文部科学省によって創設された、新しい時代の学びを実現する学校施設づくりを支援するプラットフォーム「CO-SHA Platform(コーシャプラットフォーム)」。「令和の日本型学校教育」の実現に向けた未来の学校施設づくりを推進する活動を行なっています。
本レポートでは、オンラインとオフラインのハイブリッドで行った「CO-SHA Platform イベント 創造性をひらく、学びの場のデザイン」の模様をお届けします。
今回のゲストは、東京造形大学 特任准教授 山内佑輔さんと、株式会社シーラカンスアンドアソシエイツ・代表取締役 法政大学デザイン工学部・教授 赤松佳珠子さんのお二人です。
成果物ではなく“つくるプロセス”に宿る学びに目を向けながら、創造性を引き出すための活動(アクティビティ)と空間(環境設計)のあり方について、参加者のみなさんとともに探りました。
創造性をひらくには、成果ではなく“プロセス”を大切に。
CO-SHA Platform イベントレポート
“かろやかな つくる”をもっと大切にしてみませんか?
まずは山内さんによるプレゼンテーションです。
政治経済学部を卒業し、大学職員としてキャリアをスタートさせた山内さん。それまで“つくる”とは無縁な人生を歩んでいたことから、「自分に創造性があるとは、とても言えなかった」と言います。
しかし、2014年には東京都小学校図画工作科専科教員になり、さらに2020年には東京・中野にある新渡戸文化学園に「VIVISTOP NITOBE」というクリエイティブ環境を立ち上げることに。現在も、その運営を担う傍ら、“つくる”にまつわるさまざまな活動をしています。
その詳細な軌跡は、著書『つくるをほぐす――完成を目指さないものづくりで学びとアイデアを生み出す「造形対話」』(英治出版)に譲るとして、今回は山内さんが提唱する“かろやかな つくる”にフォーカスしてご紹介します。

他方、山内さんが提唱する“かろやかな つくる”は、「砂場モデル」と言います。砂場のように、つくっては壊すを繰り返すのが当たり前。途中で誰かの手によって形が変わることもしょっちゅうあって、正解もなければ完成もなく、行き当たりばったり。そこに特別な技術は必要なく、ひとりでつくるよりも誰かとつくったほうが楽しい。

どちらの“つくる”も大切な“つくる”です。
山内さんは「成果や質を求めない砂場モデルの“つくる”は、つくる行為そのものが、コミュニティ形成における大事なツールになる」と言います。
つくるものは何でもいいし、たいそうなものではなくていい。だけど、“つくる”というプロセスを楽しみながら、誰かと一緒につくると、新たな視点が入り、創造力が刺激されます。それに、つくったモノが会話のきっかけとなって、はじめましての人とも話しやすくなり、対話や相互理解が進みます。これを山内さんは「造形対話」と名づけました。
「僕は折り紙モデルを否定したいわけではありません。けれど、集めるとか並べるといったカジュアルな行為も“つくる”のひとつであり、そんな砂場モデルの“かろやかな つくる”も、同じくらい大切にしてもらいたいと思っています。」(山内さん)
専門家と一緒に考えれば、空間の使い方は一気に広がる
続いて、赤松さんによるプレゼンテーションです。CO-SHAアドバイザーでもある赤松さんは、建築家として数々のオープンプラン型の小学校を設計されてきました。なかでも赤松さんが手がけた美浜打瀬小学校の例をもとに、創造性を育む空間のつくり方を見ていきます。
2006年竣工の美浜打瀬小学校には、さまざまな工夫が施されています。
・教室の3方が中庭に面しており、上履きですぐに外へ出られます。

・どこまで行っても行き止まりがなく、いろいろなルートでどこからでも目的地に行けるようになっています。
「昨日けんかをした相手の教室前を通りたくなければ、別の道から行ける。そんな選択肢を持てる環境が重要だと考えています」(赤松さん)
また、この美浜打瀬小学校では、2012~2013年度および2016年度に「オープンプラン小学校の学習環境づくり(略称:オープンスクール研究会)」という取り組みを行いました。これは、美浜打瀬小学校の教職員と、学校建築や音環境、教育の研究者や建築を専攻する大学生が協働して、学校空間の特性を活かした学習環境づくりを研究・実践したものです。
さまざまな工夫を凝らした美浜打瀬小学校の校舎ですが、実際に使い始めてみると、うまく活用されずに物置と化したオープンスペースが散見されていました。
そこで、実際の空間の使われ方を調査した後、教職員にアンケート調査を行い、夏休みを利用して、教職員向けのワークショップを実施。赤松さんから設計コンセプトやデザインの意図を説明したほか、「夏休み明けに子どもたちがあっと驚くコーナーをつくろう」といった具体的な学習環境づくりのアクティビティを行ったと言います。

「創造性をひらく、学びの場」はどうやってつくられる?
ここからは、山内さんと赤松さんによるクロストークの模様をお届けします。(モデレーター:株式会社ロフトワーク 山﨑萌果)山﨑
山内さんは公立と私立の両方の学校を経験されていますが、空間の使い方で意識されていることはありますか?
山内さん
僕の図画工作の授業は、図工室でやらないこともありました。廊下や校庭など、教室を飛び出していました。これができたのは、管理職の理解が大きかったから。「おもしろい」と寛容に受け止めてくれていました。そんな寛容な組織であれば、公立・私立は関係なく、誰かの小さなアイデアを活かして、広げていけると思っています。

なるほど。赤松さんは、空間の使われ方について、どこまで意図的に設計し、どこからは使い手に委ねようと考えているんですか?
赤松さん
単に広い空間をつくるのではなく、家具によってコーナー性を持たせたり、ホワイトボードや黒板など壁の仕上げを変えたりして、使う人が工夫できる“きっかけ”を置いておくことが大切だと思っています。ある程度の方向性や手がかりは用意しますが、使い方そのものは現場に委ねています。100人いれば100通りの気づきがある環境にするのが理想的ですね。
山内さん
前後左右がないのは、僕も大好き。図工室では、まず教壇を取っ払いました。前だけで話すと後ろの子の集中力が下がりやすいけれど、急に「今日はこっちが前ね」というと、子どもたちもびっくりするじゃないですか。ちょっとしたことだけど、これは明日からでも、すぐにできる仕掛けです。
山﨑
会場から「家具の予算を取るコツはありますか?」という質問が来ています。赤松さん、いかがでしょうか。
赤松さん
学校は多くの場合、プロポーザル方式で設計者が選ばれるので、最初の提案段階から、「建物だけでなく、家具まで含めて一体的に考えさせてもらう」という方針を明示しておくことが大切です。
また、発注者である学校と契約する際にも、「通常は備品工事として別予算で扱われがちな机や棚などの家具や什器も、まとめてコントロールさせてほしい」と伝えるんですよ。
よく言うのは、「ひっくり返したときに、落ちないものは建築、落ちるものは備品」という考え方ですね。できるだけ建築工事に組み込めるよう、攻防を繰り広げています(笑)

研修というきっかけで、最初の一歩を踏み出す
山﨑会場から「教員の空間利用のリテラシーを高めるためには、どうすればいいですか」という質問が来ています。赤松さん、お答えいただけますか?
山内さん
僕も美浜打瀬小学校でオープンスクール研究会を実施することになった経緯が気になります。
赤松さん
あれは、うちの設計事務所が最初に手がけた別の小学校から着任した先生と、調査研究をしていた研究者との繋がりから、新しい学校でも何かできないか、という話になったんですよね。
山﨑
研修内容をもう少し詳しく教えていただけますか。
赤松さん
テーマは、「学校内にあるオープンスペースをどう使うか」です。現場の先生方が「こういう授業をしたいけれど、どう使えばいいのかわからない」といった悩みを持ち寄って、グループワークを行いました。そこに学生や研究者も入って、「この家具をこう組み合わせれば、このような場がつくれます」とか「この単元なら、指導要領からすると、こんなレイアウトにすれば授業をスムーズに進められます。ここにこんな掲示物を置くのもいいですね」といった感じで、具体的に提案していきました。

そこまで具体的な使い方を示してしまうと、“ハウツー化”してしまう怖さはありませんか?
赤松さん
それが、一度その場で一緒に動かしてつくってみることで、現場の先生方の中で「ここまで手を入れていいんだ!」という気づきになって、一気に展開の幅が広がるんです。最初の一歩を踏み出す支援をしているイメージでした。
山内さん
なるほど。レクチャー型で「こうしなさい」ではなく、“一緒に考えよう”という姿勢が大事なんでしょうね。研修と言えば、つい効率を求めて「この2時間で何を学んだのか、明確な成果がないと嫌だ!」という発想になりがちですが、先生方自身が“自らの頭で考え、学びをつくる”経験をすることが、とても重要だと感じました。

では、ここまでの感想を教えてください。
山内さん
学校教育では、具体的な成果を数値で示せない難しさがありますが、一人ひとりの信念や実感を語り合うことはできるので、対話を重ねることが大切だと思っています。このような機会をいただき、ありがとうございました。
赤松さん
山内さんの「つくるをほぐす」という視点は、学校建築や教育に携わるすべての人にとって大きな示唆があると思います。我々も設計者として、そのような営みが生まれる場をどのようにつくっていけばいいのか、これからも考え続けたいと思っています。
「造形対話」をやってみよう
ここからは会場の参加者のみなさんで、山内さんの造形対話のワークショップを行いました。色とりどりの花紙の中から、好きなものをちぎって、台紙に貼っていきます。そしてできたものを見ながら、なぜこの色を使ったのか、どんな思いを込めたのか、などを3人1組で語り合います。
「できたモノを作品とは呼びたくない。あくまでも“経過物”。モノをつくるのが目的ではなく、モノは対話のためのツールです」と山内さんが言うように、このワークショップで大切なのは、できあがったモノ自体ではありません。経過物を見ながら行う“対話”が重要なのです。





実際に会場では、あちこちで対話が始まっていました。「同じ職場じゃないからこそ、言えることがありますよね」と話に花が咲き、造形対話で手を動かすことの価値を身をもって体感することができたようです。
閉会後に行った交流会も大いに盛り上がり、CO-SHA Platformのコミュニティの広がりを感じられたイベントとなりました。


