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3−5  ノズル部の断熱材の表面後退についての検討
3−5−1  ノズル部の断熱材の表面後退についてのメカニズム
(1) 炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の表面後退について
 固体ロケットのノズル部の熱防御については、冷媒による強制冷却は事実上不可能なため、ノズルスロートには耐熱材料を用いて高温での構造強度を維持し、ノズル開口部では内面に断熱材を使用して熱防御を行っている。
 SRB−Aでは、ノズル開口部の断熱材として、炭素繊維とフェノール樹脂により構成される複合材料であるCFRPを採用している。ライナアフトB2はフェノール樹脂を染みこませた炭素繊維をテープ状に巻いて製造していることから、積層構造となっている。
 ライナアフトB2のCFRPが燃焼ガスで加熱されると、フェノール樹脂が加熱分解し、ガスが発生し、そのガスは積層の間を抜けて外に出て行く。フェノール樹脂の熱分解により、炭化層が形成されるに伴い、炭化層の保持力が低下し、表層から炭化層が剥離していく。これらの「熱・機械的侵食」に加え、水性ガス反応や高温アルミナと炭素の反応等による「化学的腐食」により、CFRPが表面後退していく。

(2) ノズル部の断熱材の表面後退が発生する要因についての検討
1) ノズル部の断熱材の表面後退の発生要因について
 CFRPを用いた断熱材の表面後退が発生する主な要因は、表層から炭化層が剥離していく「熱・機械的侵食」と、水性ガス反応や高温アルミナと炭素の反応等による「化学的腐食」が考えられる。

2) 表面後退の感度解析
 CFRPを用いた断熱材の表面後退の影響因子に対する感度の評価(感度解析)を実施した。表面後退の感度解析の流れは、図2−3−7のとおりである。
 なお、機構では、解析に当たって、平成12年12月に宇宙開発委員会がとりまとめた「H−2Aロケット専門家会合報告書」の助言を受けて行われてきた旧3機関(宇宙科学研究所、航空宇宙技術研究所、宇宙開発事業団)連携による研究の成果及び知見を活用している。
 感度解析結果から、次の点について確認した。
熱・機械的侵食及び化学的腐食による感度解析結果から、表面後退は、燃焼ガスの動圧及び加熱率の感度が高い。
アルミナを含む燃焼ガスの影響に対する感度解析結果から、表面後退は、燃焼ガスとCFRPの積層面との衝突角の依存性が高い。

(3) 地上燃焼試験等における断熱材の表面後退現象について
 SRB−A開発段階での実機サイズモータの地上燃焼試験において、表面後退が周囲に比べて増大する現象(過大及び局所エロージョン)が見られている。なお、この現象は、SRBや旧宇宙科学研究所が開発したM−Vロケットでは見られていないものである。

3−5−2  ノズル部の断熱材の表面後退に影響を与える要因
 SRB−Aでは、SRBに比べて、高燃焼圧力とした固体ロケットブースタを採用したことから、断熱材の表面後退が大きい領域が見られるようになった。
 断熱材の表面後退に与える要因について検討する。

(1) ライナアフトB2前端部における表面後退についての検討
1) 周方向に一様な段差の形成
 CFRPを用いたライナアフトB2の表面後退は、3DC/C複合材を用いたスロートインサートと比べて大きい。このため、ライナアフトB2前端部には、燃焼初期に周方向に一様な段差(以下「ステップエロージョン」という。)が生じる。

2) ステップエロージョンによる影響についての検討
 ステップエロージョンが形成されると、この段差の下流では、燃焼ガスの膨張及び再圧縮の領域が発生し、加熱率が高くなるため、化学的腐食及び熱・機械的侵食による表面後退が、主にステップエロージョンよりも下流側に深く進行していくと考えられる。

(2) 推進薬の形状による表面後退への影響についての検討
 SRB−Aの推進薬には、星形のスリット(光芒)が切られており、燃焼ガスはこの光芒に沿って流れることとなる。
 このため、燃焼ガスの気流特性の変動に対する表面後退への影響についての解析を実施した。
 解析結果から、燃焼初期には、この光芒の影響により燃焼ガスの渦が形成されて表面後退の高い領域が発生し、この領域の中には、流れの揺らぎやCFRPの熱分解に伴う炭化層の保持力の低下等の影響が重畳されて、比較的深い溝に発達するものが現れる可能性が考えられる。

(3) ライナアフトB2前端部における欠け等についての検討
 ライナアフトB2前端部付近の欠け等が発生することにより、燃焼ガスの気流特性等が変動し、表面後退の増大の要因となることが考えられる。このような欠け等が発生する箇所として、ライナアフトB2前端部の欠け等とスロートインサート後端部の欠けが考えられる。

1) ライナアフトB2前端部の欠け等の可能性についての検討
 ライナアフトB2については、製造時の欠陥、熱膨張によるライナアフトB2とスロートインサートの干渉による欠損等が考えられる。
 SRB−Aの開発段階で実施した実機サイズモータの地上燃焼試験(QM)において、過大エロージョンは発生したものの、材料及び形状の変更により、その後、欠け等は発生していない。また、製造時の寸法検査及び非破壊検査記録、並びに既存の実機ノズルの寸法検査を実施し、異常がないことを確認した。
 以上のことから、ライナアフトB2前端部に欠け等が発生する可能性は低いと推定する。

2) スロートインサート後端部の欠け
 SRB−Aの開発段階で実施した実機サイズモータの地上燃焼試験において、スロートインサートの欠けは発生していない。また、実際の飛行データにおいて、異常発生までのスロート背面の構造部材(ホルダA)の歪みに異常が認められないこと、熱構造解析上の強度余裕を有していることから、スロートインサート後端部の欠けが発生する可能性は低いと推定する。

(4) 局所エロージョンが発生するメカニズムについて(まとめ)
 感度解析等の結果から推定すると、局所エロージョンが発生するメカニズムは次のとおりである。
 ノズル部にあるCFRP製ライナアフトB2は、燃焼ガスの加熱により、表層から炭化層が剥離し、表面後退しながら熱防御を行っている。
 ノズル部のノズルスロートとライナアフトの材質の違いによる表面後退の差で、ライナアフトB2前端部に周方向に一様な段差(ステップエロージョン)が発生し、この段差の影響で、燃焼ガスの流れが乱れ、加熱率が高くなり、ステップエロージョンよりも下流側で表面後退の大きい領域が発生する。
 また、燃焼初期には、推進薬の光芒の影響により、燃焼ガスの渦が形成されて表面後退の高い領域が発生する。この領域の中には、燃焼ガスの流れの揺らぎとCFRPの熱分解に伴う炭化層の保持力の低下等の影響が重畳されて、領域によっては、比較的深い溝に発達するものが現れる。


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