資料6‐1 研究の発展段階に応じた研究開発資金制度の構築

科学技術・学術審議会
基本計画特別委員会(第9回)
平成17年2月25日

 科学の発展や連続的なイノベーションの創出を支えるための様々な政府の研究開発資金制度は、萌芽段階の研究から実用化に近い研究開発に至るまでを俯瞰的に捉えた上で、研究の発展段階に応じて、適切に構築されることが必要。

■研究の発展段階と研究開発資金制度(ファンディング・システム)

■第3期基本計画において採るべき主要な方策(ポイント案)
 1.研究の発展段階に応じた各制度の趣旨等の明確化
 2.第2フェーズを狙う新しい制度の推進
 3.研究成果を繋ぐ仕組みの構築

■研究の発展段階と研究開発資金制度(ファンディング・システム)

1.基礎研究

 基礎研究への政府の研究開発資金には、以下のように、研究者の自由な発想に基づく研究を支援するものと、特定の政策目的に基づく基礎研究を支援するものがあり、それぞれの意義を踏まえ、推進することが必要。

(1)研究者の自由な発想に基づく研究

○ 萌芽段階からの研究

  • 大学を中核として行われる研究者の自由な発想に基づく萌芽段階からの研究は、科学の発展とイノベーション創出の源泉。
  • 萌芽段階からの多様な研究を長期的視点から推進し、国全体として、新しい知を生み続ける多様性に富んだ重厚な知的ストック(多様性の苗床)を確保することが重要。
  • この段階の研究は、大学において、競争的資金の獲得に至るまでの構想段階の研究を保障し日常的な教育研究活動を支える基盤的経費と、目標・計画が明確になった研究を優先的・重点的に発展させる競争的資金(科学研究費補助金)により支えられるが、構想段階の研究は、主に大学の基盤的経費によって支えられており、競争的資金で代替することはできない。

○ 科学の発展を目指す成長期・発展期の研究

  • 研究者の自由な発想に基づく研究は、萌芽段階からの多様な研究を土台として、独創的な発想や新規性の高い着想から発展する本格的な研究段階(成長期・発展期)に至っていく。
  • 発展期のプロジェクトの推進においても、大学附置研究所、研究センターの整備等において、基盤的経費の果たす役割は大きい。また、特殊大型施設・設備を要する大規模研究の推進においては、研究者の発意を基に、国としても判断を行い、基盤的経費を措置することが重要。このように、大学の基盤的経費は、萌芽段階の研究から、成長期・発展期に至るまでの研究を一貫・継続して支えている。
  • 基盤的経費により大学に整備された研究基盤を活用しながら行う成長期・発展期の研究は、科学研究費補助金等によって支えられている。

(2)特定の政策目的に基づく基礎研究

  • 特定の政策目的に基づき政府が目標・目的等をあらかじめ示して行われる基礎研究は、研究者の自由な発想に基づく研究を土台として発展するものであり、中長期的なインパクトを踏まえた重点的な資源配分を行うとともに、個々の政策目的に応じた目的指向の基礎研究が進められることが重要。
    (次頁のとおり、国家的・社会的課題に対応した研究開発の一段階としても位置付けられる。)

2.国家的・社会的課題に対応した研究開発

 イノベーションの創出により社会的・公共的価値や経済的価値を生み出していく研究開発資金についての概念整理のため、以下の3つのフェーズに研究開発の段階を大別する。

1.特定の政策目的に基づく基礎研究のフェーズ【第1フェーズ】

  • 特定の政策目的に基づき、仮説や理論を形成するためまたは新しい知識を得るための段階であり、新しい科学的知見や技術的概念をもたらす。これによって、新しい応用や用途の可能性(選択肢)が提示されうる。
  • 科学的・技術的観点を中心とした評価が行われる。
  • 典型的には、成果は、論文として書き表され、公共財となるが、特許等により知的財産として保護される場合もある。

2.出口志向の研究開発であって、シーズと出口を結びつける不連続なフェーズ【第2フェーズ】

  • 基礎研究によって得られた科学的知見や技術的概念を基に、科学的・技術的ポテンシャルを高めつつ、より具体的な応用や用途への適用を試み、その技術的成立性を検証する段階。
  • 単に科学的・技術的ポテンシャルを高めるだけではなく、応用や用途とのより具体的な結合が始まるという意味において本質的に不連続性があり、ブレークスルーとして全く新しい革新的技術をもたらし得る。
  • 科学的・技術的観点のみならず、社会的観点、経済的観点を重視する評価が行われる。
  • 典型的には、目に見える形(材料、装置、製品、システム、工程等の試作など)として技術的成立性の検証が行われる。また研究開発の過程における成果は、特許等により知的財産として保護される場合も多い。

3.出口志向の研究開発であって、より出口が明確なフェーズ【第3フェーズ】

  • 具体的な応用や用途として、新しい材料、装置、製品、システム、工程等の導入または既存のこれらのものの改良を狙う段階。
  • 出口側からの具体的ニーズに近いため、改良、改善などの漸進的な研究開発や、技術的予見の範囲内での研究開発が多いことが特徴(ただし、この中から技術的予見を超える技術の飛躍的向上が起こることもありうる)。いわば、当該分野の技術ロードマップにあらかじめ組み込まれうる研究開発との特徴。各省の研究開発施策の連携効果を高めることが最も有効な段階。
  • 科学的・技術的観点のみならず、より社会的観点、経済的観点を重視する評価が行われる。

 これらの各フェーズにおける研究開発は、競争的資金などの外部研究開発資金や公的研究機関の運営費交付金等によって支えられており、多様な制度が存在する。また、政府の研究開発は、様々なフェーズで、産学官連携やそれを促進するための支援制度を通じて、民間企業の事業化へと繋がっていく。(検討用資料参照)

(注)研究→開発→生産→販売という市場までの一方向の流れを、原則としてすべて同一企業内で進めるといった、いわゆる組織の研究開発モデルとしてのリニア・モデルの議論があるが、本論点整理は、これとは異なる視点からの論点整理である。

■第3期基本計画において採るべき主要な方策(ポイント案)

1.研究の発展段階に応じた各制度の趣旨等の明確化

  • 研究開発は、研究の発展段階や出口の明確化の度合いに応じて、何を成果として求めるか等が異なるため、各研究開発資金制度(特に外部研究開発資金制度)は、対象とする研究の発展段階の特性を踏まえて、制度の趣旨、評価法、推進方策等を明確化すべき
  • 我が国の現行の競争的資金制度は、同分野の外部の専門家による科学的・技術的な観点を中心とした評価(ピアレビュー)に基づき課題を採択する制度とされているが、このようなピアレビューを主体とした競争的資金制度は、基本的に、基礎研究に適する制度である。より具体的な応用や用途への適用が始まる第2フェーズからの研究開発には、それに適した評価法や推進方策をもつ制度が必要。

(参考)「競争的資金とは、資金配分主体が、広く研究開発課題等を募り、提案された課題の中から、専門家を含む複数の者による、科学的・技術的な観点を中心とした評価に基づいて実施すべき課題を採択し、研究者等に配分する研究開発資金をいう。」(「競争的資金制度改革について」、総合科学技術会議、平成15年4月)

  • なお、基礎研究を支える競争的資金において、研究者の斬新なアイディアに基づく比較的リスクの高い研究を推進する場合には、詳細な研究計画に基づく審査より、人物やアイディア本位の審査が重要となることがある。そのため、配分機関は、適切な審査基準を設け、制度の趣旨に応じ責任と裁量を持って課題を選定することも有効であることに留意する必要がある。

2.第2フェーズを狙う新しい制度の推進

  • これまでの競争的資金の拡充等により、研究水準は着実に向上し、我が国の知の創造の基盤は充実しつつある。知の創造の基盤をより強固にしつつ、今後は、成果の社会への還元を進める観点からも、創出された科学的知見や技術的概念が、目に見える形となって経済社会で活用されるようにすることが必要
     一方、我が国の競争的資金以外の外部研究開発資金は、大宗が技術的予見を基にロードマップの策定が可能な範囲の第3フェーズの研究開発と考えられる。我が国が自らの研究成果からブレークスルーとして全く新しい革新的技術を生み出し、自らの競争力確保につなげていくためには、第1フェーズと第3フェーズをつなぐ、第2フェーズの研究開発の強化が不可欠
  • このため、既存の制度の趣旨等の明確化を図りつつ、第2フェーズを狙う外部研究開発資金制度を、「技術革新型公募資金制度(仮称)」として再整理し、抜本的に拡充する
     技術革新型公募資金制度(仮称)は、基礎研究の成果の蓄積から有用な革新的技術を生み出すものであり、
    ※ 研究開発により、科学的・技術的ポテンシャルを高めるだけでなく、最終的には目に見える形で技術的成立性を検証する段階まで到達することを狙って推進する。
    ※ 従って、出口を踏まえた明確な目標設定や適切な研究進捗管理を行う必要があり、科学的・技術的観点のみならず、社会的観点、経済的観点を重視した評価が行われる。
    ※ 典型的には、研究代表者とは別に、責任と裁量あるプログラム・マネージャー(PM)を設け、PMが出口志向で可能性を発掘する段階から、課題の選定、研究者・研究組織との調整、研究進捗管理等の段階までを一貫して担う制度が考えられる。
  • 技術革新型公募資金制度(仮称)としては、
    1.既存の基礎研究の成果を、具体的な応用や用途と結びつけ、技術的成立性の検証に至るもの
    ⇒ (第2フェーズにおける制度)
    2.高い応用可能性のポテンシャルが想定される技術の種を基礎研究の段階から育てるに留まらず、研究の進展にあわせてより具体的な応用や用途への適用を行い、技術的成立性の検証に至るもの
    ⇒ (基礎的段階から第2フェーズを明確に狙う制度)
    が考えられる。
  • さらに、上記2と同様の段階を担う別の形態として、大学や公的研究機関等を中核とした研究拠点の形成を目指し、計画段階から内外の英知を結集して、経済社会ニーズや課題を踏まえた先端的な融合領域であって重要な研究領域を設定するとともに優秀な人材の結集による積極的な分野融合を図った時限的・弾力的な組織編成を行い、優れた研究、人材養成が行われる場を設けることによって、基礎的段階からの研究を展開する方式が考えられる(先端融合拠点形成型制度(仮称))。このうち、産学双方にとって魅力ある領域の研究拠点の形成においては、計画段階から運営段階まで産業界の積極的な関与が必要である。このような方式は、実質的な産学官連携による研究の推進、産学の垣根を超えた人的交流や、先端的で実践的な研究に触れることを通じた優れた研究人材の養成に大きく寄与すると考えられる。

3.研究成果を繋ぐ仕組みの構築

  • 競争的資金等の様々な研究開発において生み出された研究成果のうち、次の段階にある制度や公的研究機関等の研究開発に活用されることにより、イノベーション創出が加速される可能性があるものが少なからず存在すると考えられるにも関わらず、既存の研究成果の活用については、研究開発プロジェクト立案時の単発的な技術調査や学会における情報交換等といった研究者の自発的な取組みに専ら依存している場合が多いと考えられる。研究成果をより積極的に繋ぐ仕組みが存在しないため、優秀な成果が死蔵されてしまうことも懸念される。
  • 従って、基礎研究からイノベーションの創出まで切れ目なく研究開発を支える各種制度を確保した上で、イノベーション創出を更に強力に推進するため、大学や公的研究機関の研究成果や、ある制度で生み出された研究成果が、適切に次の制度等で活用されるような、「繋ぐ仕組み」が必要

(参考)

<繋ぐ仕組みの検討例>

  1. 各制度で生み出された研究成果について、更なる応用可能性の情報を抽出・集約したデータベースを構築する。成果報告書や事後評価等には必ずしも他制度で活用可能な応用可能性の情報が含まれていないと考えられるため、具体的には、研究代表者が自ら行うプレス発表等の情報を利用することとし、制度所管機関がデータベース化するとともに、研究者にはデータベースへの登録にふさわしい情報をプレス発表等に含めることを奨励する。
  2. 受け手側の外部研究開発資金制度のプログラム・オフィサー(PO)やプログラム・マネージャ(PM)等は、広く大学や学会等の研究成果を調査するよう努めるとともに、上記のデータベースを積極的に活用して、公募の設計やプロジェクトの立案を行う。また、配分機関において、そのような調査分析を行い、各制度に積極的な情報提供を行う機能(例えば、コーディネータ)を強化することも考えられる。
    公的研究機関においても、新たな研究開発プロジェクトの立案時に、必要に応じて広く大学や学会等の研究成果を調査するよう努めるとともに、データベースを積極的に活用する。また、公的研究機関の中でそのような調査分析を行う機能を必要に応じて強化することも考えられる。

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科学技術・学術政策局計画官付

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(科学技術・学術政策局計画官付)