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断熱材の層間剥離について
CFRPが燃焼ガスで加熱されると、通常の表面後退では、3−5−1で示したとおり、CFRPの表層部から表面後退が進んでいく。
しかしながら、CFRP断熱材の積層面と燃焼ガスによる加熱面のなす角が小さいと、フェノール樹脂が加熱分解されて発生したガスが抜けにくくなり、内側の積層間の内圧が高くなり、積層間で剥離が発生する。このことにより、中の炭化層から剥離が進むことから、表面後退が促進される。
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断熱材の層間剥離の評価試験
ライナアフトB2の層間剥離に対する耐性を評価するため、加熱試験のために作製した試験片(テストピース)、並びに今回打上げ失敗の原因となった6号機及び他号機(3号機及び5号機)のSRB−Aを製造した際に残った端材(余長部)を用いた加熱試験を実施した(表2−3−2)。
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試験片を用いた加熱試験
ライナアフトB2に用いられるCFRPの層間剥離に対する耐性を評価するため、試験のために作製した試験片(テストピース)を用いた加熱試験を実施した。
この試験結果から、積層面と加熱面のなす角度が一定以上では、層間剥離は発生しないが、なす角度が小さいと層間剥離が発生しやすいことを確認した。また、層間剥離に至るには、一定以上の加熱幅が必要であることを確認した(図2−3−8,図2−3−9)。
一方、上述の加熱試験で層間剥離が発生したことから、開発段階における地上燃焼試験(QM)の後に行った試験片を用いた加熱試験の再確認を行った。
この試験結果から、開発段階と同じ成形条件で作製した試験片を用いた加熱試験では層間剥離が発生しないことを確認した。
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端材を用いた加熱試験
6号機及び他号機におけるライナアフトB2の層間剥離に対する耐性の差を評価するため、SRB−Aを製造した際に残った端材を用いた加熱試験を実施した。
この試験結果から、6号機及び他号機では、層間剥離に関して有意な差がないことを確認した。また、層間剥離が起きやすい条件での実験結果から、6号機の端材は、他号機の端材と比較し層間剥離が起きやすく、また、6号機の左右では、層間剥離の状況は同程度であることを確認した。
なお、6号機及び他号機の製造工程では、異常は認められておらず、また、CFRPの材料特性は、あらかじめ機構が設定した検査項目の規定値内であった。このことから、あらかじめ機構が設定した製造工程で製造され、また、材料特性が規定値内であっても、層間剥離のしやすさに差があることを確認した。
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層間剥離を伴う表面後退の評価試験
層間剥離を伴うライナアフトB2の表面後退特性の評価するため、積層面と加熱面が平行となる条件で、サブサイズモータより小型のモータの燃焼試験を実施した(図2−3−10)。
この実験結果から、層間剥離を伴う場合に、従来のサブサイズ及び実機サイズモータの地上燃焼試験での表面後退よりも、表面後退が増大する可能性があることを確認した。
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層間剥離のメカニズム(まとめ)
以上の実験結果から、一定の条件下において、層間剥離が発生し、表面後退が加速される可能性が高いことが推定される(図2−3−11)。
この加速される現象は、次のメカニズムであると考えられる。
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断熱材の表面後退が不均一に増大することにより、部分的に積層面と加熱面のなす角度が小さくなる領域が発生する。 |
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この領域では、分解ガスが積層面に沿って抜けにくくなり、一定の幅を持った領域が発生すれば、分解ガスによる層間の内圧が増加し、その部分のCFRPの積層間で剥離と脱落が発生する。また、炭化層の形成に伴う、炭化層の保持力の低下によっても剥離と脱落が助長される。 |
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このような積層間での剥離とCFRPの積層の脱落が繰り返されることにより、ある程度加熱幅が狭くなるまで、連続的に表面後退が促進される。
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地上燃焼試験結果の再検証
地上燃焼試験(QM3)における地上燃焼試験後のノズル部の表面後退を測定した。その分布データから、断熱材の積層面と加熱面のなす角度が小さい箇所が確認されたことから、燃焼中に積層面と加熱面のなす角度が小さい加熱面が生じている可能性があることを確認した。
また、地上燃焼試験(QM3)で発生した局所エロージョン表面の顕微鏡観察の結果から、炭化層には機械的侵食の痕跡が認められ、炭化層の剥離と脱落が発生していたものと推定される。
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