インターナショナルスクールと共に、自律的な学びを個人×組織で発展させる

関西学院千里国際高等部

 開放的なロビー、芝生の中庭、英語と日本語を交えた会話。関西学院千里国際高等部は、併設のインターナショナルスクールと理念、校舎を共にし、Two Schools Togetherを掲げる全国でも稀有な高校である。帰国生が多い環境下で、知識偏重型の日本的教育から自律的に考える授業にどのように移行したのか。設立から千里国際高等部を支える田中守教頭に話を伺った。

関西学院千里国際高等部校舎

目次

サマリー(事例のポイント)

各論点のポイント

  • ビジョン

    インターナショナルスクールとのTwo Schools Togetherで、自律的な学びを支援する

  • ミッション

    教員個人の専門性を信頼した「任せるガバナンス」で、課題探究型へ一歩ずつシフト

  • アクション

    個人単位での自律的なカリキュラム開発が、SGHによって体系的に進化

  • リフレクション

    推進力となった異文化共生も、まだまだ道半ば

  • プロモーション

    日本と世界、個人と組織でさらなる飛躍を目指す

ロジックモデル

ロジックモデル

何を目指す?(ビジョン)

インターナショナルスクールと二つで1つの学校

 1991年に開校した関西学院千里国際高等部(以下「千里国際高等部」とする)は、関西学院大阪インターナショナルスクール (Osaka International School of Kwansei Gakuin、以下「OIS」とする)を併設する、全国的に見ても珍しい学校である。
 「大阪に帰国生の受入れ可能な学校を、という地域や産業界からの要請に応え設立したのが本校です」と田中教頭は語る。日本と海外の両方の教育を取り入れ、より良い教育を実践するために設立された両校は、まさに、二つで一つの学校(Two Schools Together)。千里国際高等部とOISは、スクールミッションである「知識と思いやりを持ち、創造力を駆使して世界に貢献する個人を育む。Informed, caring, creative individuals contributing to a global community」を共にし、校舎はもちろんのこと、課外活動、音楽、美術、体育といった正規授業も、両校合同で実施している。二校は、多様な国籍、文化、価値観をもつ生徒がともに学び、切磋琢磨することで生徒の成長を目指している。

目指すのは、帰国生にとって当然の“自律的な学習”

 Two Schools Togetherが進む千里国際高等部とOISの校舎は、外国籍生徒、帰国生、一般生が1:1:1の構成となっており、千里国際高等部の生徒は、約半数を帰国生が占める。
 「中学生のころに日本の教育を受けてきた生徒と帰国生では、本校の授業への反応が全く異なりました。教員の説明に対し、帰国生は、矢継ぎ早に自分の意見や要求を口にしてきます。」もともとは公立校の教員であった田中教頭は、初めて本校の教壇に立った時の強烈な経験を語った。知識を伝達するだけの授業は通用しない――。帰国生たちが示す、自分の興味関心のもと能動的に知識を集め、自律的に学びを深める姿勢に、どのように対応できるのか。教員一人一人が、これまで経験したことのない難題を投げかけられた。
 一方で、それは、建学の精神に掲げる教育への挑戦でもあった。千里国際高等部は、「教育内容は変化に富んだ豊かで厳しく博識なもので積極的な参加を求めるものであるべき」、「生徒が成人になっても学び続けられるように学ぶ方法を習得させるように努める」といった自律的な学習を引き出す教育を目指していた。

(図表)School Missionを実現するための学びのイメージ

(図表)School Missionを実現するための学びのイメージ

(出典)学校パンフレット

どのように進めていく?(ミッション)

OISの影響を受けた教員一人ひとりの挑戦と、それを見守る管理職

 学校や生徒が求める課題探究型の教育の答えは、実は、すぐ近くにあった。それは、OISで行われていた世界の教育である。「OISでは、日本の教員養成課程では受けたことのない、生徒の気づきを促す探究型の教育が行われていました。教員みな、最初は、自分にはできっこないと思ったんです。それでも、日々の授業で子どもたちに課題を提供できるよう、少しずつですがOISの教え方を取り入れ、授業を変えていきました。」
 その過程で形成されたのが、新しいことに挑戦し、互いを認め合う教員風土だ。併設するOISの教員は、教育のスペシャリストとして、自身の教育スタイルを確立し授業を行っている。両校合同のモーニングミーティングでお互いの距離を縮め、日常的なやり取りが発生してくると、OISの「自律する姿勢」や「独自性を尊重する風土」が、千里国際高等部に浸透していった。個々が自立していく過程で、管理職も、教員の主体性を否定せず、挑戦することを評価するように変わっていった。
 「私も本校で教壇に立っていたころは、自分が面白いと思う教育に、好き放題挑戦していました。今は教壇を退き管理する側になりましたが、『やってみたい』という教員の気持ちが分かるので、止められないんです(笑)。」田中教頭の言葉には、自律した生徒を育てるには、教員も自律しなければならない。そんな思いが透けて見えた。

何をする?(アクション)

教員同士の相互作用で、より良いカリキュラムが生まれる

 自律を尊重する雰囲気の中、教員たちは、OISの教員に学んだり、アクティブラーニングや探究の講習会に参加したりと、試行錯誤することでオリジナルの授業を生み出していった。「カリキュラム開発の主体となるのは個人ですが、教員同士の学び合いも活発です。千里国際高等部では、授業をブラッシュアップするために、教科の垣根を越えて授業を見学しあう「学(まな)カフェ」や、数学科・理科・情報科の教員によるSTEM教育の授業研究などの取組が、自発的に生まれている。また、OISの教員たちの後押しも大きかった。「本校でICT化を推進したときには、OISの教員がITカフェを開催して様々なことを教えてくれました。教員同士が刺激しあい、OISの教員からサポートを受けられるという贅沢な環境で、個人が思う存分、力を発揮しています。」自己研鑽に加え、教員同士の連携によってPDCAを回せたことが、個々のカリキュラム開発の成功要因と言えるだろう。

SGHの看板でカリキュラムの体系化が進む

 さらに、2015年のスーパーグローバルハイスクール(以下、「SGH」とする)の指定が、千里国際高等部の自律的な学習を深化させた。「SGHの指定で、一気に探究型の教育が進みました。」そう田中教頭が語る理由の一つは、SGHという看板が付いたことで、大学や外部機関の協力が得られやすくなり、多様なフィールドワークを展開できるようになったこと。もう一つは、取組の体系化が進んだことだ。「設定したテーマについて研究し論文を作成するというSGHのプログラムは、実は、社会科の教員が実施していた『比較文化』という現代社会の授業がもとになってます。」
 千里国際高等部は、単科の授業をSGHで実施するにあたって、運営委員会と現場教員のチームを組成し、「知の探究」という探究の思考法や情報収集の方法を教える新しい授業を開発した。探究の手法を学び、リサーチやフィールドワークの実践を行うという段階的なカリキュラムによって、千里国際高等部の探究のスタイルが確立されたと言っても過言ではないだろう。

組織として目指す、近くて遠い“世界”の教育環境

 千里国際高等部は、個を支援する組織的な取組も充実させている。特に、ICT化は進んでおり、他校に先だって、iPadを活用した授業の実施、成績処理システムのオンライン化などの取組を進め、教員の自由度と業務の効率性を向上させてきた。「我々は、日々、“世界の教育”の圧倒的な進化を、肌で感じています。OISのICT化は、本校の遥か先を行っていて、通知表は当然オンラインですし、保護者が子どもの課題の提出状況をリアルタイムで確認できてしまいます。とにかく、置いていかれないように必死です。」OISで行われている世界の教育を前に、日本の教育を変えていかなければならないという使命感が、千里国際高等部の教育環境の改善をもたらしている。

どう振り返る?(リフレクション)

Two School Togetherには、文化的なすり合わせが必要

 OISからの影響を背景に、個人でのカリキュラム開発、SGHによる取組の体系化と、自律的な学びの創出にチャレンジし続けた結果、生徒が目に見えて変わった。「探究型の授業では、生徒の心が動く瞬間がわかるんです。授業の新しい発見や学びから、“生きた言葉”が次々と生まれています。」田中教頭の顔がほころんだ。「変化は生徒に限りません。我々の取組に共感し、千里国際高等部の教育に挑戦したいという教員が増えました。新しく来てくれた教員と今までいた教員が切削琢磨し、まさに今、新しいコラボレーションが生まれています。」
 一方で、ビジョンに掲げるTwo School Togetherの実現は道半ばである。開校から30年、管理職からのトップダウンで教育方針を決め付けるのではなく、教職員間の対話を重ねることで、多国籍、多文化の融合を目指し、多様性を尊重してきたが、二校のギャップは未だあると言う。田中教頭が、例として挙げてくれたのは、保護者との面談だった。「海外で活躍してきた教員は、各教科の“専門家”としての自負があります。その自負があるがゆえに、担当クラスの面談は、カウンセリングの有資格者が行うべきであって、自分の仕事ではないと考えるのです。このような小さなギャップについて、答えを押し付けるのではなく、『保護者とのコミュニケーションのあり方』という原点に立ち返り新たな解決策を模索しました。地道に話し合いを重ねて、一つずつ乗り越えていくしかありません。」OISとの協働による効果、変化を感じられたからこそ、地に足を付けて、文化的な相違を理解し丁寧に乗り越えることへの決意を感じられた。

もう一歩先へ!(プロモーション)

SGHでの学びを組織的なカリキュラム開発へ

 OISとの一体的な教育に向けた取り組みは、今後も進めていくが、千里国際高等部は、SGHで得られたノウハウの正規カリキュラムへの導入に挑戦している。「SGHの指定は2019年度で終了しますが、その経験は今後に活かさなければなりません。」学校法人関西学院の本部を巻き込み、立ち上げたCLT委員会(CTLはそれぞれ、Curriculum、Teaching、Learningの頭文字である)では、教えること、学ぶことも含めたカリキュラムの見直しを進めている。法人の協力を得ることで、探究をけん引する「総合探究科」の専任教員を雇用することが可能になり、個人と組織の両面から新しい教育への開発を目指す体制が整ってきた。先述の「知の探究」の授業が継続され、SGHで培ったネットワークも今後に活かすことが可能だ。
 千里国際高等部は、個人と組織の2つのアプローチと、OISとの連携で、さらなる挑戦を続けていく。