有識者インタビュー

GIGAスクール構想×ICT支援員
(合同会社かんがえる 代表 五十嵐晶子 氏)



 GIGAスクール構想が始まり、ますますその重要性が増してきたICT支援員(情報通信技術支援員)。
 今回は、教師や教育委員会とICT支援員との連携のポイントについて、合同会社かんがえる 代表 五十嵐晶子 氏にお話を伺いました。(令和5年10月4日掲載)

 
○ 情報共有で活用の差を埋める
○ ICT支援員をパイプにする
○ クラウドでの情報共有
○ 禁止することが子供のためになっているか
○ 端末を大切に扱うために
○ 情報収集のために


 

情報共有で活用の差を埋める

― 実際に学校へ訪問されて感じる、1人1台端末活用の課題を教えてください。
 私は2000年ごろからICT支援員として働いてきて、現在はICT支援員を支援する会社で活動しています。その中で、多くの学校で様々な実践を見せていただく機会があります。端末活用が進んでいる学校では、端末の活用を子供に委ねている授業を見かけることが多くなってきました。そこでは、子供が自分でアプリケーションを選び、主体的に課題に取り組んでいます。子供達にとって、学びのための「楽しい端末」になっている様子でした。そういう意味では、子供が「ちょっとやってみたい」と思う工夫があると良いな、と感じています。例えば、タイピングや英単語の学習ソフト等、「学習になるし、結構面白い」というような物をいつでも使用できるようにして、子供が自ら「やってみたい!」「開きたい!」と思う端末にすることも大切なことだと思います。
 一方で、GIGAスクール構想が始まってから、これまで以上に多くの先生からご相談を受けるようになってきました。その中でICTが苦手な方からは、「どう活用して良いかがわからない。」という声をお聞きします。ICTと聞くと、すごく壁を感じてしまい、そこで活用が止まってしまうことがあるようです。すると、ICTに堪能な先生だけが使っていて、他の先生に実践事例等の共有ができていないことがあります。例えば、学校を訪問した際に、「○組の先生は使っています。」や「○年生はよく使っています。」と教えてくださいます。話を伺うと、ICT活用が得意な先生と苦手な先生とで、情報共有ができていない場合があり、学校内での活用の差が大きくなっているのです。せっかくクラウド環境があるので、そこで情報共有ができると、先生間の差は小さくなるのではないかと思いますが、そこがなかなかできていないように感じています。

 

ICT支援員をパイプにする

― ICT活用が苦手な先生は、ICT支援員の方にまずはどんなことから相談すれば良いでしょうか。
 学校の中で誰もICTを使っていないということはないのではないでしょうか。苦手を感じている先生は、すでに活用している先生と情報共有することが、やはり大切です。
 ですから、「本校では、誰がどんな使い方をしていますか。」と聞いてくだされば嬉しいです。同じ学校の環境下でできていることは取り組みやすいと思いますので、おすすめの事例をお伝えできると思います。
 先生方は大変お忙しく、ICTの活用について情報共有する機会がなかなか持てないのだと思います。ですから、まずはICT支援員をうまくパイプにして、校内の好事例を共有したり、もしくはICT支援員は他校にも行っている場合がありますから、他校の実践を聞いたり、私たちICT支援員をうまく使ってほしいと思います。
 ICT支援員の大事な仕事の一つは、自治体と学校にとって、「目、耳、口になる」ということだと思います。ICT支援員は、公開授業や特別な日ではなく、日常の授業の様子を見ることができます。その中では、「あのケーブル、短いのに無理して使っているな。」「この端末の使い方は、他の場面でも使えそうだな。」等、学校の様子を実際に見ていると、細かな状況がよくわかります。そういった情報をお伝えできるので、教育委員会の方も学校ごとの情報をICT支援員から集めてほしいですね(図1)。

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(図1)ICT支援員の必要性

 

クラウドでの情報共有

― 学校の先生方とICT支援員の方との打ち合わせの工夫を教えてください。
 先生方との打ち合わせは、次の支援を考える上でとても重要です。しかし、なかなかタイミングが合わず、打ち合わせの時間が取れない場合があります。
 そこで、GIGAスクール構想が始まる以前は、クラウド環境がないので、先生方とICT支援員との連絡帳を置いていました。「次に来た時に絶対見ますから、相談したいことを書いておいてください。急ぎの案件は星マークを付けておいてください。」と言っておくと、次回の訪問時にすぐに情報が把握できるので、打ち合わせの時間が十分に取れなくても、スムーズな支援につなげられました。今では、ICT支援員も自治体アカウントをいただいている場合があり、先生方とチャットグループやクラウド上のチームで随時情報共有している事例等は、とても良い取組だと思います。(※1)
(※1)ICT支援員の勤務内容等は各自治体により異なるため留意が必要

 特に、うまくいっている自治体では、学校の先生とICT支援員だけでなく、教育委員会の方もチャットグループに入っておられます。学校の先生が、「アプリケーションについて聞きたい。」「設定がわからない。」という時に、ICT支援員で答えられることと、教育委員会の方にお答えしていただく必要があることがあります。この方法だと、一度に情報共有ができるので、非常にスピーディーに課題解決ができると感じています。
 こういったチャット等のオンライン上でのやり取りをさらに活発にするには、一度顔を合わせるということが有効かもしれません。例えば、情報担当者会や研修会にICT支援員が参加することで、お互いに顔が分かるので、その後のチャットでの情報共有が活発になったということを、私自身も経験しています。

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禁止することが子供のためになっているか

― ICT支援員の方から見た、日常的に端末が活用されている学校の特徴を教えてください。
 複数の学校を訪問させていただくので、それぞれの学校の特徴がだんだんわかってくるのですが、日常的に端末が活用されている学校では、子供が休み時間に端末を使っている場合が多いように感じます。休み時間に子供が自由に活用できると、子供自体のリテラシーが随分上がるように思います。タイピングソフトに取り組んでいる子供は、入力速度が速くなりますし、タイピングができるようになると、授業で子供が取り組める学習活動の幅が広がるのではないでしょうか。端末の使用ルールの見直しは、学校ごとに段階的に取り組んでおられるともお聞きしますが、休み時間の使用が禁止されている学校はまだまだ多いですね。また、禁止はされていなくても、充電保管庫のドアに鍵をかけていたり、充電保管庫の前に机をぴったりくっつけて置いて、開けるのにちょっと勇気がいるような状態になっていたりする学校もあります。
 登校したらいつでも使えるところに端末を入れる等、学ぶための「環境」を整えることは、とても重要だと思います。学ぶ環境を整えたり、「端末使用上の注意」の指導をしたりせずに子供に委ねると、ある意味では丸投げになってしまいます。すると、端末を落としたり、不適切な使用をしたりして、「休み時間の端末の使用を禁止」という流れになってしまいかねません。
 また、日常的に端末は活用していても、それが「連絡帳の代わり」としての活用のみになっている等、授業外だけの非常に限定的な活用になっている学校もあります。まずは授業外のことから取り組んで、少しずつ授業でも活用していく、となれば良いのですが、「連絡帳の代わり」で取組が止まってしまうと、もったいないと思います。
 授業を見せていただくと、大型提示装置で資料を提示されている先生方はたくさんおられます。その資料を、授業が始まる前に、子供に共有しておくことをおすすめしています。そうすることで、一人一人が資料を拡大して見たり、自分が気になる部分を詳しく調べたりできます。このような活用が日常的にできてくると、子供達が自分から端末を開くようになると思います。そのような授業が増えてくると、先生同士もクラウドでデータを共有することが当たり前になってきますし、それがまた別の授業での活用につながるという好循環になるのではないかと思っています。(参考:StuDX Style事例「職員同士でつながる」
 子供が主体的に端末を活用しようと思っても、過度な使用制限があると難しいのではないでしょうか。例えば、「先生が言った日にしか持ってきません。」という学校があると聞きます。そもそも日常的に使用する前提がなく、子供に選択肢がない状態です。
 また、フィルタリングについても、厳しくしすぎて、学習で使いたいウェブサイトが見られないという事例もあります。例えば、修学旅行の事前学習でお寺を検索したら、そのお寺の公式ウェブサイトが「宗教」というカテゴリーでブロックされた、ということもありました。そのようなことが続くと、子供たちに、「学校の端末は、学習に関することを調べても使えないよね。」という印象を植え付けることにつながるかもしれません。
 壁紙の変更が禁止になっている学校もあります。禁止の理由は学校ごとに様々あると思いますが、最終的には、子供たち自身がパブリックとプライベートの意識をもって、自分で適切に判断できるようになることが大切だと思います。ですから、チャットやメールの利用制限も、全て禁止することが子供のためになっているかということを、改めて考えるべきだと思います。
 
 

端末を大切に扱うために

― 「端末の破損」を懸念し、家庭への端末の持ち帰りが進まないという声もあります。
 「端末を大切に扱う」ようにするには、やはり「最初に教える」ということがすごく大事だと思います。何か問題が起こってからやると、効果が小さいように感じています。端末を初めて渡す時、前の学年でやっていても、新しい学年の始めの時期等、全学年で一度しっかり確認して、端末を大切に扱うことを学校として習慣化することが大切ではないでしょうか。高学年から低学年に教えるという方法をとっている学校もあります。高学年から低学年へ指導する時間を取ると、高学年も意識が高まりますし、低学年もお兄さんお姉さんたちがやっていることを「真似しよう」とすることが文化になり、その文化を脈々と受け継いでいくと「当たり前」になると思います。先生の端末の故障も多いので、子供に指導することで、先生自身も気をつけられるかもしれないですね。
 年度初めの指導については、どなたでも自由に使える資料を作り、ウェブページ(参考:https://www.thinkrana.com/kangaeru-giga(※合同会社かんがえるウェブページが別ウィンドウで開きます)に公開していますので、ぜひご利用ください。端末の安全な持ち運び方や画面の閉じ方、机の上に置く際の注意点等、発達段階に応じて使用していただけます(図2)。

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(図2)端末を大切に扱うために

 

情報収集のために

― ICT支援員の方はどのようなところから情報を集めると良いでしょうか。
 自治体ごとに端末やOSが違うので、必要な情報を様々なウェブサイト等から探すことになりますが、まずは省庁をはじめとした「公式サイト」を見てほしいです。
 例えば、文部科学省のウェブサイトには、「StuDX Style」をはじめとした、学校の先生が活用できるウェブサイトがありますので、そこから正確な情報を得て、学校への支援に生かしてほしいと思います。その他の省庁もICT関連の情報を発信していますので、ぜひ情報収集をして、学校の先生方へそれを伝えることができたら良いなと思います。
 最後に、ICT支援員は特別な仕事、大切な仕事です。子供たちの学びや学校の先生方の業務がICTでより良くなることを“花”や“実”に例えると、私たちICT支援員が支柱になって、「ICT支援員さんがいてくれるとたくさんお花が咲き、たくさん実がなりますね。」という、学校の先生や子供たちにとって、そういう立ち位置、存在でありたいですね(図3)。

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(図3)ICT支援員の重要性