《若手研究者の確保も含めた人材養成への対応》
(実施状況等レビュー結果及び外部評価結果を踏まえ、今後の考え方や取組み等についてご意見をお願いします。特に、外部評価で指摘された下記の項目について、どのように反映していくべきかなどについてご意見をお願いします。)
- ● 研究科・学部において観測研究を生かした教育活動を実施する。若手研究者をできるだけ継続的に雇用できるようなポストの積極的獲得・弾力的運用に努める。
- ● これには二つの面がある。一つは若手研究者をいかに確保するかという面で、もう一つは大学院生をいかに確保するかという面である。前者の問題の所在自体は比較的明白で、若手研究者のポストは期限付きが多く、大学院生が自分の将来に明るい展望を持てないことによると思われる。解決策は常勤ポストを増やす以外に無いのではないか?後者は、大学院生が気象や宇宙のような他分野に流れるという問題である。これについては、学生がなぜ地震予知分野よりは他分野に魅力を感じるのかについて、組織立った調査と対策の検討が必要である。
- ● 地方大学では、専任の教員や研究者の十分な確保が難しい現実がある。ポスドクなどの若手の有望な研究者を常に確保することも現在のところ現実的ではないが、学生の卒業研究や修士論文にも地震予知研究や噴火予知研究の一部を実施できる環境が必要と思われる。学部学生や大学院修士の学生にも地震予知・火山噴火予知研究の考え方を理解してもらい、将来研究者になったときの十分な土台を築いてもらうようにする。将来、一般の社会人となっても、地震予知研究や防災についての正しい知識や現状認識を持ち、周囲の人々に正しい認識を与えられるような人材を養成する必要がある。
- ● 高校の地学教育が縮小され、生徒が地球科学に触れる機会がなくなっていることは深刻な問題である。固体地球物理学の魅力を高校生に説明すべきである。そもそも、「(固体)地球物理学」という学問の存在が広く知られていないのではないだろうか?地震・火山に限らず気象などの自然災害、気候変動などについて、正しい知識を得る場を確保することが、この分野を志す学生を多くすることにつながると思う。それには組織的な啓蒙活動が必要であろう。また、大学の1-2年生に対する宣伝・勧誘ももっと考えるべきである。
火山噴火予知研究について言えば、近年社会的に注目される火山噴火が発生していないためか、若い人たちの間では火山そのものへの関心が低いようである。火山学を、彼らにとって魅力あるものにする必要がある。
- ● 理科離れによる理系大学への進学者の減少という社会的なバックグランドに加えて、国策による大学教員の減少と任期制研究員ポスト導入による、安定な研究職への道が塞がれている現実を前に、ここ数年の大学院進学率(特に博士課程進学率)が激減している。これの解決策としては、これらの問題の根を絶つ方法と、現状を容認しつつ打開策を検討する方法とがある。
前者では、国策として地震火山噴火予知研究関係の教員や研究職ポストを増やすことと、それが無理であれば、若者の理科離れを少しでも押さえるように、関連学会や学部と一緒になり、理系へ進学したくなる若者を育てる啓発活動を行うことが重要である。また、関連防災機関における地震火山噴火予知研究のバックグランドがある担当者を増やすことも効果的であろう。
現状の中で人材養成を行う方法としては、(1)防災担当者の社会人教育、(2)発展途上国を含む外国の学生や若手研究者の受け入れと教育、(3)限られた大学院生をより高度な研究者に育て上げるなどの方法が考えられる。(1)は直接若手研究者の確保とはならないが、防災機関や自治体関係者の地震や火山噴火に対する知識レベルの向上によって、安全で安心な国づくりに間接的につながるだけでなく、そのための防災機関や自治体での人員確保が予知研究をする研究員や大学院生の就職先の解決にもなりうる。(2)では、日本人だけが日本の地震火山噴火予知研究に携わらなければならないとの法律はない。日本以外に地震や火山噴火の観測研究のフィールドを求める上でも、先進国から予知研究のモデルを導入する上でも、外国研究者あるいはその予備軍との交流は重要である。(3)については、大学法人間の単位互換制度を用いて、それぞれの大学に所属しながら地震火山噴火予知のマルチパーパスの人材を育てることが可能である。
近い将来の地震・火山噴火予知研究に携わる人材を確実に確保・養成するためには、地震学、火山学を含めた自然災害学の教育の場が必要である。そのために、学生が個別の大学の大学院専攻科に強く所属を拘束されるのではなく、様々な大学で、多様な特長をもつ研究に幅広く接したり、異なる性格のフィールドを活用した教育が可能となるような制度設計を探る。例えば、大学付置の全国共同利用研究所を核にした連携大学院専攻科の設置も可能性の一つとして考えることができるだろう。
- ● 引き続き、機関研究員の確保を図る。学部学生に対する講義の機会や巡検の機会をなるべく多く取れるようにつとめ、人材の発掘を目指す。学会を通じたアウトリーチ活動に積極的に参加する。大学院で学位を取得した後に、ポスドクにはなれても、パーマネントな職に就くことが非常に困難になっている。有能なポスドクが失われるのは大きな損失であり、テクニカルスタッフのような身分の職員を増す方策を考えることが急務である。
- ● 大学院博士課程進学者を増やすためにも、出版などを通じ積極的に研究成果を社会に対してわかりやすく知らせる必要がある。地震分野については、耐震などの防災が前面に出る傾向があるが、明治以降、予知と耐震は地震防災の両輪であり、地震災害軽減のためにも地震発生予測の研究の重要性をわかりやすくアピールする必要がある。
一方、大学院生の教育研究環境の向上のために積極的に各種COEを申請する必要がある。さらに気象庁や国土地理院の職員を積極的に社会人大学院生として受入れる。アジア・アフリカ・ラテンアメリカなどから積極的に優秀な留学生を受け入れ、研究水準の向上を図る。
また現在、特に大学において若手研究者が育っていない。大規模プロジェクトの下働きや学生の世話等で十分な研究の時間が確保できていないことが一因ではないだろうか。現在のような機関ベースの研究費配分に加えて、若手研究者を対象とする予算枠を設け、優れた研究課題に対して研究費を配分してはどうか。特に、建議の枠にとらわれない自由な発想に基づくものであっても、将来の地震予知・火山噴火予知に貢献すると判断されるものがあれば、積極的に支援すべきである。
- ● 京大理学部は入学時に学科を指定しないが、地球科学を第一希望として入学する学生は極めて少ない。理系学生向け全学共通課程科目をみても、二年度目以降のやや専門指向の講義などの履修率はかなり低く(1割程度)、理学部開講の専門科目の履修者はさらに少ない(数名)。大学院入学者は他大学出身者が過半を占めるが、修士課程修了後に就職する者がほとんどである。一方、一般向けの地震・火山に関する講義では履修している学生の関心は高く、この分野に対する関心が若い世代に潜在的に存在することは確実である。
関心はあるが専門とはしない、という現状を変えるには、1)入学時に地球科学指向を持つ学生を増やす、2)入学後、大学で地球科学の大学院に進学する学生を増やす、3)大学院入学後、研究者指向を持つ学生を育む、の3点が重要になる。
1)に関しては、高校における地学履修率の向上は低く、正規の課程内ではこの向上は望みにくい。SSHなどの連携授業、高校生向けの研究所の公開講座など、地震・火山研究の現状を直接知り、第一線の研究者と触れ合う機会を増すことが、その一つの方策である。
2)に関しては、教育課程の充実が必須である。附置研の研究者が、研究科の教員と連携して積極的に学部生と交わる機会を作ることが極めて重要である。また、地震・火山に関する日本語の分かりやすい教科書がないことが問題である。他分野の学生に対する広報活動、地震学、火山学を学ぶ機会のない大学からの進学の手助けになるような活動など、人材確保のためのベースを広げることも考えるべきである。「地震
災害」というネガティブなイメージが広く持たれていて魅力的でないことを考慮し、単に地震予知・噴火予知に留まらず、地球科学の分野の広い研究成果について広報活動することが大事である。
3)に関しては、受動的な学生に対して、自ら考えて研究を行うように成長させる努力が必要である。更にここ数年の一般企業への好就職状況、ポストドクター研究員の動向などの要因を考えた場合に、博士後期課程に進学し、研究者として自立していくことへの不安感も大きな要素になっている。学生の研究に対する意識をより高めることができる研究テーマの選択とそれを達成するためのきめ細やかなフォローアップを、指導教員をはじめとする地震火山コミュニティの研究者が取り組んでいく必要がある。
ポスドクなどで臨時の研究員を確保することはまだ可能であろうが、地震予知および火山噴火予知計画が数十年にわたり続いてきているのは、それだけの年月が必要であるからである。そのためには常勤研究者・技術員の確保が必須である。現在の大学の枠組みでは新たな人材の確保は不可能に近く、いかにして人員を減らさないかが精いっぱいというのが実情であろう。大学の枠組みをはなれて、旧来の省庁にとらわれない新たな地震及び噴火予知研究を行う組織を作らない限り人材の確保はむずかしい。ただし、人材の教育は大学でないとできない話であり、小数の研究者はそのまま大学に残して地震火山に関する基礎教育を行い、観測、データの解析にあたっては新組織の研究者と連携を行うなどの方策をとることも検討すべきである。
- ● 人材養成の観点からは、地震研究者の卵となり得る者のすそ野の広がりに我々はたいへん危惧している。現在の大学生の5パーセント程度しか高校において地学を履修していない現状がある。加えて、大学においても全国規模での教養部改組の流れにより、地学専任教員の占める割合や一般教育の中での地学講義などのコマ数などが減少している。これらに伴い、地震や火山のみならず、台風・水害等などの災害が日常のニュースをにぎわしている現状においてさえ、本事業を支え、良き理解者であり、良き批判者になりうる者のすそ野の広がりが先細りの避けられない状況に直面している。
この現状に歯止めをかける意味でも、義務教育段階において、子供達が身近に参加できる「地震」の教材を、例えば郷土の自然や防災などの観点から学習進度に応じて用意することや、技術立国日本の高校においては地学教育を含めた理科4教科の履修を義務づけるような指導要領の改訂が必要ではないかと考えている。
また、国民や住民レベルでのサービスにつながるものとして、地方に根ざした地震研究の担い手の存在の必要性を感ずる。大地震発生時に、地方の災害対策本部などで、専門家として地震予知研究計画で得られた成果を翻訳して、自治体担当者・住民などに助言する役割を担う者の存在が不可欠であると思われるので、全国一律とは行かないまでも重点地域や特定地域においては、地元大学及び地方自治体でのこの人材枠の確保を図ることが重要ではないかと考える。
- ● 一般的には是非必要なことであると思います。高知大学では長い間、卒業研究生は受け入れておりましたが、大学院生を地震観測所で引き受けていなかったのですが、これが研究活動の活性化が進まない理由であったかもしれません。私は2年前に赴任し大学院も担当可能となりましたが、やっと来年度より大学院生を受け入れる予定です。ただ学生を受け入れるためには、宣伝活動として学部で講義を行うなどしないとなかなか人は集まらないので、現在実教員1名の高知大学の地震観測所においては、人材養成に対する負荷が大きすぎると感じることもあります。そのような事態打開のため機関の連携もうたっておいていただけると助かります。
- ● 地震火山分野が学生にとって学問として魅力があり夢が持てること、就職についても希望が持てることが重要である。前者については、予知計画実施体制の改革により、(特に観測分野の)研究者の疲弊状況を改善することから始める必要があると思う。後者については、当面は外部資金などによる非常勤研究員の確保が必要であるが、抜本的な解決のためには関係機関におけるポストの確保と人事の交流が不可欠である。また、共同利用研究所の特定共同研究などを活用して、地震火山のより広範な分野の若手研究者を予知研究に取り込む努力も必要と思われる。
- ● これまで通り、関連学科と連携し、学部生、大学院生の受け入れを継続する。大学全体の教職員数の削減に伴い、観測所の専任教員の増員は困難であり、現状維持が現実にできることのすべてである。
- ● パーマネント職員(正規職員)としての研究者の採用枠を拡大すべきである。
- ● 海洋研究開発機構では、火山噴火予知に関連する基礎研究を遂行する上で、特、学際的視野に立って、総合的研究を進めることを念頭において、若手研究員・技術研究員の採用を積極的に行なう予定である。
提案:中学・高校教育の中で地学あらため「地球科学」と名称を新たにした学科の設置による研究層の裾野の拡大。また、大学、研究機関の流動性をたかめ、特定の研究テーマに関しての若手研究者の研究活動場の共有・共同化
- ● 国の「地震や火山の観測研究の計画」を実現するために、人材確保実現のための国としての目標と施策を決定すべきである。
有能な人材を育て確保するには、現在のポスドクの現状は深刻であり、科学技術・学術の分野においてテニュア職へのキャリアパスの道筋をはやめに明示できる仕組みを実現する必要がある。
観測に関わる研究は、チームワークで行われることが多く、リードタイムが長いので、他の分野に比べて筆頭論文の数が出にくい傾向にあることから、これらの特性を十分に配慮して、数だけでなく質と時間を十分に吟味した個人評価の視点の確立が必要である。
現在の若年層の将来的な確保に向け、研究実施機関として、啓蒙書等の発行、連携大学院、研究機関の技術研修制度の活用、高校等への出張授業等を積極的におこなう。また、人材発掘の観点から、教育研究機関と調査研究実施機関の連携をはかる。
- ● 「若手研究者の任期付採用」に続く制度の創設
ここ10年程において、若手研究者の確保・養成する方策として、「一般職の任期付研究員の採用、給与及び勤務時間の特例に関する法律」が成立するなど、任期付採用の制度が整備され、その実施が推進されてきた。しかしながら、任期後については、制度の整備が必ずしも十分ではない。よって、研究員が任期中の実績を活かして次のステップに進めるような民間企業も含めての雇用拡大をはかる必要がある。また、このほかの対応策として、例えば任期中に一定以上の実績を上げた研究者については、パーマネント採用できる道筋を制度化するなどを検討することも考えられる。
- ● 地震火山関連の教育を受けた人材を確保するように努める。引き続き、気象大学校での学生の教育や、研修等の継続と充実を図るとともに、地方官署の職員を対象とした入校研修や、その他の研修を行い、充実を図っていく。
- ● 若手職員の適切な配置はもちろんのこと、地震・火山に関する研究成果発表に勤めるなど業務について普及啓蒙を行い、積極的に地震・火山研究者の採用をするよう努力している。
- ● 基本的には、地震や火山活動にかかわる、教員、研究者、技術職員、省庁で業務にあたるポストの数の問題である。本計画を推進し、予知実用化を目指す観点から人材育成の現状と問題点(今後予想される状況を含め)を、冒頭で明確に述べる必要がある。
- ● この分野が学生にとって魅力ある研究分野であることを広く周知する仕組みの構築が必要、勿論、真に魅力ある研究分野となるよう、体制も含めて常に自ら努力しているということが、その前提であるが…。
一方で、この分野の研究職の数は限られており、大学院修了後の進路がそれ以外にもきちんと拡がるよう、それに対応した教育体制の構築も必要。
- ● 関係分野での学生・院生の減少はきわめて深刻な状況であり、計画の将来への影響を危惧する。諸大学が各々学内で学生・院生の増加にむけて努力するととともに、関係グループ全体としての具体的な対策の検討が必要になっていると思う。例えば、地震・火山研究分野に対する印象をあげるための広報・啓蒙活動、学生や院生が将来に対して具体的なイメージをもてるようにするために、どのような形でどのような仕事ができるのか、その仕事によってどのような社会貢献ができるのかなどに関する諸機関などが主催するガイダンス・インターンシップ、若い研究者の活躍ぶりの積極的な紹介(広報)、若い研究者の積極的登用、就職先の確保など。また、学生・院生の地域や全国的な連携をつくる機会を作ることによって、数少ない、孤立しがちな学生・院生が辞めてしまいことが少しは防げるかもしれない。できれば、計画に中に、より具体的な方策をいれることを望む。
- ● 地震火山分野が学生にとって学問として魅力があり夢が持てること、就職についても希望が持てることが重要である。前者については、予知計画実施体制の改革により、(特に観測分野の)研究者の疲弊状況を改善することから始める必要があると思う。後者については、当面は外部資金などによる非常勤研究員の確保が必要であるが、抜本的な解決のためには関係機関におけるポストの確保と人事の交流が不可欠である。また、共同利用研究所の特定共同研究などを活用して、地震火山のより広範な分野の若手研究者を予知研究に取り込む努力も必要と思われる。
- ● 若手研究者には、観測・監視業務で経験を積む機会をもっと提供する。地震及び火山噴火予知を目指して観測・監視業務にたずさわる特別研究員(DC,PD)的なプログラムを設置することも一案。又、観測・監視業務で責任のあるポストが、専門職として適切な待遇を受けることも、若手研究者が将来への展望を持つ上で重要。
- ● 地震及び火山噴火予知研究計画に関わる大学、研究機関が、共同してグローバルCOEプログラムのような若手の研究者(特に観測研究を重視した)育成のための拠点を形成するプログラムを発足できないであろうか。
- ● 基本の基であるアンケート1で提案したデータベース作成補助員としてパートタイム雇用することで、現象への興味やテーマ発見の機会を増やし、モチベーションを高めるとともに、事実上学費分が不要なので、昔の師範学校みたいに有能な人材を引きつけられる。
- ● 研究者となるべき優秀な人材の養成と言う意味では、大学の果たすべき役割が極めて重要である。特に、将来に対するリスクや不安材料から、優秀な学生が大学院博士課程への進学を躊躇ってしまうことのないよう、大学院生に対して、民間企業も含めた幅広い就職指導を、早い段階から積極的に行うべきであり、その意味では民間企業とのインターンシップ制度の活用なども視野に入れるべきである。
- ● 国土地理院においては、1998年度に研究センターが発足し、国土地理院としては初めて研究職が導入され、専門性の高いチーム体制で、地震および火山噴火、風水害などの自然災害の研究が実施されるようになった。一方、国土に関する基礎的データ取得など、業務性の高い分野においては、行政職の職員が技術開発などの研究業務を実施している。研究に専念できる体制の整備によって、それ以前に比較して、明らかに質・量共に優れた研究成果が得られるようになった。
全国を対象とした地殻変動が研究の中心となるため地震および火山活動の区別無く、広い視野で地殻活動を研究することが自然に行われていることは、当院の特長の一つである。発足以来17名の研究職公務員が所属しているが、すでに4名がそれぞれ大学に転出しており、人材育成に一定の効果が上がっている。また、研究センターがと他の業務部との間には人事交流もあり、研究に従事して獲得されたスキルや知見が業務部門に還元されるなど、国土地理院の技術的ポテンシャルの向上にも貢献している。
その一方で、若い世代の研究者の受け入れと育成に関して、大きな問題があることを認識している。現在、当研究センターの研究者は、公務員試験合格者(一種、二種)、公募採用者(任期なし)、任期付き公募採用者、外部資金によるポスドクなど一時的ポストで構成されている。特に、任期付き公募採用者は、身分的に不安定な面があり、士気の維持などに細心の注意を払っている。ポスドク等一時的滞在による若手研究者の受け入れも、指導や任用に必要な労力等、受け入れ側にとってプラス面ばかりではないものの、応募者にとっては、当院が保有している全国の地殻変動の過去からのデータへのアクセス、当該分野のトップクラスの研究者との交流や協同研究の可能性、地震や火山噴火時の緊急対応を体験可能、地震調査委員会等、各種専門的会議の参画等、若手研究者の育成に好適な条件が揃っており、コンスタントに応募がある。当院としても積極的に受け入れて来ており、今後もその方針を継続する。しかし、ポスドク終了後は、この分野において就職の機会が限られている現実もあり、応募者が非常に多いわけではない。その結果、多くの若手研究者に活動の場を提供できているとはいえない。なお、幸いなことに、地殻変動分野でポスドクを経験した若手の半数以上がより永久的な身分保障のあるポストを得て現在も活躍中である。
結局、若手の育成の問題は、志望者が将来の人生設計を確信出来ないことに、根本的な問題があると考える。学位取得者が、専門知識や技術への正当な評価を伴って、受け入れれられる環境作りを地震および火山研究分野が総力をあげて取り組む必要がある。特に、多くの学位取得者の潜在的な受給先である民間や地方公共団体に対してその受け入れの働きかけをさらに強める必要があると考える。
なお、異分野との積極的な交流は、若手研究者の成長にとって極めて有効と考える。次期建議は、積極的にmultidisciplinaryな交流を促進するように、コミュニティーが各種の資源を集中するような、研究主題ないしは中期主題を明確化するようにできると良いと思う。
- ● 少子高齢化の社会の中でかつ、就職状況が厳しい状況では、優秀な若手を確保することはむつかしく妙案は思い浮かびません。ごく当たり前のことをいえば、若手から見て、地震学、火山学が学問として魅力があること、従事する研究者の姿勢が真摯に見えることが、何より重要で、その点で反省、改善すべき点があれば、取り組む必要があります。また割り切って考えると、国際化を進め外国の研究者も予知研究に実質参加できるようにしていくことも、必要になるのではと考えます。
- ● 大学院、特に博士課程への進学者が少ないことに関して、就職先が狭く、課程終了後、希望する職が得られないことも大きな原因である。地震・火山に対する国民の関心が高まれば、自治体や企業・メデイアなどでも国民の関心にこたえるため、地震・火山の専門家を必要としてくる。そういう状況にする(国民の関心度を高める)ために、地震・火山に関する情報を定期的に提供することを検討する。例えば、メデイアを通じて、あるいはその協力を得て、地震・火山活動に関する情報を、説明付で日常的に提供する。
- ● 「人材」には、次の(1)から(3)の類型があり、その各々をバランスよく育成することが必要と考える。
- (1)独創的な理論構築をしたり、複雑にみえる事象を斬新な仮説にもとづいて統一的に解明したり、新技術の開発・実現したりする研究者。たとえば古典力学ではニュートンで、きわめて少数。
- (2)前述の独創的な研究者たちの研究素材となる知識群を生み出す研究者。たとえばニュートンの考察となる惑星運動の法則を見出した、ケプラー。
- (3)長期・広範囲にわたる研究データを取得する、高級技術者(オペレータ)。たとえばケプラーの法則が見出されるもととなった長期の火星観測データを残した、チコ・ブラーエ。
(1)を組織的に育成することは不可能だが、(2)、(3)は可能。そのときに考慮すべきは、人材育成の入り口だけではなくて、育成後の出口を確保することが肝要。大学院重点化で大量に生じたドクター修了者が、専門と無関係の分野に就職するぐらいなら、相当数の者を(3)(
パーマネントの高度研究支援職(仮称))として活用すべきだと思う。将来の生活設計への不安から大学院進学をためらう学生に対して、元気付けるメッセージになると思う。
結論として、(3)の人材に対する待遇が大学教員等と比較して劣悪であったり、社会的評価が低かったりする現状を改めるべく、「高度研究支援職」のような元気のでる雇用制度を大学法人・研究機関に求めるべきだろう。これまでの技官を順次、高度研究支援職(仮称)に切り替えてゆく財政措置が必要。
- ● 地震火山分野に大学院生が来なくなっているのは、博士号取得後にポスドクにはなれても、パーマネントスタッフになることが極めて困難であることが広く知られているからである。また、単に大学や国立研究機関で研究者を目指すだけでなく、多様なキャリアパスを示す必要がある。テクニカルスタッフのような身分の職員を大学や研究所に増やせるような方策も急務である。JICA(ジャイカ)などの国際協力プロジェクトを通じて、地震・火山分野で活躍する場も与えられないだろうか。
近年、研究に伴う種々の役務を民間企業に外注することもなされるようになってきているので、プロジェクトを大きくし、かつ関連する民間企業への就職が促進されるように努めることが望ましい。
- ● 地震予知・火山噴火予知研究開発機構(仮称)のようなものを作って、国が政策的に研究開発を推進すべき課題であることを明示することが、若手研究者の確保の観点からと2.の観点から重要であろう。研究開発機構は大学と連携して、人材育成をすすめる。
- ● 提案:中学・高校教育の中で地学あらため「地球科学」と名称を新たにした学科の設置による研究層の裾野の拡大。また、大学、研究機関の流動性をたかめ、特定の研究テーマに関しての若手研究者の研究活動場の共有・共同化。
- ● 若手研究者の就職先が研究機関だけでなく企業もターゲットとなるように、関連企業の研究者や技術者との交流をより一層強化する。
- ● 大学附置の研究所や研究科附属の施設センターの教員は、それぞれの大学の大学院担当教員として大学院生の指導に当たっている。しかし、関連組織だけで後継者育成や人材確保を行なおうとすると限界があり、広く全国の地球科学関連の学科や大学院の充実が不可欠である。したがって、予知計画でも長期的視野にたって、全国の大学における地球科学関連学科や研究科の整備拡充等を述べるべきかと思います。また、大学教育に限らず、初等中等教育における地球科学教育の充実の方策も含めても良いのではないでしょうか。
- ● これは地球科学研究者のみの問題ではなく、自然科学全体の問題として本来は捉えるべきである。中学校や高校では今、カラフルな教科書を使い、「楽しい」実験を多く取り入れて、また、なるべく簡略化して理科離れを防ごうとしているように見える。しかし、ゆとり教育にともなう授業時間数の削減により、教科書は薄くなり、体系がわかりにくくなっているように思う。授業時間数を増やし、教科書の説明が丁寧にするほうがよほど「ゆとり」につながり、また理科離れも防げるように思う。
地球科学の問題に限れば、一番の問題は就職先が限られていることにある。このために、大学で地球科学系を専攻する学生が増えず、また、4年生や修士を出て、地球科学と関係ない業種に就職してしまう学生が多く、また、教員の側としても強く博士課程に進むことを勧めることを躊躇する状況にある。
これを脱却するには、就職先を確保することが一番の近道であろう。そのためには、資源・エネルギー・環境関係の民間会社との連携を強め、大学院を出てもそれらの会社に就職でき、また就職してからも大学で勉強して学位論文を提出できるようにする、民間から大学教員になる門戸を開く、逆に大学教員から民間に移る、といった交流を深める事が重要だろう。これらのことは工学系では普通に行われていることであり、できないことではないはず。難点はそもそも企業数が限られていることだが、最近の石油価格の高騰によって、これまで採算がとれなかった資源に注目が集まっており、その資源開発に新たな技術開発も必要とされており、大学院を出た学生のニーズも高まってきているように思うので、今がチャンスだろう。
もう一つの近道は、「地震や火山噴火が何故・どのように起こるのか」を我々が解明していき、それをわかりやすく社会に伝えることだろう。たとえば、地球科学と同様の問題を抱えているはずの天文学では、研究者になりたがる学生は数多い。これは一つには宇宙論等によって神秘のベールが少しずつはがされてきているというおもしろさがあるからだろう。東北大でも、「オープンキャンパスでアスペリティ・モデルの話を聞いて、地震学に興味をもって東北大を受験することにした」という学生がいる。自然現象を我々が解明し社会に伝えていくことが、この分野に興味を持ってくれる学生を増やす近道となっている好例である。
また、天文学関係者の社会に対するアピールの努力も見習うべきだろう。天文学は社会の役には立ちにくいため、その面白さを伝えようと努力している姿勢がうかがえる。「地震・火山学は防災のために必要」、と主張することも重要なのだが、それとともに生きている地球の実体を少しずつ明らかにしていく面白さを伝える努力をもっと行うべきだろう。
もう一つの問題は、地学を教えていない高校が増えていることである。特に、「文系クラスは地学を選択できるが、理系クラスは地学を選択できない」としている高校が多くなってきており、危機的状況といえるが、これはそもそも地球科学系の存在しない大学では、理工系といえども入試問題で地学を出題していない大学が多いことが原因となっており、こちらの解決はそれほど簡単ではない。地球科学系の学科が各大学で設立されれば上記の就職の問題もかなり解決するのだが、大学が法人化されかつ少子化が進む現状では、なかなか難しそうである。
- ● 任期が3年程度、長くても5年という非常勤研究員のポストしかないことで、大学院後期課程への入学者が激減しているだけではなく、前期課程への入学者も減少傾向が顕著になっている。理科の面白さが伝えられていない「理科離れ」ではなく、将来に希望を持てない理系を敬遠している現状を深刻に捉えて制度を変えてほしい。このままでは、国際的にリードしてきた研究領域であるにもかかわらず、地震・火山の分野に後継者が育たないという危機に見舞われると思う。
フィールド経験の乏しい研究者が多くなりつつあることは、地震や火山噴火の研究領域の将来を考える上で問題である。フィールド教育を実践できる共同利用施設を整備することを検討してほしい。
- ● 野外での調査・観測に基づく研究を志す学生数が、地球科学系の大学で減少傾向にあるように思われるので、若手研究者確保を考える前に、学部・大学院において、野外での調査・観測に興味を持つ学生さんを確保することが重要である。最近、某大学の大学院において、知識を広げるために、大学院での講義による教育を重んじ、地方の観測所での観測を課さない方式を取り入れたと聞いたが、そのような教育方法では、益々野外での調査・観測への壁が立ちはだかるのではないかと思う。
- ● 10年後の火山噴火予知を担う研究者の定職が確保できない状況、学位取得後の研究職の受け皿が少ないために博士課程進学者の減少している現状は、今後の火山噴火予知計画の継続的推進が困難な状況に陥ることを暗示している。これを避けるためには、雇用の拡大が必要で、火山噴火予知計画の規模を大幅に拡大する抜本的な制度改革を行い、火山学が魅力的で夢のもてる研究分野とする。また、小・中・高校生向けの普及講演・実験・見学会などに多くの研究者がかかわり底辺の拡大を図ることと、関係大学が連携して学部での系統的な火山学の講義(含むサマースクール)等を開講し、人材の育成・確保を図る。
- ● 人材の養成は単に学術研究の基盤確保としてのものではなく、安全で安心な社会を実現するという国として重要な課題を推進するためには不可欠であることを明確に述べる必要がある。当面の具体的施策としては以下のことなどが考えられる。
現在35歳前後のポスドクに着任時年齢制限のない研究員ポスト(スーパーポスドク、特任助教)を用意、数年後の定年退職者の急増時期の補充人材候補として確保する。
地震予知・火山噴火予知研究をめざす大学院生に月額10万円程度のリサーチアシスタント経費を支給するなど優遇措置を設け、予知研究に従事する大学院生を増やす。
気象庁等の職員の大学院社会人入学あるいはインターン制度を設ける。
研究者が特に少ない火山噴火予知研究に関しては、複数の大学のネットワークによる火山噴火学専攻のような新しい教育体制が考慮されてもよい。法人化後の大学をまたがる組織としてどのような形態が可能かどうかの検討は必要であろうが、グローバルCOEで多機関連携などが実現されていることでもあり、不可能ではないと思われる。
- ● 予知計画に関連する大学や研究機関の常勤定員が漸減している現状では、大学院生が明るい希望を持ちにくく、有能な若手研究者を確保するのに障害となっている。今後もナショナル・プロジェクトとして位置付けるのであれば、それなりの体制を確保すべきである。
- ● 火山観測データの利用の促進。過去のデータなどを公開することにより、大学院生など火山研究者候補者の底辺を広げる努力をする。
- ● 地震や噴火予知研究に携わる研究者、技術職員、関係省庁で業務にあたる職員の確保は基本的にポスト数の問題である。特に住民と接する市町村では組織の規模や財政上の問題から知識を習得した職員が他の部署へ異動せざるおえない状況にあり、効果的な研究成果の社会還元の観点からも国の財政支援が必要かもしれない。その一方で大学は魅力ある講義を展開するなど学生の確保・養成に努める必要がある。また行政機関の職員養成については大学の社会人入学枠や特認ポストの活用、市町村担当者にする講義の開講などのほか、研究機関から省庁への出向あるいは兼務・兼業ということも考える必要があろう。また理科離れが進んでいると言われている次世代に対しては学会レベルでの様々な取り組みを更に推進するとともに、特に高校生に対しては小人数(教官1人につき2人から4人)による野外観測実習などは次なる人材を確保する上で有効かもしれない。
- ● 地球科学の分野によい人材が入ってくるように、地震、火山研究のおもしろさと重要性を若い学生に広く訴えることが必要だと思う。個々の教員が時間的にゆとりを持って大学院教育にあたり、視野が広く思考の深い研究者を育てることが重要であると思う。
- ● 海洋研究開発機構では、火山噴火予知に関連する基礎研究を遂行する上で、特、学際的視野に立って、総合的研究を進めることを念頭において、若手研究員・技術研究員の採用を積極的に行なう予定である。
- ● 少子化、理科離れ、任期制研究員ポスト導入による弊害のために、全国の大学において、ここ数年は博士課程進学率が激減している。また、教員技術者の定員削減の強化によって予知研究に携わる教員技術職員も補充できなくなっている。社会的なシステムに原因がある部分が多分にあるが、現状で少しでも若手研究者の確保や人材養成を行う方法としては、(1)防災担当者の社会人教育、(2)発展途上国を含む外国の学生や若手研究者の受け入れと教育、(3)限られた大学院生をより高度な研究者に育て上げるなどの方法が考えられる。
(1)は若手研究者の確保の直接の解決にはならないが、防災機関や自治体関係者の地震や火山噴火に対する知識レベルの向上によって、地震火山噴火災害に対する取り組みが国全体として向上するだけでなく、そのための防災機関や自治体での人員確保が予知研究をする研究員や大学院生の就職先の解決にもつながる。(2)では、日本の地震火山噴火予知研究に育てた外国人研究者を人材として確保できることもあるが、国外の地震や火山噴火研究対象フィールドを求める上でも、先進国から予知研究のモデルを導入する上でも、日本から排出した研究者および関連外国研究者との人脈構成は重要である。(3)については、大学法人間の単位互換制度を用いて、それぞれの大学に所属しながら地震火山噴火予知のマルチパーパスの人材を育てることが可能となる。
後者の観点からは、現在、協議会で研究機関間で結んでいる協定を大学院教育の単位互換に関したものに結び直すことが考えられる。さらには、地震火山噴火予知研究に携わる学生がそれぞれの大学の大学院専攻科に分散するのではなく、それぞれの技術とフィールドを持った全国の研究者が参画できる連携大学院専攻科を、例えば、全国共同利用研究所を核に設置することも考えることが必要であろう。
- ● 若手研究者を確保するには、当該分野の研究的な魅力を高め、任期付きなしの職をきちんと用意することが必要不可欠である。
当該分野の将来を担う人材として養成するためには、予知事業に関する研究に従事するとともに、関連分野や異分野との交流を促進する体制作りが必要であろう。同一機関に所属したままで機関の研究者と研究プロジェクトを通じて交流することもひとつの方法であるが、より連携を深めるためには国内外の他機関への短期留学(半年以上)などが効果的である。大学の観測所系の機関に関しては、現在の体制のままでは観測の維持や計測機器システムを管理する上で、担当者が短期といえども不在となるのは問題であるが、この点は観測体制の変更で対処することが必要であろう。
また、国内にとどまらず、国外での地震・火山現象の臨時観測等に従事できる機会も増やし、多様な自然現象に対応が可能な、幅広い多様な人材を養成することも必要である。
若手だけでなく中堅・ベテランクラスの研究者についても、同様に、研究交流を促進していく支援体制を整備していくことが必要である。豊富な知識・経験を有するこのクラスの研究者が、より広い視野を獲得することにより、若手研究者との共同研究や次世代を担う大学院生の指導に大きな効果が期待される。