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1.高等専門学校教育の現状

(1)高等専門学校に関する経緯及び現状

  •  高等専門学校制度は,我が国の産業・経済の高度成長に伴う産業界からの強い要請に応じて,昭和37年に,工業発展を支える実践的な技術者の養成を目指し,「深く専門の学芸を教授し,職業に必要な能力を育成することを目的」(学校教育法第115条第1項)とした,後期中等教育段階の教育を含む高等教育機関として創設された。
  •  制度創設後46年を経た今日,国立55校,公立6校,私立3校の計64校が設置されており(概ね各都道府県に平均1校程度),平成19年度現在,学生数は本科が5万6,218人,専攻科3,119人で,1校当たりの平均学生数は928人であり,学校教育全体の中で,15歳段階では0.9パーセント,18歳段階では0.8パーセントの比率となっている。
  •  国立高等専門学校については,昭和37年度以降,昭和49年度までに54校が設置され,その後,平成16年度に沖縄工業高等専門学校が設置され今日に至っている。公立高等専門学校については,平成3年度以来,1都1府2市の5校という状態が続いていたが,札幌市立高等専門学校が平成17年度から学生募集を停止しているほか,都立の高等専門学校2校が統合され,平成18年度から新たに都立産業技術高等専門学校が設立されている。また,私立高等専門学校については,かつて7校あったが,平成3年度までに4校が大学に移行した。高等専門学校教育,あるいはその卒業生に対する社会の評価が高いにもかかわらず,このように公私立の高等専門学校が増加しない理由は,一つには学科が工業・商船等の実験・実習系の分野であるため,施設・設備の整備や維持管理等に多額の経費を要することにあると考えられる。
  •  教育分野としては,工業分野における中堅技術者の養成という制度創設時の経緯から,現在でも工業系学科が中心となっており,257学科のうち248学科(96.5パーセント)を占めている(平成20年度)。このほか,商船系学科が5学科,その他分野の学科が4学科となっている。
  •  平成3年の制度改正により,高等専門学校の卒業生がさらに2年間,精深な教育及び研究指導を受けるための専攻科制度が創設された。以後,各高等専門学校において専攻科の設置が進み,平成20年度現在で60校に設置されている。平成20年度の入学定員は1,076人で,高等専門学校(本科)入学定員の約10パーセントとなっている。
  •  入学志願倍率は,地域,学科等によって多少の差は見られるが,15歳人口が減少する中にあっても,概ね約2倍以上を維持してきた。これは,公立高等学校(平成19年度で1.4倍)と比較しても高い倍率であると言える。しかし,長期的に少子化傾向が続く中,近年では入学志願者も緩やかな漸減傾向にあり,高等専門学校の入学志願倍率は平成17年度に初めて2倍を切り(1.9倍),平成19年度は1.78倍となっている。
  •  本科卒業生の進路については,進学者の割合が昭和60年度の9パーセントから平成7年度には24パーセント,平成18年度には42パーセント(うち専攻科進学率14パーセント)へと急速に上昇している。このため,就職者の割合は平成18年度には54パーセントまで減少している。
  •  地域への貢献に関しては,各高等専門学校では,地域共同テクノセンターを設置するなどして,中小企業を中心とする地域の企業等との連携を深め,共同研究や社会人教育による地域貢献に力を注ぎ,成果をあげているほか,地域の小中学校等の要望により実施する出前授業や,全校挙げての科学の祭典,移動科学実験等を通じた地域貢献にも取り組んでいる。また,高等専門学校の卒業生の地元(学校と同一県内)就職率は,全国平均(平成18年度)で本科33パーセント,専攻科38パーセントとなっている。
  •  教育研究環境としての施設・設備は,学校開設以来更新していない実習工場の設備があるなど,国立高等専門学校において老朽化が深刻化している。校舎等の施設について見ると,建築後25年以上を経た建物が全建物面積の約73パーセントとなっている。

(2)高等専門学校教育の特徴

 高等専門学校は,高校と大学の両方にまたがる年齢期の学生を対象として,以下のような特色ある教育を行っており,我が国のユニークな教育制度として国際的にも高く評価されている。

  •  実践的・創造的技術者の養成という明確な教育目的の下,中学校卒業段階から5年間の一貫した専門教育を行っている。大学入試の影響を受けないことを生かして,15歳という頭脳の柔らかい時期から,理論的な基礎の上に立って実験・実習・実技等の体験重視型の専門教育を実施している。
  •  教育課程は,専門科目と一般科目がいわゆるくさび型(低学年では一般科目が多く,学年が進むごとに専門科目が多くなるように編成されている。)に編成され,専門教育と一般教育とが効果的に組み合わされるようになっている。また,体系的な教育課程に基づく厳格な成績評価を行っている。
  •  卒業生が,専攻科あるいは大学,さらには大学院にまで進学し,それぞれのレベルで創造性豊かな研究者・技術者を目指すキャリアパスとしても評価されている。
  •  入学してくる学生は,中学校段階から理数系分野やものづくりに関心を持つ者であることが多いため,入学後も好奇心が旺盛で,理科や数学に関する知識への関心や,技術やものづくりへの意欲が高い。
  •  このほか,充実した課外活動等の指導や,学生寮における生活指導などを通じた全人的教育を実施している。特筆すべき点は,大学等に先駆けて全国レベルのロボットコンテストを国内で最初に開催したことである。加えて,プログラミングコンテストやデザインコンペティションなどの創意工夫を育む有意義な取組を行っていることも,高等専門学校における教育の特徴である。

(3)高等専門学校に対する評価

 高等専門学校は,創設以来40年以上に亘って,高度成長期を支えるなど,優秀な人材を社会に供給し,産業界を中心に高く評価されてきた。また,地域行政や産業界との技術連携等,地域に密着したきめ細かな交流を行い,地域の発展に貢献してきた。

  •  これまで高等専門学校卒業生は約30万人を数え,実践的・創造的技術者,経営者,研究者など幅広い分野で活躍する人材を輩出している。工学系新卒技術者のうち高等専門学校卒業生の割合は12パーセント(平成18年度。大学への編入学者,大学院への進学者を含む。)となっており,今後のイノベーションを担う人材の養成機関としては大きな役割を果たしている。また,高等専門学校卒業生が企業の経営者になっている割合が高いとの調査例もあり,起業家精神を持った人材の輩出にも貢献している。
  •  高い求人倍率(本科20倍,専攻科34倍(平成18年度)),就職率(ほぼ100パーセント)に示されるように,企業から高い評価を受けている。
  •  高等専門学校出身者の資質については,企業に入ってから伸びる人材の資質として重要であるとされている,モチベーション,協調性,様々な事象に対処する知恵(課題解決力),創意工夫といった点で優れており,そうした資質を涵養する上で,実験・実習・実技による体験重視型の専門教育が高く評価されている。
  •  さらに専攻科修了生に関しては,同年代である大学学部卒業生と比較して,専門知識,勤勉性,チャレンジ精神など多くの面で優れているとの評価が企業から得られているとの調査結果もある。

(様々な形で行われる外部からの評価)

  •  各高等専門学校は,様々な形で外部からの評価を受けている。まず,大学と同様に,学校教育法に基づく機関別認証評価を7年以内ごとに受けることが義務付けられているが,平成19年度までに高等専門学校の約90パーセントが受審するなど積極的に取り組んでいる。また,この認証評価においては,受審した全ての高等専門学校が認証評価機関の定める評価基準を満たしており,教育目的に沿って十分な教育成果や効果が上がっていること,学生への支援体制が有効に機能していること,卒業生の就職率が高い水準を保っていることなどが優れた点として評価されている。
  •  国立高等専門学校については,これに加え,独立行政法人通則法に基づき,各事業年度に係る業務実績評価,中期目標(期間:5年間)に係る業務実績評価を受けることが義務付けられている。
  •  公立大学法人が設置する公立高等専門学校についても,地方独立行政法人法に基づき,業績評価を受けることが同様に義務付けられている。
  •  また,高等専門学校卒業後専攻科において所定の単位を修得した者が学士の学位を取得するための前提条件として,大学評価・学位授与機構による専攻科の認定審査(担当教員の資格認定審査を含む。)が必須となっている。
  •  さらに,高等専門学校は,本科の4,5年次に専攻科の2年間を加えた教育プログラムをもって,日本技術者教育認定機構(JABEE:Japan Accreditation Board for Engineering Education)による学士水準の技術者教育のプログラム認定を積極的に受けており,平成19年度までに50校の68プログラムが国際的に相互承認された水準に達していると認定されている。

(企業・卒業生に対する意識調査結果)

  •  企業及び卒業生に対する意識調査を行った「高等専門学校のあり方に関する調査」(平成18年3月,国立高等専門学校機構委託調査)の結果を見ても,多くの企業が高等専門学校卒業生に満足している。特に,専門知識,コンピュータ活用能力,誠実さなど,現場技術者としての資質について優れていると評価している。その一方で,英語力やコミュニケーション能力の不足などが指摘されていたが,こうした指摘も踏まえ,現状の高等専門学校教育においては,相当改善が図られているところである。
  •  企業が高等専門学校卒業生に期待する役割(職種)としては,産業における技術の急速な高度化を背景にして,設計,製造・施工,研究・開発,品質管理,生産管理,システムエンジニア等の部署で「現場の幹部候補生」としての活躍が期待されている。給与面では,高等専門学校(本科)卒業生の給与水準について,修業年限が同じ短期大学卒業生と同等とする企業が4分の3を占めているが,高等専門学校卒業生と大学学部卒業生を同じ区分で処遇している企業も全体の1割を占めている。
  •  卒業生の意識調査の結果を見ても,多くの卒業生は高等専門学校の教育プログラムが役立っていると考えている。特に,大学院まで修了した卒業生は,約9割が高等専門学校で学んだことに満足している。満足の理由としては,「専門教育・専門知識」,「仕事に役立っている」,「就職に有利」とした者が多い。