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3−2  前方ブレスの未切断の原因の推定
(1) 故障の木解析(FTA)
 右側のSRB−Aの前方ブレスの未切断を頂上現象とするFTAを行った結果は、図2−3−3に示すとおりである。
 前方ブレスの未切断が発生する要因としては、次の2つの異常の発生が考えられる。
  a)  分離シーケンスにおける異常
  b)  分離機構における異常

(2) 分離シーケンスにおける異常発生の可能性についての検討
 分離シーケンスは、第1章3−2のとおり、左右のSRB−Aの分離ナット等を点火するための導爆線は、起爆装置から左右のSRB−Aに分岐する分岐管まで同一系統である。
 左側のSRB−Aが正常に分離されたことから、分離信号は正常に発出され、分岐管まで伝爆されていると考えられる。
 このことから、分離シーケンスにおける異常発生の可能性はないと推定する。

(3) 分離機構における異常発生の可能性についての検討
 分離機構に異常が発生する要因としては、伝爆における異常と分離部の異常が考えられる。

1) 機器の異常発生の可能性についての検討
 伝爆に係る機器は、導爆線分岐箱、分岐管及び導爆線である。これらの製造記録、射場整備記録を確認した結果、異常は認められないことから、整備不良等に伴う異常発生の可能性は非常に少ないと推定する。
 また、分離ナットの製造記録、射場整備記録を確認した結果、異常は認められないことから、整備不良等に伴う異常発生の可能性は非常に少ないと推定する。

2) 外部環境異常の可能性についての検討
 分離機構に異常が発生する要因としては、機械的または熱的環境といった外部環境の異常が考えられる。
 機械的環境については、実際の飛行データを評価した結果、外部圧力、飛行時の荷重、及び音響・振動加速度ともに従来号機と同等である。このことから、機械的環境による異常発生の可能性はないと推定する。
 熱的環境については、実際の飛行データを評価した結果、第1段エンジン及びSSBの作動は良好であり、機体各部の加熱率及び温度のデータからプルーム加熱は過大ではなかったと判断できる。また、機体外板温度の上昇傾向から空力加熱が過大ではなかったと判断できる。このことから、熱的環境による異常発生の可能性はないと考えられる。
 以上のことから、外部環境による異常が分離機構の異常発生につながった可能性はないと推定する。

3) 内部環境異常の可能性についての検討
 分離機構に異常が発生する要因としては、SRB−A内部における機械的または熱的な環境異常が考えられる。

1 機械的環境異常
 SRB−Aの前方ブレス用の導爆線は、後部アダプタの内面にクランプで艤装され、システムトンネルを経由して分離ナットに接続している。一方、後部アダプタ内の可動部分としては、電動アクチュエータ及びノズルがあるが、導爆線と十分離れており、干渉することは考えにくい。以上のことから、機械的環境による異常が分離機構の異常発生につながった可能性はないと推定する。

2 熱的環境異常
 熱的環境異常が発生する要因としては、熱遮蔽構造の不良、搭載機器の発熱、燃焼ガスの漏れが考えられる。

1 熱遮蔽構造の不良
 SRB−Aでは、後部アダプタ下部に設置されているサーマルカーテンにより、SRB−A、第1段エンジン及びSSBからの熱を遮蔽する構造となっており、このサーマルカーテンの破損により、プルーム熱が侵入した場合が考えられる。
 温度センサの艤装状態から考えると、ノズル温度センサはシリコンゴムで覆われているが、サーマルカーテン温度センサは、サーマルカーテン内部に直接貼り付けられていることから、サーマルカーテンの温度センサの方が、ノズル温度センサより温度応答性が高い。このことから、サーマルカーテン温度センサの温度変化が、ノズル温度センサの温度変化より先となると考えられる。
 しかしながら、実際のテレメトリデータでは、サーマルカーテンの温度変化が、ノズル温度1の温度変化より後となっており、温度センサの艤装状態から考えられる温度変化と一致しない。
 以上のことから、サーマルカーテンの破損による異常発生の可能性はないと推定する。

2 搭載機器の発熱
 SRB−A内の搭載機器が発熱する要因としては、高電圧系の機器(熱電池及びパワートランジスタ)が発熱した場合が考えられる。
 SRB−Aでは、電動アクチュエータ駆動用に熱電池を搭載しており、その短絡故障により異常な温度上昇が発生する可能性はある。実際のテレメトリデータでは、SRB−Aの異常が発生した時点(打上げ後約62秒)において、起動確認信号及び駆動電圧モニタに異常は見られないため、熱電池の短絡故障による発熱が発生した可能性はないと推定する。
 また、アクチュエータ駆動用パワートランジスタの温度は、実際のテレメトリデータでは、SRB−Aの異常が発生した時点(打上げ後約62秒)において異常は見られないため、パワートランジスタが過熱した可能性はないと推定する。
 以上のことから、SRB−A内の搭載機器の発熱による異常発生の可能性はないと推定する。

3 燃焼ガスの漏れ
 燃焼ガスの漏れが発生する可能性がある部位としては、モータケース及びノズル部(モータケースとの接合部を含む)が考えられる。
 モータケースから後部アダプタ内に燃焼ガスが漏れる部位としては、後部ドームが考えられる。この場合、後部ドームの形状から、燃焼ガスはサーマルカーテン方向に漏れることとなる。燃焼ガス漏洩の拡散を解析した結果、燃焼ガスは、0.1秒のオーダーで後部アダプタ全域に拡がると考えられる。
 解析結果から、モータケースから燃焼ガスが漏れた場合、サーマルカーテンの温度上昇が先に開始すると考えられる。
 しかしながら、実際のテレメトリデータでは、サーマルカーテンの温度変化が、ノズル温度1の温度変化より後となっており、解析結果から考えられる温度変化と一致しない。
 以上のことから、モータケースからの燃焼ガスの漏れが発生した可能性はないと推定する。

(4) 前方ブレスの未切断の原因の推定(まとめ)
 実際のテレメトリデータの分析等の結果から推定すると、SRB−Aの前方ブレスが切断しなかった原因は、ノズル部(モータケースとの接合部を含む)から後部アダプタ内に燃焼ガスが漏れ、分離機構に異常が発生したことによるものである。


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