有識者インタビュー

GIGAスクール構想 × 探究学習
(東京学芸大学 准教授 登本洋子 氏)


 高等学校では、令和4年度の入学者から「総合的な探究の時間」が始まるなど、「探究学習」への注目度が高まっています。今回は、「探究学習」について、文部科学省初等中等教育局視学委員の東京学芸大学 登本洋子准教授にお話を伺いました。(令和5年2月27日掲載)
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― 探究のプロセスと探究学習の進め方
― 探究学習における1人1台端末の活用
― 探究学習におけるクラウドの活用
― 探究学習と情報活用能力の関連
― 探究学習に取り組むための留意点
― 探究学習・ICT活用に踏み出すための一歩 


 現代社会は変化が激しく、不確実で、曖昧な時代と言われています。予測不可能な現代社会では、育成すべき資質・能力が変わってきています。学校教育では社会を生き抜くために必要な資質・能力の育成が求められています。そのため、令和4年度から年次進行で実施されている高等学校の学習指導要領では、「古典探究」「理数探究」など、「探究」が含まれている教科・科目が新設されました。また「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」に変更されるなど、「探究的な学習」の重要性が高まっています。
 「人生100年時代」と言われる時代です。児童生徒が自ら課題を見つけ、解決していくことを通して、知識を詰め込む学習から児童生徒自身がつかみ取る学習に学びを変えていくことや学び続けることができる児童生徒を育てることが必要となっていきます。
 

探究のプロセスと探究学習の進め方

― 探究のプロセスと探究学習の進め方について教えてください。

 平成30年に告示された「高等学校学習指導要領解説 総合的な探究の時間編」では
、探究のプロセスは【図1】のように示されています。探究は「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」というプロセスで構成されています。さらに、まとめ・表現の後には、振り返りをして、また次の探究のプロセスに入っていくというスパイラルで進めていきます。
 実際に探究を進めるときには、全てのプロセスを各個人で進めなくてはいけないというイメージがありますが、そうではありません。探究のプロセス通りに進めていくと、はじめの「課題の設定」が一番難しいと思います。課題を設定しようとしても、何にも興味をもてない児童生徒が一定数いますし、興味・関心をもっていてもそこから問いにすることはコツをつかむまで簡単ではありません。そのため、初めて探究を行う場合には、状況に応じてクラスで共通のテーマ・同じ課題で進めることも必要です。また、探究学習では、このプロセスに沿って、一方向に進むのではなく、情報収集した後でも、課題の設定に戻って考え直すなど、行ったり戻ったりして学習を進める場合もあります。
 
図1 探究のプロセス(高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 総合的な探究の時間編 p.12)
 

探究学習における1人1台端末の活用

― 探究のプロセスで1人1台端末の活用事例について教えてください。

 探究学習では全てのプロセスで端末を活用できます。端末を活用する上で重要なことは、端末を使う場面を教師が限定しないことです。例えば、「情報の収集だから端末を使いましょう」とならないようにしたいものです。また、紙にメモを取りたい児童生徒もいれば、パソコンでメモを取りたい児童生徒もいます。探究ではどのプロセスであっても、状況に応じて端末を活用できます。ですので、「この場面で端末を使いましょう」ではなく、どの場面でも必要なときに活用できるようにしておくことが大切です。
 具体的には、【課題の設定】では、表計算ソフトなどを用いて各自のアイデアを共有しながら進めることができます。これまでは、ワークシートに書いたり、口頭で発表したりして情報共有をしていました。端末を活用することによって、クラウド上で友達が入力している状況をリアルタイムで確認することができるので、情報共有にかけていた時間を短縮できます。また、友達の考えを参考にできるので、課題の設定で悩んでいる児童生徒にとっては大きな支援になります。
 次に、【情報の収集】では、ブラウザを活用し、検索できます。これまでは図書館などの本や新聞など紙の資料からの情報収集がほとんどでしたが、端末の活用が進んだ現在では、児童生徒はインターネットを使って情報収集ができるようになりました。ただ、ここで教師が気を付けなくてはいけないことは、インターネットで調べれば全てわかると思っている児童生徒がいることです。情報にあふれている世界で、児童生徒はたくさんの情報の中から必要な情報を見極めていかなければなりません。だからこそ、端末だけでなく、本や新聞等も含めて、様々な情報から判断できるような力を育成していくことが必要です。
 また、【整理・分析】では、端末が大きな力を発揮します。児童生徒同士の情報共有が容易になったことで、端末がなかった頃に比べると、扱う情報量が格段に増えました。アンケートフォームなどを使ってデータを集めることもできるようになり、児童生徒自らがグラフや表を作成することで、情報を整理したり、分析したりする力を養うことができます。
 そして、【まとめ・表現】では、文書作成ソフトやプレゼンテーションソフトを活用することで、効率的に作業を進めることができます。端末を使ってまとめを作成すると、誤字・脱字や内容の修正、文章の入れ替えなどが容易です。これまでは、間違えを見つけたら全て消して書き直していたため、内容を深めることよりも書き直すことに時間が取られていました。1人1台端末を活用することで、児童生徒が考えを深めることに注力できるようになりました。
 

探究学習におけるクラウドの活用

― 探究学習でクラウドを活用することのよさを教えてください。

 ファイルをクラウド上で共有することで、グループで共同編集をしながら発表資料などを作成できるようになりました。これまでは、グループのメンバーが個別に作ったものをUSBメモリなどへ書き出し、1つにまとめていました。その際には、他のメンバーがどのようなものを作っているのか、まとめるまでわかりませんでしたが、今ではクラウド上の1つのファイルを共同編集できるので、互いに何をどこまで進めているかを確認できるようになりました。さらに、コメント機能を使って生徒同士が互いにやり取りをしながら作業を進めることができます。各自で作ったファイルをつなげる作業がなくなり、かなり効率的になりました。
 クラウドと1人1台端末を活用することによって、探究的な学びを授業だけでなく、家庭でも行えるようになりました。以前は、授業中に終えることが難しい場合「家で続きをやりたいけれど、パソコンがない」「USBで持ち帰ったけれど、保存に失敗した」など様々なトラブルがありました。こういったトラブルは端末を持ち帰ったり、クラウドを活用したりすることで解決できるようになりました。
 
 

探究学習と情報活用能力の関連

― 探究学習と情報活用能力の関連性について教えてください。

 情報活用能力は学習の基盤となる資質・能力です。「総合的な探究(学習)の時間」で、テーマを決めて探究を進める時に、情報活用能力がないと活動がうまく進みません。例えば、タイピングができないと検索に時間がかかります。調べ方がわからないと、目的の情報にたどり着くことができません。また、分析方法がわからないと、情報をまとめるのに苦労をします。そのため、探究学習を進める上で、情報活用能力の育成は非常に重要です。
 その際には、情報活用能力を育成することだけを目的にするのではなく、探究のプロセスを通して情報活用能力を身に付けていく必要があります。生徒が知りたいタイミングで、調べ方や分析の仕方を教えていくことが必要です。
 

探究学習に取り組むための留意点

― 持続的に探究学習へ取り組むために、学校ではどのような点に留意するとよいか教えてください。

 学校としての方針を決め、継続的に取り組めるような体制をつくることが重要です。学校の方針として探究が掲げられていないと目標が揺らいでしまうので、学校としての取組をしっかり進めていきながら、探究の授業を担当する一部の先生に負担がかからないようにチームで進めていくことが大切です。すごくやる気のある先生がいて、引っ張っているのは非常に良いことですが、「その先生がいなくなったら続かない」「1~2年間取り組んだら疲れて続かない」といったことになりかねません。
 また、探究学習を根付かせていくには、先生自身が授業をイメージできることが大切です。授業のイメージをもてなければ、話を聞いても探究について理解はできません。そのために研修も必要です。例えば、先進的な授業を見たり、Web上にある探究学習の動画を見てディスカッションしたりして、校内での研修を充実させることが重要だと思います。

― 探究の学習の評価はどのようにしていくとよいか教えてください。

 探究に関する話をするときに、評価について聞かれることがよくあります。評価のことを第一に考えているのは、先生方が真面目に取り組もうとされている結果なので、素晴らしいことだと思ってはいますが、評価の前に探究の中身を良くすることの方が重要であると思います。生徒はどのようなゴールを目指すのか、そこに至るためにどのようなプロセスを踏むのかということを考えていないのに、先に評価を考えてしまうとうまくいきません。まずは内容をきちんと決めて、それが動き出してから評価するべきだと思っています。
 評価は児童生徒が成長するために行うものなので、どのようなフィードバックをしたら児童生徒が伸びるのかを考える必要があります。難しく考え過ぎず、最初はフィードバックを通して評価することから始めるとよいと思います。評価というと、ルーブリックや評価方法、評価の回数や評価手段の話になりがちですが、どうしたら児童生徒の成長につながるのかをまず考えて、それがうまく回り出したら評価手段を考えるという順番の方がよいと思います。
 

探究学習・ICT活用に踏み出すための一歩

― 探究学習やICT活用等に一歩踏み出せない先生方に安心できる一言をいただけますか。

 先生方は、「自分が見たことのない授業をすること」「自分が体験したことがない授業を展開すること」に不安を感じています。これは探究学習に限らず、ICT活用も一緒だと思います。
 

 

 これを解決するには、理屈で理解するというよりも、すでに活用している先生や学校の取組を見せてもらうことがよいと思います。例えば、今まで紙で印刷や配布をしていたものに、クラウドを活用すれば、印刷することなく、一度に複数のクラスへ配布することができます。さらにデータだと再利用がしやすく、修正すれば次年度も使うことができますし、データを共有すれば、周りの教員も活用することができます。ICT活用に踏み出すための一歩としては、その便利さを体験して、「使いたい」「使った方がいい」と実感してもらうことが非常に大切だと感じています。
 
 ICTを活用することで、探究学習の各プロセスの幅が広がります。そして、児童生徒が好奇心をもって学びに向かうことができるようになります。学校の中心は授業です。探究していることが学びに返り、学んでいることが探究につながるように、児童生徒の学びを支援していきましょう。