著作権分科会 国際小委員会(第1回)議事録・配付資料

1.日時

平成20年1月11日(金曜日)10時〜12時

2.場所

中央合同庁舎第7号館旧文部省庁舎2階第2会議室

3.出席者

(委員)

池田,石井,上野,上原,菅原,大楽,高杉,道垣内,中村,増山,山本の各委員

(文化庁)

吉田長官官房審議官,亀岡国際課長,山下著作権課長ほか関係者

4.議事次第

  1. 開会
  2. 議事
    • (1)主査の選任等について
    • (2)報告事項について
      • 1WIPO全般の状況
      • 2放送条約交渉の状況
      • 3アジア地域等における海賊版対策の実績報告
      • 4模倣品・海賊版拡散防止条約構想の進捗状況
      • 5その他の国際動向
    • (3)今後の国際対応のあり方について
    • (4)その他
  3. 閉会

5.配付資料一覧

資料1
  文化審議会著作権分科会国際小委員会委員名簿
資料2
  小委員会の設置について(平成19年3月12日文化審議会著作権分科会決定)
(※法制問題小委員会(第1回)議事録へリンク)
資料3
  世界知的所有権機関(WIPO)の動向
資料4
  放送機関の保護に関する世界知的所有権機関(WIPO)での議論の経過報告
資料5
  海賊版対策の概要(PDF:351KB)
資料6
  模倣品・海賊版拡散防止条約(仮称)構想について(PDF:174KB)
資料7
  自由貿易協定(FTA)・経済連携協定(EPA)について
参考資料1
  文化審議会関係法令等(PDF:155KB)
参考資料2-1
  第7期文化審議会著作権分科会委員名簿
参考資料2-2
  文化審議会著作権分科会部会・小委員会名簿
参考資料3
  知的財産推進計画2007著作権等関係部分抜粋(PDF:430KB)

6.議事内容

【道垣内主査】

 それでは、第1回国際小委員会の開催に当たりまして、吉田文化庁長官官房審議官よりごあいさつをお願いいたします。

【吉田審議官】

 委員の皆様には、ご多用のところ、国際小委員会にご参集いただきまして、誠にありがとうございます。
 昨年の発足以来、この後いろいろと説明させていただきますような事情がございまして、なかなか開催ができなかったわけでございますけれども、今回のこの委員会につきましては、昨年3月に開催されました著作権分科会の決定に基づきまして、国際的ルールづくりへの参画のあり方ですとか、あるいはアジア地域等における著作権分野の国際協力のあり方につきまして広くご意見をいただくということを目的にして、今回開催させていただいたものでございます。
 最近の国際的な著作権の保護と利用をめぐる状況は、大きな転換期を迎えておるわけでございます。ご承知のとおり、90年代以降、特に後半以降、世界各国はWIPOの枠組みを活用しながらデジタル化、ネットワーク化に適応した著作権や著作隣接権のルールづくりに向けまして、その中の一つとして、最近では放送新条約の話題もあるわけでございますけれども、一丸となって取り組んできたという状況がございます。
 しかし、最近では、世界各国の知的財産権に対します関心は多様化をしつつあるということがだんだんと明らかになってきております。途上国におきましては、知的財産に対する意識の高まりもございますけれども、一方では、自国の発展にとっていかなるルールがふさわしいのか、適切なのかという観点から、これまで以上に積極的な議論の参画といったものが見られるようになってきております。また一方、先進国におきましては、世界経済の発展とともにコンテンツのグローバルな展開といったものが一層加速されております中で、海賊版への対応といったものが一層重要な課題になるということでございます。このあたりの状況につきましては、後ほど事務局、あるいは外務省のほうからご説明をいただくということになろうかと思いますけれども、このような状況の下におきまして、国際的な著作権ルールの合意形成につきまして、これまで以上に複雑、また慎重な対応が求められるようになってくると思います。
 本小委員会におきましては、我が国に今後どのような取り組みが望まれるのか、皆様方から貴重なご意見を賜りまして、今後の施策に反映させていきたいと考えております。
 簡単でございますが、以上をもちまして私のあいさつとさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

【道垣内主査】

 どうもありがとうございました。
 それでは、この小委員会の設置の趣旨や審議事項につきまして、事務局よりご説明をいただきます。

【高柳専門官】

 それでは、お手元の資料の資料2をご覧いただければと存じます。
 国際小委員会の設置の趣旨ということでございますが、本委員会につきましては、昨年3月12日の著作権分科会の決定に基づいて設置されたものでございます。審議事項につきましては、2(4)にございますとおり、国際的ルールづくりへの参画のあり方に関すること、さらにはアジア地域等における著作権分野の国際協力のあり方に関することということになっております。また、本委員会での審議結果につきましては、今後、著作権分科会等へ報告をしていくという形になっております。
 以上でございます。

【道垣内主査】

 それでは、この資料2の2(4)の審議事項について、これから審議をしていくということですが、審議の順番といたしましては、既に議事次第に載っておりますような順番でご報告をいただき、それについてご質問があればご質問等をしていただいて、最後に今後の国際対応のあり方について議論するということでよろしいでしょうか。
 それでは、(2)の報告に入りたいと思いますが、まずはWIPO全般の状況及び放送条約交渉の状況につきまして、事務局からご報告をお願いいたします。

【高柳専門官】

 それでは、まず資料3につきまして説明させていただきます。
 世界知的所有権機関の動向ということで、まず加盟国総会でございますが、昨年9月末から10月にかけまして開催されております。本総会には多数加盟各国から参加がございまして、日本からはジュネーブ代表部、特許庁、文化庁、また上原委員もご出席をされているところでございます。昨年度の総会におきましては、予算など多数重要な案件が審議されたところでございまして、また近年、途上国サイドから、開発問題の視点から知的財産をとらえようとする動きが非常に活発化しているということがございまして、開発問題に関しましても重要な決定がなされたところでございます。なお、全般的には先進国と途上国の間で対立する場面も多数見受けられておりまして、向こう2カ年の計画予算案など、主要議題が合意できないなどの事態になったという状況でございます。
 まず、今回の総会では、(1)の開発アジェンダについて大きな決定がなされております。開発アジェンダ自体は、もともと2004年の総会時にブラジル、アルゼンチンをはじめとする途上国開発ベースから提案があったものでございまして、知的財産制度において開発問題を重視していくためのアクションプランを策定するというものでございます。これまでPCDAなどで議論が重ねられてまいりまして、45項目の具体的提案がまとめられておりました。今回の総会では、この45項目と、その中ですぐに実施可能な19項目について採択がなされております。
 主なものといたしましては、条約やガイドラインなどの、いわゆる規範を設定する際に、各国の開発レベルの差を考慮すべきことですとか、あるいは柔軟性を考慮すべきこと、また、後に出てまいりますが、IGCのプロセスを加速すべきことなどが決定されております。また、PCDAの後継といたしまして、開発関連問題を扱う常設の委員会として、新たにCDIPの設立が承認されておりまして、今後、合意プログラムの作業プログラムの策定ですとか、関連する委員会と調整した上でプログラム実施状況をモニターや評価・議論して総会に報告すること、さらには知財と開発に関連する事項を議論することなどが予定されております。
 続きまして、(2)の2カ年の計画予算案でございます。こちら、WIPOの予算において関連するその他重要な議題等が先進国と途上国の間で折り合いがつかない状況が多数あったわけでございますが、最終的にこのような状況にもかかわらず、最終日に議長権限によって審議が行われまして、結局は投票による採決によって予算案というものが否決されるという事態になっております。なお、2007年以内に予算案を合意することができなかったということがございましたので、WIPOの設立条約に基づきまして、新予算は総会で新たに承認を得るまでは前年度の予算が適用されるという状況になっております。
 続きまして、(3)の視聴覚実演の保護につきましては、各国からその重要性につきまして多数の発言がございまして、一般総会の議題に残すことにつきましては、各国から特に異論はございませんで、議論を継続するということが決定されております。
 さらに、(4)の知的財産と遺伝資源、伝統的知識、フォークロアに関する政府間委員会でございます。多くの途上国から、これまで国際的に法的拘束力のある枠組みでの保護を主張してきたわけでございますが、議論がなかなか進捗しないということで不満が多数表明されておりました。これに対しまして、日本を含めまして先進国サイドにおきましては、協力的な姿勢は示しつつも、何を保護の対象とすべきなのかを含めまして、定義の問題等でより慎重に議論を深めていかないと前へ進めないだろうということで、さらなる議論を要するのではないかというような主張を行ってきたところでございます。
 なお、IGCにおける議論を継続すること自体につきましては、各国から異論はございませんでしたので、今後また2年間のマンデート延長が決定しているというところでございます。
 最後に、2.のその他の動向ということでございますが、次期事務局長の選挙の案件がございます。次期事務局長の問題につきましては、昨年11月に加盟国から次期事務局長候補の推薦を求める通知が事務局からされておりまして、次期事務局長選挙のプロセスが開始されたというところでございます。今後の予定といたしましては、5月の調整委員会で事務局長候補の推薦が行われて、9月の総会において指名が行われる予定となっております。
 続きまして、資料4の放送機関の保護に関する知的所有権機関での議論の経過報告について説明いたします。
 この状況につきましては、ご案内のとおり、これまでSCCR等の場で外交会議の開催に向けて合意形成の議論が加速されてきたところでございまして、一昨年、2006年9月のWIPO一般総会におきまして、2回のSCCRの特別会合を開催すること、これらの会合におきまして、信号ベースアプローチによって、保護の目的、範囲、対象を最終合意し、外交会議に修正ベーシックプロポーザルを提出することを目的とするとしておりまして、これらの合意がなされた場合に外交会議は開催されるということで合意されたところでございます。
 これ以降の議論の経過でございますが、2.(1)にございますとおり、昨年の1月、6月にSCCRの特別会合が開催されております。しかしながら、結果的には保護の目的、範囲及びその他一般公益情報等の取り扱いなどといった重要な部分で各国間の意見の隔たりというものを埋めるに至ることができませんで、11月の開催を目指していました外交会議は見送られるということになっております。なお、その後の9月の一般総会におきましては、2008年の通常のSCCRの議題として残して、外交会議の開催に向けて、これらの残された議題について引き続き議論をするという方針が決定されております。
 合意形成に至らなかった背景でございますが、(2)の各項目が主な対立点として挙げられているところでございます。
 まず保護の方式でございますが、信号ベースアプローチの解釈、これが各国間で大きく異なっておりまして、具体的には我が国を含めましてEC、中東、スイスなどからは、ローマ条約との整合性に加えて、信号の海賊行為に対応するためには、やはり排他的許諾権としての使用権が必要だと主張してきたわけでございますが、アジア、アフリカグループ、インド、ブラジルなどからは、信号ベースアプローチである限り排他的許諾権は認められないということで、もっぱら海賊行為に対する禁止権に限定すべきとの主張があったわけでございます。また、米国におきましても、コンテンツホルダーや番組制作者との既存の契約に影響を与えないようにすることが必要ということで、禁止権にすべきというような発言があったということでございます。
 次に、保護の範囲についてでございますが、信号ベースアプローチということで、当初予定されておりました固定後の権利等がどんどん狭められていくような状況になっていったわけでございますが、再送信に関しましても、インド、ブラジルなどから否定的な意見がございました。とりわけインドに関しましては、放送のインターネット上の再送信ですら含めるべきではないと、放送機関が著作権を取得した放送に限定すべきといった従来の主張が繰り返されていたわけでございます。これに対して我が国を含めた先進諸国からは、窃取された信号がインターネットを通じて再送信されるのが問題なわけでございますので、これが除外されてしまうということであれば、そもそも条約をつくる意味がなくなってしまうのではないか等の反論をしてきたわけでございますが、なかなか意見のすり合わせができなかったというところでございます。
 さらに、文化多様性や一般公益の観点から権利制限ができるような条項を本文に入れるべき、入れるべきではないというところで大きな対立がございました。これは、一昨年来、ブラジルやラテンアメリカの国々が提案してきたものであるわけでございますが、途上国を中心に、いわゆる知財の条約にこれを入れるということになりますと、非常に簡単に権利制限がされることになりかねないということで、そういう条文が本文に入るようなベーシックプロポーザルでは外交会議には行けないということで反対して対立をしたということでございます。
 以上のとおり、重要な部分につきまして各国間の溝を埋めることができない状況が続きまして、結局は資料の3.(2)の冒頭、第2回SCCR特別会合の記述の冒頭にございますとおり、一部の国々から、11月の外交会議の開催は難しいだろうという表明がございまして、結果的には、一般総会への提案といたしましては外交会議の開催の時期は明示しない、通常のSCCRで引き続いて議論を継続し、これまでの論点について合意が得られたときに開催を検討するという形になった次第でございます。
 なお、昨年9月から10月にかけて開催されました一般総会につきましては、(3)にございますとおり、このSCCRの提案をそのまま決定して現在に至っているということでございまして、総会では、全般的には放送機関の権利の保護の必要性につきまして改めて強調する発言が多数ございました。したがって、引き続き議論することに異論はないという感じではありましたが、他方でインドを初めとして相変わらず否定的な意見を言う国等もございまして、開発アジェンダの視点から検討すべきとの発言や、あるいはブラジルやチリ等からは、今後のSCCRでは途上国の関心への配慮が必要であるということで、放送機関の権利の保護とは別の議題として、例えば科学、教育などにおける権利制限ですとか、あるいは知識へのアクセス、アクセス・トゥー・ナレッジの問題を取り上げるべきなどの発言があったということでございます。
 最後に、今後の見通しということでございますが、次回、第16回SCCRは本年3月10日から12日に開催予定となっておりますが、現時点では議題等につきましてはまだ決まっていない状況でございます。
 以上でございます。

【道垣内主査】

 どうもありがとうございました。
 ご報告いただく事項、5つ予定されていますけれども、次の2つが海賊版の問題なので、ここで切って質疑応答をして、それから次に行くということにしたいと思っております。
 今ご報告いただきましたWIPOの全般のことと放送機関の保護の問題につきまして、ご質問等ございますでしょうか。あるいは補足されるべきこと、さらには、何らかの利益を代表していらっしゃるわけではないと思いますが、それぞれのご事情に詳しい方もいらっしゃると思いますので、この条約ができたら何かいいことがあり、できなかったらすごく困ることがあるのか、どれほど急がなければいけないのか、そのあたりの事情もあわせてご説明いただけたらと思います。いかがでしょうか。

【石井委員】

 NHKの石井でございます。
 この放送機関の保護に関しましては、特に放送がグローバル化、あるいはインターネットと連携する中、大変重要な条約だと捉えておりまして、これは国際問題ですので、NHKというよりはABU(アジア太平洋放送連合)として取り組んできているところです。特に昨年3月には東京でABUの著作権部会を行いまして、WIPOの事務局からもゲストを招いて条約の成立に向けて我々の態度を確認したところですが、残念ながら今のところ成立の見込みはなかなか厳しいということになっております。
 その中で、日本政府におかれましては、資料4にありますように、成立に向けて多大なご努力をいただきましたことを改めてここでお礼申し上げたいと思います。先ほど申し上げましたように、これから放送が国際化していくと、やはり国際放送も強化しなければならないということがいろいろなところで言われているわけですが、そういうときに放送に出演された方、あるいは放送局自身の権利をきちんと保護し、それから、情報の出所がきちんとしており、海賊放送ではない、我々が責任を持って放送しているものについて、やはり国際的な保護というものがこれからも重要になってくるだろうというふうに思っております。
 今後私どもでもいろいろ取り組んでいきたいと思いますけれども、また皆様方にもいろいろなご支援をお願いしたいと考えておりますので、よろしくお願いいたします。

【道垣内主査】

 それでは池田委員、お願いします。

【池田委員】

 民放連の池田でございます。
 民放連といたしましても、毎回SCCRにはメンバーを派遣しておりまして、いろいろな発言もさせていただいたりしておりますが、足かけ10年にわたって紆余曲折を経て、外交会議の日程まで決まったところで、またほとんど振り出しに近いところまで戻ってしまったような現状におきましては、非常に残念な思いをしております。ただ、今後も放送条約の成立に向けましては、日本政府としてもぜひともリーダーシップをとっていただいて、成立に向けて頑張っていただきたいと思っている次第でございます。
 昨今、海賊版というものも、いわゆるDVD、それからCD等の物の海賊版のみならず、放送番組が頻繁にインターネット上のピア・ツー・ピアにおいてファイル交換され、動画投稿サイトへ違法に投稿されています。そういったものには、いわゆる営利を目的としてやるものばかりではなくて、一般の方々が軽い気持ちでやっているということもございます。これがしかも国境を越えて世界中で行われているということもございますので、一刻も早く放送条約を成立させて、インターネット環境に対応した条約を結んでいただきたいと考えております。
 以上です。

【道垣内主査】

 そのほか、ご質問は。
 上原委員、どうぞ。

【上原委員】

 若干補足も含めましてお話をさせていただきたいと思いますが、非常に煮詰まった状況にまで持ってこられた放送条約というのが、最終的には外交会議開催ならずということで、かなり後退した状況になっているという現状だと思います。
 私が総会、あるいはSCCRの特別会合等に出席した感想として申し上げておきたいと思いました点は、まさに国際的に非常にばらばらな状況がどんどん進んでいるということでございます。途上国と先進国のぶつかり合いということで開発アジェンダという形が出ておりますが、この開発アジェンダで途上国が全部同じことを言っているかというと、みんなばらばらになっております。放送条約の中では、ブラジルやインドは明確に公式な発言として南北問題であるということを言っておるんですが、実際にはいわゆる未開発国に近い国々と、それから実情としては中進国と言っていいインド、ブラジルとの間ではかなり国情も、それからサービスにも違いがあるという部分があろうかと思います。
 したがいまして、資料4の1ページ目の欄外でアジアグループの注釈がつけられておりますが、まさに今までWIPOの会合では、各グループごとにグループコーディネーターがそのグループの立場を説明するということで、それをどうまとめていくかという形で会議が進んでおりましたけれども、アジアグループにおいては、例えば、実はオン・ビハーフ・オブ・ザ・アジアン・グループと言いながら、インドネシアが発言するのですが、ほとんどインド寄りの発言になっております。じゃ、アジアグループが全部まとまっているかというと、例えば韓国、あるいはシンガポール、あるいはフィリピンというような国は、ほとんど日本と同じスタンスをとっておりますが、こうした国々は、逆にアジアグループの会合そのものにも参加しないで発言しないというような状況も生まれてきております。
 それから、アフリカグループについては、もうちょっとまとまりはいいのですが、とはいえ、やはり中では開発の問題に重点を置こうという発言をしながらも、一方では放送条約を前へ進めようという動きも非常に強いという分裂した状況が生まれているというところで、その辺がWIPOの状況が、96年のWCT、WPPTがつくられた状況から、WTOとの関係も含めて大幅に変わってきているという状況があるということを追加でご報告しておきたいと思います。後ほどまた、今後の国際小委員会のあり方というような論議もあるようでございますので、そうしたものを考える上においては、WIPO自体がかなり変わってきているという部分をご理解いただいておいたほうがよろしいかと思っております。
 それともう一点、WIPOの全般的な状況ということで申し上げますと、先ほどご報告がございましたように、本来であれば来年、2009年の総会で決まるべき事務局長の選挙が1年前倒しになりまして、今年2008年の総会で行われるということになります。現実に、イドリス事務局長につきましては、先進国を中心として厳しい非難にさらされているところから、ほとんど現在のところWIPOの中でリーダーシップをきちんととるという状況にないために、WIPO自体がこの1年間は事務局長の選挙のための政治の季節ということで、具体的なサブな論議がなかなか進まないということが予想される状況にあろうかと思います。これもあわせて追加でご報告をし、しかしながら、その間にサブな論議を放置しておきますと、恐らくはいろいろなモメンタムが下がってしまうということが心配されますので、我が国といたしましては、そこの部分で何らかの貢献をすることによって、モメンタムが下がらずに2009年以降の論議ができるようにという状況をつくれるような方向で、本小委員会でもご検討いただきたいというふうに考えております。
 なお、放送条約そのものにつきましては、先ほどNHK、あるいは民放連のほうからもありましたが、後退したとはいえ、まだ100パーセントモメンタムがなくなっているという状況ではございませんので、これをどのように復活させるかということで、インターネット時代対応の条約としては、放送条約がかなりのところまで行って残念なところになりましたが、その前に外交会議まで行ってつぶれているオーディオビジュアルのパフォーマンスの条約というのもございますので、この2つがうまくいって、インターネットへの対応が世界的にやっとできるということになっているわけで、インターネットがこれだけ先に進んできた時代でございますので、政治状況を見ながら進めざるを得ないと思いますが、放送条約と、それからAVパフォーマンスの条約とについては、引き続き日本政府として積極的な対応をしていくということが必要だと考えております。

【道垣内主査】

 ありがとうございました。他にご質問等ございませんでしょうか。
 私から1点だけよろしいでしょうか。保護の方式について、排他的許諾権を付与するのか、そうではなくて信号の海賊行為に対する禁止権という形で書けばよいのか。アメリカと日本と違う立場のようですが、実質的にどこが変わってくるのか、いま一つよくわからないのですけれども、もし可能であればご説明願います。海賊行為の定義が何なのかにもよると思うのですが、よろしくお願いします。

【高柳専門官】

 もともと、一昨年の2006年の一般総会で信号ベースアプローチで整理していくということになりまして、保護の対象が、最も保護の必要性が高いものということで「生の信号」ということになっております。その点で、いわゆる固定後の保護という部分がそこで読めるのか、読めないのかという話になってきております。日本とかEUにつきましては、もともと海賊版の信号窃取ということに関しましては、やはり最終的に排他的な許諾権で担保しなければならないということであったわけでございますけれども、アメリカのほうにつきましては、そこの排他的許諾権というのが付与されてしまいますと、既存のいろいろなスポーツ中継ですとか、既存の放送機関と、そういうスポーツ生中継等の協会との契約に何らかの影響が及ぼされるのではないかというところを非常に懸念しているようでございまして、あくまで許諾権ではなくて禁止権という形でやるのがいいのではないかというような主張があったようでございます。

【上原委員】

 よろしいでしょうか。10年間かかわってきたものですから、ちょっと歴史的な経緯で補足させていただきます。
 この禁止権という考え方につきましては、著作権、あるいは著作隣接権の世界では今までなかったものだと思います。これ自体が公式に出ましたのは、2002年11月のSCCR8においてアメリカが提案を出しました。その時点において禁止権という言葉が公式に国際的に提出されたということでございます。これにつきましては、アメリカ国内で、この禁止権の提案を出すこと自体が関係団体の間でかなりのもめごとになりました。当然放送業界はこういうことを認めないということで動いたわけですが、アメリカ国内の事情といたしましては、実はアメリカのレコード協会が非常に強く放送条約の進展に反対されていたという状況が、これは2002年の状況であったということで、そうした状況の中で何が強かったかというと、基本的に放送に新しい権利を認めて何らかの力を与えることは、アメリカ国内的に認められないという他団体の強い動き、レコード業界を中心とした強い動きがございました。それに対して日本や欧州など、当然のことながら、保護をする以上は今までと同様に許諾権で保護をしないと実質的な効果は得られないということで、許諾権という話が当然になっているわけですが、アメリカ国内では、新しい権利を与えることによって何らかの力を得ることを認めないという他団体の強い動きがありまして、国内協議の結果、それであるならば、保護をするのに海賊行為、つまり侵害に対して対応できればいいのだから、侵害が行われたときにそれをとめられればいいという禁止権でいいのではないかという考え方で、アメリカ国内の事情に基づいて、禁止権という新たな概念が提示されたということでございます。
 これにつきましては、提示された後1年から2年間ぐらいは、WIPOの中では評判が悪く、これは一体何なんだという状態でありました。しかしながら、その後、2004年、5年、6年と、インド、ブラジル等が会議の遅延を図り、いろいろな途上国側の問題点を挙げていく中で、基本的に公共からのアクセスの問題であるとか、制限の問題であるとかというものを取り上げていく中でだんだんと、新しい権利を与えて公共のアクセス等に影響があるよりは禁止権の方がいいのではないかということで、他の国々からもそうした声が聞かれるようになってきたというのが流れでございます。ただ、現実的に、それでは禁止権というのがどのような権利で、エンフォースの上においてどのような効果があるのか、あるいは実務的に許諾権と禁止権とどう違うのかということについて、WIPOの中で最終的に詰めた話には至っておりません。一時期、2005年から2006年にかけまして若干の論議がありましたが、そこで行われたのは、基本的には許諾権も禁止権も同じように動くものなのだから、きちんと許諾権で対応しないといけないのではないかという、欧州、日本を中心とした考え方に対し、やはり海賊行為を禁止すればいいのだから、新たな権利を付与したくないので禁止権だという、いわば言葉のイメージの議論というところで、今までWIPOの中での議論というのは終わっているように思われます。
 したがいまして、今後、もしも放送条約の議論がさらに進むということになりますと、実態としてこの権利がどのように効果を持ち援護されるのかということについては、条約そのものをつくるときには、より突っ込んだ議論が必要になるということは、まだWIPOの中でもそこまでの状況であると理解しております。

【道垣内主査】

 上野委員。

【上野委員】

 排他的許諾権と禁止権はほぼ同じなのではないかということにつきましては、3年ほど前のこの会議で私も発言したことがあります。つまり、禁止することができる権限があるという以上、禁止しないこともできるわけで、禁止しないということが結局のところ許諾したということになりますから、排他的許諾権と禁止権は同じではないかというわけです。
 そうしますと、結局のところ同じなのだからアメリカも排他的許諾権にすべきだという主張は当然あり得ると思うんですけれども、逆に考えたら、どうせ同じなのであれば、ここは譲って、我々が禁止権という形にあわせるという方法もあるのかな、などと考えなくもありません。
 あえて排他的許諾権と禁止権とで違いを見いだすとすれば、禁止権と書くと、他人に許諾を与えることがはじめから想定されていないように聞こえるという点はあるのかも知れません。例えば、ドイツ著作権法におきましては、わが国でいう同一性保持権のことを改変禁止権と規定しています。これは、自分の著作物が改変されるというのは基本的に望ましくないことととらえた上で、改変を禁止する権利を与えておけばすむのであり、改変を許諾するというようなことは想定されていないという意味合いがあると解する可能性はあり得るかも知れません。あえていえば、そうした意味の違いが排他的許諾権と禁止権との間にあるのかも知れないと考えたことはありますけれども、もしそのあたりで何か事情がございますようでしたら、教えていただければと思います。

【道垣内主査】

 山本委員。

【山本委員】

 今の禁止権と許諾権の問題は何を保護するのかという考え方の違いにつながってくると思いますので、一言コメントさせていただきます。
 恐らくアメリカが禁止権という言葉を出している趣旨というのは、許諾権という概念であると、つまり財産権を設けることが前提になります。許諾権があるということは、他人の行為を禁止できるということなので、禁止権はそれを包含しているんですけれども、アメリカの場合に、著作権というような財産権を設定するというためには憲法上の制限があって、固定されていないものについては著作権というような排他的な権限は設定できません。ところが、放送前信号を例えば傍受して利用するというような行為であると、財産権として保護するのではなく、行為として保護するというアプローチは可能になるわけです。市場に対して警察権限を行使するというのは連邦憲法の州際取引条項で、別に著作権という概念に当てはまらなくてもできる。それだったら、この放送前信号についても規制をかけられるという観点から、そこに財産権を認めるのではなく、単に窃取に類するような行為を規制するというアプローチをとろうとしているんだと思います。
 以上は許諾権と禁止権との違いですが、そうだとすると、日本としてもどうするのかというのに関係してきます。考え方として、そういう放送前信号を取るということがいけないことなんだ、違法な行為なんだという認識をもし持つのだとしたら、その行為は別に放送機関が行う放送に限定される必要は全然なくて、他人が信号を送信しているという行為であれば、送信の主体が誰であるかにかかわらず、やはり違法としないとおかしいわけです。ですから、日本としても、もし禁止権的なアプローチ、その思想にのっとるのであれば主体を限定すべきでないでしょうという話になるでしょうし、そうではなくて隣接権的なアプローチ、隣接権の中身として広げるというのであれば、今の隣接権の対象である放送機関に限定するとかいうアプローチも可能になるのではないか。そういう違いが発生するように思います。

【道垣内主査】

 上原委員、お願いします。

【上原委員】

 山本先生のお話、おもしろく拝聴させていただきましたが、私はちょっと違った感じを持っております。
 つまり、今、日本における著作権法の構成というのは、許諾権というのは財産権として設定するという形になっておりますが、国際条約上、要するに許諾権を与えたから財産権と設定しなければならないということにはならないと思うんですね。それは、条約上の考え方としては、あくまで許諾する権利というのを与え、何らかの形で勝手に使われることを禁止することが認められる権利が与えられれば構わないわけですので、現状でも、例えばさまざまな権利につきまして、各国が著作権法だけではなくて、他の法律をもって実質的に保護しているということによって条約違反になっていないというケースが多々ございますので、山本委員の今のお話、非常に理論的には整理されていてわかりやすいんですけれども、現実の条約の場においては、必ずしもそういう形で禁止権という考え方が出ているわけではないと思います。
 それともう一つ、WIPOの中の論議そのものでいいますと、当初は隣接権は行為であるという考え方で出てきたのですが、もともと行為隣接権の保護ということをとっていないアメリカ自体がそれを認めようとしなかったという経緯がございまして、それに対して、新しいインターネット時代で信号の窃取を要するにいかにするかというアプローチに変わっていったということがございますので、本来の古い隣接権の行為原則論から、行為をベースにしながらも、そこから出た信号に対応するというふうにWIPOの中の論議自体は変わってきておりますので、その辺も踏まえてお考えいただいたらいかがかなと──というか、考えていかないと、若干WIPOの中で論議されている他の国々の人たちの頭の中の整理とずれるといけないなと、ちょっと感想として思いました。山本先生の意見を否定するわけではなくて、そういう現状があるのではないかということでございます。

【山本委員】

 補足させていただきますと、今おっしゃったように、WIPOの場での議論は、アメリカが考えているような概念と別の概念で動いていると思います。前提としての概念が違うので、そこを整理するためにアメリカ的な発想はどうかということを申し上げたのですが、ついでに申し上げますと、アメリカとしても、本当はWIPOの場合でいうと許諾権にこだわる必要はないと思います。といいますのは、アメリカの場合、禁止権でやった場合、つまり行為を禁止した場合に、行為の結果、固定されたものが今度は転々流通する。行為に対する禁止であれば、その行為だけ違法になって、その行為の成果物を押さえることはできないように思えますが、そうではなく、アメリカの場合には、違法行為に対する救済の問題として、その行為の成果物をも押さえることは可能になります。そうすると、この後の保護の範囲の問題で議論されておりますように、それを窃取して固定したものをインターネットで流すということに対しても禁止権を及ぼすことができるというような結果にはなるので、我々の考えるような許諾権的な構成と中身的にはほとんど違いがないということになると思います。ただ、考え方として、行為規制であるかコンテンツ規制であるか、コンテンツの保護をどうするのかという、やはり根本的な考え方の違いはあるように思います。

【道垣内主査】

 どうぞ、増山委員。

【増山委員】

 禁止権と許諾権の違いの話になったのですが、実は、この放送条約に関してアメリカの提案をよく読みますと、放送を固定して、そして無許諾の固定物を複製することについては、アメリカはむしろ許諾権を提案しております。一方、無許諾の複製物のさらなる利用、例えばレンタルだとか、あるいはネット配信だとか、あるいはその他の利用に関しては、その利用を禁止する権利を放送事業者に与えるという二段構えになっておりまして、この考えでいきますと山本先生のご説明のとおりだと思うんですね。つまり、無許諾の複製物の利用に関しては、基本的には許諾を得ていないので、放送事業者はそれをとめることができればいいという考え方だと思います。
 もう一点補足いたしますが、昨日WIPOから届いた資料によりますと、第16回のSCCRの議題が決まったそうですので、その資料をきょうお持ちしました。もしよろしければ委員の皆さんに配付していただければと思います。
 以上です。

【道垣内主査】

 あまり時間をとるわけにもいきませんけれども、信号の行為に対する禁止権だけではなくて、その結果固定されたものの頒布等についての禁止権も含むという条約にすれば、その排他的許諾権とコンテンツ保護と、ほぼ同一のことになるんでしょうか。

【山本委員】

 条約でそうすればということではなく、アメリカの禁止権的なアプローチであっても、その後の転々流通であるとかを押さえるということは、アメリカ法的なコンセプトの中からは可能です。日本的な発想からいうと、禁止権であれば禁止された行為をとめるだけで、その結果つくられたものに対して権利を及ぼすというのは、なかなか考え方としては難しいと思うんですが、アメリカとしては可能です。したがって、ここで書かれているようなアメリカの禁止権の発想をとりながら、その後の保護の範囲のところで議論されているようなインターネットの再送信を保護対象から除外すべきではないというような考え方もアメリカの法的構成からは可能になってくるんだという、その論理的な環境をちょっとご説明申し上げただけなんですが。

【道垣内主査】

 わかりました。だから、アメリカが自分の国内法の考え方とうまく合わさって完全に押さえられたとしても、ほかの国が善意取得だとかということが認められる国があるのでは困りますので、それは条約で書き込む必要があるんじゃないんですかね。

【山本委員】

 そのことを申し上げ、必要があると思えば書けばいいんですけれども、アメリカがこれに対して除外すべきではないという立場をとっているのは、そういうことが可能だという理由を申し上げたつもりです。

【道垣内主査】

 増山さん。

【増山委員】

 道垣内先生のご質問なんですけれども、現に、WIPO事務局も、このような考え方に対しては、いわゆる2つの選択肢を設けているわけです。この前の提案を見ますと、アメリカ案は、まず無許諾の複製について排他的権利を与えて、その後の利用については禁止権ということになっています。これに対して、他の国の提案は、全部排他的権利を付与するという両論併記のような形で提案されたいきさつもあります。

【上原委員】

 よろしいですか。条約のモメンタムを高めるほうが先なので、中身の論議をこれ以上する気はありませんので、ただ一言だけ。主査のおっしゃった中に、ちょっと一言だけこだわらせていただきますと、許諾権、あるいは禁止権でも、あくまで転々流通を押さえられればコンテンツの保護に近いような感じになりますかというお問い合わせがありました。言葉じりをとらえるわけではございませんが、基本的に信号アプローチというのはコンテンツの保護ではなくて、コンテンツを運ぶ信号という乗り物を保護するんだという考え方でございますので、ここは明らかにコンテンツと違うということを明確にしておきませんと、一切途上国側から理解を得られませんので、そこだけをひとつよろしくお願いしたいと思います。

【道垣内主査】

 わかりました。
 それでは、また最後に、もし残ったところがあればご議論いただくとして、次に、海賊版対策の実績及び模倣品・海賊版拡散防止条約構想の進捗状況につきまして、事務局及び外務省の相馬室長よりご報告いただきたいと思います。よろしくお願いします。

【田中専門官】

 それでは、最初にアジア地域等における海賊版対策の実績につきまして、資料5に基づいて報告をさせていただきます。
 最初に、1枚目で全体像を眺めた後に、それぞれの内容について簡単に説明を加えたいと思います。
 1枚目でございますが、1番上にありますのが侵害状況のグラフでございまして、これは、国際レコード産業連盟が毎年発表しておりますデータの中から、特に中国、韓国、台湾、香港を抽出しまして一例としてお示しをしているものでございます。ごらんのとおり、中国におきましては、いまだに市場の85パーセントを侵害品が占めているというデータでございます。
 それらの問題につきまして、平成19年5月に決定されました知的財産推進計画2007に基づきまして、さまざまな対策を行っております。
 主な施策としましては、最初に、二国間協議による侵害発生国への取り締まり強化の要請ということで、中国、そして韓国との間で二国間協議を行いまして取り締まりの要請を行っております。また、台湾との間でも貿易経済会議におきまして著作権問題の協議を実施しております。
 2つ目に、途上国対象の協力事業の実施ということで、文化庁よりWIPOに信託基金を拠出し、WIPOと共同でシンポジウムや研修等を内容とするアジア地域著作権制度普及促進事業を実施しております。これはAPACEプログラムと呼んでおります。内容につきましては後で述べたいと思います。
 それから、アジア諸国の国民向けの著作権教材を開発・普及ということで、平成16年に「Asian Copyright Handbook」というものを作成いたしました。これを各国版に翻訳をしながら、各国において啓発セミナーを行うという事業を行ってきております。
 また、我が国の企業の諸外国での権利行使の支援ということで、これについても後で説明をさせていただきます。
 また、官民合同ミッションの派遣など、官民の連携の強化ということも行っております。
 それでは、2枚目でございますが、WIPOへの拠出金で行っておりますAPACEプログラムにつきましての実施の概要でございます。
 平成19年度の拠出金の額が約5,500万となっておりまして、リジョナル・シンポジウム、アジア太平洋地域の各国代表が集まり、著作権問題について協議するということが毎年行われております。本年度につきましては、来る1月29日から31日にオーディオビジュアル業界における著作権・著作隣接権問題についてということで、ネパール、カトマンズで行われることとなっております。
 また、研修としましては、東京特別研修ということで、アジア太平洋地域のエンフォースメント担当者の専門家を対象とした研修プログラムを行っております。本年度につきましては、2007年10月22日から11月2日という2週間にわたりまして、6カ国から6名を招聘して行っております。
 また、集中管理団体研修としまして、途上国の政府職員や集中管理団体の職員等を対象として、集中管理団体の設立や機能強化を促進し、人材を養成するというもので、毎年これはJASRAC(ジャスラック)とCPRA様にお願いをして実施をしております。本年度につきましてはフィリピンと中国から招聘をしております。
 その他、各地域や各国の要請に基づきまして、サブリジョナル・ラウンドテーブルや、またナショナル・セミナー、専門家派遣などということを内容としております。
 さらに1枚めくっていただきますと、これは二国間協議等をいろいろ行っている中で最近に行われたものでございます。11月には日韓著作権協議がソウルで行われまして、ご覧のようなことの協議をしております。また、日本、台湾の間の貿易経済会議が11月に行われまして、ここでもご覧のような協議が行われております。
 もう1枚めくっていただきますと、アジア著作権セミナー(東京セミナー)と称しているものでございます。これは先年度になりますが、2月28日からの3日間で東京で行われておりまして、ASEAN(アセアン)諸国及び中国、韓国、モンゴルから代表者を招聘しまして、またEUからも専門家に来ていただきました。そして、テーマとしましては、著作権意識啓発の効果的方法についてということで2日間議論を続けまして、その自由討論の概要としましては、著作権意識啓発の活動の対象者、また著作権意識啓発の活動の方法、著作権意識啓発活動の目的と内容、そして著作権意識啓発活動の国際連携についてどのようであるかというようなことの話し合いが行われたものでございます。
 さらにめくっていただきますと、平成19年度に行われます権利執行支援事業の概要でございます。
 権利者が自ら外国で権利侵害を行うときの手引きとなるためのハンドブックを作っておりまして、これまでに台湾版、中国版、韓国版を作成しており、本年度は「ヨーロッパにおける著作権侵害対策ハンドブック(イタリア編)」ということで、イタリアにおける権利執行を中心とした記述としたものを作成中でございます。
 また、2つ目にはトレーニング・セミナーということで、侵害発生国の取り締まり機関職員などを対象とし、著作権や日本コンテンツに関する知識を付与することで、当該国における日本コンテンツの海賊版取り締まりの実効性を高めるものでございます。1つはバングラデシュで、12月にダッカで行われておりまして、また中国ではご覧の各地──すみません、台湾が抜けておりますが、香港、台湾、深せん、広州で行われまして、今後、来週には上海と北京で行われる予定となっております。
 3つ目が権利執行セミナーということで、これは1年前に作られました著作権侵害対策ハンドブックの普及を図るとともに、その当該地域におけるコンテンツビジネス展開等についても講演するというもので、今年度につきましては、平成18年度に作成した「韓国における著作権侵害対策ハンドブック」を用いまして、ソウルと、それから東京、大阪、福岡で開催をいたしました。
 さらに1枚めくっていただきますと、官民連携事業の概要でございます。この官民連携事業の中心となっておりますのは、コンテンツ海外流通促進機構(CODA)への支援ということでございまして、現在、20団体、22社が会員となっております。日本貿易振興機構(JETRO)が事務局を行っております。特にこのCODAの中では、CJマークを利用した共同権利執行ということで、ご覧のこのマークを、まず各国で商標登録をして、そして正規品に付与することによって権利侵害の執行を容易に、また共同でできるようにしようというものでございます。CJマーク委員会では、このCJマークを用いたものと、また用いないものとしましても、その商標権による執行と、また著作権による執行ということで既に権利執行を行ってきておりまして、ごらんのような実績が上がってきております。また、同じくこのCODAの中では、法制度委員会ということで、海外著作権関連法制度等の研究を行うということもやっておりまして、この中から侵害発生国への要請事項などを検討していくということとなっております。
 そして、官民連携事業の2つ目としましては、知的財産法官民合同訪中ということで、国際知的財産保護フォーラム(IIPPF)と日本政府が連携して行っております中国に対する官民合同ミッションというものに参加をしてきております。これも事務局はJETROが行っております。
 1枚めくっていただきまして、最後でございますが、米国における対中国WTO提訴について簡単にご紹介しておきたいと思います。
 アメリカが2006年以来、中国における知的財産権保護対策についてWTO協議を要請することを予定しておりました。昨年4月7日に中国は、協議対象となっていた刑事訴追基準の一部引き下げ等を公表したのですが、米国はこれでは不十分であるといこうとで、4月16日にWTO協議を要請しております。日本は、この知的財産権の保護と執行の協議に第三国参加をしております。この米国からの協議には、後述しますが2つの内容がありまして、1つ目が知的財産権の保護と執行、そして2つ目が市場アクセスということになりますが、この市場アクセスの部分については、日本は第三国参加はしておりません。2007年6月に知的財産権の保護と執行に係る米中間の二国間協議が行われました。ここに日本及びEU、カナダ、メキシコが第三国参加をしております。二国間協議により紛争が解決できなかったということで、2007年8月に米国がパネルの設置を要請しておりまして、現在審理が行われているところでございます。
 この協議要請の内容ですが、1つ目が知的財産権の保護と執行ということで、刑事訴追基準の問題。商標権・著作権侵害行為があった場合でも、一定額以上の侵害がない場合には刑事罰の対象とされないということが問題であるということ。それから2つ目が、模倣品・海賊版の廃棄方法ということで、中国法では税関で没収した模倣品・海賊版を社会公益事業での利用などをすることを認めているということを問題としたものです。3つ目が、検閲前の著作物の著作権保護ということで、検閲をされていないもの、検閲を受ける以前のものは著作権で保護されていないということ、この3点を問題としたものでございます。
 市場アクセスについては、出版物、音響映像製品を輸入・流通する社を国有企業や内資過半企業に限定しているということについて異議を申し上げているものでございます。
 以上でございます。

【道垣内主査】

 ありがとうございました。
 続いて、外務省からお願いします。

【相馬室長】

 それでは、お手元の資料6に基づきまして、模倣品・海賊版拡散防止条約、これは仮称でございますけれども、こちらについてご説明いたします。
 1ページ目のタイトルの下に括弧といたしましてACTAと書かれておりますけれども、必ずしも日本語の拡散防止条約ときちんと対応しているわけではないのですが、今、非公式に議論を進めている関係者の間では、Anti-Counterfeiting Trade Agreementと呼ばれておりまして、頭文字をとりましてACTAというふうに略称されております。当然これも仮称でございます。
 2ページ目の模倣品・海賊版被害の経済規模、これはあちこちで取り上げられておりますので詳細は立ち入りませんけれども、1模倣品取引額の推計については、国際機関を通じましてさまざまな資料の推計が出ております。約80兆円といったような金額、それから、国際貿易に限定すれば約20兆円といったような数字が知られております。また、1企業当たりの年間被害額も、1億円以上の被害では日本企業の20パーセント以上であったり、これは企業の調査及び経済産業省の調査によりますと、こうした被害が出ておるということでございます。
 次に3ページ目でございます。言わずもがなのことではございますけれども、産業財産権を侵害する模倣品、それから著作権を侵害する海賊版の問題による影響としまして、経済的な意味合いからでは、もちろんビジネスや労働者からの収入の剥奪であり、実際に創造に携わる立場からすれば、イノベーションと創造性を阻害すること。それから、最近はさらに、特に医薬品とか、そういった観点、それから実際に、例えば自動車のブレーキパッドなどもそうなんでしょうけれども、消費者の健康と安全に対する脅威であったり、組織的犯罪への収入源の提供ということで、事柄の性質上、これも明確に立証されているわけではないんでしょうけれども、テロの資金源になっているのではないかという指摘もインターポールなどによってなされております。また、税収の損失なども引き起こすといったことでございます。
 4ページ目に移りまして、ACTA構想の背景でございますけれども、冒頭申し上げましたような模倣品・海賊版の蔓延と同時に、近年は流通パターンが大分新しくなってきている。特にインターネットを通じた拡散、あるいは、さらに手口の巧妙化、それから模倣ラベルですね。これは主として商標を念頭に置いておりますけれども、製品をつくっているところと、それからそのラベルを別々のところでつくって、第三国などでこれをつけてまた輸出するといったような手口も出てきておりまして、こうした新しい事情が出てきますと、既存の取引協定などでは最低限の規律しか今のところやはりできておりませんので、効果的に対処するためには、むしろ強力な法的規律と、それから、法的な規律のみならず国際協力といったものも必要なのではないかということで、法的枠組みが必要ではないかという認識がございました。
 次に5ページ目でございます。
 そういった考慮もございまして、2005年、当時の小泉総理から、グレンイーグルズ・サミットにおいて法的枠組みを策定する必要があるのではないかという話をしていただきまして、各国首脳の同意を得たところでございます。サミット、首脳会議の場で、こうした話が出たということでございますが、事務レベルでフォローアップをしますと、なかなか当初は、欧・米も含めて、本当にやるのかというような反応ではあったんですが、2006年の夏ぐらいから、米国でございますが、本件に積極的にコミットするということを言ってまいりまして、その後、主として日本、米国を中心に、欧州などのコミットを得ながら作業を続けてまいった次第でございます。
 2007年10月23日に、どのようなことを本件構想で取り上げていくべきかという地ならし作業を大体終えましたので、この構想の実現に向けた関係国との集中的な協議開始を発表させていただきました。この関係国でございますけれども、次の6ページにも若干関連いたしますが、目指すところとしては、法執行分野における新たな国際的スタンダードを確立しましょうと。特に模倣品・海賊版でございますので、商標権と著作権を主に焦点に当てましょうと。それから、ここも随分議論があったんですが、初期段階では、やはり知的財産権の保護に高い志を有する国が参加して、段階的に参加国を拡大しながらという、いわゆるツーステップで高いレベルの規律を形成しましょうと。やはり侵害国を最初から取り込んでいかないと意味がないのではないかという議論がある反面、そうした侵害国を最初から入れてしまうと、どうしても規律のレベルが低くなってしまうのではないかという議論がありましたものですから、ここは特に関係国とも随分話をいたしましたけれども、まずは志をともにする国々である程度高いレベルの規律をつくった上で、然るべきタイミングで侵害国に対して参加を呼びかけるといったようなことを考えております。
 そういうことで、日本、米国、欧州と申し上げましたが、そのほかにスイス、カナダ、それから韓国、豪州、ニュージーランド、メキシコ、シンガポールなどにも声をかけて、今、徐々に討議を行っておるところでございます。
 7ページ以降の主要事項につきましては、基本的には資料にお任せしたいと思っておりますが、8ページで、一応その3点を主要事項として検討していくと。冒頭申し上げましたところの法的規律の形成、やはり刑事の規律であったり民事の規律、それから水際の措置について、従来よりも少し踏み込んだ措置がとれないかということを追求してみる。ただ、規律を各国でより強いものを持つといっても、途上国などを取り込んでいく際には、恐らく国際協力といったものも必要になってくるであろうということから、国際協力を推進していく必要もあるのではないか。さらに言えば、途上国のみならず、参加している国の間でさまざまな情報を交換することによって取り締まりの実を上げることができるのではないかということで、国際協力の推進というものを挙げております。
 それから、執行の強化といたしまして、これも国際協力の推進と似たような発想でございますけれども、例えば、その執行を実際に強化するために国内的にどのようなことをしたらいいか。具体的には国内における人材の育成であったり、それから消費者の意識向上のための取り組みといったようなところを念頭に置いた、この辺を主要な中身として、現在関係国で議論を開始しておりますが、具体的には、昨年10月23日の発表以降、12月上旬にジュネーブで関係国間の議論を開始いたしました。正式な交渉というよりは、まだ交渉マンデートが出そろっていないという面もありますので非公式な議論ということで続けておりますけれども、実質的な議論は開始されているといったような状況です。
 特に本年、また日本がサミットを主催するということもございますので、この機会にできるだけ議論を加速化して、早い時期に成果を上げるように努力してまいりたいと思っております。またいろいろご指導賜れれば幸いでございます。
 どうもありがとうございました。

【道垣内主査】

 ありがとうございました。
 それでは、海賊版対策につきましての動向をご報告いただきましたので、その点につきまして質疑応答をしたいと思います。何かご質問その他ございますでしょうか。
 高杉委員。

【高杉委員】

 資料5の最後のページの米国による対中国WTO提訴の件で、2点質問したいわけですが、まず1点目は日本政府のスタンスの確認です。中国における海賊版の状況が深刻であるということについては、恐らく日本も米国も認識の相違はないと思うんですけれども、一方では、日本政府は、硬軟両面から対中国に働きかけをしているというようなこともありまして、最終的には当時国として入るというよりは第三国の参加になったというふうに認識しておるんですが、この点については基本的なスタンスは変わっていないのかどうか。それが1点目。
 それから、2点目の確認ですが、協議内容のところですが、(1)の知的財産権の保護と執行の3に検閲前の著作物の著作権保護の点があります。この意味がちょっとよくわからなかったんですけれども、これは端的に言って中国政府に対し検閲制度の廃止を求めているものなのかどうなのかを、確認をしたいと思います。

【田中専門官】

 最初の第1点目でございますが、おっしゃいましたとおりでありまして、日本のスタンスとしては、これまでやはり要請と協力ということでずっと行ってきておりますので、その観点からも、当事国としての参加ではなくて第三国にとどめたということは変わりがないかと思います。
 それから、2点目の検閲前の著作物の著作権保護ですが、これそのものはアメリカが要請していることなので、その詳細について私どもの知るところとはなりませんけれども、検閲そのものの制度を廃止せよということではなくて、検閲前であるということによって著作権が守られない。検閲に時間がかかっている間にどんどん海賊版が出てしまっても、それは検閲が済んでいないということで、中国国内で取り締まりができない。その問題について問題視しているものというふうに理解しております。

【道垣内主査】

 そのほか、何かございますでしょうか。

【中村委員】

 海賊版対策は、国益にとって非常に重要な施策だと思いますので、政府全体でより一層の力を入れるべきだというふうに考えますけれども、基本的なことをお伺いしたいんですが、この問題に対して政府部内での位置づけといいますか、全体でどういう省庁が関与していて、それぞれの役所の役割の分担がどうなっていて、それら政府全体として連絡や調整体制というのはどういうふうになっているのかというのを、簡単に教えていただけないでしょうか。

【田中専門官】

 この海賊版対策につきましては確かに大変大きな問題であるということは、2002年に知財立国ということが言われた時点から盛んに話はされているところでございます。それで、この海賊版・模倣品の問題につきましては、政府間での省庁を超えた形での連絡協議が行われております。これは経済産業省の中に模倣品・海賊版対策室というところができておりまして、そこが事務局となって横串の形での連携をしているものでございます。各組織の役割分担というところについては、私が全部今申し上げることはできませんが、文化庁はその中で著作権の侵害に対する担当をしておりまして、その他、実際の執行の部分では警察や、また水際対策などでは財務省の税関ということ、また種苗、種や植物品種の問題では農林水産省といった形で、関係省庁が横串で連絡をとり合うといった体制はつくられております。

【道垣内主査】

 そのほか、いかがでしょうか。
 どうぞ、山本委員。

【山本委員】

 ACTAについて質問が1点あります。どこをねらいにして、具体的に詰めていこうとされているのかということについて伺いたいんですが、例えば、この法的規律の形成という課題があって、現在いろいろな条約があって、そこで法的規律はなされているんですけれども、それに対して、ここが不足しているから、ここの部分を上乗せするんだというような、具体的にどういう上乗せをやるべきだというようなお考えがあるんでしょうか。あるいは、こういう法的規律だけじゃなしに、官民協力の問題、政府間協力であっても、どういう形でもっと強化しないといけないというような、そういう問題意識をお持ちなのか。ちょっとその点、お願いいたします。

【道垣内主査】

 相馬室長、よろしゅうございますか。

【相馬室長】

 どうもありがとうございます。
 資料の8ページに、やはり規律といたしましては、特に法執行について、割と包括的に書かれているTRIPS協定を念頭に置いておりますけれども、こちらもウルグアイ・ラウンドの際に途上国も巻き込んで交渉した結果でございますので、どうしてもある程度ミニマムの規律であったり、あるいは各国に委ねている部分などもございますけれども、例えば法的規律の中で刑事なり民事の規律で、例えば、損害額の推定をどうしたらいいのかとか、それから、実際に捜査とか訴追に当たって、どこまで執行当局が自ら能動的に対処できるのかといったようなところで、各国法制は結構ばらつきがあります。必ずしも何か1つの制度に全部合わせましょうといったようなことではないんですけれども、各国の法執行の実態を見ながら、効果的な取り締まりが行われるにはどうした法制度が適切かといったようなことを議論しております。
 また、水際につきましては、例えばTRIPS協定では、各国は、輸入については取締が義務化されておりますけれども、輸出については基本的には任意規定になっている。さらには中継貿易ですね。トランジットの話などもございますので、こうしたところも射程に入れて、法的規律をどうしたらいいのかということを議論しております。
 こちらはどちらかというと制度面の話が中心になるわけですけれども、その制度の運用をさらにしっかり実のあるものにするために、例えば官民で諮問グループを設立したりとか、それから専門家の育成をやったらどうかというのが、まさに執行の強化とされている2で想定しているところでもございますし、1の国際協力の推進、制度を調和し、いろいろな国内の運用をしっかりやっても、なかなか途上国では追いついていないところがございますので、条約にどこまで書き込むかという問題は確かにありますが、キャパシティービルディングもしっかりやりましょうといったような話とか、それから、法執行当局、それから税関など、執行当局間で実際に情報を交換することによって、取り締まりが容易になる、あるいは効果的になるということもございますので、そうした実際の制度をつくっていきましょうといったような記述ですね。あるいは、各国がやっている非常に効果的な取組、ベストプラクティスの交換といった、そうした事柄を法的な規律として、あるいは国際約束として書き込むには、それなりの抽象的な表現になってしまうのかもしれませんけれども、今、各国間で議論しているときには、そうしたイメージを持ちながら議論を進めておるところでございます。

【道垣内主査】

 ありがとうございました。
 よろしゅうございますか。
 私から、ちょっと1点だけACTAについてお伺いしたいんですが、WIPOとは全く関係ないのか、あるいはあえて関係させていないのか。何か意図的なことがあるのか。

【相馬室長】

 WIPOとの関係につきましては、ACTAはもともとG8に端を発するということもありまして、基本的には各国政府を中心としてやっていきましょうということで始まっておりまして、途中、例えばご指摘のありましたWIPOもそうなのですが、場所を借りて、事務局を持っている国際機関を使ってもいいのではないかという議論も確かにございましたけれども、WIPOなりWTOなりOECDなり、いろいろちょっと見渡してみまして、それぞれやはり得失があるんだろうと。当面の間は、ACTAの始まった経緯もございますので、関係国同士、できるところまでやってみるということで、最終的に条約ができ上がったときに、その条約の管理をどうするかという問題は、まだ関係国間でも十分に議論されているわけではありません。どこかの段階で国際機関の知見が必要になる場もございましょうし、最終的に条約ができ上がった後の執行管理というものをどうしたらいいかということで、何らかの関与が必要になってくるとは思いますが、今の段階では、関係国間でもそこのところは固まった方針はないというのが実情でございます。

【道垣内主査】

 ありがとうございました。
 よろしゅうございますでしょうか。
 あと30分ぐらいになりましたが、ご報告いただくべき事項として今後の国際対応のあり方が残っておりますので、このご報告をいただきたいんですけれども、この後、さらに次の議題として今後の国際対応のあり方も、それまでのお話を全部伺った上で、今後日本としてどうしていくのか、さらには、具体的にはこの国際小委員会というのはどういうふうな働きをしていくのかということについてご意見を伺いたいと思いますので、そのおつもりで聞いていただきたいと思います。よろしくお願いします。
 それでは、ご報告をお願いします。

【高柳専門官】

 それでは、資料7で今後の国際動向ということで、今度はFTA・EPAに関する取り組み状況につきまして簡単にご説明させていただきます。
 FTA・EPAにつきましては、これまでシンガポールを皮切りに途上国との締結を目指してきたところでございまして、昨年におきましては新たにブルネイ、インドネシアと署名、チリ、タイが発効したところでございます。また、新たにベトナム、スイス、豪州などとの間で交渉が始まっているというところでございます。これまで途上国の中でも、とりわけ知財に関する規定を設けるメリットが大きかったアジア諸国などとの協定が中心だったということで、著作権関連条約の早期の批准ですとか、あるいはインターネット対応の著作権法制の整備ですとか、さらにはエンフォースメントの確保等を知財章という形で求めてきた部分はございますが、今後は先進国などとの交渉も出てくるということでございまして、どういうふうな対応をしていくのかというのを検討しながら注視していきたいというふうに考えております。その他、いろいろと私どものほうでもFTAのみならず、日米イニシアチブ、あるいはヨーロッパとの対話等の取り組みもいろいろやっているところでございまして、マルチのみならずバイ、あるいは先ほどのFTA等の枠組み、いろいろなスキームを使いながら今後やっていきたいということでございますが、そういうものをどういうふうに活用していくのかということも含めまして、この後の(3)でご議論をいただきたいと思います。
 以上、よろしくお願いします。

【道垣内主査】

 わかりました。ありがとうございました。
 それでは、今のご説明も含めて、時間の関係もございますので、次の今後の国際対応のあり方の中で、もしご質問があればしていただくということにさせていただきたいと思います。
 本日のご報告、いろいろお伺いしたわけでございますけれども、各国の状況、それから国際機関の状況、特にWIPOがしばらくうまく動かないかもしれないという状況で、日本としてどうしていくのかということにつきまして、委員の皆様のご意見を伺いたいと思います。最終的には分科会にご報告をして、さらにその上の審議会に上げていくということでございますので、国際対応につきましてのご意見が何かございましたらよろしくお願いいたします。いかがでしょうか。
 菅原委員。

【菅原委員】

 いろいろな動きがある中で、大きく2つに分けて考えておいたほうがいいと思います。放送条約やACTAのように国際的な中での基盤を考える部分というのは、やはり条約ということがまず前提になると思いますので、そこは引き続き対応を積極的にやっていただく必要がある。また、その上で、例えばアジアの海賊版の問題ということになりますと、やはりそれぞれの国によって状況がかなり違っているだろうと思います。そういたしますと、そういう包括的な条約ということよりは、FTA等の二国間の中で、やはりそこを具体的に要請していくというようなことが必要だろうと思います。
 それと、もう一つは、特にインターネットというような流通を前提として考えますと、単に日本から、日本の権利を守るためにということではなくて、逆に今度は日本が守らなければいけないことというのが出てくるはずでございます。そのあたりは国際小委員会としての検討事項ということではないと思いますけれども、文化審議会等の中でやはり積極的に検討して、対応をとるべきところがあれば対応をとっていくということも必要だろうと思います。
 それと、国際的な最近の動向ということで、これは民間のお話ですけれども、1点ご報告をさせていただきたいと思います。それは、結果的に日本だけに課されております平和条約上の戦時加算の問題でございます。第二次世界大戦といいますか、平和条約は太平洋戦争の関係でしょうが、結果的に日本だけということになっているわけです。もう戦後60年を超えて、ずっと日本はそのことを律儀に守ってきているわけですけれども、このことに関して、著作権協会国際連合、CISACという団体がございます。日本では日本脚本家連盟、日本美術著作権機構、そしてJASRAC(ジャスラック)が加盟しているわけですけれども、そちらの中で、これは今すぐということではないのですが、将来に向けて民間の取組として、その戦時加算について連合国内での著作者団体が権利主張をある面やめていくということの決議がなされて、各国に対してもそのような戦時加算の廃止に向けた対応をしていくということが昨年の6月決議をされております。詳細につきましては、過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会で報告がされていると思います。
 これから旧連合国内の著作者団体からそのような国に対する動きというのも出てこようかと思いますけれども、そういたしますと、今度は日本側でもそれに対応する国レベルでの対応というのも必要になってこようかと思いますので、先の状況としてあわせてご報告させていただきます。
 以上でございます。

【道垣内主査】

 ありがとうございました。
 そのほか、いかがでしょうか。

【大楽委員】

 FTAとかEPAを含めて、バイ、マルチの取り組みというのが試みられておりまして、それぞれ必要があるとは思うんですが、非常に基本的なところで、日本が国際的な社会の中でどういうスタンスで、どういう地域連携をやっていきたいのか、もう一つよく見えないところがあります。つまり、国際社会の中でどういうグループ活動を日本はしたいのか、すべきなのか。それをこの国際小委員会でお話しできるとしたら、やはり著作権関連ということが中心になるとは思いますが、日本のあるべき地域連携の姿とは、どのようなものか。例えば日本とEUなど、いろいろな国との協力関係がありますし、アジア各国に対してもAPACEプログラムなど、多数ありますが、著作権を機軸として、どのようにして総合的な動きにつないでいきたいのか。日本は、どのようにしてリーダーシップをとっていくべきか、日本の基本的メッセージとして伝えるべきことは何か、日本の主張をどういうふうにその国々との間で実現していくべきか、といったような基本的な総合戦略が必要だと思います。難しいかもしれませんが、この国際小委員会が、そのような基本戦略をつくるお手伝いができれば、と考えます。
 ありがとうございます。

【道垣内主査】

 そのほか、何かご意見等ございますか。
 池田委員、お願いします。

【池田委員】

 海賊版の話ですけれども、先ほど申しましたように、いわゆる物の海賊版に限らず、インターネットを利用したピア・ツー・ピアのファイル交換ですとか、それから動画投稿サイトへの違法な投稿というものが非常に増えておりまして、これらの場合は、いわゆるいろいろな事業者が行うわけではなくて、一般の方々が行うことによって、非常に多くの侵害物が流通している。こういったものを海賊版として捉えていただいて検討していただきたいと思っております。
 実際にこのようなものが違法に流通することによりまして、海外で実は放送番組を販売する市場がなくなりつつある部分もございます。例えばシンガポール等におきましては、PCの保有率が非常に高いということもございまして、ダウンロード率が極めて高いということで、例えばアニメーション番組を売りに行きましても、これは見る方はすべてもう違法なもので見てしまっているので、放送しても意味がないというようなことで市場が開かれないというようなことが起きておりますので、今後の海外展開も含めまして非常に大きな障害になっている。また、この問題は、海外の人たちが海外のサーバーに上げるということだけではなくて、海外でやられたものが日本にも入ってくる。それから、日本人が上げたものが海外で見られる。また、日本人が海外のサーバーに上げたものが日本に入ってくるというような物すごく広い範囲の中で行われている。これをどのように対応していけばいいのかということも我々としては悩んでおるところでございますが、それに対してどのような取り組みをしたらよろしいかということも、ぜひとも検討させていただきたいというふうに考えております。

【道垣内主査】

 ありがとうございました。
 どうぞ、上原委員。

【上原委員】

 先ほども少し申し上げましたけれども、やはり国際的ルールづくりの基本、各委員のご意見にもございましたが、基盤としては、やはり本来であれば共通の条約ができるというところが最も望ましいところであろうと思っておりますし、目の前のところでは、WIPOインターネット条約のうち2つが欠けているという状況がございますので、これを、今言っているとおりの形でつくられる必要があるかどうかは別ですが、実質的にそれをきちんと補填できるような形での作業というのはやはり必要だと思っています。それが、今、池田委員からあったインターネット対応等にもつながってくることだと思いますので、この面に向けては、さらに今後とも積極的な対応を、この小委員会も含めまして進めていただければと思っております。
 なおかつ、それを進める上においては、現在、国際的にWIPOが今年は政治の年で動きにくいという状況があったり、あるいは外交会議まで行ったものがいったんつぶれたり、外交会議の日程が出ながらつぶれたりという非常に厳しい状況があるわけですが、単純にWIPOの場で頑張るということだけではなくて、WIPOの場に盛り上げを持っていくための仕掛けとしての東京セミナーの活用であるとか、あるいはその他の何らかの国際的なセミナーなりシンポジウムなりの開催というようなことまで含めて広い取り組みをして、何となく世界的にマルチがもうだめだという雰囲気に向かいつつある部分がございますので、やはりマルチで最低限のものをつくっていきましょうというメッセージが出せるような活動を、何とか国として進めていっていただければというふうに思っております。
 それと同時に、とはいえ、現実にはマルチが非常に難しい中で、バイのFTA等がどんどん進んでいるという状況がございます。逆に言うと、バイの条約がすべての国と結べれば、実質的に条約と同様の、その最大公約数をとれば条約と同じことになっていくということになりますので、今までのところ、この国際小委員会では、バイの交渉については直接の海賊版対策にかかわることだけを扱ってきたように思いますが、今後、無論バイの交渉というのは政治・外交にかかわる微妙な部分がありますので、100パーセント開示いただくことは無理だと思いますけれども、バイの交渉の著作権関係に係る部分の流れを割と細かくお知らせいただくことによって、国際動向との関連性をとっていく。また、逆に、その中から新たな国際動向をきちんとつくっていくということが必要かと思いますので、主として我が国がということかと思いますが、逆にアメリカもバイのものをたくさんつくっていって、それで一つの国際動向をつくろうとしておりますので、そうした状況も注視した上で、その状況をお知らせいただき、私どもとしてもそれにどう対応するか、考えるかというのを今後検討していくというようなことを、この小委員会でやっていければと思いますので、よろしくお願いいたします。

【道垣内主査】

 そのほか、何かご意見いただけますでしょうか。
 山本委員、お願いします。

【山本委員】

 この国際小委員会で何年も委員をさせていただいているんですけれども、この場で議論する内容について、私自身、ちょっとどう対応したらいいのかということを、毎回疑問に思っておりました。というのは、今回もそうですが、報告をいただいて、それに対して質問するということと、それからコメントがあればコメントするということだけに実は終わっております。しかし、本来的に大事なことは、さっき大楽委員がおっしゃったように、国家戦略にどういうふうに結びついていくのかというところではないといけないんだと思うのですが、我々の質問なりコメントがどんなふうに結びついていくのかというのが極めて見えないといいますか、結びついていなさそうな感じがするんですね。
 例えば報告事項の放送条約の問題でも、日本政府として従来こういう政策、方針でやってきた。しかし、その後の進展としてこういう状況が発生しました。だから今までの方針を変えるべきでしょうか。皆さんのコメントをくださいとかという具体的な問題設定があれば、我々としても言うべきことというのははっきりするでしょうし、成果、結果もはっきりすると思うんですが、今まではそうではないように思えます。
 それから、海賊版対策も極めて重要なんですが、海賊版対策としてこういうことをいろいろやっていますというご報告をいただいているんですが、我々はそれについてどういう意見を言えばいいのかというところまでは実はなかなか言えないわけで、なぜかというと、いろいろ方策を出していただいているんですけれども、その具体的な内容についてはわかりませんし、それから、海賊版が発生しているようなそれぞれの国の問題について、我々、具体的な情報を持っているわけでもありませんので、それについて具体的な情報提供をこの場でできるわけでもありません。従って、ここで海賊版対策をこういう形でやっていますということについてご報告いただいても、それだけだと、我々として有益なコメントとか、国家戦略に結びついていくような議論というのはなかなかできないんじゃないかと思います。散発的な議論だけで終わり、後の成果として何も結びついていかないんじゃないかなと従前から思っておりまして、その辺のあり方みたいなものをご議論いただくといいますか、根本的に考えていただきたいなと一言コメントさせていただきます。

【道垣内主査】

 今おっしゃったのは非常に本質的なことでして、その点が一番大切なことだと思っています。本日は第1回ですが、昨年の3月に委員が決まって、本日まで我々は何もしなかったということであって、我々の問題だと思うんですね。ただ、積極的に何かできるかというと、参考資料1の文部科学省の設置法の中に文化審議会の役割についての規定がありますけれども、役割は、諮問に応じて調査審議するということと意見を述べるということなので、それが国家の施策に直接結びつく保証はありません。判断するのは大臣と長官ですので、それは仕方ないですよね。ですが、我々は意見を積極的に述べてこなかったという問題があることは否定できません。特に今年度の場合にはWIPOの状況が動いていなかったということがあるんですけれども、ただ、それだけが審議の対象ではないので、おっしゃるように、もっと早く起動し、必要な調査があれば調査をし、意見を述べるということがあってしかるべきだったと思います。仕組みとしてはあって、やらなかったのは我々という認識が大事だと思うんですが、その上で中身の問題ですけれども、どの点が一番議論すべき問題だとお考えでしょうか。

【山本委員】

 例えば、議論すべき問題だと思いますのは、今日出てきた問題で言いますと、放送条約であっても、何年も議論を伺っているんですが、少なくとも私については、過去の議論についての記憶が定かではありません。毎回小委員会で議論するよりも、例えばワーキングチームをつくって、どういう方針で日本政府としては臨むべきなのかとかという議論をして、それをこの小委員会に上げて、小委員会としての意見をまとめるとかいう形にしないと、散発的な議論だけで終わってしまうと思います。
 それから、この海賊版対策について言いますと、例えば国ごとにどんな問題があるのかということも、かなりの調査が必要だと思います。これは、ここに挙げられておりますような各団体が、いろいろな報告書等を出されていたりするんだとは思うんですが、それを取りまとめてこの小委員会に出して議論するとか、あるいは、その取りまとめのために、まさにワーキンググループをつくってやるとか、そういうやり方があるんだと思います。

【道垣内主査】

 そのようなイニシアチブをこの小委員会がとり、資料等が必要なのであれば、事務局にむしろこちらからお願いして集めて審議するということですよね。事務局にお膳立てをして頂いたところに来て意見を言うだけでは実がないとおっしゃっているんだと思います。

【山本委員】

 いいえ、お膳立てしていただけるのであればそれでいいでしょうし、お膳立てが事務局だけじゃできない、我々自身でやるべきだということであれば、我々がワーキンググループをつくってやってもいいと思いますし、それは、ちょっと申しわけないですけれども、無責任な言い方になりますが、事務局にお考えいただかないと、予算の問題もあるでしょうし、何とも申し上げられないんですが。

【道垣内主査】

 どうも、私も事前に調べたところによりますと、小委員会の招集権というのがはっきり規定されていないようです。今後の運営のあり方について、必要なワーキンググループなりを設けて調査検討を行ってはどうかという意見があるということを分科会にお伝えするということでよろしゅうございますか。
 そのほか、何かございますでしょうか。

【増山委員】

 2点申し上げます。
 1つは、この国際問題というのは、裏を返せば、私はいつも国内問題だと思っておりますが、例えば池田委員がご指摘されたように、ネット上のピア・ツー・ピアの問題、それからYouTubeに関しても、実はアップして、そして試聴している多くの利用者はむしろ日本人なんですね。それで、この国際条約、あるいは海賊版防止問題につきまして日本政府が積極的に海外に対してアピールするためには、やはりまず国内においても、このような侵害問題をどう対処していて、具体的には有効な対応策はあるかどうかを示す必要があると思います。この問題については、まず国内でしっかりと議論して、その対応策を検討していく必要があると思います。
 二点目、WIPOもそうなんですけれども、途上国とのお付き合いについては、先進国と違って、やはり途上国の多くはいまだに官主導の場合が非常に多いわけですので、そうすると、いろいろなことに対応していく上では、やはり人脈づくりということはとても大事だと思います。先ほど大楽委員もおっしゃったのですが、どのようにこの地域で連携をしていくことができるのか、政府の事務レベルもそうですし、民間もそうですし、その多くはむしろ人脈の構築が大きくものを言うときがあると思います。実際に政府はもう検討しているかとは思うんですけれども、例えばWIPOに対して積極的に人員を送り込むとか、こういったことは、実は途上国を見れば分るように、彼らはすごく積極的にやっているんですね。お隣の中国とかブラジルだとか、そういった国は、実はWIPOの事務局に対してどんどん人を送り込んでいるわけです。二国間の協議をするときにも、やはりお互いに信頼しあって何でも言えるような、事務レベルでのそういった人間関係を構築することができれば、大事だと思います。ただ代表団を派遣して何百人が押しかけていっても、何も本音は聞けない。かえって2人だけでじっくり話し合う場で、実はたくさんの有益かつ有効な情報と対応の方向を聞くことができることもあります。
 この2点につきましては、この国際小委員会においても何らかの形できちんと検討することができればいいかなと思います。
 以上です。

【道垣内主査】

 そのほか、よろしゅうございますでしょうか。
 ほぼ時間になっておりますので、いただきましたご意見、それから報告に際しても、問題になった点等を含めて、私のほうから1月30日に開催されます著作権分科会にご報告させていただきます。どのような報告内容にするか、どういう資料をつくるかということにつきましては、私にご一任いただければ幸いでございます。よろしゅうございますでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【道垣内主査】

 どうもありがとうございました。
 それでは、本日の国際小委員会はこれで終了いたします。ありがとうございました。

(文化庁国際課)