答申から現在まで、政府は様々な海洋に関する取り組みを行ってきた。ここではこれらの取り組み組状況を、海洋保全、海洋利用、海洋研究、海洋基盤整備の4つに分けて確認するとともに、今後重点的に取り組むべき事項を整理した。
20世紀における先進国を中心とした大量生産・大量消費・大量廃棄の結果として生じた海洋汚染、生態系の攪乱などが生じていることは答申で述べられたが、これを克服すべく、政府は持続可能な海洋利用を目指し、海洋保全の観点も含めた各種施策を進めてきた。海洋を保全するためには、現在の自然環境を維持・回復することが大切であり、その中で今後、人類が安全で快適に生活できる社会を構築するとともに、海洋から受ける多様な恩恵を後世に継承することを目指すことが重要である。
答申において、自然が持つ物質循環システムの機能を正常に保ち、人間活動による環境負荷が海洋の有する浄化能力や生産力等が持つ復元力を越えない範囲に保つことが重要である、としている。
閉鎖性海域における環境改善事業の推進については、例えば東京湾においては2002年に設置された東京湾再生推進会議が行動計画をまとめており、大阪湾、伊勢湾及び広島湾についても、関係省庁及び関係地方公共団体からなる再生推進会議により各海域の再生のための行動計画が策定され、施策が進められている。また、汚濁負荷を削減するための取り組みとして、下水道等の普及や合流式下水道の改善、下水道等の高度処理の導入等の施策や、河川では汚泥浚渫や河川浄化施設の整備等が進められた。特に、水環境の悪化が著しい河川等においては、第2期水環境改善緊急行動計画(清流ルネッサンス)により、関係者が一体となって水環境の改善が進められた。また、海岸では生息生育する動植物や景観に配慮した海岸保全施設の整備や汚染の著しい海域等におけるヘドロ等の除去、覆砂等の施策が進められた。
今後も行動計画に基づいた施策を推進することが重要であるが、閉鎖性海域は汚染されやすく回復が難しいという特性に鑑み、内湾の水質環境のモニタリングも含めた積極的な対応が求められている。行動計画には陸域負荷削減策の推進など、海域のみでなく陸域も考慮するという記載がなされており、引き続きこれらを踏まえた対応を推進することが重要である。
また、藻場の現状把握と長期変遷の解明及び減少要因の究明を行うとともに、資源評価手法の確立及び適正な管理に必要な環境条件の把握等の取り組みがなされている。
今後も引き続き、日本沿岸域における生物多様性を含む海洋環境の保全を総合的に推進するため、干潟・藻場・サンゴ礁の分布状況をはじめとする海洋環境に関する科学的データを取りまとめるとともに、それらの浄化機能、生産機能を解明し、豊かな生物多様性に立脚した日本の漁業資源を持続的に利用するための資源管理手法を確立することが必要である。
自然に分解されにくく、生物濃縮によって人体や生態系に害をおよぼす恐れがあるダイオキシン等の有害化学物質は、ひとたび海洋に流入すると自浄作用が働かず、長期にわたって海洋中に残留し環境に悪影響を与えることから、その科学的解明が必要である。このため、海洋環境モニタリングにより重金属類等の分析を行い、日本周辺海域における汚染の広がり等、海洋の状況及び経年的変化の把握が実施されている。
今後も引き続き、海洋におけるダイオキシン類の蓄積状況の把握、蓄積のメカニズムの解明、環境ホルモンと呼ばれる内分泌かく乱物質の影響実態の把握を実施していくことが重要である。
エネルギー資源に限りのある日本では、そのエネルギーの多くを中東の原油に頼る部分が依然として多く、タンカーによる原油の運搬はエネルギー安全保障の観点からも重要である。しかし、ひとたび原油がタンカーから流出すると甚大な海洋汚染につながり、その対策が求められている。このため、国際海事機関(IMO)・第50回海洋環境保護委員会(MEPC50)において、船底を二重にするダブルハル化の期限の前倒し及び重質油を運搬するシングルハル油タンカーの排除を内容とする決議が採択され、国内法への取り込みが実施された。また、大規模油流出事故への対応として、2000年に建造された「海翔丸(北九州港)」に続き、2002年に「白山(新潟港)」、2005年に「清龍丸(名古屋港)」が建造され、国内に3隻の大型浚渫兼油回収船が配備され、概ね48時間以内に日本の周辺海域の現場まで到着できる体制が構築された。
さらに、MEPC50においては燃料油タンクの防護措置を義務付ける決議が採択され、2007年8月から発効されており、今後、日本でも積極的な対応が求められる。
発生負荷削減への取り組みについては、下水道等の普及や合流式下水道の改善、下水道等の高度処理の導入等の施策が進められるとともに、2006年11月に開始された第6次水質総量規制を考慮し、三大湾における流域別下水道整備総合計画基本方針の策定や2003年9月には流域別下水道整備総合計画に基づく水質環境基準の達成が計画的に実行されるよう下水道法施行令の改正が進められた。また、河川では汚泥浚渫や河川浄化施設の整備等の施策が進められた。
沿岸域における海洋保全の取り組みについては、国土交通省が沿岸域の総合的な管理について沿岸域総合管理研究会(2001年12月〜2003年2月)等を開催し検討が進められた。
また、沿岸域の清掃活動の推進については、河川及び海岸において市民と連携した清掃活動、不法投棄の防止に向けた啓発活動などが進められるとともに、2004年2月からは多様な関係者が参画するイベントが開催され、海岸の美化について地域住民やボランティア等の協力を得ながら進める方策について検討された。大規模な漂着ゴミに対しては、海岸保全施設機能阻害の原因となることから、災害関連緊急大規模漂着流木等処理対策事業の対象が拡充された。また、災害等廃棄物処理事業費補助金についても拡充し、災害に起因しない海岸への大量の廃棄物の漂着について、その処理を市町村が行う場合、当該事業費を補助対象とした。
海洋に関わる周辺環境の保全については、河川が本来有している生物の生息・生育・繁殖環境及び多様な河川景観を保全・創出する多自然川づくりなどが進められた。
今後も引き続き、これらの取り組みを踏まえ、陸域・海域・大気等からの負荷の削減に努めていくことが重要である。
海事の国際化が進むにつれ、従来は予想もしなかった「バラスト水の国際間移動」という問題が発生した。バラスト水とは空荷のときの船体バランスを安定させたり、航行中にプロペラが海水面上に出たりしないよう、船体内のバラストタンクに入れる海水のことであるが、これを日本に戻ってから放出すると、現地での海洋生物の環境を日本に持ち込んだのと同じことになる。このような形で外来生物種が日本の近海に生息し、在来種の絶滅や生態系のかく乱など生物環境に影響を与えることになる。このバラスト水問題を抜本的に解決するため、バラスト水を積まなくとも安全に航行できるノンバラスト船の研究開発が2003年度から2005年度に実施された結果、船底傾斜船型が開発され、ノンバラスト船は在来船と比較しても推進性能、強度等に問題がないことが確認されている。
また、老朽船舶の処分にあたっては、資源として活用するとともに、その過程で生じる廃棄物を適切に処理し、環境負荷の低減を図るような船舶のリサイクルを推進する必要がある。MEPCにおいては、2006年3月から環境に配慮したシップリサイクル新条約の審議が始まっており、2009年に採択されることになっている。
今後は、IMOにおいて採択されたバラスト水の管理規制条約の早期発効を目指すとともに、ノンバラスト船については研究開発の結果を受け、実用化・普及に向けた取り組みを行うことが重要である。その際、この問題は優れて国際的な問題であることから、国際協力を進めた上で実態調査を行うことが重要である。老朽化船舶の処分についても、今後とも引き続き積極的な対応が求められる。
また、市民レベルでの生態系の攪乱(かくらん)防止について、日本魚類学会では、2005年に生物多様性の保全を目標とした放流ガイドライン「生物多様性の保全をめざした魚類の放流ガイドライン」が策定された。この中で、希少種や自然環境の保全を目指し、各地で盛んに行われている魚類の放流が、生態系に対して有害な場合があり、その対策が講じられた。また、市民レベルでの稚魚放流等の取り組みの際にも、本ガイドラインが適用されている。
答申において、海洋利用の際には、持続可能な海洋の利用を図るため、できる限り環境の維持・回復が図られるよう必要な措置を講ずることが必要である、としている。また、美しく、安全な海岸を次世代に継承するため、海岸の防護に加え、海岸の環境の整備と保全及び海岸の適切な利用の確保を図り、これらを調和させた総合的な海洋の保全を推進することが重要である、としている。さらに、地球温暖化等地球規模の環境変動に対応するための取り組みを行うことが重要である、としている。
余剰土砂等の海岸侵食対策への有効活用の推進については、日本の沿岸には海岸侵食等により砂浜が消失しているところがある一方、港湾等において浚渫が必要な箇所があるなど砂が余剰しているところもあり、そのバランスをとる必要がある。このため、漁港、港湾やその周辺等に堆積した砂を海岸侵食箇所へ効果的・効率的に輸送・排砂するサンドバイパス等の海岸侵食対策が実施された。
また、土砂収支の不均衡を是正していくことが重要であり、ダムでは排砂管・排砂ゲートの設置、砂防では適切な土砂を下流へ流すことのできる砂防えん堤の設置や既設砂防えん堤の透過化、河川では河川砂利採取の適正化、海岸ではサンドバイパスなど山地から海岸までの一貫した総合的な土砂管理に関する取り組みが進められており、今後も引き続き取り組んでいくことが重要である。
海岸侵食の対策技術の開発については、2004年に漂砂を制御する施設である人工リーフの照査手法について取りまとめた「人工リーフの設計の手引き」の策定などが進められた。自然と共生する海岸整備の推進については、「自然共生型海岸づくりの進め方」(2003年3月)や「海岸景観形成ガイドライン」(2006年1月)が策定され、海岸周辺において生息生育する動植物や景観に配慮した海岸保全施設の整備などが進められた。
改正海岸法に基づく海岸保全の推進については、2000年5月に策定された海岸保全基本方針に沿って、防護、環境、利用の調和のとれた海岸保全が進められている。
今後も引き続き、これらの取り組みを踏まえ、海洋利用等における環境配慮の取り組みを進めることが重要である。
地球温暖化による海面上昇等が沿岸域に及ぼす影響等については、海洋観測等により得られたデータから、温暖化による極域の海氷縮小、太平洋深層の海水温上昇、海面水位の上昇、海洋生態系への影響等の数値実験が実施され、その研究成果は、2007年にノーベル平和賞を受賞した「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第4次報告書において多数引用された。これには「地球シミュレータ」の性能を最大限に活用している「人・自然・地球共生プロジェクト」が大きく貢献した。また、国土保全の観点からも、2001年8月に設置された有識者の研究会「地球温暖化に伴う海面上昇に対する国土保全研究会」において対応策が検討されており、2007年7月には国土交通大臣が「気候変動に適応する治水施策のあり方について」を社会資本整備審議会に諮問し、社会資本整備審議会河川分科会に「気候変動に適応した治水対策検討小委員会」が設置され、同年11月に「水関連災害分野における地球温暖化に伴う気候変動への適応策のあり方について(中間とりまとめ)」がまとめられた。
今後も引き続き、海洋研究船、ARGOフロート、トライトンブイあるいはアジアに展開した観測拠点等による観測を継続し、そのデータを地球環境予測研究において活用することが重要である。また、地球環境の数値モデルの高度化を図り、変動予測精度の向上を図ることが重要であり、IPCCの第5次報告書に向け、2007年度から開始された「21世紀気候変動予測革新プログラム」等による積極的な対応が求められる。2005年度から開始している「海洋の健康診断表」のような分かりやすい取り組みも、継続的なデータ収集、市民への理解増進の観点からも重要であり、引き続き提供することが求められる。
沿岸防災の観点からの監視及び対策方針の策定については、潮位、波高、打ち上げ高等を的確かつきめ細かに予測する高潮情報システムの構築や潮位・波高データを共有化するシステムの整備等が進められた。ハード・ソフト両面による防災対策の推進については、海岸保全施設整備事業等が実施されるとともに、2005年度には「津波危機管理対策緊急事業」、2006年度には「津波・高潮危機管理対策緊急事業」、2007年度には「海岸耐震対策緊急事業」が創設され、津波、高潮、波浪による災害防止のための各種施策が講じられた。特に、津波・高潮危機管理対策緊急事業では浸水想定区域調査を補助する等、津波・高潮ハザードマップの作成支援が進められた。さらに、2004年3月に「津波・高潮ハザードマップマニュアル」が策定され、津波や高潮に対するハザードマップの全国的整備が促進された。2006年3月には「水門・陸閘等管理システムガイドライン」が策定され、水門等の自動化、遠隔操作化等が推進されるなど、津波・高潮災害に対するハード・ソフト一体となった取り組みが進められてきた。
今後も引き続き、これらの取り組みを踏まえ、気候変動に対応するための沿岸防災の取り組みを進めることが重要である。
また、大気中の二酸化炭素の量を制御するためにも二酸化炭素等の海洋隔離は十分検討すべき課題であり、二酸化炭素を水深1,500〜2,500メートルに放出した場合の、海水に溶解する際の挙動予測モデルが開発された。また、海洋における二酸化炭素の隔離能力の評価を行った。さらには、人工的に栄養塩に富む深層水を表層に上昇させた海域における、効率的な二酸化炭素吸収方策提案のための二酸化炭素吸収量評価技術が開発された。
一方、二酸化炭素の隔離は海底下を含めた地中貯留についても技術面・制度面からの検討が進められた。2006年11月には「1972年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約(ロンドン条約、1975年に発効)の1996年の議定書」の附属書の改正が行われ、二酸化炭素の海底下地層への貯留が認められた。本条約改正に伴う国内法整備も行われており、国内外における環境整備を進めることが重要である。国内では、長期的かつ安全に二酸化炭素を地中に貯留する技術を確立することを目的に、陸域を対象として「二酸化炭素地中貯留技術研究開発」が2000年度から推進されている。
今後は、陸域及び海底下地層を対象に、長期的かつ安全に二酸化炭素を地中に貯留する技術を確立する取り組みを進めることが重要である。
答申において、自然環境保護や海洋環境の創造に向けた取り組みを積極的に推進するためには、海洋環境の社会経済的な価値を多角的な観点から定量的に評価し、環境価値評価手法の高度化等の環境保護についての施策を合理的かつ効果的に行う必要がある、としている。
自然保護を推進するための手法の検討については、自然環境保全法に基づき、概ね5年ごとに、海域を含む自然環境全般を対象とした自然環境保全基礎調査が実施され、海域における生物多様性保全施策の策定・実施のための基礎資料として活用されるとともに一般に広く提供されている。また、2002年3月に決定された「新・生物多様性国家戦略」に基づき、2003年度より、全国の重要な生態系を含む地域をモニタリングサイトとして1000箇所が設定され、動植物やその生息・生育環境の長期的なモニタリングが開始されている。
今後、2007年11月に閣議決定された「第三次生物多様性国家戦略」に基づき、日本における生物多様性の保全施策を推進するため、海洋環境データの収集・整理及び保全施策や再生技術のレビューを行うことが重要である。また、海域をはじめとしたすぐれた自然景観の評価方法について検討を行い、国立・国定公園の指定の見直しを進める必要がある。
海洋利用は「海洋を知る」及び「海洋を守る」と有機的に連携した要素の中でとらえ、海洋環境の保全及び国際貢献に特に留意し、効率的な海洋利用施策を実施することが重要である。
答申において、海洋利用の基本的考え方としては、海洋環境保全との調和を図ること、総合的視点から検討・調査分析し、海洋の保全修復を行いつつ一定の制限のもとで利用する「総合的な管理」を行うこと、長期的な視点に立って市民一人一人の利益となる利用を行うことが不可欠で、総合的視点に立って異なる分野の利用施策と連携することが重要である、としている。また、特に海洋生物資源については国連でも様々な検討が進められていることから、そのような動きを注視した上で国内の取り組みを進めることも重要である。
「持続可能な」は近年の各種開発のキーワードであるが、海洋利用の分野でも十分留意すべき点であり、水産資源、海洋生物資源ともに持続可能な利用を図ることが重要である。
答申において、水産物の安定供給と水産業の健全な発展を図るため、水産基本法の示す方向に沿って、水産資源の適切な保存管理、水産動植物の増養殖に重点的に取り組み、生態系全体の維持、環境汚染の防止等に配慮しつつ、海洋生物資源の持続的な利用を図ることが重要である、としている。
水産基本法においては、日本の排他的経済水域等における水産資源の適切な保存・管理、水産動植物の増養殖の推進等に重点的に取り組むことにより、海洋生物資源の持続的な利用を図ることが重要である、としている。今後、水産資源の持続的な利用の推進に当っては、「第2期」水産基本計画(2007年3月閣議決定)の内容も踏まえ、適切に対応する必要がある。
これまで、緊急に回復が必要となる魚種を対象として、漁獲努力量削減、資源の積極的培養、漁場環境の保全などを記載した資源回復計画が策定され、水産資源の回復の取り組みが進められた。また、水産資源の中でも価値が高いとされるマグロ類について、5つの国際的な地域漁業管理機関において科学的根拠に基づく保存管理措置が設定され、保存管理と持続的利用の推進が図られた。
水産資源は保全するだけではなく積極的に培養することも重要であり、放流種苗の生産技術の開発及び放流効果を高めるための実証試験が実施されるとともに、さけ・ますの個体群維持のためのふ化放流が実施された。
また、漁場環境の悪化を招かない持続的な養殖生産を実現するため、漁場改善計画の策定が促進されるとともに、低環境負荷飼料の開発、及び魚類養殖と藻類養殖との複合養殖技術開発が実施された。
今後も、魚種の資源回復計画を積極的に推進し、着実な資源回復を図るとともに、水産資源の培養・養殖も推進することが重要である。養殖については、2007年度からクロマグロの人工種苗による新規養殖技術の開発が推進されるとともに、引き続き行われる漁場改善計画の策定の促進、低環境負荷飼料の開発や魚類養殖と藻類養殖との複合養殖技術の開発と併せ、積極的に推進する必要がある。
水産資源以外の海洋生物資源について国連でも様々な検討がなされており、資源量を把握し生態系全体のバランスを考慮しつつ海洋生物資源を持続的に開発・利用することが重要である。
地球上に存在する微生物の中で、分離、培養できるものは1パーセントに満たないと言われており、海洋中も含め多数存在する未知の微生物、遺伝資源の中には、産業に役立つ可能性を持つものがあると考えられている。このため、海洋中も含め未知の微生物、遺伝資源を分離、培養するために必要な様々な新しい手法が開発され、海洋微生物、遺伝資源も含めたライブラリーが作成され、産業界等に分譲されている。
深海・地殻内に生息する未知の微生物は高温・低温・高圧といった極限環境で生息しており、その生態を研究・分析することは原始生命の起源の解明や産業に役立つ微生物の発見につながる可能性を持っている。これらを分離、培養する新しい方法が開発され、得られた深海微生物株や海底泥等のサンプルが保存され、共同研究を通じて研究者に提供された。
今後も引き続き手法開発や研究を推進することにより、生物の機能、極限環境と生物の関係、生物の多様性と深化についての研究を実施し、その成果により、生物機能を利用した有用物質等の産業応用を推進することが重要である。
答申において、循環型社会の実現に適応するため、再生可能エネルギー・資源の利用推進に重点的に取り組むことが重要であり、海洋に広く分布する風力・波力・潮力・温度差・太陽光等のエネルギーの利用や、栄養塩に富み、清浄で、低温安定性のある海洋深層水の利用の促進に取り組むことが重要である、としている。
海洋における風力エネルギーを利用した洋上風力発電は、陸上の風力発電と比べ比較的安定した電力供給が期待できるものの、他の発電方法に比べて依然として不安定である。
このため、年平均風速が高精度で予測できる「局所風況予測システム」が開発されるとともに、不安定性の解決のため、風力発電所に蓄電池を併設した実証研究が実施中であり、更に気象予測を活用した風力発電量予測システムの開発が着手された。
今後も引き続き、蓄電池を併設した風力発電所の運転に関するデータを取得・解析することにより安定供給を目指し、発電量予測システムの開発を進めることが重要である。
また、波力・潮力発電を積極的に推進している海外の動向を注目しつつ、日本の海域特性を考慮したエネルギー技術の開発について、沖合浮体式波力装置「マイティホエール」の開発で得られた知見も活かした上で、必要に応じ、支援の可能性を検討することが必要である。
再生型資源の利用として取り組まれた主なものは海水淡水化技術の開発である。日本が設立国として加盟している中東淡水化研究センターにおける事業に積極的に参加するとともに、産油国向けへの淡水化技術協力事業は国際貢献に大きく寄与し、日本の外交戦略上も有効であるようになった。
海水淡水化技術に用いられている「逆浸透膜法」については、更なる低コスト化が課題であり、今後の対応が必要である。また、用水供給事業として民間資本が参入している分野でもあり、ODAとの相補的な取り組みについて検討が必要である。しかしこの技術は有益であり、外交上も有効であるので、今後は有識者や企業と協力した研修やセミナーを行い、民間資本との連携を図るとともに、当該技術の深化を目指すことが重要である。
日本は、排他的経済水域(EEZ)の面積では世界第6位とも言われており、日本近海には各種資源の賦存の可能性が指摘されているなど、資源に乏しい日本にとって海洋鉱物資源や海洋エネルギー資源を利活用することは極めて重要であり、日本のEEZの調査を推進していく必要がある。また、日本近海だけでなく、国連海洋法条約等の国際機関のルールに基づき公海上での資源探査・開発を行うことも重要である。
答申において、石油・天然ガス等のエネルギー資源またはマンガン等の鉱物資源については、将来国際的に不足するとの予測もあり、環境影響の極小化を図りつつ未利用の海洋資源を利用するための技術開発を行うとともに、継続的に調査・開発を進める必要がある、としている。
エネルギー自給率の向上に貢献できる可能性のあるメタンハイドレート、非鉄金属資源の新たなる供給源の可能性のある海底熱水鉱床、コバルト・リッチ・クラスト等の利用に向けた研究開発を進めることが重要である。
メタンハイドレートについては、商業的産出に必要な技術の整備に取り組んでおり、日本近海の資源量評価、メタンハイドレート堆積層の解明、生産シミュレータの開発、メタン漏えい検知技術等の研究開発が進められている。基礎試錐事業によりメタンハイドレート試料の採取及び地質データが取得され、解析によって得た詳細な原始資源量評価の結果が公表された。また、太平洋沿岸のメタンハイドレートが存在する海底下に特有の未知微生物群集が存在していることが世界で初めて示され、微生物によるメタンハイドレート形成過程の解明に糸口が見つけられている。
今後、第3期科学技術基本計画における国家基幹技術として指定された「海洋地球観測探査システム」のうち「次世代海洋探査技術」において、メタンハイドレートを始めとする海底資源の探査能力をもつ「次世代型巡航探査機技術」及び「大深度高機能無人探査機技術」の要素技術を開発することとされており、これらの高度化された要素技術を活用し、システムとして構築し、実機の製作を目指すことが重要である。
また、石油・天然ガス等エネルギー資源の開発については、未探鉱地域や探鉱コンセプトが従来と異なる地域において国による基礎調査が実施された。1999年には三陸沖にて、直接出油・出ガスに成功しており、2005年には、国による補助のもと、同地域において民間企業による試掘調査が実施された。
今後、引き続き、石油・天然ガス等エネルギー資源の開発について、大水深を含めた石油・天然ガス等のエネルギー資源の探鉱活動の促進が期待される地域において、基礎調査等を実施することが重要である。
マンガン団塊については、1996年度までに概査が終了している。なお、1987年に先行投資者として現鉱区の取得を国連に承認された後、2001年には国際海底機構と探査契約を締結し、現在、取得データの解析等が行われているところであり、今後も引き続き探査を行っていくことが重要である。また、海底熱水鉱床については、これまで沖縄、伊豆小笠原海域において調査が進められ、特に日本近海のEEZにおいて有望な鉱床が確認された。さらに、コバルト・リッチ・クラストについては、公海上の鉱区取得競争に備え、優良な鉱区を取得することを目的として、資源調査が西太平洋海域において実施されている。
コバルト・リッチ・クラスト及び海底熱水鉱床については、今後も資源量の把握を目的とした調査を行うとともに、環境に配慮した採鉱技術等の開発に関する取り組みを行うことが重要である。なお、公海において探査を行う際には、今後国際海底機構で検討される予定の探査規則案に沿って行うことに留意すべきである。
なお、石油関係では環境影響評価の動きが進んでいるが、鉱物資源では取り組みが十分でなく、今後の制度整備が必要である。
21世紀の中頃まで世界人口が増加することが予測されている中、エネルギー問題は喫緊の問題であり、環境への影響を最大限抑えながら新たなエネルギーを開発していくことは極めて重要である。海底にも鉱物・エネルギー資源があることが分かっており、賦存状況把握のための海底調査を推進することが重要である。
国連海洋法条約を踏まえた大陸棚の調査については、「大陸棚調査・海洋資源等に関する関係省庁連絡会議」で定めた基本方針に基づき、関係省庁が連携し、精密海底地形調査、地殻構造探査、基盤岩採取が実施された。
今後、調査成果をもとに200海里を超える大陸棚の限界に関する情報がとりまとめられ、2009年初頭を目処に大陸棚限界情報が「大陸棚の限界に関する委員会」に提出されることとなる。200海里を超える大陸棚の設定は、日本の海底資源のポテンシャルを拡大する等、国益に大きく寄与するものであることから、政府一体となって対応していくことが重要である。なお、今後の課題として、委員会へのプレゼンテーションの実施、審査過程における委員会からの要求への対処、及び勧告後の対処等について対応する体制の構築が必要であり、総合海洋政策本部のリーダーシップが期待される。
海中・海底は人間が容易に近づけない場所であり、その状況は各種船舶等を用いずに調査することは不可能である。効率的な運航を前提とした各種調査船・研究船及び探査機の整備は極めて重要であり、着実な整備が必要である。
また、日本周辺海域における石油・天然ガス資源の詳細なデータを収集するに当り、機動的・効率的な物理探査を行うために、国として三次元物理探査船を2007年度に導入することとした。2008年2月には就航予定であり、今後の活躍が期待される。
さらに海底熱水鉱床、コバルト・リッチ・クラスト等の深海底鉱物資源については、正確な資源量の把握が不可欠であり、深海用ボーリングマシン等のサンプリング機能を持つ調査船の効率的運用が期待される。
答申において、多くの利用分野が重複する沿岸空間において利用分野間で連携を行い、環境配慮型の港湾・漁港施設整備を推進する等、調和のとれた多機能な沿岸空間利用を目指すことが必要である、としている。
循環型社会の形成を促進するため、港湾においては、建屋及びストックヤードの循環資源取扱支援施設の整備等を通じて、静脈物流拠点港(リサイクルポート)の形成が推進され、海上輸送による効率的な静脈物流ネットワークが構築されており、引き続き取り組むことが重要である。
また、一般廃棄物に関して、内陸における最終処分場の確保が困難になってきていることから、大都市圏を中心として海面処分場への依存度が高い状況にある。このため、循環的な利用のできない廃棄物等を適正に処分するため、可能な限り減容化をした上で廃棄物等を受け入れる海面処分場を引き続き計画的に確保していくことが重要である。
メガフロート情報基地機能実証実験において、低廉かつ高信頼の情報基地として利用可能であることが実証された。なお、羽田空港再拡張事業工法評価選定会議では他の工法とともに審査され、同事業が採用可能と判断された。
日本の国土は限られているが、例えば空港のように騒音を伴う広い空間が必要なものもある。コンテナターミナル等の港湾施設、エネルギー基地等の様々な用途が考えられるので、用途を吟味した上で有効に活用できるよう実用化・普及を推進することが重要である。
また、効率的な交通体系の構築については、高規格幹線道路をはじめとする拠点的な空港・港湾へのアクセス道路の整備等の総合的な交通体系の構築に資する主要な基盤施設の整備が進められた。今後も引き続き、これらの取り組みを踏まえ、多機能で調和のとれた沿岸空間の利用を進めることが重要である。
答申において、貿易立国である我が国にとって重要な海上輸送の効率性と安全性を確保し、海事産業の健全な発展を図る、としている。
海上輸送の定時性・迅速性・安全性等を確保し、日本の国際競争力の強化を図るため、アジア主要港を凌ぐコスト・サービス水準の実現を目標に、次世代高規格コンテナターミナルの形成等、先導的かつ総合的な施策を展開することによりスーパー中枢港湾の充実・深化が図られてきたところであり、今後も引き続き推進していくことが重要である。
また、浅瀬等が存在するため航行に支障のある主要国際幹線航路の整備及び保全により海上ハイウェイネットワークが構築され、大型船舶の航行を可能とすることによる物流コストの低減や、安全かつ安定的な海上輸送ネットワークの確保が図られているところであり、今後も引き続き推進していくことが重要である。
多国間協力による海賊対策については、日本主導の下、ASEAN(アセアン)諸国等による交渉の結果、アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)が策定され、同協定は2006年9月に発効した。
このReCAAPについては、協定に基づいて設置された情報共有センターを通じた締約国間の協力体制が強化されるとともに、協定の実効性を確保するため、未締結国であるインドネシア・マレーシアの協定加盟を強く働きかけていく予定となっている。また、海賊及びテロリスト等の海上不法行為に対する規制強化については、2005年度に採択された海洋航行の安全に対する不法行為の防止に関する条約(SUA条約)2005年議定書の早期締結に向けて、国内実施法の整備等、必要な作業が進められる予定である。
二国間協力については、テロ、海賊等国境を越える犯罪に対応するため、2006年度に「テロ対策等治安無償」が立ち上がり、マラッカ海峡の海賊対策等を目的として、インドネシアに巡視船艇3隻を供与することが決定された。
今後も引き続きODA等の国際協力を活用し、海賊が多く出没するといわれているマラッカ海峡の海上保安対策を支援していくことが重要である。
海賊に遭遇しないよう、もしくは遭遇したときの対処法など、事前に学ぶべきことは多く、安全な輸送には研修も重要であり、日本とASEAN(アセアン)諸国の間で海賊に関するセミナーが開催され、海賊対策の現状及び今後の対策について検討されるなど、海事関係機関の連携強化が推進された。今後も引き続き、関係機関の連携及び自主警備対策の強化を図ることが重要である。
答申において、海洋性レクリエーションの発展は豊かな市民生活の形成、地域経済の活性化等にとって重要であり、海難の増加・交通渋滞・ごみ問題等の問題解決を図りながら、海洋性レクリエーション空間の整備・普及を促進し、活性化を進めていく、としている。
海洋性レクリエーション空間の整備・普及については、海岸部のレクリエーション施設整備等と連携した施策として、道路、公園、下水道、海岸整備が一体として行い、地域づくりとともに海洋環境の維持・回復に向けた総合的な取り組みの推進に資している「コースタル・コミュニティ・ゾーン(C.C.Z.)」の整備や、海辺における自然体験活動、環境教育、マリンスポーツに利用しやすい海岸づくりを行う「いきいき・海の子・浜づくり」等が実施された。
また、スポーツや憩い、散策等、住民が気軽に海と親しめる空間を提供するため、海辺空間を有効活用した大規模公園や国営公園等の整備が推進されている。
これらの取り組みについては今後も推進する必要がある。
プレジャーボート等の適正な係留・保管の推進については、河川では河川区域内における放置艇に対して、重点撤去区域を設定し強制的な撤去措置の実施、暫定及び恒久的な係留・保管施設の整備等、規制と係留・保管能力の向上を両輪とした施策が進められている。港湾では、放置艇対策としてプレジャーボートの活動拠点となるボートパークの整備が行われるとともに、船舶等の放置等禁止区域の指定を促進した上で、放置された船舶等を撤去するなどの監督処分が行われている。
以上のような施策を通じて、海洋における安全や親水性を確保し、市民が安心して海洋に親しめるように努めることが重要である。
エコツーリズムという観点からの海洋と親しむという方法については、エコツーリズム推進会議が取りまとめた5つの推進方策に基づき、地域におけるエコツーリズムの推進が取り組まれた。モデル事業では、地域ごとに行政や事業者、NPO等が参画する協議会が設けられ、この協議会主導でガイドの育成や資源の保全ルール策定などの取り組みが行われた。
今後、2007年6月に成立した「エコツーリズム推進法」の2008年4月からの施行を踏まえ、地域の自然環境の保全に配慮しつつ、地域の創意工夫を活かしたエコツーリズムの取り組みを支援することで、海洋の適正な利用と保全の両立を図っていくことが重要であり、今後策定される予定である基本方針にその旨が位置付けられることが望まれる。
魅力ある空間創造のための干潟・藻場、緑地、海浜等の整備については、海岸周辺において生息生育する動植物や景観に配慮した海岸保全施設等の整備やユニバーサルデザインの考え方を取り入れ、地域の教育・福祉行政等とも連携しつつ、訪れる全ての人々が利用しやすい海岸づくり等が進められた。
今後も引き続き、海岸の環境保全や適切な利用の確保に向けて、これらの取り組みを進めることが重要である。
答申において、海洋の研究により得られた新たな知見を海洋保全と利用のために役立てること、地球温暖化や気候変動等の我々の生活に直接影響を与える自然現象のメカニズムを解明すること、海洋の研究を行うことにより人類の知的資産の拡大に貢献し青少年の科学技術への興味・関心を高めることが重要である、としている。
答申以降、2004年に当時の海洋科学技術センターが「海洋研究開発機構」として発足した。その際、日本の海洋研究の更なる推進を図るため、東京大学海洋研究所の研究船及びその運航組織を同機構に移管し、新たな基盤が出来上がった。
海洋は人類にとって身近な存在だが、海洋の中・深層から深海底にかけて海洋の動態、生物の活動、海底の変動について未知の部分が多いということは答申でも述べられており、地球の諸現象を解明するためにも、以下の各領域において観測・研究を継続的に進めることが重要である。
海洋を中心とした地球科学の研究のためには、水温・塩分・流速等の海洋に関する基本情報を継続的に獲得することが重要である。この地球科学を深化させるため、海洋研究船、ブイ等の観測施設・設備を用いた観測が実施された。
海洋環境のモニタリングは、海を知り、守り、利用する際の基本となるものであることに鑑み、今後も地球環境観測研究が継続され、地球環境変動の検証・定量化を行うとともに、海洋大循環など地球規模の熱・水・物質循環に関する研究が継続されることが重要である。特にこの分野は、個々の機関のみで全世界のデータを集め分析することは不可能であり、国内各機関はもとより海外の機関とも連携して全球的なデータの把握に努めることが重要である。
観測活動が困難な領域である深海については、世界最深の潜行能力を持つ有人潜水調査船「しんかい6500」が通算1,000回の潜航を達成したが、一方、深海において有人調査ができる範囲は限られており、特に氷海域・荒天域、海底火山周辺といった観測活動が困難な地域においては、深海巡航探査機「うらしま」のような無人探査機が有効である。「うらしま」は全自動長距離航行の世界記録を達成するとともに、熊野トラフにある泥火山表面の微細構造を明らかにし、世界で初めて頂上付近の噴出口の状況を詳細に画像化するなどの成果を挙げている。
今後、第3期科学技術基本計画における国家基幹技術である「海洋地球観測探査システム」の「次世代型深海探査技術」として次世代型巡航探査機技術及び大深度高機能無人探査機技術の開発が進められることが重要である。本技術は現在要素技術の開発段階であり、これを着実に進め、実機開発につなげることが求められる。
海底下の領域については、地球深部探査船「ちきゅう」が下北半島東方沖においてライザー掘削に必要な一連の作業を実施して機能を確認するとともに、ライザー掘削を含む海底下647メートルまでの掘削を行うなどシステム総合試験と操作慣熟訓練を終了し、南海トラフにて統合国際深海掘削計画(IODP)による国際運用が開始された。南海トラフにおける付加帯の発生過程及び地震の準備段階から発生までのメカニズムを解明する重要なデータが得られており、引き続き有益なデータの取得が望まれる。
欧米中心の国際的な計画が多い中、本計画は米国と並んで日本が主導している貴重な計画であり、今後もリーダーシップを発揮しつつ積極的に推進していくことが重要である。特に、地球深部の地質資料を直接採取・分析し、孔内に計測器を設け長期観測することによる海溝型地震のメカニズムの解明の他、古環境の解明、地質試料(コア)採取による地殻内微生物の発見・分析などの役割が求められており、国際的な枠組みの中で運用されている掘削船でもあり、日本のみでなく世界に対して貢献することが求められている。
地球表面の7割を占め、気候変動等に大きな影響を及ぼす海洋を調査することは、地球環境問題の解決に向けての知見を増やすためにも不可欠である。また、地球環境観測研究は未知の領域への挑戦でもある。
答申において、海洋は気候変動をはじめとする地球環境の変化に大きく関連しており、海洋の諸現象に関する原理を追求し、理解することが地球環境問題等の諸問題の解決のために必要である、としている。
気候変動の解明に向けての知見を増やすため、海洋調査船、大型ブイ等の観測施設・設備を用いた海洋・陸面・大気の観測が実施された。高度海洋監視システム(ARGO計画)については、2007年11月に全世界で3,000台という当初計画の目標台数を達成しており、日本も海洋研究開発機構、気象庁を中心に369台の貢献をしている。これにより、全世界の海洋で、海面から水深2,000メートルまでの水温と塩分濃度が常時観測されるようになった。特に、これまで観測が少なかったインド洋や冬期の高緯度域でも常時データが入手できるようになり、エルニーニョ現象などの監視や予測に必要なより精度の高い情報を提供できるようになるとともに、地球温暖化に伴う海洋への熱の蓄積状況の正確な把握や海面下の水温分布の季節的な変化の詳細など、多くの新たな科学的知見を得ることが可能となった。引き続き、地球環境の監視と変動の解明を進め、構築されたこの観測システムの維持とデータの利活用や国際的な協力の維持・強化が期待される。
海洋は地球温暖化に大きな影響を与える二酸化炭素の最大の吸収源であり、その炭素循環がどのようになっているのかを解明することは重要である。地球温暖化に関係する海洋の構造と炭素循環等について知見を蓄積するため、大陸間縦断・横断観測線での高精度海洋観測、定点時系列観測等が海氷域を含む海域において実施された。また、海洋中の二酸化炭素の増加がもたらす海洋の酸性化の海洋生物への影響、生態系が関わる物質循環の変化が危惧されており、今後も大陸間縦断・横断観測線での高精度海洋観測、定点時系列観測の継続が必要である。
地球温暖化や水循環変動などの地球環境変動は、我々の生活に大きな影響を与える可能性があり、その悪影響を回避するためにも地球環境変動の状況を予見する必要がある。スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」等を用いて地球環境の変動の予測を目指して、気候、水循環、大気組成、生態系、地球温暖化の要素ごとに現象と過程について研究が実施されるとともに数値モデルが開発された。その研究成果(論文)は気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書において多数引用された。また、地球規模で異常気象を引き起こすインド洋ダイポールモード現象(IOD)の発生メカニズムが解明されるとともに、先端的大気・海洋結合モデルを用いてIODの予測に世界で初めて成功した。
今後も引き続き、「地球シミュレータ」を活用しつつ、地球環境に関する数値モデルの高度化から変動予測精度の向上を目指し、次のIPCC第5次報告書における第4次報告書以上の貢献及び地球環境予測研究が推進されることが重要である。また、国際的な連携を強化し、海洋循環の変化や生態系の変化による炭素循環の応答が定量的に把握されることも重要である。
海域に発生する地震・海底火山噴火・津波や高潮・高波は沿岸地域に甚大な災害を及ぼし、時には重大な環境変動をもたらすものであり、その発生メカニズムを解明し防災・減災に役立てることは重要である。
地震については、地震調査研究推進本部の方針の下、主要な海溝型地震についての調査観測・研究が実施され、海底地震に関する多くの知見の獲得や、海域観測技術の進歩などに大きく貢献した。
海洋底ダイナミクスに関する研究では、日本列島周辺海域と西太平洋域を中心に、地震・火山活動の原因、島弧・大陸地殻の進化、地球環境変遷等について知見を蓄積するため、研究船、探査機、海底地震計・海底磁力計等により、地球中心から地殻表層にいたる地球内部の動的挙動(ダイナミクス)に関する調査観測と実験及び数値モデルの高度化が実施された。
今後も引き続き、地震・海底火山噴火・津波の原因となる地球内部ダイナミクス研究が実施され、調査観測及び実験の結果から数値モデルの高度化を行い動的挙動の把握の精度を向上させることが重要である。特に、地球深部探査船「ちきゅう」のIODPの枠における国際運用が開始されたこともあり、今までプレートテクトニクスの理論を確立したモホール計画以来の流れの中での成果に続くよう、東海・東南海・南海地震の連動性をはじめとする、海溝型地震のメカニズム解明が進められることが重要である。
答申において、今後、我々が海洋と関わるに当っては、海洋を利用するとともに積極的に保全・再生を図り、「海洋を守る」、「海洋を利用する」こととの調和を図っていく必要があり、このため、「海洋を知る」という目標を最前線に掲げ、持続的な海洋利用のために利用技術・方法を改善・開発することが重要である、としている。
「海洋を守る」ためには、生態系を含む海洋環境の変化に関する的確なモニタリングと、その結果に応じた管理や利用方法の柔軟な見直しが行われることが重要である。また、「海洋を利用する」に関する有力なものの1つとして海洋資源がある。広大な海洋に潜む資源を獲得することができれば、地上で起こっている様々なエネルギー問題の劇的な解決につながる可能性を秘めているが、その利用には環境への十分な配慮が必要となってくる。
海洋生物資源については、持続的な海洋生物資源の利用について国連でも議論になっており、科学的知見に基づいた取り組みが求められていることを踏まえ、日本周辺水域の漁業資源及び国際漁業資源の評価が実施された。資源の利用については評価をしながら進めることが重要である。
今後も引き続き資源の評価が実施されるとともに、海洋環境等が水産資源変動に与える影響を考慮して、水産資源の変動メカニズムの解明が進められ、資源評価・予測の精度の向上が図られることが重要である。
また、近年注目されている海洋鉱物・エネルギー資源については、メタンハイドレートを構成するメタンの成因研究や、熱水鉱床、コバルト・リッチ・クラストの賦存状況調査が実施された。
今後はメタンハイドレート鉱床の形成メカニズムと形成条件を解明するため、海底堆積物中の有機物組成等、メタン生成ポテンシャルの支配因子の解析が進められ、資源量の評価技術を向上させることが重要である。また、海洋鉱物資源については、コバルト・リッチ・クラスト等の賦存状況調査等が引き続き実施されることも重要である。海洋資源の乱開発は海洋環境を劇的に変化させる可能性を持っており、環境に配慮した開発・利用が推進されることが重要である。
地球環境の変動を理解し、それに的確に対応するためには、即時的な海洋の状況の把握とともに将来の海洋の状態を予測する海洋予報が推進されることが必要である。例えばオホーツク海及び北海道太平洋岸において、海氷情報の提供のほか海面水温予報、海流予報が実施されるとともに海洋モデルが開発され、予報精度を高めた。また、船舶の運航に影響を与える黒潮の流路変動や中規模渦の挙動等を正確に予測するモデルが開発され、海流予測情報の利用に供されている。
海洋環境に配慮した沿岸空間利用・沿岸防災のための研究開発については、津波被害を最小限に抑えるために必要な海岸における津波の細やかな浸水シミュレーションや避難計画システム等の開発を効率的に行うため、航空機からのリモートセンシング(遠隔探査)技術を活用し、海岸堤防と背後地盤高を合わせた高密度かつ高精度の3D電子地図の作成等が進められている。
海洋での様々な現象に関する予報は多くの関係者にとって有用な情報であり、今後も海洋情報がリアルタイムに収集されて解析処理が行われ、データベースに蓄積するなどとともに国内外の関係機関へ提供するシステムが引き続き運用されることが重要である。
また、大学等が有する基礎的な研究や要素技術を核として、関係機関と連携の上、日本の周辺海域での喫緊の課題となっている海洋資源の利用促進に向けた基盤ツールの開発が行われることが必要である。
答申において、海洋に関する研究・観測を行い、人類の知的資産の一層の拡大を目指し、より高度かつ総合的な知見を活用して海洋研究・観測の基盤技術の開発を行う必要がある、としている。
人工衛星からの情報を収集して対象物の種類・状態を観測するリモートセンシング技術は広範囲の対象物を短期間で観測するのに向いており、全球的な大気・海洋観測において人工衛星による観測は不可欠である。これまで、米国熱帯降雨観測衛星(TRMM)、米国地球観測衛星(Aqua)、環境観測技術衛星(ADEOS−)等を用いて、海面温度、海氷、海色(クロロフィル濃度)、海上風、降水、水蒸気等、地球規模で大気海洋現象の観測が実施された。2006年には陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)の本格運用が開始され、陸域とともに沿岸域を中心とした海域の観測が実施された。
引き続きリモートセンシング技術を活用した観測が行われることが重要であるが、今後は、環境観測技術衛星の地球観測ミッションを高度化した地球環境変動観測ミッション(GCOM)や熱帯降雨観測衛星の後継ミッション機である全球降水観測(GPM)計画等の研究開発が推進され、リモートセンシング技術の高度化が図られることが重要である。これらは観測の一形態であり、全世界の多様な観測対象をカバーするためには国外のリモートセンシング関係の機関との連携が重要である。
また、海洋観測技術の高度化については、海象計、GPS波浪計、海洋短波レーダ等の多様な観測機器を全国に配置し、潮位・波浪等の海象観測体制が強化されているところであり、今後も引き続き推進されることが重要である。
一方、海底の観測は海溝型地震の観測に有効であり、海洋鉱物資源等の検出にも有効である。高機能の海底探査機、自律型探査機、海底観測システム等、様々な研究ニーズに対応した調査観測機器の技術開発が実施された。また、海底地震・津波の高精度リアルタイム観測を実現するため、東南海地震の想定震源域に各種観測機器を備えた稠密な海底ネットワークシステム(DONET)を構築する研究開発が推進された。
今後も引き続き海底での観測が継続されることが重要であるが、海底は人類の容易に近付けない場所であり、海上、浅海中といった場所以上に各種機器によるデータの収集が重要である。海底での各種機器のメンテナンスも重要であり、海底での重労働を可能とする、第3期科学技術基本計画における国家基幹技術「海洋地球観測探査システム」の「次世代海洋探査技術」が着実に開発されることが重要である。海底地震・津波の高度リアルタイム観測については、紀伊半島熊野灘沖におけるリアルタイム観測システムが2009年度中に整備完成されることが目標となっており、完成後は長期間にわたって観測が継続されるとともに、先端技術を用いたセンサーが適宜追加・更新され、観測システムが新たな海域へ展開されることが重要である。
気候変動、海洋の酸性化等の地球環境問題の解決に資するための大陸間縦断・横断観測線での高精度海洋観測や定点時系列観測等の海洋研究をより充実し、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの変動を時空間的に十分に、しかも全球で捉えるためには、先端技術を駆使した海洋の化学成分の現場測定が可能な測定器の開発が必要である。海洋表層の二酸化炭素については、小型漂流ブイに搭載可能な測定器の開発が行われている。この開発は、大気海洋間の二酸化炭素輸送を精度良く見積もるために不可欠なものであり、温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)によって得られる大気中の二酸化炭素存在量の変動とともに地球上における二酸化炭素循環について理解するために重要である。
海洋研究には大型施設・設備が必要であり、それらの「供用」が海洋研究の大きな特徴である。さらに、全国の研究者が良い研究環境で研究できるためには、施設・設備の整備が不可欠である。
答申において、海洋に関する研究や技術開発は多数の分野に関係し、我が国として総合的に海洋研究とその基盤整備を進める必要があり、国際的な協力を積極的に行い、研究や観測を組織的・戦略的に行うことが重要である、としている。
また、日本の海洋研究の国際的なポテンシャルを維持するためにもインフラストラクチャーの整備を進めることが重要である、としている。
国際的な研究開発の推進を図るためには、様々な国際観測や研究開発プロジェクトに対する積極的な取り組みが重要である。地球圏・生物圏国際協同研究(IGBP)のもとでは、全球海洋生態系動態研究計画(GLOBEC)や地球システムの分析・統合・モデリング(AIMES)等が日本の研究者の参加により積極的に推進されている。世界気候研究計画(WCRP)の気候変動性・予測可能性計画(CLIVAR)と全球海洋データ同化実験(GODAE)によって共同支援されているARGO計画については、全世界で3000台のフロートを展開するという当初計画が達成されたところである。また、地球深部探査船「ちきゅう」の運用開始によって、2007年には統合国際深海掘削計画(IODP)南海トラフ地震発生帯掘削計画が開始された。さらに、衛星観測と地上観測を統合し、効率的な全球地球観測の戦略を策定することを目的として設立された統合地球観測戦略パートナーシップ(IGOS−P)の海洋を始めとする9つの分野の一部が、2007年に地球観測に関する政府間会合(GEO)に移管されたことによって、GEOSS10年実施計画の9つの社会的利益分野に貢献する活動が強化されることも期待されている。
海洋環境問題のように多くの要因が複合化することにより生じた問題を解決するためには、これまでにない新たな発想による取り組みや新たな学問分野の創出等も必要とされることから、各研究機関が連携・協力し、お互いの良い面を活かした新たな取り組みが求められている。
各研究機関において連携協定を締結し、その協定に基づく共同研究やシンポジウム等を開催することで新たな取り組みを推進しており、今後も引き続き各機関が連携・協力していくことが重要である。特に2007年7月に総合海洋政策本部が発足し、従来縦割りといわれてきた海洋行政の中核的存在となる組織が立ち上がったことは特筆に価する。今後、連携のとれた研究・観測が行われることが望まれる。
海洋研究には大型施設・設備が必要であり、それらの「供用」は海洋研究の大きな特徴である。全国の研究者が良い研究環境で研究活動できるためには、施設・設備の整備が不可欠である。日本の海洋研究の国際的なポテンシャルを維持するためにもインフラストラクチャーの整備を進めることが重要である。
海中・海底のような人間が容易に近づけない場所の状況を把握するには、各種船舶等を用いて調査することが不可欠である。厳しい財政事情ではあるが、効率的な運航を前提とした各種調査船・研究船の整備が極めて重要であり、着実な整備と海洋研究船の活用の一層の促進が必要である。その際、各府省や事業者が所有する船舶についても、海洋調査・研究の面について活用し、海洋研究船と連携して海洋調査・研究を充実させることができるかを検討することが重要である。
2004年度に海洋研究開発機構が発足する際、東京大学海洋研究所が運航していた船舶(2隻)及びその運航組織が移管され、旧海洋科学技術センターが運用していた船舶(5隻)とともに、統一的に運用がされており、有効に活用されている。また、海洋研究船ほか、深海調査システム等の試験研究施設・設備、スーパーコンピュータが整備され、自機関で有効に活用するとともに、基準を定めた上で外部研究者の利用に供されている。
今後も引き続き、様々な研究ニーズに合わせたインフラストラクチャーを整備し、海洋に関する研究開発が促進されることが重要である。海洋研究船については、科学技術・学術審議会海洋開発分科会海洋研究船委員会の「取りまとめ」に対応した海洋研究船の整備及び運用が実施されることが重要であるが、特に計7隻の海洋研究船の研究課題の公募、課題選定等の体制を一元化することにより、一層の運用の効率化を図ることとする、としている「取りまとめ」の内容を踏まえることが重要である。
また、情報流通については、各研究機関が取得した海洋調査観測データを自機関のホームページ等で公開し広く提供するとともに、日本の海洋データの一元的な管理・提供や世界各国とのデータ交換を行っている日本海洋データセンター(JODC)へ水温、塩分等のデータが集約されつつある。また、沿岸の潮位、波高、打上げ高等を的確かつきめ細かに予測する高潮情報システムの構築や潮位・波高データを共有化するシステムの整備等が進められた。今後も一層、様々な判断のベースとなる海洋・沿岸域データを収集し、日本全体としての海洋・沿岸域情報が整備されることが重要である。
答申において、海洋政策を具体的に実行に移すためには、人材の育成、資金の確保、情報の流通、国際協力等、海洋の研究・保全・利用のすべてに共通する基盤的な事項の充実を、自然科学と社会科学の両方の面から図っていく必要がある、としている。特に近年は、海洋を守り、利用するためにも、自然的条件に関する情報、社会的条件に関する情報、海洋利用のために作られている情報など、各種海洋情報を整備することの重要性が指摘されている。
答申において、バランスのとれた海洋政策実現のためには、海洋に関わる人材の育成が重要であるとともに、市民の海洋に対する関心を高める必要がある、としている。また、学校教育をはじめとして海の日等の様々な場を利用し、海洋の管理と利用が我が国の将来の生活基盤を支える重要な問題の1つとして、国民全体の共通認識とすることが必要である、としている。
水産系の各高等学校においては、これまでの水産や海洋に関する学習や実験・実習に加え、「課題研究」や新たな「海洋に関する学校設定科目」に取り組む傾向がみられた。大学においては、実習用船舶の建造に係る支援が継続的に実施された。また、国立大学法人における国立大学法人運営費交付金(特別教育研究経費)といった支援方策を活用し、海洋関係の教育研究の充実・強化が図られた。2003年に東京商船大学と東京水産大学を統合して東京海洋大学が設置され、海洋科学部に、国際的視点での海の利用、資源の利用、海洋利用の政策提言を行える問題解決型の人材を育成するという観点から「海洋政策文化学科」が新たに設置されるなど、海洋関係の教育研究の充実強化が図られた。同じく2003年に神戸大学と神戸商船大学が統合し、神戸大学に、海に対する深い理解を持ち、幅広い教養をそなえた国際人の育成を目指した海事科学部が設置されるとともに、学部の附属施設として海事分野における積極的な国際貢献を行うことを目的とした国際海事教育研究センターが設置された。また、2007年には、東京大学において、分野横断的な海洋に関する取り組みである「東京大学機構・海洋アライアンス」が設立されており、教育・研究の両面から、幅広い観点からの海洋への取り組みが期待される。また、横浜国立大学においては、文理融合型の大学院教育プログラムとして「統合的海洋教育・研究センター」が設立され、新たな海洋の統合的管理を担う人材育成への取り組みが開始された。このように、海洋を専門とする大学のみならず、総合大学においても海洋教育研究に関する総合的な取り組みが進んでいる。独立行政法人水産大学校においては、練習船の代船建造等の支援が実施され、水産業を担う人材の育成に係る教育の充実強化が図られた。また、国の研究開発機関においては、大学等と連携大学院協定を締結し、連携・協力し教育研究に関わる活動が実施された。各研究機関は良質の教育コンテンツを所有していることが多く、学校教育における総合的な学習の時間等を有効に活用して積極的に学校教育において海洋教育が推進されることが重要である。
今後、水産系の高等学校においては、現在進められている学習指導要領の見直しの中で、「マリンスポーツ」と「水産海洋科学」の2科目を新設し、「水産生物」の名称を「海洋生物」と取扱の範囲を広げることなどが中央教育審議会で審議されており、教育内容の充実が図られることが期待される。大学については、引き続き実習用船舶の建造に係る支援を行うこと、及び国立大学法人における国立大学法人運営費交付金(特別教育研究経費)を活用した支援を実施することが重要である。国の研究開発機関においては、引き続き様々な知的財産を所有している大学との連携を進め、将来の研究人材の育成に貢献することが重要である。
造船産業における人材を育成するため、造船産業集積地域に造船技能センターが設立され、センターを中核として座学や実技の集合研修が実施された。また、船員教育訓練機関において、船員の資質の向上を図るため、各種シミュレータ装置の導入による実務の教育・訓練の充実、上級海技資格が円滑に取得できる一貫教育システムが導入された。
今後、造船産業における人材育成については、技術革新の核となる優秀な人材の確保・育成を推進していくことが重要であるとともに、船員の人材育成については、優秀な日本人船員の確保・育成の推進(若者の海への関心の醸成、船員志望者の裾野拡大、船員の育成・キャリアアップ・陸上海技者への転身の支援及び海事地域の振興等)のために必要な制度改正等の措置を講ずることが重要である。また、育成確保の範囲を、船員だけでなく、海洋環境に関する事業者に広げることが検討されることも重要である。
日本は四方を海洋に囲まれているにもかかわらず、海洋に関する市民の関心が低いと考えられており、21世紀にはこの方面を充実していくことが緊急の課題である。
学校教育においては、小・中・高等学校の児童生徒の発達段階に応じて、社会や理科などにおいて海洋に関する学習が行われた。総合的な学習の時間における、海洋を扱った取り組みとして、海洋の環境について自ら調べる学習等が展開された。このような取り組みにより、私たちの生活がいかに海洋の恩恵を受けているなどを学ぶことができると期待される。
海洋基本法の中において、国は、国民が学校教育及び社会教育における海洋に関する教育の推進のために必要な措置を講ずるものとする、としており、今後、学校教育において、海洋を含めた自然科学教育、海洋に関する産業教育等が適切に行われるよう努めることが重要である。
また、海洋に関する理解増進活動について、社会教育においては、住民のボランティア活動を推進する取り組み等を通じて、地域における環境教育を含め様々な課題に関する学習活動が支援された。更に、港の良好な自然環境の市民による利活用を促進し、自然環境の大切さを学ぶ機会の充実を図るため、自治体やNPOなどが行う自然・社会教育活動等の場ともなる海浜等の整備が行われた。
また、「海岸愛護月間」として、毎年7月に海岸愛護思想の普及と啓発を図るとともに、2004年12月のスマトラ島沖地震に伴う津波災害を契機として、全国で津波防災訓練等が実施された。
さらに、国立青少年教育施設において、立地条件や各施設の特色を生かした自然体験活動等の機会と場が提供されている。船員教育訓練機関において青少年等を対象とした、海洋教室、練習船の一般公開や体験航海、学校等の施設見学会、中学校・高校を訪問し、海に関する講義を行う等、海の普及啓発活動の充実が図られた。また、2004年に「みなとの博物館ネットワーク・フォーラム」が設立された。
社会教育においては、引き続き、住民のボランティア活動等による、地域における環境教育を含め様々な課題に関する学習活動への支援、海岸愛護思想の普及と啓発、津波防災訓練の実施、国立青少年教育施設における自然体験活動等の機会と場の提供などを推進していくことが重要である。船員教育については、海事広報活動を戦略的かつ効率的に進めるため、海運、造船及びマリンレジャー等海事産業全体の人材確保や海事地域の発展等広い視野に立ちつつ、幅広い海事関係者と連携し、海事産業の人材確保・育成に関する基本戦略を確立し、総合的・一体的に海事思想普及・広報活動が実施されることが重要である。
答申によると、海洋の研究・保全・利用の施策を実施するため、必要な所要の資金を確保する必要があり、施策の評価及び重点化に基づき、資金の重点的・効率的配分を行うことが必要である、としている。また、政府主導の資金のほか、海洋に関する産業の振興を図ることにより企業活動を活性化し、民間の研究開発や保全に関する活動が充実されるよう促すことも必要である、としている。
政府全体の海洋開発関連経費については、2003年度の海洋科学技術関連経費は877億円、海洋開発事業関連経費は7,552億円、2007年度の海洋科学技術関連経費は961億円、海洋開発事業関連経費は6,476億円となっている。
近年の経済状況を踏まえ財政状況は引き続き厳しいが、海洋の研究・保全・利用の必要性・緊急性等を理解し、政府全体として十分な額が確保されることが強く望まれる。また、海洋産業についても、民間研究開発や海洋保全の重要性を踏まえ、その活動が充実されることが望ましい。
海洋は広大で、その変化も悠久であり、海洋に関する的確な方針を策定するためには、広域にわたる包括的な情報、および過去から現在に至る情報を漏れなく把握する必要がある。
答申によると、船舶の安全航行、防災、自然環境保護、水産等の観点から海洋に関する基礎的な情報は迅速・容易に入手できるようにすることが必要であること、また、全地球的なデータを得ることにより海洋研究が推進されるように、国内外の海洋観測データについてはできるだけ集約するとともに多くの研究者が活用できるようにすることが望ましいこと、そのため、海洋データの収集・管理・提供を推進し、海洋データの品質管理・標準化及びデータ同化手法を用いたデータセットの作成が不可欠であること、としている。
気候変動に与える影響の大きい海洋の情報をリアルタイムに収集し解析処理を行い、データベースに蓄積するとともに、国内外の関係機関へ提供するシステムが運用された。また、内外船舶の海上気象観測資料を収集し、統計として整理されてきた。今後はこれらのデータを基に海洋数値モデルを作成し、気象海象の予測に役立てることが重要である。
総合的な海洋データバンクである日本海洋データセンター(JODC)により、日本の海洋データの一元的な管理・提供や世界各国とのデータ・情報交換が進められており、この期間に新たに収集した各種海洋データは品質管理後、ホームページで研究者などのユーザーに公開し、利用に供されている。今後は各関係機関がJODCへのデータ提供を更に進め、データベースの充実が図られることが重要である。また、効率的なシステムを構築する観点から各関係機関が分散型のデータ管理機能を担うとともに、データ同化手法を用いて時空間的に補完されたデータセットの作成や他分野のデータとの統融合を行い、常に利用者を念頭に置いたデータ収集・管理・提供が行われる必要がある。
海洋は一つにつながっていることからも、優れて国際的な性質を有しており、海洋を議論するに当り、多国間もしくは二国間の国際協力関係を無視することは出来ない。特に日本にとって、東アジア地域などの近隣諸国を含む国際的会議及び二国間協力については積極的な対応をとることが重要である。
答申によると、海洋に関する問題を解決するためには、国際貢献と国益の確保の均衡を図りながら、国際的な協力の枠組み整備、国際的なプロジェクトへの参加、開発途上国への支援等の国際協力を進めることが重要である、としている。
国際的な大きな流れとして、まず、海洋法秩序に関する包括的な条約として国連海洋法条約が、1982年に第三次国連海洋法会議において採択され、1994年に発効された。この国連海洋法条約は、海洋に関する諸問題について包括的に規律するものであり、世界の新しい海洋秩序の体系化に大きく貢献した。更に、1992年6月の「環境と開発に関する国連会議(UNCED)」において、21世紀に向けた持続可能な開発を実現するために各国及び各国際機関が実現すべき具体的行動計画として「アジェンダ21」が採択された。このような国際的な枠組みの中で、日本も各種取り組みを実施している。
前述の通り、海洋は優れて国際的な性質を有しており、多くの国が関係することから、多国間の国際協力が今後重要になってくる。多国間協力は政府開発援助(ODA)の他、海事、農業、気象、科学技術など多くの分野にわたるが、主な取り組みは以下のとおりである。
ODA関係では、独立行政法人国際協力機構(JICA(ジャイカ))が2002年以降、水産資源の保全管理に関わる協力を各国で実施してきた。科学技術関係では、統合国際深海掘削計画(IODP)において、地球深部探査船「ちきゅう」が2007年から国際運用が開始され、また、ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)において、日本が実施している「海洋の科学的調査」、「技術移転」等について協議されるとともに全球海洋観測システム(GOOS)の構築に貢献した。
今後、ODA関係では、JICA(ジャイカ)の地域別の水産分野協力方針を作成し、地域的な課題にきめ細かく取り組まれることが重要である。この際、国境を越えた対応が求められることもあり、日本のみの取り組みでは全てを達成することは困難であるため、国際機関との連携の方策を探ることが重要である。科学技術関係では、IODPの枠組みにおける「ちきゅう」の運用を引き続き着実に行うことが重要である。IOC関係では、今後も引き続きGOOSの構築に貢献することが重要である。
また、日本周辺の沿岸国では、経済発展が著しく、周辺海域への環境負荷が増大していることが指摘されており、人為的要因がアジア大陸に隣接した海域における海洋環境や漁業資源等に及ぼす影響を解明する必要があり、海洋環境モニタリングを行い、日本周辺海域の海洋汚染の発生状況、環境濃度推移等を把握してきており、今後も引き続き日本周辺海域の状況及び経年的変化を把握することとしている。
総合的な視点に立って海洋政策を企画・立案することは、「海を知る」「海を守る」「海を利用する」の3つのバランスのとれた政策を求めている答申において極めて重要な観点である。
答申において、国として海洋全体を見渡した政策の策定、あるいは複数の行政分野にまたがる政策等について検討を行い、「総合的な管理」を実行することが重要であり、その際、内閣に置かれた海洋開発関係省庁連絡会議を、関係省庁の政策に関する情報連絡・収集に加えて、実質討議を行う場に変えることが重要であり、海洋開発分科会は海洋開発の基本方針、国としての総合的な政策、行政分野横断的な政策等を調査・審議する機関であることが重要である、としている。
これらに対応したものとして「海洋基本法」に基づく「総合海洋政策本部」が設置され、海洋開発関係省庁連絡会議の機能が継承されるとともに、海洋政策を集中的かつ総合的に企画・立案し推進する体制が整備された。今後、総合海洋政策本部では「海洋基本計画」の案を策定し、同計画は閣議決定されることとなるが、その策定の際には本フォローアップが十分に活用されることを希望する。