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1.はじめに

(1) 問題の所在

   本ワーキングチームの検討項目は,1「間接侵害」と2損害賠償・不当利得等の2点であるが,まず,前者から検討を開始することとされた。しかるに,前者の「間接侵害」という用語は,法令上の用語でもなく,また,講学上の用語としても論者によりその内容が必ずしも一定していないために無用の議論の混乱が生じているように見受けられる。そこで,本報告書においては,1「間接侵害」についての立法論的検討の対象を,「間接侵害」という用語を用いることなく設定することとし,具体的には以下のとおりとするとともに,「間接侵害」という用語自体は分析検討の道具概念としては用いないこととした。
 著作権法112条1項は,「著作者、著作権者、出版権者又は著作隣接権者は、その著作者人格権、著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる」と規定しており,著作権法上の権利を「侵害する者又は侵害するおそれがある者」に対する差止請求を認めている。また,著作権法113条は,同条各項に掲げられた一定の行為を,「当該著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する行為とみなす」と規定しているため、当該行為を行った者に対しても著作権法112条1項に基づく差止請求が肯定されることになる。
 もっとも,著作権法112条1項における「侵害する者」を定義する規定はない。そのため,どのような者が「侵害する者」に該当するかは必ずしも明らかであるとはいい難い。
 ただ,著作権法上の権利のうち著作権に関していうならば,著作権に含まれる権利に関する規定(著作権法21〜28条)において「なになにする権利を専有する」という文言が用いられていることから,著作権者に無断で,著作権の権利範囲に属する利用行為を物理的に行う者は,著作権を「侵害する者」に該当し,著作権法112条1項に基づきその者に対する差止請求が肯定されるものと解される。ここまでは異論のないところであろう。
 これに対して,物理的な利用行為の主体以外の者に対して差止請求を肯定できるかどうかは,現行著作権法上,必ずしも明確でない。
 たしかに,従来の裁判例においては,物理的な利用行為の主体とは言い難い者を一定の場合に利用行為の主体であると評価して差止請求を肯定したものや(最判昭和63年3月15日民集42巻3号199頁〔クラブ・キャッツアイ事件〕等),一定の幇助者について侵害主体に準じるものと評価して差止請求を肯定した下級審裁判例(大阪地判平成15年2月13日判時1842号120頁〔ヒットワン事件〕)や,著作権法112条1項の類推適用に基づき差止請求を肯定した裁判例(大阪地判平成17年10月24日判時1911号68頁〔選撮見録事件〕)も見られる。
 しかし,これをめぐっては様々な議論が展開されているほか,従来の裁判例においても,物理的な利用行為の主体以外の者に対して差止請求を肯定できるかどうか,肯定できるとすればその相手方となる主体はどのような者か,そしてその差止請求の根拠は何か,ということについて一致した認識があるとは必ずしもいえない(後記2.参照)。
 そこで,次のような点が問題となる。すなわち,物理的な利用行為の主体以外の者に対しても差止請求を肯定すべきかどうか,肯定するとすればその相手方となる主体はどのような者とすべきか,そして,そのことを明示する立法的対応が必要かどうか,立法的対応が必要であるとすればどのような立法的対応を行うべきか,といった点である。

(2) 本報告書の構成

   以上のような問題が本報告書の課題に他ならない。
 もっとも,この問題は著作権法における極めて重要な基本問題であり,具体的な検討を進めるに当たっては,従来の議論(裁判例・学説)の分析はいうまでもなく,比較法的検討並びに他の知的財産法(とりわけ特許法)及び民法における民事救済との比較検討を行うことが必要となる。
 本報告書は,従来の裁判例からのアプローチ(後記2.),外国法からのアプローチ(後記3.),民法からのアプローチ(後記4.),特許法等からのアプローチ(後記5.)という観点から若干の検討を行った上で,これまでの検討結果を報告する(後記6.)ものである。

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