2.3つの「海洋政策のあり方」の進捗の確認

 答申では、我が国における海洋政策のあり方として、

を掲げ、今後10年を見通し、上記の3つのポイントを重視し日本の海洋政策を企画・立案し実行していくことが最も重要であると提言している。ここでは、これらのポイントがこの5年間でどの程度進捗したかを確認する。
 このうち、『「海洋を知る」「海洋を守る」「海洋を利用する」のバランスのとれた政策へ転換する』については、「海洋を知る」ことが「海洋を守る」「海洋を利用する」のベースとなっているが、第3期科学技術基本計画においても、海洋が重要な施策の1つとして位置づけられている。今後も、「海洋を知る」「海洋を守る」「海洋を利用する」のバランスをとり、着実に施策を進めていくことが重要である。例えば、大型クラゲについては、近年日本沿岸で大量出現し、日本の漁業に大きな被害を及ぼしているという事例がある。原因として、発生源水域といわれている東シナ海・黄海沿岸の富栄養化、海水温上昇などの説が挙げられているが、大型クラゲの発生原因や日本沿岸への出現過程などは明らかになっていない。このため、発生・出現過程の科学的解明を進めながら、その成果を活用しつつ効果的に漁業被害防止対策を推進しており、「海洋を守る」「海洋を利用する」側のニーズが「海洋を知る」ことを促進させ、「海洋を知る」が「海洋を守る」「海洋を利用する」に貢献する、という好循環になっている。また、国家基幹技術である「海洋地球観測探査システム」は海洋などのデータを地球観測のほか、災害監視、資源探査という観点からユーザーに情報を提供することを計画しており、「海洋を知る」ことが「海洋を守る」「海洋を利用する」両方に資することになる。
 次に、『国際的視野に立った戦略的な海洋政策を実施すること』については、国際的な宣言やトピックスなどに常に注意しつつ、多国間・二国間の国際的な協力が進められている。1992年にブラジルのリオ・デ・ジャネイロにおいて開催された「国連環境開発会議」(92’リオ地球サミット)は、環境と開発は不可分の関係にあり、持続可能な開発のためには環境の保全が不可欠であるとする新たな概念「持続可能な開発」を提唱し、それを達成するための行動計画「アジェンダ21」を採択した。また、2002年に南アフリカのヨハネスブルクにおいて開催された「持続可能な開発に関する世界首脳会議」(「地球サミット2002」、WSSD)は、「アジェンダ21」の実施状況を点検し、今後の取り組みを強化することを目的としたものであるが、「持続可能な開発に関するヨハネスブルグ宣言」の中でも「持続可能な開発」の精神が活かされている。答申においても「持続可能な海洋政策」を重要な視点と位置づけており、今後もこの概念を踏まえた海洋政策の実施が求められる。
 多国間・二国間の国際的な協力として、統合国際深海掘削計画(IODP)のように、米国と並んで日本が国際プロジェクトを牽引している例もある。
 また、アジア、特に東アジアの海洋環境協力の国際的枠組みに積極的に参加することが、戦略的な海洋政策という観点からも重要である。東アジアには海洋に関するいくつかの国際的枠組みがあるが、日本も参加している東アジア海域環境管理パートナーシップ(PEMSEA)は2003年の閣僚級会合で「東アジア海域の持続可能な開発戦略」が採択され、2006年の閣僚級会合では「東アジア海域の持続可能な開発に関する海口(はいこう)パートナーシップ合意」が署名された。経済発展の著しいアジア大陸の周辺海域における環境負荷の影響の解明を進めるため、上記のような国際的合意を受け、日本も各種取り組みを行っており、今後、更なる取り組みが求められる。
 最後に、『総合的な視点に立って我が国の海洋政策を立案し、関係府省が連携しながら施策を実施すること』については、海洋基本法の制定に基づき、総合海洋政策本部が発足している。総合海洋政策本部は、海洋に関する施策を集中的かつ総合的に推進するため内閣に設置された組織であり、内閣総理大臣を本部長、内閣官房長官及び海洋政策担当大臣を副本部長とし、全閣僚を本部員としており、政府一体となって海洋政策を実施する体制が整った。また、各省の連携が進んでいることも挙げられる。府省レベル、研究機関レベルでも積極的な連携が進み、施策に関する総合的な視点がより強調されている。

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