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第3章 青少年の意欲を高め,心と体の相伴った成長を促すために−重視すべき視点と方策−

 すべての青少年が意欲を高め心と体の相伴った成長を果たすため,我々はここに五つの提言を行い,それぞれに重視すべき視点と方策を示す。今後,教育関係者だけではなく,家庭・学校・地域そして企業等のすべての大人がこれらを自らの課題として受け止め,積極的に行動することを期待する。

提言

  • 1. 家庭で青少年の自立への意欲の基盤を培おう
  • 2. すべての青少年の生活に体験活動を根付かせ,体験を通じた試行錯誤や切磋琢磨(せっさたくま)を見守り支えよう
  • 3. 青少年が社会との関係の中で自己実現を図れるよう,地域の大人が導こう
  • 4. 青少年一人ひとりに寄り添い,その成長を支援しよう
  • 5. 情報メディアの急速な普及に伴う課題に大人の責任として対応しよう

1.家庭で青少年の自立への意欲の基盤を培おう

視点
  • ○家庭の役割を強く自覚し,家族全員で子どもに積極的にかかわる
  • ○学校や企業,地域社会が家庭での自立への基盤づくりを支援する
方策
  • ◎求められる基本的生活習慣や基礎的な体力の重要性について,実践的な調査研究等を通じて啓発する
  • ◎家庭での基盤づくりを進める国民運動を展開し,地域での取組を支援する

重視すべき視点

【家庭の役割を強く自覚し,家族全員で子どもに積極的にかかわる】

  •  基本的生活習慣の確立や基礎的な体力の向上とともに,親子間の愛着形成と受容関係(注11)の構築は,青少年の自立への意欲の基盤として欠かせないものであることが明らかとなっている。
     こうした自立への意欲の基盤は,親子関係が密接な乳幼児期から学童期にかけて,生活を通じて青少年に培われることが必要であることから,特に,家庭で築かれるべきものである。
     このため,まず保護者には,家庭教育にこそ青少年の意欲の基盤を築く重要な役割があり,意欲の基盤をしっかりと築くことがその後の成長過程における意欲の減退を防ぐために必要であるという自覚を持ってほしい。そして,家庭教育を家族のだれかに任せきりにするのではなく,家族全員が子どもに積極的にかかわるという姿勢で臨んでほしい。特に父親には,「子どもの主体性を尊重する」ということを名目にして,実際には子どもとの直接的な関与を避けることなく,自ら率先して子どもにかかわることを求めたい。
  •  青少年は,こうした自立への意欲の基盤に裏打ちされ,保護者の愛情や励ましに支えられることによって,自立に向けて意欲を持ち行動に踏み出すことができるのである。
     このため,保護者には,子どもとの衝突を恐れることなく,かつ愛情や励ましの意図が伝わるような肯定的な接し方を基本としながら,単純に甘やかすこととは一線を画した一貫性のある教育方針の下で,子どもの自立を促すために積極的に子どもとかかわってほしい。
  •  基本的な生活習慣や運動習慣は自然と身に付くものではなく,家庭において保護者が子どもに毎日繰り返し実践させることを通じて,体得させるものである。また,家事を分担させることは,子どもの生活体験を豊かなものにするだけでなく,子どもが保護者からの愛情や励ましを得られる機会ともなる。さらに,家庭とは生活共同体であるとともに社会の基本的な構成単位であり,言わば家庭そのものが一つの小さな社会である。すなわち家庭において子どもが家事を分担することは,社会において一定の役割を担い,その責任を果たすための実践的な訓練の場となり,さらにその経験を経て自立への自信を獲得できる機会ともなる。
     各家庭において,こうした生活習慣,運動習慣づくりや家事分担を通じた親子間コミュニケーションを深め,子どもの自立への意欲の基盤をしっかりと築いていただきたい。

【学校や企業,地域社会が家庭での自立への基盤づくりを支援する】

  •  近年,育児不安を感じたり子どものことが分からないと感じたりする保護者が増加している。これは,家庭教育の重要性が指摘される一方で,保護者がしつけや家庭内の問題について助言や援助を求めたくとも受け止めてくれる相手がいなかったり,職業生活と家庭生活の両立に困難を来していたりするため,その教育機能を十分に発揮できていないことの現れとも言える。
  •  すべての児童生徒を対象に発達段階に応じて組織的・計画的な教育を実施している学校教育については,青少年の自立への意欲を高めるに当たって,その果たす役割が極めて大きいことは言うまでもない。その際,学校教育を通じた青少年の育成を実効あるものとするために青少年の自立への意欲の基盤が家庭においてしっかりと築かれることは,大変重要である。
     このように,青少年の自立への意欲を高めるためには,家庭と学校が連携を図ることが重要である。
  •  また,家庭がその役割を十分に果たすためには,大人の生活や価値観を見直す必要があると考える。
     まず,家族全員が積極的に子育てに携わることの重要性を,保護者本人だけでなく国民一人ひとりが認識してほしい。その上で,家族全員が子育てに携われるように,例えば,父母が共に仕事と子育てを両立できる「仕事と生活の調和(ワークライフバランス)」(注12)を実現できるよう,企業が雇用者に対して労働時間や就業場所の多様な選択肢や育児支援制度等を整備,提供するとともに,行政が企業の取組を支援すること等が考えられる。
     また,企業自体が社会貢献・地域貢献として青少年の健全育成に携わることや,子育て経験の豊富な高齢者等が,地域の子育て世代の相談を受けたり子育て支援を行ったりすることも,家庭での自立の基盤づくりを地域社会全体で支える方策として奨励されるべきである。

方策

◎  求められる基本的生活習慣や基礎的な体力の重要性について,実践的な調査研究等を通じて啓発する

 これまで文部科学省では,家庭でのしつけの在り方や心の成長に関して配慮すべき事項を記載した『家庭教育手帳』の作成・配付や,家庭教育に関する様々な学習機会の提供を通じて,保護者等に家庭教育の重要性を啓発してきている。
 また,平成15年7月に成立した「次世代育成支援対策推進法」(注13)にのっとり,国,自治体及び事業主が次世代育成支援のための行動計画を策定し,子育て家庭への支援を中心とした様々な対策が官民挙げて講じられているところである。
 しかしながら,データ(図16,P25)に示されているように,育児不安を感じたり,子どものことでどうしたらよいか分からないと感じている保護者は増加している。それだけに,実践的かつ科学的知見を蓄積させるとともに,その成果を家庭を含め幅広く啓発する必要がある。
 このため,国において,保護者等が自信を持って子どもの生活習慣の確立や体力づくりについてその重要性を認識しつつ取り組めるよう,基本的生活習慣が健康や意欲に及ぼす影響等について養護教諭・栄養教諭等を中心として実践的な調査研究を進めるとともに,運動科学や発育発達学等の知見も取り入れつつ,家庭で取り組める子どもの体力向上プログラムの開発等を行う必要がある。さらに,それらの結果を広く提供して家庭での取組や自治体・事業主及び地域での子育て支援をより一層促すことが必要である。
 また,自治体や企業等においては,他の自治体や企業等の好事例も踏まえつつ,基本的生活習慣に配慮し保護者の実態や希望に合った子育て家庭支援策を進めていくことを求めたい。
 家庭においては,各種の子育て支援策を活用しつつ,子どもの意欲の基盤の育成に全力を注いでいただきたい。
 なお,家庭教育への支援を推進していくに当たっては,行政や関係機関が学習や相談の機会を提供し,その利用を待つのみでは,保護者の実態や希望に十分に対応しているとはいえない。乳幼児を抱え,家庭外に出て行きづらい保護者や地域で孤立している保護者などの存在にも十分留意し,行政や支援団体の方から出向いたり,地域のネットワークを指導し地域全体で家庭教育を支援したりするなどきめ細かい対応を行っていくことも重要である(事例1)。
 また,育児放棄や虐待といった過酷な環境下に置かれている乳幼児に対しては,健やかな生育環境を整えられるよう,行政や関係機関がより一層緊密な連携・協力を図ることが求められる。

事例1:子育てサポーターリーダー養成講座,訪問型家庭教育支援(富山県砺波市)

 「子育てサポーターリーダー」とは,子育て支援に携わるボランティア的人材のリーダー格として,文部科学省がその活動を支援しているものです。砺波市では,子育てサポーターリーダー養成講座を実施し,そのリーダーたちが,3歳未満の子どもがおり,悩みを抱えている可能性のある,市内の家庭を訪問し,保護者に対する育児相談や地域の子育てサークルや子育て講座等の情報提供などを行いました。
 家庭訪問時には,地域の子育て広場や子育てに関する講座などを紹介した情報パンフレット(市で作成)や,子どものおもちゃ(鈴入りボール)等を持参しました。訪問時に普段の子育ての様子を把握し,悩みがある家庭に対してはアドバイスを行ったり,地区の子育て広場や子育て支援センターを紹介しました。さらに,家庭訪問後にも道で出会うと気楽に声をかけ合うようになるなど,地域のつながりが深まりました。

◎  家庭での基盤づくりを進める国民運動を展開し,地域での取組を支援する

 これまで,文部科学省では,「子どもは社会の宝,国の宝」との考え方に基づき,『「子どもと話そう」全国キャンペーン』の展開などを通じて社会全体で子どもを育てる機運の醸成に努めてきた。また,『子どもの体力向上キャンペーン』を通じて,子どもが日常生活の中で主体的に運動・スポーツに親しむ態度や習慣を身に付けていくことの重要性を啓発してきた。
 さらに,平成18年には「早寝早起き朝ごはん全国協議会」が民間主導で設立され,子どもの望ましい基本的生活習慣を確立し,生活リズムを向上させるための全国的な普及啓発活動が始まっており,これに呼応して,子どもの生活リズム向上のための取組が各地域で進められている。
 今後とも国において,これらの全国的な啓発活動を更に国民全体での運動として推し進めるため,「早寝早起き朝ごはん」のように国民に強く訴えるスローガンを定めたり,各家庭における「我が家のしつけ三原則」づくりを促したりする等の取組を展開する必要がある。これらを通じて,子どもの基本的な生活習慣・運動習慣の確立や家事分担を通じた家庭での子どもの自立への意欲の基盤づくりとそのための支援への社会的機運を醸成する必要がある(事例2〜4)。また,企業等に対して,雇用者の「仕事と生活の調和(ワークライフバランス)」の実現を図るための環境整備や育児支援策を積極的に進めるよう,強く促していく必要がある。さらに,これまでに家庭教育の支援に取り組んできた学校・地域・企業等のノウハウ等を全国へ普及し,各方面における家庭教育支援の充実を図るべきである。
 これらの取組を通じて,すべての家庭で子どもの意欲の基盤づくりが進められ,学校・地域・企業等が連携・協力して家庭での意欲の基盤づくりを支える方策の充実が図られることを期待したい。

事例2:泉南市子どもの生活リズム向上プロジェクト(大阪府泉南市地域家庭教育推進委員会)

 平成18年度より,泉南市では,子どもの生活リズムの向上のための調査研究の一環で大阪体育大学の学生が朝から小学校に来校し,教員と協働で,児童と一緒に遊ぶ「朝遊び」を実施しています。専門家からも,早朝から体を動かすことにより,深い睡眠が得られ,朝もしっかりごはんを食べるようになると指摘されていることから,積極的に取り組んでいます。
 また,大阪体育大学に加え食品関連企業の協力も得て,保護者を対象に生活リズムに関する学習講座を実施しています。さらに,保護者や地域の方による「朝のあいさつ運動」も行われています。このような取組の結果,児童の遅刻や不登校が減少しました。

事例3:長崎県「ココロねっこ運動」推進協議会(長崎県子ども政策局)

 「ココロねっこ運動」とは,「子どもの心を根っこから健やかに育てるためには,大地である大人社会を見直すべき」という理念の下,平成13年から始まった長崎県の県民運動です。家庭・学校・地域社会・後援団体等が緊密な連携を図りながら,青少年健全育成,社会環境浄化等に取り組んでいます。例えば,毎月第三日曜日を「家庭の日」とし,県内の協賛企業が子育てや家族団らんを支援する特典やサービスを提供したり,協力企業が社員の地域参画や子育てしやすい職場環境づくりを推進したりしています。また,家庭に対しては「朝は気持ちの良いあいさつをする」などの8項目にわたる「我が家のきまりづくり」を提唱したり,テレビ局などと連携してCMを作成し,テレビや携帯電話など情報メディアを利用する際の家庭におけるルールづくりを呼び掛けたりしています。

事例4:山口県地域家庭教育推進協議会(父親の家庭教育参加を考える集い)

 山口市内の父親や「おやじの会」のメンバーを対象に,『がんばってます,おとうさん』をテーマとした子育てパネルディスカッションを開催しました。父親を中心とする地域活動の実践者をはじめ,5人のパネリストとともに,父親が家庭教育に参加する気運を高めるための協議が実施されました。このほか『おやじの出番だ』をテーマに,おやじの会の集いを開催し,県内各地のおやじの会の活動内容や役割,課題等についてワークショップを開催しました。
 その結果,家庭教育やPTA活動,地域活動への一層の父親参加の気運が高まりました。

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