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3.検討結果

 以上のとおり、いくつかの分野について、著作権等に関する契約の状況を概観してきたが、分野によって、契約システムが整備されているところとそうでないところがあることが分かる。コンテンツの流通促進が大きな課題となり、また、下請代金支払遅延等防止法の改正が行われたことを契機として、契約システムの整備が重要となってきているので、契約システムをよりよく機能させるための方策について検討を行った。

(1) 書面による契約の促進

 書面による契約は当事者間の権利義務関係を明確化し、事後的なトラブルを防止する上で有効である。とりわけ著作権等に関する契約については、著作権等の帰属や著作物等の利用条件が曖昧になりやすいことから、書面による契約が特に要請されるところである。
 また、コンテンツの二次利用に関する条項を設けることについては、著作者等が管理事業者に著作権等の管理を委託している場合や、製作者団体や利用者団体と権利者団体との間で二次利用のルールが定められている場合などを除き、二次利用の円滑化を図るためにも重要な事項であると考えられる。
  著作者等及びコンテンツの製作者等においては、このような書面による契約の重要性を十分に認識し、個々の契約に際しては、必要に応じて書面による契約を行うことが望ましいと考えられる。

(2) コンテンツの製作者等と著作者等の双方が納得できる契約内容の策定

1 著作者等の組織化及び団体間の協議を通じた契約条件の策定
 コンテンツの二次利用が多様化する中で、書面による契約の重要性は(1)に述べたとおりであるが、次に重要になるのが契約の内容である。契約の内容は、基本的には当事者同士の話し合いの中で決まるが、当事者の交渉力の差や契約に関する知識の差によっては、一方の当事者が不利になる場合もありうる。かつて権利者団体の中には、契約をしないと二次利用の際には著作者側に有利になるとし、所属の会員に契約をしないことを奨励していた例もみられるが、コンテンツの円滑な流通を図るためには、そのような消極的対応には問題がある。特に著作者等においては、著作権等の管理をプロダクション等に任せている場合を除いては、相対的に交渉力が弱い。このような場合、著作者等の側としては、当事者双方が納得できる契約内容を策定するために、著作者等の組織化を進め、例えばコンテンツの製作者等と権利者団体の協議を通じて一定の契約条件作りを進める方法も考えられる。その例として、放送業界の場合には、NHK・民放連と各権利者団体との間で放送番組の二次利用に関する契約システムが比較的整備されている。
 組織化のための方法としては、例えば、日脚連やシナリオ作協の例でも見られるように、中小企業等協同組合のスキームを活用して一定の契約条件を定める方策も有効であると考えられる。中小企業等協同組合法は、中小企業者等の公正な経済活動の機会を確保するため、中小企業者等が組織しうる協同組合について定める法律であるが、同法第9条の2では、組合が組合員の経済的地位を改善するための手段として団体協約の締結を行うことを認めている。団体協約の効果は組合員に対して直接に及ぶものとされており、また、団体協約に違反した契約については、その違反する部分は排除され、当然に団体協約に従って行ったものとみなされることとなっている。
 また、芸能実演家の団体である芸団協、文芸作家の団体である日文協、歌舞伎俳優の団体である社団法人日本俳優協会のように公益法人として著作者等の組織化を進め著作物等の二次利用等の契約条件に関するルール作りを行っているところもある。
 なお、これらの団体のほとんどは、著作権等管理事業法で規制されている形式かどうか(一任型か非一任型か)にかかわらず、著作権等の管理業務もあわせて行っている。

2 標準的な契約内容の策定及び普及
  権利者団体やコンテンツ製作者等の団体が、著作権等に関する標準的な契約内容を含めた契約書のひな型を策定し、これを関係者間に普及させることも、個々のコンテンツ製作者等と著作者等が個別に交渉し契約条項を決めていくことに比べて、契約内容の明確化のために有効である。
 契約書のひな型については、関係者間で十分に普及した場合には、1)ひな型の契約内容が業界のルールになるという効果、2)個々の契約交渉のコストの軽減、3)将来の利用に関する条項等の契約もれの防止等の利点が考えられるほか、契約の書面化の促進にもつながることとなる。
 また、契約書を結ぶ時間的制約がある場合や業務形態が多様で契約書のひな型が機能しない分野については、標準契約約款の策定で対応することも考えられる。約款については、その利用方法として、個々の契約において、約款の内容に従った書面による契約が結ばれる場合と、当事者間で契約内容は約款に従う旨を確認するのみで書面によらない契約が行われる場合とが考えられる。前者については、契約書のひな型の機能もあわせ持つことになるが、後者については、より簡易に契約書のひな型の利点を享受できるという長所がある。
 標準的な契約内容の策定については、分野によっては、その形式も含め当事者同士に任せた方がよい場合もあるし、個々の契約ごとに柔軟に対応できるようひな型等にある程度の自由度を持たせることが必要な場合もあるので、関係団体等においては、その分野の業務形態や契約実態も見ながら取組みを進めることが望ましい。
 また、契約書のひな型等の策定にあたっては、コンテンツ製作者等の側又は著作者等の側が、一方の立場だけに都合のよいものを作成したとしても、それらが円滑に普及しなかったり、かえって紛争になることも考えられる。特に約款については、双方の立場を代表する関係団体間で十分な協議と合意形成が行われることが望まれる。
 なお、音楽出版業界においては、社団法人  音楽出版社協会が作詞家・作曲家側の意見も反映した統一的な契約書のひな型を作成し、これを会員社等で用いることにより、作詞家・作曲家側の利益にも配慮した契約秩序が形成されているのは参考になろう。

(3) 著作権等管理事業による著作権等の集中管理の促進

1 一任型管理事業の普及による契約の円滑化
 我が国では、音楽、脚本、複写などの分野で著作権の一任型管理(使用料の決定権も含め管理事業者に管理を一任するもの)が発達してきた。また、文芸作品、レコード実演、レコードなどについても、利用形態は限定されるものの、一任型管理が行われている。例えば、音楽の場合、放送、コンサート、カラオケ等のように、特定の利用方法で大量の音楽を利用する事業の場合には、管理事業者との間で一括して利用許諾契約を結ぶことで多数の著作権者と個々に利用許諾の契約を行う手間が省けることになる。最近では、急速に1000億円規模の市場に成長した着メロ市場も著作権の集中管理の結果であり、音楽配信サービスについても、配信事業者と管理事業者との間で使用料のルールができている。また、レコード録音や出版のように、個別契約で対応可能な分野においても同様である。
 著作権等管理事業法は、著作権等の一任型管理を規制しているが、管理事業者に利用者からの許諾の求めに対する応諾義務が課せられ(第16条)、また、使用料は原則として使用料規程に明示することが定められている(第13条)。したがって、利用者側から見れば一定の使用料を支払いさえすれば許諾を得られることになり、二次利用に関する契約の円滑化を図れることになる。
 最近では、映像コンテンツの流通促進が課題になっているが、映像コンテンツの場合、多数の著作権者等が関係していることから、二次利用に関する契約の円滑化を図るためには、この分野における一任型管理の推進を図る必要がある。現在、映像実演やレコードの分野において、一任型管理の取り組みが行われているところであるが、関係者の努力に期待したい。

2 著作権等管理事業法に基づく使用料の設定
 管理事業者が著作権等を一任型で管理している場合は、著作権等管理事業法により使用料設定の仕組みが整っている。特に市場の独占度が高い大規模な管理事業者については、利用者団体との協議を通じて使用料を設定することになっていることから(第23条第3項)、円滑な利用秩序を早期に形成するためには、必要に応じその仕組みを有効に活用する必要がある。

(4) 権利者所在情報の提供

 著作物等の利用にあたっては、そもそも利用許諾契約を結ぶべき著作者等の特定に困難を伴う場合が少なくない。特に映像コンテンツについては、多数の著作者等がコンテンツの制作に関与していることから、二次利用に当っての契約は複雑にならざるを得ない。著作者等の特定を容易ならしめるためには、各権利者団体等が協力して権利の所在情報を体系的に整理し、利用者に提供することができる体制を整備することが重要である。現在、権利者団体、コンテンツの製作者団体等から構成されるデジタル時代の著作権協議会(CCD)では、各団体が権利者所在データベースを構築し、コンテンツ製作者等の問い合わせに答えるためのシステム作りに取り組んでいるところであり、同システムの早期の実現に期待したい。

(5) 国内外の事例の研究

 情報技術の進展等によるコンテンツの利用方法の多様化や、国際的なコンテンツ流通の機会の拡大等を考えると、著作権等に関する契約のあり方を検討することは引き続き重要な課題である。例えば、米国等では契約システムが発達しており、コンテンツの円滑な流通が我が国以上に確保されていると言われるが、分野ごとの契約実態や著作者等の利益がどのように確保されているかなど、十分な研究が行われているとはいえない。したがって、今後の検討の基礎資料とするためにも、国内外の著作権契約の事例に関する情報を収集し、分析することが重要である。

(6) 文化庁の支援等

 (1)〜(5)の課題については、原則として、著作者等やコンテンツ製作者等、またはこれらを組織する団体等で取り組むべき事項であるが、制度に関する基礎知識や関連情報等の提供、また、課題に取り組むための相談などについては、文化庁も出来る限り協力すべきである。また、関係団体間の協議等についても、必要に応じ、協議の場を提供するなど、関係団体間の円満な合意形成に向けて積極的に支援する必要がある。
  なお、著作権法では、著作権契約に関する条項としては、第63条(著作物の利用の許諾)、第79条(出版権の設定)程度しかないことから、適切な著作権契約の締結を制度面で支援するという観点から、契約関係の規定の整備を進めるべきではないかとの意見があったところであり、今後の検討課題であると考えられる。



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