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3.今後の対策等

 本章では、第2章で示した原因究明結果に基づき、機構が今後予定しているサブサイズ及び実機サイズモータの地上燃焼試験の実施等を考慮し、SRB−Aに係る対策についてまとめている。その際、対策の方針として、今回の原因究明の過程において可能性が否定できなかった要因については幅広く対策を検討すること、現象として十分に解明されていない事象については、その発生を極力排除するよう努めるとともに、所要の基礎的な研究を継続的に行うことを基本とした。

 また、機構は、これまでの一連の事故を受け、事故の直接の対策のみならず、現在開発中の衛星及びロケットについて、品質及び信頼性の向上の観点から、設計の基本にまで遡った全体の総点検を実施している。このため、今回の事故原因究明の過程を通じて得られた、設計から開発、製造に関する貴重な知見や経験が、H−2Aロケット全体の再点検や我が国の宇宙開発技術の信頼性の確立の一助となるよう整理した。

1. 固体ロケットブースタに係る今後の対策
 SRB−AのライナアフトB2で起こった表面後退の増大を引き起こした要因についての対策を行い、再発を防止する必要がある。
 これまでの原因究明から、局所エロージョンにおける層間剥離等の重畳的な影響のメカニズムが新たな知見として得られたが、この現象が発生する条件、あるいは当該局所エロージョンの進行速度については十分に解明されていない。このため、局所エロージョンについてのデータ取得を継続して行い、定量的な評価が可能となるよう努める必要がある。

 ノズル部の対策については、集中的に進行する局所エロージョンを抑えるため、高燃焼圧力化が局所エロージョン発生の背景要因となっていることを踏まえ、信頼性の高い設計変更を行わなくてはならない。
 したがって、機構は、具体的な設計の決定に当たって、十分な検討の上で、サブサイズ及び実機サイズモータの地上燃焼試験によりデータを取得し、設計変更の妥当性を確認した後に、設計を確定する必要がある。また、宇宙開発委員会の「H−2Aロケットの打上げ前段階における技術評価について(報告)」の中で、SRB−Aに関する助言が含まれており、機構は、残されている課題について、早急に取り組んだ上で、順次設計等に反映させる必要がある。
 これらの設計変更の詳細内容及び試験結果については、本調査部会の下に設置したH−2Aロケット再点検専門委員会において、H−2Aロケットの再点検と併せて機構から報告を受け、調査審議を行っており、その妥当性について確認することとする。

1−1  ノズル部の設計変更に対する基本的考え方
(1) ノズル部の対策についての考え方
 これまでの原因究明の結果を踏まえ、SRB−AのライナアフトB2で起こった表面後退の増大は、次の現象が継起することで生じていると考えられる。
1 ライナアフト前端部に発生する周方向に一様な段差
2 推進薬の光芒の影響による燃焼ガスの渦による表面後退
3 表面後退をさらに加速させる現象
CFRPの層間剥離
深い溝に向かって流れ込む燃焼ガスによる表面後退

(2) 設計変更等についての検討
 (1)を踏まえた具体的な設計変更等については、図3−1−1のとおりである。SRB−Aの設計変更等の実施に当たっては、当然のことながら、各設計項目のトレードオフを行い、設計を決定しなければならない。

1) 燃焼パターンの見直し
1 現設計の基本的考え方
SRB−Aは、高燃焼圧力化し、その燃焼パターン(燃焼圧の時間履歴)を、H−2Aロケットのシステム要求に対して最適化している。また、燃焼パターンは、推進薬の形状と密接に関係している。
2 設計変更等の目的及び方向性
高燃焼圧力化したことが、局所エロージョン発生の背景要因となっていることを踏まえ、今後予定されているミッション要求への適合性を勘案した上で、燃焼圧力の低減等、局所エロージョンの発生の低減効果をもたらすような燃焼パターンを検討する。
2) ノズル形状の見直し
1 現設計の基本的考え方
 SRB−Aは、第1段エンジンに対するSRB−A噴射ガス流の影響を低減するため、ノズル出口をできるだけ後方にすることとした。このため、機構は、H−2ロケットの実績を踏まえ、SRBと同様の円錐型ノズルを採用した。
2 設計変更等の目的及び方向性
 ノズル開口部の初期立ち上がり角を増加することにより、内壁静圧等流体力学的環境を早期に緩和する。またこの場合、CFRP積層面と加熱面のなす角度の増加が、層間剥離と脱落の防止に有効に寄与する。
 テレメトリデータ等に基づくSRB−Aの噴流ガス流の影響評価等を踏まえ、SRB−Aのノズル長を評価し、ノズル開口部の初期立上り角を決定する必要がある。

3) スロートインサート(3DC/C複合材)範囲の拡大
1 現設計の基本的考え方
 SRB−Aのスロートインサートは、3DC/C複合材を初めて適用した。3DC/C複合材の範囲を下流側に広げた場合、端部が薄くなることで欠損のリスクが高くなることから、欠損のリスクを低減する設計とした。
2 設計変更等の目的及び方向性
 3DC/C複合材の範囲を下流側に広げることにより、ライナアフトB2を熱による負荷がより低い下流側に配置でき、ライナアフトB2における表面後退を低減することが可能である。
 スロートインサートを下流側に広げることにより、3DC/C複合材の端部が薄くなることから、欠損のリスクを評価する必要がある。

4) ライナアフトB2の板厚設計の見直し
1 現設計の基本的考え方
 開発段階でのサブサイズ及び実機サイズモータの地上燃焼試験結果等から、局所的な表面後退の発生を考慮して板厚を設定した。
2 設計変更等の目的及び方向性
 サブサイズ及び実機サイズモータの地上燃焼試験により、データをさらに蓄積し、解析による評価を踏まえ、必要な板厚余裕も含む新たな板厚設計基準を設定し、ライナアフトB2の板厚を設定する。なお、サブサイズモータについては、高温混相流において実機サイズモータとの間に如何なる相似則が成立しているのか、注意する必要がある。

5) 製造・検査の改善
1 現設計の基本的考え方
 CFRPの製造・検査では、作業標準書、検査実施要領書等に従い、CFRPの材料特性、機械強度等を確認し、CFRPが設計要求を満たしていることを確認している。
2 設計変更等の目的及び方向性
 CFRPの材料特性を安定化させるため、その材料特性を十分に把握・特定するとともに、性能等の合否判定基準等に関してもその妥当性を確認する。また、ライナアフトB2及びスロートインサートの欠け等の可能性を一層低減するため、製造・検査の改善につき検討する。

1−2  その他の対策
 今回のH−2Aロケット6号機の打上げ失敗では、SRB−Aの分離機構が冗長構成としていたにも拘わらず、結果的に燃焼ガスの漏洩により、導爆線の機能が喪失し、SRB−Aの分離に失敗している。
 機構は、SRB−Aのノズル部分での、燃焼ガスの漏洩を想定していなかった。各種機器等を後部アダプタに集中的に配置しているが、燃焼ガスの漏洩を前提とした対応を行うことが不可欠であったとは言い切れない。しかしながら、今回の事故に鑑み、導爆線を含む艤装について、冗長構成の視点から適切な配置であったかどうかについて再検証を行う必要がある。
 機構では、H−2Aロケット全体の再点検において、一つの故障、不具合では致命的でない初期の異常からミッションの不達成に繋がる連鎖事象を検討するため、リスク評価と対策の検討を行っている。
 したがって、導爆線を含む艤装についての再検証結果については、宇宙開発委員会への再点検結果の報告の中で確認する。

 また、SRB−Aの回収については、宇宙開発委員会技術評価部会「H−2Aロケットの打上げ前段階における技術評価について(報告)」(平成12年12月)において中長期的課題としてあげられており、機構においては、今回の探索結果等を勘案しつつ、回収の目的・必要性及び費用対効果等を総合的に考慮して、今後の対応を検討する必要がある。


2. H−2Aロケット打ち上げ再開に当たって考慮すべき事項
 機構では、H−2Aロケットの打上げ再開に向けて、信頼性向上に向けた取組みをさらに強化するとしている。今回の原因究明活動を通じて得られた知見をもとに、H−2Aロケット全体の再点検に当たって考慮すべき事項は、以下のとおりである。
 なお、機構が行うH−2Aロケット全体の再点検については、本調査部会の下に設置した、H−2Aロケット再点検専門委員会において調査審議を行ており、技術的な助言を与えることとする。

(1) H−2Aロケット全体の再点検
 機構は、事故・トラブルが続いたことから、現在開発中のロケット及び衛星について、品質及び信頼性の向上の観点から、設計の基本にまで遡った全体の総点検を行っている。
 機構は、H−2Aロケットの打上げをより確実に行っていくため、直接原因に対する対策を確実に実施していくだけではなく、信頼性向上に向けた取組みをさらに強化していくとしている。このため、機構は、信頼性向上を最優先課題と位置付け、ロケット全体にわたり内在するリスクを抽出、評価し、的確に反映することを目的として、H−2Aロケット全体の再点検を実施し、早期かつ確実な打上げ再開を目指している。

(2) H−2Aロケット全体の再点検に当たって考慮すべき事項
 機構は、H−2Aロケット全体の再点検に当たっては、開発当時に設定された基本方針等との整合性が図られることを第一に、一部の改良によって全体システムへ悪影響がないように評価した上で対応する必要がある。なお、基本方針等が現状に即しているかの検討も必要に応じて行うことが求められる。
 今回の打上げ失敗を貴重な教訓として考えると、開発過程で課題とされた事項及び過去の不具合について、それぞれに対策を講じてきているが、未だに潜在的な問題を秘めているものがないかどうか、過去の処置や予断にとらわれることなく再検証することが適当である。特に、H−2ロケットから大きく設計変更を行ったシステムや、地上試験やこれまでの打上げによるデータの蓄積が十分でないものは、弱点になると認識して取り組まなければならない。また、最新の知見に照らして、これまでにとってきた対策が妥当であったかどうかの確認を行うことが重要である。
 従来と同様の手法で取り組んでも、これまでに見逃したものを発見することは難しい。手法等が現在の最新の知見を活かしたものかどうかの確認が必要である。また、これまでと全く違った視点(例えば、熱、振動などの現象面からの横断的なアプローチ)から再点検することによって、新たに見えてくるものがあり得る。

 また、メーカ関係者、特に現場で作業に当たっている関係者が課題であると考えている事項が抽出されているかどうかについて確認することは、再点検に当たって、重要な示唆を与えるものと考えられることから、メーカとの緊密な協同体制を取ることが重要である。

 H−2Aロケット試験機の打上げ前及び打上げ後に、宇宙開発委員会において技術的な評価を実施している。機構では、中長期的な課題として対策に取り組んできているが、残された課題について、その優先順位、実施時期等を明確に定めた上で取り組まなければならない。


3. M−Vロケットの信頼性向上に当たって考慮すべき事項
 我が国の大型固体ロケットであるM−Vロケットは、全段ロケットのノズルに3DC/C複合材及びCFRPを採用している。
 今回の原因究明の過程で得られた知見をもとに、M−Vロケットのより一層の信頼性向上に努めることが重要である。また、今回SRB−Aの製造及び検査で検討する予定の改善方策は、固体ロケットエンジンに共通のものが多いことから、M−Vロケットの製造及び組立て段階での検査についても、再確認を行い、必要に応じて改善方策を検討するものとする。


4. 固体ロケットブースタの開発過程の検証
 H−2Aロケット6号機の打上げに際して、開発過程を通じて留意すべき事項とされた部分でトラブルが発生したことを、宇宙開発に携わる関係者全員は謙虚に受け止め、今後の宇宙開発の推進に役立てなければならない。
 このため、今回の事故の原因となったSRB−Aについて、ノズルの設計段階から、地上燃焼試験への対応に至るまでの開発過程の検証を行い、今後教訓とすべき事項を抽出する。

4−1  固体ロケットブースタの開発の進め方
 SRB−Aの開発では、第1章で示したとおり、SRBの技術をもとにしているが、低コスト化を実現するため、これまでにない高燃焼圧力化など、多くの新技術が採用されている。このため、機構では、地上燃焼試験を実施し、発生した不具合については原因究明を行い、対策を実施している。
 また、H−2Aロケットの開発過程においてH−2ロケットの打上げ失敗が起こったことから、機構は、H−2Aロケットの総点検を実施している。
 宇宙開発委員会では、機構が行った総点検について、調査審議を行い、技術的評価及び助言を行った。
 機構では、この報告への対応を含めて、信頼性のより一層の向上を図るため、必要な開発を実施してきた。

4−2  原因究明の過程で新たに得られた知見
 今回の原因究明の過程を通じ、高燃焼圧力化を背景としてSRB−Aの局所エロージョンが加速されるメカニズムについての検討を行ってきた。
 この中で、材料・構造的には層間剥離という開発当時に考えたものと違う表面後退のメカニズムの存在が分かってきている。SRB−Aの開発時において発生した過大エロージョン及び局所エロージョンについては、以下のように考えていた。

(1) 地上燃焼試験(QM)における対応について
 機構では、ライナアフトで使用するCFRPについて、それまでの国内大型固体ロケットでの実績等を勘案し、CFRPの材料、ライナアフトの製造方法等を決定している。
 最終的にライナアフトに採用したCFRP材料の層間剥離に関して、機構は、過大エロージョンが発生した地上燃焼試験(QM)後に、試験片(テストピース)を用いた加熱試験を実施し、層間剥離が発生しないことを確認している。しかしながら、今回の原因究明の過程で、実機に使用されたライナアフトの端材(余長部)を用いた加熱試験を実施したところ、層間剥離が発生することを確認した。両者では、CFRPの製造過程の条件が一部で違うが、材料特性は、あらかじめ機構が設定した検査項目の規定値内であり、現時点でも、層間剥離の発生に影響する要因は、把握できていない。
 機構は、開発当時、構成や製造方法等を変えたCFRPでは、層間剥離の発生の可能性に差異があることを認識していたが、機構が定めた検査項目の規定値内であれば、層間剥離のしやすさに差がないと考えていたとしている。

(2) 地上燃焼試験(QM3)における対応について
 SRB−Aは、SRBに比べて高燃焼圧力化したことに伴い、SRBで発生していなかったような深いエロージョンが開発当初の地上燃焼試験から見られていた。特に、5回目の地上燃焼試験(QM3)において、それまでの予測を上回る深さの局所エロージョンが発生した。
 機構では、地上燃焼試験(QM3)の局所エロージョンの原因について検討を行った。
 メカニズムの十分な解明までには至らなかったが、余裕のある板厚設計により対応することとし、ライナアフトB2の板厚を増加させるとともに、アウタパネルを設置する対策をとることとした。
 なお、機構は、これらの対策により局所エロージョンに対する対応は十分にできていると考え、また、これらの設計変更により影響を受ける項目(ノズルの強度や質量の増加等)については、ノズル部の熱環境を踏まえた応力解析及び実機の工場試験等で設計変更の妥当性を確認し、地上燃焼試験に要する費用も踏まえて、実機サイズの地上燃焼試験を更に行う必要はないと判断した。
 また、この局所エロージョンと層間剥離との関係については、機構は、それまでの試験片を用いた加熱試験で層間剥離が発生していないことから、層間剥離の影響の可能性については検討しなかったとしている。このため、地上燃焼試験(QM3)直後には、局所エロージョンが発生した部分の顕微鏡観察等の詳細な分析は行っていない。

 一方、流体力学的には、燃焼ガスの流れの3次元解析を行うなど、これまで機構が行ってきた流れ場解析技術の高度化の成果が見られている。高温混相流の解析等、今後の進展の契機となることが望まれる。

4−3  固体ロケットブースタの開発過程の検証

 これまで行ってきた今回の打上げ失敗に係る原因究明と今後の対策の検討結果から判断すれば、結果的にノズル部の設計上、十分な配慮がなかったと考える。
 機構は、開発過程で発生した表面後退に対し、所要の解析、実験等を行い、原因を究明し、対応策を講じてきたと考えるが、旧宇宙開発事業団をはじめとする宇宙開発関係者の当時の経験や知見からは、今回の事故原因と考えられる局所エロージョンにおける層間剥離等の重畳的な影響を予見することはできなかったものである。

 この点について、今回の事故を貴重な教訓として受け止めるため、SRB−Aの開発過程において、局所エロージョン等について一層注意深い対応ができなかったか、という観点から、以下の点を指摘しておきたい。

1 起こった事象を謙虚に受け止める姿勢
 この領域は世界最先端の研究開発分野であり、宇宙開発委員会の専門家会合でも指摘されているとおり、「専門家が予測しがたい要素を含む」ものである。
 地上燃焼試験(QM3)で局所エロージョンが発生した際に、それ以前のエロージョンとの差の大きさから、発生のメカニズムが異なるのではないか、といった観点を持ち得ていれば、詳細に分析を行い、今回解明されたようなレベルまで到達し得たかどうかは別にしても、メカニズムの解明に繋がった可能性があったと考える。
 また、確定的に予測しがたい現象に対して、どのように想定をするのが適切か、さらに検討を進める必要がある。

 また、機構は、局所エロージョンの原因究明に際して、過去の試験結果等をもとに層間剥離は発生しないと考えたが、過去の知見にとらわれることなく、事象を謙虚に受け止め、外部の専門家を活用するなど、幅広い観点から検討しなければならない。

2 あらゆる可能性を追求する真摯な姿勢
 設計の基本に関連する問題に関しては、必要な検討を尽くすことは当然として、限界条件での検討を行うなど、拡がりをもった検討を行うことが望ましい。このためにも、基礎的な研究を継続し、基盤技術の確立に努めなければならない。
 地上燃焼試験(QM)で発生した層間剥離の問題への対応において、機構は、CFRP材料の加熱試験を実施し、層間剥離が発生しないことを確認している。更に厳しい条件で試験を行うなど、更にデータを増やし、できる限りその材料特性を把握する、といった観点を持ち得ていれば、層間剥離のしやすさ、あるいはその差異といった事項に関して知見が深まっていたものと考える。


5. 宇宙開発技術の信頼性の確立に向けて
 宇宙開発プロジェクトの推進は、スケジュールや予算等の制約の下で、ミッションの確定及びロケットや衛星全体のシステム設計が行われていくこととなる。その過程で、対立する要求を、調整し、選択する技術的な判断が求められ、それに相応しい判断のメカニズムが求められる。また、宇宙開発といった大規模プロジェクトを成功に導くには、
この技術的な判断を行う場合に、何をどこまで考えた上での判断であったのか、判断根拠とその判断の過程を明確にし、検証可能となるようにする必要がある。

 我が国の宇宙開発は、元々打上げ頻度が少なく、運用体験を踏めず、技術を育てにくい環境にある。さらに、限られたリソース(予算、人材、時間)の中で、技術基盤の維持が求められる。このため、いかに良質な人材を確保し、その技術を継承するか、また、その人材が力を発揮できる環境を整えるか、が第一義的に重要である。その上でも、技術力、いわば眼力を持った人材を育てる努力を継続していかなければならない。

 また、厳しい宇宙環境の下で着実に宇宙開発を推進していくためには、地上での各種試験を充実させることにより、打上げ前に不具合を発見し、適切な対策を講じ、確実なミッションの遂行が必要である。

 我が国の宇宙開発は、これまで様々な事故・トラブルを経験し、その対策を取ってきたところである。平成6年のきく6号(ETS−6)以降の連続した事故・トラブルを受け、宇宙開発委員会では、様々な角度からの提言を行ってきている。特に、H−2ロケットの打上げ失敗等を踏まえ、旧宇宙開発事業団(現機構)の業務、体制面での改善策等について、宇宙開発委員会で調査審議を行い、「基本問題懇談会報告書」(平成11年5月)及び「特別会合報告書」(平成12年5月)としてとりまとめている。

 本調査部会での指摘を含め、これまで行ってきた提言等を適切にフォローアップし、常に潜在的な問題が残っていないかを確認する必要がある。この点に関しては、宇宙開発委員会特別会合での調査審議の結果をも踏まえて、機構において改善が図られることを期待するとともに、引き続きフォローアップすることが重要である。

 通信・放送衛星、気象衛星、地球観測衛星は、国民生活に定着し、その質の向上等に欠かすことができなくなっている。宇宙開発が、実社会において利用されていることを考えると、「宇宙開発に関する長期的な計画」でも示したとおり、信頼性の向上を第一にした開発を行い、国民の期待に応えていかなければならない。
 新たな技術開発には、常に開発であるが故のリスクが伴うものであることに留意しつつ、今回の原因究明から得られた知見と経験も活かして、宇宙開発に携わる関係者が一丸となって、宇宙開発技術の信頼性の確立に取り組んでいくことを重ねて期待したい。


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