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2.高等専門学校を巡る社会経済環境の変化

 このように産業界から高い評価を受けている高等専門学校教育であるが,以下に示すように,様々な面で高等専門学校を巡る社会経済環境が変化してきている。

(1)高等教育のユニバーサル化

  •  高等教育機関への進学率は,昭和40年には17パーセントであったが,今日,大学・短期大学への進学率は54パーセント,専修学校等を含む高等教育機関への進学率は76パーセントに上っている(平成19年度)。これらの進学率は,相当高い数値に至っているが,近年なおも上昇傾向を示しており,我が国は,同年齢の若年人口の過半数が高等教育を受けるというユニバーサル段階に移行している。
  •  このような状況の中で,平成17年1月に出された中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」においては,「新時代の高等教育は,全体として多様化して学習者の様々な需要に的確に対応するため,大学・短期大学,高等専門学校,専門学校が各学校種ごとにそれぞれの位置付けや期待される役割・機能を十分に踏まえた教育や研究を展開するとともに,各学校種においては,個々の学校が個性・特色を一層明確にしていかなければならない。」とした上で,高等専門学校については,「5年一貫の実践的・創造的技術者等の養成という教育目的や,早期からの体験重視型の専門教育等の特色を一層明確にしつつ,今後とも応用力に富んだ実践的・創造的技術者等を養成する教育機関として重要な役割を果たすことが期待される。」としている。

(2)我が国の技術者養成における高等専門学校の位置付け

(制度創設当時の考え方)

  •  高等専門学校は,「国民所得倍増計画」(昭和35年策定)の計画期間内において約17万人の科学技術者の不足が見込まれるという背景の中で,いわゆる「中堅技術者」の養成機関として制度が創設された。当時の考え方としては,広義の技術者を1「熟練者」,2「技能者」,3「技術者」に区分し,このうち「技術者」について,一定数の「指導的地位に立つ技術者」と多数の「中堅技術者」が必要であるものの,戦後の学校制度では,工業高等学校と大学があるだけで,戦前の専門学校のような中堅技術者の供給源がないとして,産業界からそのための専門教育機関の制度を設けるべきとの要望が累次にわたり出されていたものである。
  •  この「中堅技術者」は,大企業においては,指導的な技術者の直接の補助者となり,あるいは技能者の指導監督を行い,中小企業においては,中心的な技術者として技能者を指導監督しつつ,企業の技術の責任者として活躍すべき者とされた。

(現状認識)

  •  このように「中堅技術者」の養成機関として発足した高等専門学校であるが,制度創設後46年が経過し,産業における技術の急速な高度化や,我が国に立地する工場が製造拠点から開発拠点に変化してきている等,技術者を巡る国内外の状況は大きく変化している。
  •  既に平成3年に出された大学審議会答申においても,高等専門学校は,「当初,いわゆる中堅技術者養成を目的とすることとされたが,産業における技術の急速な高度化を背景にして,現実には,生産部門にあっては中核的・指導的技術者として,研究部門においても企画設計,応用開発研究を担う技術者としてかなり高い位置づけになっている」として,高等専門学校で養成する技術者像が変化してきていることに触れている。この状況は今日も進展しており,高等専門学校を中堅技術者の養成機関と位置付けることは,必ずしも正しい認識とは言えなくなっている。

(3)15歳人口の減少,理科への関心の薄れ

  •  高等専門学校への入学者となる中学校卒業見込み者数(15歳人口)は,ピークであった平成元年の205万人から,平成19年では121万人となっており,当時の59.0パーセントとなっている。さらに,5年後の平成24年には120万人,10年後の平成29年には117万人と緩やかに減少していくことが予測されている。
  •  このような中,高等専門学校への入学志願者は,中学卒業者に占める割合は最近10年間,1.5パーセント以上で安定しているものの,志願者の絶対数は減少傾向であり,平成19年度の入学志願倍率は1.78倍まで低下している。この結果,学力の幅にも広がりが出てきつつある。
  •  前述1(2)で述べたように,高等専門学校に入学してくる学生は,中学校段階においても理数系分野などに関心が高く,質の高い意欲ある学生が多いが,国際的に見ると我が国の児童生徒は,一般的に理科の学習に対する意欲は低い状況がみられる。今後とも,理数系分野やものづくり・技術に興味・関心が高い,意欲ある学生の入学を促すとともに,入学後においても,専門的な技術に興味や関心を維持させ,理解度を高める教育方法の開発・工夫が重要になっている。

(4)卒業者の進学率の上昇と進路の多様化

  •  高等専門学校は,昭和37年の制度創設当時,いわゆる中堅技術者養成を目的とする完成教育を行う高等教育機関として強く意識されてきたことから,その進路の多くは就職とされてきた。(当時の高等学校進学率は64パーセント(平成19年度は96パーセント),大学・短期大学への進学率は12パーセント台(平成19年度は54パーセント)である。)
  •  他方,高等専門学校の卒業生は,制度創設時から,大学に編入することができる旨が法律上規定されていたが,大学への進学の道を広げるものとして,昭和47年から国立大学の工学部に高等専門学校卒業者等を受け入れるための第3年次編入枠が順次設定されるとともに,昭和51年には主に高等専門学校卒業者を受け入れるための大学として長岡及び豊橋に技術科学大学(以下,長岡及び豊橋両技術科学大学を指す場合は技術科学大学とする)が設立され,編入学者数が増加してきた。現在では,高等専門学校卒業後大学に編入学する者は毎年約2,700人にのぼっている(平成19年度)。
  •  技術の進歩を背景に,高等専門学校においてより高度の教育の継続を求める学生の増加に対応するため,平成3年には専攻科制度が創設された。平成19年度現在では,60校に設置されている専攻科において3,119人の学生が在学している。
  •  このように,平成4年度までは卒業生に占める就職する者の割合が80パーセントを超えていたが,その後の進学者の割合の急速な増加により,平成18年度には就職者54パーセント,進学者42パーセント(うち,大学への編入学26パーセント,専攻科への進学15パーセント)となっており,卒業生の進路が多様化している。

(5)地域との連携強化の必要性

  •  各高等専門学校では,地域の高等教育機関として,地域共同テクノセンターや技術振興会等を通じて地域の産業界との連携強化を進めているが,技術開発や人材育成等の面で更なる連携強化を求める声も強く,高等専門学校の果たす役割等に対する要請や期待が高まっている。
  •  一方で,各地域の地元中小企業から,高等専門学校の卒業生を採用したいという要望は強いにもかかわらず,進学者の増加や学生の大企業志向等から,ニーズに必ずしも十分に応えられていなかったり,逆に,受け皿となる開発指向型の中小企業の数が地域によっては必ずしも十分でないといった状況もある。このため,卒業生の地元就職率は平均で3〜4割程度である。
  •  このような中で,地域の産業振興のビジョンも踏まえ,地域と連携した教育内容・方法の開発を強化するとともに,企業技術者の再教育の必要性が高まっている状況の中,高等専門学校教育の一環として社会人コースの設定にも積極的に取り組むなど,地域の社会経済・文化の発展に貢献することを通じて,地域との共栄を図っていくことが益々求められるようになっている。

(6)行財政改革の進展

  •  国立の高等専門学校については,平成15年から独立行政法人国立高等専門学校機構が設置され,55校が一つの法人のもとに設置・運営されることとなった。このため,これまで以上に効率的な経営が求められるようになるとともに,その設置目的の達成や効果をより明示的に説明できることが求められるようになってきている。
  •  また,国・地方公共団体を通じた行財政改革の進展により,国・公・私立を通じて,運営費交付金や私立大学等経常費補助金等の高等専門学校を巡る財政事情は厳しい状況にある。
  •  独立行政法人国立高等専門学校機構の発足により,人事交流,共通テスト,学生支援,学級運営に係る研修等,全国立高等専門学校共通の取組が促進される等の効果が出ている。また,学校ごとに設けられていた共済組合支部が一元化されるなど,管理業務の一元化による効率化も進められている。