《観測研究の縮小が危惧される観測・監視体制の維持への対応》
(実施状況等レビュー結果及び外部評価結果を踏まえ、今後の考え方や取組み等についてご意見をお願いします。特に、外部評価で指摘された下記の項目について、どのように反映していくべきかなどについてご意見をお願いします。)
- ● 省メンテナンス機器への積極的更新による観測の省力化を進める。関係機関とのデータ交換による観測データの活用を積極的に進める。関係機関との人事交流の可能性について検討する。
- ● 観測の効率化という面からは大学の準基盤観測網の基盤化が考えられるが、基盤化に伴う費用の問題と、大学でのポスト削減の問題があるために、すぐに実現できるとは考えられない。大学の観測網の維持に関しては、技術職員の確保による研究者の負担軽減が重要であるが、人件費削減の流れの中で技術職員の確保も困難になりつつある。抜本的な対策にはならないが、機器の更新によるトラブルの削減、機器の共通化によるノウハウの共有などが考えられる。いずれにしても、大学単独での努力では限界があるので、大学間及び大学と他の研究機関との人材交流・活用も視野に入れた広範な検討が必要と思われる。
- ● 地震活動や地殻変動、地磁気、地下水等のモニタリングは地殻の状態を常に理解するためには重要で、地震予知研究には欠かせない。予算が縮小する中、もちろん常に無駄をなくす努力を行い、不要な観測をなくす努力は必要である。しかし、観測研究の規模を縮小せざるを得ない現実の中で、可能な限り、数多くの観測点で空間的に均質なデータを常時取得できるように努力すべきであろう。観測研究の規模の縮小をできる限り阻止したいところである。
- ● Hi-net、GEONETなど業務官庁による定常観測網が充実し、基礎研究資料の入手には十分と考えられているが、地震予知、火山噴火予知のために重要と思われる地域での観測は、大学の観測網がなければ必要な観測精度が得られないのが現状である。外部評価で指摘されるまでもなく、次期計画では老朽化した大学の研究観測網の更新・維持にも十分な予算化が図られるべきである。
基盤観測網の蓄積データはやっと10年程度である。「地震発生プロセス」の1循環を理解するためには、この10年間という観測期間では不十分であることは明白である。地震発生機構の解明のために基盤観測網の継続維持は必要不可欠である。
大学の火山観測網には、学部や研究科附属の小規模な施設によって支えられているものが多い。以前のような事業費による支援が得られなくなった状況で、個々の施設の自助努力だけでは、将来にわたって火山観測網を維持し、研究に役立てていくことが困難になるものが出てくると考えられる。文部科学省からの財政的な支援を得ることができなければ、活動的な火山を除いて、いくつかの大学では火山観測網を整理縮小する必要が出てくると考えられる。そのような状況で、将来の火山観測研究を担う研究者や技術者を育てるためには、特定の活動的な火山に「野外実験室」のような、全国の大学が共同で教育・観測研究を行う場を設ける必要があると思われる。
一方、国民の安全を守るために必要な定常的な火山監視観測については、気象庁などの業務官庁が責任をもって継続的に実施する必要がある。また、火山噴火予知研究を進展させるために、このような業務観測のデータは研究者が容易に使用することができるようにすべきである。
- ● 地震予知研究と火山噴火予知研究において観測点、観測機器等の研究資源の共有化をはかり、効率的な研究資産の運用を目指す。
大学における観測研究については、その研究目的を明確にした観測計画を立案し、その計画に優先度を付けて優先度の高いものから実施する。研究目的を達成した観測点については順次閉鎖してゆく。一方、閉鎖した観測点の資源を活用して、新たな観測研究に目指した観測点を新設するスクラップ・アンド・ビルドの徹底をはかる。但し、地震予知研究については、防災科学技術研究所や気象庁と連携しながら、基盤的な観測データを集積するために大学が運営する準基盤観測網を当面維持管理する。火山観測点については、気象庁の火山監視にも利用されている観測点の一部については、気象庁の監視体制が整うまで観測を維持する必要がある。これら観測点については廃止する際には関係機関と協議する。
観測体制の効率化を図るため、これまで個別に設置していた地震、測地、地球電磁気等の観測点を、観測環境の許す限り統合し、多項目観測点に改修する。これにより、回線、用地の共用をおこない維持経費の削減と共に観測点保守及び維持のための人的資源の効率的運用を行う。
- ● 草津白根火山観測所の地震観測データについては気象庁に流しており、監視業務やデータのアーカイブについては、気象庁との連携をますます強める必要がある。火山にとって、基盤的な観測設備をさらに拡充することは重要ではあるが、一方で大学の設備費については、ここ数年厳しい状況が続いており、現存の機器を維持することも困難な状況になっている。今後、監視観測のための設備の維持および拡充に関しては、外部資金(文部科学省以外)の獲得を視野に入れる必要がある。
- ● 定常的な観測網の維持については、気象庁、防災科研、国土地理院等の体力のある機関に集約し、現在のようなデータの公開体制を維持し、拡充していくべきである。火山についても、気象庁の監視観測網の拡充とそのデータ公開が必要である。大学の定常的な役割としては、明確な目的をもった研究観測と、全国規模の観測網のデータを用いた各地域の地殻活動の(24時間体制ではない)監視が挙げられる。
- ● 観測の効率化はすでにできる範囲でなされており、研究目的に沿った最低限の観測で運用しているのが実情である。また、火山における大学の観測網は気象庁にデータ提供を行っているように火山監視体制の一翼を担っており、これ以上の整理・縮小、機材の老朽化が進行すれば、火山における基盤観測そのものが崩壊する。最低でも現在の観測は維持できるような財源の確保をお願いしたい。火山観測に限らないが、この種の研究は大学の研究者の興味だけで行われているわけではなく、それぞれの地域の要請があって行われている部分は大きい。これを国策ではなく地方の問題とするならば、地方への新たな財源の移譲をお願いしたい。現在以上の観測研究の効率化を求めるのであれば、先に述べたように個々の大学の枠組みを離れた新組織に移行するしかない。
外部評価でも指摘されているように、地震や火山噴火を理解し、適切な防災・減災対策につなげていくための研究に対する社会的要請は極めて高いということであるが、大学関係の観測設備等に関する予算の増額は認められていない。基盤的調査観測網の整備により、数十キロメートルスパンの地震観測網が整備され、プレート境界型地震等を中心に大きな成果を上げた。断層のサイズは小さい内陸地震、およびプレート境界地震のより精細な解明においては、現在の観測網では密度が足らず、老朽化した機器を用いてかろうじて研究レベルが保たれているという現状である。地震に関する研究をより一層進めるためにも、新たな設備が必要である。
- ● 先端的な研究目的の観測態勢を維持できるような体制作りが必要であると考える。突発的な災害に対しても同様である。ただし、重要な点は先端的な、あるいは突発的な研究の必要性が出たときにはじめて、人員・設備も含めたハード・ソフトを整えるのでは遅いので、この点は特に重要であると考える。
研究者自らが観測・監視の最前線で努力を続け、成果を挙げ続け、納税者である国民の理解を得る以外に方策は無いのではないかと考える。ただし、当然のことながら、限られた年度で成果をあげないと無意味であるということが地球相手の研究の場合、この判断は早計であるということを国民の共通認識として必要であると考える。
- ● 大学などが観測態勢を維持できなくなったときに、必要であれば別の国の機関がスムーズに代替観測を行うという体勢が必要かもしれません。
本当は観測態勢自体の維持よりも得られたデータの維持管理などの活用の部分で、これまでの実施者にしか出来なさそうなことをどう受け継ぐかという体勢の方が重要なのではないかと感じます。
- ● この問題は、火山噴火予知計画に参画する大学において特に深刻である。
- 1) 地震調査研究推進本部の中に火山の観測研究を位置づけるか、或いは火山の調査研究推進本部に相当する組織を作って、火山の基盤観測を整備する。
- 2) そのうえで、各機関の役割分担を明確にし、大学の観測はターゲットをより明確にした研究観測や予知手法開発のための試験観測に移行する。
- 3) また、大学間の連携をさらに強化して、いくつかの特定の火山に資源を集中して共同観測研究を実施する。
などの対策・対応が必要であると考える。
また、地方自治体や火山砂防などとの連携も模索する必要があると思われる。さらに、長期的には国立地震火山研究所のような統合組織の検討も必要であろう。
- ● 地道な観測の継続が予知研究にとって最も重要であると考えられるので、予算の範囲で、粛々と観測を続ける。予算面の要因で観測の縮小化が現実になった場合には、南西諸島域における観測を維持する方向で縮小化を検討する。
- ● 研究上の要請に柔軟に対応すべく、飽くまでも研究機関が主体的に関与した観測網の維持・運用体制を堅持すべきである。
- ● 明瞭な科学目標に基づいて、観測研究は着実に実施する方針である。
- 観測・モニタリングで明らかにされる事象と地震・火山噴予測の高度化への貢献をアピール
- 予測モデルの高度化に関しては、精緻な地殻構造・媒質モデルの基づく予測シミュレーションが必要であり、予測シミュレーションの高度化のためには長期観測データを用いたデータ同化が不可欠であることを強調・実証
- ● 国立大学や研究機関の法人化に伴い、運営費交付金の運用が個別の法人に任されている現状では、運営費交付金による国の「地震や火山の観測研究の計画」を実現するために困難が生じている。
法人ごとの努力は当然すべきことであるが、個別法人への予算削減の圧力下の現状では限界があるので、国民の安全を確保する点で不可欠な観測・監視体制の維持に必要な費用は、法人の運営費交付金とは別の国の予算の仕組みによって運営し、長期的な取り組みを行えるようにすべきである。
- ● 地震調査研究のための基盤観測網の的確な維持
長期的に品質の確保された観測データを蓄積するという意味では、基盤的観測網について、最低限現状の機能を確保した上で安定的に観測を継続することがなによりも重要である。そのためには、観測機器の計画的な更新を的確に進めるとともに、データの中断や消失にも備えるためのシステム的な補強も進める必要がある。これは、レビューでも指摘されている。「特に、将来にわたって安定した観測を継続し、良質なデータの生産と蓄積を行っていくことは、本観測研究計画全体にとって不可欠なことであり、推進本部によって進められている基盤的調査観測の役割は極めて重要である。」(「地震予知のための新たな観測研究計画(第2次)の実施状況等のレビューについて」
.実施状況、成果及び今後の展望、2.地殻活動の予測シミュレーションとモニタリングのための観測研究の推進、2.4.今後の展望)
((上記の理由))
この10年間我が国において整備されてきた高感度地震計、広帯域地震計、強震計、GPS連続観測点等の地震調査研究のための基盤的観測網は、世界的に見てもトップクラスの質・量・密度を誇るものとなっている。これらの観測網から得られたデータに基づいて、プレート境界における長期的スロースリップ、深部低周波地震と短期的スロースリップ、相似地震の繰り返しとアスペリティの分布など、地震学的・地球科学的に重要な知見が積み重ねられてきた。
しかし、大地震の発生サイクルのタイムスケールから見れば、10年はごく短い期間でしかない。例えば、十勝沖地震(2003)についてみれば、アスペリティの破壊から余効変動の継続、隣接域のマグニチュード7クラスの地震の誘発など、地震サイクルにおける重要な課程を追跡することができたが、未だに固着の回復に転ずる時点を観測するに至っていない。東海スロースリップイベントについては、イベントの開始から収束に至る過程を追跡することができたが、イベント開始前、収束後の状態についてのデータ蓄積期間が短く、何が定常であり、なにが非定常なのかと言った議論に決着をつけるための材料として、観測データの蓄積がなお必要な状況である。
長期的に品質の確保された観測データを蓄積するという意味では、基盤的観測網について、現状の機能を確保した上で安定的に観測を継続することがなによりも重要である。これは、プレート境界、スラブ内、浅い地殻内地震それぞれの発生メカニズムを解明することためにも、発生過程の様々な段階において現れる事象を検出する手段として、基盤的観測網の維持が不可欠である。引き続き、地震調査研究推進本部の次期総合基本施策において、観測網の維持、特に運用開始から10年が経過した観測機器の更新について、推進する旨の文言が含まれることを期待する。
- ● 基盤的観測網を補完する観測の充実
既存の基盤的観測点を維持するだけでなく、これらを補完する観測について、基盤的観測網と統合的に観測データを処理するための枠組みを設けるべきである。基盤的観測網を補完するものとしては、「空間的補完」「観測項目の補完」を必要に応じて行う必要がある。
((「補完」の内容について))
観測網の補完については、従前の建議でも、基本的方針の中で「基盤的調査観測としての高感度・広帯域地震観測及びGPS観測に加えて、地殻活動モニタリングに有用なその他諸観測を実施し、日本列島及びその周辺域の地殻活動モニタリングの高度化を図る。」とされている。その中で、空間的補完については「大地震発生が想定される特定の地域における地殻活動モニタリングの高度化も重要で、高密度諸観測を一層整備する必要がある。」とある。一方で、それ以外の局地的な観測網のひとつである大学の高感度地震観測網については、「推進本部の基盤的調査観測計画との調和を図りながら、大学が担うべき観測研究へ一層重点を移していく必要がある。」としている。このような流れからも、局所的な観測網については、それぞれの重要性に応じて基盤的観測網を補完する観測網として定常的な観測を維持するか、随時データを取得する観測網として維持するかなどの判断が必要となろう。
他方、特に注目すべき現象が観測されるなど、地殻活動の詳細な解明を行うべき地域については観測点密度の増加や観測項目の追加など、観測強化が必要となるであろう。現建議のレビューにおいても、「東海地域や、東南海・南海地域を始めとする、特定の地域における地殻活動のモニタリングについても、地殻活動の現状把握の高度化等を目指した、推進本部による各種の重点的調査観測によって、着実な進展がみられている。」と、推本による重点的調査観測の成果を評価している。
観測研究資源の効率的配分については、かつての「地震予知の推進に関する計画の実施について(建議)」をうけて地震予知連絡会が特定観測地域および観測強化地域を指定し地震予知を目指した調査研究が進められてきたが、現行の「地震予知のための新たな観測研究計画(第2次)」において、「地震予知連絡会が指定したこれまでの特定観測地域等の在り方を抜本的に見直す必要がある」と指摘されたところである。これを受けて地震予知連絡会ではワーキンググループを設けて、現在の地震予知連絡会の目的である、学術的な情報交換にもっとも適した形での在り方を検討している。基盤観測網等が整備された新しい状況の中で、地震予知を目的とした基盤観測網とそれを補完する観測の在り方について、測地学分科会において改めて議論されるべきである。
- ● 観測データの共有と一元的解析の実現(GPS連続観測データなど)
限られた予算、人材等の資源の中で現在の観測水準を維持するには、可能な限り効率的に観測網を構築・運用するとともに、得られたデータを共有する仕組みを作ることが必要である。
現在、地震動観測については、地震調査研究推進本部の方針の下で、各機関のデータを収集・共有化されるとともに、気象庁が統一的に解析を行い震源(一元化震源)を決定する仕組みが整備されており、地震研究の推進に大きく貢献している。GPS連続観測等の観測データについても、このような仕組みがあると有効だと思われる。
例えば、各機関が地域ごとに個別に観測を実施して独自に解析するのではなく、各機関が分担して広い範囲にわたり過不足のないように観測網を構築し観測データを共有するとともに、結果を直接に比較できるように、解析については担当の機関がそれらのデータを統一された手法に基づいて実施するといったことが考えられる。
なお、国土地理院は、これまでGEONETで培ってきたGPS連続観測データの解析に関するノウハウを活用し、行政機関、大学、研究機関等が地域レベルで実施しているGPS連続観測のデータを提供してもらい、GEONETの解に整合する形で解析を行い、その結果を国内の研究者等に広く提供するサービスの可能性について検討しているところである。
- ● 地震観測においては、基盤的調査観測計画との調和を図っていくことが必要である。
火山観測においては、気象庁はこれまでどおり、火山活動の監視に必要な観測は継続して行なう。また、監視上、重要と思われる観測点については、大学等他の機関とも協力して気象庁へ分岐していただき、監視に活用していきたい。
- ● 定員が縮減されているなか、極力観測機器の省力化、自動化に努めている。
- ● 地震、火山それぞれについて現状と問題点について、計画の冒頭あるいは大項目1で明確に述べる必要がある。そのうえで、国として望ましい体制を提起すべきである。
- ● 業務的な観測を大学が担うことは不可能であり、その部分は当然のことながら業務官庁がきちんと対応すべきものである。一方で法人化後、大学では研究的な観測も縮小が懸念される。それを打開するためには現状を整理してより地域や観測項目を絞った重点化も一つの方策かもしれない。
- ● 地震の繰り返し期間を考えると、長期的な定点観測の実施は不可欠である。観測が新しい知見をもたらし続けている。長期的な観測の維持は最重要項目である。
- ● この問題は、火山噴火予知計画に参画する大学において特に深刻である。地震調査研究推進本部の中に火山の観測研究を位置づけるか、或いは火山の調査研究推進本部に相当する組織を作って、火山の基盤観測を整備する。そのうえで、各機関の役割分担を明確にし、大学の観測はターゲットをより明確にした研究観測や予知手法開発のための試験観測に移行する。また、大学間の連携をさらに強化して、いくつかの特定の火山に資源を集中して共同観測研究を実施する。などの対策・対応が必要であると考える。
また、地方自治体や火山砂防などとの連携も模索する必要があると思われる。さらに、長期的には国立地震火山研究所のような統合組織の検討も必要であろう。
- ● 既存の地震及び火山の観測・監視体制を可能な限り統合し、業務(と予算実施)の効率化をはかる。観測業務に従事する技官やSEなどの範疇で、良質な職員の確保が重要。又、予算交付のしくみが異なるので実際にできるかどうか分からないが、科研費などで大学の研究者が個別に観測機器を購入してデータを収集するような研究計画(注)に予算をつけることを制限し、その分を定常的に必要な地震及び火山の観測・監視体制にまわす。観測された記録は、一般の研究者はアクセスできるようなデータセンターでアーカイブ・公開する。
- (注)大学の研究者が個別に観測機器を購入してデータを収集するような研究計画では、往々にして"観測機器の設置や保持に時間が取られ、充分に研究時間が取れず、従ってあまり成果が出ていない"という結果になることがある。
- ● 一般にもわかるような当該観測研究の意義、重要性が示せなければ、維持する意味はないように思われる。
- ● 少人数専業ではなく、多人数ワークシェア体制、ネット活用分散処理によって、静穏な時期でも活発な時期でも体制が維持されるようにする。
- ● 観測研究のインフラである観測網の維持を重視するのであれば、予算的な裏付けを持った専従の独立機関を(研究機関とは別に)組織して、観測網の整備・運用他の事業を一体的に委ねた方が良いのかも知れない。
- ● 特に、観測・監視体制の維持が危惧されている火山分野について、資源を有効活用するための手段として、その効率的集中投下を提案する。火山噴火予知はマグマの動きを予知することが目標である。現在は、マグマ移動をモデル化するには観測データが徹底的に不足している。したがって、実際にマグマが動く貴重な機会を最大限に活用して、その時点の最高の技術を集中透過して、稠密かつ精密な観測事を行う事例を増やす必要がある。このため、マグマ移動(開始、推移、停止)の物理・化学的気候を明らかにするため、マグマの動きが確実に発生する見通しのある火山を全国でいくつか選び、地殻変動、地震、電磁気、地球化学、岩石学等々、各分野が連携して段階的に常時観測および活動開始後の集中観測を実施する,研究資源の効率的集中投下するプロジェクトを提案する。
膨大なリモセン資源を有するJAXA(ジャクサ)にも計画参加機関として加わってもらい、観測研究資源をさらに供給してもらうことも一案と考える。
地震研究における、推本にあたる国家的組織を火山噴火予知を対象として創設し、火山観測のための基盤観測の構築を図る。
- ● レビューのアンケートにも書きましたが、観測器械を外国製品に依存する割合が高くなってきたこと、観測のハードウェアを良く知る研究者の層が薄くなってきていることは、観測・監視体制の維持以前の問題として、検討すべき問題ではないかと思います。妙案があるわけではありません。
- ● 大学の場合、法人化後は地震・火山噴火予知研究計画の予算を特別扱いされにくくなっている。学内で予算配分の議論をしても、研究面のみの評価では遺伝子も宇宙も地震・火山も甲乙つけることはできない。従って大学としては、特色のある研究、あるいは世間にアピールでき、学生も集まってくるような研究に重点を置く傾向にある。当然、その研究に対する世間の関心事の高さや評価が予算配分の背景要因として考慮される。関心を高めてもらうために、地震・火山活動に関する日常的な情報とそれを理解する知識を繰り返し説明するのが効果的である。そのためにもメデイアの活用は不可欠である。
- ● 観測点の他項目化による、コストと労力削減は必須。これまではひとつの観測項目(たとえば地震)の観測点を設置するのに、複数の機関である程度の情報交換は行われ、その意味の重複を避ける努力がなされてきた。今後は、異なる項目(たとえば強震動と電磁気)の観測担当者間で、新規観測点を設置するときに相互に情報交換する場(データベース)等の整備が必要。
- ● 監視観測に関しては、気象庁をはじめ、防災科学技術研究所や国土地理院のような機関が担当すべきで、マンパワーに限りのある大学でそれを行うべきではないと基本的に考える。気象庁等の監視観測のためのスタッフをさらに充実させる必要がでれば、ポスドク問題も少しは解消される方向に行くのではないか。大学は研究的な観測に専念すべきである。
しかしながら、特定の活火山については、今後も大学の監視観測が必要であると思われるが、継続して大学が行う場合には、文部科学省以外の資金の獲得が必須である。
- ● 観測研究体制を維持・強化していく上では、上記の人材確保が最重要と思うが、予算確保に加えて、高度な技術を持った観測技術者による支援体制が必要である。現在の大学の中でそのような十分な支援体制を作ることは難しく、現状の不十分な支援体制ですら縮小している。支援体制が減少していくなかで、一方で若手研究者は競争環境下において業績を上げていくことを求められており、手間のかかる観測に関わるよりも、基盤観測等のデータを利用した研究等に流れていくのは、当然の選択である。観測研究実施体制を維持・強化していくには、研究開発機構(仮称)のようなものを作り、中核となって、国の施策としての予知研究(および地震調査研究)を推進してくことが良いのではないかと考える。大学利用研究所の強化で、対応できる問題ではない。
- ● 観測・モニタリングで明らかにされる事象と地震・火山噴予測の高度化への貢献をアピール。予測モデルの高度化に関しては、精緻な地殻構造・媒質モデルの基づく予測シミュレーションが必要であり、予測シミュレーションの高度化のためには長期観測データを用いたデータ同化が不可欠であることを強調・実証。
- ● 観測・監視体制をさらに一元化する。外部委託できる観測・監視業務を明確にし、また外部委託した業務を監督・指導できる人材を確保する。
- ● 大学の現場の状況としては、観測研究の縮小を余儀なくされる原因として、予算の確保がかなり難しくなっている(特に観測設備を最新の性能のものに更新できない)こともありますが、法人化以降も定員削減が強いられており、特に転出や定年で欠員が出たあとの補充がきかないことは深刻に捉える必要があるかと思います。観測研究は成果が出るのに時間を要するため、短期契約のポスドクが常勤の教員の役割を代わって行なうことには無理があり、各大学内での定員確保は死活問題になっています。そのためには現在の組織形態を維持する対応にとどまらず、新たな連携型組織を作るなどして、それに伴う定員増を獲得する積極策も考える価値があるのではると思います。
- ● 基盤観測網ができて、たかだか10年しか経過しておらず、大学の観測網ですら40年程度である。これでは、地震の発生サイクルの1サイクル分もカバーしておらず、縮小されれば地震予知研究は大幅に後退を余儀なくされる。そのことをよく国民に説明することがまず必要だろう。また、回線使用料やテレメータ装置、ボーリング工事は昔より安価になってきており、経費を節約していけば、財政難の日本にとってもそれほど大きな負担にはならない、ということも示していく必要がある。
- ● 大学の観測研究機関を大学とは切り離した組織として再編することを検討してほしい。その際、大学の学部教育の中に関係する教育分野が存在することが重要である。学部教育に根を持たない研究機関は立ち枯れの状態に陥りやすい。
- ● 最近、火山観測所を2カ所、見学させてもらう機会があったが、規模はともかく、いずれの観測所でも常駐している人員が少ないことに驚いた。観測所にいなくても研究は出来るかもしれないが、観測所ならではの研究の実績を積むことが重要なのではないかと思う。法人化により個々の大学での予算配分で不利益を被り易い観測・監視体制を守るためにも、観測所ならではの研究の推進が望まれる。
- ● 基礎研究推進のために大学が設置した観測設備の更新、新設が困難な現況は、法律の整備以外に打開策が見当たらない。この中で調査研究推進本部を設置し、大学および研究機関、防災機関に必要な経費が流れるシステムを構築する。これによって、既存の研究観測のための設備更新・新設を図るとともに、観測網が未整備の火山をも含め、全活火山で多項目・高密度・高精度の火山基盤観測網を整備する。
しかし、法整備には時間がかかり、また実現するかも不明なこと、現在大学の研究設備によるデータは気象庁に提供していることおよび今後さらに提供するデーターの増加が予想されること、気象庁単独による監視観測設備の飛躍的整備が望めないこと、大学は基礎研究と教育を推進する役割を進展させるなどを考慮すると、大学の研究観測設備を気象庁に移管することも考える必要がある。
- ● 地震調査研究推進本部体制で地震調査研究が行われている地震観測研究にくらべ、基盤的観測網すら整備されていない火山噴火予知のための観測研究は危機的状況にある。活火山対策特別措置法を改正して、火山噴火調査研究推進本部を設置して、各火山に基盤的観測点を年次的に整備するか、現在の地震調査研究推進本部で火山地域の地震調査研究のための観測網の整備をおこなう。
いずれにせよ、政府主導で基盤的観測点の整備を行う際には、たとえば気象庁のような単一省庁に丸投げするのは適切でなく、推進本部の観測部会のような大学関係者を含む組織で設置場所、仕様等の設計段階から関与することが重要である。更に、監視目的の観測点とはいえ、研究用に自由なデータ流通ができるシステムの構築も不可欠である。これによって基礎研究の更なる高度化も図ることが可能となるであろう。
- ● 国民の関心事に対応することが必要かと思います。きちんとした理解が得られるような細やかな広報活動をしないと、国民の支持はえられず、基礎的研究分野の予算の削減につながります。
- ● 特に火山噴火予知の観測研究においては、基盤的観測と随時実施する実験的観測の両方が不可欠である。法人化以来、大学の観測研究は危機的状況にあり、ナショナル・プロジェクトとは言えない。公的な機関(気象庁等)による基盤的な観測網を整備し、大学はより実験的な観測研究(必ずしも短期間の臨時観測ではない)に重点を置くことができるようにすべきである。
- ● 火山においては、火山体での実験的な多項目観測が将来の噴火予知の発展に必須である。火山周辺の広域観測には既存の基盤的な観測網も一部利用できるが、山体内の観測は従来通りの実験観測として位置付け、さらに大学の火山観測所を実験観測・研修などの拠点として利用できないでしょうか。
山体内の実験的観測が監視に提供される場合は、監視機関との共同運用(費用負担)を考慮することはできないでしょうか。
- ● この研究計画が一翼を担っている地震および火山防災は、オペレーション(軍事行動あるいは作戦行動)と考えることができる。この観点から言えば、本研究計画は軍需研究であり、物資に乏しい戦時下でも軍需研究は手厚く扱われたと聞く、観測網の効率化、経費の削減や社会資本の導入など研究者の努力も必要だが、やはり国として望ましい観測・監視体制を提起・構築すべきである。
- ● 観測の人的、金銭的負担を減らすような技術開発や国への啓蒙活動などが有効だと思う。
- ● 明瞭な科学目標に基づいて、観測研究は着実に実施する方針である。
- ● 火山について言えば、弱体化している観測体制で、下手に噴火予測ができてしまった所に問題があった。一方で、最近の噴火予知に携わる人材・経費不足の中で、無理矢理観測網を維持してきたために、観測研究の成果の不十分さ、国外への情報発信の低さ、後継者育成の困難さなどの原因になっている。
総花的に全国火山の観測が大学ではもはやできなくなっていることが明らかであるので、実験対象火山にのみ観測研究の対象を特化し、監視は業務官庁に任せることに徹するべきである。また、研究対象火山に限らず、いざ噴火が起こった場合には、これまでのような全国連携の総合観測に加えて、外国の研究者も含めた観測体制を作ることが望ましい。
- ● 観測研究の縮小が現在危惧されているのは、特に火山噴火予知関係であるので、ここではそれについての対応について述べる。
今後より高度な予知技術を開発するためには、基盤的観測網を担う機関を一元化し、責任分担を明確にすることが必要である。基盤的観測網は、各火山における観測体制を一体化するものなので、長期的には人員・機器に関するコスト削減ができるものと予想される。基盤として考えられる観測項目としては、例えば、微小地震観測、広帯域地震観測、傾斜計・歪み計観測、GPS観測、空気振動観測、映像観測などであろう。
ただし、現行の体制でよく機能しているシステムは損なわないようにしなくてはいけない。例えば、高度な火山噴火予知のためには、噴火口近傍での高精度データの取得が欠かせないため、観測方法など新規に開発するものが多い。また、火山噴火の多様性のために観測すべき項目が多岐にわたり必ずしも画一的なシステムだけでは十分なデータが取得できない。基盤的観測網を構築した場合には、これまで各研究機関がうまく調整しながら実施してきた多項目観測を実施するための機動性を失わない。あるいは、発展させる体制が必要不可欠である。また、解析技術や研究も日進月歩しており、社会的に信頼度の高い情報を発信するためには、基盤的観測網のデータもリアルタイムで最前線の研究者に提供するシステムが不可欠である。
現在、インターネットを中心とした情報インフラが整備されたため、基盤観測データと最先端の研究データの融合も比較的簡単に行える。基盤の観測体制をしっかりと構築しておけば、その上に新たに付加されるデータによって最先端の予知研究は推進されると考えられる。