たった40分で人通りの少ない廊下が、みんなの“憩いの場”に!

「CO-SHA ワークショップ」イベントレポート

文部科学省によって創設された、新しい時代の学びを実現する学校施設づくりを支援するプラットフォーム「CO-SHA Platform(コーシャプラットフォーム)」。「令和の日本型学校教育」に向けた未来の学校施設づくりの推進に向けて活動しています。

本稿では、昨年に続き今年も開催となった「CO-SHA ワークショップ」の模様をお届けします。

CO-SHA ワークショップとは、日本全国の小中学校をオンラインでつなぎ、CO-SHA Platformのアドバイザーの先生方から助言を受けながら、学校内のオープンスペースや空き教室などの環境づくり(レイアウト変更や模様替えなど)にみんなで挑戦する取り組みです。

「そのうちなんとかしたいと思っている余剰空間があるけれど、日々の業務に追われて、なかなか重い腰が上がらない」とお悩みの学校関係者のみなさんに、「試しに家具や什器をちょっと動かしてみるだけで、こんなに空間の使い方を変えられるんだ!」「環境づくりなんて難しそうだと思っていたけれど、実際にやってみたら意外と楽しい!」という気づきを得てもらいたい——そんな想いで企画されたイベントです。

今回、プレイヤー(レイアウト変更などワークショップに参加される方)として参加いただいたのは、長野県南牧村立南牧南小学校のみなさんです。限られた40分間で、どこまで改善できたのでしょうか。

アドバイザーの先生方からはもちろんのこと、オブザーバー(視聴者)の方々からもチャットで活発な意見が飛び交い、「子どもたちのために、より良い環境をつくろう」という前向きな空気に包まれたイベントの様子をご覧ください。
イベントの様子は、こちらから(YouTubeへ移動)ご覧いただけます。
 

7つのステップで学習環境をアップデートするには?

 

ワークショップを始める前に、まずはアドバイザーの呉工業高等専門学校 建築学科 准教授 下倉玲子先生(以下、下倉先生)によるインプットトークがありました。

テーマは、「オープンスペース・空きスペースの家具配置の仕方」です。下倉先生が研究で訪れたスウェーデンの事例をもとに、7つのステップで家具の配置を考えていきます。
 

Step1 子どもが通る動線を想定する

たとえば、以下の図のように3つの教室が並んでいる場合を想定してください。廊下のスペースをもっと有効に活用できないかを考えてみます。
以下の図のように左側に階段があるなら、子どもたちは■■■を通って教室に入っていくはずです。これが子どもの通る動線です。

Step2 動線が交わるところ、オープンスペースや空きスペースの中心に「交流家具」を置く

次に、動線が交わるところ(S)に「交流家具」を置くことを検討します。交流家具とは、ハイテーブルやステージ、ラグなど、人が集まって交流するための家具のことです。
ハイテーブルがあると、「子どもと先生」あるいは「立っている人と座っている人」の目線が同じになって、交流しやすい状況が生まれます。

Step3 壁面を利用して、まとまったスペースのあるところに「グループ領域家具」を置く

「壁面は重要」と語る下倉先生。奥のまとまったスペースにある壁面(G)を利用して、「グループ領域家具」を置くことを検討します。
グループ領域家具とは、周囲が壁や間仕切りで囲われている机で、グループのテリトリーが感じられる家具のこと。
たとえば、以下のようなファミレスのボックス席のようなものです。

Step4 狭いところには「個人作業家具」を置く

続いて、狭いところ(I)に「個人作業家具」を置いていきます。個人作業家具とは、長机や一人机ブースなどの個人作業に適した家具のことです。

Step5 余ったところは「組み合わせ家具」を置く

次は、余ったところ(F)に「組み合わせ家具」を配置します。組み合わせ家具とは、一つの机に椅子を必要なだけ持ってきたり、隣の机とくっつけたりして、人数に応じて組み合わせて使える家具のことを言います。
丸テーブルは動線を邪魔しないのがメリットですが、くっつけることができないので、いくつかの机をつなげて大きな場所をつくりたいときは、四角い机のほうが重宝します。

Step6 区切りをつけたいところに棚を設置する

区切りたいところ(家具と家具の間)に棚を設置すると、意図的に領域を分けることができ、それぞれの空間に意味が生まれます。
たとえば(I)の個人作業家具を置いた背面に棚を置いて、よりパーソナルなスペースにしたり、(G)のグループ領域家具の横に棚を置いて、よりテリトリーを明確にしたり。
棚を壁にくっつけて並べるのではなく、壁に対して垂直に置くと、単なる物入れだけでなく、空間を区切る役割も果たしてくれます。

Step7 家具の配置によってできた動線を確認する

ここまでさまざまな家具を配置したことで、子どもたちの動線が大きく変わりました。改めて、通れるかどうかを確認しましょう。

大切なのは、ここで終わらせないことです。新しいレイアウトになってからの子どもたちの様子を観察して、人気がないところがあれば別の家具に変えてみるなど、継続的に改善していきます。
先生たちがせっせと家具を動かしていると、子どもたちにも「家具は動かしていいんだよ」というメッセージが伝わります。すると、子どもたちが自然と自ら家具を動かして環境づくりに参加するようになる。この状態を目指しましょう。
下倉先生は「子ども学び空間 アクティブラーニングとインクルーシブ教育のための学習空間」というYouTubeチャンネルを運営されています。今回ご紹介いただいた内容をより詳しく知りたい方は、こちらから(YouTubeへ移動)の動画もあわせてご参照ください。

みんなにとっての”憩いの場所”を目指して

では、ここから40分間のワークショップに入っていきます。この間、アドバイザーやオブザーバーのみなさんは、南牧南小学校の先生方が家具を動かしている様子をZoomの映像で見守りながら、適宜、気づきやアイデアを伝えて、さらなる改善に活かしてもらいました。

【対象とする空間】中央廊下
昇降口から入ってすぐに位置する中央廊下が今回の対象です。北側の窓からは屋内
プールが、南側の窓からは中庭を見渡すことができます。昇降口は2階にありますが、通常教室は1階にあるため、この中央廊下は子どもたちの日常的な動線からは少し外れています。さらに、昇降口から中央廊下を抜けた先には、保健室や特別支援教室などがあります。

【現状の課題とどんな場所にしたいか】
・地域のボランティアの方々と子どもたちが交流できる場所にしたい。(現状は遠慮して入って来られないため、昇降口に長椅子を置いて休憩場所としている。) ・かつては中央廊下を抜けた先に職員室があったので、子どもたちの往来があって賑やかな場所だったが、防犯の関係上、職員室を昇降口横に移設したことで、子どもたちの動線から外れてしまい、往来が減少。
・空調がないため、冬は寒く、夏は暑い。

【現状置いてあるもの】
・中庭側の窓:転落防止用の棚と植物
・プール側の壁:ソファ・ピアノ

【アドバイザーの先生方からの助言】
・法律(建築基準法施行令 第119条)では、1m80cm(片側居室の場合)は通路として確保しなければならないとなっている。初めに横幅を測って、使える幅を確認する。
→中央廊下の横幅は3m20cm。残りの1m40cmに家具を置ける。
・「中央廊下」ではなく、何か別の名前をつけてみては?
→ただの廊下ではなく、空間に意味づけがされる。
・いま植物のある棚を「ソーシャル本棚」にかえて、地域の人に管理してもらう。
→役割が与えられると、地域の人が学校内に足を踏み入れやすくなる。
・子どもたちは床が大好き。既存の家具を活かさないといけないという発想はいったん取っ払って、ジョイントマットを二重で敷いてみるなど、寝転がりスペースをつくってみては?
・学校にはなかなか“やわらかい素材”のものがない。子どもたちの癒しのためにも、ホットカーペットにテーブルを置いて布団をかけるだけでもいいので、簡易的なこたつを置いてみては?地域の人に呼びかければ、提供してくれる人が現れるはず。
・せっかく昇降口の近くなので、スクールバスの待合所としての役割があってもいい。
・ソファは壁を背にして置くのではなく、壁に対して垂直かつ向かい合わせに配置すると、空間を区切ることができる。
・職員室側に高い机を置いて、トランプやボードゲームのようなものを置くと、帰り際に先生と交流しやすくなるかも。
・転落防止の棚を外して、植物を床に置いてみては?
・ブロックで境界線をつくったところの窓側に水色のシートを貼れば、子どもたちは「池に落ちたらダメ」ゲームを始めて、窓際に近づかなくなるはず。


 
ワークショップの様子
ワークショップ前
 ワークショップ後
 ピアノを弾いたり、オセロをしたり、木のブロックで遊んだりと、子どもたちが思い思いに過ごす姿が見られます。また、友だちと喧嘩するなどして、うまく気持ちの切り替えができない子がいたら、「中央廊下に行ってみようか」と先生から声をかけ、クールダウンする場所にもなっているそうです。
さらには、今後、冬になるにつれ農業の繁忙期が終わり、地域の人たちが学校を訪れる機会も増えてくると言います。「ボランティアの作業後に一息ついてもらえる場所としても活用していけたら」と話してくれました。

環境づくりは「楽しい」が一番!

続いて、アドバイザーの先生方と一緒に、プレイヤーとしてご参加いただいた南牧南小学校のみなさんと、今回のワークショップについての振り返りを行いました。ファシリテーターは千葉工業大学 創造工学部 デザイン科学科 教授 倉斗綾子先生(以下、倉斗先生)です。

倉斗先生 まずはワークショップに参加された率直なご感想をお聞かせいただけますか?

南牧南小学校 小須田さん(以下、小須田さん) 正直なところ、「地域の方々のためにどうにかしなければならない」という義務感から今回の参加を決めたのですが、実際にやってみると、すごく楽しかったです。アドバイザーの先生方から、すごく楽しそうに、いろいろなアイデアを出していただけましたし、我々のほうでもいろいろなメンバーが集まって取り組むことができたので、これからもっと良い空間にしていけそうな予感がして、とてもワクワクしています。

倉斗先生 100点!まさに、この企画は「やってみると意外と楽しいよ」というのを共有したいという狙いがあったので、ほんとうによかったです。ちなみに、今後もこのワークショップを継続したいと考えているのですが、先生方にとって環境づくりのハードルになっているのは、どんなものだと思われますか?

小須田さん 公立校は3~4年で他校に異動していくので、「自分の場所じゃない」という意識があると思うんですね。「勝手に変えてしまったら、次の人が来たときに迷惑になるかも」とか「ちょっと使いにくくでも、どうせすぐ異動になるし、まぁ我慢すればいいか」といった感じで、二の足を踏んでしまうケースは考えられる気がします。

東京学芸大学教授 金子先生 なるほど。可変じゃないと手を出しづらいということですね。先生一人ひとりに予算をつけて、どこの学校でも使えるようなポータブルな備品を自分で買えるようにしたら良いんじゃないですか?
倉斗先生 それが実現できたら、すごく良いですね。下倉先生は、今回アドバイザーとして初めてワークショップに参加されましたが、いかがでしたか?

下倉先生 オンラインでもここまでできるんだ!と驚きました。すごく意義のある会だなと思いましたし、私自身もとても楽しかったです。今回の対象となった中央廊下は、天井が斜めになっているんですよね。しかも天井に照明がない。ワークショップ中にも金子先生から「子どもたちが作ったモビールを吊るしたらどうか」というアイデアが出ていましたが、寝転がって真上を見上げたときに目に優しい空間なので、寝転がりスペースがあっても素敵かなと思いました。
  
広島工業大学教授 栗﨑先生 それに付随して、いま、壁にブラケットライトがついて
いると思うのですが、次に電球を買い換えるときには電球色にすると、木の温かみともマッチすると思いますので、ご検討ください。先生方の手によって場所が良くなると、子どもたちや学校全体の雰囲気にも必ず良い影響が出ると信じていますので、ぜひ継続して取り組んでいただければと思います。
 
倉斗先生 垣野先生は前回もご参加いただきましたが、いかがでしたか?

東京理科大学教授 垣野先生 前回も感じたことですが、こうして特定の学校の課題を解決していく中で、同じような悩みを持つ他校のみなさんも真似できるアイデアがたくさん出てきましたよね。そこを共有できたことが、このワークショップの大きな価値になったなと感じています。
公共建築の中でも、学校は特にステークホルダーが多い。先生、職員、子ども、保護者、地域の方々など、多くの人たちが想いを込めてつくっていく場所なんですよね。これからの時代は、まさに総力戦で学校を良くしていく時代に入っていると思いますし、もし家庭科の「住まい」の授業とコラボレーションできるなどすれば、先生方の負担もこれ以上増やさずに、他校のみなさんにもチャレンジしていただきやすくなるのかなと考えています。



倉斗先生 たしかに、そうですね。ある学校では、廊下の長さを活かして、自動車工場の生産工程や、米づくりの流れを説明するための掲示物を作成し、総合的な学習の時間に子どもたちをそこに連れて行って授業を行っていました。そんなふうに授業に絡めて考えると、先生方もアイデアが湧きやすくなるのかもしれませんね。では最後に、上野先生、総括をお願いします。

東京都立大学名誉教授 上野先生 今日はみなさんほんとうにお疲れさまでした。大変意義深い時間でしたし、私自身もとても楽しく参加させていただきました。
全国の学校には、まだ十分に活用しきれていない、さまざまな空間があります。こうした空間の活用方法について、今日のようなワークショップ形式でアイデアを出し合いながら模索していくことは、非常に意義のある取り組みだと思います。
子どもたちにとって、少しでも温かく、心が休まり、交流できる良い場所を生み出していけるよう、これからもこの取り組みを継続していきましょう。ありがとうございました。