国の研究開発全般に共通する
評価の実施方法の在り方についての大綱的指針


第4章  評価の在り方


1.基本的考え方

  各評価実施主体においては、研究開発評価を適切に実施するために、予め評価対象、 評価目的、評価者、評価時期、評価方法及び評価結果の取扱いをそれぞれ明確にした評 価の具体的な実施方法を定めるとともに、評価実施体制の充実を図るものとする。

  その際、特に以下の点に留意するものとする。

    [1]評価基準・過程の明示
      評価がどのような「物差し」すなわち基準によって行われるのか、また、どのよう な過程を経て行われるのかについて、外部からもその実態がわかるよう、透明性のあ る明確な評価の実施方法を定めることが必要である。そしてこれにより、公正さ・信 頼性、継続性を確保し、実効性のある評価を実施しなければならない。また、研究開 発をめぐる諸状況の変化等に対応して、評価の実施方法についての見直し・改善にも 努めるなどにより、評価のやり方に柔軟性を持たせることが重要である。

    [2]「外部評価」の導入
      評価者の選任に当たっては、評価の客観性・公正さ・信頼性を確保するために、第 三者(注)を評価者とした外部評価を導入することが必要である。また、この評価者 には、評価対象の研究開発分野及びそれに関連する分野の専門家のほか、必要に応じ てこれら専門家以外の有識者等を含めることが重要である。なお、評価の対象となる 研究開発活動の実情に応じ、この外部評価を適切に実施する上で必要がある場合には、 評価実施主体又は被評価主体に属する者が評価に参画することも、適切に判断される べきである。

    (注)評価実施主体にも被評価主体にも属さない者を言う。

    [3]「開かれた評価」の実施
      国の研究開発の実態について国民によく知ってもらい、その理解を得るとともに、 評価の透明性・公正さを確保するため、評価結果等評価作業の過程で得られた諸情報 を積極的に公開することが必要である。

    [4]「研究開発資源の配分への反映」等評価結果の適切な活用
      評価結果を十分に活用し、研究開発の一層の活性化等を図る必要がある。このため、 画一的・短期的な視点にばかりとらわれぬよう留意しつつ、評価結果を研究資金等の 研究開発資源の重点的・効率的配分、研究開発計画の見直し等に適切に反映すること が必要である。このことは、柔軟かつ競争的で開かれた、より創造的な研究環境の醸 成に寄与し、活力にあふれた研究開発を推進することにもつながるものである。

      なお、大学等における研究に係る評価の実施に当たっては、上記の基本的考え方を踏 まえつつ、研究者の自主性の尊重など学問の自由の保障、研究と教育との間の有機的関 係とバランスの重要性、多様な萌芽的研究が評価を通じて選択され、重点配分の対象に 成長していくという研究発展の体系など、その特性に十分配慮することが必要である。

2.評価実施上の共通原則

  上記の1.の基本的考え方に留意しつつ、各評価実施主体が具体的な評価の実施方法 を定め、評価を実施する際に、共通的に踏まえるべき原則は以下の通りである。

(1)評価対象の設定

  すべての国の研究開発課題又は研究開発機関が本指針に基づく評価の対象となるもの であることを踏まえつつ、各評価実施主体は、何を評価対象とするかを、明確かつ具体 的に設定するものとする。

  複数の評価実施主体(例えば、ある研究開発機関とその所管省庁)が、それぞれ同一 の評価対象について異なる目的で評価を実施する場合もあり得るが、そのような場合に は、作業の重複を避けるため互いに十分な連携を図り、評価の結果が、効果的に活用さ れるようにすることが必要である。

  なお、本指針は、研究者の業績評価を直接の対象とはしないが、研究開発の成否は研 究者の活動に大きく左右されるものである。このため、研究開発課題又は研究開発機関 の評価を実施するに当たっては、研究開発に従事する研究者についても、必要な範囲で 適切に評価することが肝要である。

(2)評価目的の設定

  各評価実施主体は、それぞれの使命や任務に応じ、評価結果をどのように活用するか を十分に念頭に置きつつ、研究開発課題の評価については、その目的、性格、態様、規 模、期間、分野等に対応して、また、研究開発機関の評価については、その設置目的、 研究開発分野等に対応して、具体的な評価目的を明確に設定するものとする。

  具体的な評価目的は、国立試験研究機関等における研究開発であれば、それぞれの使 命や任務に応じて、将来を見据え、社会的・経済的ニーズに対応したものであるか、特 定分野の実用技術開発に寄与するものであるか、創造性豊かな研究の育成が図られてい るか、民間における十分な取組が期待できない分野であるか、費用対効果のバランスが 取れているか、研究開発予算の効率的執行が行われているか、等の視点を考慮して設定 されることが適当である。同様に、大学等における研究であれば、学問的意義の視点を 中心としつつ、研究の分野、目的、性格などに応じて、社会・経済・文化への貢献、研 究予算の効率的執行等の視点を考慮して、評価目的が設定されることが適当である。

(3)評価者の選任等

  評価者の選任に当たっては、当該分野に精通しているなど、十分な評価能力を有し、 かつ、公正な立場で評価を実施できる者かどうかを勘案する必要があり、適切な外部専 門家(注1)を評価者とすることを原則とする。なお、評価の対象となる研究開発活動 の実情に応じ、評価を適切に実施する上で特に必要がある場合には、評価実施主体又は 被評価主体に属する者が評価者に加わることも、適切に判断されるべきである。

  大規模かつ重要なプロジェクトや、社会的関心の高い研究開発などについては、評価 者に外部有識者(注2)を加えるとともに、国民各般の意見を評価に反映させることが 必要である。
  また、研究開発機関を対象として行う評価については、研究開発をとりまく諸情勢に 関する幅広い視野を評価に取り入れるために、外部有識者を加えることが適当である。

  評価者には一定の明確な在任期間を設けるとともに、原則としてその氏名を公表する など、評価者の選任等に係る適切な仕組みを整備するものとする。

(注1)評価対象の研究開発分野及びそれに関連する分野の専門家で、評価実施主体にも被評価主体にも属さない者、以下同じ。
(注2)評価対象とは異なる研究開発分野の専門家その他の有識者であり、評価実施主体にも被評価主体にも属さない者。以下同じ。

(4)評価時期の設定

  研究開発課題については、原則として事前・事後の各時期に評価を行うものとする。 また、5年以上の研究開発期間を有するものや、研究開発の実施期間の定めがないもの については、各評価実施主体が、当該研究開発課題の内容・性格等も考慮しつつ、例え ば3年程度を一つの目安として、定期的に中間評価を実施するものとする。

  また、研究開発には、それが一応終了したとされた後、一定の時を経てから副次的効 果を含め顕著な成果が確認されることも稀ではない。このため、学会等における評価や 実用化の状況を適時に把握し、追跡評価を行うことを考慮する必要がある。

  研究開発機関については、研究開発をめぐる諸情勢の変化に柔軟に対応して、常に研 究開発の活性化が図られるよう、各評価実施主体が、例えば3〜5年程度の期間を一つ の目安として、当該機関が行う研究開発活動の内容・性格等に応じて適切な期間を設定 し、定期的に評価を実施するものとする。

(5)評価方法の設定

  評価を適切に実施するためには、評価目的や評価対象に応じて、具体的な評価方法 (評価項目、評価基準、評価手続、評価手法)を明確に設定することが必要である。そ の際、誰が評価方法を設定するのか、即ち、評価実施主体か、評価者か、あるいは両者 の協議によるのかを明確にすることは、評価についての国民の理解を得る上で重要であ る。

  評価には多面的な視点が重要であり、評価の目的や対象に応じて適切な評価項目を設 定するとともに、各評価項目については、できる限り具体的な評価基準を設定するなど して、その明確化を図る必要がある。また、評価者は、評価結果を出すに当たって各項 目について検討を加え、全体について総合的に判断することが必要である。   なお、評価項目の設定にあたっては、評価対象の国際的、国内的な研究開発の現状の 中での研究水準や、民間分野において著しい技術の進展が見られる分野にあっては、民 間における研究開発の状況の中での位置付けなどについての評価を可能にする評価項目 を採り入れることも重要である。

  また、評価手続きの一つである評価の形式についても、委員会形式での合議制による 評価や、単独又は少数の評価者に判断を委ねる評価など、評価対象それぞれに応じた適 切な方法を採用することが必要である。

  更に、評価の結果について被評価者がよく理解することも重要で、特に中間的評価の 場合は、その後の研究開発活動に関する良き助言とすることも有益である。その意味で、 評価の過程において、評価者と被評価者の間で意見交換を行うことは、評価をより的確 なものにするとともに、評価に対する被評価者の理解を深める上でも有効であり、でき るだけこのような機会をつくるよう努めることが適当である。

(6)評価結果の取扱い

    [1] 評価結果の研究開発資源の配分への反映等適切な活用
      各評価実施主体は、評価の目的に照らし、研究開発課題又は研究開発機関に係る評 価結果を適切に活用する責務を有している。従って、それぞれが責任を有する範囲で、 研究開発の意義・目的、目標、手法等の変更、研究資金や人材等の研究開発資源の配 分等の見直し、研究支援の方法の検討、研究開発計画の適正化、個々の研究開発課題 を包括する研究開発制度の改善、研究開発機関の運営の改善などに適切に反映するも のとする。また、評価の結果が適切に反映されているかどうかについて、フォローア ップを行うことも必要である。

      更に、各省庁は、国の研究開発が、全体として科学技術基本計画に定める「研究開 発推進の基本的方向」に沿った形で推進されるべきこと、そのための重点的・効率的 な資源配分等が求められていることにかんがみ、各評価実施主体が行う各種の評価の 結果を集約するなどにより、それらを、各省庁が実施する研究開発全般を効果的に遂 行するために、積極的に活用することが重要である。

    [2]   評価結果の公開
      国費による研究開発の実状については、機密の保持が必要な場合を除き、個人情報 や企業秘密の保護、知的財産権の取得等に配慮しつつ、評価結果及びこれに基づいて 講ずる又は講じた措置を含め、一般に公開することが必要である。そのための方法と しては、例えば政府の刊行物として定期的に一括して公表したり、インターネットを 利用して公開するなど、国民に分かりやすい形で積極的に情報提供を行うことが必要 である。

    [3]   評価結果等の被評価者への開示
      評価の透明性を高める観点からも、原則として評価結果及びその理由が被評価者に 開示されるよう、適切な措置を講ずる必要がある。

(7)評価実施体制の充実

  各評価実施主体が本指針を踏まえ評価を実施していくためには、相応の体制を充実す ることが必要不可欠である。
  このため、評価実施のための具体的な仕組みを定め、これを公表することが必要であ る。また、評価のための参考資料となる論文数、論文の被引用度数、特許数、特許等の 実施状況、国際標準への貢献度、学会賞、招待講演数等についてのデータベースを構築 するとともに、研究者が円滑に各種評価活動に参画できるようにするために適切な支援 措置を講ずることを怠ってはならない。さらに、評価の準備や支援を行う要員の確保や、 評価実施のための所要の予算の確保を図るなど、研究評価の実施・支援のための体制の 整備を図る必要がある。

3.留意すべき事項

(1)評価に伴う過重な負担の回避

  研究開発の評価を行うに当たっては、評価者・被評価者双方において、関係資料の準 備やその検討など、一連の評価業務に係る作業が必要となるが、評価は、研究開発活動 の効率化・活性化を図り、より優れた成果を挙げていくためのものであり、評価に伴う これらの作業負担が過重なものとなり、かえって研究開発活動に支障が生ずるようなこ とにならないよう、十分な注意を払う必要がある。
 なお、各研究開発機関が、あらかじめ自らの研究開発活動について十分な自己点検を 実施し、適切な関係資料を整理しておくことは、外部評価を効果的に実施するとともに、 評価に伴う負担の集中を回避する上でも有益である。

(2)研究開発の性格等に応じた適切な配慮

  本指針が対象とする研究開発は広範かつ多様なものであり、個々の研究開発が持つそ れぞれの性格(基礎研究、応用研究、開発研究(技術の開発を含む。)、試験調査等) を十分に考慮し、研究開発の多様性が損なわれることのないよう、それぞれに適した評 価を行うことが必要である。
  特に、基礎研究については、達成目標が立て難く、その成果は必ずしも短期間のうち に目に見えるような形で現れてくるとは限らない。また、長い年月を経て予想外の発展 を導くものも少なからずある。従って、このような研究については、画一的・短期的な 視点から性急に成果を期待するような評価に陥ることのないよう留意することが必要で ある。
  また、成果を比較的見極めやすいと思われる研究開発活動であっても、基礎研究、応 用研究、開発研究等の各要素が混在するなど、単純な区分が困難な場合も多い。個々の 研究開発の内容を見極め、その特性に応じた柔軟な評価を実施することが重要である。 柔軟性を欠いた画一的な評価によって発想の斬新さや創造性などが軽視され、結果的に 研究開発の内容が平凡なものに偏ってしまうことのないよう十分に配慮しなければなら ない。
  更に、研究開発の失敗から学ぶということも評価の重要な側面であり、評価が野心的 な研究開発の実施を阻害するような結果を招かないことが必要である。また、研究活動 には、それ自体、未知なるものの探求・創造に向けた高度に知的な営みであり、文化的 な活動としての側面を有しているものもあることに留意することが重要である。

(3)数値的指標の活用

  研究開発の成果として発表された論文数、それら論文の被引用度数、特許数、特許等 の実施状況、国際標準への貢献度などを用いた定量的評価手法には、一定の客観性があ り、評価の参考資料として有効に活用することができる。一方で、このような数値的指 標は、現時点では必ずしも十分ではない面があり、数値的指標ばかりを重視した評価に 陥るようなことのないよう留意しなければならない。評価とは、最終的には評価者によ り、定量的側面と定性的側面を総合的に判断して行われるべきものである。

(4)試験調査や短期間では業績を上げにくい研究開発の評価

  試験調査等(注)は、各種の研究開発活動の基盤整備的な役割を担うものであり、個 々の業務の性格を踏まえ、一般的な研究開発活動の評価の際に使用される評価指標、例 えば論文数や特許数などとは異なる評価指標を用いる配慮が必要である。
  また、例えば新品種の開発等に見られるように、短期間では論文、特許等のかたちで の業績を上げにくい研究開発分野についても、その成果を評価するに当たっては、個々 の業務の性格を踏まえた適切な評価指標を用いる配慮が必要である。

(注)各種観測調査や遺伝子資源の収集・利用、計量標準の維持、安全性等に関する試験調査、技術の普及指導など相対的には定型的、継続的な業務

(5)人間の生活・社会及び自然との調和

  科学技術の推進に当たっては、人間の生活・社会及び自然との調和等を図ることが重 要となる場合が少なくない。このような研究開発活動について評価する場合、評価目的 や評価方法の設定及び評価者の選任にあたり、人文・社会科学の視点も十分に織り込ま れるよう留意しなければならない。



【NEXT】第5章  研究開発課題の評価
【PREV】第3章  評価実施主体、研究者及び評価者の責務
大綱的指針の目次