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大学教育部会(第4回)配付資料

1. 日時
  平成18年5月15日(月曜日) 17時〜19時

2. 場所
  如水会館(2階) オリオンルーム

3. 議題
 
(1) 留学生交流の現状と課題について
【意見発表】 江藤 一洋氏(東京医科歯科大学歯学総合研究科教授)
谷口 吉弘氏(立命館大学理工学研究科教授)
【自由討議】  
(2) その他

4. 配付資料
 
資料1   第3期中央教育審議会大学分科会大学教育部会(第3回)議事要旨(案)
資料2   大学教育部会での検討課題に関する主な意見等
資料3   留学生交流の推進について
資料4   我が国の留学生政策の方向性(PDF:418KB)
(東京医科歯科大学歯学総合研究科教授 江藤 一洋氏)
資料5   私立大学の留学生戦略(PDF:504KB)
(立命館大学理工学研究科教授 谷口 吉弘氏)
資料6−1   教育基本法案の概要(PDF:67KB)
(※国会提出法律関係へリンク)
資料6−2   新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について(答申)(抄)
資料7   グローバル戦略の中間とりまとめにあたって
資料8   OECD高等教育政策レビューの概要
資料9   大学分科会関係の今後の日程について(案)

(参考資料)
参考資料1   最近の高等教育に関する新聞記事等
参考資料2−1   平成16年度学生生活調査結果の概要
(※独立行政法人日本学生支援機構ホームページへリンク)
参考資料2−2   平成16年度学生生活調査結果
(※独立行政法人日本学生支援機構ホームページへリンク)
参考資料3   平成17年度大学等卒業者の就職状況調査(4月1日現在)について
(※報道発表一覧へリンク)
参考資料4   経済産業省「社会人基礎力に関する研究会」中間取りまとめ(概要)
参考資料5   財団法人社会経済生産性本部
「第17回 2006年度 新入社員意識調査(要旨)」

(机上資料)
  大学教育部会関係基礎資料集
  高等教育関係基礎資料集
  我が国の高等教育の将来像(答申)
  新時代の大学院教育(答申)
  経営困難な学校法人への対応方針について
  教員分野に係る大学等の設置又は収容定員増に関する抑制方針の取扱いについて(報告)
  大学の教員組織の在り方について(審議のまとめ)
  大学の設置認可制度に関するQ&A(平成17年度)
  大学設置審査要覧(平成17年改訂)
  文部科学統計要覧(平成18年版)
  教育指標の国際比較(平成18年版)
  大学審議会全28答申・報告集
  中央教育審議会 答申
「大学等における社会人受入れの推進方策について」「大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について」「大学院における高度専門職業人養成について」「法科大学院の設置基準等について」「新たな留学生政策の展開について」「薬学教育の改善・充実について」「新しい時代における教養教育の在り方について」

5. 出席者
 
(委員) 木村孟(部会長),江上節子(副部会長),相澤益男(分科会長),飯野正子,金子元久の各委員
(臨時委員) 天野郁夫,石弘光,黒田壽二,菰田義憲,永井順國,菱沼典子,森脇道子の各臨時委員
(専門委員) 北原保雄,黒田薫,小杉礼子,竹内洋,山根一眞の各専門委員
(文部科学省) 石川高等教育局長,磯田高等教育局担当審議官,片山私学行政課長,村田学生支援課長,安藤私学部参事官,池田留学生交流室長 他

6. 議事
  (□:意見発表者,○:委員,●:事務局)

 
(1) 事務局から「留学生交流の推進」についての説明があり,その後,質疑応答が行われた。質疑応答の内容は以下のとおりである。

 
委員  「平成16年度に卒業(修了)した外国人留学生の進路状況」の調査時点はいつか。

事務局  卒業した年の3月時点である。

委員  「その他(就職・進学にあてはまらない者)」に該当する者の割合の17パーセントは日本人学生の場合と同じぐらいの割合か。

事務局  そうだ。先ほど申し上げたように,日本人学生と同様に就職活動中の者や進学希望の者が含まれている。

(2) 「留学生交流の現状と課題」について,有識者から意見発表があり,その後,質疑応答が行われた。意見発表と質疑応答の内容は以下のとおりである。

  【江藤一洋氏(東京医科歯科大学歯学総合研究科教授)の意見発表】
   我が国の留学生交流のための予算は,文部科学省の留学生関係予算が465億,外務省予算が38億円で合計503億円である。
 次に世界の留学生交流の現況についてである。主要国の留学生の受入れ状況について,受入れ数を合計すると約166万人になる。日本の受入れ数は約12万人であり,単純に計算すると世界中の留学生の17人に1人しか日本に留学しておらず,このままではいつまでも少数派のままである。アジア地域の留学生の動態については,各国ともアメリカ,イギリス,オーストラリアへの留学生数が多く,日本に留学する者は少ない。また,ラオスやカンボジアでは国費で多数の留学生を派遣するという動きもある。世界の留学交流については拡大傾向にあり,平成15(2003)年に220万人であったものが,平成37(2025)年には700万人を超えるという試算もある。
 次に各国の留学生政策についてである。まずイギリスの留学生の政策であるが,受入れ数は平成15(2003)年現在で約32万6,000人であり,ブレア首相が平成12(2000)年に留学生の受入れ拡大政策を発表した後,急速に増えている。今後,平成32(2020)年までに3倍増の87万人まで受入れを増やし,130億ポンドの経済効果を見込んでいる。また,British Councilを110カ国に置き,7,300人の職員を配置している。また,国費留学生を国策として捉え,将来各国の指導者となるような人材を発掘し,留学を通じてイギリスとの関係を強固にしようと考えている。昭和58(1983)年以降,150カ国以上4万人の留学生に国費が支給されており,その中からは,受入れ元の国の大統領や首相になる者もいる。イギリスの国費留学生はチーブニングと呼ばれている。一方,私費留学生については,数が増えれば増えるほど大学にとっては授業料収入が増加するため,大学の利益として捉えている。たとえ高い授業料を取っても,教育の品質を保証しているため,留学生にとっても十分利益になるという誇りがあると言われている。
 次にオーストラリアの留学生政策である。受入れ数は平成6(1994)年に9万3,000人であったものが,平成16(2004)年には22万8,000人となり,平成7(1995)年には数の上で日本を追い抜いている。特徴としては,ツイニングプログラムと呼ばれるオフショアプログラムが挙げられる。また,留学生獲得のため,現在,在外公館スタッフの充実を図っている。
 次にアメリカの留学生政策である。近年はテロ等の影響から,平成14(2002)年から2年連続で留学生受入れ数が減少している。平成16(2004)年の留学生受入れ数は56万人である。近年,中国への留学生が増えている。平成15(2003)年には4,700人となり対前年比90パーセント増加で,日本への留学生数を追い越してしまった。アメリカの留学生政策はこれまで大学に任されていたが,安全保障の強化や孤立化からの脱却のため,国家政策に変換しようという兆しがある。また,"National Security Language Initiative"では派遣学生100万人計画が謳われてる。一方アメリカには各国から留学生が集まっている。これは,世界中の頭脳をアメリカ自身の活力源とするため,外国人に労働市場を開放し,留学生がアメリカ国内で職を得て,アメリカ人と同様に昇進可能な仕組みがあったからであり,また,1980年代からの18歳人口の減少を受け,アメリカの大学が留学生を積極的に受け入れてきたためである。
 次に中国の留学生政策である。平成12(2000)年に5万2,000人であった受入れ数が平成16(2004)年には11万人になっており,4年間で2倍以上に増えている。数の上からも明らかなように,中国の留学生政策はそれまでの派遣中心から受入れ中心に政策転換をしたといえる。また,平成19(2007)年までに留学生受入れ数を12万人にするとの目標を掲げているが,先のChina radiointernationalの発表では,平成17(2005)年に既に14万人を超え,目標を2年前倒しで達成していると言われている。また,世界規模での中国語の普及を目指し,北京オリンピックまでに世界100ヶ所に孔子学院を設置する予定になっており,現在までに61ヶ所が設置済となっている。中国の留学生の受入れについては,韓国からの受入れが最も多く,次いで日本,アメリカとなっている。近年アメリカからの留学生の受入れが増加している。また,中国からの派遣についてはアメリカが最も多く,次いで日本,イギリスとなっている。
 最後に諸外国の留学生政策についてである。まず国費留学生については,留学を通じてその国の指導者となるような人材を育成している。一方,私費留学生については,大学に任されている部分が多く,授業料収入を得て大学経営の一環として捉えられている。数値目標については,実際に掲げたのはイギリスのブレア首相である。日本は高等教育機関在学者に占める留学生数が3.3パーセントと他の主要国に比べ低いが,数値目標をどこに設定するかは,今後の大きな課題である。留学生政策の展開で重要なことは,1高等教育の国際競争力の強化,2留学生を確保するための強力な海外拠点網の整備,3留学生へのジョブマーケットの開放,4民間奨学金の充実,5帰国留学生への支援である。日本の留学生政策の展開に関しては,ツイニングプログラム等の新しい政策展開も参考になるのではないか。また,先進各国の留学生政策を精査するためには,留学生の移動の状況や国を選択した理由等の調査が必要である。さらに,帰国した受入れ留学生のネットワークを日本で確実に把握することが必要である。

  【江藤一洋氏の意見に対する質疑応答】
 
委員  帰国した留学生の情報把握は難しい問題である。これは各大学で行うべきなのか,あるいは国が行うべきなのか。時と場合にもよるが,各大学が行うとしても,国がフォローアップを行わなければ,その効果が上がらないのではないか。国費留学生の支援もさることながら,帰国後の支援をどうするのかについて考えなければ,たとえ来日しても留学生が定着しないのではないか。現在の帰国後のフォローアップの実態についてはどうか。

意見発表者  フォローアップの実態は各国とも明確にはなっていない。今後留学生を獲得するため,企業が海外展開するためにも,留学生についての情報収集は大きなメリットがある。国が行うか大学が行うかは議論があるが,いずれにせよ情報収集は行うべきである。

委員  イギリスについては,British Councilが奨学金を支給している者については情報を持っているが,それ以外の者の情報はあまり把握していない。日本の場合,情報収集については各大学が行った方が良いのではないか。

事務局  国費留学生については我々も同じ問題意識を持っている。国費留学生の帰国後のネットワークづくりについて,帰国の際に帰国後の連絡先等の提供に協力してもらい,それを在外公館に提供することでフォローアップや同窓会づくりに役立てることを模索している。国費留学生については,今後フォローアップを細かく行う方向であり,現在その方法を検討している段階である。

委員  ネットワークの形成については,国ではなく大学が行うべきではないか。日本の大学は自国の卒業生の情報もあまり把握できておらず,同時に外国人に対するフォローアップが少ないという問題がある。その意味では,留学生だけの問題ではないのではないか。一方,アメリカでは綿密にフォローアップを行っているという印象を持つ。
 留学生の数について,OECDやUNESCOの統計を用いているが,例えば,これらの数字は通関統計による数値と異なっている。これは恐らく留学生の定義が統計によって異なっているためだと考えられるが,それぞれの統計の定義付けはどのようになっているのか。

意見発表者  正確な定義付けについては承知していない。しかし,公表されている数字はこれ以外にはない。一般的に国費留学生に関するデータが乏しく,日本大使館から各国大使館に依頼して調査したこともある。

委員  データについては,留学の形態によって把握されているものもあればそうでないものもある。日本からの留学生の数が増えているが,実態として増加しているのか,それともこれまで統計上計測していなかったデータを計測するようになったためなのか,原因を分析してみる必要がある。
 かつて,オックスフォード大学の留学生数を調査したことがあるが,同様に実際の調査と統計上の数字と異なっていた。留学生の定義の仕方によって数字にばらつきが出ることに注意しなければならないだろう。

委員  日本の場合,大学院生に占める留学生の割合が約25パーセントということだが,受入れに関して,どのレベルの留学生に重点を置くのかは,国によって考え方が異なるのではないか。将来的には,世界全体で留学生数が700万人になるとの試算があるとのことだが,日本は学部レベルと大学院レベルのどちらに重点を置くべきだと考えているのか。
 また,授業料の問題も非常に重要である。フランスやドイツが原則無償である一方,イギリスは,留学生の授業料が自国学生の授業料よりも高いため,各大学が留学生定員を増やす方向にある。アメリカや日本は私立の割合が高く,ヨーロッパとは状況が異なるが,授業料について何か政策はあるのか。

事務局  学部と大学院のどちらに重点を置くかについては,全体を通じて送り出す側のニーズを踏まえている状況であり,現在は必ずしも戦略的な方策があるわけではない。例えば,国費留学生については,諸外国の国策の見直しと関連して,大学院レベルに重点を置いている。その一方,私費留学生については,一般的な教養や学問を身につける意味合いもあり,学部レベルに重点を置いている状況である。具体的に学部レベルと大学院レベルをどのような割合に配分するかについては,今後検討しなければならない。
 授業料の問題については,日本はイギリスとは異なり,自国学生も留学生も同じ授業料である。その中で,国費留学生制度や授業料免除制度等により,留学生の経済的負担を軽減するような政策をとっている。

委員  留学生の労働市場の開放を課題として挙げているが,外国人留学生の進路状況を見ると,日本国内で就職した者の割合が全体の22.9パーセントとなっている。一方,出身国(地域)で就職した者の割合が全体の12.6パーセントとなっている。留学先にそのまま残って就職する割合について,日本は他国と比べて高いのか。

意見発表者  正確なデータは持ち合わせていないが,日本,イギリス,フランス,ドイツについては就職に関して制限があるため同じような割合である。一方,アメリカでは約70パーセントの学生がそのまま就職をする。

委員  オーストラリアの留学生受入れ数が大幅に伸びている理由について伺いたい。
 また,イギリスにおける戦略的な留学生の確保についての説明の中で,日本学生支援機構がアジア4カ国に職員73名を配置しているとの説明があったが,これは何の数か。

意見発表者  オーストラリアの留学生受入れ数が大幅に伸びているのは,イギリスの留学生政策に類似した政策をとっているからではないか。これについては後ほど詳しく説明する予定である。

委員  国が学生に多額の奨学金を支給する一方,大学が高額な授業料をとるということか。
 日本学生支援機構の海外事務所については,現在充実を図っているところであり,さらに充実させていきたい。

事務局  日本学生支援機構の職員数73名については,海外事務所の職員数ではなく,機構で留学生事業に携わっている者の数である。

委員  ヨーロッパ諸国はオーストラリアの大学院教育を高く評価している。また,オーストラリアはノルウェーからの留学生を大量に受け入れている。教育の質もさることながら,研究の質も高いことが要因ではないか。

委員  アメリカに留学した者がそのままアメリカで就職する割合が高いのは,ワーキングビザの問題が関係しているのではないか。アメリカはワーキングビザの取得が困難である。特に,人文・社会系はその傾向が顕著であり,それが留学生の残留につながっているのではないか。

委員  イギリスもワーキングビザの取得は困難である。日本の場合,約23パーセントの留学生が日本に残って就職をしているが,なかなか長続きしない。調査時期によっては,この数値も大きく違ってくるのではないか。

  【谷口吉弘氏(立命館大学理工学研究科教授)の意見発表】
   日本の留学生政策を考える場合,私費留学生をどうするかが重要である。現在,留学生の約90パーセントは私費留学生であり,留学生の約70パーセントは私立大学に在籍している。これらが日本の留学生の特徴であり,私立大学が留学生戦略を必要とする理由である。
 私立大学の留学生の特色としては,私費留学生の全体の約70パーセントが私立大学に在籍をしていること,学部及び短期大学への留学が圧倒的に多いこと,人文・社会系学部への留学が多いことである。「中文学私」とは「中国からの私立大学の文系学部」への留学が多いことを示す四字熟語である。私立大学における私費留学生の課題としては,1一般に私立大学の学費が国公立大学に比べて高額であること,2留学生の質の確保,3留学生の受入れ体制の整備,4日本の大学教育が国際的通用性を持っているのかどうか,という点が挙げられる。留学生が「日本に留学してよくなかった理由」として最も多く挙げているのは「経済的に苦しい」であり,次に「留学生に対する社会的差別がある」であった。以前「留学生施策の戦略的方策に関する研究」として,約2,200名の留学生を対象に研究留学生の日本留学に関する意見調査を行った。その中で留学生が問題だと感じていたのは「十分な宿舎の確保」「日本人学生の英語力」「事務職員の英語力」「就職市場が開放されていない」であった。「十分な宿舎の確保」及び「日本人学生の英語力」については,2人に1人の割合で問題があると感じていた。現実に,文化的な側面から留学生は日本人に対する問題点を感じているようである。
 次にオーストラリア・マレーシアの留学事情についてである。オーストラリアの留学生受入れ数は,約15万人で,日本の最大の競争相手だといえる。また,オーストラリアは教育を輸出産業と捉え,平成12(2000)年当時で留学生ビジネスは37億オーストラリアドルの規模になっており,これはオーストラリアの輸出産業の中で3番目に位置する。オーストラリアは国内で留学生を来るのを待ち構えているだけではなく,積極的に海外に進出し学生を確保している。また,予備教育が充実しており,教育・研究レベルも高い。
 一方,マレーシアはオーストラリアに約1万4,000人を送り出している。マレーシアからオーストラリアに留学する要因として,1英語による教育制度,2予備教育の充実,3ツイニングプログラムの存在が挙げられる。このツイニングプログラムがオーストラリアに大きな利益をもたらしているといえる。
 オーストラリアと日本の受入れ留学生数の推移を見ると,平成7(1995)年までは日本が上回っていたが,平成8(1996)年に逆転して以降,現在までその差は大きくなっている。そこで,オーストラリア国内の留学生数と現地校の留学生数の変化を調べてみると,国内の留学生数は日本の留学生数と差がないにもかかわらず,現地校の留学生数が急激に増えており,この差が現在はさらに拡大していると思われる。現地校の留学生とは,マレーシアにオーストラリアの大学のキャンパスを置き,そこに在籍するマレーシア人学生のことであり,支払われた学費はオーストラリアの大学の収入となる。このことが,オーストラリアが留学生ビジネスで成功している理由ではないか。
 このような方法はツイニングプログラムという広義のオフショアプログラムの1つである。オフショアプログラムには,他国で教育プログラムを行う方法や他国の高等教育機関と共同教育プログラムを行う方法がある。現地校をつくる方法もあるが,現地分校で一部の教育プログラムを行い,残りを外国の大学で受けるという方法もある。例えば,オーストラリアの大学は3年制であり,2年間は現地で学び,残り1年をオーストラリアで学ぶということも可能である。ツイニングプログラムの利点は,経費節減とともに海外留学に伴う精神的負担が軽減できる点である。また,現地での予備教育の間に学生のスクリーニングが可能となり,学生の質を一定に保つことができる。一方で,外国の風土・文化に接する機会が減少し,本来の留学の魅力が薄れるという欠点もある。オーストラリアのツイニングプログラムは,できるだけ短期間に費用をかけずに学位を取得したい途上国のニーズに合致していると言える。ツイニングプログラムを導入している大学とそうでない大学との間で必要経費にどれほどの差があるかを試算した例がある。オーストラリアのモナシュ大学コンピュータ科学分野の学位取得経費について,オーストラリアで3年間教育を受けた場合とマレーシアのキャンパスで3年間教育を受けた場合では,後者は前者の約半分の経費で同じ学位が取得できるとされている。
 日本ではODAの有償借款を利用したマレーシアとのツイニングプログラムがある。当初は東方政策のもと,大学や高等専門学校に留学生を派遣していたが,平成4(1992)年からツイニングプログラムであるHELP1がスタートした。平成11(1999)年まで続いたこのプログラムは,2年間の予備教育の後,日本の理工系学部に入学し学位取得を目指すものであった。その後,平成13(2001)年から平成17(2005)年にかけてHELP2が実施された。これは現地での1年間の予備教育と大学1年次の教育を経た後,日本で3年間の基礎・専門教育を学ぶプログラムである。そして,平成18(2006)年から,現地で1年間の予備教育及び2年間の大学での教育の後,日本で2年間の専門教育を受けるHELP3がスタートした。このプログラムは,電気機械系の分野に限り,今後5年間,1年につき80名合計400名を受け入れるものである。インドネシアやベトナムとも同様のプログラムを実施しており,日本でも少しずつ展開されつつある。HELP2では13私立大学が共同で「ツイニング国際化への積極的取組」という取組を行っており,平成15年度「特色ある大学教育支援プログラム」に採択された。
 さらに,本年2月に,日本国際教育大学連合(JUCTe)というNPO法人が設立された。JUCTeとは,海外との提携教育機関等と1日本留学準備プログラム,2ツイニングプログラム,3日本人学生のための海外体験プログラム,4ワン・ストップ・センター・サービスの提供等を推進することにより,日本への留学のアクセスを改善し,留学のための費用低減を図り,優秀な留学生の確保を目指すものである。JUCTeは事業趣旨に賛同するすべての大学,その他の教育機関,海外や国内に事業展開する企業や団体,個人の参加を求めている。現在はHELP2のメンバーが中心であるが,国立大学からの参加もあり,今後さらに組織を拡大させていきたいと考えている。ワン・ストップ・センターにおける海外拠点サービスは,各国別留学生市場の需要と供給等に関する情報提供や卒業後のフォローアップを始め,大学コンソーシアムやオフショアキャンパス等を通じたツイニングプログラムの展開を考えている。
 次に私費留学生の拡大方策であるが,現在の施策だけでは留学生の増加にはつながらないと考える。留学生を増加させるために解決しなければならない問題としては,1高い学費と生活費などの経済負担の軽減,2留学生の質の確保,3留学生受入れ体制の整備,4卒業後の就労対策が挙げられる。そのためには,例えば,ツイニングプログラム等のオフショアプログラムの開発,海外拠点の整備と予備教育の充実と学生の選抜,良質で安価な宿舎の整備と国際的通用性のある教育の実施,労働市場での優秀な留学生の積極的な採用が必要ではないか。
 ツイニングプログラムとは「もう一つの日本留学窓口」であると考えている。ツイニングプログラムにより,私費留学生を拡大するためには,1大学が幅広い教育分野のツイニングプログラムを開発すること,2大学が国際的通用性のある教育を行うこと,3海外拠点網サービスを整備すること,4留学生寮を整備・拡大すること,5産学官と現地国が一体になって取り組むことが必要である。

  【谷口吉弘氏の意見に対する質疑応答】
 
委員  日本の場合,ODAの有償借款という国費が投入されているが,オーストラリアの場合は国費が投入されていない。日本でも国費を投入せずにツイニングプログラムを実施することは可能なのか。
 また,日本は言語の障壁が大きい。オーストラリアやマレーシアでは英語が通じるため,短期の教育プログラムでも成果が上げられるが,日本語は短期間で習得するのは困難である。言語の障壁を克服しない限り,日本でのツイニングプログラムは難しいのではないか。

意見発表者  日本語を学習している者は世界中に相当数いる。そういう学生を拠点で学ばせるという意図がある。
 また,大学で日本語だけではなく英語で授業することは好ましいが,一方で日本人学生の英語力は低い。よって,日本中の大学で一律に実施するというのは問題がある。英語だけで授業を行うのであれば,わざわざ日本に来る必要はない。日本に留学するからには,日本語教育は必要である。よって,日本でのツイニングプログラムもそれほど困難ではないと考えている。
 国費の投入の問題については,現地に進出している日本企業等の協力を得ることで,国費に依存しなくとも実現可能になるのではないか。ただし,海外拠点の整備については,国の支援も必要であり,全て民間まかせにするということではなく,相互に協力しながら進めていくべきではないか。

事務局  オーストラリアの状況について補足したい。オーストラリアは,移民の受入れを積極的に行い多民族国家を形成しているため,大学をはじめ小・中学校においても英語と第二言語を使う仕組みが確立しており,アジア地域の多くの学生が留学先としている。
 オーストラリアの大学は殆どが国立であり,私立はごくわずかである。1990年前後に高等教育を輸出産業して位置づける政策を展開し始めた。当時は国内学生について,高等教育の学生一人当たり経費の5分の1を卒業後,一定所得に達すると返還するという政策をとっていた。一方,外国人留学生については,受入れに応じて一定の経費が国から投入されていたが,授業料等は全額自己負担であった。この政策がとられる以前は,国費留学生も私費留学生も全て無償であったが,導入後,外国人留学生の負担は重くなった。

委員  オーストラリアは日本の最大の競争相手とのことだが,留学生を受け入れるだけの多様な分野がそろっているのか。また,日本は技術大国と言われているが,卒業後の就職を視野に入れると,どのような分野に留学生を受け入れるのが戦略的なのか。
 また,日本が受け入れている留学生は学部や短大が多いが,今後は大学院での受入れを強化していく方向に進んでいくのか。

意見発表者  分野については,経済・経営やe−コマースやIT等が多い。理工系の場合は色々な実験施設等が必要になるため費用もかさむが,人文・社会系やITではそれほど整備投資に必要がかからず費用対効果が高いと言える。
 日本の場合,特に私立大学は人文・社会系が圧倒的に多いため,留学生の受入れについても現実的に人文・社会系が中心となる。また人文・社会系に比べて理系は学費が高い上,授業等の関係でアルバイトもままならない状況になるため,手厚い支援をしない限り,相当数の理系留学生の受け入れは困難ではないか。しかし,日本は技術大国であり,日本で技術を学びたいという学生は途上国を中心に多数存在する。そのため,例えばツイニングプログラムの組み合わせを予備教育と基礎教育は現地で行い,専門教育を日本で行えば,ある程度可能になるのではないかと考えている。例えば,韓国との間では,10年間,毎年100名の規模で理工系の国費プログラムがある。4年間通して日本で学ぶのが困難であっても,プログラムの組み方を工夫すれば,相当数の留学生が日本に来るのではないかと考えている。
 また,最近10年間でアジアの中にもいわゆる中産階級層が増えており,上流階級でないと日本に留学できなかったこれまでの状況に変化が生じ,私費留学生が増えつつある。官・民が協力して,中産階級の子弟を受け入れる仕組みを作れば,日本も留学生戦略で勝ち抜いていけるのではないか。

委員  これまでの留学の概念は国を背負い,外国で学位をとるというイメージが強かったが,それが国際的にも大きく変化している。それが世界中での留学生の増加に影響しているのではないか。エラスムス計画によりヨーロッパでも留学する者が増えているが,日本と同様に短期留学が増えるなど留学形態も多様化している。しかし,日本では多様化に大学が適応できていない部分がある。留学生の概念を考え,それに合わせた仕組みに変えていくことが,これからの留学生政策を考える上で重要ではないか。
 一方,組み合わせにも技術的な問題があることは事実である。例えば,日本で最初に2年間教育を受けてから残りの2年間を外国で教育を受けるというプログラムの場合,最初の2年間で語学力が伴わず,留学できないためプログラムから撤退したという例もある。技術的には語学力の問題があるとともに,大学にとって金銭的なメリットがないと実現しないという問題もある。また,もう1つ大きな問題が質の維持である。オフショアプログラムは一定の質を確保することが難しいと言われている。

意見発表者  どこの国に照準を絞るのかが重要である。日本への留学生の80パーセントは中国,韓国,台湾からの学生である。日本語に馴染みやすいということを考えると,当面はこの3カ国を中心に,日本の文化や技術を学びたい学生に門戸を開いていくべきではないか。
 次に質の確保の問題であるが,1つの大学が対応していただけでは質は担保できない。よって,大学間でコンソーシアムをつくり,その上で評価機関が一定の質を保つ仕組みを作ることが重要ではないか。

委員  教育は国際的通用性を持っていなければならない。しかし,大学設置基準が大綱化されて以降,「社会学」という授業科目が「現代社会と人間」になったように,学問がディシプリン型でなくなっている。学部教育は大綱化以降,ディシプリンを教えるという意識が弱くなり,いわゆるフィールド型になっている。国際的通用性を保つためには,学問はディシプリン型であるべきではないか。

委員  留学の形態が多様化している以上,留学は一種の教育経験であり,そこで学ぶものが必ずしもいわゆる「社会学」や「経済学」といったディシプリン型のものである必要はないのではないか。また,カリキュラムの設計の仕方によって,質も担保できるのではないか。

委員  我が国は評価においてディシプリンを重視する仕組みになっていないため,今後ディシプリンが崩れていくのではないかと危惧している。
 マレーシアで行われているオーストラリアのツイニングプログラムの実態について,私が聞いたところでは,本国よりもかなり質が劣るとの意見があった。一方で,オーストラリアは評価を重視し,質の保証に対して積極的な国であるので,本国よりも質が劣ることはないとの意見もあった。


7. 次回の日程
  次回は,平成18年6月6日(火曜日)16時〜18時に開催することとなった。

(高等教育局高等教育企画課高等教育政策室)

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