第6節 いわゆる「間接侵害」に係る課題等について

個人・団体名 意見
大阪弁護士会 第2 「第6節」間接侵害に係る課題について
  • 1 本件検討の概要
    • (1) 本件検討は、著作物を自ら(物理的に)利用行為をなすとは言い難い者(特許法等における間接侵害者あるいは侵害幇助者ともいうべき者)の行為について、当該行為の差止請求を認容するための実定法上の根拠を新たに創設する、立法的対応の検討を内容とするものである。
       このような間接侵害者あるいは侵害幇助者の例としては、著作権管理団体による管理著作物である音楽著作物を管理団体に無許諾で客に歌唱させるカラオケスナック(参考:最高裁昭和63年3月15日判決)、そのようなカラオケスナックに対して通信カラオケサービス等の提供を継続するリース業者(参考:大阪地裁平成15年2月13日判決)等が過去の裁判例に現れている。本件検討もこれらの裁判例に示された事例を挙げつつ、判例法理(本件検討は「カラオケ法理」と呼称する。)が過度に拡張適用されることによって、企業行動の予測可能性を損ないかねないとの問題認識に基づいて、冒頭に述べた立法的対応の必要性を説くものである。
    • (2) そして、本件検討は、立法的対応の一つの方向性として以下のような「間接侵害に係る一例としての立法案」を提示する(中間まとめ75頁(3))。

       「…従来の裁判例のうち自ら(物理的に)利用行為をなす者以外の者について侵害行為主体性を認めたものにおいては、当該者が『他者に行為をさせることにより侵害する』旨を判示したものが相当数あることから、このような『他者に行為をさせることにより侵害すると認められるような場合』について、(注:著作権法)第112条の差止請求の対象とすることとする案について、検討された。
       そして、その一例として、以下のような案が示された。

      •  他者に行為をさせることによるものも侵害に当たるとした上で、その一例として、専ら侵害の用に供せられる物等の提供等を行なうことを例示する。なお、このような、『専ら侵害の用に供せられる物等の提供その他の行為により他者に(侵害)行為をさせることにより侵害をする者』とは、言い換えると、その行為により、他者の侵害行為をそのコントロール下に置いており、(その行為をやめさせること等により)この他者の侵害行為を除去し、ないし、生じさせないことができる立場にある者のことであるといえる。」
    • (3) そのうえで、本件検討は上記2の案を一例として更にその妥当性を含め引き続き検討する必要があると結んでいる。
  • 2 意見
    • (1) 総論
      • 1 間接侵害者あるいは侵害幇助者(「著作物等につき自ら(物理的に)利用行為をなすとは言い難い者」)の行為を所定の要件のもとに差止請求の主体とする実質的必要性、及び、その処理を行ってきた従来の判例法理に拡大解釈のリスクが存在するとの問題認識については、本会としても異論がない。
         従って、上記のような行為(以下「間接侵害行為等」という。)に差止請求の根拠を付与するための著作権上の法的根拠を創設しようとする本件検討の基本的方向づけについても、本会として異論はない。
      • 2 この点を敷衍する。
         本件検討においても挙げられている最高裁昭和63年3月15日判決(民集42巻3号199頁。クラブキャッツアイ事件)を嚆矢に、過去の裁判例においては、著作物の直接的利用(口述、演奏、上演、送信可能化等)を自ら行なわない間接侵害行為等について、共同不法行為(民法719条2項)による損害賠償のみならず、当該行為の差止めを認めるべく間接侵害等行為者を著作権法112条1項の「著作権…を侵害するおそれがある者」に擬する理論を構築してきた。
         最高裁昭和63年3月15日判決は、平成11年著作権法改正による削除前の著作権法施行規則(昭和45年)附則3条1号に基づき旧著作権法(明治32年法)の適用(適法録音物の再生は著作権侵害としない)を受けることができる業態、即ち、「客に飲食をさせる営業」又は「音楽鑑賞のための特別の設備を備える業態」のいずれかに該当しない業態に、カラオケスナックやカラオケボックスという業態が該当する可能性があるという最判当時の状況を背景とするものである。カラオケスナックは客に飲食をさせる営業ではあるが「音楽鑑賞のための特別の設備」(ジュークボックスやオーディオ設備)を必ずしも備えているわけではないことから、また、カラオケボックスは「客に飲食をさせる営業」に必ずしも該当しないことから、管理著作物等の利用許諾を受けていなくても、旧著作権法の例に従いその営業を著作権侵害(演奏権侵害等)に問えないのではないかという見解が存在した。
         しかしながら、適法録音物の再生と生演奏とを切り分け、後者のみを演奏権侵害に擬していた明治32年法当時の状況は、現行著作権法(昭和45年法)立法当時において一変し、適法録音物の再生についても生演奏による利益還元と同様に著作権者に対する利益還元の必要性があると認識されるようになった。
         かかる状況を背景として、最高裁昭和63年3月15日判決は、客に歌唱を行なわせることによって利益を収受するカラオケスナックによる演奏を下記のように判示して演奏権侵害に擬する画期的判決をした。
         「客やホステス等の歌唱が公衆たる他の客に直接聞かせることを目的とするものであること(著作権法22条参照)は明らかであり、客のみが歌唱する場合でも、客は、上告人ら(注:カラオケスナック)と無関係に歌唱しているわけではなく、上告人らの従業員による歌唱の勧誘、上告人らの備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲、上告人らの設置したカラオケ装置の従業員による操作を通じて、上告人らの管理のもとに歌唱しているものと解され、他方、上告人らは、客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り入れ、これを利用していわゆるカラオケスナックとしての雰囲気を醸成し、かかる雰囲気を好む客の来集を図って営業上の利益を増大させることを意図したというべきであって、前記のような客による歌唱も、著作権法上の規律の観点からは上告人らによる歌唱と同視しうるものであるからである。したがって、上告人ら(注:カラオケスナック)が、被上告人(注:日本音楽著作権協会)の許諾を得ないで、ホステス等従業員や客にカラオケ伴奏により被上告人の管理にかかる音楽著作物たる楽曲を歌唱させることは、当該音楽著作物についての著作権の一支分権たる演奏権を侵害するものというべきであり、当該演奏の主体として演奏権侵害の不法行為責任を免れない。」
         その後、平成11年著作権法改正により昭和45年著作権法施行規則3条1項が削除されたことから、適法録音物の再生全般について演奏権侵害を問うことができるようになったが、著作権法38条は非営利目的で且つ演奏者に報酬が支払われない演奏、上演、口述等には著作権が及ばないため(即ちカラオケスナックあるいはカラオケボックスでの客の歌唱は著作権者が有する演奏権あるいは口述権を侵害しない)、著作物の経済的利用に対し規制を及ぼす論理として、昭和63年最高裁判決が構築した「管理支配性」の法理はその後も数々の事例で援用されるに至った。
      • 3 ただ、近時において、1著作物の直接利用者に対する管理支配性、2営利性を根拠に管理者(間接侵害等行為者)を著作権法112条1項の侵害行為主体に擬する見解が、昭和63年最高裁判決が述べた侵害主体擬制論のニュアンスに変容を遂げながら拡大的に解釈されるようになってきている。
         例えば、カラオケスナックに通信カラオケ機器をリースするリース業者に対し、大阪地裁昭和15年2月13日判決(判時1842号120頁 ヒットワン事件)は以下のように述べている。
         「著作権法112条1項にいう『著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者』は、一般には、侵害行為の主体たる者を指すと解される。しかし、侵害行為の主体たる者でなく、侵害の幇助行為を現に行う者であっても、(1)幇助者による幇助行為の内容・性質、(2)現に行われている著作権侵害行為に対する幇助者の管理・支配の程度、(3)幇助者の利益と著作権侵害行為との結び付き等を総合して観察したときに、幇助者の行為が当該著作権侵害行為に密接な関わりを有し、当該幇助者か幇助行為を中止する条理上の義務があり、かつ当該幇助行為を中止して著作権侵害の状態を除去できるような場合には、当該幇助行為を行う者は侵害主体に準じるものと評価できるから、同法112条1項の『著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者』に当たるものと解するのが相当である。けだし、同法112条1項に規定する差止請求の制度は、著作権等が著作権を独占的に支配できる権利(著作者人格権については人格権的に支配できる権利)であることから、この独占的支配を確保する手段として、(著権等の円満な享受が妨げられている場合、その妨害を排除して)著作権の独占的支配を維持、回復することを保障した制度であるということができるところ、物権的請求権(妨害排除請求権及び妨害予防請求権)の行使として当該具体的行為の差止めを求める相手方は、必ずしも当該侵害行為を主体的に行う者に限られるものではなく、幇助行為をする者も含まれるものと解し得る」。
         通信カラオケ装置のリース業者が物理的に「演奏権」を侵害していると評価できないのは勿論であるが、規範的な意味にせよ「演奏権」侵害者に擬する構成は些か技巧的にすぎるように思われる。そのため、学説からも「ヒットワン判決やファイルローグ判決には賛否両論があるところであるが、解釈論としては行きすぎではないとかと思われる。」との批判がされるに至った。
      • 4 本会も、上記の学説の批判及びこれと同旨を述べると思われる本件検討の基本的方向性に異論はない。
         通信カラオケ機器リース業者が無許諾演奏を行なわせるためにカラオケスナックに対してカラオケ機器を提供する行為と、ウェブサイトにおいてファイル交換サービスを提供する業者の行為とを、ともに112条1項により、特定の著作物についての演奏権侵害あるいは送信可能化権侵害に問うことは余りに技巧的であり、両者を共通に侵害行為主体に擬律する根拠を「管理支配性」及び「営利性」という評価に求めるとするならば何が「管理支配」に該当し何が該当しないかの予測可能性を失わせ、更に、112条違反に刑事罰も課せられることを併せて考えれば(著作権法119条1号)、このような「開かれた構成要件」によって罰則が発動されることは罪刑法定主義の観点からも妥当性を欠くことになる。
    • (2) 具体論
      • 1 次に、中間まとめにおいて本件検討が提案する立法案についての本会の見解を述べる。
         結論として、本会は、「112条1項の差止請求の対象」として、中間まとめに示される新たな行為類型を同条項で明文化することに対しては、なお慎重な検討を要するものと考える。
      • 2 本件検討は、「他者に行為をさせることにより侵害すると認められるような場合」をもって、112条1項の著作権等侵害行為に擬律し、その一例として「専ら侵害の用に供せられる物等の提供等を行なうこと」を例示するとしている。そして、「このような、『専ら侵害の用に供せられる物等の提供その他の行為により他者に(侵害)行為をさせることにより侵害をする者』とは、言い換えると、その行為により、他者の侵害行為をそのコントロール下に置いており、(その行為をやめさせること等により)この他者の侵害行為を除去し、ないし、生じさせないことができる立場にある者のことである」としている。
      • 3 しかしながら、上記の検討内容には次に述べる問題点がある。
        • ア 「他者に行為をさせる」或いは「専ら侵害の用に供せられる物等の提供その他の行為により他者に(侵害)行為をさせることにより侵害をする者」の概念は相変わらず曖昧であり、「予測可能性の欠如」という判例理論に対する危惧を解消するものとはなっていない。
           例えば、日本音楽著作権協会の許諾を得ていないカラオケスナックに対し、通信カラオケ装置を供給する行為は、「専ら侵害の用に供せられる物」の提供に該当すると自然に解釈することができる。しかしながら、ウェブサイト上のファイル交換サービスの提供あるいはファイル交換ソフトの提供は、著作権侵害とは何ら関係のない電子ファイルの交換に用いられることを企図しているともいえる。このような場合、当該ファイル交換ソフトが「専ら侵害の用に供せられる」ものに該当するか否かの判断は容易ではない。「特にデジタル技術の発展により、情報を利用し、従来では見られなかったような幇助的なビジネス・モデルが発生し、それに伴い著作権の侵害主体についても…侵害主体を幇助者にまで拡張することにより、プロバイダーや複製機器の製造販売業者、更には検索エンジンの提供業者等についても侵害主体とされる可能性が出てくる」との現行法上の判例論理に対する批判ないし問題点が、本件検討における上記案文において解消されているとは言い難い。
           著作権の適切な保護が文化の発展にとって重要なことは勿論だが、一方で、デジタル社会におけるインフラストラクチャー的役割を担う新技術が「専ら侵害の用に供せられる」との法文の解釈次第で著作権侵害に擬せられ技術開発に対する萎縮的効果を生ずることを、本会は危惧するものである。
        • イ 112条1項該当行為は、前述のとおり、著作権法119条1号により罰則が適用される行為である。罪刑法定主義の観点から、「専ら侵害の用に供せられる」といった開かれた構成要件によって新たな著作権侵害罪を創設するに等しい法改正は行うべきでなく,以下のようにすべきであると考える。
        • ウ 本件検討は、「『専ら侵害の用に供せられる物等の提供その他の行為により他者に(侵害)行為をさせることにより侵害をする者』とは、言い換えると、その行為により、他者の侵害行為をそのコントロール下に置いており、(その行為をやめさせること等により)この他者の侵害行為を除去し、ないし、生じさせないことができる立場にある者のことである」としている。
           しかし、前記の「言い換えると」以降の説明は継続的に直接侵害の温床となる状況を管理(機械のリース或いはウェブサイトの開設)している者には当てはまるが、単発的行為、例えばカラオケ機器の売切り、著作権隣接権侵害を惹起する録画システムの売切り(大阪地裁平成17年10月24日判決(判例時報1911号65頁 選撮見録事件))には該当しないという、過去の判例上差止めの対象とされた行為を規制の枠外に置いてしまう結論となる。そもそも選撮見録事件判決も結論の是非自体に議論がありうるところだが、当該事件の被告による行為も著作権法上違法という立場を本件見解が採用し、それを明文化することを試みているのであれば、「直接侵害行為を止めさせる」ことが出来ない立場の者は本件検討の新法案において非侵害者となるはずなので、首尾一貫しないことになってしまう。
           一方、「他者の侵害行為をコントロール下に置く」ことを新たな侵害行為の要件とした場合には、カラオケボックスの顧客(この顧客には著作権法38条1項が適用され著作権侵害が成立しない)を支配下において営業するカラオケスナックは規制対象とできるのかという問題も生ずる。
      • 3 以上のように、本件検討の立法案には予測可能性あるいは罪刑法定主義との関連性の更なる検討、過去の裁判事例との整合性の検討など更に検討すべき問題点を包含するものと考えられる。
         なお、前記2ウで示唆したとおり、継続的な侵害幇助行為と単発的な侵害幇助行為とは分けて考えた方がよい。「直接侵害者の存在」を要するかどうかも慎重な検討を要する。即ち、具体的な行為類型ごとに新たな侵害成立要件を細やかに検討する必要があり、そのように考えると、112条1項の改正による包括的な規制よりも113条の侵害とみなされる行為に具体的な侵害行為を盛り付ける方向性の検討の方が優れているように思われる。
         本件検討においては、「第113条において、いわゆる『間接侵害』行為に該当する具体的行為類型について、侵害とみなす行為として規定」する改正法立案の方向性を、「著作権の支分権の及ばない範囲まで権利の効力を実質的に確定する規定であるため、具体的に列記することによって反対解釈を招くおそれがあるとの意見があった」ことから見送ったという記述があるが(中間まとめ73頁11〜14行)、裁判例上の「カラオケ法理」の拡張解釈による著作権侵害概念の野放図な拡張あるいは予測可能性の欠如を本件検討における立法的対応の理由とする以上、新たなみなし侵害行為を明示的に法定した場合には、その反対解釈によって新たな要件に該当しない行為はコピーライトフリーであるとの解釈が導かれるのは当然であろう。
         従って、著作権法113条の改正という手法を採用するのに躊躇する理由はないと考える。
         著作権の適切な保護と第三者の予測可能性の調和を念頭におきつつ、罰則規定の適用においても罪刑法定主義に反しない処理を指向するのであれば、112条1項において包括的な侵害行為類型を新設するよりも、113条において具体的且つ肌理細やかなみなし侵害行為類型を新設する方向性(例えば、「侵害行為の用にのみ供される物等の提供行為」、或いは、「著作物の無断利用を幇助することを知り、且つ幇助行為を停止させることが出来る者が行なう幇助行為」)に目を向けるべきであると考える。
         加えて、昭和63年最高裁裁判決が、本来であれば著作権者に還元されるべき利益収受に対する規制の必要性を背景として下された事情を勘案するならば、新たな侵害行為類型の構成要件として「営利目的」を盛り込むことも検討する必要があると考える。
    • (3) 結語
       以上、本件検討についてはその基本的方向性に異論はないが、新立法の具体案については更なる慎重な検討を要するものと考える。
社団法人 電子情報技術産業協会  中間まとめに述べられている通り、いわゆる「カラオケ法理」の適用には、過度な拡張が見受けられ、著作物の利用に多少でも関わる事業の遂行において、予見可能性の点から大きな問題が生じているものと考えられます。したがって、司法判断における過度な拡張を謙抑的にする、間接侵害規定の立法が望まれます。「まとめ」(76ページ)にあるように、第112条所定の差止請求の対象となる「侵害」につき、「一定の要件を満たす他者の行為もこれに該当することを、法律上明確化する」ことは、総論としてよいとしても、「一定の要件」をいかなるものとすべきかにつき、利用と保護のバランスに配慮することを条件に、「慎重に検討を進める」とする中間まとめの立場に賛同します。
社団法人日本図書館協会

 私的録音録画小委員会において「違法配信事業者から入手した著作物の録音録画物からの私的録音録画」についての審議が行われているが,いわゆる「カラオケ法理」により,複製行為者が実際に複製機器を操作した者ではなく,複製機器の設置者であると認定されるという前提に立てば,図書館や公民館あるいはネットカフェ等の,端末を設置し情報が提供される場で,利用者や来店者が「違法配信事業者から入手した著作物の録音録画物からの私的録音録画」を行ったとしても,当該複製行為の行為者は図書館や公民館あるいはネットカフェ等ということになる。

 当該複製行為の位置付けについても,例えば著作権法30条1項に基づく「私的使用のための複製」とし,その複製行為者が図書館や公民館あるいはネットカフェ等であるとするならば,組織・団体が「私的使用のための複製」を行っていることになり,法運用上,種々の問題が生じると思われる。
 また,当該複製行為に使用されるパーソナルコンピュータ等の端末は,著作権法30条1項1号にいう「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器」に該当すると考えられるが,附則5条の2にいう「専ら文書又は図画の複製に供するもの」に該当するかは疑問であり,複製行為者を利用者や来店者とした場合であっても,著作権法30条1項に基づく複製とすることには無理があると考えられる。
 さらに,図書館に限定して考えた場合,著作権法31条の「図書館等における複製」の権利制限規定があるが,インターネット情報は同条の「図書館資料」には該当しないことから,当該複製行為の位置付けを著作権法31条に基づくものとすることにも無理がある。
 これらのことから,今や,流通する情報の中で重要な位置をしめるインターネット上の情報の提供に支障をきたしている状況であり,「間接侵害」の検討に関しては,上記のような問題を念頭に置きつつ検討願いたい。
日本民主主義著作者総連合  著作権法は他の知的財産法と比べても、「間接侵害」について必ずしも保護に厚くなく、判例においても「カラオケ法理」の採用など、法解釈論的に無理を重ねている。保護される法益は価値のあるものであり、立法化に向けて検討していること、また「『管理支配』の内容自体が多義的であり、例えば直接行為者の自由意思をどの程度拘束する場合が含まれるのか、また物の提供による侵害が含まれるかどうかなどが不明確ではないか」(75ページ)との指摘が出る等、非常に慎重に検討している点について、賛意と敬意を表したい。
 しかし創作者として気になるのは、やはり、差止請求対象として想定される範囲が過剰に広範になってしまい、創作活動の萎縮を招くのではないかということである。
 間接侵害に係る一例としての立法案を見るに、「専ら侵害の用に供される物等の提供その他の行為により他者に(侵害)行為をさせることにより侵害をする者」について、「その行為により、他者の侵害行為をそのコントロール下に置いており、(その行為をやめること等により)この他者の侵害行為を除去し、ないし、生じさせないことができる立場にある者のことであるといえる」と示されている。この文面を読むと、例えばいわゆる同人誌の即売会のなかで、主として「パロディー」作品を提供する即売会の運営者が該当してしまうように思われる。非オリジナルの同人誌をどのように評価しているか、明らかでないため、気になるところである。
 このような事例をどう評価するか検討していただきたいと願うと同時に、現在のいわゆる「萌え」文化の隆盛を見るに、こうした文化を一意に違法化してはならないと思われる。もちろん創作者本人に許諾を得ている場合もあるだろうし、そうでなくても黙示の許諾は得ているかもしれない。しかし、この分野は経済規模と比して非常にセンシティブかつグレーな文化であり、またそうであるからこそ、ここまで発展してきたとも言える。
 先述したように、知識労働者は、創作者であると同時に利用者であるとも言える。
 われわれは既に流布している創作物を、時として風刺し、倣って学び、新たなる創作物として昇華させることが多くある。その際対象となるのは、古典的な創作物に留まるというわけではない。時事的な流行や同時代の著作物を利用することも多い。以上のような意図的な利用を保護することも、文化の発展や多様性を考えると必要であると考えており、民著総連としては、「同人文化」を比較的肯定的に捉えている点は明言しておきたい。
社団法人 日本レコード協会
  • (1)差止請求の対象を明確にするため、著作権法第112条の「侵害」に該当する行為は、著作物等につき自ら(物理的に)利用行為をなす行為に限定されるものではなく、一定の要件を満たす他者の行為もこれに該当しうることを法律上明確にすることは意義があると考えるが、従来裁判所が事案に応じて適切に判断してきた「行為主体」の判断が、法制化により硬直化することのないよう留意すべきである。
  • (2)インターネットを利用した著作権等の侵害においては、損害額の算定に必要な侵害回数を立証することが困難な場合が多く、権利者の救済が必ずしも適切には図られていない。従って、被害者が権利侵害の事実を立証した場合には、具体的損害額を立証しなくても、一定の法定額を損害賠償額として請求することができる制度(法定賠償制度)を創設する方向で、仔細の検討を加速すべきである。
ニフティ株式会社  司法判断における「カラオケ法理」の適用には、過度な拡張が見受けられる。そのため、弊社のようなインターネットサービスの提供者が、利用者等による著作物の利用により、(物理的に)利用行為をなす者ではないのにもかかわらず著作権侵害の主体とされ、サービスを差止められるリスクの予見可能性が低く、大きな問題である。
 したがって、「カラオケ法理」の過度な拡張を抑制するような「間接侵害」立法であれば、賛成する。
 立法の際、「まとめ」(p76)にあるように、第112条の差止請求の対象となる「侵害」行為に、「一定の要件を満たす他者の行為もこれに該当することを、法律上明確化する」する手法をとるのであれば、「一定の要件」をいかなるものとすべきかにつき、民法の物件的請求権等の基本理論との整合性に配慮し「慎重に検討を進める」ことについては賛同するが、これまで「カラオケ法理」が差止請求に適用された事例(p73〜74)等について無批判に整合性をとることが無いようにされたい。
社団法人 日本音楽著作権協会
  • (1)現行規定の適用による対応の状況について」
     「直接侵害者(自ら(物理的に)利用行為をなす者)以外の者に対しても差止請求を認めるよう立法的対応が必要である」との結論を支持する。
  • (2)1立法の方向性について」
     「第112条において差止請求の対象を明確化することが妥当であり現実的である」、「第112条の「侵害」者の範囲が、自ら(物理的に)利用行為をなす者のみに限定されないことを明確化する」(73ページ)との結論を支持する。
  • (2)2差止請求対象として想定される範囲について」
     例示されたケースが差止請求の対象となるのは当然として、既に裁判例で著作権保護の実効性を確保すべく差止請求が認容されている類型につき、今回の立法措置によって保護のレベルが後退する事態を避けるためには、「2ちゃんねる小学館事件」(東京高判平成17年3月3日)の類型も差止請求の対象範囲に含まれることが明確になるようにすべきである。
     また、外国の裁判例に目を向ければ、P2Pソフトウェアの配付者の著作権侵害責任を認めた「MGM Studios Inc. v. Grokster、Ltd.事件」(米国連邦最高裁判決)やハイパーリンクを提供するウェブサイト運営者の著作権侵害責任を認めた「Cooper v. Universal Music Australia Pty. Ltd.事件」(オーストラリア連邦控訴審判決)の類型も念頭に置く必要がある。
     P2Pソフトウェアやハイパーリンクそのものは適法目的に利用されることもあるが、これらサービスの提供者の行為と著作権侵害との関連性や主観的態様を考慮すれば差止の対象とすることが妥当である場合がある。仮に、今回の立法措置によってこういった類型が差止の対象外であるかのような解釈が生ずるとすれば、法体系の相違を勘案したとしても、主要先進国における著作権保護のレベルを下回ることとなってしまうため、注意が必要である。
  • (2)3差止請求の対象とすべき「間接侵害」の判断基準について」

     侵害状態を是正することができる立場にあることを「相当因果関係」という用語で表現していると理解してよいのであれば、選択肢bが妥当であると考える。
     上記のMGM事件及びCooper事件の類型を侵害ととらえて差止の対象とするためには、行為者の認識を違法性判断の要素とすることも考えられる。その場合には、選択肢bを基本として、行為者の認識を違法性判断の要素の一つとすることを明らかにしておく必要がある。

     早期に法定賠償制度を創設すべきであると考える。
     ファイル交換などネットワーク上における著作権侵害の場合は、受信複製物の数量の特定が難しいため、第114条1項又は3項に基づいて損害額を推定することは困難であるし、侵害者が「その侵害の行為により利益を受けて」いないために同条2項を適用することもできない場合が多い。被害者において損害額の立証をすることが困難である場合にも、著作権の保護を実効性のあるものとするためには、法定賠償制度を創設する必要がある。
日本知的財産協会  いわゆる「カラオケ法理」の過度な拡張は予測可能性を欠き、実務上弊害を生じるおそれがあるため、間接侵害について、著作権法上何らかの規定をおくべきであるとの趣旨に賛同する。
 但し、著作物等の利用態様はさまざまであり、利用行為の類型化が困難であることから、過去の判例の検討にとどまらず、現状及び将来予測される利用態様も念頭におきつつ、慎重に検討したうえで制度設計を行っていただきたい。また、間接侵害規定は権利者及び利用者の双方にとって影響が大きいものであり、具体的要件が明確となった段階で改めて意見募集の機会を設けていただきたい。
IFPA & RIAA

INDIRECT INFRINGEMENT OF COPYRIGHTS AND INJUNCTIVE RELIEF(p. 71-76, Section 6)

We strongly support the proposal that the law should be clarified to ensure that injunctions may be issued in cases of indirect liability. In order to effectively prevent ongoing infringement, injunctive relief (both preliminary and permanent) must be available against indirect infringers. subject of course to the usual judicial discretion to respond to the particular circumstances of the case. This is particularly critical in the online environment, where services built on the unauthorised dissemination of music files deliberately induce and facilitate mass infringement. The only effective way to stop the haemorrhaging of valuable content is to enjoin the ongoing service.either to shut it down or to condition its continuation on appropriate preventative measures such as filtering.

We also note that the lack of clearly authorised injunctive relief in the law is anomalous internationally. The standard approach in other countries is to have injunctive relief available for any act of infringement, whether direct or indirect. In fact, we are not aware of any other country which does not provide for injunctive relief against indirect infringers, and have not experienced any difficulties in obtaining such relief elsewhere.

It is likewise essential that Japan adopt legislation that provides for the ability to obtain injunctive relief against a service that provides access to infringing materials, regardless of where the infringing materials are stored, and without regard to whether the access provider may otherwise be liable as an indirect infringer. This is particularly important where the infringing materials are stored outside of the jurisdiction of a Japanese court, and where obtaining prompt injunctive relief may be the only mechanism by which access to unauthorised materials may be prevented.

We therefore submit that it would be appropriate and timely for Japan to clarify its law to provide for injunctive relief in cases of indirect liability.

STATUTORY DAMAGES(p. 71-76, Section 6)

The Interim Report states that: “Regarding the statutory damage and other mechanisms that help the copyright holders counting the number of infringements or amount of damage, the subcommittee concluded this issue should be reviewed cautiously since the discussions have not been reached consensus as to whether the copyright law should have a special system, which civil law and other IP laws do not have.”

We hope that future discussions will lead to the establishment of a concensus to join the many nations around the world that provide for a system of statutory or exemplary damages. Statutory damages are designed both to provide stronger deterrents against copyright infringement and to better compensate copyright owners for losses suffered because of infringement. They ease the evidentiary burden on the plaintiff in proceedings for infringement, provide greater certainty and predictability, deter future infringements, reduce the cost of litigation and encourage the parties to settle matters out of court.

The problem is that damages in copyright cases can be extremely difficult to prove in court. A copyright owner who commences proceedings for infringement must prove not only the infringement, but also the losses suffered as a result, and calculating damages can be a challenging process. In many civil law jurisdictions, the only damages that can be paid are those related to the specific infringing act that has been specifically pled and proven before the court. In order to prove the harm, the rightsholder must produce expert witnesses and/or other proof, such as documents, licenses, witnesses, etc. These items may be difficult to obtain or produce, and delay resolution of the case. Because the extent of infringement can be difficult to prove, copyright owners are often inadequately compensated for losses suffered as a result of infringement of their rights. This discourages them from bringing enforcement actions and, in effect, acts as an incentive to infringement and promotes an attitude that payment of damages is a tolerable cost of doing business for an infringer.

As a result, many countries have adopted an alternative method of calculating damages: namely, providing for a set amount of money (or a sum within a pre-set range) to be paid for each infringing act or with respect to each infringed work (or other protected subject matter such as a phonogram or performance). Such a statutory damages system produces some important benefits:
  • rom the rightsholder's perspective, statutory damages obviate the onerous and time-consuming requirement of proving the value of the infringement, lost profits, etc.;
  • rom the judiciary's perspective, judges have guidelines by which to help quantify the damages, thus simplifying their decision-making and easing their caseloads;
  • rom the infringer's point of view, statutory damages provide a clear picture of the national law and its consequences so there is a deterrent effect;
  • All parties and society as a whole benefit from the greater certainty provided by statutory damages. Litigants can calculate the defendant's exposure more accurately at the outset of the case, thus facilitating out of court settlements that contribute to judicial efficiency and save time, efforts and lawyers' lees.
In sum, we hope that Japan will move forward quickly to frame and adopt legislation that will improve the practical ability to enforce against infringements, and which will provide significant deterrence in an era where infringement is increasingly easy and tempting for otherwise law abiding citizens.

前のページへ

次のページへ