様の観点からの意見がばらまかれていたのですが、まず、創作の土台となる文化遺産について、その文化遺産の保存の仕組みを確保する観点からどうか、それから、それに触れる機会を確保する観点、それから先のそれを土台として行われる創作に与える影響の観点、創作活動に対して行われる支援を確保する観点、社会全体の創作に対する姿勢や考え方への影響の観点。こういった観点で創造サイクルの順に並べてまとめさせていただきました。そういった点で大きく構成が変わっております。
 資料については以上ですが、先ほどの津田委員の御質問の15ページの部分で、事務局からお答えすべきかどうか分かりませんが、まずWIPOで議論すべきではないかという点に関しまして、WIPOの議論の状況を御紹介いたします。前回、条約の保護期間の規定について御説明いたしましたが、基本的に今の条約は最低基準を何年とするかという定め方になっておりますので、仮にWIPOで議論がされるとすれば、最低基準を70年にするかどうかという形の議論にならざるを得ないと思っております。そういった意味では、標準を70年と考えるかどうかというよりは、もう一歩先に進んだ議論をするときにしか、おそらくWIPOは出てこないだろうと思います。ただ、現状といたしましては、ストックホルムでのベルヌ条約の改正会議の際には、ドイツから保護期間の延長問題について議論すべきだという提案がありまして、それが引き続き議論されるべきだという勧告という形で採択がされております。
 以上でございます。

【野村主査代理】

 どうもありがとうございました。それでは、次回以降この資料をもとに具体の制度設計についての議論をしていくということになろうかと思いますが、本日の段階で、資料2の構成と内容両方について、追加、あるいは修正について御発言がございましたらお願いします。
 佐々木委員、どうぞ。

【佐々木(正)委員】

 保護期間のことでもよろしいでしょうか。

【野村主査代理】

 どうぞ。

【佐々木(正)委員】

 保護期間の問題も、おそらく基本的には著作権法の目的に則して考える必要があるのだろうと思っていまして、著作権法自体は「著作物の公正な使用に留意しつつ、著作者の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与する」ということになっているわけですが、例えば著作物の公正な利用という場合に、著作物そのものを利用するケースがあれば、その著作物をもとにして二次的著作物を作ったりするようなケースもあるわけですけれども、それらはいずれについても、その利用の円滑化を図っていくというのは極めて大事で、保護期間が50年であろうと、あるいは70年であろうと変わらないんですね。それから、例えば著作者の権利を保護するという場合、50年ではだめで70年ならいいのはなぜなのかということは、一概に言い切れない問題があるんだろうと思うんです。
 そうすると、保護期間の問題を論ずるに当たっては、死後50年と定めた時点と、それから現時点で何が変わったのかということがおそらく一番大きなポイントになるんだろうと思っていまして、その際おそらく、国際化が進んだとか、あるいはネット利用等著作物の利用方法が非常に多様化したとか、あるいは寿命がどうのということが良く言われるわけですが、そういった事柄が保護期間を延長しなければ解決しない事柄なのか、あるいは延長することによってよりよき解決になるのかということについて少しきちんと論じていかないといけないのではないかと思っております。
 いずれにしても、論点整理については丁寧にまとめていただいたとは思いますけれども、状況変化というものにどう著作権法制度が応じていくのかということについてもう少し整理する必要があるのかなと思っております。

【野村主査代理】

 他に御発言はいかがでしょうか。上野委員、どうぞ。

【上野委員】

 もしかすると、すでにこの報告書案に含まれているかも知れませんし、含めるにしてもどの部分に含めるべきか分かりませんが、権利制限規定の見直しという論点も含まれていいのではないかと思います。
 と申しますのも、保護期間の延長問題をめぐりましては、表現の自由を確保すべきだとか、二次創作やパロディの自由を確保すべきだとか、そういったことが主張されてきたところです。確かに、著作権の存続期間が延長されますと、著作権による自由の制約というものが時間的に延びることになりますので、他人の著作物を利用したそうした活動がそれだけ制約されるというのはそのとおりであります。
 ただ、そういった表現の自由や公正な利用の確保というものは、本来、保護期間それ自体の問題ではなくて、著作権の存在自体の問題ではないかと思います。確かに、保護期間が延長されますと、時間的に20年分、そうした自由に対する影響が変わってくるわけですけれども、それは程度問題であろうと思います。
 というのも、著作権の存続期間というのは、現行法でも著作者の死後50年ということでありますから、著作物の創作時から計算いたしますと、100年近く著作権が存続する例が現状においてもあるわけであります。
 もし著作権による自由の制約が過剰だというのであれば、それは、保護期間が死後50年であろうと死後30年であろうと存在するはずの問題ではないかと思います。
 したがって、保護期間延長の可否について論じるのはもちろん重要ですけれども、もし二次創作やパロディの自由を確保する必要があるのだというのであれば、むしろ著作権存続期間中の自由を確保することにつとめた方がずっとメリットは大きいのではないかと思います。その意味では、仮に保護期間を延長するということになっても、その代わりといっては何ですが、権利制限規定として何らかの規定を設けるということを検討していいのではないかと思います。
 このことは、わたくし初回の会合でも発言したのですが、権利制限規定の見直しというものがこの小委員会のアジェンダに入りうるのかどうか分からなかったので、これまであまり述べてこなかったのですけれども、すでに裁定制度の見直しなども報告書案の論点に挙がっているわけですから、それなら権利制限規定の見直しというのも論点として含まれていいのではないかと思います。
 その上で、実際に権利制限規定を見直すということになりますと、具体的にはもちろんいろいろな方法が考えられると思います。例えば、パロディとか、二次創作とか、あるいは非営利無料のアーカイブというものについて、もし本当に社会的意義があるというのであれば、それについて権利を制限する個別規定を新たに追加することが検討されてもいいのではないかと思います。さらに、個別規定だけではカヴァーできない場合について、「フェアユース」と呼ぶと抵抗があるかも知れませんが、何らかの一般条項を権利制限規定として設けることを検討してもいいのではないかと考えております。
 このように考えてまいりますと、著作権が「強すぎる」ということと「長すぎる」ということは、厳密に言うと、同じはでないのではないかと思うわけであります。
 そして、現実的な観点からすれば、著作権が強くなりすぎないようにすることによって自由を確保したいと考える者にとりましては、保護期間の延長とセットにして権利制限規定の見直しを実現するという選択肢もあるのではないかと考えられます。その意味では、もしかすると、いまはフェアユース的な一般条項を権利制限規定として導入する千載一遇のチャンスかもしれないとさえ考えています。
 もちろん、何らかの個別規定を設けるためには、そもそも論として、パロディや二次創作などといった一定の行為を結論として許容すべきであるというコンセンサスが必要であります。現時点でわたくし自身がそうした行為を許容すべきと主張しているわけでは必ずしもないのですが、少なくとも論点としては、権利制限規定の見直しという問題も検討の対象として含まれていいのではないかと考える次第でございます。

【野村主査代理】

 他にいかがでしょうか。瀬尾委員、どうぞ。

【瀬尾委員】

 今の上野委員のお話なんですけれども、例えばフェアユース規定とかいう話というのは、基本的にまた違った次元の話。例えば今日本に多くの権利制限がございまして、実際にいろいろな権利制限を受けつつ、かついろいろな主張もさせていただきつつ権利者はやっていると思っております。
 ただ、今のフェアユースとか、何々するんだからとかいう、セットとかバーターという話の持っていき方、例えば権利を強くするんだからどこか引っ込めなとかいう話ではなくて、延ばすべきなのか延ばすべきではないのかという議論を私はしていただきたいなと思っています。何かを出すんだからこれは引っ込めないとというのは非常に政治的で分かりやすいんですし、また、そういう論があるのも分かります。先ほどの登録制も、折衷案としては、例えばボランタリーな登録で真ん中で落としどころかなという論もあることも私も分かりますし、その合理性も一部私は認めるところではありますけれども、私としては全く違う話を議論するとしたら、また違った視点と議論が必要になるのではないかと思いますので、比較的そういう書きぶりで、例えば延長を検討するためにはそこで権利者にプラスを与えるんだから、他で我慢してもらうマイナスをと。プラマイを相殺しましょうとかいう議論ではないと私自身は思っていますので、権利制限に関して併記していくということに関しては私は反対です。

【野村主査代理】

 津田委員、どうぞ。

【津田委員】

 僕は、今の上野委員の御発言に基本的に賛成というか、そういった視点でのこの議論もあったほうがいいのかなとは思います。
 ただ、この委員会で賛成されている権利者の方々の御発言を見ていると、どちらかというと70年に延長するときの根拠というか、要望するモチベーションの1つとして、自分が作った作品を勝手に使われないためにということをおっしゃっている方が多かったので、そう考えると、いわゆる二次創作、パロディー条項みたいな権利制限規定を入れていくのとは真っ向から対立してしまうのかなと思いました。
 そういう意味で、それがどれだけ現実的なのかなというのがありつつも、インターネット時代になっているときに、いろいろな二次創作のマーケットや二次創作したいというモチベーションというのも出てきているわけで、ある程度そういったものに対して考えなければならないでしょうし、これはあえて「過去の著作物等の保護と利用」という大きな話題を扱う委員会になっているので、そういうのもぜひ議題に含めて考えるといいのではないかと思いました。
 以上です。

【野村主査代理】

 では中山委員、どうぞ。

【中山委員】

 私も基本的には上野委員がおっしゃっていることは正しいと思います。これは特許であろうが著作権であろうが、権利の強さというのは権利の幅掛ける長さの積になってくるわけです。権利というものは、強過ぎると弊害が生ずるということは明らかですので、場合によっては長さを伸ばすならば幅を制限するという考え方は、私は十分成り立ち得るだろうと思います。
 ただ、権利の制限規定となりますと、今50年以上寿命がもつのは1パーセントかどうか知りませんがごくわずかなので、それに対して制限規定というのは全部にかかってきます。話が非常に大きくなり過ぎて、むしろ法制問題小委員会でやるべき議論だろうと思うのです。ですから、考え方としては大いに成り立ち得ると思いますが、この場で議論するには大き過ぎるのではないかなという感じはします。

【野村主査代理】

 他に御発言はいかがでしょうか。

【三田委員】

 今は何を議論しているのでしょうか。この資料についてですか。

【野村主査代理】

 資料2の構成と、それからこの中身ということで、この中に保護期間の話も入っています。

【三田委員】

 結局、次回から何をするのかということを説明していただきたいと思います。この資料をもとにして何かするのですかということです。

【野村主査代理】

 では、事務局のほうからお願いします。

【黒沼著作権調査官】

 今までの小委員会の流れは、とりあえず最初にヒアリングをやりまして、どういう課題について検討すべきかということで御意見をいろいろ出していただいて、それに基づきまして各課題ごとに一通りのフリートーキングをしてきたという状況になっています。今回はフリートーキングの小括でして、次回以降は、この項目に沿いまして、具体的に利用円滑化策といってどういうものが実現可能なのかといった具体策の議論に入っていくという形になろうかと思っております。今回は、それに向けての土台づくりという形で捉えていただければと思っております。

【野村主査代理】

 では三田委員、どうぞ。

【三田委員】

 先ほど上野委員が言われたことは、私も一部賛成であります。著作権というものは、場合によっては強過ぎると感じられる部分がないわけではないと思います。ただ、ここにいらっしゃるメンバーの中で、そもそも著作権はないほうがいいというお考えの方もいらっしゃいますので、その人の見方からすれば、どんな権利でも強過ぎるということになってしまうだろうと思います。そこまではいきませんけれども、場合によっては利用者の利用を阻害する部分があるのではないかなと思います。
 著作権というのは非常に強い権利でありますので、今なぜ延長問題が議論されるのかというと、権利が強いから今50年で切れるということが大変利用者にとってはありがたいことだから、これを70年にするのはとんでもないということになるわけです。ですから、その強過ぎる権利について改めて、これは本当にこのままにしておいていいのかという議論をちゃんとやるということは必要なことでないかなと。そういうことをしないでいきなり50年を70年に延ばすと言うと、利用者の方はみんな反対するということで、いつまでたっても先へ進まない部分があります。
 ただし、これまでのヒアリングを聞いていて、こういうことをやっていけば現行の利用者の中で50年が70年になっても何とかやっていけるのではないかいうプランをこちらから出しているわけです。ですから、それについて実際にうまくいくかどうかということはシミュレーションをしないといけないわけですけれども、ある部分は文化庁さんがそれをどれだけ支援していただけるかということにもなってくると思いますので、文化庁さんが、例えば裁定制度の簡略化なんてできないと言われたらそれで終わってしまうわけです。ですから、これからは文化庁さんの御意見も出していっていただきたいなと。そうでないと話がそこまで進んでいかないということになります。
 それから、もうちょっとだけしゃべらせていただきたいんですけれども、先ほど中山委員のほうから、何である程度もうけた者が更にもうけないといけないのかという御意見がありました。これは著作権になぜ存続期間があるのかということにつながる根本的問題なので、私の私見を言わせていただきたいと思います。
 創作者が何か創作するというのは、いきなりお金をもうけるものを作るということではなくて、将来に木を植えるというようなものだと思います。桃栗三年柿八年と。柿八年が実らない間に植えた人が死んでしまうということがあるわけです。それでも、将来的に誰かがその木の実を食べてくれるだろうと思って植えるわけです。ところが、自分のうちの柿の木だったら、相続した子孫が100年後でもその柿を食べることができるわけです。著作権のみが50年で切れてしまうということですから、何で切れるんだろうということをちゃんと誰かに説明していただきたいと思うぐらいのものであります。
 それからもう一つ、著作者の全てがお金のために作品を作るということでは決してありません。今は売れないけれども、100年後には売れるというものを書きたいと念じて書いている人が非常にたくさんいます。むしろ、今売れてない人のほうが100年後には売れるだろうと思って書いているんです。そう思わないと、今売れないものを書くインセンティブにはならないわけです。実際にそうやって一銭ももうからなくても書き続けたものが何十年もたって売れるという例は、それほど多くはないですけれども、宮沢賢治とか梶井基次郎とか、数えていけばたくさんあるわけであります。
 現に今生きている作家も、そういうことをインセンティブにして書いているわけでありますから、保護期間があるということが書き手の創造のインセンティブに十分になっている。ですから、これが短ければいいと議論されると、我々はそれは違うだろうと。むしろ、100年でも保護期間を延ばしていただきたいと思います。ただ、繰り返し申しますけれども、100年後に売れる作品というのはごくわずかであります。むしろ多くの人は著作権フリーにしていただきたいと思っているわけでありますので、そういうものについて自由に利用できるようなシステムを考えるべきであります。
 ただ、70年後にもうかる作品がごくわずかであるから、この人の権利も50年でいいのではないかとはならないと私は考えます。なぜならば、著作権というのは個人の権利でありますから、多数決で議論すべきものでもないし、平均値がこれだけだからと、一握りの人に過ぎないのではないかということで、現に経済的利益を得ている人の権利が欧米の水準と比べて日本だけが短くなっているという現状を放置していて良いとは考えません。むしろ、少数者の立場を尊重することが、より広い、今売れていない人たちのインセンティブの支えにもなるんだと。このことは、何度繰り返しても御理解いただけない面がある。経済にしか目が行かない方には到底御理解できないことであろうと思いますけれども、この委員会の少数意見として書きとどめておいていただきたいと思います。
 以上です。

【野村主査代理】

 それでは、まず中山委員どうぞ。

【中山委員】

 全ての人が金のために創作しているのではないというのはそのとおりでして、現に私なんか売れない本を何冊も出しているわけで、売れなくてもやはり書きたいから書きます。もしかしたら私のひ孫の時代にもうけるかもしれないから書こうという気は全然ないんです。ひ孫がもうけるようなシステムを作ってくれたらインセンティブになるということはおよそ考えられない。そうではなくて、やはり書きたいから書く。漱石の権利はとっくに切れているけれども、漱石はいまだにレスペクトされているわけです。権利の長さと全く関係なく、漱石は偉いんです。偉くない人は偉くないんです。著作権と関係ないんです。
 知的財産とは何かというと、基本的には財産です。情報創作のインセンティヴとしては、国が褒章金を出すとか、あるいは表彰するとか、いろいろな方法はあるけれども、しかしながら、歴史的にいろいろやってみて一番合理的なのはマーケットに任せるということなのです。ですから、知的財産も特許も著作権も同じですけれども、マーケットが評価する。場合によっては非常に価値のあるものだって金にならない。あるいは卑わいなものを書いたら大いに金になる。それは仕方がないのです。
 ただ、著作権の場合はそれ以外の要素があることは瀬尾委員のおっしゃるとおりなので、それは人格権として保護されている。あるいは法律外で、漱石などか法律がなくたって尊敬されるわけです。法律と関係なくレスペクトされている。知的財産とは究極的には独占から得られる利潤なのです。ですから、金の問題、つまり経済の問題を中心に議論すべきだと。この問題を人格とかリスペクトとか気持ちの問題と混同してしまうと分からない、収拾のつかない議論になってしまうわけです。
 それから、先ほど里中さんがおっしゃったキャラクターの件ですけれども、確かにそういう面があるかもしれないけども、キャラクターはもともと著作権で保護するにはふさわしくない面もあります。もし保護するとすれば、商標とか不正競争防止法とか、他にも法律はあります。幅広い全てのものを保護している著作権法については、キャラクターだけを見るのではなく、広い視野が必要と思います。もし中国でキャラクターが不当に利用され、それを著作権法の期間延長で救済するとしても70年後には同じものが出現するだけです。したがって、商標というのは、むしろ不正競争のように期限がない、あるいは期限延長できるもので保護すべきだろうと思います
 そういうわけで、著作権の延長問題というのはやはり基本的には経済問題であり、それ以外の要素はあるけれども、それは人格権の問題、あるいは法律外の問題だということになるだろうと思います。

【野村主査代理】

 では津田委員、どうぞ。

【津田委員】

 50年、70年のどっちがいいんだという議論が何でここまでかみ合わないのかなというのを僕もちょっと考えていて、大きな話は多分、今三田委員がおっしゃったのが象徴的な発言として、100年にでもしてもらいたいということだと思うんです。
 資料2の22ページに、「横山大観記念館の運営に見られるように」というところがありましたけれども、要するに、文化遺産をどう保存していくのかというところでいけば、当然今中山委員がおっしゃったように、20年延長したらその20年後、70年後にではどうしようかいう問題は継続的に生じるわけですよね。ということは、つまりどういうことかというと、三田委員、里中委員、瀬尾委員が多分積極的に70年にとおっしゃっていると思うんですけれども、僕はだから、これは50年と70年の問題ではなくて、今の水準の50年か、もしくは永久著作権かという二択の構図があると思うんです。
 だから、そこが多分この議論を外から見たときにすごく分かりにくくしていると思うところがあって、逆に著作者の側が、自分たちの作品は子供みたいなものだからとにかく大事にしてもらいたいということで、ある意味永久に保護して下さいという言い方をしてくれれば、もっと問題がクリアになるのかなと僕は考えていて、それはヒアリングの第3回で実際に日本美術家連盟の福王寺さんに、20年後また切れますけれども、そうしたらまた延長を要望しに来るんですかと言ったら、はいと明確にお答えしていたので、だから僕は本当に永久著作権なのか、それとも今の水準が適正なのかという視点で話さなければいけないのかなという気がするんですけれども、そのあたりはどうお考えですか。

【野村主査代理】

 どうですか。では先に、三田委員どうぞ。

【三田委員】

 今中山さんが言われた、著作権は経済原理によって動くんだということは私もそのとおりだと思います。ただ、繰り返しになりますけれども、私が言いたいのは、著作権が経済的な利益を生むまでにタイムラグがあると。これは1年の場合もありますし100年の場合もあるんだということで、タイムラグがあるということを認めないと、著作権の議論はできないと思います。欧米では既に、著作権は死後70年になっているんです。その中でもそういうことが議論され、100年がいいのか、50年がいいのかという中で70年になっているわけです。欧米の経済原理と日本の経済原理が全く違うとは私は思いません。文化と、それから経済原理の兼ね合いの中で、欧米で70年になっているわけです。
 ではなぜ日本だけ50年に留め置かれているのか。日本の経済原理が欧米の経済原理とどこか決定的に違うところがあるんだろうか。もし違うところがあるならば、ここが違うんだという説明がないと、我々は日本だけ50年になっていることの合理的な納得を得られないと考えます。

【野村主査代理】

 それでは瀬尾委員、どうぞ。

【瀬尾委員】

 今、津田委員から永久著作権が望ましいのではないかという御指摘をいただきました。私は全くそういうことは思っていません。やはりその時代があって、その時代の流れの中で決まるべきだと。私はその時代の流れが欧米に代表される70年であるから、それに合わせるべきだということであって、長ければ長いほうがいいというものでもありません。例えばみんなが50年でやっているときに、ともかく日本は文化が大事なんだから100年にしろとかいう話ではないのです。私が言っているのはそういう意味です。
 あともう一つ、先ほどの著作権は経済原理で語られるべきだという中山委員の御意見も非常に良く分かるところもあるんですが、やはり、最初に「もって文化に貢献する」という信条が書いてあって、ではこれは全く要らないのかと。要するに、これで経済的な均衡をとるとか利用を促進するとかいうことではないので、現実的には経済的なものがいろいろな強い要素になることは理解しますけれども、やはり文化とは何かとか、作るというのは何かとかいうことを勘案しつつ、経済的なものも考慮していくのが著作権法なのではないかなと、中山先生に言うのは大変僭越ですけれども、私は文化的な要素というのを著作権法に非常に感じております。ですので、経済原則だけで、もうかるかもうからないか、売れるのか売れないのか、損するのか勝つのかというだけで語っているわけではないと。私はそういうことですので、もしそう聞こえているようでしたら違うということを申し上げておきたいと思います。

【野村主査代理】

 それでは、里中委員、どうぞ。

【里中委員】

 先ほどのキャラクターの話ですけれども、一例として申し上げただけで、実際は作品全体、アニメならアニメ、丸々全何十編とか、漫画でしたら全何巻とかいう作品全体がいろいろ侵害されているという惨状が本当に嫌なんです。おそらくこのままですと今後もずっと続いていくだろうとは思います。こういうのは本当に仕方がないんです。ただ、それを封じ込めることはできなくても、なるべく根拠は持ちたいと願う気持ちがあります。やっぱり、どこかで改ざんされた海賊版を見て、その読者がオリジナルの日本の作品を見て、オリジナルではないと言われたときの情けなさというのがあるんです。
 だから私は、現場のあまりにも狭い話の感想かもしれませんが、起こっている現実というのは、今でも踏みにじられている著作権が堂々と好き勝手に使われる痛々しさに対して恐れを感じていますので、50年が70年になっても、ちょっと乱暴な言い方ですが、たった20年ではないか、20年延びたからといって何の問題があるのだという気持ちがあるんです。つまり、今50年で切れた途端どっと出るというのは、文化を守ろうとかではなくて、経済的利用をしようという人がそれだけ多いわけです。ですから、そんなに利用したいんだったら、どうしてわずかばかりの著作権使用料とちょっとした手間の許諾を使って50年より前に出していただけないのかなという、著作者としての感想です。
 だからこそ、アクセスが簡単になれば、もっと50年以内にいろいろと振り返られるべき作品が出るのではないかなと勝手に期待しています。40年ぐらいのところで、あと10年待てば誰にも断らず出せるんだというよりも、70年になったらまだ30年もあるからこの辺で真剣に作者を探そうとか、あるいは、そんなに著作権料は高くないんですよ。サイトを立ち上げて売り出してというほうがずっと高いんです。著作権料は本当に安いですよ。
 ですから、著作権料でもうけるというのは本当にごく一部の人なんです。ですから、いろいろな業者がいろいろな形でフリーに利用できれば活性化するといっても、その方たちが支払う著作権料の何十倍も何百倍も、御自身たちが売り出すことにお金をかけていらっしゃるわけです。だからぜひ、保護期間を長くすることによってもう少し気持ち良くおつき合いしていけたらお互いにいいかなという気持ちはあります。ですから、お金のためにではなくて、どこでどう使われているのかを知りたいというのが著作権者、もしくは著作権相続者の気持ちの中にはあると思いますので、そういうことでいろいろ申し上げているんです。
 それと、50年か永久かという問題ではなくて、そういう著作権者の思いが霧のように消え果るまでというのは、せいぜい100年かなと。その後は、社会全体で運がよければその作品はモーツァルトやシェークスピアのように残っていくだろうと、見果てぬ夢を見て創作者たちは書いているわけなんです。ですから、もちろん50年か永久かというと話はすごく分かりやすいんですが、それだとほとんどの方が、では50年だと思うと思います。著作権者だってそう思うと思いますし、著作権者もやはり常識的な線で考えているのがほとんどだと思いますので、申し上げておきます。

【野村主査代理】

 他に御発言はいかがでしょうか。それでは野原委員、どうぞ。

【野原委員】

 私は著作権料について詳しいわけではないんですけれども、たしか皆さんへのヒアリングの際、演奏団体の岡山さんにもヒアリングさせていただいたときに、講演会を開催するのに著作権料が高くて、JASRAC(ジャスラック)に支払うお金がとても負担になっていて、演奏する楽曲を選ぶのにどうしても著作権フリーの楽曲が増えてしまうという話もあったかと思います。なので、先ほど里中委員は、多分御自身に関係ある部分でのイメージでお話しされたと思うんですけれども、著作権は非常に多様ですので、必ずしも著作権料が安くて、50年を70年に延ばしたとして影響がないとは言えないのではないかと思います。たしかヒアリングの中にあったと思いますが、もしそういった論調も必要であれば、検討状況の中にもう一度入れていただければと思います。

【野村主査代理】

 中山委員、どうぞ。

【中山委員】

 瀬尾委員が文化のことをお話しされましたけれども、著作権法の第1条には文化という言葉が出てきます。この文化というのは一体どういう意味か非常に難しい問題がありまして、自己宣伝するわけではないんですけれども、もうあと一、二週間で私の『著作権法』という教科書が出版されますので、そこで詳しく書いてあるからここでは詳細は省略いたしますが、文化というのは、国語的な意味の文化ではないのです。著作権法特有の意味がありまして、それは知的財産法全体の中で、特許法との比較で文化概念というのは考える必要がありますが、結論だけ言いますと、著作権法で言う文化というのは情報の豊富化を指していると思います。文化にレベルはつけられません。特許の場合ですと、進歩性という概念で発明の差別化ができますが、文化というのはつけられないということを大前提にして、情報の豊富化をもって文化としていると私は解釈しています。
 私が経済と言ったのは、50年を70年に延ばすということの意味は経済的な意味だけだということです。これは知的財産権一般の話でして、、著作権法としては人格権もあるしいろいろな要素がある。また、思い入れはみんな違います。したがって、文化はそう簡単にお金だけだと言っているわけではないということを申し上げたいと思います。ただ、期間の問題は経済問題である、ということを述べたにすぎません。

【野村主査代理】

 他に御発言はいかがでしょうか。上野委員、どうぞ。

【上野委員】

 保護期間の延長問題に関係して、著作者の人格的利益の保護ということが時々この場でも取り上げられ、そこでは、著作者の方々と中山委員との間で以前から議論がなされてまいりました。その際、私の方からも何度か発言させていただきましたように、結局のところ、確かに著作権が消滅しても、著作権法60条がありますから、著作者の人格的利益は一定の範囲で保護されるわけですね。しかし、著作者人格権と申しましても基本的には3つの個別的な権利があるだけで、一般的な著作者人格権というのがあるわけではないのです。ですから、著作者の人格的利益が害されたとしても、基本的には3つの権利によってカヴァーされなければ、少なくとも著作者人格権の侵害にはならないわけであります。
 例えば、著作物が改変されますと同一性保持権の侵害になります。けれども、改変しているわけではないし氏名表示も問題ない。しかし、著作者が、ある種の週刊誌には絶対に自分の作品を載せてほしくないという気持ちを持っていたという場合、これはいくら3つの著作者人格権があってもこれに反対することはできませんし、113条6項につきましても名誉声望が害されているとは言い難いですのでみなし著作者人格権侵害にもならないと考えられます。そうすると、60条を適用することは難しいのではないかと思います。このように考えますと、人格的利益の保護は、著作者人格権や60条があるから大丈夫ということには必ずしもならないように思います。
 ということになりますと、もし著作権があれば、例えば載せてほしくない週刊誌に著作物が掲載されることを拒否できます。先ほどのような著作者の方々のご意見は、そうした観点から著作権が存続した方がいいというご趣旨と理解することができるのではないかと思います。
 そうすると問題は、そういう人格的利益といいましょうか、いわば思い入れのようなものまでをも保護する必要があるのか、しかも著作者の死後70年間にわたって、著作者本人ではない者にその決定を委ねることが妥当なのか、そして仮にそのような利益を保護することが必要だとしても著作権の存続という手段によることが妥当かどうか、といった点がまさに問題なのではないかと思います。そのように考えて発言させていただいた次第であります。
 それから、この報告書案の内容にも含まれておりますので、本日の前半で議論になりました著作隣接権についても一言だけ申し上げてよろしいでしょうか。
 確かに、著作権と著作隣接権とは、その内容も存続期間も異なりますね。特に著作隣接権の存続期間に関しましては、そもそも起算点が異なるわけですから、著作権の存続期間と比べますと、かなり短くなっていることは確かです。そのため、仮に著作権の保護期間を延長するとその差はますます広がることになりますので、これは何とかすべきではないかということは確かに検討すべき論点になろうかと思います。
 ただ、中山先生も御指摘になられましたように、こうしたことは単に存続期間だけの問題ではなく、隣接権制度それ自体の問題なのだと思います。大陸法系の諸国におきましては、隣接権制度と著作権制度を分けるのが一般的であります。そして、この両者の違いは、著作隣接権の客体は著作物の「創作」ではなく「伝達」に過ぎないこと、それから準創作性という2点から説明されてきたわけであります。そうすると、結局のところは、このような説明で本当に理由になっていると言えるのかどうかが問題なのではないかと思います。
 そうした観点からいたしますと、著作隣接権者として挙がっている4者の中には違いがあるのではないかと考えられます。とりわけ実演家に関しましては、準創作性といっても、むしろ著作者並みの創作性を有する場合もあるのではないかと考えられます。
 その意味では、考えられる立法の選択肢として、実演家の著作隣接権の存続期間についてのみ延長を検討するということも考えられます。
 例えば、実演家の著作隣接権の存続期間については、死後起算主義に改めるとか、あるいは実演後70年に改めるとかいうのも選択肢としてあり得るのではないかと思います。また、実演家の著作隣接権というのは、常に自然人に原始帰属いたしますし、実演というのは「演ずる」行為をいうと定義されているため、他の著作隣接権者と比べると準創作性は常に認められます。そのため、実際のところ、著作隣接権者の中でも実演家だけには実演家人格権が与えられているのです。
 他方、実演家に与えられている著作隣接権というのは、ワンチャンス主義による制約を受けるなど、弱い―と言うと少し評価が含まれてしまうかもしれませんけれども―著作権に比べると限定的であるわけです。
 以上の観点からいたしますと、実演家の著作隣接権だけ存続期間の延長を検討するというのも選択肢の1つとしてはあると思います。
 ただ、理論的にはそのようにいえるといたしましても、もし現実に、わが国が実演家の著作隣接権の存続期間だけを延長することになれば、ハーモナイゼーションの観点からすると、かなり突飛なことをすることになってしまいます。そうすると、そのような観点からは妥当でないということになろうかと思います。
 実演家の著作隣接権の存続期間を延長すべきだという主張は、確かにヨーロッパでも見られるようですけれども、実際にはなかなか実現に向かっていないようです。どうもこの問題は、政治的に見てもなかなか実現が難しい問題なのではないかと個人的には感じております。
 以上です。

【野村主査代理】

 中山委員、どうぞ。

【中山委員】

 今上野委員がおっしゃった、財産権でも実は人格権的なもので使える側面もあるのではないかという、そういう意見があったということだと思いますが、事実としてはそのような側面もあるということは間違いないと思います。ただ、法律として、つかり解釈論としてあるいは立法論としてそれを正面から認めていいかということになりますと、問題があります。もしそれを認めると、それでは逆に人格権を財産権的に使っていいかという問題があるわけです。効果は同じ差し止めですから、現に事実として財産的な利益を保護するために人格権が使われている場合もありますけれども、法律論として認めていいのでしょうか。もし財産権を人格権的に使うなら逆も使えるはずです。そうすると、人格権と財産権を峻別する現在のシステムは一体どうなのかという根本問題にさかのぼるので、私はやはり人権と財産権とはきちんと分けて議論すべきではないかと思っております。

【野村主査代理】

 他にいかがでしょうか。大体議論はよろしいでしょうか。
 それでは、本日はこれぐらいにしたいと思います。大部分が保護期間のあり方ということで、かなり議論していただきましたけれども、今後は順番に具体的な制度設計のあり方について議論を深めていきたいと思います。今日の資料につきましては、多少時間的な余裕がなかった面もあろうかと思いますけれども、10月12日に著作権の分科会が開催される予定になっておりまして、そこで、本小委員会の検討状況については私のほうから簡単に報告させていただくということにしたいと思います。
 それでは、事務局から連絡事項がございましたらお願いします。

【黒沼著作権調査官】

 本日はありがとうございました。今後の日程ですが、次回の小委員会は、10月31日(水曜日)10時から12時に三田共用会議所の3階で開催を予定しております。
 なお、本日の柱立て等につきまして、後ほどお気づきの点等あれば、メールなりファクスなりでいただければ、主査等と御相談しまして取り入れさせていただきます。
 どうもありがとうございました。

【野村主査代理】

 それでは、本日はこれで文化審議会著作権分科会の第8回過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会を終わらせていただきます。
 次回は、間に分科会が入るということで、1カ月ちょっと空きます。その間に今事務局からありましたように、何か御意見がございましたら、事務局のほうにお寄せいただければと思います。
 本日はどうもありがとうございました。

─了─

(文化庁著作権課)