有識者インタビュー

GIGAスクール構想と目指す学び
(東北大学大学院/東京学芸大学大学院 教授 堀田龍也 氏)



 1人1台端末が整備され、多くの学校で日常的な活用が定着してきました。端末の活用について、先生方と子供たちが試行錯誤を繰り返し、授業が変わってきた学校もあります。そこで、GIGAスクール構想の現状と今後の方向性について、東北大学大学院/東京学芸大学大学院の堀田龍也教授に伺いました。(令和5年3月27日掲載)

 
○ 1人1台端末が整備された環境での授業
○ 「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実
○ 「情報活用能力」と「新しい学び方」
○ 学校現場へのメッセージ


 

1人1台端末が整備された環境での授業

― 1人1台端末が整備された後の授業の様子(全国の活用状況等)について教えてください。
 1人1台端末が整備されてから、「授業を変えていきたい」と先生方は前向きに取り組んでいると伺っています。
 最初の段階では、先生方も子供たちも不慣れですので、「どうやって使えば良いのだろう」「どこまで使って良いのだろう」と悩んでいましたが、子供たちはいろいろなものを調べたり、記録したりして端末を活用しているうちに自然と慣れていきました。先生方も子供たちが端末を使いこなし始めると「子供たちがここまでできるなら、もう少し任せてみようかな」と子供たちに委ねる時間が増え、授業が変わってきました。端末の活用が進んでいる地域では、ずいぶんと授業が様変わりしています。先生の教える時間が徐々に減って子供たちが自分で問題を解決する授業に大きく変わってきています。
 一方で、まだまだ模索中の学校も多いと思います。良い実践は自治体等が作成した様々なウェブサイト等に載っていますので、そうしたものを参考にしながら積極的に端末を活用していただくと、授業が変わってくると思っています。

 

「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実

― 「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実について教えてください。
 この図は、令和答申にある「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」のイメージ図です。子供たちが成人して社会で活躍する頃には、我が国は厳しい挑戦の時代を迎えていると予想されています。様々な変化に対応することができるような子供たちを育成するためには、この図は非常に大切だと思っています。

 まず、個別最適な学びは「指導の個別化」「学習の個性化」の2つに分けられています。
 「指導の個別化」は、学習内容の確実な定着を目指して行われることが多いです。これはどうしても身に付けなければならない学習内容について、それぞれの理解度やペース、学びやすい方法などに応じて、場合によっては教師の助言をもらいながら進めていくような学習のことです。
 大切なことは、子供たち自身がどのように学びを進めていくかを決めていくことです。これを「自ら学習を調整」と表記しています。それぞれの進度が異なりますので、一人一人に合わせた学習を先生一人で管理するのは大変ですが、端末を活用すればクラウド上で子供たちの進度を確認することが可能となります。
 「学習の個性化」は、子供たちが「何を学びたいか」「何を深めたいか」「何を広げていきたいか」など、一人一人が違う課題意識をもって、多様な調べ方で自分の課題を解決していく学習のことです。違う課題意識をもっていると、それに対するアプローチや学び方は一人一人違います。調べる内容や調べ方が違ってくるかもしれません。ある子はインタビューしたいと思うかもしれませんし、ある子はネットで調べたいと思うかもしれません。中には図書館へ行きたいという子供もいるかもしれません。ですからここでも「自ら学習を調整」することがポイントです。つまり、どんな課題に向かってどのように課題解決していくのか、その学習過程は子供たち自身が決めていくということです。
 ただ、気を付けなければならないのは、一人一人が少しずつ違うテーマで学んでいく際に学習者が孤立しないようにすることです。そのためにも、それぞれが学んでいることを、お互いに参照して、俯瞰的に見てもらったり、助けてもらったりすることが必要だと思います。そこで求められるのが「協働的な学び」です。一人一人の考えていることや、学んでいることは少しずつ違うけれど、お互いが参照し合い、啓発し合うことによって学びが深まることがあります。「あの人のやり方すごいな、僕もああいうふうにやってみたいな」「あの人の学んでいる通りに僕もやってみようかな」というように相互に啓発するためには、1人1台端末を活用してクラウド上で子供たちの学習状況を可視化する必要があります。
 また、オンラインでつながることによって、子供同士が相互に啓発するだけではなく、学校外のいろいろな方々(学校の先輩、役所の人、専門家等) にもアプローチすることが可能です。こうした方々と対話することによって、子供たちの学びがさらに深まっていくと思います。
 一人一人が自分のペースやこだわりで主体的に学び、いろいろな人から情報を得て相互啓発しながら対話的に学ぶことによって、なんとなく分かっていたことが、明確な理解に変わって、深い学びへとつながります。このような「主体的・対話的で深い学び」へと授業改善することが全ての教員に求められています。
 子供たち一人一人を主語にした学習が展開されるとともに、子供たちが自分の学習の特性を理解しながら、自分のこだわりで学びを進めていくことによって、子供たちにコンピテンシー(資質・能力)が育成されます。各教科等の学習内容の理解のみならず、学び方を習得していき、多様な人と関わりながら学ぶことで、これからの社会を支えていく人材の育成につながると考えています。

   

「情報活用能力」と「新しい学び方」

― 「情報活用能力」など各教科の学びを深めていくために大切なことを教えてください。
 

 GIGAスクール構想で整備された1人1台端末と高速ネットワークによって、クラウド上のデータやツールを使うことができるようになりましたが、それは環境の整備にしか過ぎません。この環境を生かして、各教科等での学びをさらに深めていくためには、情報活用能力の育成とともに、新しい学び方が必要になります。
 子供たちが端末を使いこなして学習活動を円滑に行うためには、基本的な操作スキルに習熟する必要があります。これは、使いながらでしか身に付けることはできません。最初は、思うように進まず苦労すると思いますが、その時間を無駄だと思わず、繰り返し経験させていくことが大切です。また操作だけでなく、得られた情報を正しく活用するためには、情報を活用する経験をたくさん積ませる中で、情報モラルも同時に育成していく必要があります。
 「情報活用能力」は、学習の基盤となる資質・能力の一つとして、学習指導要領に示されています。1人1台端末が来たからすぐに深い学びになるのではなく、時間をかけて子供たちに情報活用能力を育成していくことでやがては深い学びにつながっていくのだろうと思います。
 また、「学び方」については、昔から大切だと言われていますが、1人1台端末が整備された環境に変わったので、新しい学び方をするためには、子供たちにどのようなスキルが必要なのか改めて考えなければなりません。私は重要なスキルが2つあると思っています。
 まず一つは、個別最適な学びを進めていくことができるスキルです。子供が自分の学び方の特性を自覚した上で、計画を立てて遂行した後、振り返って次に向けて改善していくことが重要です。
 もう一つは、協働的な学びをするためのスキルです。相手に上手く説明したり、他の人の話を自分の考えに取り入れたり、適切に引用したりするなど、他者と関わるために重要です。
 整備されたICT環境を有効に活用するとともに、子供たちが学習経験を重ねて、情報活用能力新しい学び方を身に付けることによって各教科等での学びがさらに深まるものと考えます。

 

学校現場へのメッセージ

― 最後に学校現場の皆さんへのメッセージをお願いします。

 授業が変わっていくことを後押しするために、デジタル教科書の活用が増えたり、デジタル教材が充実したりすると思います。また、学力調査もCBTに変わるなど、これからは1人1台端末の環境が前提となって様々な政策が打たれていくことになると思います。
 子供たちがまだ十分に端末を使いこなせていなかったり、端末の活用を子供たちに任せられなかったりしている場合は、少しでも早く改善してほしいと思っています。
 その時に役立つのが、文部科学省の運営する「StuDX Style」というホームページです。ここには、「ちょっと頑張ればできるよ」という事例が数多く掲載されています。全部やる必要はありませんが、これならできると思うところからやっていただくと、子供たちも先生たちも端末に慣れていって、活用のアイデアが増えていくのではないかなと思っています。先生たちの授業のスタイルや、学校の実態、子供たちの実態など異なりますので、最終的には掲載されている事例をただ真似するだけではなく、先生方一人一人が主語となって実態に応じた端末の活用をしてほしいと思います。
 子供たちが端末からクラウドにアクセスしているように、先生方も端末からクラウドにアクセスして、ICTの便利さを自覚することが大切であると思います。それは結果的に「子供たちの学びを支える授業をどのようにつくっていけばよいか」というアイデアにつながっていくと思います。「StuDX Style」をぜひ活用してみて下さい。

   
【有識者インタビュー】GIGAスクール構想の目指す学び