「地方独立行政法人会計基準」及び「地方独立行政法人会計基準注解」に関するQ&A 第3章

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3章 認識及び測定

Q 26―1 会計基準第26では、「譲与、贈与その他無償で取得した資産については、公正な評価額をもって取得原価とする」と規定されているが、
(1) 「公正な評価額」とは、具体的にはどのような価格なのか。
(2) また、地方独立行政法人設立時に地方公共団体から譲与される物品について、その量及び種類が膨大である場合には、次のような評価方法により簡便化できないか。
1  全ての物品について地方公共団体の物品管理簿に記載されている価格をもって取得原価とする。
2  償却資産については、地方公共団体の物品管理簿の価格に承継時点までの費用配分(減価償却)を行い、残額をもって取得原価とする。
A
1  「公正な評価額」とは、原則として時価を基準とした評価額である。
2  地方独立行政法人設立時に地方公共団体から譲与される物品の評価については、物品管理簿に記載されている価額が承継時点の公正な評価額を反映している限りにおいて、設問のような簡便な取扱いは認められるものと考える。

Q 26-2 地方独立行政法人設立時に、設立団体から承継する資産に係る評価はどうすればよいか。
A
1  法第67条第3項においては、地方独立行政法人が設立団体から承継する資産の価格は、地方独立行政法人の成立の現在における時価を基準として設立団体が評価した価額とすると規定している。
2  さらに、当該資産の評価に当たっては、評価に関して学識経験を有する者の意見を聴かなければならないとされているところである。(地方独立行政法人法施行令(平成15年12月3日政令第486号)第10条参照)

Q 26-3 民間等から、固定資産の寄附を受けた場合にはどのような会計処理を行えばよいのか。
A
1  民間等からの寄附により取得した資産については、会計基準第26の規定により、公正な評価額をもって貸借対照表に資産として計上することになる。
2  貸方の処理については、会計基準「第82寄附金の会計処理」及び同注解55の考え方を踏まえ、寄附を受けた資産の使途が特定されていると認められる場合は、資産見返寄附金の科目で整理し、使途が特定されていない場合は、当該資産の貸借対照表計上価額と同額を受贈益として計上することとなる。

Q 27―1 償却終了後の簿価が資産計上基準以下であれば、重要物品であっても資産に計上しなくてよいのか。
A
 会計基準第27第4項において、「償却済の有形固定資産は、除却されるまで残存価額又は備忘価額で記載する。」と規定するように、一旦固定資産として計上した資産については、償却完了後も、除却されるまでの間、残存価額(例えば取得原価の10パーセント)又は備忘価額(例えば1円)で固定資産に計上することとなる。

Q 27―2 有形固定資産の取得原価はどのように算定するのか。土地等の評価方法について、不動産鑑定士による方法や公示価格をもとに計算する方法などがあるが、具体的な評価方法はどうなるのか。
 (関連項目:第25取得原価主義、第26無償取得資産の評価)
A
1  「貸借対照表に記載する資産の価額は、原則として、当該資産の取得原価を基礎として計上」(会計基準第25)しなければならず、有形固定資産の取得原価は、その取得時点における取引価額により測定されるが、現物出資や寄附などのような金銭取引以外の取引により取得された場合には、その資産の「公正な評価額をもって取得原価とする」(会計基準第26)こととなる。この場合において、不動産の「公正な評価額」をどのように考えるかという点が問題となる。
2  不動産の場合には、種々の評価方法があるが、地方独立行政法人の場合には、法人が営利を目的とする事業を営むものではないため、将来収益や将来キャッシュ・フローに基づく評価方法は通常適当ではないといえる。そのように考えると地方独立行政法人における不動産の評価方法としては、不動産鑑定評価額をもってする方法、公示価格や路線価による方法などが適当と考えられる。

Q 27―3 有形固定資産の時価が取得原価より下落した場合にはどのような会計処理を行うのか。
A
 地方独立行政法人の会計処理としては、有形固定資産の時価が取得原価より下落したとしても、直ちに評価を減ずる処理を行う必要はない。

Q 27―4 有形固定資産は何時の時点で除却されるのか。
 (関連項目:第8資産の定義)
A
 「地方独立行政法人の資産とは、過去の取引又は事象の結果として地方独立行政法人が支配する資源であって、それによりサービス提供能力又は将来の経済的便益が期待されるもの」(会計基準第8)である。したがって、当該有形固定資産がこの定義に該当しなくなった時点で、仮に物理的には存在する場合であっても、除却されるべきである。

Q 27―5 有形固定資産が処分(売却)された場合にはどのような会計処理を行うのか。
 (関連項目:第37費用配分の原則、第53減価償却累計額の表示方法、第84特定の償却資産の減価に係る会計処理)
A
1  企業会計においては、有形固定資産の処分時の会計処理は全て損益計算の範疇となる。他方、地方独立行政法人においては、固定資産を取得した際、取得原資拠出者の意図や取得資産の内容等を勘案し、地方独立行政法人の財産的基礎を構成すると認められる場合には、相当額を資本剰余金として計上されることとなる資産が存在する。すなわち、当該固定資産の取得が資本計算に属するものと損益計算に属するものとに区別される。したがって、当該固定資産の処分時の会計処理は、取得時の会計処理が資本計算に属するのか、損益計算に属するのかによって、対応が異なってくる。
2  以下、具体的な事例に則して、説明を加える。
 取得時の価額100の償却資産(耐用年数5年で定額法、残存価額ゼロ)を一年後に売却した場合を例とする。
1  現物出資の場合
(取得時) 資産 100 資本金 100
a  通常の資産の場合(会計基準84の適用がない場合)
 (減価償却)減価償却費20/減価償却累計額20
 120で売却した場合(現金取引とする)
(売却時処理) 現金 120 資産 100
  減価償却累計額 20 固定資産売却益 40
 60で売却した場合(現金取引とする)
(売却時処理) 現金 60 資産 100
  減価償却累計額 20      
  固定資産売却損 20      
b  特定の資産の場合(会計基準84の適用があり、当該資産の処分収入をもって代替資産の取得を予定している場合)(注)
(減価償却) 損益外減価償却累計額 20 減価償却累計額 20
 120で売却した場合(現金取引とする)
(売却時処理) 現金 120 資産 100
  減価償却累計額 20 損益外減価償却累計額 20
        資本剰余金 20
 60で売却した場合(現金取引とする)
(売却時処理) 現金 60 資産 100
  減価償却累計額 20 損益外減価償却累計額 20
  資本剰余金 40      
c  特定の資産の場合(会計基準84の適用があり、当該資産の処分収入により代替資産を取得することが予定されない場合)(注)
(減価償却) 損益外減価償却累計額 20 減価償却累計額 20
 120で売却した場合(現金取引とする)
(売却時処理) 現金 120 資産 100
  減価償却累計額 20 損益外減価償却累計額 20
      固定資産売却益 20
 60で売却した場合(現金取引とする)
(売却時処理) 現金 60 資産 100
  減価償却累計額 20 損益外減価償却累計額 20
  固定資産売却損 40    
2  施設費や目的積立金等取得時において資本剰余金に振り替えられた取引の場合
(取得時) 資産 100 現金 100
  預り施設費 100 資本剰余金 100
(又は目的積立金など 100)
 以下の処理は1に同じ
3  取得時に資産見返勘定を計上している場合(例えば使途特定寄附金で中期計画の想定内で償却資産を購入した場合)
(取得時) 資産 100 現金 100
  預り寄附金 100 資産見返寄附金 100
(減価償却) 減価償却費 20 減価償却累計額 20
  資産見返寄附金 20 資産見返寄附金戻入 20
 120で売却した場合(現金取引とする)
(売却時処理) 現金 120 資産 100
  減価償却累計額 20 固定資産売却益 40
  資産見返寄附金 80 資産見返寄附金戻入 80
 60で売却した場合(現金取引とする)
(売却時処理) 現金 60 資産 100
  減価償却累計額 20    
  固定資産売却損 20    
  資産見返寄附金 80 資産見返寄附金戻入 80
4  取得時に特に貸方の処理がない場合(例えば自己収入の場合)
(取得時) 資産 100 現金 100
(減価償却) 減価償却費 20 減価償却累計額 20
 120で売却した場合(現金取引とする)
(売却時処理) 現金 120 資産 100
  減価償却累計額 20 固定資産売却益 40
 60で売却した場合(現金取引とする)
(売却時処理) 現金 60 資産 100
  減価償却累計額 20      
  固定資産売却損 20      
(注)   1のb及びcの会計処理について
(1) 1のb及びcの会計処理は、固定資産の処分収入をもって代替資産の取得を予定しているか否かにより会計処理が異なることになる。
 すなわち、代替資産の取得を予定している場合(例えば、事務所、事業所等の移転等のため、土地及び建物等の固定資産を処分し、当該処分収入をもって移転先事務所の整備を行うことが予定されている場合等。)には、bに示すように処分収入のうち固定資産の取得原価を超える部分は資本剰余金の増(処分収入が固定資産の取得原価に不足する場合の当該不足額は資本剰余金の減)として整理し、
 代替資産の取得が予定されない場合(例えば、地方公共団体の道路事業等により事務所又は事業所等の敷地の一部を分割して売払うような場合等。)には、cに示すように処分収入のうち固定資産の取得原価を超える部分は固定資産売却益(処分収入が固定資産の取得原価に不足する場合の当該不足額は固定資産売却損)として整理することになる。
(2) 固定資産の処分収入をもって代替資産の取得を予定している場合とは、事務所、事業所等を移転又は集約化(高層化)すること及びその財源に固定資産の処分収入を充てることが、中期計画の施設・設備に関する計画において明らかにされている場合をいい、公共事業等に伴い、事務所敷地の一部を処分するような場合は、含まれない。

Q 27―6
(1) 現物出資された有形固定資産(建物等の償却資産)が除却され、さらに代替資産が購入された場合、どのような会計処理を行うのか。
(2) この場合において代替資産が購入されない場合は、資本剰余金がマイナス(借方残)として残ることになると思うが、それで良いのか。
 (関連項目:第55資本の表示項目、第78運営費交付金の会計処理、第79施設費の会計処理、第82寄附金の会計処理、第84特定の償却資産の減価に係る会計処理)

A
1  有形固定資産(建物等の償却資産)の除却の会計処理については、Q27―5を参照。
2  代替資産が購入された場合、当該代替資産の財源によってそれぞれの処理を行う。すなわち、財源が運営費交付金の場合には会計基準第78に、施設費の場合には会計基準第79に、補助金等の場合には会計基準第80に、寄附金の場合には会計基準第82に沿った会計処理が行われることとなる。また、財源が地方公共団体出資の場合には、資本金に組み入れられることとなる。
3  現物出資資産あるいは施設費を財源とする会計基準第84の特定の償却資産が除却された後代替資産が手当されない場合には、設問にあるように、法人の貸借対照表における資本剰余金がマイナスになる可能性はある(会計基準第55参照)。

Q 28―1 無形固定資産の時価が取得原価より下落した場合にはどのような会計処理を行うのか。
A
 地方独立行政法人の会計処理としては、無形固定資産の時価が取得原価より下落したとしても、直ちに評価を減ずる処理を行う必要はない。

Q 28―2 注解20において、無形固定資産として計上しなければならないソフトウェアについて、将来の収益獲得が確実に認められる場合とあるが、「収益性が認められる」とはどのような趣旨なのか。
A
1  法人内利用のソフトウェアについては、完成品を購入した場合のように、その利用により将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められる場合には、無形固定資産に計上する。例えば、病院において、医事情報システムを導入し予約増による収益増が確実に認められる場合、又は、その導入により事務処理等が著しく効率化し、収入に対する費用の削減が確実である場合には、病院における医事情報システムは、法人内利用のソフトウェアとして、無形固定資産に計上すべきである。
2  ソフトウェアを用いて外部に業務処理等のサービスを提供する場合、その提供により将来の収益獲得が確実であると認められるときは、そのソフトウェアは無形固定資産に計上される。収益獲得が確実であると認められる場合には、サービス提供能力が確実に期待される場合も含まれる(会計基準第8参照)。

Q 28-3 工業所有権、ソフトウェア以外で、無形固定資産に該当するものとしては、どのようなものがあるか。
A
 無形固定資産に該当するものとしては、工業所有権(特許権、実用新案権、商標権、意匠権)、著作権、鉱業権、借地権、地役権等がある。

Q 29―1 ファイナンス・リース資産は資産計上されることになるが、当該資産の中に財産的基礎を構成すると判断された資産があった場合に、減価償却は損益外処理になるのか。
A
1  地方独立行政法人が固定資産を取得した場合において、取得原資拠出者の意図や取得資産の内容等を勘案し、地方独立行政法人の財産的基礎を構成すると認められる場合には、相当額を資本剰余金として計上することとなる。
2  ファイナンス・リース資産については、その経済的実態が当該資産を売買した場合と同様の状態にあると認められることから、当該資産を貸借対照表に計上する取扱いとするものであって、当該資産の所有権はあくまでも貸手に帰属しており、当該資産を法人の財産的基礎を構成するものと認識することはできない。
3  また、そもそも減価償却が損益外処理になるかどうかの判断は、当該資産が財産的基礎に相当するかどうかではなく、会計基準第84にいう特定の償却資産に該当するかどうかで判断すべきものである。

Q 29―2 民間企業で実施されているファイナンス・リース契約と実質的に同様のリース契約(たとえばコンピュータ機器)が、地方公共団体における現状では、単年度契約方式をとっており、かつ契約解除等の制約条項も記載されていないケースもある。仮にこのような契約が地方独立行政法人移行後もとられた場合においては、実質判断でファイナンス・リース契約として処理することになるのか。
A
1  「ファイナンス・リース取引とは、リース契約に基づくリース期間の中途において当該契約を解除することができないリース取引又はこれに準ずるリース取引で、借り手が、当該契約に基づき使用する物件(以下「リース物件」という。)からもたらされる経済的便益を実質的に享受することができ、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担することとなるリース取引」(注解21第1項)をいい、また、「これに準ずる取引」とは、法的形式上は解約可能であるとしても、解約に際し相当の違約金を支払わなければならない等の理由から事実上解約不能と認められるリース取引をいう(「リース取引に係る会計基準注解」(平成5年6月17日企業会計審議会第一部会)参照)。
2  地方独立行政法人会計におけるファイナンス・リース取引とは、実質的に上記1の要件に該当するリース取引か否かで判断すべきである。
3  なお、地方独立行政法人は、複数年にわたるリース契約も可能である。

Q 29-3 リース資産の会計処理についても会計基準第4第3項が適用されるものと考えるが、同項に定める「簡便な方法」が認められるのはどのような場合か。
A
1  地方独立行政法人におけるファイナンス・リース取引については、通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行うこととされており、リース物件をリース資産として計上しなければならないこととされている。しかしファイナンス・リース取引に該当するリース物件のすべてを資産計上しなければならないのではなく、リース契約1件当たりのリース料総額が一定額以下の取引など重要性の乏しいものについては、簡便な方法によることが認められる。
 リース資産の会計処理について簡便な方法が認められるのは、例えば、次のような場合である。
1  ファイナンス・リース資産の価額が、固定資産の計上基準額を下回る場合
2  ファイナンス・リース取引の契約期間が1年未満の場合
2  ファイナンス・リース取引について原則法(通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行う方法)を採用し、企業会計原則では認められている通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を認めないこととしている理由は、未経過リース料を貸借対照表に負債として明示することにある。このため、契約1件当たりの金額が資産計上基準額未満であっても、複数件の契約があり、未経過リース料の総額が高額となる場合には、重要性の原則により、リース資産及びリース債務を貸借対照表に計上することが必要である。
 なお、実務上の詳細な判断基準としては、「リース取引の会計処理及び開示に関する実務指針」(平成6年1月18日日本公認会計士協会会計制度委員会)を参考にされたい。

Q 30―1
(1) 会計基準第30の第2項で、「時価が取得原価より下落した場合には時価をもって貸借対照表価額としなければならない。」とあるが、ここでいう取得原価と比較すべき時価とは何か。
(2) また、時価と比較するべき原価とは何か.(低価基準の適用に際しては,「切り放し法」と「洗い替え法」のどちらを用いるのか。)
A
1  会計基準では、たな卸資産について、時価と原価を比較し、いずれか低い方で評価をする低価基準の採用を強制している。低価基準を採用した場合の時価については、(ア)正味実現可能価額、(イ)再調達価額の2つの考え方がある。
2  正味実現可能価額とは事業年度末の売価からアフターコスト(製造加工費、一般管理費、販売費の合計額)を差し引いた価額で、売却した場合にはどれだけの資金に転換できるかという観点からの評価である。再調達価額は、当該たな卸資産の取得のため通常要する価額で、新たに取得するのにはどれぐらいかかるかという観点からの評価である。
3  たな卸資産に対して低価基準を採用する場合、適用するべき時価について、通常、直接販売するたな卸資産、例えば商品については、正味実現可能価額を、加工して販売するもの、例えば原材料や仕掛品については加工費の見積りの困難性もあって、再調達価額を採用している場合が多い。
4  時価と比較するべき原価については、取得価額を基礎に先入先出法や平均法等で算定された切り下げ前の帳簿価額と時価に切り下げ後の帳簿価額とが考えられ、前者を洗い替え法、後者を切り放し法という。それぞれ合理性があるが、地方独立行政法人の損益計算の考え方からは、切り放し法が望ましい。

Q 30-2 公立大学法人について、原則として移動平均法を適用する理由は何か。
A
 公立大学法人は、税金を原資とする財源投入を受けるため、住民に対して説明責任を果たす必要があり、この観点から資産の適正な管理が求められる。したがって、移動平均法により評価することを原則としている。
 ただし、金額に重要性がないものについては最終仕入原価法によることも認められる。
 移動平均法は、事務処理がやや煩雑であるが、常に平均をとって評価していくことから随時評価が行える点で他の評価方法(個別法、先入先出法、総平均法、最終仕入原価法等)と比較して公立大学法人のたな卸資産の評価方法に適しているものである。

Q 31-1 地方独立行政法人は、売買目的有価証券を取得することは可能なのか。
A
1  地方独立行政法人の余裕資金の運用先については、法第43条の規定により、その運用先を次のものに限定している。
1  国債、地方債、政府保証債(その元本の償還及び利息の支払について政府が保証する債券をいう。)その他総務省令で定める有価証券の取得
2  銀行その他総務省令で定める金融機関への預金又は郵便貯金
3  信託業務を営む銀行又は信託会社への金銭信託
2  地方独立行政法人は、利益の獲得を目的とせず、業務運営の財源として運営費交付金等の交付を受け、原則として独立採算を前提とするものではない。したがって、地方独立行政法人においては、売買目的有価証券による資産運用は想定されていない。
3  会計基準において、売買目的有価証券の取扱いを規定しているのは、注解第26において、一定の事由に該当する場合を除き「満期保有目的の債券を償還期限前に売却した場合には、(略)当該売却した債券と同じ事業年度に購入した残りの満期保有目的の債券の全てについて、保有目的の変更があったものととして売買目的有価証券に振り替えなければならない。」とされていることから、当初、満期保有目的として購入した債券について、売買目的有価証券へと保有目的の変更が結果的に生じる可能性があるためである。

Q 31-2 その他有価証券とは、具体的にどのような有価証券が該当するのか。
A
1  その他有価証券とは、売買目的有価証券、満期保有目的の債券及び関係会社株式以外の有価証券であるが、注解25で利息収入を得る目的で長期保有の意思をもって取得した債権は長期的には売却の可能性が見込まれる場合であっても、満期保有目的の債券に区分することとなっており、地方独立行政法人においてその他有価証券を保有することは極めて限定的になるものと考えられる。
2  このように地方独立行政法人会計基準が、その他有価証券の範囲を限定的なものと位置付けているのは、資金の運用は法令が定める運用範囲の枠内では地方独立行政法人の裁量に委ねられていることから、運用の目的で保有する有価証券については、その評価差額を損益計算書に適切に反映する必要があるとの考えによるものである。したがって、地方独立行政法人の会計実務においても、会計基準設定の趣旨を踏まえ、その他有価証券への区分は限定的なものとして取り扱われる必要がある。

Q 37―1 年度途中で償却資産を取得した場合、初年度への原価の配分額は、いくらなのか。(1年分とするのか、月割りや日割りで計算するのか。)
A
 原則として、月割り又は日割りで計算を行うことが望ましい。

Q 37―2 償却資産の耐用年数は、地方独立行政法人側で独自に決めて良いか。
A
1  耐用年数は減価償却費ないし損益外減価償却相当額の総額を各年度に配分する場合の基礎となる期間であり、耐用年数の決定には、物理的減価と機能的減価の双方を考慮して決定する必要がある。
2  耐用年数には、一般的耐用年数と個別的耐用年数がある。一般的耐用年数は、固定資産の種類が同じ場合には個々の資産の置かれた条件に関わりなく、画一的に定められた耐用年数である。また、個別的耐用年数は、地方独立行政法人が、自己の固定資産につき操業度の大小や技術革新の程度などの条件を勘案し自主的に決定するものである。
3  本来、地方独立行政法人は、自主的に個別的耐用年数を採用するべきであるが、わが国の各企業は、現在、税法上の耐用年数を一般的耐用年数として通常採用しており、個別的な耐用年数の決定の困難性を考えると、地方独立行政法人でもこれを採用することは認められよう。ただし、一般的耐用年数を採用している場合でも、それが実態とかけ離れたものである時は妥当な耐用年数としなければならない。
4  なお、日本公認会計士協会から、「耐用年数の適用、変更及び表示と監査上の取扱い」(監査第一委員会報告第32号)が公表されており、その要旨は以下のとおりである。地方独立行政法人会計における耐用年数の取扱いにおいても、この趣旨を十分に考慮されなければならないと考える。
1  耐用年数は経済的使用可能予測期間に見合ったものでなければならない。
2  資産の使用状況、環境の変化等により、当初予定による残存耐用年数と現在以降の経済的可能予測期間とのかい離が明らかになったときは、耐用年数を変更しなければならない。
3  耐用年数が変更された時は、軽微であるときを除き、変更の旨、変更の内容及び変更の財務諸表に及ぼす影響を注記する。

Q 38―1 当年度契約の地方公共団体からの受託研究収入100の使用状況は次のとおりであった。
1  翌年度以降3年間研究に使用する機械装置 60
2  その他経費支出 40
 このような場合、収益を分割計上する、又は、取得資産に対応する見返負債を設定することにより、受託研究事業に係る損益を均衡させる会計処理を行うことが認められるか。
A
1  研究機関の受託研究は実質的に複数年にわたり行われ、初年度において償却資産を購入して当該研究期間内で使用する場合が多い。一方、受託研究契約は単年度契約であり、年度終了により精算報告又は研究成果の報告によって収益が実現するので当該収益実現の時期に収益計上されることになる。したがって、収益を分割計上することは出来ない。
2  受託研究費で取得した研究専用償却資産は固定資産に計上するとともに、使用予定期間にわたって減価償却を行うことになる。
当年度 受託収入 100 研究経費 40 減価償却費 20
(残存価額0とした場合)
+1年度         減価償却費 20
+2年度         減価償却費 20
このように、当該事業のみに着目すると初年度では利益が計上され、翌年度以降は減価償却費部分が損失として計上されることになる。
 国又は地方公共団体からの受託研究収入は地方独立行政法人の自己収入であり、民間からの受託収入と同様の処理を行う(注解56)こととされている。すなわち、資産見返負債を用いて損益を均衡させるような会計処理は、運営費交付金や補助金等の地方公共団体の財源措置との関係で認められるものであり、自己収入に該当する受託研究収入を財源として購入した償却資産について、資産見返負債を設定することは認められない。


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