妙高市における庁内の子育て支援体制の整備について(新潟県妙高市)

妙高市における庁内の子育て支援体制の整備について

1  自治体・団体名: 新潟県妙高市,妙高市教育委員会

2  自治体・団体の概要
 新潟県の南西部に位置し,長野県と隣接する妙高市は平成17年4月に一市(新井市)一町(妙高高原町)一村(妙高村)が合併して発足,日本百名山に数えられる秀峰,妙高山の裾野に広がる妙高山麓一帯の緑豊かな自然環境と,豊かな水資源に恵まれた人口約40,000人の小さなまちである。市では,かけがえのない自然の恵みを守り,すべての生命を安心して育むことができる「生命地域の創造」をまちづくりの基本とし,「人と自然にやさしい交流都市」を将来像として,豊かな地域資源を活用し,魅力ある地域をつくることを目指している。

3  地域の特徴
 市の面積は445平方キロメートルで,そのうち地域全体の約8割は森林で西部には2,454メートルの妙高山をはじめ,火打山,斑尾山などの山々が連なり,その裾野は広大な妙高山麓の高原丘陵地帯を形成しており,山麓一帯は上信越高原国立公園に指定されている。その恵まれた自然景観や豊富な温泉を生かしたたくさんのスキー場や温泉保養地などの観光産業や,肥沃な土地での良質米の生産や高原野菜の産地としての農業が盛んである。
 また,市内を南北に流れる関川や矢代川の豊富な水を利用した,電力利用による化学工業や半導体産業が盛んなまちである。

4  子育て支援体制整備へ向けた取組状況
(1) 子どもに関する窓口業務強化への経緯
 平成15年度旧新井市では,同じ幼児期の子どもの教育の機会均等の確保と子ども関連窓口業務のワンストップサービスの取り組みを行うため,教育委員会所管の「子どもに関する業務」と福祉部門所管の「子育て支援等に関する児童福祉業務」を一元化して教育長へ事務委任し,それまで教育委員会学校教育課が所管していた学校,幼稚園業務と併せて担当する「こども教育課」を教育委員会内に設置した。その後,平成17年度から市町村合併に伴い,保育園児,幼稚園児など就学前の子どもに関する業務全般を所管する「子育て支援課」と就学期の子どもに関する業務を所管する「学校教育課」に組織を再編し,現在に至っている。
(2) 「幼保一元化」へ向けた取組の具体的内容・方法・実施状況
新井市版幼保一元化への取組
 旧新井市においては,保育園13園(公立12園,私立1園)幼稚園2園が設置されていたが,幼稚園は市街地だけにあるということから,保育園でも幼稚園教育を実施してほしいという声が以前からあった。
 こうしたことから教育の機会均等を図るべく「市内の同じ年齢の子どもが同じ内容の保育,教育を受けられるように制度の確立が必要である」との考えを固め,「幼保一元化」の実現に向けて取り組むこととした。
 平成15年度に,保育士,幼稚園教諭及び行政職員で構成した「新井市幼保一元化検討会」を立ち上げ,先進地の視察や先進的な取組の研究をとおして,可能性について検討を始めた。
検討会での検討内容
第1次検討会での結論
1  保育園,幼稚園ともに,3歳以上の園児には,午前中は主に幼児教育を行うこと
2  幼稚園でも保護者の希望により午後の保育を行うこと
3  保育園,幼稚園ともに保護者の希望により早朝,延長保育を受けることができること
 以上の3点を柱とした仮称「幼児園構想」がまとめられた。

 第1次検討内容を実現するために,解決を要する諸課題について検討を行う第二次検討会を発足させた。
 その検討内容は人的面(共通認識の醸成,役割の明確化),制度面(文部科学省,厚生労働省での制度的制約,施設制約の抽出と解決方策の検討),財政面(保育料・授業料のあり方,具現化するときの財政面の検討),給食面(給食のあり方),その他(設置方式の検討,全園方式,拠点園方式etc)等多岐にわたったが,その主な検討結果は次のとおりである。

第2次検討会での結論
1  幼児園構想の実施は,全園同時実施とすること。
2  幼稚園における保育をどのようにするかの決定。
3  保育,教育内容については,保育指針,幼稚園教育要領を調整し,市の幼児の実態に合わせて共通のカリキュラムを作成し統一すること
4  幼稚園授業料,保育園保育料の保護者負担金については均衡を図ること
5  保育園においても,給食は完全給食化を進め,給食費は別枠徴収すること

 上記のうち,幼児園構想の根幹となる「幼稚園,保育園共通の教育内容」を確立するため,新井市幼児教育基本計画(図1)を,平成15年度に,施設長会(保育園・幼稚園の園長で構成)が中心となって作成した。平成16年度には,これに基づき,全園で自園の具体的な計画を作成し,実践に入っている。



図1:新井市幼児教育基本計画

 だが,「幼児園構想」を全面的に実施するには,さらに前述の第2検討会の結論24などについて制度の違いを踏まえながら調整することが必要となった。
 まず,幼稚園で保護者の希望により午後の保育を受ける場合は,午後4時までを通常の「預かり保育」時間とする。
 次に,保育園の保育料と幼稚園の授業料とではかなりの隔たりがあり,このままでは「預かり保育を受け入れた幼稚園」に入園希望が偏ることが予想されることから,保護者が負担する経費の隔たりを是正する必要が出てきた。種々検討した結果,幼稚園における預かり保育料の設定を工夫することにより,保護者負担に差がでないよう調整をすることとした。
 構想から4年,上記のような検討を経て,ようやく平成17年度から合併により誕生した妙高市全域で,すべての園において幼児園構想の実施に入った。全保育園・幼稚園では「共通」の妙高市幼児教育基本計画(別図のとおり)に基づいた,それぞれ地域の特色を活かしたカリキュラムを編成し,実施している。

(3) 市民と協働の子育て支援への取組
 急速な少子・高齢化社会を迎え,地域社会でのつながりの希薄化や核家族化の進展など社会環境の変化に対して,子育てしやすい環境を整えたり,子育てに悩む保護者の助言や支援を目的としたNPOが当市に平成16年3月に設立された。これを期に市では,利用者の複雑・多様化する子育て支援ニーズにタイムリーに対応できるように,従来市で行ってきた。「子育て広場」や「放課後児童クラブ」,「ファミリーサポートセンター」の運営業務をNPOに委託し,子育て支援サービスの充実に努めている。
 また,NPOでは市からの委託業務以外に,独自事業として,保護者の負担を軽減するために出張保育やリフレッシュ保育など子どもを一時的に預かる事業や,子どもとの関わり方や親として必要な育児・家事について知識の習得,親自身の成長と自立を促すための研修などを進めている。

(4) 親育てに対する取組
 現在,市では妙高市次世代育成支援行動計画の柱の一つである親育てに力を入れている。「子育て」およそイコール「親育て」と言われるように,最近の児童虐待件数の増加,子育てのできない親の増加の背景には,親としての愛情や知識不足等により親があるべき姿に成長していないことに起因するものが多い。そのため市では,平成18年度に子育て応援隊事業として市内全保育園・幼稚園において親育て講座を開催し,子育てのために本来必要な知識の普及に努めている。
 対象者は保護者,地域住民であり,気軽に相談や情報交換などが行われ,効果的な事業であったと捉えている。内容的には県内の親業インストラクターの講師により,「子どもとの接し方(コミュニケーションスキル)」を中心とした,ロールプレイを交えた内容で話を進め,その後,座談会形式で子育てについての悩みや不安等をみんなで話し合うというものであるが,これが保護者にも好評で,今後も継続して開催する予定である。

5  今後の方向性や展望
 現状では,教育委員会部局が幼児から義務教育終了時までの業務を担当し,設置目的の「子どもに関する業務」の一元化とワンストップサービスの推進が行なわれ,市民からの評価も高い。しかし,児童福祉法の改正による児童相談業務の一部が市の事務となり,業務が拡大してきたことに伴い,仕事量が増加し,組織の充実・強化が課題となってきている。
 また,保健に関わる相談や発達障害児の増加に伴い,母子保健業務が市長部局にあることから,一層の連携が必要となってきている。
 妙高市版幼保一元化がスタートし,一貫した幼児教育システムが構築されたが,今後さらに,地域の特色を活かしたカリキュラムの充実が保育園・幼稚園に求められる課題となってきている。
 一方,市民と協働の子育て支援については,子育て支援業務を担うNPOの設立により,サービスの幅の拡大やタイムリーな提供がなされてきているが,さらにニーズの多様化や質の高いサービスの提供のためにNPOが活動しやすいように支援を充実することや連携を強めることが必要である。また,行政と市民が互いに役割を分担した子育て支援システムの構築が課題となってきている。
 そのほか,ますます少子化の進行が予想されるが,子どもたちが健やかに産まれ育つために安全・安心な子育て環境の充実に努め,”子育てをするなら「妙高市」”を目指し,各種施策の実施,評価,改善を着実に進めることとしている。

6  担当者連絡先
 〒944-0046 新潟県妙高市上町9-1
 新潟県妙高市教育委員会子育て支援課 子育て支援係 畑山俊光
  TEL   (0255)70-6435
FAX (0255)72-7659
Eメール kosodateshien@city.myoko.niigata.jp



妙高市 幼児教育基本計画(PDF:108KB)

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