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宮城県仙台第三高等学校

教科横断的な「データサイエンス」で、科学的な探究学習を深める宮城県仙台第三高等学校

  • 取材・文・編集:相川いずみ
  • 写真:前田立
  • 素材提供:宮城県仙台第三高等学校

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宮城県仙台第三高等学校は、早期から「理数科」を設置し、長年に渡るスーパーサイエンスハイスクールとして行ってきた実践やノウハウを、「三高メソッド」として他校に向けて公開しています。 なかでも「三高型STEAM教育」は、教科横断的な学びによって課題解決能力を育み、科学的な探究活動にも活用できる授業づくりとして、理数科だけでなく、普通科にも「データサイエンス」の学校設定科目を設置しています。 どのように教科横断型の授業を実践しているのか、教科間の連携や授業の工夫まで、家庭科の茂野高徳先生、情報科の草陽介先生、数学科の板橋淳先生の3人にお話を聞きました。

お話を伺った先生

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茂野 高徳(しげの たかのり)

家庭科教諭。2023年に同校に赴任。宮城県では、初めての男性の家庭科教員として活躍。前任校でも、教科横断的な授業に取り組んできた実績をもつ。

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草 陽介(くさ ようすけ)

情報科・数学科教諭。図書ICT部長。2017年に同校に勤務。数学の教員免許も持ち、普通科の「SS理数データサイエンス」なども担当。

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板橋 淳(いたばし じゅん)

理数科部、数学科教諭。2010年より、同校に勤務。SSH事業部の評価研究班に所属。

教科横断的な学びを実践する「三高型STEAM教育」

──宮城県仙台第三高校の「三高型STEAM教育」について詳しく教えてください。

板橋淳先生(以下、板橋):本校では、課題設定能力と課題解決能力を育成するために、異なる教科の知識やスキルを組み合わせながら、生徒が自主的に問題を見つけ、その解決策を探しだしていくPBL(Project Based Learning)的な活動を展開しています。

代表的な科目としては、理数科の「SS理数データサイエンス」、「SSサイエンス総合」、「STEAMライフサイエンス」、「Research Expression」、普通科の「SSデータサイエンス」の5科目が挙げられます。

仙台第三高等学校の学校設定科目(提供:宮城県仙台第三高等学校)

仙台第三高等学校の学校設定科目(提供:宮城県仙台第三高等学校)

――これらの授業は、すべて教科横断的な取組を行っているのですね。

草陽介先生(以下、草):はい。幅広く専門的な知識を学ぶことができる教科融合科目を開発・実践していくことによって、科学的な探究活動の内容を、より充実させていくことを目標にしています。

通常の授業でも教科間の交流は行っており、SSデータサイエンスで学んだデータを分析する知識・技能を生かして授業を行っています。たとえば、「日本史探究」では、江戸時代の米相場や金相場のデータから、江戸時代の幕府の経済政策や、商人の動向などを分析・予測したりするなど、文理関係なく、様々な方面に広がりを見せています。

他教科と連携することで、新しい見方につながっていく

──「データサイエンス」を、理数科と普通科の両方で取り入れている点もとても特徴的だと思いますが、具体的には、どのような授業を行っているのでしょうか。

茂野高徳先生(以下、茂野):わたしが担当している理数科の「STEAMライフサイエンス」は、家庭科と保健体育科が教科横断する授業です。生活課題や社会課題を、「よりよく生きよう」という家庭科的な視点と、「安全に、健康的に、持続的に生きよう」という保健体育科的な視点から、解決していきます。

2023年度に実施した授業の一例では、「異次元の少子化対策」をテーマにしました。総務省が提供しているビッグデータを用い、合計特殊出生率と、生徒が立てた仮説との相関を取りながら、少子化対策に有効な手立ては何があるだろうかということを考えていきました。

授業を行うにあたっては、同じく学校設定科目の「SS理数データサイエンス」で学んだ散布図や、相関の知識などを駆使しながら進めていきました。これまでの家庭科や保健体育科だけの授業であったら、与えられたデータを使って、自身の経験のみを頼りに調べるので通り一遍の発表になったと思います。生徒たちがデータを使いながら、根拠をもとにして、そして論理的に提案の発表ができたというところは、他教科との連携があったからこそだと思っています。

「STEAMライフサイエンス」の授業で、発表を行う生徒

「STEAMライフサイエンス」の授業で、発表を行う生徒

――授業を見学させていただきましたが、班ごとに異なった視点でデータを分析し、その相関を考えながら、提案を行っていったのが、とても興味深かったですね。

茂野:はい。なかには保健体育科的な視点が、見られる発表もありました。たとえば、少子化対策として有効な手立てを考える際、「地域スポーツが有効かもしれない」と提言した班がありました。これは、保健体育の先生の指導助言がありながら分析を進めていった結果としてこの提言になったと考えています。

まさに、家庭科と保健体育科の教科融合があったからこそ、この発想にたどり着いたのではないかと思います。

各班の発表の後に、質疑応答の時間を長めに設定。生徒から多くの質問が発せられ、活発な意見交換が行われていた

各班の発表の後に、質疑応答の時間を長めに設定。生徒から多くの質問が発せられ、活発な意見交換が行われていた

互いの教科の大事な部分を教員が学び合い、授業を設計していく

――普通科の「SSデータサイエンス」についても教えてください。

草:「SSデータサイエンス」は、数学と情報を融合した授業です。1年生の段階から、数学ⅡBで取り扱う確率変数や正規分布などを、情報科で習うビッグデータの処理などの手法を使って、論理的に傾向を分析し、学んでいきます。

本校では、2年生から本格的に始まる「探究学習」で、分散や標準偏差、検定といった数学的な知識を生かしていきます。特に結論を述べる時に、根拠としてデータを用いるというのを意識しながら授業を設計しています。

普通科「SSデータサイエンス」の授業

普通科「SSデータサイエンス」の授業

――「SSデータサイエンス」でも、T2(ティーム・ティーチング)体制でやっていらっしゃいますが、どのように分担されているのでしょうか。

板橋:データサイエンスの中で、情報分野と数学分野があり、情報分野は情報科の草が主導、数学分野は数学科のわたしが主導という形で担当しています。

大学入試共通テストに「情報」が入ったこともあり、理数科の生徒も普通科の生徒も、これから情報を勉強していくことになりますが、より深く理解するには、数学の考え方が必要不可欠になります。授業を設計していくうえで、情報科と数学科の教員で、「2つの視点で組み合わせて、何ができるか」ということは、常に話し合っています。

学校で行われた過去のスポーツテストの結果を活用

学校で行われた過去のスポーツテストの結果を活用

他の科目でも、探究的な目線で深い学びをする際に、「数値でどう見るか」ということを理解できると、深まりが出ると考えています。特に、2つの物事の関係性を考えるということが大切で、それを数値で表せるのが、散布図や相関関係、回帰といった分析の方法です。各分野の大切な部分を、情報科と数学科の教員が一緒に勉強しながら、関連性を探るということを意識しています。

全教員が参加する「SSH-授業づくり研究センター」を設置

──他にも、授業を行ううえで、苦労されている点や工夫されていることがあれば、教えてください。

:授業で生徒がデータを扱う際に、膨大なデータをただ渡しただけでは、加工することに時間がかかってしまい、「分析する」という活動がぶれてしまいがちです。そのため、教員側である程度、データを加工したうえで、生徒にデータを渡して分析するようにしています。そうしたビッグデータを教材化するための労力が必要となるので、その部分では苦労しています。

工夫している点として、授業を設計する際に例えばグラフを生徒が作成し、その特徴をまとめて終わりにするのではなく、その特徴をもとに、次に「自分たちがどのような行動をとれるか」といったデータの分析を問題解決にまで繋げていくという過程を、協働的に経験できることを意識しながらテーマ設定をしています。

板橋:わたしが気を付けている点は、他教科の教員との目線を合わせることです。本校の良い点は、いちいち会議をしなくても、職員室で「この内容に関して、情報的視点でできることはありますか?」といった話をすると、「統計データで使えるものがたくさんあるので、持ってきますね」といった話が気軽にできることです。これは、連携していくうえでとても大切で、良い環境だと思います。

──教員全員が参加して授業づくりを行う組織があるとうかがっていますが、詳しく教えてください。

板橋:本校では、既存の校務分掌のほかに、教員全員が参加する「SSH-授業づくり研究センター」という組織があります。「SSH(スーパーサイエンスハイスクール)事業部」と「授業づくり事業部」の2つがあり、さらに、6~12名で編成される「STEAM教育研究」や「授業研究」「探究活動」「校内研修」「連携・国際交流」「広報・普及」などの班があり、学科、学年を越えて班ごとの活動を行っています。

SSH事業部は、主に理科系のスーパーサイエンスの授業研究を行い、授業づくり事業部は、それ以外の探究学習を中心とした授業づくりを担当しています。基本的には、どちらも授業研究や探究活動を充実させていくという狙いは共通しています。

「SSH-授業づくり研究センター」の組織図(提供:宮城県仙台第三高等学校)

「SSH-授業づくり研究センター」の組織図(提供:宮城県仙台第三高等学校)

──なるほど。そうした中で、教員研修なども行っているのでしょうか。

:はい。毎月の職員会議では、ICTを活用してコンパクトに会議をまとめ、空いた時間を使って研修を行っています。

茂野:教員研修は盛んですね。カリキュラムや授業開発の悉皆研修会に参加したり、グループワークで情報共有を行うことで、ほかの教科でも「こういうことをやっているんだ」ということが分かります。そこで、「じゃあ、データサイエンスの部分を、STEAMライフサイエンスの授業でもこのように活かせる」というヒントをもらっています。

草:7年前に本校に赴任してカルチャーショックだったのは、教員同士で、授業を見合う習慣があるということですね。とてもオープンで、教科の隔たりなく、お互いの授業を見学しています。

自らの取組や成果を発信し、かつ他校からも学びたい

──生徒についてはいかがですか? 入学から卒業までの3年間で、どのような変化を感じられましたか。

板橋:14年間、本校に勤務していますが、常日頃から探究的な学びを意識しながら授業しているため、教員も生徒と対話し、関わりも多いと感じています。

また、PBL型の授業によって思考力も身についてきたことで、小論文や志望理由書をしっかり深いところまで書くことができるようになりました。探究活動から社会課題への意識が高まり、将来、自分が研究したい内容を明確にでき、面接でも、「自分はこんなことをしてきました」と話すことができる生徒が本校には多いですね。

授業でも、積極的に発言し、かつクラスメイトの意見にしっかりと耳を傾けて理解する習慣が身に付いている

授業でも、積極的に発言し、かつクラスメイトの意見にしっかりと耳を傾けて理解する習慣が身に付いている

本校では、下駄箱が生徒と教員で一緒なんです。それは、教師と生徒と同じ目線、近い距離で教育活動を行っていく「師弟同行」という昔からの伝統が、現在も続いているからです。教師も生徒の成長を引き出し、生徒同士でも学び合うというスタイルがとても強い学校だと感じています。

――卒業後の進路にも、変化などは感じられましたか?

草:そうですね。理数科のクラスを3年間担任として関わっていましたが、経済学部を志望する生徒が増えました。経済学を、データの観点から学びたいという生徒が出てきたという点は、変化の一つだと思います。

現実の社会においても問題が複雑化していく中で、一つの教科だけでは社会課題を解決するのが難しくなっています。いろいろな教科間で話をし、つながり合いながら、生徒たちに教えていくことが、大事だと改めて感じています。

1年次、2年次の資質能力の伸長度合を経年で比較。(提供:宮城県仙台第三高等学校)

1年次、2年次の資質能力の伸長度合を経年で比較。(提供:宮城県仙台第三高等学校)

今後もさらなる教科横断を目指したい

──今後の課題、そして展望について教えてください。

板橋:本校は、理数科が早期から設置されているのが特徴の一つです。スーパーサイエンスハイスクールとしての実践や活動が充実していることで、自然科学部などはとても研究がしやすく、生徒たちが活躍できる環境が整っていると感じています。現在行っている探究学習においても、地域や企業の方など、外部との連携の重要性を感じた結果、毎日のように外に出て、さまざまな活動をするようになりました。

2022年からの第三期SSHにおける探究活動として、学校の敷地内にある林「時習の森」の開発を行っている。(提供:宮城県仙台第三高等学校)

2022年からの第三期SSHにおける探究活動として、学校の敷地内にある林「時習の森」の開発を行っている。(提供:宮城県仙台第三高等学校)

課題としては、教科横断的なPBLの手法を拡大し、教科・科目間の連携を、さらに深めていきたいと考えています。また、探究活動で育成された資質能力を評価するためには、多様な形成的評価が必要ですし、本校の学習を通して、交流してくださった方々や地域に、結果としてどのような影響を及ぼしたかの検証も重要です。これらについては、引き続き研究を行っていきます。

さらに、わたしたちは、いかに発信をするかという点も、大切な仕事の一つだと考えています。今後は、本校の研究成果や授業コンテンツを他校へ普及させながら、逆に他校の成果を学んでいけば、さらに良いものになっていくと期待しています。県外や海外の学校との交流を発展させ、その中で探究活動における研究実績を積み重ね、広域連携の研究を実現したいと思います。
※本記事の情報は取材時点(2024年3月)のものです。

宮城県仙台第三高等学校

1963年開校。宮城県で初めて理数科を設置し、2010年度より、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定校として、科学的探究力の育成に努めている。2022年度からの第3期SSHでは、「三高型STEAM教育」と、学校周辺の林を含めた物理的、かつ社会的な環境を活用した「尚志ヶ丘フィールド」を柱に、現状把握、目標設定、課題解決の資質能力を育み、科学的な探究活動に取り組んでいる。県内でも有数の進学校ながら、学習活動だけでなく部活動も盛んで、文化部・運動部とも、県大会や東北大会などに多数出場経験をもつ。