1.教職員の指導体制の充実

ア 教員

教職員定数の充実の必要性

 我が国の教員は,教育の専門性を生かし,これまで学習指導のみならず,生徒指導等の面でも主要な役割を担い,子供たちの状況を総合的に把握して指導を行うなど,学校において中心的な役割を果たしてきており,これまで高く評価され,成果を上げてきた。
 しかし,「1.「チームとしての学校」が求められる背景」で述べたように,新しい時代に求められる資質・能力を子供に育むため,「アクティブ・ラーニング」の視点を踏まえた授業改善等が求められる一方で,生徒指導等の課題については,近年,複雑化・困難化している状況にある。その中で,教員に期待される専門性は高まっており,教員が授業準備や研修等に,より多くの時間を割き,学習指導や生徒指導等で子供たちを十分に指導するためには,教職員定数の充実は不可欠である。

主体的・協働的な学習の必要性

 新しい時代に必要となる資質・能力を育成するためには,「何を教えるか」という知識の質や量の改善だけでなく,「どのように学ぶか」という,学びの質や深まりを重視し,学ぶことと社会とのつながりをより意識した教育を行い,子供たちがそうした教育のプロセスを通じて,基礎的な知識・技能を習得するとともに,実社会や実生活の中でそれらを活用しながら,自ら課題を発見し,その解決に向けて主体的・協働的に探究し,学びの成果等を表現し,更に実践に生かしていけるような学習活動を行うことが必要である。
 そのような主体的・協働的な学習を行うためには,知識の質や量の改善を主眼とした学習と比較して,質量ともに充実した授業準備や教材研究等が必要であり,あわせて,学習成果の評価方法についても開発する必要がある。
 さらに,教員が,今後求められる主体的・協働的な学習に十分対応していくためには,従来の養成課程に加えて,主体的・協働的な学習の指導方法を自ら意識的に身に付ける努力が求められている。

カリキュラム・マネジメントの必要性

 また,新しい時代に必要となる資質・能力を子供たちに身に付けさせるためには,それぞれの学校において,子供や地域の実態に基づき,カリキュラムを自分たちで作りだし,PDCAサイクルをまわしていくというカリキュラム・マネジメントに取り組むことが必要である。
 カリキュラム・マネジメントを推進していくためには,カリキュラムは与えられるものであるという意識を改革し,カリキュラムを作り出し,評価・改善するという取組が求められる。

研究・研修の機会の確保等

 「アクティブ・ラーニング」の視点を踏まえた不断の授業方法の見直し等による授業改善等に取り組むためには,教員一人一人が,質量ともに充実した授業準備や評価方法の開発等の研究に取り組むことが求められるとともに,教科の特性も踏まえつつ,特定の教科だけでなく,学校全体でチームとして,校内研修を進めることが必要である。
 また,カリキュラム・マネジメントを推進するためには,教員がカリキュラム全体を意識して,日々の授業を組み立てることが求められるとともに,教科横断的な研修や教育課程全体の研修に学校全体でチームとして取り組むことが不可欠である。

教員の業務の見直し

 「アクティブ・ラーニング」の視点からの授業改善や「カリキュラム・マネジメント」の取組等を進めていくためには,教員の業務を見直し,教員が携わってきた従来の業務を,以下の(a)~(d)の観点から見直し,こうした区分を参考に,専門スタッフとの間で連携・分担を行い,学校の教育力を最大化していくことが必要である。

  • 教員が行うことが期待されている本来的な業務(a),
  • 教員に加え,専門スタッフ,地域人材等が連携・分担することで,よ  り効果を上げることができる業務(b),
  • 教員以外の職員が連携・分担することが効果的な業務(c),
  • 多様な経験を有する地域人材等が担うべき業務(d)

 今後,学校に多様な専門スタッフを置き,教員が(a)の業務により専念できるようにすることが重要である。

教員の業務の分類(例)

(a)教員が行うことが期待されている本来的な業務
  • 学習指導,生徒指導,進路指導,学校行事,授業準備,教材研究,学年・学級経営,校務分掌や校内委員会等に係る事務,教務事務(学習評価等)
(b)教員に加え,専門スタッフ,地域人材等が連携・分担することで,より効果を上げることができる業務
  • カウンセリング,部活動指導,外国語指導,教員以外の知見を入れることで学びが豊かになる教育(キャリア教育,体験活動など),地域との連携推進,保護者対応
(c)教員以外の職員が連携・分担することが効果的な業務
  • 事務業務,学校図書館業務,ICT活用支援業務
(d)多様な経験等を有する地域人材等が担うべき業務
  • 指導補助業務

 ただし,諸外国と比較した場合,我が国の教員は,学習指導,生徒指導等,幅広い業務を担い,子供たちの状況を総合的に把握して指導に当たってきたことが教育の成果につながっていると考えられることから,専門スタッフの参画は,学校において単なる業務の切り分けや代替を進めるものではなく,教員が専門スタッフの力を借りて,子供たちへの指導を充実するために行うものである。言い換えれば,教員が専門スタッフに業務を完全にバトンタッチするのではなく,両者がコラボレーションし,より良い成果を生み出すために行うものである。
 例えば,いじめへの対応について,スクールカウンセラーがカウンセリング等で関わることは,有効な機能を発揮しているが,スクールカウンセラーに全ての対応を任せるだけでは,解決につながらないことも考えられる。日常的に子供に関わっている教員,身体的不調の様子からいじめ等のサインに気付きやすい立場にある養護教諭,心理学の観点から助言や援助を行うスクールカウンセラーなど役割や専門性を異にする職員が様々な立場から,総合的に関わることで解決につなげることが可能になる(※1)。


  • ※1 平成25年に制定された「いじめ防止対策推進法」は,第8条において,学校及び学校の教職員に対して,いじめの防止やいじめを受けている児童等に対処する責務を規定した上で,第18条で,国及び地方公共団体は,いじめの防止等のための対策が専門的知識に基づき適切に行われるよう,心理,福祉等に関する専門的知識を有する者の確保のために必要な措置を講ずるものとすると規定している。

〔「チーム学校」による教職員等の役割分担の転換(イメージ図) 作業部会事務局作成〕
〔「チーム学校」による教職員等の役割分担の転換(イメージ図) 作業部会事務局作成〕

教員の指導体制の充実

 業務改善に取り組んだ上で,主体的・協働的な学習やカリキュラム・マネジメントを全国に広く展開していくためには,各学校におけるカリキュラム開発,指導計画策定,教材開発,人材育成,校内研修等を総合的に行う教員の配置が重要であり,このために必要な定数措置を図ることが必要である。
また,社会の状況を踏まえ,小学校における指導内容が高度化していること,また,小学校の意識や学校文化を変えるきっかけにもなることから,例えば,英語や理科,技能教科に対応するための専科教員の配置が求められている。
あわせて,関係団体ヒアリングでは,学校における事件や事故が起こった際に中心的に対応できるような教員の配置や,特別支援教育を充実させるための教員の配置など,教員の配置数の充実を求める意見があった。

改善方策

  • 国,教育委員会は,教員が授業や生徒指導等に自らの専門性を発揮するとともに,授業準備や研修等に時間を充てることにより,その資質を高めることができるよう,教員の業務を見直し,事務職員や他の専門スタッフの活用を推進する。
  • 国,教育委員会は,主体的・協働的な学びであるアクティブ・ラーニングの視点を踏まえた授業実施やいじめ,特別支援教育等に対応するため,必要な教職員定数の拡充を図る。

イ 指導教諭

現状

 指導教諭は,優れた指導力を生かして,示範授業を行うことなどにより,指導方法の改革に力を発揮することが期待されており,平成26年4月現在,67都道府県・指定都市教育委員会のうち,23教育委員会で設置されており,配置人数は,1,873人である。

成果と課題

 文部科学省の調査(※2)によれば,指導教諭の配置の主な成果として,調査対象の都道府県の約8割,市区町村,学校の約9割が「教職員の指導力の向上」,「指導体制,研究体制の充実」,「OJT,校内研修の活性化や質の向上」をあげている。
 一方,配置の課題については,同調査において,「指導教諭の通常の授業時数が多く,期待される校務を処理できない」,「指導教諭の役割等について校内の理解が進んでいない」とする指摘が多い。
 今後,「アクティブ・ラーニング」の視点を踏まえた不断の授業方法の見直しによる授業改善を進める上では,指導教諭は,大きな役割を果たすことが期待されている。
 また,学習指導や生徒指導等に優れた資質・能力を有している教員のキャリアパスとしても重要な意義があることから,指導教諭の配置を促進していくことが重要である。


  • ※2 全国の公立の小学校,中学校,高等学校,中等教育学校及び特別支援学校の2%に相当する学校(674校)及び,これらの学校を設置する市区町村教育委員会(329教育委員会)及び各都道府県・指定都市教育委員会(67教育委員会)を対象に,平成27年に調査を実施。調査対象は平成27年5月1日時点。

改善方策

  • 国は,加配措置を設けることなどにより,指導教諭の配置を促進する。
  • 教育委員会は,任命権者として,指導教諭に担わせる職務を明確化し,研修等において周知する。

ウ 養護教諭

現状

 養護教諭は,児童生徒の「養護をつかさどる」教員(学校教育法第37条第12項等)として,児童生徒の保健及び環境衛生の実態を的確に把握し,心身の健康に問題を持つ児童生徒の指導に当たるとともに,健康な児童生徒についても健康の増進に関する指導を行うこととされている。
 また,養護教諭は,児童生徒の身体的不調の背景に,いじめや虐待などの問題がかかわっていること等のサインにいち早く気付くことのできる立場にあることから,近年,児童生徒の健康相談においても重要な役割を担っている。
 特に,養護教諭は,主として保健室において,教諭とは異なる専門性に基づき,心身の健康に問題を持つ児童生徒に対して指導を行っており,健康面だけでなく生徒指導面でも大きな役割を担っている。
 養護教諭は,学校保健活動の中心となる保健室を運営し,専門家や専門機関との連携のコーディネーター的な役割を担っており,例えば,健康診断・健康相談については,学校医や学校歯科医と,学校環境衛生に関しては学校薬剤師との調整も行っているところである(※3)。
 さらに,心身の健康問題のうち,食に関する指導に係るものについては,栄養教諭や学校栄養職員と連携をとって,解決に取り組んできているところである。 このように,養護教諭は,児童生徒の健康問題について,関係職員の連携体制の中心を担っている。


  • ※3 学校医・学校歯科医・学校薬剤師(以下「学校医等」)は,学校保健安全法にその設置が規定されており,公立学校については,地方公務員法上の特別職として配置されている。平成20年の本審議会答申「子どもの心身の健康を守り,安全・安心を確保するために学校全体としての取組を進めるための方策について」で提言されているとおり,学校医等は,学校保健において専門的見地から大きな役割を果たしており,今後は,従来からの健康課題に加えて,アレルギー疾患やメンタルヘルス等の子供の現代的な健康課題や,学校と地域の専門的医療機関とのつなぎ役になるなど,積極的な貢献が期待されている。

成果と課題

 養護教諭は,学校に置かれる教員として,従来から,児童生徒の心身の健康について中心的な役割を担ってきた。
 今後は,スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーが配置されている学校において,それらの専門スタッフとの協働が求められることから,協働のための仕組みやルールづくりを進めることが重要である。
 引き続き,児童生徒の心身の健康に関して課題の大きな学校については,養護教諭の複数配置を進めていく必要がある。さらに,養護教諭の必要性が高まっていることから,今後,国において,複数配置の基準の引き下げについても検討していくべきである。
 学校医等については,その専門性を生かし,学校保健委員会などの活動に関して指導・助言を行うなど,より一層,積極的な役割を果たすことが期待されている。

改善方策

  • 国は,養護教諭が専門性と保健室の機能を最大限に生かすことができるよう,大規模校を中心に,養護教諭の複数配置を進める。

エ 栄養教諭・学校栄養職員

現状

 近年,偏った栄養摂取など食生活の乱れや肥満・痩身傾向などが児童生徒に見られる。こうしたことから,児童生徒が食に関する正しい知識と望ましい食習慣を身に付けることができるよう,学校において食育を推進することは喫緊の課題となっている。
 栄養教諭は,児童生徒の「栄養の指導及び管理をつかさどる」教員(学校教育法第37条第13項等)として,その専門性を生かし,食に関する指導の全体計画の作成等で中心的な役割を果たすとともに,食に関する指導について,学校内における教職員間の連携・調整や,家庭や地域との連携・調整で要としての役割を果たすことが求められている。

成果と課題

 栄養教諭が配置されている学校においては,食に関する指導は充実したものの,食育について学校の教育活動全体で組織的に取り組むという点では,改善の余地がある。また,栄養教諭の配置が進んでいない都道府県も見られるところである。

改善方策

  • 国は,各学校で教育活動全体を通じて,食育に組織的に取り組むことができるよう,先進的な取組事例の収集及び情報提供を行う。
  • 国,教育委員会は,食育を推進するため,学校において栄養教諭の専門性を最大限に生かすことができるよう,配置を促進する。

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成28年01月 --