未来の先生フォーラム2020
未来の先生フォーム2020 HP写真より
「プラットフォーム」づくりに取り組む人々に焦点を当てるインタビューの第三弾。
今回は、自ら学び、専門性を向上させたいと願う先生たちをはじめ、教育業界の関係者が3000人規模で来場し、学びあう日本最大級の教育イベント「未来の先生フォーラム2020」の実行委員会にお話を伺いました。
<今回紹介するプラットフォームへは、こちらからアクセス https://www.mirai-sensei.org/>
※なお、未来の先生フォーラムは、2019年まで「未来の先生展」の名称で実施しています。
目的・ビジョン |
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メンバー |
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取組の概要 |
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「繋がり」のコツ | 「理念」と「感動」を体感する場にする
現状否定・批判はしない「未来志向」の前向きな場にする
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これからの姿 |
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ーー本日は、未来の先生フォーラム(旧:未来の先生展)2020の実行委員長である宮田純也様にお話を伺います。早速ですが、日本最大級の「繋がりの場」を創設されていると聞いていますが、どのようなきっかけでこれほどの場を始められたのですか?
宮田(敬称略、以下同様):大学院でオルタナティブ教育や教師教育などを研究していた頃から、日本には製品などを宣伝する教育産業系の大規模イベントはあるが、教育における実践者中心のソーシャルな領域横断型の象徴的な学びの場があまりないことと、その場が提供することの社会的意義をなんとなく感じていました。UAEでの大規模な教育イベントに参加した際に「日本でも、アカデミックな世界だけでなく、もっと様々な立場の人々が繋がる場が、今の社会に必要なのでは」と思い、当時、「目標参加人数が1万人の場を立ち上げる!」と無謀にも宣言しました。そこからはもう、1日12アポイントなど、とにかく賛同者を集めるべく様々な教育界の実践者のもとへ駆けずり回る日々が始まりましたね。(笑)
ーーなるほど、これほどの規模のイベントを創造するとなると、その賛同者を得るためにはかなりの時間と運営体制が必要そうですが、どのような体制で始められたのでしょうか?
【写真下】:宮田様
宮田:確かに「0→1」を生み出すので、相当な体制がありそうですよね。(笑)構想実現に着手し始めた頃は運営事務局として立ってくれていた方はボランタリーベースで数名程度いました。しかし、やってみると大変で、離れていくメンバーもおり実働を一人でやる事態になったり、お金も自分だけで全額分の立て替えをしたりと、いろいろ大変でした。一方で、いろいろな方が協力してくださり、人の紹介などの応援をしてくださる方たちもいたのでありがたかったです。イベント前日まで人が来るかどうかも分からず、イベント前夜は人生ではじめて眠れなくなるほどにプレッシャーを感じていました。しかし、当日皆さんがお越しになり、喜んでくださったので、参加者の皆さんには本当に今でも心から感謝しています。未来の先生フォーラムは参加者に喜んでもらうことが一番大切だという一貫したポリシーも、その時の経験から来ています。
一人で教育界のオピニオンリーダーの方々に賛同のお願いをしにいくのは正直に申し上げると大変でしたよ。(苦笑)実際の完成形が見えない、雲をつかむようなぼんやりとした構想だったので、粋に感じてくださりイベントに登壇してくれる方もいれば、冷たい対応で無碍(むげ)にされたりすることもありました。しかし、自らの理念を伝えるためには直接お目にかかってお願いに行くことが必要だと思っていたので、この時間を惜しむことはしませんでした。今思い返せば、このことが「イベントの質が高い」と言われている鍵の一つだと思います。
ーー理念を伝える、ことを大切にしていらっしゃるのですね。宮田様の思う「理念」とはどんなものでしょうか。
宮田:冒頭の「様々な立場の人が参加できる場を作りたい」というところとも繋がるのですが、「より良い人生・社会の根本には教育がある」と信じ、多様な人々を、もっと繋げたら、と願っています。自分自身の話になりますが、中学時代や高校時代、大学時代も周囲の環境に馴染みにくいというか、なんとなく違和感のようなものを持っていました。そんな経験もあってか、世の中には絶対的な正解はなく、多様性を認め合えるゆとりのようなものあるほうがいいなと思っています。学校教育も、唯一の正解を求めるのではなく、多様性を受け入れられ、様々な価値観が共存している方が、多くの人が生きやすくなるのではと信じています。
既に「多様」な実践は学校・学校の外など子どものいる現場にはあります。そういった多様な実践に関心を持つ人々を集め、参加者が”つながり”、知識・視点・つながりが“広がり”、新たな取組や知識が“生まれる”場を作りたいと思っています。同じ領域や分野で固まってしまわずに、様々な立場の人が話し合うことで新たな発見や気づきがあると信じ、徹底的な領域横断を志向し、ボーダーレスな場を追及しています。ある意味、なんでも売っている雑貨屋のようなイメージで運営していますね。
そのような理念のもとフォーラムを運営しているので、自社の宣伝ばかりで誰かを排除したり、あるいは前向きな対話をしなかったりという方はご登壇をお断りしています。
ーーご自身の原体験も影響して、徹底的にボーダーのない場を作っていらっしゃるのですね。その他に、心がけていらっしゃることはありますか?
宮田:これまでは、教育界隈は、真面目に向き合うがゆえに他者への批判・否定が生まれがちなように思います。Aが否定される場はAを一生懸命やってきた誰かが参加しにくい場になります。そういった考えから、私自身の書くメッセージには一切現状否定や現状批判の言葉は載せません。これは、立ち上げに奔走していた際にある方からの、「否定や批判ではなく前向きに、『これをやりたい』『あれをやりたい』という未来の話だけをしたほうが良い。」というご助言がきっかけです。それ以来、今も未来志向を強く意識しています。何かが否定された、と見えると「その場に行くと否定されるかも」という不安も生まれ参加者を遠ざけてしまいかねないですからね。
また、未来志向であることが参加者にも伝わるように、ロゴマークや広報資料も原色を用い、前向きな印象を持てるようにしています。また当日の運営については夏の音楽フェスティバルのイベント運営業者などに委託したりして、教育分野外のノウハウも用いることでカジュアルな雰囲気を作っています。あらゆる立場の人が、前向きに、カジュアルに未来に向かって「こんなことをしてみたい」と話せる場にしたいと思っています。
ーーだから20代の方の参加も多いのでしょうか?
宮田:はい、この未来の先生フォーラムは、これまでも10代~60代までのプロアクティブな参加者が集まっていただいており、また参加者の4割が1都3県以外の地域から来場してくださっています。広報をFacebookに焦点化して、「いいね」や「シェア」を多く得られたことも多様な世代・地域の方にお越しいただいた要因かもしれません。
2017年度の2,569人から、質・量ともに拡大を続けており、2019年度は3300人近くの方にお越しいただきました。2019年度の満足度は最高が5で平均満足度が4.36になるなど、高い満足度を自負しています。
この満足度の高さの要因の一つには、頭で考えるだけではなく、自分以外の実践家と直接触れ合い、感動する、という「体感」が得られる場だということがあると思います。体感することが心を揺さぶり、そして行動変容につながると思っています。
そして何より参加者の方お一人お一人の志が高く、また登壇者の質が高いことにより、このフォーラムの質が上がり続けているのだと思います。
2017年度の立ち上げの際には、周囲からも「そんな規模のものをできる訳がない、上手くいかない」、「本当にやるの?」と言われたりなど、はたから見るとクレイジーな取組だったので、当初から順調だったとは言えません。(苦笑)しかし負けず嫌いな私自身の気質と、「これだけ大きなことを言っていろいろな人に協力してもらっておきながら、失敗したら大好きな教育業界からいられなくなる」という気持ちでなんとか乗り切ることが出来ました。未来の先生展2017を無事に終えた後には、同じようなイベントもいくつか開催され、教育業界を盛り上げることに少しでも貢献できたのではないかと思っています。
そして、同じようなイベントが生まれてもなお、我々が2020年にもまた、未来の先生フォーラム2020として開催できるのは、他でもなく最初にお話した理念を大切にしていることや、「つながり、広がり、生まれる」場の必要性に共感してくれる賛同者によって支えられているからだと思います。
ーー立ち上げの時のビジョンに賛同・参加してくださる方の支えもあって、唯一無二の未来の先生フォーラムは作られているのですね。
今後、ますます活動がパワーアップするように感じますが、今後の展望はいかがでしょうか?
宮田:オンライン開催の強みはボーダーレスをますます進められることです。住んでいる場所に関わらず、気軽に参加できる気軽さ」が強みだと思います。一方でオンサイト(直接対面)によってこそ体感があり、協働や創造が生まれやすいとも思います。それぞれの利点を掛け合わせたハイブリッド型のイベントを実施したいと考えています。また現在は都内中心の開催ですが、今後は地域の実践に焦点を置き、地域に根差した場を作りたいとも考えています。コンセプトや理念、ノウハウを提供し、フランチャイズ的に「未来の先生フォーラムin○○県」というのも面白いと思っています。
ーー最後に、読者である高校関係者へのメッセージをいただけませんでしょうか?
宮田:時代や社会の変化に伴い、学校組織も、変わり続ける組織であることが求められています。
変わる、ということを考えた際に、「相互的主体変容」という考えがあります。かみ砕いてお話すると、自分がいて、相手がいるわけですが、自分が多元的な価値観の中で様々な取組に触れ、自分と相手と関わりあうことによって、自分と、社会や組織なども含む相手がより豊かな関係へと高められていくことが、多元的な実践や取組、知見が生成されていく基本的な営みのように思います。
また、変われ変われと圧力をかけられるのは非常にストレスフルなので、理想論かもしれませんが、やはり自分で感じて、動いて、自然と変わっているという状態が一番良いと思います。理性と感性という言葉があり、感動という言葉があるのに理動という言葉はありませんよね。何か思うところ、感じるところがあって人は初めて動く、変わるのではないかと思います。他者との関わりの中で、自然とより良いものが生み出されていくといいな、と思っています。
ぜひ、次回のイベントにお越しいただき、多様な実践家とつながり、広がり、そして変化を生み出してみませんか?今年のテーマは「問い直し」で、90の数のセッションが予定されています。オンラインでのご参加をぜひともご検討ください!
<イベントページ:https://mirai-sensei.net/>
ーー本日は前向きなお話の数々、誠にありがとうございました!
編集部: 未来の先生フォーラムのウェブサイトからは見えてこない、理念を大切にした、少数精鋭の実行委員会と運営事務局の挑戦によって、日本最大級の教育イベントが行われているのだと知り、とても驚きました。「現状の否定をすることで誰かが来にくい場所にしない」ことを意識した、排除のないボーダーレスな場だからこそ、未来の教育の在り方を前向きに対話できるのではないかと感じ取れました。今年のイベントは11月22日(日)、23日(月・祝)の開催です!ぜひオンラインで気軽に参加してみてはいかがでしょうか。