大日岳遭難事故の概要

1 遭難事故の発生

2 事故調査委員会の設置

【雪庇の断面形状図(推定)】

【北アルプス大日岳遭難事故調査報告書の概要】

  •  研修会における安全上の対策並びに雪庇の形成及び崩落の予見可能性について検討した結果、集積した情報や経験をもとに、積雪や雪庇の観察を行い、雪崩や滑落の危険を考慮し、また、雪庇を避けるルートを選定しようとした登山研修所及び講師陣の考え方や方法に、登山の一般的な常識からの逸脱はなかったと考えられる。
  •  今回の崩落は、大日岳山頂付近において、前期の少雪・弱風期間にしもざらめの弱層が形成され、後期の豪雪・強風期間に巨大な雪庇が形成されるという二つの事象が重なったために発生した特異なものであって、そのような雪庇の形成及び崩落を予見することができず、山稜の想定を誤って雪庇の上に休憩することとなった。このことが今回の事故の原因と考えられる。
  •  仮に、経験豊かな他の登山家が、当時、一般に入手できる情報等をもってしても、予見することはできなかったと考えられる。すなわち、今回の特異な雪庇崩落には、これまでの知識や経験が通用しなかったと言える。

3 訴訟の概要

1 第1審(富山地裁)

  • 14年3月

    御遺族が国を提訴(損害賠償請求額:2億790万4,980円)

    〔以後、富山地裁において計16回の口頭弁論を実施〕

  • 18年4月
    • 第1審判決:「講師らが雪庇全体の大きさが25メートル程度あることを予見することは可能であり、講師らの登高ルート及び休憩場所の選定判断には過失があった」として、被告(国)の敗訴(約1億6,700万円(及び遅延利息)の損害賠償命令)
    • → 5月 国は判決を不服として控訴

2 控訴審(名古屋高裁金沢支部)

  • 19年3月
     控訴審第1回口頭弁論で、国側の証人申請を認めず結審
     裁判長から「事故の教訓を将来に生かしていくためには、判決よりも和解による解決が望ましい」との和解勧告あり
    • → 和解勧告を御遺族側、国側ともに受け入れ
    〔以後、名古屋高裁金沢支部において和解協議を実施〕
  • 19年7月
     第3回和解協議において、1和解金の支払い、2本研修会に係る安全検討会の開催、3お詫び 等を条件として和解が成立

【第1審判決の骨子】

  1.  本件研修会の講師らは、危険を回避するために、雪庇の先端部分のみならず吹き溜まり部分にも進入しないように登高ルート及び休憩場所を選定すべき注意義務を負っていた。
  2.  講師らが、本件事故当時、本件雪庇の大きさを正確に予見することは不可能であったが、本件雪庇全体の大きさが25メートル程度あることを予見することは可能であった。
     講師らは、本件雪庇の長さを10メートル程度と推測し、当該雪庇を避けるため、見かけの稜線上から十数メートル程度の距離をとって登高ルート及び休憩場所の選定を行ったが、見かけの稜線上から少なくとも25メートル程度の距離をとって登高ルート及び休憩場所の選定をすべきであり、講師らの登高ルート及び休憩場所の選定判断には過失がある。
  3.  本件雪庇は全体の大きさが40メートル程度で、先端から約15メートルの部分で破断し、崩落したものであるから、講師らが見かけの稜線上から25メートル程度の距離をとって登高ルート及び休憩場所の選定をしたとしても、研修生らが本件雪庇の上に侵入すること自体は回避できなかったことになるが、研修生らが本件雪庇から転落することはなかったので、本件事故の発生は回避できた。
     よって、講師らの過失と本件事故発生との間に相当因果関係が認められる。

【和解内容の概要】

  • 1 国が御遺族に対して、和解金(第1審認容額プラス利息)を支払うこと
  • 2 文部科学省は、本件訴訟において明らかとなった本件事故に関する事実関係を踏まえ、安全検討会(仮称)を設けて、そこにおいて、本件事故を教訓として、本件研修会を安全な形で再開することができるか、再開する場合には、安全対策の内容とそれをどう徹底していくかについて、十分検討すること
  • 3 局長等が御遺族にお会いして、御子息が亡くなられたこと等についてお詫びをすること

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