資料2 冬山・春山登山の事故防止のための方策として盛り込む事項(案)

冬山・春山登山の事故防止のための方策として盛り込む事項(案)


1.高校生等の冬山・春山登山の基本的な方向性等
 
 ○冬山・春山登山の教育的意義等
 ・高校生及び高等専門学校生1年生から3年生以下(以下、高校生等という。)の登山活動は、自然・環境教育、自立心や協調性の涵養、リーダーシップの発揮等、様々な教育的な意義があること。
 ・全国高等学校体育連盟(以下、高体連という。)の登山専門部に加盟する高校生等の人数は、近年増加傾向であること。(平成18年 6,580人 → 平成29年 10,574人)

 ○冬山登山の原則禁止について
 (「冬山」・「登山」の範囲を含む)

 <基本的方針>
 ・高校生等については、総合的な登山経験が不足しているだけでなく、厳しい環境での登山における技術、体力、リスクマネジメント能力等が不十分であるため、冬山における安全を確保することは極めて難しいので、原則として冬山登山は行わないこと。
 ・冬山登山とは、主に積雪期における登山とするが、時期に関わらず、氷雪や気温などの気象条件により雪崩、転滑落、遭難等が発生する可能性のある環境下で行う活動のこと。なお、これには高体連等が主催する講習会等も含む。
 ・学校の管理下のもと保護者の了解を得て、冬山でリーダーシップを取れる指導者、その他の条件を整えた上で、登頂を目的とはしないで技術や体験面における明確な獲得目標を定め、その目標を生徒が実現しうるために適切かつ安全な場所を選定し、安全登山の基礎となる内容にとどめること。
 ・なお、実施にあたっては、下見や準備を十分にして、事前に各地域の登山計画審査会(仮称)などで承認された計画であることを確認し、もし予定した通りに行動できないと判断される場合には、即座に行動を一旦停止、状況を冷静に観察・検討・相談すること。その上で、場合によっては実施を見合わせること。
 ・冬山登山を実施する場合には、「2.実施上の留意点」も踏まえ、次の(1)から(4)の条件等を整えた上で、安全対策に最大限配慮して実施すること。


 (1)適切かつ安全な場所での基礎的内容にとどめること
   活動場所については、冬山登山の獲得目標を踏まえ、そのために適切な場所であるかを十分に複数で検討すること。そのうえで時期、気象状況、地形、斜度、積雪量、参加生徒と指導者の技量やバックアップ体制の充実程度などから選定すること。また、活動内容は安全登山のための基礎的な内容であり、登頂を目的とはせずに、歩行技術(歩き方、ラッセル等)や生活技術(幕営、炊事等)等の習得を目的とする活動とすること


 (2)指導者の条件を整えること
   冬山登山の実施にあたっては、必ず複数の指導者の引率体制とし、少なくとも1人(リーダー)は、冬山のような厳しい環境での登山について豊富な知識と経験を有する者であり、山岳に係る資格(下記ア)を有していることが望ましい。なお、資格に準じるものとしては、国立登山研修所の研修会や各都道府県が主催する研修会(下記イ)の履修とともに、一定の難易度以上の積雪期登山のリーダー経験(下記ウ)を有し、継続的に活動していることが望ましい。
   また、リーダー以外の引率者においても、登山に係る研修会・講習会に積極的かつ継続的に参加し、自ら資質向上に努めること。

  <ア資格名>
  ・日本体育協会公認資格
   (公認山岳指導員、公認山岳上級指導員、公認山岳コーチ)
  ・その他:例えば、山岳ガイド協会の山岳ガイドステージⅠ

  <イ研修会名>
  ・高校生等の安全登山指導者研修会(主催:国立登山研修所)
  ・安全登山普及指導者中央研修会(主催:国立登山研修所)
  ・各都道府県が実施する登山に関する研修会・講習会
  ・山岳関係団体が実施する登山に関する研修会・講習会

  <ウ冬山経験>(各都道府県の審査会で個別に審査)
  ・■年■月に○○山の△△ルートをリーダーとして経験
   時期・山名・ルート・役割を踏まえ、総合的に審査。

 (3)登山計画審査会の事前審査を受けること
   冬山登山を実施する学校又は高体連等は、事前に登山計画(活動目的、活動場所(山域、ルート)、実施計画、参加生徒等の活動経験、引率者・指導者の体制と資質、装備内容、荒天対策、緊急時の対策等)を作成し、各都道府県において設置する登山計画を審査する組織(登山計画審査会(仮称))の審査を受けるものとする。(審査対象は、冬山登山の登山計画)
各都道府県教育委員会、私立学校主管部局及び各都道府県高体連(登山専門部)は、各機関が連携して地元の登山の専門家など外部有識者を含めた登山計画審査会(仮称)を設け、学校又は高体連等が実施する冬山登山の登山計画を総合的に審査し、必要に応じて改善を指示すること。なお、これを通じて、登山指導者の育成をはかること。
   また、各国立大学法人附属及び株式会社立の高等学校については、その主催する登山計画について、所在する都道府県の教育委員会、私立学校主管部局及び高体連等と連携するなどして、地元の山岳協会や登山専門家の助言を求めること。

 (4)学校長及び保護者の了解を得ること
   冬山登山の登山計画を作成する者(部活動顧問教員又は高体連関係者等)は、適切な獲得目標を設定し、必ず事前に可能性のある行動範囲と行動内容などの登山計画等を示し、参加する高校生等の学校長及び保護者の了解を得ること。

 ○通知内容の周知・徹底
 ・先般の冬山・春山登山の実態調査においては、スポーツ庁通知の周知状況が十分ではなかったこと等から、今後は、教育委員会と私立学校主管部局等が密接に連携し、各学校等へ確実な周知を図ること。

2.実施上の留意点
(1)計画段階
 ○主催者の役割の明確化と関係者との連携
 ・冬山登山の計画作成にあたっては、学校、高体連及び教育委員会の責任と役割を明確にし、関係者間で密接に連携を図ること。
  ○計画の企画立案、原案作成
 ・主催者は、参加者の希望する内容を把握し、この活動による獲得目標も明確にすること。それに基づいて、全体としての活動目的を明確化にし、参加者の体力や技術に応じた計画とすること。
 ・主催者は、活動場所は目的等や地形・気象情報等の事前調査を踏まえ選定し、必ず下見を行い、荒天計画を作成すること。
 ・主催者は、作成した登山計画書を警察等の関係機関に提出すること。
 ○計画の事前審査
 ・主催者は、教育委員会、私立学校主管部局及び高体連等が連携して設置する登山計画審査会(仮称)において、事前に可能性のある行動範囲と行動内容に関する登山計画の審査を受け、必要に応じて改善すること。
 ・登山計画審査会は、提出された計画を安全に遂行できるように、不足することを指摘し、できれば改善案を例示することで、登山指導者の育成を助けること。
 ○生徒の事前学習、保護者の承諾、保険加入
 ・主催者は、生徒が事前に活動内容等(気象の基礎知識、雪崩等の遭難対策を含むことが望ましい)について学習する機会を設けること。事前に保護者に登山計画等を示し、承諾を得ること。すべての参加者は山岳保険に必ず加入すること。
 ○危機管理体制の確立
 ・主催者は、事故発生時対応マニュアルや緊急連絡先を作成し、緊急時に速やかに対応可能な組織、通信手段、関係機関との協力体制を入山前に構築しておくこと。
 ○装備品
 ・主催者は、必要な装備品等(個人及び共同の装備品、食糧、通信機器)を確保し、事前にその使用方法等について習熟しておくこと。
 ・教育委員会及び高体連登山専門部は、必要に応じて、装備品等のレンタル等の支援方策も検討すること。

(2)当日の活動
  ○活動目的の明確化
 ・主催者は、活動前に活動の目的を明確にし、指導者間で認識を共有し、参加者への伝達・情報共有を徹底すること。
 ○気象状況等の情報収集
 ・主催者は、当日の活動内容について、当日の気象情報及び生徒の氏名や所属、体力、技能、心理的変化等を十分に把握した上で決定することとし、安全面から必要になれば、変更することを複数で検討し、適切に判断すること。
 ○適切な実施体制の構築
 ・主催者は、複数引率者の体制や本部の組織体制(意思決定含む)を適切に構築すること。指導体制が十分に確保できない場合には、安全確保が実践できる外部専門家の協力を得ること。
 ○必要な装備の携行
 ・主催者は、活動目的・場所に適した装備品等(食糧、通信機器含む)を携行すること。
 ○緊急連絡先の携行
 ・主催者は、緊急時の連絡先を整備(警察消防等の関係機関も含め)携行すること。

(3)活動後の報告
  ○活動結果を報告、共有
 ・主催者は、活動終了後速やかに、教育委員会に活動報告(ヒヤリハット事例は必ず含めること)を提出すること。教育委員会は、高体連等と連携し活動報告(ヒヤリハット事例等)について、各学校等に対し情報提供すること。

(4)その他
 ○災害時におけるメンタルヘルスケア
 ・事故が発生した場合には、関係者の心のケアを実施する体制を整備すること。
 ○その他、各地域において個別に配慮が必要な事項
 ・各地域において配慮が必要な事項がある場合には個別に配慮すること。

3.高校登山部顧問の資質向上等について
 ○登山部顧問の指導力育成等
 ・各都道府県の高体連及び教育委員会は、山岳関係団体等と連携して、部活動顧問教員等の指導者が冬山登山についての豊富な知識と経験が得られるよう、適切な研修機会を確保すること。
 ・学校設置者(教育委員会等)は、登山部の顧問教員が備えるべき知識や経験を習得できるよう、各種研修会への参加に配慮を行うこと。
 ・教育委員会又は高体連等は、登山計画審査会による登山計画書の改善等を通じて、顧問教員等の指導力の育成に配慮すること。
  
 ○外部指導者の活用
 ・登山部を設置する学校は、冬山登山についての豊富な知識と経験を有する教員を顧問に配置できないときは、有資格者である部活動指導員や外部指導者を配置するなど、日頃の活動から、リスクマネジメント能力が高められるような指導を行える環境を整えること。

 ○山岳関係団体との連携
 ・登山部を設置する学校は、冬山登山の計画作成にあたっては、現地の気象環境の把握、引率体制、必要な装備品等について、学校だけで判断せず、山岳関係団体に助言を求めるなどして、綿密なものとなるように留意すること。
 ・また、高体連等が主催する講習会等に参加しようとする場合であっても、学校が実施内容を詳細に把握し、必要に応じて主催者と協議を行うなど、特に経験の浅い引率者に過度な負担がかからないよう留意すること。

4.国及び山岳関係団体等が行うこと

(1)スポーツ庁等
 ○実施上の留意点等の周知徹底
 ○都道府県における高校登山部顧問等の関係者を対象とする研修会の開催支援
 ○国立登山研修所は、高校登山部顧問等の関係者を対象とする研修会の開催とともに、山岳関係団体等と連携して、登山部の指導者向け指導テキスト、高校生等登山初心者向け参考資料を作成・公開

(2)高等学校体育連盟(登山専門部)
 ○実施上の留意点等の周知徹底並びに定期的な実施状況の把握及び課題に対する対策
 ○教育委員会との連携促進

(3)山岳関係団体等
 ○高校登山部顧問等の関係者を対象とする研修会の開催(開催支援含む)
 ○学校部活動指導者向け指導テキスト、高校生等登山初心者向け参考資料(動画等を含む)作成・公開
 ○教育委員会、学校等の要請に基づく、有識者や指導者等の派遣協力支援
 ○登山者に対する安全登山に係る普及啓発活動、登山指導者の育成の推進

お問合せ先

スポーツ庁健康スポーツ課

(スポーツ庁健康スポーツ課)

-- 登録:平成29年11月 --