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3−9  まとめ
 これまでのテレメトリデータの分析、地上燃焼試験を含む各種実験及びシミュレーション解析結果等から推定すると、以下の過程で右側のSRB−Aが分離失敗に至った可能性が高いと考えられる(図2−3−13)。
 なお、SRB−Aは、SRBと比べて高燃焼圧力化したことによる流体力学的な環境の変化が、背景として以下の現象に大きな影響を与えていると考えられる。

1 SRB−Aのノズル部内面にはノズルスロートとライナアフトB2の材質の違いによる表面後退の差で、ライナアフトB2前端部に周方向に一様な段差が発生する。
2 この段差の影響により燃焼ガスの流れが乱れ、加熱率が高くなり、表面後退が進行する。
3 加えて、燃焼初期には、推進薬の光芒の影響による燃焼ガスの渦が形成され、表面後退の大きい領域が発生する。
4 この領域のなかには、流れの揺らぎとCFRPにおける炭化層の形成に伴う、炭化層の保持力の低下等の影響が重畳されて、領域によっては、比較的深い溝に発達するものが現れる。
5 深い溝が進展し、CFRPの積層面と加熱面のなす角度が小さくなり、かつ、一定の幅を持った領域が形成されると、熱分解ガスの発生に伴う層間の圧力の増加や炭化層の保持力の低下等によって、層間剥離が発生し、CFRPの積層の脱落が起こる。この剥離と脱落が繰り返されることにより局所エロージョンが加速される。
6 また、燃焼ガスが深くなった溝に向かって流れ込み渦を形成し、一段と動圧及び熱負荷の高い環境下となり、局所エロージョンが一段と加速される。
7 ライナアフトB2の局所エロージョンの進行によって、ホルダBに燃焼ガスが到達し、その熱によりホルダBが溶融・破孔し、その結果、燃焼ガスが後部アダプタ内に漏洩した。
8 漏洩した燃焼ガスにより導爆線が加熱され、導爆線が機能を喪失したことから、右側のSRB−Aの分離に失敗した。

 なお、SRB−Aの開発段階の地上燃焼試験から6号機の左側のSRB−Aまで、燃焼ガスの漏洩の発生を示唆する現象はない。一方、6号機の右側のSRB−Aに、特につながる製造上の特異性も発見されていない。
 CFRP製のノズル部に発生する局所エロージョンは、微細なメカニズムに起因する確率的な現象であることから、その位置とその深さは、確定的に求められるものではない。高燃焼圧力化に伴い流体力学的環境が当該の部位では苛酷となり、新たな知見として得られたCFRPの層間剥離の進行とあわせ、より深い局所エロージョンが発生し破孔に至る可能性が、現在のノズル設計では、潜在していたと考えられる。
 局所エロージョンが、ライナアフトB2のどこに発生するかを予測することは困難であり、また、一度表面後退の加速が始まると、そのメカニズムの特性上、集中的に進行し続けるものである。それが6号機の右側のSRB−Aにおいて、初めて破孔に至るまでに顕在化したものと考える。


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