第1部 地球観測の基本戦略に基づく地球観測等事業の推進

第1章 利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築

 この章においては、「平成20年度の我が国における地球観測の在り方」(以下「平成20年度の在り方」という。)を踏まえて、利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築に資する観点から、1連携拠点の設置に向けた取組等の推進、2具体的施策における分野間・機関間連携について、我が国における地球観測の実施方針を示している。

第1節 連携拠点の設置に向けた取組等の推進

1 地球温暖化分野に関する連携拠点

 温暖化分野に関する各種の施策の連携を一層推進するため、地球観測推進委員会(温暖化分野)の科学的助言を得ながら、地球観測に関する関係府省・機関連絡会議(温暖化分野)において、地球温暖化を監視・予測するために必要な観測ニーズを踏まえて実施計画を取りまとめることとしている。
 また、「平成20年度の在り方」を踏まえて、観測施設の相互利用(観測計画等の調整を含む。)、観測データの標準化(品質管理等)、観測データの流通の促進(インベントリー等の作成)、ワークショップ等の開催などを通じて、関係府省・機関間の連携を推進することとしている。
 こうした取組を実施することによって、地球温暖化分野に関する各種の施策の連携を一層推進することとしている。

2 地震及び火山分野に関する連携拠点

 地震及び火山分野においては、関係行政機関等の連携・協力が十分に図られている。今後、地震調査研究推進本部の事務局を務め、科学技術・学術審議会測地学分科会を所管する文部科学省が本部会との橋渡しの役割を担うことによって、この分野に関する連携拠点としての機能を一層強化することとしている。

第2節 具体的施策における分野間・機関間連携

1 観測の共同実施による分野間・機関間連携の促進

(1)電離圏観測ネットワークの構築

 情報通信研究機構、電子航法研究所、名古屋大学及び京都大学では、高度衛星測位利用を実現するため、電離圏の擾(じょう)乱の二次元分布を監視することができる光学観測装置を開発することとしている。
 「平成20年度の在り方」を踏まえて、国内外の機関と連携して東南アジア地域(タイ、インドネシア、ベトナム、中国南部)における電離圏の地上広域観測の充実を図るとともに、電離圏の擾(じょう)乱に関する情報をアジア・オセアニア地域と共有するため、データの相互利用について検討を進めることとしている。

(2)フラックス観測タワーの共同利用

 森林総合研究所、農業環境技術研究所、産業技術総合研究所及び国立環境研究所では、それぞれの機関で管理するフラックス観測タワーでの観測を継続し、データの共同利用を推進するとともに、国内の観測サイトとアジア地域等の観測サイトを連携させたアジアフラックスネットワーク活動を推進することとしている。
 特に、「平成20年度の在り方」を踏まえて、モニタリングサイトにおける観測システムの標準化と可搬型移動観測システムによるサイト間の比較に取り組むこととしている。

(3)辺戸岬スーパーサイトの共同運用

 国立環境研究所では、アジア地域の対流圏大気質の変化を研究するため、辺戸岬大気・エアロゾル観測ステーションを設置し、海洋研究開発機構、産業技術総合研究所、大学と連携して大気中のエアロゾル、オゾンなどの気体成分を観測している。
 平成20年度には、引き続き各機関の連携を強化しながら観測を継続するとともに、観測データのデータベース化を進めてデータの活用を図ることとしている。

2 観測技術の共同開発利用による分野間・機関間連携の促進

(1)大気汚染など都市環境のリモートセンシング技術の開発

 情報通信研究機構、国立環境研究所及び東京大学では、関東・首都圏を対象として都市域境界層の気流分布についてモニタリングするためのリモートセンシング技術を開発するとともに、大気汚染物質分布など都市環境の予測技術の開発・検証を進めることとしている。
 また、汚染物質の動態解明・予測が大気環境対策などと密接に関係することから、首都圏の地方公共団体等のニーズを具体的に調査して連携を図ることとしている。
 さらに、「平成20年度の在り方」を踏まえて、都市型集中豪雨やヒートアイランド現象の実態の把握やメカニズムの解明を行っている気象庁及び気象研究所との連携を進めることによって、都市型集中豪雨やヒートアイランド現象の理論モデル研究の検証などを目指している。

(2)温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)の開発利用

 環境省、宇宙航空研究開発機構及び国立環境研究所では、各府省・機関の連携を一層効果的に進めながら、温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)計画を着実に実施することとしている。
 今後、センサーデータの校正・検証が必要となることから、温室効果ガスに関する地上・海洋観測を実施する機関との連携を図るため、地球温暖化分野に関する連携拠点との連携を一層推進することとしている。また、GOSATを利用する研究課題を公募・採択し、国際的な連携によるデータ利用の推進体制を確立することとしている。

3 データ収集・共有・提供システムの開発による分野間・機関間連携の促進

(1)データ統合・解析システムの開発

 東京大学、宇宙航空研究開発機構及び海洋研究開発機構では、地球環境問題の解決に資する観点から、衛星観測や数値気候モデル等の大容量データ、地上・海洋観測データ、社会経済情報といった多種多様のデータを効果的・効率的に利用することができるよう、引き続き、ペタバイト級のストレージシステムを開発することとしている。
 また、「平成20年度の在り方」を踏まえて、このような集中型データシステムの有効性を実証するため、気候変動、水、生態系の各分野において科学的理解を深める情報を提供する機能を開発するとともに、分散型データシステムとの相互利用を図ることとしている。
 さらに、平成20年度には、アジア地域の水循環に関する観測データと社会経済データ等を統合・解析することによって、同地域における水資源管理や洪水・渇水による被害の軽減に資する情報を提供することとしている。
 なお、水災害の軽減に資する観点から、国際的な研究・情報ネットワーク活動を推進するため、国際的窓口である土木研究所水災害・リスクマネジメント国際センターとの連携を図ることとしている。

(2)ジオグリッド(GEO Grid)の開発

 産業技術総合研究所では、国土交通省、宇宙航空研究開発機構、森林総合研究所、国立環境研究所などと連携して、分散的環境の下で多様な観測データを統合するための技術開発を進めている。
 「平成20年度の在り方」を踏まえて、ストレージ容量とデータ処理・転送効率との関係に関する将来の展望を明確にするため、複数の分野におけるパイロットアプリケーションの開発を進めることとしている。また、観測データの提供者と利用者を結び付けるインターフェースとして機能することが期待されることから、平成19年に設置した連携会議を中核として、リソース(データ、アプリケーション、計算機資源など)の利用・管理に関する調整を図ることとしている。
 このほか、分野別の研究交流を推進するとともに、東・東南アジア地球科学計画調整委員会(CCOP)とも連携しながら技術開発を進めることとしている。

第2章 国際的な地球観測システムの統合化における我が国の独自性の確保とリーダーシップの発揮

 「平成20年度の在り方」では、総合科学技術会議「地球観測の推進戦略」(平成16年12月27日付け意見。以下「推進戦略」という。)及び「全球地球観測システム(Global Earth Observation System of Systems:GEOSS)10年実施計画」(以下「10年実施計画」という。)を踏まえて、国際的な地球観測システムの統合化において独自性を確保し、リーダーシップを発揮する観点から、地球観測に関する政府間会合(GEO)をはじめとして、地球観測に関連する国際機関・計画に対する我が国の貢献の在り方を示している。
 この章においては、1地球観測に関する国際的枠組み、2地球観測に関連する国際機関・計画に対する関係府省・機関の貢献について、基本的な考え方を示している。

第1節 地球観測に関する国際的枠組み

 地球観測に関する政府間会合(GEO)は、構造及びデータ委員会、能力開発委員会、科学技術委員会、ユーザーインターフェース委員会及び津波ワーキンググループなどの専門委員会等を中心に活動している。我が国は、引き続き、専門委員会等の活動においてリーダーシップを発揮することが必要である。文部科学省では、今後、各府省・機関が実施する地球観測等事業であって、「10年実施計画」を促進し、我が国が先導的に取り組んでいるものについては、新規タスクとして提案するなど、GEOの活動として位置付けることとしている。
 また、大学における地球観測の中には、全球地球観測システム(GEOSS)の構築に貢献し得るものも見られる。特に、地球温暖化分野や生態系分野については、多くの大学でGEOSSの構築に貢献する観測を実施している。文部科学省では、こうした大学における地球観測をGEOSSに位置付けるため、関係府省・機関、大学、大学共同利用機関及び学術団体等の協力を得て、平成21年春を目途にGEOSSに関するシンポジウム等を開催することとしている。
 さらに、地球観測衛星委員会(CEOS)は、GEOの観測ニーズを受けて衛星観測計画を国際的に調整し、技術的に検討することによって、GEOSSにおいて宇宙に関連する部分の構築を担っている。CEOSがGEOにおいて重要な役割を果たしていることにかんがみて、宇宙航空研究開発機構では、今後もCEOSの活動を推進することとしている。

第2節 地球観測に関連する国際機関・計画

 全球気候観測システム(GCOS)、全球陸面観測システム(GTOS)、全球海洋観測システム(GOOS)などの国際観測計画の重要性と我が国がこれまでに果たしてきた実績にかんがみて、気象庁、海洋研究開発機構、国立環境研究所では、引き続き、これらの国際観測計画に貢献することとしている。
 また、世界気候研究計画(WCRP)、地球圏−生物圏国際共同研究計画(IGBP)、アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)は、気候変動に関する政策決定に科学的根拠を与えるという重要な課題に取り組んできた実績にかんがみて、気象庁、文部科学省、環境省では、引き続き、これらの地球観測に関連する国際研究機関・計画に貢献することとしている。

第3章 アジア・オセアニア地域との連携の強化による地球観測体制の確立

 「平成20年度の在り方」では、「推進戦略」及び「10年実施計画」を踏まえて、国が推進している地球観測等事業であって、アジア・オセアニア地域を中心とした地球観測体制の構築や開発途上国に対する人材育成、基盤整備等による能力開発の支援に資するものとして、各府省・機関から提示されたものについて、災害、水、生態系、農業及び地球観測の共通基盤の分野に分けて今後の課題を提示している。
 この章においては、これらの課題を踏まえて、各府省・機関における国際協力の実施方針を分野別に示している。

第1節 災害

1 気象庁

 気象庁では、「平成20年度の在り方」を踏まえて、国際的枠組みの下で、アジア太平洋地域の防災機関等に津波情報を確実に提供することなどによって、災害分野における国際協力を推進することとしている。
 また、アジア・オセアニア地域における気象・気候災害の被害を軽減する観点から、国際的枠組みの下で、気象・気候(台風を含む。)の監視と予測に関する情報を提供するとともに、ワークショップ等の開催等によってアジア・オセアニア地域の気象機関等との連携を強化することとしている。

2 土木研究所

 土木研究所水災害・リスクマネジメント国際センターでは、「平成20年度の在り方」を踏まえて、洪水関連災害に対して脆(ぜい)弱な地域を対象として、水災害に関連する修士課程教育やハザードマップの作成に関する研修などを通じて地球観測情報の利用技術に関する教育研修や現地における適応支援を進めることとしている。

第2節 水

1 海洋研究開発機構

 海洋研究開発機構では、「平成20年度の在り方」を踏まえて、アジア太平洋地域においてデータの提供者と利用者を結び付ける観点から、平成20年度に海大陸レーダーネットワークによる観測データをリアルタイムで現地の気象機関や防災機関、各国の研究機関に配信することができるよう基盤整備を進めることとしている。

2 森林総合研究所

 森林総合研究所では、「平成20年度の在り方」を踏まえて、水文データの空白地域とメコン河中・下流域の関係機関と協力して、水文観測タワー地点などにおいて蒸散量、周辺の植生、地下水位の変動などの観測を継続することとしている。特に、熱帯季節林地帯に観測タワーを設置して常緑林地帯の観測データと統合された観測システムを構築することとしている。

第3節 生態系

 森林総合研究所では、「平成20年度の在り方」を踏まえて、アジアフラックスや日本長期生態学観測研究ネットワーク(JaLTER)の活動を通じて、日本とアジア地域の森林生態系を広域に観測するネットワークの構築に取り組むこととしている。特に、アジア地域における生態系・生物多様性に関する観測サイト間の連携を推進することとしている。

第4節 農業

1 農業・食品産業技術総合研究機構

 農業・食品産業技術総合研究機構中央農業総合研究センターでは、「平成20年度の在り方」を踏まえて、中国、韓国、タイ、マレーシア、インドなどと連携してセンサーネットワーク(フィールドサーバー)の改良と普及を進めることとしている。また、内蔵のカメラや各種センサーによって作物の生育状況、気温、湿度、土壌水分、二酸化炭素濃度など地上観測データを継続的に収集し、これらの観測データと衛星画像情報との連携が容易な形でデータベースを整備することとしている。

2 農業環境技術研究所

 農業環境技術研究所では、「平成20年度の在り方」を踏まえて、中分解能分光放射計(MODIS)、改良型高性能マイクロ波放射計(AMSR-E)などの衛星センサーによって東・東南アジア地域の農耕地分布や作物栽培期間を観測する体制を整備し、気象データと水文データを収集することとしている。また、水害や干ばつが水稲収量に与える影響や気象・気候変動と水稲収量との関係を明らかにするため、観測データを各種の生育モデルに活用することができるようデータベースの整備を進めることとしている。

3 国際農林水産業研究センター

 国際農林水産業研究センターでは、「平成20年度の在り方」を踏まえて、インドネシアの関係機関との連携を強化して主要農作物の作付け・生育状況を把握するとともに、農地における自然災害の危険度を評価して農作物生産変動を監視する技術を開発することとしている。また、中国黒龍江省における水稲作付けと収量変動をモニタリングするためのシステムを構築することとしている。さらに、モンゴルにおいて農牧システムと植生資源の変動との関係を解明するため、試験地を設営して持続的農牧業を実現するために必要な基礎的データを収集することとしている。

第5節 地球観測の共通基盤

1 国土地理院

 国土地理院では、平成20年度に地球地図の全球データが公開されることから、汎(はん)用性が高いフォーマットで地球地図データを提供したり、地球地図フォーラム等を開催したりするなど、地球地図の普及に努めることとしている。また、地球地図データが5年後に更新されることから、地球地図の更新技術を開発するとともに、地球地図セミナー等を通じて開発途上国に対する技術移転を実施することとしている。さらに、測地観測国際プログラムに貢献するため、引き続き、アジア太平洋GIS基盤常置委員会(PCGIAP)を拠点として国際測地キャンペーン観測(APRGP)を実施するとともに、これに加えて、GPS連続観測による観測網の構築を目指している。

2 産業技術総合研究所

 産業技術総合研究所では、共通基盤情報の整備の一環として、アジアの数値地質図の作成や全地球地質図ポータル(OneGeology)の下でデジタル地質情報の標準化等を推進することとしている。

次のページへ