第2部 各分野等における地球観測の推進

第1章 喫緊のニーズに対応した重点的な取組

 この章においては、「平成20年度の在り方」を踏まえて、国による地球観測の推進において喫緊の対応が求められているニーズについて、我が国における地球観測によって取得されたデータの利用状況を整理している。

第1節 地球温暖化にかかわる現象解明・影響予測・抑制適応

1 温室効果ガス

 気象庁、国立環境研究所及び国立極地研究所が実施している温室効果ガスに関する定点観測データ、気象研究所及び国立環境研究所が実施している民間航空機による観測データ、気象庁が実施している海洋気象観測船による観測データについては、世界気象機関(WMO)温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)を通じて世界各国の研究者に利用されている。また、気象庁では、温室効果ガスに関する観測データをモデルによって総合的に解析し、平成20年度から温室効果ガスに関する監視情報として発表する予定である。
 国立環境研究所では、気象研究所と共同で取得している民間航空機による観測データについて、平成20年度に世界各地の二酸化炭素の鉛直分布や水平分布データのデータベースとして整理するとともに、これらのデータの利用に関する研究を推進している。また、海上の温室効果ガスに関する観測データをホームページ上で公表しており、この観測データは炭素循環モデルの研究者に利用されている。

2 二酸化炭素の収支

(1)陸域

 森林総合研究所、農業環境技術研究所、産業技術総合研究所及び国立環境研究所では、陸域生態系における二酸化炭素の収支や生態系純一次生産量などに関する観測を連携して実施しており、各分野の研究の推進に寄与している。また、これらの観測データの一部がアジアフラックスネットワーク上で公開されており、アジア地域の稀(き)少な観測データとして、国内外の研究グループにおける陸域炭素収支の統合解析や広域評価、炭素収支モデルのパラメーター等として利用されている。

(2)海洋

 気象庁、海洋研究開発機構、水産総合研究センター及び国立環境研究所が継続している海洋の二酸化炭素の収支等に関する観測データについては、温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)、アメリカ二酸化炭素情報分析センター(CDIAC)などにおいても公開されており、全球海洋二酸化炭素収支の分布図作成や炭素循環モデルに関する研究に利用されている。また、気象庁では、北西太平洋域と太平洋赤道域を対象として、海洋の二酸化炭素の収支を推定することによって海洋の二酸化炭素の吸収源としての役割を監視している。
 また、海洋研究開発機構では、大陸間縦・横断観測による二酸化炭素等の高精度データや時系列観測点(北緯47度、東経160度)のデータ等を公開している。これらの観測データは、国内外の研究者によってモデル計算の検証や解析などに利用されている。
 さらに、衛星による海洋植物プランクトン等に関する全球的な観測データについては、宇宙航空研究開発機構及び欧州宇宙機関(ESA(イサ))のホームページ上で公表されており、様々な分野における研究活動に利用されている。

3 大気放射、降雨、雲及びエアロゾル

 気象庁による大気放射、降雨、雲及びエアロゾルに関する観測データについては、全球大気監視(GAW)計画や基準地上放射観測網(BSRN)などのデータセンターを通じて世界各国の研究者に利用されている。
 また、熱帯降雨観測衛星(TRMM)による観測データについては、最近の気候変動の降水に与える影響を評価したり、地球温暖化を予測するための大気大循環モデルを検証したりするために利用されている。

4 影響予測等

 気象庁では、地球温暖化の監視・予測に関する業務を着実に実施するとともに、これらの成果を国内外の利用者に提供している。
 国立環境研究所では、気候変動影響評価監視センターの業務の一環として、引き続き、地球温暖化の影響予測・影響評価に関する調査等を着実に実施することとしている。
 海洋研究開発機構では、北極域における海洋観測によって取得された観測データを公開するとともに、北極域の気候変動に関する研究に利用している。また、モンゴル地域の氷河やシベリア地域の積雪分布に関するデータについて、雪氷圏の気候変動に関する研究に利用しており、今後、ホームページ上で公表することとしている。

第2節 水循環の把握と水管理

1 気象庁

 気象庁では、財団法人電力中央研究所と共同して昭和54年から平成16年までの気象状態を高精度に再現したデータについて、世界各国の研究者に提供している。このデータは、気候の監視、季節予報モデルの検証などのほか、水循環の把握や水管理に必要な基礎データとして利用されている。

2 情報通信研究機構

 情報通信研究機構では、亜熱帯環境計測ネットワークデータシステムを開発し、沖縄亜熱帯計測技術センターの観測データを収集・配信している。

3 海洋研究開発機構

 海洋研究開発機構では、北ユーラシア及び東南アジア地域における気象水文観測、同位体、全地球測位システム(GPS)、ゾンデ、レーダー等による観測データを解析するとともに、ホームページ等を通じて公表している。

4 宇宙航空研究開発機構

  • 1 熱帯降雨観測衛星(TRMM)による観測データは、気象庁における気象予報や国土交通省が推進する国際洪水ネットワーク(IFNet)による洪水予報の精度の向上に貢献している。
  • 2 改良型高性能マイクロ波放射計(AMSR-E)による観測データは、国内外の気象機関等で利用されている。特に、気象庁の数値予報モデルに利用されることによって台風の進路予報や降水予報の精度の向上に貢献している。

5 農業・食品産業技術総合研究機構

 農村工学研究所では、カンボジア・トレンサップ湖及び水田域における水利用状況に関する観測データについて、現在構築中の「水循環−食料」モデルや土地利用変化予測モデルを検証するために利用している。

6 国立環境研究所

 国立環境研究所では、地球規模水循環の統合観測システムの構築に寄与するため、地球環境モニタリングシステム/陸水環境監視(GEMS/Water)のナショナルセンターとして、国内の河川、湖沼、地下水の水質データを継続的に集約・管理し、国際データセンターに登録している。これらの水質データは、我が国における陸水の水質データとして世界各国で利用されている。

第3節 対流圏大気変化の把握

 国立環境研究所辺戸岬大気・エアロゾル観測ステーション、その他関係機関の観測施設で実施されている大気中のオゾン、エアロゾル等に関する観測データについては、対流圏大気質シミュレーションの検証等に利用されているほか、欧米諸国、日本、中国などの研究者が共同で執筆する「半球規模大気汚染物質輸送(HTAP)タスクフォース2007中間報告書」などに引用されている(第1部第1章第2節参照)。

第4節 風水害被害の軽減

1 気象庁

 運輸多目的衛星「ひまわり」(MTSAT)によって定常的に取得された可視画像、赤外画像、水蒸気画像については、台風や集中豪雨をもたらす気象現象を監視するために提供されている。このほか、気象レーダー、ウィンドプロファイラー、地上気象及び高層気象観測網の観測成果と合わせて、風水害による被害をもたらす気象の三次元的解析や台風、局地的な集中豪雨等の予測に活用されたりしている。なお、数値予報の成果は、国内における利用だけでなく、世界各国の気象機関等における気象予測などに利用されている。

2 防災科学技術研究所

 防災科学技術研究所では、マルチパラメーターレーダネットワーク観測によって取得される高精度・高空間分解能の雨量と風のデータを利用して、都市型水害、土砂災害、突風災害の発生予測手法を開発している。

3 土木研究所

 土木研究所では、水災害・リスクマネジメント国際センターにおいて、開発途上国における水災害の軽減を支援するため、衛星による雨量や地理情報等に関する観測データを活用して、洪水予警報システムや洪水氾(はん)濫予測・解析技術の開発・改良と開発途上国における適用試験を進めている。

第5節 地震・津波被害の軽減

1 国土地理院

 国土地理院では、GPS連続観測、水準測量、重力測量、国際及び国内の超長基線測量(VLBI)、高精度精密地盤変動測量などの測地測量によるデータを地殻変動等に関する研究に利用している。また、地震調査委員会、地震予知連絡会、火山噴火予知連絡会、その他関係機関に提供するとともに、ホームページ上で公表している。

2 気象庁

 気象庁では、地震、地殻変動、津波に関する観測データを24時間体制で監視し、津波警報・注意報や地震情報、東海地震に関連する情報を発表するとともに、地震情報の精度向上に関する研究等に利用している。こうした研究の成果については、ホームページ上で広く公開するとともに、地震調査委員会、地震予知連絡会等に提供している。また、津波に関する情報を太平洋・インド洋諸国の関係機関にも提供している。

3 海上保安庁

 海上保安庁では、日本海溝、南海トラフなどにおいて実施している海底地殻変動観測や本土基準点において実施している衛星レーザー測距(SLR)の成果についてホームページ上で公表するとともに、地震調査委員会及び地震予知連絡会に報告している。

4 防災科学技術研究所

 防災科学技術研究所では、基盤的地震観測網(高感度地震観測網、広帯域地震観測網、強震観測網)による観測データについて、気象庁をはじめとする関係機関に提供するとともに、地震活動や地殻変動などの地殻活動の評価・予測に関する研究に利用している。さらに、これらの観測と研究の成果をホームページ上で広く提供している。

5 海洋研究開発機構

 海洋研究開発機構では、室戸岬沖、釧路・十勝沖の海底地震総合観測システムによる観測データについては、気象庁にリアルタイムで提供しており、震源の決定等に活用されている。また、防災科学技術研究所の高感度地震観測網を通じて、全国の研究機関にもリアルタイムで観測データを配信している。

6 産業技術総合研究所

 産業技術総合研究所では、東海地震予測のための地下水観測施設の観測データを公開しており、これらのデータは海溝型地震及び内陸型地震の中短期予測に利用されている。また、国際協力の一環として、アジア各国に津波堆(たい)積物・津波シミュレーションによる研究の成果を提供している。さらに、活断層調査研究の結果を関係機関に提供するとともに、活断層データベースとしてホームページ上で公表している。

第2章 基盤的研究開発の推進

 この章においては、「平成20年度の在り方」を踏まえて、観測技術及び情報技術の開発や共通基盤情報の整備について、我が国における基盤的研究開発の実施状況を整理している。

第1節 観測技術及び情報技術の開発

1 文部科学省

 東京大学、海洋研究開発機構及び宇宙航空研究開発機構では、多種多様で大容量の観測データを蓄積するためのペタバイト級ストレージシステムや大規模ストレージ空間を効果的・効率的に管理するための高度ソフトウェアを開発している(第1部第1章第2節参照)。

2 経済産業省

 平成19年度から開発を開始しているハイパースペクトルセンサーについては、経済産業省において概念設計と要素試作を実施している段階である。

3 情報通信研究機構

 情報通信研究機構では、平成20年度においても、国際超長基線電波干渉法事業(IVS)の一環として国際地球基準座標系の高精度化と地球姿勢パラメーターの高精度計測のための観測に参加することとしており、リアルタイムで観測データをネットワークによって伝送し、迅速に処理するための技術開発を進めて複数基線の実験に適用した実証実験を計画している。また、国内外の研究者と協力して偏波降雨レーダー(COBRA)などの地上レーダーを利用した研究を行っている。さらに、宇宙航空研究開発機構と協力して、全球雲エアロゾル放射収支観測衛星(EarthCARE)に搭載される雲レーダーや全球降水観測計画(GPM)の主衛星に搭載される二周波降水レーダーを開発している。

4 海洋研究開発機構

 海洋表面の二酸化炭素分圧を継続的に測定する自立型計測装置を製作し、運用に向けて現場における実証実験を実施している。

5 宇宙航空研究開発機構

 温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)については、平成20年度の打上げに向けて、衛星システムと温室効果ガス観測センサーの維持設計、プロトフライトモデル(PFM)の製作・試験などを実施している。また、全球降水観測計画(GPM)に搭載される二周波降水レーダー(DPR)については、データ処理システムの概念設計や地上試験用モデルの製作・試験を実施している。さらに、水循環変動観測衛星(GCOM-W)に搭載される高性能マイクロ波放射計2(AMSR2)の試作試験を実施している。

6 産業技術総合研究所

 産業技術総合研究所では、ジオグリッド上で、分散ファイルシステムに収納された衛星観測データと多種の観測データを組み合わせて高精度な幾何、放射量、大気を補正するシステムを開発している(第1部第1章第2節参照)。また、分散管理される地質データや地上観測データと統合し、火山、地震、地すべりなどの地質災害や土地利用・土地被覆変化、二酸化炭素の収支といった環境管理に関する情報を解析するパイロットアプリケーションを開発している。

第2節 共通基盤情報の整備

1 国土地理院

 国土の主な平野部、東海・東南海・南海地震による被害が想定される地域の土地条件図等については防災・減災の基礎資料として、三大都市圏の土地利用調査データについては都市域の宅地需給、緑地把握、環境評価などの基礎資料として利用されている。また、国土環境モニタリング事業において、空間分解能250メートルの月別植生指標データをホームページ上で公表しており、国土の環境変化の把握と開発のために広く利用されている。さらに、航空レーザー測量によって東京都区部等7地区の数値地図データが整備・提供されており、陰影段彩図の作成や河川災害等のシミュレーションに利用することができるほか、都市災害の防止対策等の基礎資料として利用されている。

2 宇宙航空研究開発機構

 陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)に搭載された各種センサーによって取得されたデータについては、次のとおり利用されている。

  • 1 国土地理院においては、地球全域の高分解能データが地図の維持・整備に資するデータとして利用されている。
  • 2 環境省及び農林水産省などにおいては、植生の分布や農耕地を把握するためのデータ画像として利用されている。
  • 3 内閣府及び警察庁などにおいては、緊急災害観測画像データとして利用されている。
  • 4 火山噴火予知連絡会(事務局:気象庁)においては、地殻変動量の抽出によって噴火前兆を把握するためのデータとして試験利用されている。
  • 5 海上保安庁においては、船舶の安全な航行に資するため、オホーツク海の海氷状況に関するデータとして利用されている。

3 産業技術総合研究所

 産業技術総合研究所では、国土の地質の実態を体系的に解明し、社会に提供するため、平成20年度には、国の知的基盤整備計画に基づいて実施してきた地質学的・地球物理学的・地球化学的調査研究の成果を公表することとしている。特に、各種の地質情報を統合して地質情報をより高度に利活用することができるよう総合地質情報データベースの整備・更新を進めるとともに、デジタル地質情報の標準化等における国際協力を推進することとしている。

第3章 個別の分野における地球観測の推進

 この章においては、「平成20年度の在り方」を踏まえて、個別の分野について、我が国における地球観測によって取得されたデータの利用状況を整理している。

第1節 地球環境

1 大気環境

(1)気象庁

 気象庁では、気候、温室効果ガス、日射放射などの観測や、サンフォトメーターやライダーによるエアロゾル、降水降下塵(じん)、オゾン層などの観測データを解析して公開している。これらのデータは、それぞれ国際的枠組みを通じて世界各国の研究者に利用されている。

(2)海洋研究開発機構

 海洋研究開発機構では、アジア地域における大気汚染物質に関する観測データを利用して、大気汚染物質の季節変化、輸送・化学的変質、領域規模の収支などの評価を実施している。

(3)産業技術総合研究所

 産業技術総合研究所では、父島で観測されたエアロゾル光学的厚さや黒色炭素濃度などに関するデータについて、研究目的で利用するとともに、ホームページ上で公表している。

(4)国立環境研究所

 国立環境研究所では、ミリ波放射計によって取得したオゾン鉛直分布データについて、データベースで公開するとともに、国際的な大気組成変化検出ネットワーク(NDACC)に提供している。これらのデータは、国内外の研究者に利用されている。
 また、有害紫外線モニタリングネットワークにおける観測データについて、ホームページ上で公表している。この観測データは、紫外線情報として一般に利用されるとともに、紫外線の長期的傾向、短期変動の要因に関する解析研究に利用されている。

2 海洋環境

(1)水産庁

 水産庁では、水産物の安定供給及び水産業の健全な発展に資するため、海洋環境に関する観測データを利用して、海流系の実態を把握し、漁場が形成される要因を解明している。また、漁況海況の情報分析と予報を迅速に提供するために、観測データを海況予測モデルの開発と運用等に利用している。

(2)気象庁

 気象庁では、北西太平洋及び日本近海における海水中の有害金属(カドミウム、水銀)、浮遊汚染物質、油汚染に関連する物質に関する観測データをホームページ上などで公表している。

(3)海上保安庁

 海上保安庁では、外洋に面した内湾域から外洋域までの汚染物質の拡(ひろ)がりを把握するための調査を実施し、成果をホームページ上で公表している。また、この観測データは、日本海洋データセンター(JODC)において管理・提供している。

(4)水産総合研究センター

 水産総合研究センターでは、関係機関の協力を得て、我が国の周辺の海洋物理観測データを集約し、海況予測システムの初期値を作成したりモデルを検証したりするために利用している。

(5)産業技術総合研究所

 産業技術総合研究所では、海洋の有害化学物質に関するデータを利用して、海洋大循環モデルと有害化学物質の収支を結び付けることによって人工化学物質の長距離輸送性を評価している。

(6)国立環境研究所

 国立環境研究所では、東シナ海などのアジア縁辺海において観測した表層水の水質、生態系などに関するデータをホームページ上で公表している。また、波照間島(沖縄県)において観測された化学物質に関するデータについて、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)の地域有効性を評価するため、アジア地域におけるバックグラウンドモニタリングデータの一つとして環境省に報告している。

第2節 生態系

1 陸域の生態系

(1)森林総合研究所

 森林総合研究所では、日本各地の天然林に設置した長期生態観測試験地における樹木の生存と成長、種子の生産や落葉の落枝量などのデータをホームページ上で公表している。これらのデータは、森林動態の比較研究などに利用されている。また、国際森林研究センターと共同して、衛星観測と地上観測によって東カリマンタンの試験林と周辺の森林情報や人文社会学的情報の収集を継続しており、熱帯林地帯の時系列的な空間変動分析に利用している。

(2)産業技術総合研究所

 岐阜県高山サイトにおける観測結果については、同地点での二酸化炭素収支の変動の解析に利用されているほか、大学等によって実施されている生態学的方法による二酸化炭素の収支量や衛星リモートセンシングによる観測の検証に利用されている。

(3)国立環境研究所

 国立環境研究所では、フラックス観測データとデータセットを一元的に整備・運用することによって、二酸化炭素の収支に関する研究の参考データとして利用するとともに、これに関連する分野に関する研究者に提供している。

2 海洋の生態系

(1)水産庁

 海洋の生態系に関する観測データについては、主に我が国の排他的経済水域における水産資源の変動要因を究明し、資源管理に貢献する基礎的な情報を提供するため、低次生態系モデルや水産資源動態モデルを統合した海洋生態系モデルの開発と運用等に利用している。

(2)海洋研究開発機構

 海洋研究開発機構では、海洋中・深層、海底における生物群集構造や周辺環境データについて、生物の分布と周辺環境の関係や極限環境生物の特性などに関する研究に活用している。今後、これらのデータを深海生物に関するデータベースとして公開することとしている。

(3)水産総合研究センター

 水産総合研究センターでは、海洋の生態系に関するデータをデータベースとして公開している。また、主に気候変動が海洋の生態系に与える影響を解析したり、低次生態系モデルを開発したりするために活用している。

(4)産業技術総合研究所

 産業技術総合研究所では、瀬戸内海の沿岸生物の長期変動の環境要因や生態系構造との関連の解析結果を公開し、沿岸環境変動の実態解明やモニタリング・評価手法の開発に利用している。

3 生物多様性

 森林総合研究所では、国内の森林生態系を対象として、樹木と林床植生に関する観測データをホームページ上で公表している。また、島嶼(しょ)や熱帯地域など生物多様性にとって問題がある地域を対象として、植生、昆虫、鳥獣類の観測データを公開している。これらのデータは、森林管理や生態系保護の施策ための基礎情報として活用されている。

第3節 大規模火災

 森林総合研究所では、アメリカ海洋大気庁(NOAA)が運用する衛星や中分解能分光放射計(MODIS)などを複合的に利用して、日本及び日本周辺の林野火災を把握している。これらのうち、日本で発生した火災については、即時に当該地方公共団体に通報するなど、大規模火災を未然に防止するために活用されている。また、これらの情報は、乾燥予報と合わせてホームページ上で公表されている。

第4節 エネルギー・鉱物資源

 産業技術総合研究所では、テラ衛星(TERRA)に搭載された高性能光学センサー(ASTER)と陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)に搭載されたフェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダー(PALSAR)を利用して全球のエネルギー・鉱物資源の探査に活用している。

第5節 森林資源

 林野庁及び都道府県が実施する森林資源モニタリング調査によって取得した樹木、下層植生などに関するデータについては、林野庁において国家の森林資源に関する情報として利用されている。また、森林総合研究所において、この調査情報を京都議定書に対応した日本の森林の温室効果ガス吸収量の算定に利用する手法を検討している。

第6節 農業資源

1 農業・食品産業技術総合研究機構

 中央農業総合研究センターでは、国内外に設置したセンサーネットワークから得られた画像や環境データをデータベース化するとともに、作物の生育状況や農作業状況などを把握するためのモデル開発を進めている。また、自動的に数えられた害虫の個体数や胞子数から害虫の日周行動や病害発生動向を把握している。
 農村工学研究所では、地すべりによる農地の変状を解析する技術やこれによって明らかになった地すべりのメカニズムを公表するとともに、各都道府県等に対して農地地すべり等の調査対策に係る事業に資するため、リアルタイム防災情報表示等を通じて情報を提供している。
 東北農業研究センターでは、インドネシアにおいて圃(ほ)場レベルの気象観測データや農作物収量データを取得して近年の気候変動と農作物収量変動との関係について解析している。

2 農業環境技術研究所

 農業環境技術研究所では、国内の農耕地における生態系に関する観測データについて、広域評価などに活用するとともに、データベースとして公開している。平成20年度には新たにアジア地域の観測データを公開する予定である。また、中分解能分光放射計(MODIS)や改良型高性能マイクロ波放射計(AMSR-E)によるデータについては、東・東南アジア地域の農地分布や栽培期間を把握するために利用したり、タイ東北部の水稲生産現況情報を検証するために利用したりしている。さらに、ラオスにおける焼畑の生態系に関するデータについて、生態系炭素ストックの実態を解明することなどに活用しており、今後、こうしたデータをデータセットとして公開することとしている。

3 国際農林水産業研究センター

 国際農林水産業研究センターでは、衛星観測によるデータを利用して、インドネシアにおける主要農作物作付け域に関する判別データの作成と時間的変動を解析している。また、中国黒龍江省を対象として、中分解能分光放射計(MODIS)によるデータ等を利用して、水稲作付け分布の把握と収量に対する影響の要因を組み入れた生産量の変動を評価している。さらに、モンゴルを対象として、衛星観測によるデータ等を利用して植生変動を時系列で解析している。

第7節 気象・海象

1 気象庁

 気象庁では、海洋気象観測船、運輸多目的衛星「ひまわり」(MTSAT)その他の手段によって取得した各種の海洋・海上気象観測データに基づき、海水温、海流、海氷、波浪に関する情報を提供している。また、全国の沿岸に設置した検潮所で潮位、津波、地球温暖化による海面水位の上昇を監視している。これらのデータを整理し、変化傾向等を評価したものを「海洋の健康診断表」としてホームページ上で公表している(第2部第1章第4節参照)。

2 海上保安庁

 海上保安庁では、日本管轄海域・西太平洋海域における海洋観測や沿岸域における潮位観測を実施し、これらの成果をホームページ上で公表している。また、観測データは、日本海洋データセンター(JODC)において管理・提供している。

3 情報通信研究機構

 情報通信研究機構では、気象観測について、400メガヘルツ帯ウィンドプロファイラーの研究開発を進めるとともに、沖縄本島の風速鉛直プロファイルの実証観測を実施している。また、海象観測については、遠距離海洋レーダーの研究開発や石垣島及び与那国島北部海域の黒潮の流速場・波高などの実証観測を実施している。

4 海洋研究開発機構

 海洋研究開発機構では、係留ブイ(トライトンブイ)、アルゴフロート、氷海観測用漂流ブイなどによる観測データをリアルタイムで気象機関等に配信し、一般にも公開している。また、海洋研究船による断面観測データについても公開している。これらの観測データは、国内外の研究者によってデータの解析やモデルの計算などの研究に利用されている。

第8節 地球科学

1 地球圏宇宙空間(ジオスペース)環境の観測の高度化・広域化

 情報通信研究機構が実施している電離圏や宇宙天気の観測などによって取得されたデータについては、航空管制、通信放送、人工衛星などを運用するために定常的に利用されているほか、国内外の研究機関において研究目的で利用されている(第1部第1章第2節参照)。

2 極域における大気に関する観測

(1)情報通信研究機構

 情報通信研究機構では、アラスカ(アメリカ)における大気観測によって取得されたデータについて、オーロラ等の外圏大気が地球大気に与える影響、下層大気と上層大気の相互作用を研究するため、国内外の研究機関で利用されている。

(2)国立極地研究所

 国立極地研究所では、極域で観測されたデ−タの所在情報とサマリープロットなどを公開している。これらのデータは、幅広い分野の国内外の研究者に利用されている。

3 極域及び海底・湖沼における堆(たい)積物に関する観測

(1)海洋研究開発機構

 海洋研究開発機構では、太平洋高緯度域の縁辺海などの海底で採取された堆(たい)積物に関するデータを利用して、年代の推定、過去の急激な環境変動、南半球の古環境変動との比較などを研究している。

(2)産業技術総合研究所

 産業技術総合研究所では、国土の基本情報の一つである海洋地質情報の整備を進めており、20万分の1スケールの海洋地質図等として公開している。また、成果の一部は、国際連合に提出する大陸棚延伸申請に係る海域大陸棚限界情報素案の作成に利用されている。

(3)国立極地研究所

 南極ドームふじ基地で掘削された氷床コアなどの試料については、幅広い分野の国内外の研究者に利用されている。

4 超深度環境における地球内部に関する観測

 海洋研究開発機構では、地殻内コアサンプルから遺伝子を抽出するために利用するとともに、今後、データベースとして公開する予定である。

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