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2.裁判例からのアプローチ

 以下,本件に関連する主要な裁判例を概観する。

(1) カラオケ法理(クラブ・キャッツアイ法理)関係

 
1  侵害主体を著作権法の規律の観点から規範的に捉えるとされるものとして,裁判例上,次のようなカラオケ法理(クラブ・キャッツアイ法理)と呼ばれる法理が用いられている。
 〔1〕最判昭和63年3月15日民集42巻3号199頁〈クラブ・キャッツアイ事件〉は,スナック等の経営者が,カラオケ装置とカラオケテープとを備え置き,ホステス等の従業員においてカラオケ装置を操作し,客に歌唱を勧め,客の選択した曲目のカラオケテープの再生による演奏を伴奏として他の客の面前で歌唱させるなどし,もって店の雰囲気作りをし,客の来集を図って利益を上げることを意図しているという事実関係のもとにおいては,ホステス等の従業員が歌唱する場合はもちろん,客が歌唱する場合を含めて,演奏(歌唱)という形態による当該音楽著作物の利用主体は上記経営者であると判示する。その理由付けとしては,客のみが歌唱する場合でも,客は,上記経営者と無関係に歌唱しているわけではなく,上記経営者の従業員による歌唱の勧誘,上記経営者の備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲,上記経営者の設置したカラオケ装置の従業員による操作を通じて,上記経営者の管理のもとに歌唱しているものと解され,他方,上記経営者は,客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り入れ,これを利用していわゆるカラオケスナックとしての雰囲気を醸成し,かかる雰囲気を好む客の来集を図って営業上の利益を増大させることを意図していたというべきであって,前記のような客による歌唱も,著作権法上の規律の観点からは上記経営者による歌唱と同視し得るとする。(注1)(注2)
 なお,この法廷意見に対しては,客のみが歌唱する場合についてまで,営業主たる上記経営者をもって音楽著作物の利用主体と捉えることは,いささか不自然であり,無理な解釈ではないかとし,この場合には,客の自由意思によって音楽著作物の利用が行われているのであるから,営業主たる上記経営者が主体的に音楽著作物の利用にかかわっているということはできず,これを上記経営者による歌唱と同視するのは,擬制的にすぎて相当でないとする伊藤正己裁判官の意見が付されている。
 上記のカラオケ法理(クラブ・キャッツアイ法理)については,〔2〕最判平成13年3月2日民集55巻2号185頁〈カラオケリース事件(ビデオメイツ事件)〉においても,基本的に再確認されている。
 このカラオケ法理は,カラオケスナック等の場合だけでなく,カラオケボックスの場合においても,下級審裁判例において踏襲されている。例えば,〔3〕東京地判平成10年8月27日知裁集30巻3号478頁〈カラオケボックス・ビッグエコー事件〉は,カラオケ店舗の経営者が,同店舗の各部屋にカラオケ装置と共に楽曲索引を備え置いて顧客の選曲の便に供し,顧客の求めに応じて従業員がカラオケ装置を操作して操作方法を教示するなどし,顧客は指定された部屋において定められた時間の範囲内で時間に応じた料金を支払って歌唱し,歌唱する曲目は上記店舗経営者が用意したカラオケソフトに収納されている範囲に限られるという事案につき,顧客による歌唱は,上記店舗経営者の管理の下で行われているというべきであり,また,カラオケボックスの営業の性質上,上記店舗経営者は,顧客に歌唱させることによって直接的に営業上の利益を得ていることからすれば,各部屋における顧客の歌唱による著作物の演奏についても,その主体は上記店舗経営者であると判示している。
 また,前記カラオケ法理の適用範囲は,カラオケ関係以外にも拡大されてきている。例えば,〔4〕東京地判平成10年11月20日知裁集30巻4号841頁〈アダージェット・バレエ作品振付け事件〉は,舞踊の著作物の上演の主体につき,実際に舞踊を演じたダンサーに限られず,当該上演を管理し,当該上演による営業上の利益を収受する者も,舞踊の著作物の上演の主体であり,著作権又は著作者人格権の侵害の主体となり得ると判示している。

(注1)  そして,本文上記の点から,上記経営者が,権利者の許諾を得ないで,ホステス等従業員や客にカラオケ伴奏により上記経営者の管理にかかる音楽著作物たる楽曲を歌唱させることは,当該音楽著作物についての著作権の一支分権たる演奏権を侵害するものというべきであり,当該演奏の主体として演奏権侵害の不法行為責任を免れないとしている。
(注2)  ここでは、このような法理の根拠としては、「著作権法上の規律の観点」というものが挙げられているにとどまるようであって、上記の管理と利益という2点との関係も必ずしも明らかではないように見受けられる。

2  前記カラオケ法理は,ファイル交換事件関係でも,基本的には踏襲されているもののように見受けられる。
 〔5〕東京地中間判平成15年1月29日判時1810号29頁〈ファイルローグ事件中間判決〉は,ピア・ツー・ピア方式による電子ファイル交換サービスの事案において,同サービスの提供者が,送信可能化権及び自動公衆送信権を侵害していると解すべきか否かについては,a) 同サービス提供者の行為の内容・性質,b) 利用者のする送信可能化状態に対する同サービス提供者の管理・支配の程度,c) 同サービス提供者の行為によって受ける同者の利益の状況等を総合斟酌して判断すべきであるとした上で,1)同サービスは,MP3ファイルの交換に係る分野については,利用者をして,市販のレコードを複製したMP3ファイルを自動公衆送信及び送信可能化させるためのサービスという性質を有すること,2)同サービスにおいて,送信者がMP3ファイルの自動公衆送信及び送信可能化を行うことは同サービス提供者の管理の下に行われていること,3)同サービス提供者も自己の営業上の利益を図って,送信者に同行為をさせていたことから,同サービス提供者を,侵害の主体であると判示している。(注3)ここでは,前記カラオケ法理と基本的に共通するb),c)の点に加えて,a)の点を考慮要素としている点,また,これらの3つの要素につき,「総合斟酌」するとしている点が注目される。
 なお,同事件の控訴審の〔6〕東京高判平成17年3月31日最高裁HP(平16(ネ)405)(注4)〈ファイルローグ事件控訴審判決〉は,単に一般的に違法な利用もあり得るというだけにとどまらず,同電子ファイル交換サービスが,その性質上,具体的かつ現実的な蓋然性をもって特定の類型の違法な著作権侵害行為を惹起するものであり,同サービス提供者がそのことを予想しつつ同サービスを提供して,そのような侵害行為を誘発し,しかもそれについての同者の管理があり,同者がこれにより何らかの経済的利益を得る余地があるとみられる事実があるときは,同者はまさに自らコントロール可能な行為により侵害の結果を招いている者として,その責任を問われるべきことは当然であり,同者を侵害の主体と認めることができるというべきであると判示している。その上で,a) 同サービスの性質,b) 管理性,c) 同サービス提供者の利益の存在の各点につき検討し,これら各点を総合考慮すれば,同サービス提供者は,同サービスによる本件管理著作物の送信可能化権及び自動公衆送信権の侵害主体であると認めることができるとしている。

(注3)  上記中間判決の主体に関する主文は、「被告有限会社日本エム・エム・オーが運営する『ファイルローグ』(File Rogue)という名称の電子ファイル交換サービスにおいて、同サービスの利用者が、原告の許諾なく、別紙楽曲リスト(上)及び同(下)記載の各音楽著作物をMP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式で複製した電子ファイルを利用者のパソコンの共有フォルダ内に蔵置した状態で、同パソコンを同被告の設置に係るサーバに接続させる行為は、上記音楽著作物について原告の有する著作権(自動公衆送信権及び送信可能化権)を侵害する行為に当たり、同被告がその著作権侵害行為の主体であると認められる。」というものである。また、同事件の終局判決(東京地判平成15年12月17日判時1845号36頁)の差止めの主文は、「被告有限会社日本エム・エム・オーは、被告有限会社日本エム・エム・オーが『ファイルローグ』(File Rogue)という名称で運営する電子ファイル交換サービスにおいて、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す、利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに別紙楽曲リストの『原題名』欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び『アーティスト』欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。姓又は名のいずれか一方のみの表記を含む。)の双方が表記されたファイル情報に係る、MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製された電子ファイルを送受信の対象としてはならない。」というものである。
(注4)  東京高判平成17年3月31日最高裁HP(平16(ネ)446)も同旨。

3  また,「録画ネット」との名称で,インターネット回線を通じてテレビ番組の受信・録画機能を有するパソコンを操作する方法により,海外など遠隔地においてテレビ番組の受信・視聴を可能とするサービスを提供している事業者(債務者・抗告人)に対して,放送事業者(債権者・相手方)が,上記サービスが,債権者の有する著作隣接権を侵害しているとして,上記サービスにおいて債権者の放送を複製の対象とすることの差止めを求めた仮処分命令申立の事案(保全抗告審)において,〔7〕知財高決平成17年11月15日(平成17年(ラ)第10007号)〈録画ネット事件抗告審決定〉は,複製行為の主体について,認定に係る事情(注5)によれば,「抗告人が相手方の放送に係る本件放送についての複製行為を管理していることは明らかである」とし,「また,抗告人は,本件サイトにおいて,本件サービスが,海外に居住する利用者を対象に日本の放送番組をその複製物によって視聴させることを目的としたサービスであることを宣伝し,利用者をして本件サービスを利用させて,毎月の保守費用の名目で利益を得ているものである」とした上で,「上記各事情を総合すれば,抗告人が相手方の放送に係る本件放送についての複製行為を行っているものというべきであり,抗告人の上記複製行為は,相手方が本件放送に係る音又は影像について有する著作隣接権としての複製権(著作権法98条)を侵害するものである」と判示している。(注6)(注7)ここでは,抗告人の複製行為の主体性が肯定されているところ,その根拠については必ずしも明確ではない面もあるが,基本的には,前記のカラオケ法理に依拠するもののように見受けられよう。

(注5)  「1本件サービスは,抗告人自身が本件サイトにおいて宣伝しているとおり,海外に居住する利用者を対象に,日本の放送番組をその複製物によって視聴させることのみを目的としたサービスである,2本件サービスにおいては,抗告人事務所内に抗告人が設置したテレビパソコン,テレビアンテナ,ブースター,分配機,本件サーバー,ルーター,監視サーバー等多くの機器類並びにソフトウェアが,有機的に結合して1つの本件録画システムを構成しており,これらの機器類及びソフトウェアはすべて抗告人が調達した抗告人の所有物であって,抗告人は,上記システムが常時作動するように監視し,これを一体として管理している,3本件サービスで録画可能な放送は,抗告人が設定した範囲内の放送(抗告人事務所の所在する千葉県松戸市で受信されたアナログ地上波放送)に限定されている,4利用者は,本件サービスを利用する場合,手元にあるパソコンから,抗告人が運営する本件サイトにアクセスし,そこで認証を受けなければ,割り当てられたテレビパソコンにアクセスすることができず,アクセスした後も,本件サイト上で指示説明された手順に従って,番組の録画や録画データのダウンロードを行うものであ」るとの事実が認定されている。
(注6)  この〔7〕(抗告棄却)が維持した原仮処分決定の主文は、「債務者は、債務者が『録画ネット』との名称で運営している放送番組の複製・送信サービスにおいて、別紙放送目録記載の放送に係る音又は影像を、録音又は録画の対象としてはならない。」というものである。
(注7)  上記〔7〕と同じ事案について、〔8〕東京地決平成17年5月31日(平16(モ)15793)〈録画ネット事件仮処分異議決定〉は,「録画ネット」という名称で運営している放送番組の複製・送信サービスにおいて,同サービスの利用者と同サービスの提供者が,当該放送の複製を共同行為者として行っているとして,同提供者への差止めを肯定している(原決定認可)。なお,同事件の原仮処分決定である〔9〕東京地決平成16年10月7日判時1895号120頁(平16(ヨ)22093)〈録画ネット事件仮処分決定〉においては,同サービスにおける複製の主体は,同サービスの提供者であるとして,同者への差止めを肯定していた。

(2) 侵害行為の幇助者に対する差止請求の可否

   〔10〕大阪地判平成15年2月13日判時1842号120頁〈通信カラオケ装置リース事件(ヒットワン事件)〉は,著作権法第112条第1項にいう「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」は,一般には,侵害行為の主体たる者を指すと解されるが,侵害行為の主体たる者でなく,侵害の幇助行為を現に行う者であっても,a)幇助者による幇助行為の内容・性質,b)現に行われている著作権侵害行為に対する幇助者の管理・支配の程度,c)幇助者の利益と著作権侵害行為との結び付き等を総合して観察したときに,幇助者の行為が当該著作権侵害行為に密接なかかわりを有し,当該幇助者が幇助行為を中止する条理上の義務があり,かつ当該幇助行為を中止して著作権侵害の事態を除去できるような場合には,当該幇助行為を行う者は侵害主体に準じるものと評価できるから,「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に当たるとして,一定の場合において幇助者に対する差止請求を肯定している。(注8)(注9)具体的には,歌詞・楽曲の演奏・上映による著作権侵害行為の主体をカラオケ店舗の経営者とした上で,カラオケ装置・楽曲データをリース契約・通信サービス提供契約によって提供する者である被告は,カラオケ店舗経営者による上記著作権侵害行為を故意により幇助する者であるとした上で,上記のような一般論を事案に当てはめて,被告に対する差止めを肯定している。(注10)(注11)
 これに対して,〔11〕東京地判平成16年3月11日最高裁HP(平15(ワ)15526)〈2ちゃんねる小学館事件第一審判決〉は,著作権法第112条第1項は,著作権の行使を完全ならしめるために,権利の円満な支配状態が現に侵害され,あるいは侵害されようとする場合において,侵害者に対し侵害の停止又は予防に必要な一定の行為を請求し得ることを定めたものであって,いわゆる物権的な権利である著作権について,物権的請求権に相当する権利を定めたものであるが,同条に規定する差止請求の相手方は,現に侵害行為を行う主体となっているか,あるいは侵害行為を主体として行うおそれのある者に限られると解するのが相当であるとして,特許法第101条や商標法第37条のような規定を要するまでもなく,権利侵害を教唆,幇助し,あるいはその手段を提供する行為に対して,一般的に差止請求権を行使し得るものと解することはできないと判示する。(注12)(注13)
 また,現に著作権等の侵害が行われている場合,あるいは行われるおそれの高い場合に,権利を侵害された者において侵害行為を行った主体に対する差止請求を行うことが容易ではない一方で,幇助者の行為が著作権等の侵害行為に密接な関わりを有し,かつ幇助者が被害の拡大を容易に防止することができる立場にあるような場合には,当該幇助行為を行う者は著作権等の侵害主体に準ずる者として,著作権法第112条第1項に基づく差止請求の相手方になり得るという前記大阪地判の立論とほぼ同様の主張については,採用することができないと明確に判示している。(注14)
 また,「選撮見録」という商品名で集合住宅向けのハードディスクビデオレコーダーシステム(被告商品)を販売している事業者である被告に対して,放送事業者である原告が,放送事業者として有する著作隣接権(複製権,送信可能化権)を侵害するとして,使用の差止め,商品の販売差止め,商品の廃棄を求めた事案において,〔13〕大阪地判平成17年10月24日判時1911号65頁〈選撮見録事件〉は,「全体としてみて、被告は、設置者が被告商品によって録画する行為を幇助しているということはできても、録画の主体として被告商品により録画しているというためには、これを認めるに足りる証拠がない」(注15)とした上で,「被告が複製ないし送信可能化の主体ではない場合における被告商品の販売差止め等の可否」につき検討を加える。まず「著作権法112条1項の適用による差止め」については否定しつつも(注16),次のように,「著作権法112条1項の類推による差止め」については,これを肯定している。すなわち,「本件においては、1被告商品の販売は、これが行われることによって、その後、ほぼ必然的に原告らの著作隣接権の侵害が生じ、これを回避することが、裁判等によりその侵害行為を直接差し止めることを除けば、社会通念上不可能であり、2裁判等によりその侵害行為を直接差し止めようとしても、侵害が行われようとしている場所や相手方を知ることが非常に困難なため、完全な侵害の排除及び予防は事実上難しく、3他方、被告において被告商品の販売を止めることは、実現が容易であり、4差止めによる不利益は、被告が被告商品の販売利益を失うことに止まるが、被告商品の使用は原告らの放送事業者の複製権及び送信可能化権の侵害を伴うものであるから、その販売は保護すべき利益に乏しい。」とした上で,「このような場合には、侵害行為の差止め請求との関係では、被告商品の販売行為を直接の侵害行為と同視し、その行為者を『著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれのある者』と同視することができるから、著作権法112条1項を類推して、その者に対し、その行為の差止めを求めることができるものと解するのが相当である。」と判示して,被告に対する差止めを著作権法112条1項の類推を根拠に(注17)肯定している。(注18)

(注8)  その理由としては、「物権的請求権(妨害排除請求権及び妨害予防請求権)の行使として当該具体的行為の差止めを求める相手方は、必ずしも当該侵害行為を主体的に行う者に限られるものではなく、幇助行為をする者も含まれるものと解し得ることからすると、同法112条1項に規定する差止請求についても、少なくとも侵害行為の主体に準じる立場にあると評価されるような幇助者を相手として差止めを求めることも許容されるというべきであり、また、同法112条1項の規定からも、上記のように解することに文理上特段の支障はなく、現に侵害行為が継続しているにもかかわらず、このような幇助者に対し、事後的に不法行為による損害賠償責任を認めるだけでは、権利者の保護に欠けるものというべきであり、また、そのように解しても著作物の利用に関わる第三者一般に不測の損害を与えるおそれもないからである。」としている。
(注9)  なお、特許法との関係に関しては、「著作権法は、113条に侵害とみなす行為についての規定を置いているが、特許法のような間接侵害に関する規定を置いていないから、特許法との対比からすると、著作権法は、幇助的ないし教唆的な行為を行う者に対する差止請求を認めていないとの解釈も考え得るところであろう。」としつつも、「しかしながら、特許法と著作権法とは法領域を異にするものであるから、特許法における間接侵害の規定が著作権法にないとしても、そのことから、直ちに、著作権法が幇助的ないし教唆的な行為を行う者に対する差止請求を認めていないと解する必然性はない。」、「しかも、特許法における間接侵害の規定は、直接的な侵害行為がされているか否かにかかわらず侵害行為とみなすものであるところ、上記…において著作権法112条1項の差止請求の対象に含めるべきであるとする行為は、現に著作権侵害が行われている場合において、その侵害行為に対する支配・管理の程度等に照らして侵害主体に準じる者と評価できるような幇助行為であるから、特許法上の間接侵害に当たる行為とその適用場面を同一にするものではない。」、「したがって、著作権法において特許法上の間接侵害に該当する規定が存在しないことは、著作権法112条1項の差止対象の行為について上記…で述べたように解することの妨げになるものではない。」
(注10)  「1被告は、本件各店舗において管理著作物に係る歌詞・楽曲の演奏・上映行為を行うについて、必要不可欠といえるカラオケ装置(同装置に蓄積された楽曲データを含む。)を提供していること、2被告は、本件各店舗にカラオケ装置をリースするに際し、管理著作物に係る使用許諾契約の締結又申込みの有無を確認すべき条理上の注意義務を怠り、そのような確認をしないでカラオケ装置を引き渡したものであり、しかも、その後、現に本件各店舗の経営者が原告の許諾を受けないで管理著作物に係る歌詞・楽曲の演奏・上映による著作権侵害行為を行っていることを知りながら、これら経営者に許諾を受けることを促し、それがされない場合にはリース契約を解除してカラオケ装置の停止の措置をとり、カラオケ装置を引き揚げるべき条理上の注意義務に反して放置しているものであること、3被告は、同カラオケ装置について、作動可能にするか作動不能にするかを決める制御手段を有していること、4被告が得るリース料は、本件各店舗において管理著作物に係る歌詞・楽曲の演奏・上映行為と密接な結び付きのある利益といえることからすると、被告は、本件各店舗で行われている著作権侵害行為の侵害主体に準じる立場にあると評価できる幇助行為を行っており、かつ、当該幇助行為を中止することにより著作権侵害状態を除去できる立場にあるというべきであるから、著作権法112条1項の『著作権を侵害する者又は侵害するおそれのある者』に当たると解するのが相当である。」と結論付けている。なお、「被告は本件各店舗のカラオケ装置の作動を停止させる措置として、通信回線を経由して一定の信号を送信することにより楽曲データの使用を不能にさせるという容易な方法を採り得るのであり、上記のように被告に侵害停止義務を認めたとしても、被告に過大な負担を負わせるものではない。」と付言している。
(注11)  差止めの主文は、「被告は、別紙『無許諾店舗一覧表』記載の店舗に対し、別紙『楽曲リスト』記載の音楽著作物のカラオケ楽曲データ(歌詞データを含む。)の使用禁止措置(通信回線を経由して一定の信号を送信することによってカラオケ用楽曲データの再生を不可能にする措置)をせよ。」というものである。
(注12)  なお,「もっとも,発言者からの削除要請があるにもかかわらず,ことさら電子掲示板の設置者が,この要請を拒絶して書き込みを放置していたような場合には,電子掲示板の設置者自身が著作権侵害の主体と観念されて,電子掲示板の設置者に対して差止請求を行うことが許容される場合もあり得ようが,そのような事情の存在しない本件において,被告に対する差止請求を認める余地はない。」とも判示する。
(注13)  なお,上記のような差止請求のほか,損害賠償請求については,作為義務も過失も否定されるとして否定している。
(注14)  特許法に関するものではあるが,〔12〕東京地裁平成16年8月17日判時1873号153頁〈切削オーバーレイ工法事件〉は,「特許法100条は,特許権を侵害する者等に対し侵害の停止又は予防を請求することを認めているが,同条にいう特許権を侵害する者又は侵害をするおそれがある者とは,自ら特許発明の実施(特許法2条3項)又は同法101条所定の行為を行う者又はそのおそれがある者をいい,それ以外の教唆又は幇助する者を含まないと解するのが相当である。」として同旨を明確に判示する。
(注15)  「被告の、被告商品による録画行為に対する管理・支配の程度が強いということはできず、その受けている利益(保守業務の対価)も高いかどうか明確なものでもない」ことを理由としている。前提としては、「被告は、被告商品を販売するとしても、直接には、複製行為や送信可能化行為をするわけではない。」としつつも、「直接には、複製行為あるいは送信可能化行為をしない者であっても、現実の複製行為あるいは送信可能化行為の過程を管理・支配し、かつ、これによって利益を受けている者がいる場合には、その者も、著作権法による規律の観点からは、複製行為ないし送信可能化行為を直接に行う者と同視することができ、その結果、その者も、複製行為ないし送信可能化行為の主体となるということができると解するのが相当である。」としており、前記のカラオケ法理に依拠している。
(注16)  「間接行為が、たとい直接行為と異ならない程度に権利侵害実現の現実的・具体的蓋然性を有する行為であったとしても、直ちにこれを、著作隣接権の侵害行為そのものであるということはできないから、被告商品の販売行為そのものを原告らの著作隣接権を侵害する行為とすることはできない」等の点を理由としている。なお、「著作隣接権の侵害行為は、著作権法119条により犯罪とされている。ところが、原告らの主張に従えば、上記のような間接的行為は、それが間接正犯(複製ないし送信可能化の主体)とはいえない場合にも、それ自体が著作隣接権の侵害行為であるということになってしまい、現実の具体的な権利侵害行為が行われていないにもかかわらず、それが犯罪行為にも該当するという結論に至るものといわざるを得ない。」という点が重視されているように見受けられる。
(注17)  このように、著作権法112条1項の適用自体は否定しつつも、同条同項の類推適用は肯定しているのは、前注のような刑事上の点の懸念に起因するものとも推察されようか。
(注18)  判決の差止めの主文は、「被告は、原告…に対し、滋賀県…の各府県内の集合住宅向けに、原告…に対し、大阪府内の集合住宅向けに、それぞれ、別紙物件目録記載の商品を販売してはならない。」というものである。

(3) その他

   前記〔11〕事件の控訴審である〔14〕東京高判平成17年3月3日最高裁HP(平16(ネ)2067)〈2ちゃんねる小学館事件控訴審判決〉は,前記〔11〕地裁判決とは逆に,差止めと損害賠償の双方を肯定している。この〔14〕高裁判決は,「自己が提供し発言削除についての最終権限を有する掲示板の運営者は,これに書き込まれた発言が著作権侵害(公衆送信権の侵害)に当たるときには,そのような発言の提供の場を設けた者として,その侵害行為を放置している場合には,その侵害態様,著作権者からの申し入れの態様,更には発言者の対応いかんによっては,その放置自体が著作権侵害行為と評価すべき場合もあるというべきである。」等とした上で,掲示板運営者は,著作権法第112条にいう「著作者,著作権者,出版権者…を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に該当するとして,掲示板運営者に対する差止請求を肯定している。(注19)
 この〔14〕判決については必ずしも判然としない面もあるが,上記判示部分からすると侵害行為の放置自体をもって著作権侵害行為と評価すべきものとしているようであり(注20),少なくとも,カラオケ法理に立脚して侵害行為主体性を肯定したものとは言い難く,また,掲示板運営者を侵害行為の幇助者と位置付けた上で幇助者に対する差止請求を肯定したものとは言い難いように見受けられる。上記判断においては,掲示板ないしその運営者の特殊性が重要性を有しているように窺われる。(注21)
 なお,不法行為に基づく損害賠償請求権に関するものではあるが,〔17〕最判平成13年2月13日民集55巻1号87頁〈ときめきメモリアル事件〉は,専らゲームソフトの改変のみを目的とするメモリーカードを輸入,販売し,他人の使用を意図して流通に置いた者は,他人の使用により,ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして,ゲームソフトの著作者に対し,不法行為に基づく損害賠償責任を負うと判示している。(注22)ちなみに,これも不法行為に基づく損害賠償請求権に関するものではあるが,前記の〔2〕最判平成13年3月2日民集55巻2号185頁〈カラオケリース事件(ビデオメイツ事件)〉は,カラオケ装置のリース業者は,カラオケ装置のリース契約を締結した場合において,当該装置が専ら音楽著作物を上映し又は演奏して公衆に直接見せ又は聞かせるために使用されるものであるときは,リース契約の相手方に対し,当該音楽著作物の著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結すべきことを告知するだけでなく,同相手方が当該著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたことを確認した上でカラオケ装置を引き渡すべき条理上の注意義務を負うと判示して,カラオケ装置のリース業者に対する損害賠償請求権を肯定している。
 ちなみに,〔20〕東京地判平成12年5月16日判時1751号149頁〈スターデジオ2事件〉は,被告(通信衛星を利用したデジタル放送サービス「スカイパーフェクトTV」の中で音楽を中心としたラジオ番組「スターデジオ100」を運営する会社)が受信者を自己の手足として利用して,音源の物理的な録音行為を行わせている旨の主張について,「一般に、ある行為の直接的な行為主体でない者であっても、その者が、当該行為の直接的な行為主体を『自己の手足として利用して右行為を行わせている』と評価し得る程度に、その行為を管理・支配しているという関係が認められる場合には、その直接的な行為主体でない者を当該行為の実質的な行為主体であると法的に評価し、当該行為についての責任を負担させることも認め得る」との一般論を示した上で、当該事案への当てはめについては、「被告が受信者を自己の手足として利用して本件各音源のMDへの録音を行わせていると評価し得る程度に、被告が受信者による録音行為を管理・支配している関係が認められないことは明らかである」として(注23),これを否定している。(注24)ここでは,上記のようないわゆる「手足理論」という,著作権法に限られない一般性のある理論の適用が問題となっている点で,前記(1)のような著作権法に特有ともいうべきカラオケ法理が問題とされているものとは異なることに注意を要しよう。

(注19)  差止めの主文は、「被控訴人は、『2ちゃんねる』(※2ちゃんねるホームページへリンク)と題するホームページの『過去ログ倉庫』(※2ちゃんねるホームページへリンク)における原判決別紙転載文章目録の発言内容欄記載の各発言を自動公衆送信又は送信可能化してはならない。」というものである。
(注20)  ちなみに,この視点自体は,前記〔11〕地裁判決も示唆していたところではあるといえよう。前掲注12参照。
(注21)  なお,商標法に関するものではあるが,〔15〕大阪地判平成2年3月15日判時1359号128頁〈小僧寿し事件(大阪)〉は,フランチャイジーが商標権侵害をした場合において,その指導をしているフランチャイザーを被告として,フランチャイジーに商標権侵害をさせないように求める請求について,当該フランチャイザーは,フランチャイジーの商号,商標の使用に関し指導,監督し得る法的地位を有しており,実際にも,当該フランチャイザーは,フランチャイザーとして,各フランチャイジーに対し店舗店頭の正面看板等の表示の仕方について指導していることに鑑みると,当該フランチャイザーには,フランチャイジーをして,商標権侵害をさせないようにする義務があるとして,上記請求を認めている。〔16〕高知地判平成4年3月23日判タ789号226頁〈小僧寿し事件(高知)〉も,同種の事案につき,基本的に同様の理由から,当該フランチャイザーには,フランチャイジーをして,商標権侵害をしないように指導する義務があるとして,上記と同様の請求を認めている。
(注22)  〔18〕東京高判平成16年3月31日判時1864号158頁〈DEAD OR ALIVE事件控訴審判決〉も,上記〔17〕最判を引用して,専らゲームソフトの改変のみを目的とする編集ツールプログラム収録したCD-ROMを販売し,他人の使用を意図して流通に置いた者は,他人の使用により,ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして,ゲームソフトの著作者に対し,不法行為に基づく損害賠償責任を負うと判示している(〔19〕東京地判平成14年8月30日判時1808号111頁〈DEAD OR ALIVE事件第一審判決〉も同旨)。
(注23)  「被告が本件番組において本件各音源を送信しこれを受信者がMDに録音する場合における、被告と受信者との間の関係をみると、被告と受信者との間には、被告がその送信に係る本件番組の受信を受信者に許諾し、これに対して受信者が一定の受信料を支払うという契約関係が存するのみで、受信された音源の録音に関しては何らの合意もなく、受信者が録音を行うか否かは、専ら当該受信者がその自由意思に基づいて決定し、自ら任意に録音のための機器を準備した上で行われるものであって、被告が受信者の右決定をコントロールし得るものではないこと」を理由とする。
(注24)  なお、上記〔20〕と同日の〔21〕東京地判平成12年5月16日判時1751号128頁〈スターデジオ1事件〉では、本文上記の2事件(被告自身の行為が複製権を侵害するものとの主張がなされている)とは異なり、複製行為の主体を個々の受信者とした上で、被告の行為がその教唆・幇助に当たることを理由に複製権を侵害するとの主張がなされているが、番組の個々の受信者による音楽のMDへの録音が、一般的に、その目的・態様において、著作権法30条1項の規定に当たることを認め、違法な複製とはいえないとして、上記の主張は、その前提を欠くものであるとして排斥している。
 ちなみに、特許法の間接侵害に関する事案についてであるが、〔22〕大阪地判平成12年10月24日判タ1081号241頁〈製パン器事件〉は、直接侵害者(一般家庭での使用者)の行為で、「業として」(特許法68条)の要件を満たさないために、(直接)侵害行為を構成しない場合についても、特許法が「特許権の効力の及ぶ範囲を『業として』行うものに限定したのは、個人的家庭的な実施にすぎないものにまで特許権の効力を及ぼすことは、産業の発達に寄与することという特許法の目的からして不必要に強力な規制であって、社会の実情に照らしてゆきすぎであるという政策的な理由に基づくものであるにすぎず、一般家庭において特許発明が実施されることに伴う市場機会をおよそ特許権者が享受すべきではないという趣旨に出るものではないと解される。そうすると、一般家庭において使用される物の製造、譲渡等(もちろんこれは業として行われるものである)に対して特許権の効力を及ぼすことは、特許権の効力の不当な拡張であるとはいえず、かえって、上記のような政策的考慮によって特許権の効力を制限した反面として、特許権の効力の実効性を確保するために強く求められるものともいえる。したがって、『その発明の実施にのみ使用する物』における『実施』は、一般家庭におけるものも含まれると解するのが相当であり、このように解することは、特許法2条3項の『実施』自体の意義には一般家庭におけるものも含まれると解されること(一般家庭における方法の発明の使用が特許権の効力に含まれないのは、『実施』に当たらないからではなく『業として』に当たらないからである。)とも整合する。よって、権利2の対象被告製品のうち、日本国内で販売されるものの製造、販売は、特許法101条2号によって侵害とみなされる。」と判示して、間接侵害(特許法101条)の成立の余地を肯定している(なお、上記の特許法101条の号の号数は、平成14年改正前のものである点に注意)。ちなみに、〔22〕の判例タイムズの匿名のコメントでは、「非権利者の製造、販売した物を使用する行為が直接侵害を構成しない場合に、間接侵害を構成するのかという問題については、その直接侵害を構成しない趣旨にさかのぼって検討する必要があると解するのが多数説であると考えられ」るとしている。

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