2.教員以外の専門スタッフの参画

1)心理や福祉に関する専門スタッフ

 生徒指導に関する課題の解決に当たっては,スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの協力を得ることが重要である。そのためには,まず,教育委員会がスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの活動方針等を策定し,学校の教職員に対して周知することが重要である。
 一方,生徒指導に当たっては,あくまでも校長や生徒指導担当教員のマネジメントの下,教員がスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーと連携・協働して取り組むことが重要である。教員がいじめや問題行動,また,家庭環境などの問題を生徒指導に関する専門スタッフに任せきりにするようでは,かえって問題をうまく解決できないことも考えられる。
 教員を中心として,スクールカウンセラー,スクールソーシャルワーカーがそれぞれの専門性に基づき,組織的に問題の解決に取り組むため,学校においては,スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの役割等を明確化し,スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーを生徒指導や教育相談の組織に有機的に位置付け,教職員に周知徹底することが求められる。
 また,特に,養護教諭は,児童生徒の心身に関わる変調のサインを把握しやすい立場にあることから,スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーと養護教諭との連携・分担体制にも留意することが重要である。

ア スクールカウンセラー

活用状況等

 スクールカウンセラーは,心理の専門家として児童生徒へのカウンセリング困難・ストレスへの対処方法に資する教育プログラムの実施を行うとともに,児童生徒への対応について教職員,保護者への専門的な助言や援助,教育のカウンセリング能力等の向上を図る研修を行っている専門職である。
活用状況としては,教育委員会に採用され,非常勤の職として各学校に週1回程度派遣されていることが多く,国の補助事業で配置・派遣されているスクールカウンセラー等は,平成26年度で7,344人となっている。

資格

 スクールカウンセラーとして選考する者について,国の「スクールカウンセラー等活用事業実施要領」では,「1.財団法人日本臨床心理士資格認定協会の認定に係る臨床心理士,2.精神科医,3.児童生徒の臨床心理に関して高度に専門的な知識及び経験を有し,学校教育法第1条に規定する大学の学長,副学長,学部長,教授,准教授,講師(常時勤務をする者に限る)又は助教の職にある者又はあった者」のいずれかに該当する者としている。
 実際の配置状況を見ると,平成26年度にスクールカウンセラー等として配置された者の約84%が臨床心理士,約16%が教育カウンセラー,学校心理士,認定心理士等となっている(※1)。


  • ※1 平成27年9月16日,公認心理師法が公布され,保健医療,福祉,教育その他の分野において,心理学に関する専門的知識及び技術をもって,心理に関する支援を要する者の心理状態を観察し,その結果を分析すること等を行うことを業とする者が法律上位置付けられた。

成果と課題等

 文部科学省の調査によれば,スクールカウンセラーの配置の主な成果として,「学校の教育相談体制の強化」や「不登校の改善」,「問題行動の未然防止,早期発見・早期対応」などがあげられ,調査対象の96%の学校が,「必要性を感じている」としており,配置の拡充や資質の確保が望まれている。
 一方,同調査では,配置に係る課題として,大多数の都道府県,市町村,学校が,「勤務日数が限られており,柔軟な対応がしにくい」,「財政事情により配置や派遣の拡充が難しい」ということをあげている。
 また,スクールカウンセラーについて,学校に必要な職員として活用を進めていく上では,その職務内容等の明確化や教育委員会配置等による外部性(※2)の確保が重要であるなどの指摘がある。
 さらに,スクールカウンセラーの活用については社会的な要請も高まっており,「子供の貧困対策に関する大綱」において,学校は貧困の連鎖を断ち切るためのプラットフォームとして位置付けられ,スクールカウンセラー,スクールソーシャルワーカーの配置を推進することとされている。


  • ※2 外部性とは,スクールカウンセラー活用調査研究事業最終報告書において,「評価を行わない『教員と異なる第三者的存在』として,学校から一定の『距離』を置き,校内の日常の体制に組み込まれない」こととされている。

改善方策

  • 国は,スクールカウンセラーを学校等において必要とされる標準的な職として,職務内容等を法令上,明確化することを検討する。
  • 国は,教育委員会や学校の要望等も踏まえ,日常的に相談できるよう,配置の拡充,資質の確保を検討する。
  • 国は,将来的には学校教育法等において正規の職員として規定するとともに,公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律(以下,「義務標準法」という。)において教職員定数として算定し,国庫負担の対象とすることを検討する。

イ スクールソーシャルワーカー

活用状況等

 スクールソーシャルワーカーは,福祉の専門家として,問題を抱える児童生徒が置かれた環境への働きかけや関係機関等とのネットワークの構築,連携・調整,学校内におけるチーム体制の構築・支援などの役割を果たしている。活用状況としては,教育委員会に配置し,学校へ派遣を行う派遣型や学校等へ配置する配置型などがあり,国の補助事業で配置されているスクールソーシャルワーカーは,平成26年度で1,186人となっている。

資格

 スクールソーシャルワーカーの選考は,国の「スクールソーシャルワーカー活用事業実施要領」において,「原則として,社会福祉士や精神保健福祉士等の福祉に関する専門的な資格を有する者のうちから行うこと」とされているが,地域や学校の実情に応じて,福祉や教育の分野において,専門的な知識・技術を有する者又は活動経験の実績等がある者であって,問題を抱える児童生徒が置かれた環境への働き掛け等の職務内容を適切に遂行できるもののうちから行うことも可としている。
 実際の活用状況を見ると,平成25年度にスクールソーシャルワーカーとして配置された者の有する資格は,社会福祉士が47.0%,教員免許が36.1%,精神保健福祉士が25.1%となっている。

成果と課題等

 文部科学省の調査によれば,スクールソーシャルワーカーの配置の主な成果として,「関係機関との連携の強化」や「ケース会議等により組織的な対応が可能となった」などがあげられ,調査対象の約75%の学校が,「必要性を感じている」としており,量的拡充・資質の確保が望まれている。
 一方,同調査においては,配置に係る課題として,大多数の都道府県,市町村,学校が,「勤務日数が限られており,柔軟な対応がしにくい」,「財政事情により配置等の拡充が難しい」,「人材の確保が難しい」をあげている。
 上記資格の項目に記載のとおり,スクールソーシャルワーカーとして配置された者の有する資格としては,教員免許が2番目に多い。しかし,ケース会議における対応について,福祉の資格を有するスクールソーシャルワーカーと教員免許の資格を有するスクールソーシャルワーカーを比較すると,福祉の資格を有するスクールソーシャルワーカーの方が,有意に取組を行っていたという調査結果がある(※3)。
 こうしたことから,原則として,社会福祉士や精神保健福祉士等の福祉に関する専門的な資格を有する者をスクールソーシャルワーカーとして選考すべきである。ただし,地域や学校の実情から,福祉に関する専門的な資格を保有しない者をスクールソーシャルワーカーとして選考する場合は,福祉の専門性を高めるような方策が必要である。
 また,スクールソーシャルワーカーについて,学校に必要な職員として活用を進めていく上では,その職務内容等の明確化や教育委員会配置等による外部性の確保が重要であるなどの指摘がある。
 スクールソーシャルワーカーの活用については,社会的な要請も高まっており,「子供の貧困対策に関する大綱」において,学校は貧困の連鎖を断ち切るためのプラットフォームとして位置付けられ,スクールカウンセラー,スクールソーシャルワーカーの配置を推進することとされている。
 さらに,文部科学副大臣を主査とする「川崎市における中学1年生殺人事件に関するタスクフォース」が平成27年3月31日にとりまとめた「川崎市における事件の検証を踏まえた当面の対応方策」においても,「不登校支援の中心となる教員・地域連携を担当する教員の明確化や,スクールソーシャルワーカーの配置等による,組織的な対応のための体制の整備」等が盛り込まれている。


  • ※3 「ケース会議において,把握されていない子どもの背景が伝わるように意識する」「ケース会議において,関係者と学校が協働して支援するプランニングを行う」などの項目において,教員免許を有している者と,社会福祉士及び精神保健福祉士の資格を有している者を比較すると,社会福祉士等の資格を有している者が有意に取組を行っていたという調査結果がある(「エビデンス・ベースト・スクールソーシャルワーク」研究代表者:山野則子)。

改善方策

  • 国は,スクールソーシャルワーカーを学校等において必要とされる標準的な職として,職務内容等を法令上,明確化することを検討する。
  • 国は,教育委員会や学校の要望等も踏まえ,日常的に相談できるよう,配置の拡充,資質の確保を検討する。
  • 教育委員会は,社会福祉士や精神保健福祉士等の福祉に関する専門的な資格を有していない者をスクールソーシャルワーカーとして配置する際には,福祉の専門性を高めるような研修を実施する。
  • 国は,将来的には学校教育法等において正規の職員として規定するとともに,義務標準法において教職員定数として算定し,国庫負担の対象とすることを検討する。

2)授業等において教員を支援する専門スタッフ

 授業等における支援に関する専門スタッフの参画に当たっては,校内で,どのような活動のために,どのような専門スタッフの参画を得るのか,という方針を定める必要がある。
 その上で,個別の授業や活動において,連携・分担する教職員は,専門スタッフに任せきりになったりすることがないよう,事前の打合せや事後の振り返りをしっかりと行うことが重要である。

ア ICT(ICT:Information and Communication Technology)支援員

活用状況等

 ICT支援員は,学校における教員のICT活用(例えば,授業,校務,教員研修等の場面)をサポートすることにより,ICTを活用した授業等を教員がスムーズに行えるように支援する役割を果たしており,地方公共団体で配置されているICT支援員の人数は,平成25年度末で2,000人となっている。
 国は,ICT支援員の配置について,所要の地方財政措置を講じている。

成果と課題等

 近年,情報セキュリティポリシーの運用に対する支援やネットワークセキュリティ対策に対する支援をはじめとした学校の情報管理面やICT環境の運用管理面からの支援等,ICT支援員に求められる役割や能力は多様化している。
 さらに,ICTを活用した教育の普及により,教職員を教育活動面や情報セキュリティ等の面でサポートする一定の資質・能力を備えたICT支援員の必要性が高まっていることから(ICT支援員を確保している自治体数:平成20年度末200自治体,平成25年度末353自治体),今後,人材が不足することが懸念されており,教育再生実行会議第七次提言(平成27年5月14日)においても,ICT支援員の養成,学校への配置の促進が求められている。

改善方策

  • 国,教育委員会は,ICT活用のスキルを持った専門人材等の確保を図りつつ,学校への配置の充実を図る。
  • 国はICT支援員に求められる資質・能力を整理し,一定の資質・能力を備えたICT支援員を育成するためのモデルプログラムを開発する。
  • 国は,これらを周知・普及しながら,全国の大学,企業,自治体等に活用を促すとともに,一定の資質・能力を備えたICT支援員の育成・確保を推進する。

イ 学校司書

活用状況等

 学校図書館は,学校教育において欠くことのできない基礎的な設備であり(学校図書館法第1条),その運営は,司書教諭と学校司書が協働して行っている。
 司書教諭は,学校図書館の専門的職務を掌(つかさ)どる者(学校図書館法第5条第1項)として,学校図書館を活用した教育活動の企画等を行っている。司書教諭は,学校図書館法上,12学級以上の学校において必置とされており,教諭等をもって充てることとされている(※4)。
 一方,学校司書は,学校図書館の日常の運営・管理,教育活動の支援等を行っている職員(学校図書館法第6条第1項)である。学校司書の配置状況については,事務職員定数の活用や,各地方公共団体の努力等により拡大しており,平成26年5月時点で,小学校では54.3%,中学校では53.0%,高等学校では64.5%となっている。
 さらに,学校図書館法の一部を改正する法律(平成26年法律第93号)により,学校には,学校司書を置くよう努めなければならないとされたところである。


  • ※4 司書教諭に充てられる教諭等は,大学その他の教育機関が文部科学大臣の委嘱を受けて行う「司書教諭講習」を修了した者でなければならない(学校図書館法第5条第2項)。司書教諭講習では,「学校図書館メディアの構成」等の学校図書館の運営に当たって必要な内容を学修することになっている。

成果と課題等

 学校図書館は,読書活動の推進のために利活用されることに加え,例えば,国語や社会,美術等様々な授業等における調べ学習や新聞を活用した学習活動等で活用されることにより,学校における言語活動や探究活動の場となり,「アクティブ・ラーニングの視点からの不断の授業改善」を支援していく役割が期待されている。
 そのため,学校図書館の運営の改善及び向上を図り,児童生徒及び教職員による学校図書館の利用の一層の促進に資するため,学校司書の配置の充実を進める必要がある。
 さらに,学校司書については,学校図書館法の一部を改正する法律(平成26年法律第93号)において,学校には学校司書を置くよう努めなければならないとされ,その専門性を確保するため,資格・養成の在り方等について検討を進めるとともに,研修の充実等必要な措置を講ずることとされた。

改善方策

  • 国,教育委員会は,資格・養成の在り方の検討や研修の実施など,学校司書の専門性を確保する方策を検討・実施するとともに,その配置の充実を図る。

ウ 英語指導を行う外部人材と外国語指導助手(ALT:Assistant Language Teacher)等

活用状況等

 小学校等における外国語指導助手や外国語が堪能な地域の人材は,教員とのティーム・ティーチングによるコミュニケーション活動や,教材作成支援など,授業等において,教員を支援する重要な役割を担っている。
 公立学校の外国語指導助手の配置実績は,全体で15,432人となっており,そのうち,JETプログラム(※5)による外国語指導助手は4,072人となっており,所要の地方財政措置が講じられている(平成26年度「英語教育実施状況調査」文部科学省)。


  • ※5 1987年に開始された,地方公共団体が総務省,外務省,文部科学省及び自治体国際化協会(CLAIR)の協力の下に,外国人青年を招致する事業。各地で,外国語指導助手(ALT),国際交流員(CIR),スポーツ国際交流員(SEA)として活躍し,外国語教育の充実,地域レベルの国際交流,地域の国際化等に貢献。

成果と課題等

 ALTについては,教員が多忙のため授業準備のために必要なALTとの打合せ時間が十分にとれないこと,活用の状況に地域差があるなどの課題も踏まえつつ,次期学習指導要領の改訂に向けて,ALTを質・量ともに確保することが急務である。
 特に,小学校におけるALTについては,学級担任と外部人材の連携・分担について,それぞれの役割を明確にしつつ,適切かつ適正なティーム・ティーチング等が行われるための体制整備の充実を図っていく必要がある。
 また,小学校高学年における英語の教科化に当たっては,専門性を有する適切な人材に特別免許状を積極的に授与し活用することや,英語が堪能な地域人材による指導,英語担当教員の退職者等を非常勤講師として活用するなど,地域の実情に応じた指導体制を充実させることが重要である。
 今後,外国語指導助手や英語指導の専門性を有する外部の専門人材の配置への支援を行うとともに,それらの質を確保するための研修等を含めた取組を充実し
ていく必要がある。

改善方策

  • 国,教育委員会は,効果的なティーム・ティーチングが可能となるよう外国語指導助手の指導力向上のために必要な研修を実施する。
  • 国は,JETプログラムによる外国語指導助手の配置について,所要の地方財政措置を講じる。地方公共団体は,JETプログラムの積極的活用を図るとともに,学校や教職員をサポートする英語の専門人材に対する支援の充実を検討する。

エ 補習など,学校における教育活動を充実させるためのサポートスタッフ

活用状況等

 多様な子供の実態に応じて,効果的な指導を行うためには,多様な経験を持った地域人材等の教育活動への参画を得ることが重要である。
 そのため,各地方公共団体では,地域や学校の実情に応じ,補充学習や発展的な学習の実施などのためのサポートスタッフ(退職教職員や学生等)を学校に配置している。
 国においても,補習等のための指導員等派遣事業を実施し,児童生徒学習サポーターや教師業務アシスタント等に対する支援を行っており,平成27年度予算では対前年度2,000人増の10,000人の配置に係る経費を計上している。
 また,学校における印刷業務等の事務作業を補佐する職員を配置することにより,教員の業務負担を軽減することも有効である。

成果と課題等

 全国学力・学習状況調査の結果の分析等によれば,児童生徒の学力に家庭状況等の社会経済的背景が影響を与えているとの指摘もあり,格差の再生産・固定化を招かないようにするためには,学校も重要な役割を果たすべきである
 このため,家庭環境等に左右されず,学校に通う子供の学力が保障されるよう,学習内容の定着や学習上のつまずきの解消等を図る観点から,学校において,きめ細かな指導や放課後補習などの取組が求められている。
 一方で,TALISにおいて,我が国の教員は,課外活動の指導や事務業務に多くの時間を費やし,参加国中で勤務時間が最も長いという結果も出ており,教員や支援教員が不足していると回答した校長の割合も高くなっている。そのため,補習などの教育活動を充実させるため,学校や教職員をサポートするスタッフの充実を進めていく必要がある。

改善方策

  • 国は,多様な人材の積極的参加による地域ぐるみの教育を推進するため,学校や教職員をサポートするスタッフを配置する地方公共団体に対する支援の充実を検討する。

3)部活動に関する専門スタッフ

 部活動は,生徒の自主的,自発的な参加により行われるものであり,学校教育活動の一環として,大きな意義や役割を果たしている(※6)。また,部活動指導の充実については,生徒や保護者,地域の期待も高い。
 その一方で,平成26年7月に日本体育協会が公表した「学校運動部活動指導者の実態に関する調査」によると,運動部活動の指導者について,担当教科が保健体育以外であり,担当している部活動の競技経験もない教員が中学校で45.9%,高校で40.9%という結果が出ている。
 さらに,TALISでは,中学校教員の課外活動指導時間は,週7.7時間であり,参加国平均の2.1時間と比較すると,大幅に長いという結果が出ている。 なお,運動部活動の充実を図るに当たっては,「運動部活動での指導のガイドライン」(平成25年5月文部科学省)を踏まえ,効果的,計画的な指導を進めていくことが重要である。


  • ※6 中学校学習指導要領の総則では,次のように規定されている。
     「(13)生徒の自主的,自発的な参加により行われる部活動については,スポーツや文化及び科学等に親しませ,学習意欲の向上や責任感,連帯感のかん養等に資するものであり,学校教育の一環として,教育課程との関連が図られるよう留意すること。その際,地域や学校の実態等に応じ,地域の人々の協力,社会教育施設や社会教育関係団体等の各種団体との連携などの運営上の工夫を行うようにすること。」

ア 部活動指導員(仮称)

現状と課題等

 部活動の指導を充実していくためには,地域のスポーツ指導者等の参画を得ていくことが重要であるが,部活動の指導者や顧問に関するルール等については,全国的な基準があるわけではなく,都道府県や競技種目によって異なっている(※7)。
 今後,部活動を更に充実していくという観点から,教員に加え,部活動の指導,顧問,単独での引率等を行うことができる新たな職(部活動指導員(仮称))の在り方について検討する必要がある。
 ただし,部活動の顧問の業務には,生徒に対する技術的な指導だけでなく,部活動に関する年間・月間活動計画の作成や部活動予算の調整,学校内外の顧問会議への出席等もあることから,部活動指導員(仮称)は,教員との連携・協力が不可欠である。
 また,教育委員会は,部活動指導員(仮称)配置の効果が十分に上がるよう,学校の部活動指導の方針や計画等を踏まえ,具体的な配置を検討することが重要である。
 部活動指導員(仮称)をはじめとする専門スタッフの参画に当たっては,特に,具体的な指導の内容や方法,生徒の状況,事故が発生した場合の対応や責任体制などについて,十分な調整を行い,共通理解を得ながら進めることが重要である。
 部活動については,児童生徒や保護者,地域の期待も高いことから,専門スタッフの参画に当たっては,事前に情報提供するなど,理解を得るよう努力することが重要である。
 さらに,勝利至上主義的な指導とならないよう,また,学校教育の一環として行われるよう,専門スタッフに対する研修を行うことが大切である。


  • ※7 部活動の指導者等について文部科学省の調査では,以下のような結果であった。
    • 部活動指導者や顧問に関する統一的なルールについて,市区町村教育委員会の4割強が「作成していない」,4割強が「都道府県等の中体連等が定めたルールによる」となっている。
    • ルールが定められている場合,9割強の市区町村教育委員会において,部活動指導は外部指導者も行えることとしている。
    • 指導者の望ましい範囲について,市区町村教育委員会の5割強が「教員免許を有するなど一定の条件を備えている外部指導者まで」,2割強が「制約や条件は不要」と回答している。
    • 顧問の望ましい範囲について,市区町村教育委員会の5割強が「常勤の教員(臨時的任用者を含む)まで」,約2割が「事務職員や実習助手等を含めた教職員まで」,1割弱が「教員免許を有するなど一定の条件を備えている外部指導者まで」と回答している。
    • 単独での引率を認める範囲については,市区町村教育委員会の6割弱が「常勤の教員(臨時的任用者を含む)まで」,1割強が「正規の教員のみ」,1割強が「事務職員や実習助手等を含めた教職員まで」と回答している。

改善方策

  • 国は,学校が,地域や学校の実態に応じ,部活動等の指導体制を整えることができるよう,教員に加え,部活動等の指導・助言や各部活動の指導,顧問,単独での引率等を行うことを職務とする職員を部活動指導員(仮称)として,法令上に位置付けることを検討する。
  • 教育委員会等は,部活動指導員(仮称)の任用に際して,指導技術に加え,学校全体や各部の活動の目標や方針,生徒の発達段階に応じた科学的な指導等について理解させるなど必要な研修を実施することを検討する。
  • 上記のほか,国,教育委員会等は,顧問教員を対象とした部活動における指導力向上のための研修を更に充実するとともに,受講の促進を図る。

4)特別支援教育に関する専門スタッフ

 特別支援教育に関する専門スタッフの参画に当たっては,校長がリーダーシップを発揮して,次のような校内の連携体制を構築する必要がある。

  1. 特別支援教育のコーディネーター的な役割を担う教員を「特別支援教育コーディネーター」に指名し,校務分掌に明確に位置付けること。(特別支援教育コーディネーターは,特別支援教育関係の専門スタッフとの連絡調整や校内委員会の企画・運営を行うことが想定されている。)
  2. 全校的な支援体制を確立し,障害のある児童生徒等の実態把握や支援方策の検討等を行うため,特別支援教育に関する校内委員会を設置すること。
     また,教員と特別支援教育関係の専門スタッフが連携して支援が行えるよう,個別の教育支援計画(※8)の個別の指導計画(※9)等を活用し,児童生徒等の実態把握や支援方策,校内での役割分担について,教員と専門スタッフが共通理解することが必要である。

  • ※8 障害のある児童生徒等一人一人のニーズを正確に把握し,教育の観点から適切に対応していくという考えの下に,医療,保健,福祉,労働等の関係機関との連携を図りつつ,乳幼児期からの学校卒業後までの長期的視点に立って,一貫して的確な教育的支援を行うために,障害のある幼児児童生徒一人一人について作成した支援計画。専門スタッフのうち,特に,看護師等や就職支援コーディネーターは,学校外の機関との連携する上で,個別の教育支援計画を参照することが重要である。
  • ※9 障害のある児童生徒等一人一人の障害の状況等に応じたきめの細かい指導が行えるよう,学校における教育課程や指導計画,当該児童生徒等の個別の教育支援計画等を踏まえ,より具体的に児童生徒等一人一人の教育的ニーズに対応して,指導目標や指導内容・方法等を盛り込んだ指導計画。専門スタッフのうち,特に,特別支援教育支援員や言語聴覚士等は,児童生徒等の指導目標等に応じた支援を行う上で,個別の指導計画を参照することが重要である。

ア 医療的ケアを行う看護師等

活用状況等

 医療的ケア(※10)を行う看護師,准看護師,保健師,助産師は,対象となる児童生徒等に対して,医師の指示の下,学校生活における日常的な医療的ケアを実施するほか,当該児童生徒に関わる教職員への指導・助言,保護者からの相談への対応,主治医や放課後デイサービス等との連絡を担い,医療的ケアに関する校内体制の中心的役割を果たしている。
 学校における看護師等の配置や職務内容について,法令上の位置付けはなく,教育委員会が,医療的ケアを必要とする児童生徒等の状態等に応じ,雇用・配置している。
 平成26年度の活用状況等としては,公立特別支援学校において,医療的ケアが必要な幼児児童生徒数は7,774人,医療的ケアに携わる看護師等の数は1,450人であり,共に増加傾向にある。また,医療的ケアのうち,たんの吸引等の特定行為をしている教員数は3,348人である。また,公立小・中学校の医療的ケアが必要な児童生徒数は976人,医療的ケアに携わる看護師等の数は379人となっている。
 国は,特別支援学校における看護師等と教職員の役割分担や連携等に関する調査研究及びモデル事業を踏まえ,平成25年度から特別支援学校への看護師等配置の補助事業を実施し,毎年約330人分を補助している。


  • ※10 いわゆる「医療的ケア」とは,法律上に定義されている概念ではないが,一般的に学校や在宅等で日常的に行われている,たんの吸引・経管栄養・気管切開部の衛生管理等の医行為を指す。医師免許や看護師等の免許を持たない者は,医行為を反復継続する意思をもって行うことはできないが,平成24年度の制度改正により,看護師等の免許を有しない者も,医行為のうち,たんの吸引等の5つの特定行為に限り,研修を修了し,都道府県知事に認定された場合には,「認定特定行為業務従事者」として,一定の条件の下で制度上実施できることとなった。

成果と課題等

 医療技術の進歩等を背景に,特別支援学校,小・中学校ともに医療的ケアを必要とする児童生徒数は増加傾向にあり,医療的ケアを必要とする児童生徒等が安心して学校で学ぶことができるよう看護師等の配置を進めていく必要があるが,国が補助している看護師等の人数は,医療的ケアを必要とする児童生徒等の人数に比べて不十分である。
 また,小・中学校に配置されている看護師等に係る支援は行われていない。
 なお,看護師等の免許を持たない教職員も,一定の研修を受ければ,一定の条件のもとに「認定特定行為業務従事者」として医療的ケアのうち5つの特定行為を実施することが可能となっている。
 しかしながら,認定特定行為業務従事者は,特定行為以外の医療的ケアを行えず限界があること,さらに,医療技術の進歩に伴い,人工呼吸器を付けた高度な医療的ケアを必要とする児童生徒や,複数の医療的ケアが必要となる児童生徒等など,医療的ケアの内容は高度化・複雑化していることから,このような児童生徒等が在籍する学校への看護師等の配置は不可欠である。
 このため,学校における医療的ケアは,「特別支援学校等における医療的ケアの今後の対応について」(平成23年12月20日付け初等中等教育局長通知)のとおり,特別支援学校においては,看護師等を中心に教員等が連携・分担して特定行為に当たり,特別支援学校以外の学校においては,原則として看護師等を配置又は活用しながら,主として看護師等が医療的ケアに当たり,教員等がバックアップする体制が望ましい。
 さらに,校内の体制整備を図る際には,医療的ケアを必要とする児童生徒等の安全を最優先に考え,また教職員の負担軽減にも十分配慮しながら,教育委員会の総括的な管理体制の下に,校長を中心として組織的に行うことが必要である。
 また,小・中学校における医療的ケアの体制整備においては,特別支援学校のセンター的機能の活用など,広域的な取組も引き続き有効である。このため,都道府県教育委員会においては,市町村教育委員会と連携・協力し,域内の小・中学校における体制整備に努めることが必要である。

改善方策

  • 国は,医療的ケアを必要とする児童生徒等の増加に対応するため,特別支援学校における看護師等配置に係る補助事業の拡充並びに配置人数の増加を図る。
  • インクルーシブ教育システムの理念を提唱する「障害者の権利に関する条約」の批准(平成26年1月)及びそれに伴う制度改正を踏まえ,小・中学校等における看護師等配置に係る経費に対しても補助を行う。
  • 国は,学校等において必要とされる標準的な職として,その職務内容や権限等を法令上に位置付けることが適当かどうかについて,小・中学校等における看護師等配置の実績等を踏まえ,引き続き検討を行う。
  • 都道府県等の教育委員会は,医療技術の進歩等に伴う医療的ケアの高度化・複雑化に対応するための研修機会の提供などにより,看護師等の質的な体制整備の充実を図る。また,都道府県等の教育委員会が,地域の実情に応じ,大学病院や地域の総合病院等からのローテーションによる看護師等配置の仕組み作りを行うことも考えられる。

イ 特別支援教育支援員

活用状況等

 特別支援教育支援員は,障害のある児童生徒等の日常生活上の介助,発達障害の児童生徒等に対する学習支援など,日常の授業等において,教員を支援する役割を担っている。
 特別支援教育支援員が共通して有すべき資格はなく,対象となる児童生徒等の支援に必要な技能等を有する人材が採用されている。
 また,学校における特別支援教育支援員の配置や職務内容について,法令上の位置付けはなく,教育委員会が,支援を必要する児童生徒等の状態に応じ,雇用・配置しており,公立学校における配置実績は,平成26年度においては,幼稚園で5,638人,小・中学校で43,586人,高等学校で482人となっている。
 国は,特別支援教育支援員について,所要の地方財政措置を講じている。

成果と課題等

 特別支援学級の在籍者や通級による指導の対象者は増加し続けており(※11),また,通常学級においても発達障害の可能性のある児童生徒等への教育的な対応が求められている。
 多様な児童生徒等のニーズに的確に応えていくために,校長がリーダーシップを発揮し,特別支援教育コーディネーターが学校全体の調整を行うなど,学校のマネジメント体制を整え,特別支援教育支援員の配置を充実し,担任の指揮監督の下,学級全体の指導体制を強化していく必要がある。
 また,特別支援教育支援員を配置するに当たっては,教員と特別支援教育支援員との役割分担と協働の在り方等について,教員と特別支援教育支援員の双方で具体的に理解していく必要がある。
 特別支援教育支援員に対する研修内容としては「業務内容」「特別支援教育」「障害の理解」「具体的な対応」などが考えられる。対象となる児童生徒等の状況に応じて,配置前に実施するほか,配置後に実地研修を行うことも効果的である。


  • ※11 平成25年には,学校教育法施行規則が一部改正され,障害のある児童生徒の就学について,個々の障害の状態等を踏まえ,総合的な観点から就学先を決定する仕組みとされた。

改善方策

  • 国は,特別支援教育支援員について,配置実績に応じた所要の地方財政措置を講じる。
  • 教育委員会は,特別支援教育支援員の配置の充実を図る。また,特別支援教育支援員が効果的に機能するよう,特別支援教育支援員に対して,業務内容等に関する研修を実施するとともに,特別支援教育支援員が配置される学校の教職員に対しても,特別支援教育支援員の配置の目的等を十分に説明する。

ウ 言語聴覚士(ST),作業療法士(OT),理学療法士(PT)等の外部専門家

活用状況等

 言語聴覚士等(※12)は,障害のある児童生徒等に対し,医学・心理学等の視点による専門的な知識・技術を生かし,教員と協力して指導の改善を行うとともに,校内研修における専門的な指導者としての役割を担っている。
 国は,平成25年度から,特別支援学校に言語聴覚士等を配置し,特別支援学校の専門性の向上を図るとともに,地域内の小・中学校等に専門家を派遣するなど,地域のセンター的機能を充実させるためのモデル事業を実施している(平成26年度は,1,380人の専門家を配置)。


  • ※12 言語聴覚士(Speech-Language-Hearing Therapist:ST)は,言葉の発声・発音の評価,摂食機能の評価・改善,人工内耳を装着した児童生徒等の聞こえの評価・改善等を行っている。作業療法士(Occupational Therapist:OT)は,着替え,排せつ,食事,道具の操作等の日常生活動作の評価及びこれらの日常生活動作を獲得するための補助具等の制作・必要性の評価,日常生活,作業活動の改善に役立つ教材の製作等を行っている。理学療法士(Physical Therapist:PT)は,呼吸状態や姿勢等に関する身体機能面からの評価,学校生活で可能な運動機能の改善・向上についての指導,障害の状態に応じた椅子や机など備品の評価・改善等を行っている。その他,専門性をいかして指導内容の改善等を図るため,心理学の専門家や視能訓練士等とも適切な連携を行っている。

成果と課題等

 特別支援学校が地域におけるセンター的機能を発揮するためには,配置校のみではなく,地域内の小・中学校の教職員とも連携できるよう,国のモデル事業の成果を踏まえた適切な配置や連携の仕組みを普及させることが必要である。
 また,学校における活用を進めるに当たって,人材育成の在り方についても検討を進めていくことが大切である。

改善方策

  • 国は,モデル事業の成果を踏まえ,言語聴覚士等の活用を広く普及させるとともに,その配置に係る必要な補助を行う。
  • 教育委員会は,モデル事業の先進事例を参考としながら,地域の児童生徒等の実態に応じた言語聴覚士等の配置を促進する。その際,言語聴覚士等及び配置先となる学校の教職員に対して,適切な連携方法等に関する研修を実施する。

エ 就職支援コーディネーター

活用状況

 障害のある生徒が自立した社会参加を図るためには,学校においてキャリア教育・職業教育を推進し,福祉や労働等の関係機関と連携しながら就労支援を一層充実させる必要がある。就職支援コーディネーターは,特別支援学校高等部及び高等学校において,ハローワーク等と連携して,障害のある生徒の就労先・就業体験先の開拓,就業体験時の巡回指導,卒業後のフォロー等を行っており,一人一人の障害に応じた就労支援を充実する役割を担っている。
 国は,平成26年から就職支援コーディネーターの配置等を推進する委託事業を実施しており,全国40地域が指定され,配置が促進されている。

成果と課題

 就職支援コーディネーターが配置された学校においては,生徒一人一人の適性に応じた現場実習先や就職先が開拓され,一般就労につながった等の成果が見られるところである。
 一人一人の障害の特性等に応じた就労を促進するためには,教員だけでなく障害者の就労を支援する専門的な人材が必要であり,今後とも長期的な配置が必要である。

改善方策

  • 国は,モデル事業の成果を踏まえ,就職支援コーディネーターの活用を広く普及させるとともに,配置に係る必要な支援を行う。
  • 教育委員会等は,モデル事業の先進事例を参考としながら,就職支援コーディネーターの配置を進める。

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成28年01月 --