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学生のアルバイトについては無視できない規模であり,事務局説明にもあったように,奨学金の受給額よりもアルバイト収入の方が多い。奨学金を受給するよりも自らアルバイトで収入を得た方が良いという考え方があるようだが,学生の中で奨学金に対する位置付けが変化しているのではないか。奨学金を絶対的必要論だけで議論できるのか疑問に思うが,どうか。
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アメリカ,イギリスでは,いわゆる良い大学の学生になるほど,アルバイトをやっていないという傾向があるのではないか。
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確かに以前と比べ奨学金の位置付けが変わってきているのは事実である。しかし,アルバイトで学費を賄って,単位だけ取得して卒業する状況は好ましくない。この問題を考えるに当たり,例えば学生の生活時間を測定し,アルバイト時間,勉強時間や将来的な所得予測のデータを蓄積して,奨学金があることによってアルバイトの時間が減り,その分学習時間が増え,将来的な労働政策の効果が上がるということを示す必要があるのではないか。以前,60名の学生に学費の負担方法についてインタビューしたことがある。結果は,アルバイトをしている者の大部分は稼いだ分を遊興費に充てていた。一方,授業料や生活費をアルバイトで賄っている者の従事時間はかなりの時間になり,生活は何とかやっていけるが,授業に身が入らないという回答であった。今後相対的に家計の経済的バックグラウンドが弱い学生層が増えることが想定されるが,その学生層に実のある大学教育を受けさせるためにも,奨学金とアルバイトは分けて考えるべきではないか。
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各国の財政事情により,無償から有償へという傾向は致し方ない面があるが,教育投資的価値から考えると,給付制や無利子奨学金は必要なのではないか。
教育的投資は将来的に生産性に大きく寄与し,生涯賃金以上に異なる社会的便益が発生するのではないか。税負担や公的システムをもう一度見直して,教育に対して投資すべきだと考える。また,経済情勢が激しく動いた時に,例えば減免措置等の制度を導入できるように,検討していくべきではないか。
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ドイツでは現在,国公立大学の授業料が無償だが,ごく一部の州で授業料導入の動きがある。ヨーロッパ諸国は登録料等の形でわずかな金額を徴収しているが,実質的には無償である。一方,奨学金に関しては,国によって考え方が異なっており,貸与制や有利子へのシフトが起こっている。コアな政策として堅持する部分はどこか,また,フルコストを支払う学生をどのように増やすかについての政策を検討すべきではないか。日本では,フルコストを支払う学生は私立大学に多く,それに比べコアな部分が弱いのではないか。
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ドイツでは,授業料が無償であることと卒業試験が難しいことから,多数の過年度卒業生が発生し,いくつかの州では授業料の徴収を始めた。フランスでも同様の動きがあるようである。
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授業料と奨学金をセットに考えることは非常に重要である。その際,大きな問題となるのが私立大学の存在ではないか。日本は韓国に次いで高等教育費の私費負担割合が高い。韓国では,この問題は社会的にどのように取り扱われているのか。また,奨学金制度はどうなっているのか。
ヨーロッパの場合,教育が個人に対する投資であるという考え方はそれほど強くない。一方,アメリカではそのような考え方が強い。アメリカのように所得格差が極めて大きい国では,一律に奨学金制度の問題を考えるのではなく,制度が非常に多元的になっている。特に,私立大学では,授業料と奨学金がトレードオフ的な関係にあり,様々な独自の政策がとられている。日本は,一見アメリカに似ているように見えるが,奨学金も授業料も硬直的である。日本は,大学間の授業料格差はそれほど大きくない中で,例外的に医学部のように格差が大きい学部も存在する。日本は,奨学金政策を戦略的に捉え,社会の発展と個人の便益のどちらを重視しながら政策を実行していくのかについての方針がはっきりしていない。もっと,メリハリのある政策を実行すべきではないか。
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各国の改革は高等教育財政改革の一貫であり,授業料,奨学金に加え,私学助成等の国庫補助の問題も存在する。公財政支出は限られており,それをどのように配分するかという議論ではないか。ところが,我が国はそれらが個々に議論されているような印象を受ける。もう少し総合的に議論する場を設ける必要があるのではないか。また,アメリカの政策について,日本にとっての善し悪しを議論する必要もあるのではないか。特に,アメリカは高等教育が多様であることが特徴のように言われているが,奨学金に関しては,多様性ゆえ学生の選択が困難になり,透明性が確保できない状況になっているのではないか。確かに,日本は一律過ぎる部分があるが,一方で,日本学生支援機構においていくつかの改革が行われているのも事実である。アメリカのように多様性があることが学生にとって良いことなのかについては,議論する余地があるのではないか。
韓国の事例について,詳細は把握していないが,同様に家計負担が高いといわれる南欧諸国は,自宅通学の学生が多く,この状況は北欧諸国と対象的である。日本が比較対象とするのは,英語圏諸国あるいはドイツ,フランスが中心であり,これら以外の国々と比較することも必要ではないか。
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奨学金をはじめとする現在の学生に対する経済的支援策が構築されたのは相当昔のことであり,現在のように大学・短大への進学率が50パーセントを超える状況では,果たしてこのままの制度で良いのか。また,大学卒業者が増加し,社会的効果や産業界に対する影響が大きくなっており,ひいてはそれが我が国の国力にもつながる。これまで企業は,すでに大学で教育を施された者を採用してきたが,産業界も大学教育に対して支援すべきであり,そのような経済支援の在り方について,今後検討すべきではないか。
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我が国の場合,奨学金制度はこれまであまり改革されてこなかったのは事実である。我が国は,いわばエリート型の育英の考え方が強く残っており,ユニバーサル化に対応した奨学金制度が構築されて来なかった。この問題をどう考えるかが重要な課題である。
産業界の大学教育に対する支援の例としては,かつてフランスで「大卒雇用税」が検討されたことがある。これは大卒者を採用した企業からその分だけ税金を徴収し,企業も応分の負担をすべきという考え方であった。
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産業界が大学教育をもっと支援すべきという点は賛成である。以前は,工学系でも修士課程への進学率は低く,就職の際,修士課程修了者は敬遠されていたが,現在では修士課程修了者でないと就職が厳しい状況になっている。このように,我が国の企業,特に科学技術に関連する産業が発展したのは,修士課程修了者の力が大きかったと考えるが,実際には,学部卒と修士修了者の処遇はほぼ同じである。一方,高専卒業者に対する社会的な評価は低く,その点について企業も考える必要があるのではないか。
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女子学生の奨学金受給率の傾向はどうなっているのか。女子学生の進学率が高まっているが,そのことと奨学金受給率はどのように関係しているのか。また,雇用形態が変化し,女性の社会進出機会が増えている中で,女性の進学による経済効果はどのくらいなのか。
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受給率の変動については,男女別のデータが存在しないため正確には分からないが,全体として受給率は上昇しており,女性でも同様のことが言えるのではないか。
また,経済的効果については,大学進学による所得増分を考えれば,女性の方が高い。絶対的水準ではまだ男女差があるが,投資の増分という意味では女性の方が高い。
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平成16年(2004年)のデータでは,日本学生支援機構の奨学金受給者は,男子が18万9,000人,女子が16万7,000人で,うち,第一種奨学金の受給者は,男子が7万7,000人,女子が7万3,000人であり,それほど男女差はない。
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大学の現場から見ると,奨学金を受給することに対して,親が消極的であるようだ。これには,女性ということが何らかの要因ではないかと感じていた。しかし,近年では状況が変化しつつあるように感じている。
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大学教育の投資収益率については,昭和63年(1988年)時点で,大企業で約10パーセント,中企業で約6パーセント,小企業で約2パーセントであったと思うが,現在はどうか。
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1970年代には平均で約7パーセントであったのが,その後約6パーセントに下がり,その後,ほぼ一定で推移している。ただし,企業規模別に見た場合は,小企業では0パーセントに限りなく近い数値になっている一方,大企業では上昇傾向にある。
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大企業では10パーセント超えているのか。
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そのとおりである。
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大学を卒業し大企業に就職するという構図とそのメリットは変化がないということか。
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そのとおりである。
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本来,奨学金が学問を奨励するためのスタートラインだったとすれば,受給している学生の成績や学歴との相関関係はどうなっているのか。
日本の企業も独自に奨学金を出しているところがあるが,アメリカのような広がりはない。アメリカは,学生に対して手厚い奨学金を支給する代わりに,厳しく教育し,高い学生の質を確保するという仕組みになっているが,日本は,中間層あるいは全体の底上げを図るような仕組みの中に,奨学金制度が内蔵されている。両者のバランスをとることが課題ではないか。
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今の点は,育英と奨学のバランスをどうするかという問題だと考えるが,どうか。
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日本の例については,この点に関しての実証的なデータが殆どない。奨学金についての最大の調査である学生生活調査にも,成績についての調査項目がない。この点については,今後,実証研究を進めていかなけばならないと考えている。外国では,例えばGPAを奨学金の金額算出に使用している例が数多くある。
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奨学金と学力の関係については,全国レベルでの分析は行われていない。
企業側の負担の問題は,例えば,共同研究等により産学連携関係費用が増えており,それが大学院生の研究環境等に影響を与えているという側面があるのではないか。
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奨学生と面談をしたところ,日本学生支援機構の奨学金に対する印象は,大学や企業独自の奨学金と比べて,経済的に困難なために受給しているものであるようだ。回収の問題も含め,もう少し大学が奨学金についての認識を高め,事業に対する支援を行うべきではないか。例えば,在学中には毎年資格認定を行い,成績の悪い学生に対しては奨学金の貸与を中止するが,卒業後は大学からの支援が全くない。奨学生の卒業後のフォローを,大学と日本学生支援機構が協力して行うべきではないか。実際,大学の現場では一部の事務担当者しか奨学金の実態を把握しておらず,全学的に支援する体制を構築する必要があるのではないか。
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アメリカはローンは返すものだという明確な方針があり,学生が連邦教育ローンを借りた場合には,大学がカウンセリングを行うことが義務となっている。ローンの未返済率が25パーセント以上の期間が3年間続くと,2年間資格が停止されるという厳しい措置をとっている。しかし,このような方法が日本に馴染むかどうかは検討の余地があるのではないか。 |