第2章 改革の基本方向−競争と協同、多様性と標準性の調和を−

(1)大学の取組−社会からの信頼に応え、国際通用性を備えた学士課程教育の構築を−

1 幅広い学び等を保証し、「21世紀型市民」に相応しい「学習成果」の達成を

  •  学位授与の方針に関しては、抽象的な人材養成の目的を掲げるに止まるのではなく、「学習成果」重視の観点から、卒業までに学生がどのような能力を修得することを目指すかを、できるだけ具体的に示していくことが大切である。大学が掲げる「学習成果」は、「21世紀型市民」として自立した行動ができるような、幅の広さや深さを持つものとして設定することが重要である。また、各大学の教育理念や「建学の精神」との関連に十分留意して、達成すべき「学習成果」を明確に示すことにより、それらが一層学生に浸透することになろう。
     学士課程教育の在り方の基本的な要件として、国際的にもほぼ共有されているものは、学びの幅広さや深さである。「21世紀型市民」に相応しい資質・能力を育成する上で、いかにしてこれを保証していくべきか、各分野の特質や当該大学の個性や特色を踏まえつつ、各大学がそれぞれに解を見出していかなければならない。その際、幅広い学び等は、一般教育や共通教育、専門教育といった科目区分の如何によらず、学生の自主的活動や学生支援活動をも含め、それらを統合する理念として、学士課程の教育活動全体を通じて追求されるべきものである。
     こうした点に十分留意しつつ、当該大学の人材養成の目的等に即して、いかにすれば、専攻分野の学習を通して、学生が「学習成果」を獲得できるかという観点に立って、教育課程の体系化・構造化に向けた取組を進めていくことが課題となる。
     規模の大きな大学については、学部・学科等の縦割りの教学経営が、幅広い学びの保証の妨げとなるきらいがあることも指摘される。教育課程をはじめ、「3つの方針」の企画・実施に当たって、いかにして縦割りの壁を破るかが課題となる。
     また、個別大学の枠を超えて、教育課程の企画・実施において連携・協同することにより、教育内容を一層豊富にする取組も期待される。

2 学生が本気で学び、社会で通用する力を身に付けるよう、きめ細かな指導と厳格な成績評価を

  •  教育課程編成・実施の方針に基づき、学生を本気で学ばせること、単位制度を実質化させることは、「入難出易」と形容されてきた我が国の大学にとって、これまでも大きな課題であった。「大学全入」時代においては、教育課程の内容に止まらず、指導方法、成績評価の改善を併せて講じ、社会で通用する力を確実に身に付けさせることが、いよいよ重要となっている。その際、学生の視点を踏まえつつ、学習者本位の改革を進めていくことが必要である。
     目的意識の希薄化、学習意欲の低下等、学生の多様化により、大学側の対応の困難性は増してきている。最終的には、「課題探求能力」という高等教育に相応しい高次の目標の達成に努める必要があるが、一方で、基礎的な読解力や文章表現力などを修得させることを避けては通れない。また、学生に目的意識を持たせ、学習意欲を喚起する観点から、地域や産業界との連携を深め、外部人材の積極的な参画を得たり、質の高い体験活動の機会を積極的に設けたりするなど、開かれた教育活動を推進することが有意義である。
     教育評価についても、きめ細かな指導を行った上で、客観化・多面化に向けた様々な創意工夫を凝らしつつ、厳格な評価を行うことが強く要請される。

3 教職員の職能開発に向け、自主的・組織的な取組の展開を

  •  各大学が「3つの方針」に基づいて組織的に教育活動を展開するためには、当該大学の教員が共通理解を形成し、具体的な教育実践に取り組んでいくことが求められる。また、教員が、多様化する学生に対して適切な教育指導を行うためには、教授法に関する不断の研究を行うことが一層強く要請される。教員の組織的な研修(ファカルティ・ディベロップメント(FD))の実施が、各大学に義務付けられることとなったが、これを契機として、各大学では、FDの在り方を主体的に見直すとともに、教員評価の在り方等を含め、教員の教育力向上に向けた取組を総合的に進めていくことが重要である。
     また、教員と職員との協働関係を一層強化するため、職員の職能開発(スタッフ・ディベロップメント(SD))を推進して専門性の向上を図り、教育・経営など様々な面で、その積極的な参画を図っていくべきである。

(2)国による支援・取組−大学の自主性・自律性を尊重した多角的支援の飛躍的充実を−

1 我が国の「学士」の水準に関する枠組みづくり、「高等学校から大学へ、大学から社会へ」と連なる階梯の設計を

  •  将来像答申の提言するとおり、ユニバーサル段階においては、大学が自らの選択によって機能別に分化していくこととなり、政策的にも、そうした取組を支援していくことが重要である。一方で、我が国の大学が授与する「学士」について、その在り方が無秩序であっては、知識・技能等の証明として、国内外で信頼され、通用するものとならない。「学習成果」重視の国際的な大学改革の潮流や社会の要請などを踏まえると、国としては、大学関係者と協同し、その主体性の下、学士課程教育の役割を改めて吟味し、我が国の「学士」の水準に関する枠組みづくりがなされるよう、適切な役割を果たしていくことが望ましい。
     こうした枠組みは、分野横断的な水準の確保を目指すものであり、各大学における学位授与の方針の策定・見直しの指針となることが期待される。また、3で述べる分野別の学位水準の確保に向けた学協会等の取組の基盤になるものとしても重要である。社会の発展に寄与する大学として、それに相応しい内容・水準とはどうあるべきか、それをどのように評価して説明責任を果たしていくのか等の基本的な課題について、分野横断さらには各分野にわたり、十分な研究や検討を進めていくことが必要である。
  •  今日、高校卒業者の過半数が大学へ進学し、労働市場において大学卒業者が新規採用者の中心になりつつある中、人生の新しい段階へと移行する若者をいかに支援していくかが、学士課程教育においても重要な課題となる。
     一方で、「大学全入」時代を迎え、各大学の入学者選抜方法の在り方、高等学校での履修状況や評価の在り方が益々多様化してきている。そうした中、教育の質を保証する観点から、単に個別の学校の努力のみに委ねるのではなく、システムとして、高等学校・大学の接続の在り方を見直していくことが求められる。従来、主に過度の受験競争の緩和の観点から、入学者選抜の改善等が推進されてきたが、今後は、各学校段階で最低限必要な知識・技能等を身に付け、若者が人生の階梯を着実に歩んでいく仕組みを再構築していくことが重要である。

2 学士課程教育の優れた実践に対する重点的な財政支援の拡充を

  •  競争的な環境の中で、国公私立大学の優れた教育の取組を重点的に支援するとともに、その成果を広く情報提供することにより、我が国全体としての大学改革を推進していくことを目的とするGP事業は、大学の多様な機能や社会のニーズ等に対応して、年々そのメニューを増やし、支援額も拡充してきている。代表的なプログラムである特色GP及び現代GPだけでも毎年1,000件前後の応募があり、申請に至るまでの大学内での熱心な検討の過程などを通じ、各大学における大学改革、教育改革の進展に大きな成果をあげている。研究を重視しがちな大学教員に、教育の取組の大切さを認識させるなどの効果もあげている。
     一方で、学士課程教育に対する社会からの期待はますます高度化、多様化しており、教育課程外の支援を含めて、その質の向上に努める大学に対する支援を、今後、より一層拡充することにより、大学教育改革の取組をさらに加速させていく必要がある。
  •  その際、(1)で触れたように、明確化された「3つの方針」の下、次のような支援を行うなど、大学の多様性やニーズを踏まえた制度設計とする必要がある。
    • ア 「学習成果」の達成に向けた体系的な教育課程の編成、きめ細かな指導と厳格な成績評価等に取り組む大学への重点的な支援、
    • イ 社会的な期待が大きい新たな教育モデルの開発などに積極的に取り組む大学への支援
    • ウ 思い切ったカリキュラム改革等に伴う人員や設備に対する支援
    • エ 全学的な取組から、学部・学科単位の取組まで、その取組規模に応じたきめの細かい支援
     また、各大学の取組の成果を当該大学の教育の質の向上のみならず、我が国の大学全体の教育改革の進展や質の向上に、より効果的に反映させる必要がある。このため、これまでの国や各大学における積極的な情報提供に加えて、優れた取組の成果を各種の評価に反映させたり、設置基準の改正等により各大学が取り組むこととされた内容の実践状況を把握するなど、国による財政的な支援を、計画・実践・評価・改善のサイクルに組み込むことにより、大学教育改革の更なる加速を促す必要がある。

3 大学間の連携、開かれた協同のネットワークの構築を

  •  大学教育の質の向上に向け、本委員会は「競争」と「協同」との調和が重要であると考える。個性や特色を明確にした各大学が、地域内の自主的な連携、協同により、得意分野の強化、集約化、適切な役割分担を進め、地域のニーズに応じた多様で豊富な教育を提供することが、新しい形態として期待される。その具体的な取組としては、例えば、教育・研究設備の共同利用化、共同プログラム(社会人向けを含む)の開発・実施、放送大学の授業番組の活用、大学教員・職員の研修(FD・SD)センターの共同運営、教育活動の相互評価などが考えられる。その際、時間的・地理的な制約を克服するため、情報通信技術(ICT)の積極的な活用が望まれる。
     こうした連携、協同の取組を積極的に支援することは、地域における「知の拠点」としての存在感を一層大きなものとしていく観点から、極めて重要である。また、教員の教育力向上等に関する要請に応え、FDセンター等の機能を強化・拡充していく上でも、有効な取組である。大学の社会貢献機能を盛り込んだ教育基本法等の改正がなされた今日、このような支援は時宜を得たものと考える。
  •  各大学が授与する学士は、学生が専攻する専門分野に関し、一定水準の知識・技能等を証明する機能を持つものである。専門教育の中心を大学院教育に期待するとしても、現行の我が国の学士課程教育の在り方を考えるならば、各分野ごとに教育の質を維持・向上させる仕組みが必要となる。これまで、累次の答申等において、学協会や大学団体に対し、分野別のコア・カリキュラムの策定、FDプログラムの開発・実施、外部評価の推進に関する主体的な取組への期待が表明されてきた。また、大学団体からも、分野別のミニマム・リクワイアメントの設定を求める声がある。しかし、一部の分野において、そうした取組が見られるものの、総じて取組が低調であると言わざるを得ない。
     このため、今後、各分野の教育を振興する基盤づくりに向け、学協会や大学団体に対し、国として積極的な支援を行うことが必要である。最近では、細分化されていた協会の連合化の動きが進んできており、そうした基盤の素地もできつつある。学協会への働きかけに際しては、国からの諮問等に応じて答申等を行う権能を持つ日本学術会議との連携について積極的に検討することが適当である。
     また、職業教育分野においては、産業界の協力が欠かせない。関係省庁と連携を図り、産業界との「対話」の機会を設けるなど、積極的な働きかけを行うことも重要である。

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