現場の知を信じ、ワクワクする場を生み出し続ける

教育・学びの未来を創造する教育長・校長プラットフォーム

教育・学びの未来を創造する教育長・校長プラットフォーム HP写真より

 全国各地の高校、教育委員会による「挑戦事例」を紹介する本ポータルサイト「学び続ける高校プラットフォーム~みらいの職員室~」。令和2年度は、そのような挑戦者たちが繋がる「プラットフォーム」づくりに取り組む人々に焦点を当て、インタビューを行った。
 「プラットフォーム」に関するインタビュー第1弾は、教育長・校長などの教育関係者が現場の実践知を共有し繋げる場を創造する「教育・学びの未来を創造する教育長・校長プラットフォーム(通称:School Platform)」の事務局にお話を伺いました。

<今回紹介するプラットフォームへは、こちらからアクセス https://www.schoolplatform.org/

目次

「教育・学びの未来を創造する教育長・校長プラットフォーム」の概要

目的・ビジョン
  • 既に顕在化している課題だけでなく、2050年以降を見据えた課題についても議論をすべく、教育長・校長を中心とする学校現場や国・地方公共団体の教育関係者に加え、産業界、学術界の力をも結集し、より良い教育の実現に向けたチャレンジをする者たちが集い、つながり、試行的な取組を実践できる「場」を創出する。
メンバー
  • 霞ヶ関の若手行政官の有志10名程度がコアメンバーとして参加している他、NPO法人ETIC.が後方支援を行っている。
  • コアメンバーの他イベント時は本取組に賛同する学生、社会人などが有志スタッフとして関与している。
取組の概要
  • 「答えは現場にある」、『「●●だからできる」という言葉を使わない』等の信念のもと、現場の実践知を繋げ・広げ、更なる実践に繋ぐ循環づくりを目指し2018年3月から活動を開始。
  • 春と秋の年2回のイベントを主軸に設計しており、全国の教育長、校長の2つの宰といった教育関係者の対話の場を重ねており、延べ660名が参加している。
  • 本PFがきっかけとなり、新たな自律的な場づくりにも繋がっており、秋田県(大館・北秋田)・神奈川県・埼玉県戸田市・東京都足立区等で地方本部主催イベントが行われている。
「繋がり」のコツ

ゼロベースの振り返りこそ原動力

  • 活動の根底にあるのは創設時に策定した憲章(チャーター)だ。そこで大切にされる価値は①チャレンジする実践者の集まり、②真の協働者(評論家ではなく、対等な関係)、③取組の見える化等、④開かれた、ワクワクする場、という4つ。この4つの価値を根底に据えながら、毎回のイベント終了時には、主催メンバーが大切にしたい価値を改めてゼロベースで振り返る「価値ミーティング」を行っている。このゼロベースでの振り返りによって、全く同じイベントは二度とない、成長しつづけるプラットフォームが生み出されている。

肩書を外し、来たい人が主体的に集う場

  • このプラットフォームは参加者がワクワクし、楽しいと感じる場であることが大きな特徴だ。その背景には、参加者がバックグラウンドはあるが、肩書を外してフラットに対話できる環境がある。また、このプラットフォームは参加者層の拡大を志向すること以上に、来たいと自ら思う人が集う場であることを大切にしている。主体的に集うフラットな場であるからこそ、「知りたい・話したい・繋がりたい」といったニーズに応えられるプラットフォームなのだろう。
これからの姿
  • プラットフォームによって生み出された新たな取組の可視化や、広報の充実によりさらにパワーアップするとともに、「地に足のついた議論」や、「参加者の主体性を重視する」など憲章(チャーター)の価値観を基盤に、さらに進化しつづけていく。
―次回イベントのご案内―
「今だからこそ現場みんなで創造する教育・学びの未来」シリーズ
第2弾「学校再開」  日時:令和2年8月8日15時~

「答えは現場にある」の信念のもと、繋がりの場づくりが始まる

ーー本日は、教育・学びの未来を創造する教育長・校長プラットフォーム事務局の佐藤悠樹様、白井美由紀様、弓岡美菜様、お忙しい中お集まりいただきありがとうございます。早速ですが、開始時間が平日夜10時からというのには驚きました。皆さんはいつもこの時間から打ち合わせなどをなさるのですか?

 白井(敬称略、以下同様):はい(苦笑)。というのも我々の活動は、個々人がプライベートに行う「有志」の取組です。したがって、完全に業務時間と切り分ける、となるとこんな時間になってしまいます。でも、このプラットフォームの活動が、本当に楽しくて。ただ楽しいだけでなく、日々の職務を頑張ろう、と思える大きなエネルギー源のようになっているので、遅い時間からでも辞められません(笑)。正直、こんなにワクワクする場になるなんて、当初スタートしたときには想像できませんでした。

ーーなるほど、楽しそうな笑顔を拝見していても、このプラットフォームが楽しい場なのかなと思わされます。では、まずはこのプラットフォームが始まるきっかけを伺ってもよろしいでしょうか?

【写真右上】:白井様 【写真左下】:佐藤様、【写真右下】:弓岡様

 佐藤(敬称略、以下同様):以前から、次から次に積み重なる教育課題に対し役所などの行政組織が解決策を考えるよりもずっと前から、現場の実践者たちはそのような課題に向き合い、何らかの解を見出だし実践していると感じていました。この実践者たちの知を広げたい、そのためには、この実践者たちが持つ知を互いに繋がらせる仕掛けがあれば、より良い実践がどんどん広がっていくのではないかと思い、場づくりを志しました。場づくりに当たっては4つのキーワードを大切にしました。

  • 「答えは現場にある」
  • 「「●●だからできる」という言葉を使わない」
  • 「地に足のついた議論」
  • 「一点突破・全面展開」

 弓岡(敬称略、以下同様):このキーワードとも重なりますが、我々が創設時から大切にしているのは憲章(チャーター)です。このチャーターは、プラットフォームの立ち上げの際に策定したもので、発案した文科省の若手行政官がツテを辿り繋がった、プラットフォームの「発起人」(7名の教育長・校長)との対話の中で紡がれた大切な言葉たちです。ここには、私たちが価値を置く尊重したい考えを表しています。

  1. ①チャレンジする実践者の集まりであること
  2. ②真の協働者であること(評論家ではなく、対等な関係)
  3. ③各種取組の見える化や積極的な情報発信を行う場であること
  4. ④開かれた、ワクワクする場であること

<詳細のチャーターはこちらから URL:https://drive.google.com/file/d/1qf-oYqhoSeBdKd0taQ138FiP9jhUKJ5b/view

ーー冒頭の楽しそう、という印象は、「ワクワク」など、このチャーターを背景に持つものだったのですね。確かに昨年度行った高校教育関係者との座談会も「次はどんな話に繋がるだろう・・・?」と事務局も参加者もワクワクしていたのを思い出しました!では、ここからは現在の取組の概略をお聞かせください。

「大事にしたい価値は何か」を問い続け、対話の場を熟成させる

 白井(敬称略、以下同様):これまでは、春と秋の年間2回の大きなイベントを軸に活動してきました。春の「総会」と言われるイベントは文字通り、開かれた場となるよう、定員の許す限り、教育長・校長に限らずどなたでも参加いただける場としています。秋のイベントは「具体のアクション、チャレンジを生み出す」ことも視野に入れ、教育長・校長とその右腕の皆様に限った場も設ける工夫もしてきました。春の場は多様な実践者との繋がりを生み出す強みをもち、秋の場は具体的なチャレンジを生み出すための深い議論を行える安心感が強みです。
 こういったプログラムの企画は、「チャレンジをしては、振り返り再構築する」という試行錯誤の中で生み出されています。例えば秋の場で、安心感と次への具体的なアクションの創出を大切にしよう、と設計したのも、春の場での反省を受けた改善提案です。当初の春の総会は、キラキラしたスターのような人のところに人が集まって、その方の話を聞くだけ、という場面もあり、原点であるチャーターに戻り、「対等な協働者」として、「地に足の付いた議論」や具体的なアクションに繋がる双方向の対話が必要だと感じました。
 2020年3月のイベントからは新型コロナウイルス感染症の影響を受け、オンラインで実施するチャレンジをしています。

ーーそういった些細な気づきも大切にしていることには、どんな工夫があるのでしょうか?

 佐藤:我々が大切にしていることの一つに、毎回のイベントの振り返りを行う際に、改めて私たちが最も大切にしている価値は何かを問い直す通称「価値ミーティング」をやっていることがあげられます。アンケートなどで参加者の方々の意見から振り返ることはもちろんですが、事務局である我々が改めて、イベントで目指していた価値を実現できたか、良かったところ・悪かったところはないか、など、じっくりと時間をかけて振り返りの対話をします。その対話ののち、では次のイベントがどうあるべきか、ということをゼロベースで考えます。ゼロベースで考えられるのは、毎回の価値ミーティングで、自分たちが大切にしたい価値を改めて確認しあっているからだと思います。
 価値ミーティングには、事務局であるETIC.の有志メンバーも参加しています。行政官では気づけない視点での指摘や、アイディアを与えてくれるので、とても良い刺激になっています。例えば、このプラットフォームの構想段階の頃にETIC.有志メンバーから発されたキーワード:「場づくり」に対し、行政官の頭の中は「何それ?」とクエスチョンマークでいっぱいになりましたよ。(笑)正直、我々はきちっとした会議の運営には慣れていますが、フラットな対話の場をつくるノウハウはあまり持っていません。行政官でない新たな視点をくれるETIC.のコメントはいつも本当に助かっていますね。

 弓岡:ETIC.には、「バックグラウンドはあるが、肩書を外して議論できる場」の作り方を教えてもらったように思います。ベテランの教育長も、校長になりたての方も、参加する皆が肩書を外してフラットに話せる場が熟成してきたように思います。

ーー対話が生まれる場づくりの実現に向けて、ゼロベースで再構築をし続けているのですね。ここまで読んだ方もイベントに参加してみたいと思うと思いますが、参加費はどの程度かかるのでしょうか?

「楽しい」と思う人が肩書を外して集う場。「ワクワク」こそが場の原動力。

 弓岡:イベントの参加費はオフラインで1000円、オンラインで500円と設定しています。このような価格設定に留められているのは、スタッフが全員有志で無償ボランティアだからです。いただいた参加費は資料の印刷費などに充てています。
 ちなみに、講師の方に謝金はお支払いしていません。この謝金ゼロにも実は喧々諤々(けんけんがくがく)がありました。行政官として仕事をする中では、講師の方に謝金をお支払いすることの方が普通です。しかし、話し合いの末、このプラットフォームをチャーターの理念の通り「来たい人が自発的に来て、ワクワクする場」にしていきたい、そのためには、謝金をもらって招かれて来る場ではなく、登壇者も含めて、自発的に来たいと思う人が集い、全員が当事者として参加する場であるべきと考えています。そういった考えから、現在は謝金ゼロで運営しています。

ーーチャーターの理念を軸に据えられているのですね。チャーターという価値観を強く共有しながら、価値ミーティングを重ねゼロベースでイベントを創り上げられるご様子をここまでで伺うことが出来ました。ところで、皆さん、行政官としてご多忙そうですが、時間のかかりそうな価値ミーティングにプライベートの時間を割くのは大変かなとも思いましたが…、いかがでしょうか?

 白井:冒頭申し上げたとおり、私は純粋に楽しいからやっています!日々の本来業務の立場や肩書をなしにした状態で、フラットに教育課題について話せる人間関係ができ、それが広がっていると実感できることも、楽しいと感じます。

 佐藤:僕も楽しいことは大きいですね。この場で様々な学校現場の方とリアルな議論をさせていただけることは、本当にありがたい限りです。それに加えて、いつも思考を止めず、新しいものをゼロベースで考え生み出し続ける活動に、達成感を感じています。地方で自律的に立ち上がっている秋田、足立区、神奈川、戸田などの様子を見ていても「楽しい」、「ワクワク」が原動力になっているように感じます。

ーーでは、最後にこのプラットフォームの今後の課題や方向性についてお伺いしても良いでしょうか?

今後の更なる進化へ、そして次回イベントのご案内!

 佐藤:現場の実践知をもっと広げたい、という想いはチャーターのとおりです。きちんと取組を可視化していきたいですし、現場の素晴らしい実践に焦点を当てたインタビュー記事のようなものも増やしていきたいと考えているのですが、中々そこまで手が回っていないというのが正直なところです。(※1)

 白井:そうですね、私もまだまだ発信の機能が足りないな、という課題は感じています。あとは、有難いことにこのプラットフォームをきっかけとして地方本部の立ち上がりの他にも、学校同士の協働などが始まったりしているようなのです。きっといろいろなところで繋がりの芽が咲いているのだと思うのですが、フィードバックする仕掛けがないので、そういった新たな芽をうまく把握できていません。プラットフォームをきっかけとして始まった新たな取組を把握したいなと思っています。

 弓岡:我々は3年近くの活動を通じて、やっと型のようなものは出来ましたが、前述の価値ミーティングのとおり、いつもゼロベースで再構築しています。なので、まだまだ成熟したプラットフォームではないと思っています。確かに参加数が増えていたり、参加者の地域属性が広がったりという成果も感じていますが、無理に拡大する、ではなく「来たい人の主体性」や「来た人のワクワク」を忘れることなく、成長していきたいです。

 佐藤:そうですね。冒頭紹介した4つのキーワードのとおり、我々は創設時から「地に足のついた実践」という価値を大切にしていますが、このことを参加者の皆さんも共感してくださっていると感じています。これまで、国の政策を説明するいわゆる行政説明を一度も行っていないのも、常に主役は現場の皆さんでありその実践であるという考えに基づくものです。
 来たいと思う実践者たちが、地に足のついた実践を共有しあう場を、これからも作り続けていきたいと思います。悩みも含めて本音で議論ができる場だからこそ、参加者にとってのトリガー(始めるきっかけ)になるのだと信じています。

ーーますます、本プラットフォームが進化していくと感じました!みらいの職員室でも「学び続ける高校」をキーワードにしていますが、こちらのプラットフォームがまさに「学び続ける場」なのですね。次なるイベントにぜひ参加してみたい読者もいると思いますが、次のイベントはいつ頃でしょうか?

 佐藤:有難うございます!次回は8月8日(土)15時から、「今だからこそ現場みんなで創造する教育・学びの未来」シリーズの第2弾「学校再開」をオンラインで開催します。新型コロナウイルス感染症による長期休業を経て学校再開をする現場の実践者たちがオンラインで議論を行います。オンライン開催は、本年3月に元々は対面で開催予定だった2020年総会を、状況を踏まえオンライン開催に切り替えたところから始まっていますが、オンラインの強みは、本当に様々な地域からご参加いただけるということです。事務局としても、オンラインで議論を深められる場をデザインしようと思っていますので、どうぞご参加を検討してみてください!

<イベントページ:https://school-platform200808.peatix.com/?fbclid=IwAR23e7N3gRqBIMNUSwIO_gIwo1QHuGqYJF9DNkfvb5kud3wXGryGYowBTRY

ーー有難うございます。これまでも高校関係者とのやりとりのある皆さんですが、最後に、この読者である「学び続ける高校」に関心を持つ方々に熱いメッセージをお願いできますでしょうか?

 白井:これまで、教育長・校長プラットフォームでは小中学校校長の参加が多かったのですが、今後、ぜひ高校関係者も増やしていきたいと思っていたところです。小学校、中学校から高校まで、さらには出ていく社会まで見据えて学校種を超えたプラットフォーム、互いの実践の刺激をしあえる場にしていければと思っています。

 弓岡:私自身、高校生活(特に体育祭!)が本当に楽しくて、今も大切な思い出です。多くの子供たちにとって、高校は人生ではじめて自分の「進むべき路」を選びとる経験を経て入学する学び舎です。自分で選んだ学校が「学び続け、進化し続ける」ことは、生徒にとってとても嬉しく刺激的だと思います。教育長・校長プラットフォームには「学び続ける」ことに意欲的な先生がたくさん参加されますので、ぜひご興味ある方はご参加頂けたら嬉しいです。

 佐藤:私にとって高校は部活の思い出しかなく学びの記憶は皆無ですが(笑)、高校生活が様々な意味でその後に影響を与える重要な時期ということは強く感じています。具体例を挙げるまでもなく、高校段階は特徴的で多様な好事例の宝庫です。現在、意欲的な高校関係者の皆様による学び合いが広まっていると伺っておりますが、ぜひ本プラットフォームにもご参加をいただき、議論・対話の場の厚みを増していただけたら大変ありがたいです。

ーー本日は熱量のこもったインタビュー、誠にありがとうございました!

おわりに:

 編集部: 若く志を持つ霞ヶ関の有志の発意から始まったこちらのプラットフォーム。現場にこそ答えがある、のキーワードのとおり現場の実践知を信じ、繋ぐ場をいかに実践家たちにとって意味のある場に出来るか、試行錯誤を続けている事務局の姿がそこにはありました。オンラインインタビューとは思えないほどの熱量で、ぜひ佐藤様、白井様、弓岡様をはじめとする事務局の方々にも是非直接触れ合って感じていただきたいと思います。(次回イベントにご都合のつかない方も10月以降にイベントが予定されております!)

  1. ※1 なお、過去に公開した記事(埼玉県戸田市の例:https://note.com/schoolplatform/n/nafe5bda447b2)のような現場の実践に焦点を当てた記事を増やしていくことを目指している。