第3回会議(平成19年10月23日) |
平成19年10月23日(火曜日)13時~15時30分
千葉県浦安市立中央図書館 視聴覚室
きむら ゆういち 氏 | (児童文学作家) | |
中江 有里 氏 | (女優、作家、脚本家) | |
座長 | 片山 善博 氏 | (慶應義塾大学教授(大学院法学研究科)、前鳥取県知事) |
市川 久美子 氏 | (財団法人出版文化産業振興財団(JPIC)読書アドバイザー) | |
織茂 篤史 氏 | (神奈川県横浜市立日吉台西中学校校長) | |
小林 実 氏 | (山梨県甲斐市立双葉西小学校校長) | |
庄司 一幸 氏 | (読書コミュニティネットワーク代表、福島県あさか開成高等学校教諭) | |
小川 三和子 氏 | (東京都新宿区立津久戸小学校司書教諭) | |
齋藤 明彦 氏 | (鳥取県自治研修所長、前鳥取県立図書館長) | |
笠木 幸彦 氏 | (社団法人全国学校図書館協議会理事長) | |
森田 正己 氏 | (浦安市立中央図書館長) | |
齋藤 潤子 氏 | (中央図書館奉仕第2係長) |
《森田館長》
図書館行政も電子化の時流にのる一方で、子どもの読書離れ等、現場にいるものとして活字媒体の重要性を改めて感じさせられる。本日の説明が、当会議に少しでも役立てれば幸いである
《齋藤係長》
浦安市の人口は現在16万人弱で、中央図書館は昭和58年に開館した。公民館の中に6つの分館があり、市民のほとんどの徒歩圏内には図書館施設が1つはあるという状況にある。また、すべての図書館がオンラインによるネットワークでつながっており、本の配送便が毎日全館を回っている。蔵書冊数は全館合計で100万冊を越えた。貸出冊数は18年度で193万冊で、市民1人あたり12.4冊(全国平均は5冊弱)。正規職員は34名で、全員が司書資格を有している。
児童サービスでは、「子どもと本を結ぶ」ことと、「子どもに関わる大人に、子どもにとっての読書の大切さを伝える」ことの2つを大きな柱として据えている。子どもと本の間の距離は大人が思う以上に大きいが、一方で子どもたちの読書に対するポテンシャルは大きく、その距離を縮めてやる援助をすれば、子どもたちは本の楽しさというところに到達する。本を置いておけばいいというものではなく、子どもたちが手にとりやすい環境づくりが重要。表紙を見せてあげるなど、ちょっとしたことで子どもと本の距離は縮まる。選書については、限られた予算と制約の中で、長く読み継がれた基本的な図書を中心に蔵書を構成することを心がけている。核になる基本的な本は複数揃え、子どもたちがいつ来ても手にとれるようにしている一方で、新しいものとのバランスにも気をつけている。
中央図書館は市全体のセンター的役割を担い、分館は地域の子どもたちに密接なサービスを提供するための最前線であるから、どちらにも児童図書・サービスに精通した職員を配置している。業務として必要な研修として、読み聞かせやブックトークなどを行っている。
子どもと本を結ぶための日常的な行事として、3歳以上の子どもたちを対象とした絵本の読み聞かせを土曜日も含めて実施している。5歳からは、いわゆるストーリーテリングといわれる、お話を覚えて子どもたちに語って聞かせるおはなし会に参加出来る。毎月やっているものとして、読み聞かせに通じるような、言葉のリズムを楽しむための、赤ちゃんと楽しむわらべうたの会がある。また、ブックスタートとして、浦安市では出生届の時に絵本をプレゼントし、後日図書館で絵本の楽しみ方などを案内している。あらゆる年齢層で本の楽しさを知ってもらう催しが出来るようになった。
現在、浦安市の幼稚園や小学校では、母親が中心になって朝の授業前に読み聞かせをする活動が広がっている。どのような本がいいかという問い合わせが多くあるため、子どもたちにとって絵本を読むということはどういうことなのかなどを知ってもらった上で活動して頂くことが望ましいと考え、絵本の読み聞かせ講座を開いている。また、親子で楽しむ絵本講座など、子どもたちの夏休みにイベント的な行事も行っている。外部講師を招いて行う子どもの本の講座などもあるが、多くの行事については図書館職員で担当している。他にも、児童推薦図書リストを作成しているが、その中には保護者への読み聞かせのお願いなども含まれている。夏休み用のリスト等も作成していて、これらは小・中・幼・保に全戸配付している。
中央図書館では、子どもたちが図書館に来るのを座して待つのではなく、子どもたちのところに自分たちが行く、という観点から、学校等類縁機関へのサービスとして、保育園や幼稚園に読み聞かせに行ったり、小学校でストーリーテリングや読み聞かせ、ブックトーク(5、6年生が対象)をしたりしている。18年度はブックトークで63回、1,875人、ストーリーテリングは421回、延べで1万3,000人の生徒たちにサービスを行った。
浦安市では独自に学校司書を配置していることから、学校司書の会議に中央図書館職員が参加して、図書館から学校へのサービスについて確認をしたり、意見交換をしたりするなどして、日常的に連携をとっている。また、新任の学校司書に研修をしたり、図書館での行事や職員研修に参加してもらったりもしている。学校を訪れた際にはまず学校図書館へ向かい、棚を見せて頂いたり、情報交換をしたりする。
学校図書館への支援として団体貸出を行っており、一般用に貸し出す本とは別に団体貸出用の図書のストックがある。冊数と期間についても一応の取り決めはあるが、新設の学校には多めに団体貸出を行うなど、個々の事情に応じて弾力的な対応をとっている。これらの蔵書は、学校だけではなく保育園や幼稚園、児童育成クラブにも貸し出されていて、学校図書館の選書について相談を受けることもある。年間を通じて選書、貸出、返却が出来るよう、おおむね月に1回程度、委託業者が配送を請け負っている。さらに、調べ学習などの機会に利用してもらえるように、団体貸出とは別に、学校利用券による一般棚から資料提供を受けられるというサービスを行っている。その他として、PTAや家庭教育学級などにも司書が講師として出向く機会があったり、キャリア教育に資するものとして、職場体験の受入先としても図書館を利用して頂いている。
子どもと本の距離を縮める援助というのは、やればやっただけ返ってくる。子どもたちに対して本を読むことで、大人の目線で読んでいるだけではなかなか分からないことが分かったりするので、そういう意味で私たちも勉強させていただいている。
3年間図書館長を務めさせていただいて、非常にやりがいのある、可能性を秘めた仕事だと思っている。現実の問題から言うと、今の公共図書館は本来発揮できる力を発揮していないところが多く、地域や学校を含めた県民、住民に対していろんなサービスをもっと展開すべきであり、かつて参画した「これからの図書館像」の策定の際には、そういったことを話させて頂いた。
公共図書館の事業を展開する上で重視したことは、「役に立つ、役に立つと認められる図書館」と、「教育機関の枠を超える情報提供機関」の2つである。「役に立つ」ということと「役に立つと認められる」というのは違うものである。公共図書館が趣味的なものとして見られているなかで、浦安のように様々な情報を整理した形で提供すると、あそこに行けば必要なものがあるということをきちんと知ってもらうことができ、「役に立つ」図書館になれるし、あそこにいけば問題が解決しそうだと思ってもらえることで、「役に立つと認められる」図書館となる。教育機関の枠を超える情報提供機関というのは、教育委員会の守備範囲を超えているという意味合い。例えば、ビジネス支援というのは、教育委員会の守備範囲を超えている。営利目的で情報提供するということは教育委員会の仕事ではないが、県全体、あるいは市全体の立場からいえば、それは非常に大切な行政としての仕事であって、図書館はそれが提供できるところ。その理念型として資料にも示した「CUBE」というものを提唱している。中心には今ある図書館が位置し、そこから3次元的にメディア・内容・相手が広がっていくものをイメージしている。例えば、従来の図書館が提供してこなかったビジネス支援なり健康情報なり、法律情報なりといったものを、講座、展示、相談会、出前図書館などを利用して情報提供する。講座は開きっぱなしではなく、後ろのほうに資料を並べたり、その日のテーマにあった書籍・雑誌の一覧表などを配ったりして、講座に使うとこういうことが出来るということを付け加えて実施している。典型的な例でいえば、新しく農業を始める人たちの相談会を開くとき、農業の担当部局がやると、農業団体や農業者にはパイプがあるが一般の人たちはっきり言って来ない。ところが、図書館は一般の人たちに幅広く情報提供する能力があるので、図書館と協力して相談会を開くことで、農業をやってみたいという人が結構集まる。双方向にメリットがある協働に関わることができるのが図書館であり、自分の一番得意なところを出して協力し合うことによって、大きな成果を出すということが一つの根幹。
鳥取県では、平成14年の高等学校への司書の配置開始から学校図書館への本格的な支援が始まり、幾つかの私学まで広がった。それまでも非常勤職員が学校図書館にはいたが、その人たちが学校図書館を動かすというイメージはなかった。物流の問題も非常に重要。高等学校で言えば、授業で使う本などのバリエーションが幅広く、それを1校では持ちきれない。学校司書が授業における図書館利用をすすめようとしても、資料をすばやく提供できなければ空回りしてしまう。そこで、物流ということで、基本的には図書館から毎日発送を行う。宅急便の業者に、独立したルートで月2回の回収を行ってもらっている。また、購入する図書について、その本がいつも学校において使われる本だったら学校に買ってもらうが、そうではなくめったに使われないものであれば、それは県がもつべきものだということでほとんど全て購入している。他にも、学期毎のセット貸出や、展示会などのための大量貸出を行っており、後者の輸送に関しては、学校には一切のコスト負担がない。紛失した場合においても、通常の注意義務を怠っていなければ、県立図書館の方で償却し、求償権が発生しないというのも一つの特徴。また、学校支援担当司書による訪問相談を行い、遠方の学校の利便性をはかっている。それから、一般的な司書への研修や学校司書だけの研修など様々な研修を行っており、回数も増えてきている。一方で、学校に出かけて、生徒や一般教員向けに図書館教育や本を読んでもらうことの重要性を話したり、公共図書館のサービスについて説明したりもする。
学校図書館と公共図書館との連携の現状として、公共図書館が学校図書館をパートナーとして見ているかには疑問がある。学校図書館の頑張りも欠かせないが、目標を共有する大切な協働パートナーであるから、公共図書館は学校図書館をお客様扱いしてはだめだし、学校図書館側も現状追認ではなく、両方にとってプラスになるよう、どのように協働するかの話し合いをもてるかが鍵。物流については、図書館が近いところにあるような場合は格別、学校が点在するような地域では必須。当然ながら理想は公共図書館と学校図書館、さらに学校図書館同士の物流が毎日動いていること。鳥取県内であれば費用は案外安く、1箱で県内どこでも230円で送れるので、1つの学校がどんなに頑張っても1年で100回も使えないから、1校あたり2万3千円。鳥取県では全部で30校ぐらいだから県全体で年間約70万円。これだけで、高校に対して必要なものはほとんど毎日提供出来る。手間と時間についても最小限にする必要はあるが、今あるものや置かれた条件をうまく利用するという視点を失わずにいることが重要。人的整備のあり方では、学校でいえばやはり正規の司書が欲しい。司書教諭については、時間軽減を行うことと、校内組織がどれくらい充実していてバックアップしてくれるかということ。それは、教職員はもちろん、児童生徒が学校図書館と関わる活動が増えていくと非常にいい体制になるのではないか。一方で公共図書館では、学校に知見を持つ担当者で、片手間ではなく学校のことをメインで考える考えるような人たちが必要。最後に地域ボランティアの活用については、まずはどういう位置づけをするかをはっきりとさせることが必要。ボランティアが自己実現するための場の提供なのか、協働なのか、求めるボランティアの対象の範囲はどうするのか。これらがきちんと定まっていない状態でボランティアを受け入れると破綻する可能性が高い。
総合教育政策局地域学習推進課
-- 登録:平成21年以前 --