戻る


2. H−2Aロケット6号機の飛行状況
2−1  テレメトリデータ等の取得
 H−2Aロケット6号機の打上げ時には、種子島宇宙センター内に設置されている光学局/射点高速度カメラ及び射点ビデオにおいて、打上げ時の画像が取得されている。
 また、飛行中のテレメトリデータは、地上局でほぼ正常に受信されている。受信データについては、打上げ直後において、エンジンの噴煙等の影響で通信が不安定になり、一部のデータに受信途絶が発生している。しかしながら、今回異常の見られた打上げ後60秒から70秒前後においては、すべてのデータが取得されている。

2−2  H−2Aロケット6号機の飛行状況
(1) 打上げ時の状況
 射場付近及び上空の気象データから、打上げ時及び飛行中の天候について、問題となる点は確認されていない。
 また、撮影された画像及びテレメトリデータの解析結果から、打上げ時の機体環境(機械的環境、熱的環境)、並びに地上設備との接触及び脱落物等の異常は認められない。

(2) 飛行経路及び飛行姿勢の全体像
 H−2Aロケットの第1段エンジンは、打上げ後、正常に燃焼し、停止シーケンスも正常であり、機能及び性能に異常は認められない。
 打上げ後約68秒付近で、第1段エンジンの舵角量が増加するとともに、左側のSRB−Aの舵角量も増加している。また、補助エンジンが、従来号機と異なり、SRBA分離前に作動し、機体の姿勢制御を行っている。この間のロケットの姿勢は、概ね正常の範囲に制御されている。また、SRB−A燃焼終了までの間のロケットの加速度は、ほぼ計画どおりであることから、第1段エンジン及び2本のSRB−Aが発生した推力は正常であったと考えられる。一方、右側のSRB−Aのノズルの向きのデータは、打上げ後約68秒以降、一瞬、計測範囲の上下限値に振れた後、計測範囲の下限値を示していることから、ノズルの向きを計測する信号に異常が発生したものと考えられる(図2−2−1)。
 4本のSSBは、58秒間正常に燃焼し、第1段機体から正常に分離している。打上げ後約105秒から107秒にかけて、SRB−Aの分離に係る信号が第1段機体に搭載された計算機から順次送信され、左側のSRB−Aは正常に分離したが、右側のSRB−Aの分離は失敗した。
 左側のSRB−A分離以降は、右側のSRB−A分離失敗による高度及び速度の不足を補うため、第1段機体に搭載された計算機により飛行経路の修正が試みられ、SRB−Aが分離していないものの安定した姿勢制御が行われている。なお、この間の飛行経路は、右側のSRB−Aが分離しなかった場合の飛行経路解析結果とほぼ一致している。
 上部衛星フェアリングの分離については、SRB−Aが分離しなかったことによる高度及び速度の不足から、シーケンス開始時刻の補正が行われ、計画より遅れているものの、分離信号が送信され正常に分離している。
 また、第2段エンジン着火前予冷の開始についても、高度及び速度不足から、シーケンス開始時刻の補正が行われた。一方、第2段エンジンの着火については、第1段エンジンの燃焼終了をもって行われ、第1段エンジンが計画通り燃焼終了したため、結果として第2段エンジンは着火前予冷不足で始動することとなった。このため、酸素流入遅れによるエンジン始動遅れ及び混合比低下等のため、第2段エンジンは始動時の振動等が従来号機より大きく、かつその持続時間が長くなっている。これらを除いて、指令破壊信号送信時まで、第2段エンジンは、ほぼ安定して作動している。
 第1段機体と第2段機体の分離時には、右側のSRB−Aの分離失敗による重心のずれの影響で、機体どうしが2回接触していると思われる衝撃が検知されている。
 第1段機体の分離後の第2段機体の姿勢制御に、異常は認められない。

(3) 打上げ後約62秒以降に発生した異常事象の詳細
 H−2Aロケットの打上げ後約62秒以降に、右側のSRB−Aの温度センサ等に異常が見られている。これらの異常事象を整理すると次のとおりである。

1) 固体ロケットブースタの温度センサ等の取付位置
 SRB−Aノズル部周辺の拡大図は、図2−2−2に示すとおりである。SRB−A内の温度センサ等の取付場所は、図2−2−2、図2−2−3に示すとおりである。

2) テレメトリデータの解析
 テレメトリデータの解析結果より、打上げ後約62.2秒以降、右側のSRB−Aに発生した異常に起因して影響を受けたと見られるデータが取得されている。

1 ノズル温度の上昇
 打上げ後約62.2秒に180度の位置に設置されているノズル温度センサ(以下「ノズル温度センサ1」という。)の温度(以下「ノズル温度1」という。)が上昇している。さらに、打上げ後約62.9秒に計測範囲の上限値を示し、その後約64.2秒に計測範囲の下限値を示している(図2−2−4)。
 ノズル温度センサは、設計上、センサまたはその信号線が断線した場合に計測範囲の上限値を示す。実現象か断線かの直接的な判別は困難ではあるが、ノズル温度1は、打上げ後62.2秒から62.7秒まで温度が上昇し、その後、約64.2秒にはセンサまたはその信号線が短絡したものと考えられる。

2 サーマルカーテン温度の上昇
 打上げ後約63.0秒に0度付近に設置されているサーマルカーテン温度センサ(No.1及びNo.2)の温度が共に上昇している。その後、打上げ後約64秒に、両センサとも計測範囲の下限値を示している(図2−2−5)。
 計測範囲の下限値の出力は、サーマルカーテン温度センサの設計上、センサまたはその信号線が短絡した場合に発生することから、サーマルカーテン温度は、打上げ後約63.0秒から約64.7秒まで温度が上昇し、その後、センサまたはその信号線が短絡したものと考えられる。

3 ノズル歪データの異常
 打上げ後約63.7秒に0度の位置に設置されているノズル歪センサ(No.1及びNo.2)のデータが共に0となっている。0出力は、ノズル歪センサの設計上、センサまたはその信号線が短絡した場合に発生することから、ノズル歪センサまたはその信号線が短絡したものと考えられる。
 なお、ノズル歪センサの信号線は、ノズル上180度の位置で1ヶ所に集まっている。

4 ノズル温度データの異常
 打上げ後約64.6秒に45度、270度、279度の位置にそれぞれ設置されている温度センサのデータが計測範囲の下限値を示している。
 計測範囲の下限値の出力は、ノズル温度センサの設計上、センサまたはその信号線が短絡した場合に発生することから、これらの温度センサまたはその信号線が短絡したものと考えられる。
 なお、これらの温度センサの信号線は、ノズル上180度の位置で1ヶ所に集まっている。

5 ノズル駆動用電池データの異常
 打上げ後約66.2秒にアクチュエータ駆動用電源電圧のデータが280ボルトから0ボルトを示している(図2−2−6)。さらに、アクチュエータ駆動用電池起動確認のデータがHigh(起動信号ON)からLow(同OFF)になっている。
 0ボルト及びLowの出力は、設計上、機器またはその信号線が短絡した場合に発生することから、機器内または機器間の配線が短絡したものと考えられる。

6 アクチュエータ系データ及び燃焼圧力センサデータの異常打上げ後約67.6秒にNo.1アクチュエータ駆動用パワートランジスタ温度が上昇し始め、その約1秒後に計測範囲の下限値を示している(図2−2−7)。
 また、これと前後して、アクチュエータ関係信号(消費電流モニタ、操舵信号モニタ、ポジションフィードバック・モニタ等)のデータが連続して0となっている。
 さらに、3つある燃焼圧力センサのデータが相次いで0となっている(図2−2−8)。
計測範囲の下限値の出力及び0出力は、設計上、センサまたはその信号線が短絡した場合に発生することから、センサまたはその信号線が短絡したものと考えられる。

7 電力分配装置系データの異常
 打上げ後約69.3秒から約69.9秒にかけて、電力分配装置系に異常が発生している。これらの異常は、設計上、機器またはその信号線が短絡した場合に発生することから、いずれもセンサまたはモニタ信号線の短絡と考えられる。
 なお、この段階で右側のSRB−Aの全てのテレメトリデータが異常となっている。

8 第1段機体での事象
 打上げ後約63.7秒に第1段エンジン部及びエンジンカバー外部圧力のデータが0となっている。これは、同一の電源であるノズル歪の出力が0となった事象と同時刻であることから、これらの相関は強いと考えられる。
 打上げ後約68.4秒に、第1段コントロール電池の電圧が低下するとともに、電流が計測範囲の上限値となっている(図2−2−9)。第1段コントロール電池は、電力分配器により、右側のSRB−A内の一部の機器に電力を供給していること、さらに、右側のSRB−Aの電動アクチュエータ制御装置のオフ及び圧力センサのオフに伴って、同電池の電圧は段階的に復帰し、正常に戻っている。このことから、第1段コントロール電池の異常は、右側のSRB−Aの機器の配線が短絡したことによる影響と考えられる。


←前へ 次へ→

ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ