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3.保護期間の在り方について

(1) 検討の視点について
(検討の観点)
 権利保護を強化するかどうかは手段にすぎず、パブリックドメインにすることと、さらに20年間権利者に独占させることの、どちらが、創作者にインセンティブを与えて情報の豊富化を招き、著作権法の目的である、社会全体の文化に発展に役立つかという観点から議論すべき。手段と目的を混同すべきでない。(中山委員、金委員)
 著作権ビジネスは作り手、送り手、受け手が揃って成立するものであり、保護期間延長によって著作権ビジネスがどのように影響を受けるのかも議論すべき。また、経済学的な観点からの分析も必要である。(エンドユーザー 津田氏、CC 野口氏、中山委員)
 保護期間の問題をただ経済的合理性等の面からのみ論じるべきではなく、創作者の創作意図への配慮の視点からも論ずべき。(美術 福王寺氏)
 保護期間延長の議論は、専ら財産権の問題であり、創作者の意図や創作者の人格への配慮、尊厳の問題は関係がない。リスペクトの問題は、作品の内容の質の問題であり、保護期間が切れているか切れていないかに関わりがない。(中山委員)
 その時代の著作物の利用状況、著作権継承者が受ける利益の妥当性、保護期間経過後著作物の利用による国民の公的利益の期待等を勘案し、各国の国情に応じて判断すべき。(書籍 金原氏)
 著作物には公共性があり、市民の情報アクセスを不当に制限する制度設計はすべきでない。また、創作行為への意欲を失わせる制度設計はすべきでないが、意欲が失われないのに、国際動向や既得権益の保護の理由のみから保護強化を行うべきではない。(公立図書館 糸賀氏)
 多くのエンドユーザーが保護期間延長の必要性を感じていないというアンケート結果もある。その点も考慮すべき。(野原委員)
 欧米が死後70年に延長したのには、思想的なもの、政治的なものなど、それぞれの理由がある。我が国が、欧米が延長したときと同じような状況にあるのか、我が国固有の国益に合致するのかを検証すべき。(中山委員)
 国益にかなうかどうかとの観点のほか、短期的には国益にかなわなくとも、あるべき立法を検討すべきとの観点もあるのではないか。(上野委員)
 いわゆる文豪や巨匠だけを念頭に置くのではなく、金銭目的に創作している著作者や、またコンピュータプログラムのように経済財として機能している著作物もあり、そういった著作物全体を見て、総体的に情報の豊富化にとって役立つか検討すべき。(中山委員)

(今後の情報流通の見通しとの関係)
 インターネットの発展など情報の流通が急速に変わっている中で、50年後の姿は想像がつかない。著作権は各国で延長を繰り返してきた一方で、一旦延長してしまうと短縮することは難しい。今の段階で延長を拙速に議論せず、当面凍結してもいいのではないか。(慎重な創作者 平田氏、実務家 福井氏)
 情報流通のためのプラットホームがどうあるべきか、その適正な整備をまず考え、その姿を見てから、適正な保護期間について検討すべき。(慎重な創作者 椿氏)

(利用円滑化や他の要素との関係)
 保護期間が延長されると、著作者の権利関係の調査が一層困難になる。延長するにしても、利用の円滑化のための方策が十分に措置されるべき。(書籍 金原氏、国会図書館 田中氏、公立図書館 糸賀氏)
 延長の条件として、戦時加算や権利管理会社の権利範囲など、一般の利用者や事業者に分かりにくい部分を解消すべきである。(音楽配信 戸叶氏)
 延長したとしても、需要に見合ったコストで著作物を使えるかどうかという方法論から議論を進めるべきである。(佐々木(隆)委員)【再掲】
 保護期間の延長は、戦時加算制度の廃止、又は戦時加算対象著作物の消滅後とすべきである。それまでの間、死後60年に延長ということも考えられる。(書籍 金原氏)
 障害者への情報保障の環境が不十分なまま、保護期間を延長することは、さらに情報環境を悪化させるおそれがある。十分に意見聴取をすべき。(障害者 井上氏)
 権利者情報の整備等は必要であるが、そのデータベースがあれば保護期間を延長してもいいという議論ではなく、保護期間とは別個の問題として取り組まなければならない課題である。(青空文庫 富田氏)【再掲】
 戯曲の場合、著作者の同意の下で改変、加筆が行われるため、海外の作品までも含めた集中管理許諾方式はほぼ無理で、人格権だけ延長しないことも国際協調の観点から困難など、利用の円滑化やアーカイブだけでは問題は解決しない。(慎重な創作者 平田氏)【再掲】
 権利者情報のデータベースは個人情報の蓄積であって扱いが難しく、構築は可能なのか。架空のデータベースに期待して保護期間延長の議論をすべきではない。(慎重な創作者 寮氏)【再掲】

(2) 保護期間延長の議論の契機となる事項

(2-1) 遺族との関係、寿命の伸長について
(成果が還元されるべき遺族)
 生涯保障のない世界で、自らの創作物によって自分と家族の糧を得て生きる創作者にとって、また、長寿高齢化が進む中で、遺された家族の未来を考えれば、保護期間を延長すべきとの思いは当然である。(漫画 松本氏)
 創作者の創作を支えているのは、家族だけではなく、作品を購入する社会の経済的余剰であり、過去の文化遺産の蓄積であり、社会全体である。そこから生まれた成果を特定個人等が囲い込むべきではない。(慎重な創作者 寮氏)
 生前には理解されず、死後に評価される作品もあるが、そういう作品の場合、創作は家族を犠牲にして行われている。(美術 福王寺氏)
 著作者にも様々な人がおり、個々の事例がどうだったかということでなく、著作物全体を見て、総体的に情報の豊富化にとって役立つか検討すべき。(中山委員)
 演劇、美術の分野では、公的な支援が不可欠であり、公的支援を受けた成果について、個人の権利として主張することに、国民のコンセンサスが得られるのか。(慎重な創作者 平田氏、椿氏)【再掲】
 仮に子どもの生活保障が最低限必要だとして、最長で創作者の死後すぐに生まれた子が大学卒業するまで25年の保護期間で十分である。孫世代まで収入保障をする必要はなく、孫を育てるのは子世代の責任である。(慎重な創作者 寮氏、野原委員)
 著作物の創作を保護する観点からは、保護の恩恵を受けるのは、創作に関わる意識が共有できる範囲の直系親族に限定(子が亡くなるまでの期間)すべき。(公立図書館 糸賀氏)

(創作者の意思と遺族の意思)
 遺族が創作者の意図した通りの権利行使を行わない場合もある。真の理解者を得るために出来る限り多くの人に創作物を流通させるべきである。(慎重な創作者 寮氏)
 保護期間が延長されれば、創作者の意図を理解しない相続人にまで権利が承継され、作品の利用を理解されない危険が増えるのではないか。(慎重な創作者 平田氏)
 遺族が無理解だと思うのは、利用者側の勝手であり、相続者としては、亡き創作者の心を推しはかって守るのが使命である。(里中委員)
 相続により権利者が分散することで、交渉コストが増大する。権利を管理する自覚のない権利者は、著作物の利用を阻害する大きな要因である。(CC 野口氏、音楽配信 戸叶氏)【再掲】

(寿命と保護期間との関係)
 寿命は妻子だけでなく、著作者自身も伸びるために相互に相殺され、人類の寿命延びたから保護期間を延長すべきということは、論拠として弱い。(金委員)
 作家は、非常に厳しい作業環境で仕事をしており、早死にする場合も多い。創作者が若死にした場合には、死後50年では、創作者の一世代の生存中にも、保護期間が切れてしまうことがある。(漫画 松本氏)

(2-2) 諸外国との保護期間の差異について
(基本的な考え方)
 世界の文物を受け入れ、世界に発信していくためには、その場の共通ルールに則していく必要がある。(音楽 川口氏・朝妻氏)
 グローバルな規模で文化活動が行われる中で、自国では保護が終了している一方、相手国では保護期間が残っている際には、相手国の作品に自分の国では価値を認めていないという状況が生じ、相手国の作家とはやりとりがしにくい。海外で著作権が生きている作品を、日本では自由に使えるからといって、喜ぶべき状況ではなく、国同士で作品を尊重し合うことが重要である。(文芸 坂上氏、漫画 松本氏、美術 福王寺氏)
 そのときには時代を先走っていた作品が、別の場面で突如として評価される例も多い。その際に著作権の保護期間が終了していたら何にもならない。世界の趨勢に合わせておくべき。(漫画 松本氏)
 欧米の水準に合わせることがなぜ望ましいのか、日本の文化振興にどのようなメリットがあるのか、合理的に述べるべき。(青空文庫 富田氏)
 日本のコンテンツの海外進出では、アジアが巨大なマーケットであり、アジアの国が保護期間について今後どう取り組んでいくのか考えるべき。(佐々木(隆)委員)
 アーカイブした博物館資料については、国際的な協調の観点からネットで公開しており、保護期間の延長は十分影響を議論すべき。(博物館 井上氏)
 国際的な保護期間の平準化のためには戦時加算の解消が不可欠である。(写真 松本氏)

(平準化の内容)
 国際的動向については、アジア、ヨーロッパ、アメリカでまちまちであり、必ずしも70年が国際標準とはいえない。(実務家 福井氏)
 元々、著作権の保護期間は、国際的には死後50年が標準であり、国際的な調和を乱してきたのは、欧州諸国やアメリカである。(金委員)
 国際的な平準化のために70年に延長しても、アジア・アフリカ諸国など、50年の国との調和が問題になるのではないか。(慎重な創作者 平田氏、実務家 福井氏)
 我が国との文化交流が盛んな欧米諸国等を対象として考えるべきであるし、実際に流通しているコンテンツのほとんどは70年の国のものである。(生野委員、都倉委員、文芸・シナリオ 西岡氏、音楽 川口氏・朝妻氏、写真 松本氏)
 著作隣接権延長が英国で見送られたように、権利を強める方向が国際的潮流とはいえない。著作権の歴史はわずか百数十年であり、長い歴史を踏まえれば、昨今の動きこそが特殊な可能性もある。(慎重な創作者 平田氏、実務家 福井氏)
 権利の保護の実効性を高めるには国際調和が必要であるという観点からは、結局、メキシコのように70年をさらに超える国もあり、一番保護期間が長い国に合わせなければならないことになってしまう。(津田委員)

(保護期間が異なることの弊害)
 インターネット等で著作物が簡単に国境を越える時代にあって、保護期間が切れている国にサーバを置いて著作物を発信すれば、まだ保護期間が切れていない国からでもダウンロードができてしまう。著作物等の保護の実効性を高めるためには、保護期間についても国際的な調和を図る必要がある。(音楽 川口氏・朝妻氏、瀬尾委員)
 インターネットの普及によってそのような問題が起きるのは確かだが、そのために保護期間の20年延長が必要とは、どのような理屈によるのか。(中山委員)
 日本は海外頒布用レコードの還流防止に取り組んできたが、一方で、日本で著作権が切れたものを海外で並行輸入することになれば、それと同じことを日本自らがすることになってしまう。(都倉委員)
 海外の著作物の流通に携わることで、国内において海外権利者の立場を代弁する立場に置かれることもあるため、国際的な調和は重要である。(書籍 金原氏)
 海外との事業で、保護期間が異なることで特にビジネス上の問題になったことはないし、経済合理性を考えれば、その理由でビジネスが止まることはあり得ない。(慎重な創作者 平田氏、実務家 福井氏)
 音楽配信では、保護期間経過後の作品を無料でダウンロードできるようにすることがあるが、海外ではまだ保護期間が存続している場合には、海外の権利者が日本の配信事業者に対して契約を拒む恐れがある。(音楽配信 戸叶氏)
 保護期間の差により欧米で流通ができないとの理由で、より保護期間が長い方に調和させて、日本でも流通できなくするような保護期間延長の発想は不合理である。(実務家 福井氏、野原委員)
 国際的に著作物を管理する場合、その保護期間がまちまちであると、保護期間の確認などの管理コストが増加し、流通を阻害する。(写真 松本氏)
 著作物の利用の際に、著作者、没年についての調査は、保護期間が異なるかどうかにかかわらず必要な作業であり、管理コストの増にはならないはず。(中山委員)
 共同著作で、例えば、一人が日本人で残りがアメリカ人の場合、全体が有利になるよう、その日本人は米国法が適用になるようにすることも考えられる。その結果、日本で著作権の空洞化が起こるのではないか。(都倉委員)

(諸外国の保護期間延長の背景)
 諸外国が保護期間を死後70年に延長した背景には、手厚い方が、文化芸術の発展に資するという判断をしたことがあるのではないのか。(音楽 川口氏・朝妻氏)
 欧米が死後70年に延長したのには、思想的なもの、政治的なものなど、それぞれの理由がある。我が国が、欧米が延長したときと同じような状況にあるのか、我が国固有の国益に合致するのかを検証すべき。(中山委員)【再掲】
 諸外国での保護期間延長の議論において、創作者へのリスペクトや人格的利益の保護の実効性を高めるという観点の議論は見られず、例えば、EU指令では平均寿命の伸張の議論がされており、真剣に検証すべき。(上野委員)

(3) 延長によって得られる効果、弊害について

(3-1) 延長による創作インセンティブについて
 死後50年であれば、創作するインセンティブがないが、これを20年延びるならインセンティブが生じるということがあり得るのか。20年の延長で、どの程度情報の豊富化に役立つのか。(中山委員)
 実証的な調査は行っていないが、現行の死後50年でも著作物の公表は行われており、現行制度によって創作意欲が失われているとは思えない。(公立図書館 糸賀氏)
 文化の発展に寄与するかどうかの観点からは、少なくとも、作者が死んだ後の著作物について保護期間を延長しても、創作へのインセンティブは増進されない一方で、今後の著作物の利用を質量ともに制約することになる。延長を議論するとしても、将来創作される作品に限定すべき。(教育 金氏、青空文庫 富田氏、CC 野口氏)
 海外で我が国の著作物が利用されている中、権利がなければ収入が得られないという経済的な観点からは、過去の作品についても検討する必要があるのではないか。(渋谷委員)
 今後創作される著作物について保護期間を延長する場合は、創作者の創作インセンティブを促進する側面があるのは明らか(ただし程度は低い)だが、延長による利用制限効果と創作制限効果の比較分析をして判断すべき。(教育 金氏)
 書籍出版については、保護期間を延長した場合の創作者のインセンティブの増加は、1〜2パーセントあるいは、1パーセント以下と研究されている。(経済 田中氏)
 創作者にとって、金銭ではなく、死後に評価されて過去の文豪並びの評価を受ける可能性がある期間が延びるという事実が創作のインセンティブとなる。(三田委員)
 創作環境として、権利が少しでも与えられるなら、創作者はプラスだと思う、そういう単純なものもプラス材料として捉えられる。(瀬尾委員)
 支払われる対価は、創作者の創作活動の基盤となるだけでなく、出版社、レコード会社等によって新たな創作に投資されることで、現在の創作者や次代を担う新人に創作の機会が与えられる。このような創作サイクルの源泉を豊にすることが、新たな才能に機会を与え、意欲を刺激する。(音楽 川口氏、朝妻氏)
 英語教室の事業では、自社開発の教材を他社が使わないようにするためのビジネスの戦略的なツールとして著作権が用いられている。このように優れた教材を作って社会に貢献する企業にとっては、保護期間延長が、そのままビジネス活動の延長になり、優良な著作物の制作に投資するインセンティブになる。(音楽配信 戸叶氏)

(3-2) 延長に伴うコスト、利用の支障について
(利用に関する支障一般)
 保護期間が延長されると、経年により死亡する人間が増加し、相続により許諾を得なければならない人数も増加することになる。(公立図書館 糸賀氏)
 保護期間が延長されると、権利者が拡散し、一部の権利者の反対によって利用拒絶を受ける可能性が高まる。(慎重な創作者 平田氏)
 著作物の利用についての取引費用(著作物探索コスト、契約コスト、適正利用監視コスト)は、著作権保護がない作品に比べて、著作物の利用を抑制する効果を持つ。権利者にとってもプラスにならない。著作物の取引費用を軽減するための投資が行われるのは商業的な価値がある著作物に限られるため、死後50年の時点で投資に見合う十分な商業的な価値を持たない大半の著作物は、延長によって、20年間取引されず、死蔵される可能性が極めて高い。(教育 金氏)
 各種の権利制限規定が用意されている学校教育などでは、保護期間を延長しても、具体的な支障はないのではないか。(生野委員)
 障害者に対しては、もっと著作物を利用できる幅を広げていけば、保護期間を延長しても、支障はないのではないか。(三田委員)

(二次創作等に関する支障)
 創作は、先人の文化的遺産を土台にして生まれるものであり、保護期間の延長は、この円滑な利用における取引費用を増大させるおそれがあり、過去の著作物が利用されなくなれば、未来の創造活動を阻害するリスクがある。(金委員)
 著作権法では、アイディアは保護されないため、そっくり同じものをそのまま利用するのでなければ、過去の著作物の利用は自由にできるのではないか。(三田委員)
 著作権の中には翻案権があり、同じものを使わなければいいというものではない。(中山委員)
 翻案権、二次著作物を利用する権利のみは延長しないということも、検討の選択肢の一つになりうるのではないか。(上野委員)
 遺族が創作者の意図した通りの権利行使を行わない場合もある。真の理解者を得るために出来る限り多くの人に創作物を流通させるべきである。(慎重な創作者 寮氏)【再掲】
 保護期間が延長されれば、創作者の意図を理解しない相続人にまで権利が承継され、作品の利用を理解されない危険が増えるのではないか。(慎重な創作者 平田氏)【再掲】
 二次創作については、何でも自由に使えることが良いわけではなく、権利承継者である遺族の許諾を得られるような質の高い作品を生み出すよう絶えず努力することが、良い二次創作が生まれることにつながる。(三田委員)

(3-3) パブリックドメインによる利用促進効果について
 著作者の死後50年を過ぎて商用的価値がある作品は、一体、どの程度あるのか。(金委員、津田委員)
 出版の分野では、種類によって状況は異なるが、文学的な作品、名作では、既に著作権が切れた作者の作品でも流通している作品があるし、さらに新たに発行されることもある。(書籍 金原氏)
 書籍出版、映画の例では、パブリックドメインになることによって、新規事業者の参入によって、それまでなかった流通ルートや新たな利用者が開拓されるなど、利用方法の革新が生じる。(経済 田中氏)
 シャーロックホームズの二次著作などの関連作品は、保護期間が切れる付近から出回る量が相当増えている例がある。(経済 田中氏)
 過度な著作権保護は、批判精神やパロディーを抑制し、新しいものを作ろうとする個々のチャレンジ精神や、我が国の将来の表現力を失わせるおそれがある。(慎重な創作者 平田氏)
 ネットワーク化の下で一億総クリエーターと言われる中で、カバー作品、アナザーストーリーなどの再創造作品が生じやすくなっており、ネットワーク化の下では、パブリックドメインの意義が高まっている。(経済 田中氏)
 インターネットによる著作物の利用の拡大は、それは保護を犠牲にして起こったものではなく、保護期間を延長しなければ、従来の保護水準を維持したまま、公正な利用が拡大し、文化の発展につなげられる。(青空文庫 富田氏)
 インターネットの活用やアーカイブは、保護期間内でも、手続を経れば可能であり、保護期間が切れればインターネットの利便性が活かせるとの関係ではないのではないか。(里中委員)【再掲】
 利用の自由度が高まるに魅力は感じるが、法的手段がなければ、元の著作物の創作意図を無視した改ざん、非礼な利用を排除できない。また、創作に挑んだ者への敬意を忘れない世の中にするためにも法的手段が重要である。(文芸・シナリオ 西岡氏)

(4) 結果予測の分析

(4-1) 著作物の創造サイクルに与える影響について
(創作に先立つ環境)
 コンテンツ立国を考えるのであれば、コンテンツにアクセスしやすい環境(入手性、価格、利便性)を整えることを考えるべき。その環境があることが文化的に豊かな状況をもたらす。(エンドユーザー 津田氏)
 欧米は、インターネットの効用が明確でない段階で保護期間を延長したが、日本は、多くの人が平等に容易に著作物に触れられるなどのインターネットの利点を生かした文化振興のモデルを検討すべき。(青空文庫 富田氏)
 支払われる対価は、創作者の創作活動の基盤となるだけでなく、出版社、レコード会社等によって新たな創作に投資されることで、現在の創作者や次代を担う新人に創作の機会が与えられる。このような創作サイクルの源泉を豊にすることが、新たな才能に機会を与え、意欲を刺激する。(音楽 川口氏・朝妻氏)【再掲】
 演劇、美術の分野では、公的な支援が不可欠であり、公的支援を受けた成果について、個人の権利として主張することに、国民のコンセンサスが得られるのか。(慎重な創作者 平田氏・椿氏)【再掲】

(既存の創作物の蓄積を土台とした創作)
 新たな創作を生むには、先人の作品を土台とした部分が9割、自分のオリジナリティは1割という意見がある。(常世田委員)
 延長することによって許諾を要する期間が増え、また、保護期間延長によって、著作物がさらに20年間死蔵される場合、過去の著作物の利用を土台とした次なる創作の機会を奪うことになる。(教育 金氏、実務家 福井氏)
 先人の作品から着想を得て作品が生まれるのは確かだが、そのことは、保護期間内でも外でもある話で、保護期間の話とは関係がない。(音楽 川口氏・朝妻氏)

(高い創作性を有する作品の創造)
 無料になったから使うという使い方は、商業的観点の利用を偏重する考え方である。安易に過去の思想・感情・表現を借用した作品が大量に流通することにはなっても、創作的な表現を本質とする豊かな文化芸術の発展にはならず、文化芸術の愛好家、消費者に不利益となる。(音楽 川口氏・朝妻氏)
 芸術は模倣から始まるとの考えもあるが、オリジナリティのある作品を手厚く保護することが基本であり、保護することは文化・芸術の発展に資するものである。早く保護が切れた方がいい作品が多く生まれるということではない。(音楽 川口氏・朝妻氏、美術 福王寺氏)
 開花された個性を保護するとの方法の一方、海外では、個性を殺して模写することで伝統を学び取るとの模写教育が重要になっている。優れた芸術作品は、模写や改良によって系統発生するものであり、保護はできるだけ短くして、伝統の中から新しい文化が生じるシステムを重視すべき。(慎重な創作者 別役氏)

(社会全体の文化に対する考え方)
 無料になったから使うという使い方は、利用は生じても、社会全体のレベルにはならない。どのように活用するかという仕組みづくりによって価値創造の力が上がっていくことになる。(文芸 坂上氏)
 利用の自由度が高まるに魅力は感じるが、法的手段がなければ、元の著作物の創作意図を無視した改ざん、非礼な利用を排除できない。また、創作に挑んだ者への敬意を忘れない世の中にするためにも法的手段が重要である。(文芸・シナリオ 西岡氏)【再掲】
 過度な著作権保護は、批判精神やパロディーを抑制し、新しいものを作ろうとする個々のチャレンジ精神や、我が国の将来の表現力を失わせるおそれがある。(慎重な創作者 平田氏)【再掲】
 死後の保護期間の延長よりも、生存中の公的支援の拡充などを国民に訴える方が芸術界にとって重要ではないか。(慎重な創作者 平田氏)

(4-2) 国家の資産、貿易上の利害について
 日本が知的財産立国を目指し、文学作品、漫画、アニメ等が海外へ進出する中で、著作権保護が切れてしまうのは、国家的な財産の喪失である。(音楽 川口氏・朝妻氏、漫画 松本氏)
 創作者が収入を得るチャンスを増やすという点で、国策でもあるクリエーターへのリターンの強化、知的財産の保護の強化になる。(椎名委員)
 建築、ファッション、漫画、アニメ等、保護や権威が薄い分野では、日本の文化が世界に通用するものになっている。保護がないために、開拓精神、チャレンジ精神が育ち、我が国の生産力につながる。(慎重な創作者 椿氏)
 その時代では時代を先走っていた作品が、突如として評価される例も多い。その際に著作権の保護期間が終了していたら何にもならない。世界の趨勢に併せておくべき。(漫画 松本氏)【再掲】
 日本が目指す知的財産立国は、一国知財主義ではなく、知財による国際貢献を目指すものであるべきであり、アジア・アフリカ諸国との連帯を準備すべき。(慎重な創作者 平田氏)
 日本の著作権の国際収支は年間6,000億円の赤字であり、保護期間延長は、輸入超過や国際的な知財の偏在を固定化してしまうおそれがある。30年後の世界の知財の状況を踏まえて決めるべきで、現時点で、欧米の古い作品の延命を日本が後押しをする理由はない。(実務家 福井氏)

(4-3) 経済分析について
 経済学的な観点からは、今でも十分期間が長く、これ以上延ばすことには、何ら経済的な効用が見いだせないとする分析結果がある。(CC 野口氏)
 延長による利益の増加が1〜2パーセント(書籍の例)である中で、それによって、新たな創作のインセンティブになることは通常考えにくい。これは、ノーベル経済学賞受賞者を含めて米国の17人の経済学者が一致している見解。一方、パブリックドメインになることによる利益は明らかに存在しているようであり、延長しない方が社会のためになると考えられる。(経済 田中氏)

(4-4) 創作者の人格的利益について
(創作者が求める人格的利益)
 著作者の中では、より多くの人に作品を聴いて欲しい、読んで欲しいという人のほうが、何でもかんでも流さない方がいいという人より多いのではないか。(エンドユーザー 津田氏)
 創作者は、作品を作る際には、どのように利用・流通させるかは考えず、思想・感情と向き合っており、典型的な著作者像の中では、このタイプの人間が圧倒的に多い。利用者側がこういった創作者の感情に無関心な点に議論のズレが生じる。(瀬尾委員)
 外向けに伝えたいものをイメージして創作する者と自分の中で内なる自分との闘いで創作する人とは、どちらが多いという問題ではなく、ケースバイケースである。(エンドユーザー 津田氏)
 著作者にとって、作品は子どものようなもの。気持ちの上では、その関係は永遠であり、保護期間は長い方がいい。(文芸・シナリオ 西岡氏)
 エンドユーザーに対するネット調査では延長反対が多い。作り手にとっては作った著作物が唯一無二のものであり、受け手にとっては多くの著作物の中の一つに過ぎないという点で、両者の意識には温度差がある。(エンドユーザー 津田氏)
 保護期間延長の議論は、専ら財産権の問題であり、創作者の意図や創作者の人格への配慮、尊厳の問題は関係がない。リスペクトの問題は、作品の内容の質の問題であり、保護期間が切れているか切れていないかに関わりがない。(中山委員)【再掲】
 創作者へのリスペクトが、本屋に並ぶなどの形で具体の形で表現されるかどうかは、財としての価値がなければ不可能であり、リスペクトと経済活動は密接な関係がある。(三田委員)

(同一性保持が容易になることによる利益)
 著作権フリーになると、改ざんも自由になる。もちろん著作者人格権はあるが、実際には、複製権とセットになっていないと訴えることが難しい。(三田委員)
 財産権が存続することは、人格権を守るために利用を許諾しないといった使い方もできるため、創作者の人格権にとって意義がある。(里中委員)
 著作権の行使は、金銭目的のみではなく、人格的利益の確保のために行使されることもありうるが、保護期間延長という手段でなければできないことなのか、という議論もありうる。(上野委員)
 創作者は、伝えようとする信念をもって創作に挑んでおり、著作権の保護がなく自由利用の下で、意訳、改変され、創作者の意図しない形で各分野に用いられること、さらには、流用者の利益に帰結するのは、耐え難い屈辱的事態である。(漫画 松本氏)

(広く流通・認知されることによる利益)
 著作権によって、死後に読み継がれる機会が減るのであれば、それこそ創作を軽視するものであり、作家が心血を注いだ作品を殺すことになる。(慎重な創作者 寮氏)
 自分の作品を自由に使ってもらいたいという人がいれば、それはその人の判断で意思表示をすればいい。(漫画 松本氏)
 著作権は特権であり、放棄したい人が意思表示をするのではなく、延ばしたいという側が手続をとるべきである。(慎重な創作者 寮氏)
 子孫に処理を任せるわけにいかないと思う創作者は、そうすればいいが、保護期間延長しなければ、そういう選択の余地もなくなる。(椎名委員)

(5) 文化行政による保護との関係について
 横山大観記念館の運営に見られるように、著作権があることによって文化遺産の保存が図られていることも考慮すべきである。(美術 福王寺氏)
 文化遺産の保存については、保護期間を20年延長しても、その後、同じ議論になるはずである。文化遺産の保存は著作権制度ではなく、文化財をどのように保存するかという文化財行政の議論である。(中山委員)
 死後の保護期間の延長よりも、生存中の公的支援の拡充などを国民に訴える方が芸術界にとって重要ではないか。(慎重な創作者 平田氏)【再掲】

(6) 著作隣接権の保護期間について
 著作権と著作隣接権とで、保護期間に格差を設ける合理的な根拠はない。(レコード 生野氏)
 実演家については、存命中に権利を失う場合もあり、実演の著作隣接権の保護期間を「実演家の死後」起算に改めるか、平均寿命の一般的な伸長を加味した加味した年数に改めるべきある。(実演 椎名氏)
 音楽文化は、楽曲創作、実演提供、原盤製作が一体となっているものであり、三者の保護期間は調和的に設定されるべき。(レコード 生野氏)
 レコードは物理的媒体に固定されており、劣化を防ぎレコード文化の承継、発展に寄与するためには、デジタル化、リマスタリング等の費用負担が必要となる。保護期間延長が、過去のレコードの商品化のインセンティブにもなる。(レコード 生野氏)
 レコードの保護期間の国際的潮流では、既に21カ国が50年を超える期間を保護している。また、レコード製作者の著作隣接権は、類似する音を固定したレコード製作には及ばないため、保護期間を延長しても、新たな創作に対する制約にはならない。(レコード 生野氏)

(7) 戦時加算の取扱いについて
 戦後60年以上が経過しており、既に戦時中の逸失利益は還元されている。また、我が国のみに課せられており、正当性を欠くものであるから、連合国側の理解を得て解消を図るべき。(都倉委員、音楽 川口氏・朝妻氏)
 保護期間の延長は、戦時加算制度の廃止、又は戦時加算対象著作物の消滅後とすべきである。(書籍 金原氏)【再掲】
 国際的な保護期間の平準化のためには戦時加算の解消が不可欠である。(写真 松本氏)【再掲】
 10年の戦時加算を解消するために、20年の延長をすることで交渉するのは不合理である。(実務家 福井氏)
 著作権協会国際連合(CISAC)総会において全会一致で権利行使の停止を決議したことは、戦時加算制度の不合理さを表しているのではないか。(都倉委員)

(8) その他
 没年確認ができないような場合、生後又は作品公表後150年で保護期間が終了することとすべき。(青空文庫 富田氏)【再掲】
 保護期間の死後50年から70年までの間は、許諾権ではなく報酬請求権にしてはどうか。又は、再創造、非営利利用は自由、営利利用の場合も収入の数パーセントの支払いで利用できるとの緩い報酬請求権も考えられる。(音楽配信 戸叶氏、経済 田中氏)
 延長をするならば、延長を希望する者は更新料を支払って登録する制度(opt-in方式)など、著作物の利用制限、死蔵などの保護期間延長による弊害を最小化する方策を講じるべき。(教育 金氏)
 延長した20年で得られた使用料については、国家が徴収し、芸術教育や若手芸術家支援、途上国の文化振興基金など公的資金に充ててはどうか。(慎重な創作者 平田氏)

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