通学区域制度の弾力的運用について(通知)

文初小第78号
平成9年1月27日

各都道府県教育委員会教育長 殿

文部省初等中等教育局長
辻村 哲夫

 市町村教育委員会は,当該市町村の設置する小学校又は中学校が2校以上ある場合,学校教育法施行令の規定により就学予定者等の就学すべき小学校又は中学校を指定することとされています。その際,市町村教育委員会は,通常あらかじめ各学校ごとに通学区域を設定し,これに基づいて就学すべき学校を指定しています。
 この通学区域制度の運用に当たって配慮すべき事項については,既に別添1の昭和62年5月8日付け文初高第190号「臨時教育審議会「教育改革に関する第三次答申」について」をもって通知したところでありますが,このたび,行政改革委員会の「規制緩和の推進に関する意見(第2次)」(平成8年12月16日)において,保護者の意向に対する十分な配慮や選択機会の拡大の重要性,学校選択の弾力化に向けた取組などについて別添2のような提言がなされました。
 ついては,今後,特に下記事項について,教育上の影響等に留意しつつ,通学区域制度の弾力的運用に努めるよう,貴管下の市町村教育委員会に対し周知徹底をお願いします。
 なお,おって通学区域制度の弾力的運用に関する事例等を収集し,それらの情報の提供を行うこととしておりますことを申し添えます。

1.  通学区域制度の運用に当たっては,行政改革委員会の「規制緩和の推進に関する意見(第2次)」の趣旨を踏まえ,各市町村教育委員会において,地域の実情に即し,保護者の意向に十分配慮した多様な工夫を行うこと。

2.  就学すべき学校の指定の変更や区域外就学については,市町村教育委員会において,地理的な理由や身体的な理由,いじめの対応を理由とする場合の外,児童生徒等の具体的な事情に即して相当と認めるときは,保護者の申立により,これを認めることができること。

3.  通学区域制度や就学すべき学校の指定の変更,区域外就学の仕組みについては,入学期日等の通知など様々な機会を通じて,広く保護者に対して周知すること。また,保護者が就学について相談できるよう,各学校に対してもその趣旨の徹底を図るとともに,市町村教育委員会における就学に関する相談体制の充実を図ること。



別添1

臨時教育審議会「教育改革に関する第三次答申」について(通知)(抄)

昭和62年5月8日
文初高第190号


(6)  通学区域
   現行の通学区域制度は、義務教育について、その適正な規模の学校と教育内容を保障し、これによって教育の機会均等とその水準の維持向上を図るという趣旨から行われてきた制度であるが、今次答申において、現行の市町村教育委員会の学校指定の権限は維持しつつ、地域の実情に即し、可能な限り、子供に適した教育を受けさせたいという保護者の希望を生かすために、当面、具体的には調整区域の設定の拡大、学校指定の変更・区域外就学の一層の弾力的運用、親の意向の事前聴取・不服申し立ての仕組みの整備など多様な方法を工夫することが提言されていることにかんがみ(第2章第6節)、この際、各市町村教育委員会においては、就学すべき学校の指定に係る市町村教育委員会の権限と責任に基づき、地域の実情に即してこの制度の運用について検討する必要があること。



別添2

「規制緩和の推進に関する意見(第2次)」-創意で造る新たな日本-(抄)

平成8年12月16日
行政改革委員会


【分野別各論】

11  教育

 
(1)  学校選択の弾力化
   公立の小学校・中学校については、子供の就学すべき学校は市町村の教育委員会が指定することになっており、子供は、原則として、指定された学校に就学しなければならない。この就学校の指定に当たっては、概ねどこの市町村においても通学区域が設定されており、この通学区域に基づいて、学校指定が行われている。指定された学校を変更できるのは、保護者が市町村教育委員会に申立てを行い、同教育委員会が相当と認めた場合に限られており、基本的に、保護者等に子供を通わせたいと思う学校を選択する機会は制度的にも実態的にも保障されていない。
 子供が自己を確立しながら多様な価値を認め合い、それぞれのびのびと学習するためには、特色ある学校づくりを進めていかねばならない。各学校は、個性ある教育課程の編成に取り組むことなどに加え、教育を受ける側が何を求め、何を評価するかを重視していく必要がある。指定された学校以外の選択は困難という硬直した状況から、自らの意思で多様な価値の中から選択できる状況になるということは、選ぶ側の意識を柔軟にするとともに責任感を生じさせ、ひいては、逃げ場がないために生じている不登校の問題の解決にも寄与していくと考えられる。

 学校選択の弾力化については、受験競争の激化・低年齢化、学校の序列化や学校間格差の発生、学校と地域社会との結び付きの弱まり、通学できる学校が一校しかないなど実態として選択ができない地域における不平等などの問題点が指摘される。
 受験競争の激化等に対する懸念については、学校が、受験し進学するための学力という単一の価値でない多様な教育内容を提供し、保護者に選択する機会が与えられることにより、その意識の変化が促されるものでもある。
 学校の序列化・学校間格差の発生に対する懸念は、受験競争の激化と同様、我々国民が学校の在り方を学力という単一の価値で判断するかどうかにかかっている。各学校の教育内容が多様化し、それぞれの内容に価値を認めていければ、単一の価値を前提にした序列化の懸念は払拭されるとともに、学校間に多様性が存在することが「格差」であるならば、今後はこのような「格差」を義務教育制度の中でも積極的に肯定していく必要がある。
 学校と地域との結びつきの弱まりに対する懸念については、地域の教育力は、その地域の学校に通っている子供のみならず広く地域全体の子供に対して発揮されるべきものであろう。
 地域における不平等に対する懸念については、学校選択の弾力化の目的は、選択そのものにあるのではなく、選択等の手段を通じながら、それぞれの子供に対してその子供に合った自主的精神・個性を伸長する魅力的な教育が受けられる状態を実現していくことにある。地域の実情を前提としながら、それぞれの地域で可能な方法をとることにより、全体に学校の水準を少しでも向上させ、子供にとって望ましい教育を実施していくことが必要である。
 現行法令で定められた学校指定制度においては、市町村教育委員会は子供の就学すべき学校を指定するよう定められてはいるが、通学区域に関する規定はなく、また、指定に当たっての保護者の意向の確認や保護者の選択についての制限は行われていない。したがって、学校指定に当たって、保護者の意向に十分配慮し、保護者の選択を働かせることは、市町村教育委員会の前向きかつ積極的な取り組みにより可能である。
 学校選択の弾力化に関する議論は、昭和62年の臨時教育審議会の答申においても「就学すべき学校について、事実上単なる機械的、硬直的な指定となり、選択の機会に対する配慮に欠ける状況が見られる。このことが学校教育の画一性、硬直性、閉鎖性と子供の自主的精神・個性の伸長を妨げていることなどの一因となっていると考えられる」とされた上で、「学校選択の機会を漸進的に拡大していくため、当面、具体的には、調整区域の設定の拡大、学校指定の変更・区域外就学の一層の弾力的運用、親の意向の事前聴取・不服申立ての仕組みの整備など多様な方法を工夫すべきである」、また、「通学区域制度の見直しと学校選択の機会の拡大については、国や教育委員会の全国的組織等が一定の方式を定め、全国一律に採用するというような画一主義を排し、あくまで市町村教育委員会がそれぞれの地域の歴史や実情、住民の意思を最大限に尊重しつつ、自主的判断と主体的責任に基づき進めるよう十分に配慮する」とされている。この答申を踏まえ、教育委員会に対して「臨時教育審議会『教育改革に関する第3次答申』について」(昭和62年5月8日付け文部省初等中等教育局長、教育助成局長、社会教育局長、体育局長連名通知)が出されているが、同答申後、選択の弾力化という視点からの調整区域の設定の拡大はほとんど見られないとともに、学校変更等の取扱についても、弾力的な運用が行われている例は多くない。上述のように、どの程度保護者の意向を重視し選択を働かせるかは市町村教育委員会の意向、試みにかかっており、市町村教育委員会の取組は十分とは言えない。
 他方、ごく一部の市町村教育委員会において、過疎問題への対応等の観点からではあれ、特定の学校においてそれぞれの特色を持たせる努力が行われているとともに、それらの学校について、広域の範囲から保護者の選択により子供を通学させるという試みが行われている。また、いじめ等に対応するための学校変更や区域外就学についても、市町村教育委員会によっては、弾力的な運用が行われている。また、調整区域の設定の拡大についても、その趣旨が選択機会の拡大にまで至らない場合であっても、一定の範囲で、保護者の意向の吸収やそれに対する行政側の対応の仕組みについての経験、知識が積み上げられてきていると考えられる。

 したがって、政府は、臨時教育審議会の答申後の前述の通知について、市町村教育委員会の取組等をフォローアップする必要があるとともに、市町村教育委員会に対して、学校選択の弾力化の趣旨を徹底し、保護者の意向に対する十分な配慮、選択機会の拡大の重要性の周知を図ることにより、市町村教育委員会が本来の機能を発揮し、学校選択の弾力化に向けて多様な工夫を行うよう、指導すべきである。また、市町村教育委員会の取組に役立てるため、学校選択の弾力化の取組事例、調整区域の設定の拡大の取組事例等を継続的に収集し、他の市町村教育委員会に対してそれらの情報の提供を行うべきである。また、保護者の意向を生かす一つの機会である学校指定の変更や区域外就学の仕組みについては、選択機会の拡大の観点から市町村教育委員会がこれを十分活用できるよう、現在、身体的理由、地理的要因、いじめの対応に限定されていると解釈されがちである「相当の理由」について選択機会の拡大の視点に沿って弾力的に取り扱えることを周知すべきである。

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