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高校という「チーム」になる。
~他人に薦められる、持続可能な「チームづくり」のヒントを得る~

立教大学経営部教授/中原 淳(なかはら じゅん)

 人材開発・組織開発を専門とし、民間企業の人材育成を研究活動の中心におきつつも、近年は、横浜市教育委員会との共同研究など、公共領域の人材育成についても活動を広げている中原氏。
 「職場学習論」の他、2019年には「データから考える 教師の働き方入門」の監修を行い、教員の働き方改革に関する提言も行っている。
 そんな中原氏に、「チーム学校」を切り口に、持続可能なチームづくりについてお話しを伺った。

インタビュー中の中原氏

目次

「高校」の問題は「学校教育」の問題ではなく「仕事」の問題

ーー学習指導要領の改訂、大学入試改革など高校を取り巻く環境は劇的に変化していると思います。また、「チーム学校」に関する政策も国を中心に進められているように感じます。このような外部環境の変化について、人材開発や組織開発を研究される中原さんはどのようにお感じでしょうか。

 私は「教育学者」ではありません。ですので、高校の問題は「教育問題」としてよりも、「仕事の問題」の一つとして捉えています。私は今回このインタビューでお話しするに当たっては、「教育学」の話ではなく、「仕事」の専門家としてお話ししたいと思います。
 その前提のうえで、まず、仕事の世界のホットトピックは、変化が早く、予測のしにくい市場の中を生き抜いていける人材をいかにつくるかということです。このことは、企業にとっての急務になっており、市場の変化に対応できるために、企業は常に戦略を変えています。
 では、教育を取り巻く市場を見てみましょう。少子化の流れを受け定員未充足の大学が増えているなど、厳しい市場の変化を、高校の教職員の皆さんは目の当たりにし、また「変化していることになんとなく気付いている」はずです。そのような中、教育、あるいは高校という組織を見たときに、戦略は常に変化しているでしょうか。もう少し言い方を変えてみましょう。高校は、『社会と接続した』 、あるいは『社会という市場が必要だと思える』人材を育て続けることができているでしょうか。
 仕事の問題として「高校」を捉えたとき、私は、今後の「高校」を構想していく上で、もっとも重要なことは、将来の「仕事」の世界がどうなっているかを見定めることだと思っています。

ーーでは、高校が「将来の仕事の世界」あるいは、「社会という市場」を今一度見るためには、どういった工夫が必要になるでしょうか。

他者からの評価に向き合い、組織になっていく

 社会という市場を今一度確認するために、高校現場に改めて必要となってくることは、「他者からの評価、外部からの評価に向き合うこと」だと思います。その時に、高校現場が外に閉ざされていては、社会という市場や外部環境の変化に気付くことは出来ません。
 「自身の育てた生徒たちが社会でどう活躍しているか」、「市場で能力を発揮できているか」、こういった教育成果を把握していくことが求められると思います。そして、このような教育成果に対して、「外部はどう思うか?」、「他者は何を期待しているのか?」を理解することが必要です。
 客観的に浮かび上がってきた「社会のいま」を見える化することが、組織や人の変容を促す大きな契機になると考えます。
 一方で、他者からの評価に向き合うことを実現するのは、容易なことではないかもしれませんね。高校の教職員の中には、授業を見せたがらないし、他の教職員との交流を避けたがる方もいるかな、と思います。しかし、個々の教職員が、開かれ、評価を受け入れられるようになり、評価は成長の鏡と捉えられるようになれば、一気に社会、市場を近いものとして、個々の教職員が感じるようになるのではないでしょうか。
 ちなみに、私自身も大学教員をしていて、授業評価を受けますが、時にスパイシーな結果を受け取ることもあります。(笑)しかし、当初反発のあった大学の評価も15年も経てば当たり前の出来事になっているように思います。いま、授業評価について拒否感をもっている大学教員は、あまり多くありません。高校現場でも、「評価は当たり前」になると信じています。
 これまで、もしかすると、教育業界の皆さんは「同僚性」という魔法の言葉のもと、「相互不干渉」に陥っていなかったでしょうか。しかし、「チーム学校」を謳い、今一度学校という「組織」になろうと目指すのであれば、相互不干渉ではなく、きちんと向き合うものには向き合い、ぶつかるときにはぶつかる組織になっていくことを目指すことが必要ではないでしょうか。

ーー高校は、当たり前に「チーム」だと思っていましたが、改めて「高校というチーム」という概念で、今所属する高校を見てみると、いつもと違う観点で、見えてくるものがありそうですね。では、きちんと組織になっていくためには、どういった要素が必要になるでしょうか。

高校が「チーム」になるために

 組織の原則は、①目標の共有、②日々のやりとりがある、③互いの仕事に相互依存性がある、という3点です。では、全ての高校現場で、この原則の3つを、常時見直し実現できているでしょうか。
 高校がきちんとチームとして動くためには、チームメンバーの役割を見直すことも重要な要素だと思います。チームメンバーの役割の見直しを通じ、校長の権限や、管理職の在り方を検討することが必要になると思っています。

ーーチームメンバーの役割を見直す、確かに必要そうですね。中原先生の監修された「データから考える 教師の働き方入門」においても、教頭の職務が煩雑で多いとの記載がありましたね。

 そうなんです。教頭や教務主任などが、本来やらなくていい仕事まで負わされているのが現状です。主任未満の教員がやらなくて良い仕事は、全て教頭に任されている学校もあるようですね。(苦笑)しかし、高校には教員以外にも事務担当も含めた職員もいます。高校というチームにいるメンバーの役割を見直すことは改めて必要だと思います。しかし、「仕事の役割分担」という話は高校現場の中だけでは限界があります。なぜなら、全員が利害関係者で、全員が自己防衛に走るから。(笑)
だからこそ、国が、校長、副校長、教頭、教務主任が優先して行うべき仕事について、現状を捉えた上で方針を示し、旗を振ることが必要だと思います。その時に組織の長である校長の権限については、特に見直す必要があると思います。一つは任期。もう一つは予算権限です。
 まず任期については、公立高校の場合2~3年で異動してしまいますが、それでは短すぎて、リーダーである校長自身の改革に着手できないし、部下である教員も動かないと思います。
 次に予算権限です。お金がない場面では人や組織が変わることは難しい、というのも一つのポイントです。リーダーである校長の裁量で使える予算が少ない現状があるように思いますが、校長のアイディアがいかに素晴らしくても、先立つカネがないとなると、そのアイディアは一気に説得力のないものになってしまいます。
 そのうえで、議論を活性化する目的であえて申し上げると、校長も含めた管理職は今の年功序列に近いスタイルで良いのか、ということです。高校というチームにおける管理職の役割が明確化されたときに、今の管理職の登用基準と齟齬が出るのであれば、その登用基準も見直すべきだと思います。

ーー高校がきちんとチームになるためにも、チームメンバーの役割を見直すことは重要ですね!では、チームメンバーたちがそれぞれの役割を理解した後、個々のメンバー(教職員)の持つ資質・能力や経験を活かしていくことになろうかと思いますが、そういった資質・能力を向上させるための取組について、お話しをお聞かせいただけますか。

チームメンバーに必要な研修について ~飾る道具ではなく、使える道具を得る~

 高校の教職員の方々は勉強熱心で、「教員研修」という場で、自身の能力を高めようと、いわば使える道具を集めようと、誠実に研修に参加してくれます。
 しかし、道具は使ってこそ価値を持ちます。高校の教職員の皆さんが、チームメンバーとして、自身の能力を上げようと、せっかく誠実に研修に参加くださるのであれば、ぜひ「使う場所・場面」を意識しながら研修に参加いただきたいです。私自身も、使う場所・場面が分かる形で道具をお伝えできるような教員研修にしたい、そう心がけています。私自身が講師を務める研修では、「実際に学校で起きたケース」を切り口にすることで、研修参加者に「自分事」と捉えられたケースを基軸に、組織改善の手段・道具を学んでいけるようにしています。

ーー道具箱に飾られるだけではなく、生きた場面で使える道具を与える、そのために研修があるということですね。
 最後に、高校というチームづくりに奮闘する方たちへ、届けたいメッセージをお願いします。

持続可能なチームへ ~他人に薦められる職場を目指す~

 「データから考える 教師の働き方入門」にも記載されていますが、教職という仕事が人に薦められる仕事になっていない、という現状に向き合わなければいけないと思います。「やりがいがある、でも人には薦められない」という職場では、持続可能なチームにはなりえません。これまでは、働く時間にキャップ(上限)がない、あるいは、正規の勤務時間と超過勤務時間との「境界」を意識しにくい職場もあったのではないかと思います。学校現場の働き方改革は、持続可能なチーム作りという意味でも急務だと思います。
 さらに言えば、昨今、新しい取組を始めるときには「教員は忙しいから、新しいことを始めるとバーンアウト(燃え尽き)してしまう!」という反対の声もありますが、私自身は「もう既にバーンアウトって起きているのではなかったですか?」と問いたいですね。孤軍奮闘し、燃え尽きた教職員は、もう既に各学校現場にいらっしゃるのではないかと思います。
 社会の変化に対応した、良い学びを提供するためには、個々の先生の頑張りだけではなく、チームで取り組む、という視点も重要だと思います。だって、一人の頑張る先生に頼り切るスタイルでは、これまでもそうだったように、いつか意欲ある先生がバーンアウトしてしまい、チームとしては取組が続かないですよね。だからこそ、私は全国の「意欲ある先生を一人にしない」ことが重要だと思っています。
 今、私がリーダー育英塾(http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/10100)というものを開催しています。テーマは「全国で教育改革を推進する「志あふれるリーダー」の皆さまへ、仲間を探しに来ませんか?」です。今年度の締め切りは終わりましたが、来年度も開催予定ですので、ぜひ関心の有る先生にはご参加いただきたいですね!

ーー今一度、「高校がチームになる」というテーマで、お話しを伺いました。組織論の話は、最初難しいかも、と思いましたが、結局は、まずは人に薦められるような職場、チームになっていなければ、持続しないというのは、すごく分かり易いですね!意欲ある教職員が一人で頑張るのではなく、仲間を見つけやすい仕組みが出来るように、私たちも「みらいの職員室」を活性化させていこうと思います。本日は有難うございました。

取材日:2019年6月3日